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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

2016年面白かった漫画BEST30! 後半戦 15位~1位 (+α)

あけましておめでとうございます。もう1月15日でした。
前回の続き、2016年の漫画BEST30。後半戦です。

前回→2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位

2017年に入って2週間も立ってしまったので、出遅れた感はまんまんですが。
相変わらず長々と書いている部分がありますので適当にお付き合いください。

では15位から。



HaHa (モーニング KC)HaHa (モーニング KC)
押切 蓮介

講談社 2016-01-22
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15.HaHa/押切蓮介

狙ってんなぁ畜生、という作品にきちんとハマってしまう単純な自分がやや恥ずかしくもあるけれど、実際これはめちゃくちゃ面白い。
ストーリーそのものも、そこから透けて見えてくる押切蓮介という作家のバックボーンや力の源のようなものも感じられてくる。月並みな言い方だけれど、とにかく励まされる、心温まる、ポジティブなオーラがガンガンでている。

本作は押切蓮介先生自身の母親の反省を描いた作品です。息子が母親の自叙伝を描いているのです。
しばしば押切作品に登場する、やたらと生命力ある母親キャラやちょっと根っこが図太い少女たちの空想は、ここから産まれて生きているんだろうなとおもう。
作者自身の人生観や女性観というものの源流を垣間見ることで、より作家性を再認識させられる。とか小難しいこといったってやってることはなんてことない親孝行なのだ。

たとえば歴史の偉人だったりすごい経営者だったり、そういうエラい人の半生を知っていたとしても意外と自分の身内が歩んできた人生って、知らなかったりしませんか。
歴史に名を残す偉人でもなければ、だれかが記録しないと、その人が歩んできた道のりを、その中で見てきた風景を、見つけて拾い上げてきたいくつかの大切なことを、だれも知らないまま過ぎ去っていくのだ。
だから本書は漫画家の息子だからこそ出来たとびきりの親孝行の形

さらに、ただそれだけだったらまた別物になったであろうに、加えて本書は母親やその周辺環境があまりにもぶっ飛んでいたせいで普通にエンタメしちゃってる、なんともすごいバランス感覚のもと成り立っている作品でもあるのです。
旅館の娘として生まれたものの、ヤンチャすぎる学生時代・・・話題に事欠かない毎日・・・はじめての就職に、一家を巻き揉む一大事・・・1巻にギュギュっと濃密に、ひとりの女性の半生が詰め込まれている。すごい濃度で、すごい生命力を感じる・・・!
第3話で次々入れ替わっていく飼い犬の話はリアルに吹き出しながら読み進めた。めっちゃくちゃだなこの一家。最高かよ。
しかもきちんと綺麗に一本のストーリーが出来上がっている。父親とのささやかなひとときは感動するし、母親の含蓄ある言葉たちはとにかく染みる。
母親が語り聞かせる構成をとっているため、なにかにつけて説得力があり、そのことがこの作品に宿る生命力につながっているのかな。言葉のひとつひとつも深みがあって素晴らしい。

ハイスコアガールの騒動でクソ袋とかした作者へと、終盤話が舞い戻ってきますが、そこで分かるんですよね。本書は作者自身が苦境から這い上がるために自分に向けて書いた、ひとつの人生指南書だったのではないかと。
無事復活して這い上がってきた今となっては受け止め方も違いますが、リアルタイムでこれを読んでいた人はまたちがった楽しみがあったんだろうなと思うと、後追いになってしまったことが悔しくもあります。
押切蓮介という作家のルーツを探るとともに、波乱万丈と一言といえる”誰かの半生”を身近に感じられる巧みな構成が光る一作。ある意味、初めて押切蓮介作品に触れるという人にもオススメしたいかも。1巻完結と読みやすいです。



僕たちがやりました(7) (ヤングマガジンコミックス)僕たちがやりました(7) (ヤングマガジンコミックス)
金城宗幸 荒木光

講談社 2016-12-06
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14.僕たちがやりました/金城宗幸・荒木光

ヤンマガでこういう強烈なダウナー系漫画が来ると、もう無条件で読んでしまって、今だとこの作品かなと思います。
めちゃくちゃおもしれぇ・・・
いま週刊連載で1番楽しみにしている作品です。とにかくめまぐるしいドライブ感と、感情を揺さぶってくるストーリーの意地悪さがハンパじゃない。
いかにもチャラいウェイな男子高校生たちの気だるくもバカバカしいい日常・・・かと思っていたら一気に崩れ去る。
普段の仕返しとイタズラで他校に仕掛けた爆弾が、偶然アホみたいな威力を発揮して、大事故に発展。けが人も死者も出て、テロの疑惑なんか出て・・・・・・
ネットでよく学生たちが炎上するじゃないですか。本作は「滅茶苦茶やらかしてしまったバカ学生」側の物語なんですよ。
国家権力・警察の捜査からの逃亡。そして報復にガチで殺しにきているヤクザまがいの不良からの逃亡。
ただ日々の退屈をどうにかしたかっただけなのに、いきなり人生をかけた逃亡劇が始まってしまった。
自分たちの常識ではあり得ないような、アタマいっちゃってる奴らに追い掛け回され、命さえ狙われる。加えて警察に捕まれば人生一瞬でパァだ。逃げなければ。逃げなければ。捕まりたくない。普通に楽しく生きていたかっただけなのに。
社会の闇に放り込まれた男子高校生たちの物語。

この作品、根っこが非常に暗い。スリリングかつダークな世界に病みつきになります。
罪悪感に押しつぶされそうな悲壮感。けれど人生を台無しにはしたくない。
人の命を奪ってしまったことへの重圧、追い詰められる緊迫感、容赦なくおそいくる暴力と、破滅へのカウントダウン・・・!!そして展開も非常にスピーディ!
張り詰めた緊張がストーリーを支配しており、そんななかでオチャラケたコメディシーンが挿入されても、空虚なだけなんだよなぁ。
だからこそ、ヒロインとの優しい時間が本当に心安らいで
それすらも奪い取られようという展開に、心の底からヒヤヒヤが止まらない。

明らかに、圧倒的に「間違えてしまった青春劇」なのに
高校生だからこその刹那的な感情とテキトーさとバカバカしさがこの作品をより息もつかせぬ勢いと、味わい深さを与えてくれています。「なんとかなるでしょ☆」と世の中を舐めていたら本当に取替しのつかない現実が、すぐ目の前までナイフ持って待ち受けてるんだ。
だって僕らは、人殺しなんだから。
罪の意識に蝕まれながら、それから目を背けるためにいつものようなバカ騒ぎを続ける主人公たちが、どんな顛末を迎えるのか。
いまも連載中です。テンションはトップギアのまま。今読みたい、今読まなければならない作品のひとつでしょう。毎週ドキドキしながらヤンマガ読んでます。



やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)
仲谷 鳰

KADOKAWA 2016-11-26
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13.やがて君になる/仲谷 鳰

ゆっくりと丁寧に、おぼろげな感情の正体をさぐっていく、神秘的で静謐な物語。
ガールズラブストーリーであるのと同時にその枠にとらわれない、「恋愛感情」の在り処とその価値を確かめるための日々。素晴らしい作品なのは間違いないんだけどそれがここまで売れるというのも少々驚きで、嬉しい限りですね・・・
あと個人的にこの作品が電撃大王から出てきたというのが少し嬉しい、なんというか、あそこのプライドを感じる。

すでに3巻まで発売されていますが既刊の感想はいぜん書いたのでそちらも。
わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻  
絶対、好きにならない、だから。『やがて君になる』2巻 

恋愛感情がわからない主人公・小糸侑。
生徒会の先輩である七海燈子から想いを寄せられ、しかしそれに応えられない。それどころか「私が知らない感情を知っているなんてずるい」のような気持ちにまで飛躍するなど、かなり捻くれている部分もあったり。
はじめて特別な感情を抱いた先輩と、いまだ“特別”の感触を知らない小糸。
ふたりのふれあいを描いていく中で、徐々にサブキャラたちも絡み合い、
非常に独特な空気をもった、完成度のたかい青春物語として歩んでいます。

すでに単独記事を書いているのでそちらでじっくり書いているのですが
最近発売された3巻はさらにサブキャラ陣の掘り下げ、そして主人公ズの過激なキスまでなだれ込んで来て更にテンションあがるヤツだった。佐伯先輩スキィ・・・。
さらに彼女たちの青春を「過ぎ去りし日々」と重ねて見つめる大人カップル(意外な)も登場。彼女たちの立ち位置や、持っている温度といったものが、不思議とこの作品を包み込んでくれる。
様々な想いも人間も巻き込んで、物語はいよいよ生徒会劇へ進む。
4巻以降もばっちり追っていきたい、恋愛漫画のひとつの名作となり得るピース。



ハピネス(4) (週刊少年マガジンコミックス)ハピネス(4) (週刊少年マガジンコミックス)
押見修造

講談社 2016-10-07
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12.ハピネス/押見修造

ハピネスのカケラもないことでおなじみの現代吸血鬼耽美浪漫「ハピネス」だ!
「惡の華」完結後に去年から始まった押見修造先生の最新作ですが
なんか面白いとかいう話以前に、この作品やばいなって思う・・・(語彙)

なんとなく凄い。なんとなく、恐ろしい。本能的な部分に訴えかけてくる。
例えば頭キマってんじゃないかというくらいに視界も思考もドロッドロにとろけていくカオス描写もあるし、ドス黒く凄惨な吸血鬼たちの生き様も言えるし、主人公がたどる物語の血生臭さとか不幸っぷりとか・・・
感想として相応しくないだろうけれど、「怪しい世界に引きずり込まれる感覚」これが強烈で魅惑的でめちゃくちゃカッコいいのだ・・・!!
自分が壊れていくのを肌を感じながら脳みそがグツグツに煮え立って、そんな時に誘うように輝く夜の街の寂しげな感じがすげぇジンワリくるってんですよ。
悲痛なドラマを抱えて自ら家族も友も捨てすすんで孤独になりながら謎の女と都会の夜を旅立ちたいでしょみんな!!!クラスメートのヒロインに心配されてもそれを振り切りたい!!!それだよそれ!そのリビドーだ!!
そんな中二病を懐かしく発症させてくれる漫画。

本作は押見先生が表現の実験をしているような感じで、実にいろんな感情演出や混沌とした背景が多数描かれている。それが本作のテーマやストーリーに見事に合致して、「見たことがない光景」の体験を主人公と読者が一緒に感じられるんですよ。
単純ですけど漫画においてビジュアルで引き込まれるってのは、それだけで好きになれる。

3巻のノラとのキスシーンが鮮烈だった。未知なる存在と口づけをする恐怖や不快感や・・・そしてそこから甘美な恍惚と、癒やしが主人公を包んでいく・・・4巻でもういちどキスをした時には、また違った描写がされている。
けれど2016年の「ハピネス」は勇樹サイドのストーリーが濃密でしんどかったなぁ。
彼の涙が、絶望で崩れた表情があまりにもむごい。元々は気に食わないキャラだったんだけど、気づけばけっこう好きなヤツになっていたんだよなぁ。それがもう。
いよいよぶっ壊れた吸血鬼が身内?から登場して、5巻以降は主人公との関係もぜったいマトモじゃいられない。加速する、落下する物語はさらに深い夜へ。

でもこの作品は「ダークヒーロー」ものだと謳われていることを忘れない。
この閉塞感を打ち破る・・・かどうかはわからないけれど、スッキリとする展開が来てほしいな。
ワクワクする展開が続いていることは間違いなくて、ただあまりにも暗い。



戦国妖狐 17 (コミックブレイド)戦国妖狐 17 (コミックブレイド)
水上悟志

マッグガーデン 2016-06-10
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11.戦国妖狐/水上悟志

いやーーーーー面白かった!!!!こんなに爽やかな最終巻読んだの久々だな!!!
水上悟志作品では最長となった「戦国妖狐」。文句のつけようがない、完全無欠の大団円。全17巻、全99話の長い道のりのはてに待つ、極上のエンドロールだ。
じっくり練り込まれた・・・ようでいてかなり自由に筆を走らせていたという本作。それなのにこんなに綺麗に、あそこまで広げた風呂敷をたたみきれるのかと、水上先生のハンドルさばきには恐れ入る。
超ド級のスケールで行われたラストバトルと、それからのながい人生の旅路。
戦いはこれにておしまい。でも人生は続く。

最終巻の感想だけに慎重に書こうとは思う。
思うが、「惑星のさみだれ」然り、ラストバトル後のあと寂しい空気を引きずったまま、エピローグでぐんぐんと読者をおいてキャラクターたちがひとりでに未来へ歩んでいく・・・この頼もしさと眩しさがたまらない。読んできて良かったと思える、かけがえのない瞬間だ。
本作はとくに歴史モノ(という意識は作者にも読者にももしかしたらあまり無かったが)という側面もあったがゆえに、エピローグでは急加速して時代がめぐっていく。
その中で千夜は年を取らぬまま、歴史の見届け人として生き続ける。
大切なものたちが天寿を全うし、あるいは不慮の死を遂げていき・・・それでもなお、生き続けていく。
同じ歩幅で生きていけないことの切なさが、時代というあまりにも巨大する流れの中で膨らみ続ける。けれど、おなじ境遇の連中もいて、そして相変わらず、バカなことを言い合える。

気が抜けつつも暖かく力強い生命賛歌は、水上悟志作品共通のテーマなんだろうな。
月並みな言葉になってしまうけれど、人のつながりの温かさを改めて感じられる。
水上悟志作品のエピローグは最高。これぞ少年漫画の王道ってヤツだ



かわいいひと 3 (花とゆめCOMICS)かわいいひと 3 (花とゆめCOMICS)
斎藤けん

白泉社 2016-11-04
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10.かわいいひと/斎藤けん

かわいいいーーーーーーーーーーッツっ
かわいいすぎるーーーーーーっっっっ


もうそれがすべて。かわいい。これに尽きる。これ以上はない。
ヒロイン(めっちゃ美少女)も主人公(目つきわるい)もほんとうにかわいい。
ゴチャゴチャ感想書いてる場合じゃない、語彙力もクソもない、初々しいカップルをひたすらニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤnヤny見ていたい人たちは今すぐ買って読んでから死んだほうがいい。俺は一足先に死んでいる。

いちおう説明すると、死神フェイスで他人から距離を置かれがちだけど優しい花屋の青年花園くんと、彼を好きになってしまったゆるふわ超絶美少女日和さんがお付き合いすることになったという話。
ふたりして奥手で、相手のことが大好きすすぎて、けれど触れたくて・・・
お互いにはじめてのお付き合い、いわゆるはつきあいなこともあり、手探りだらけの初々days。
ぶっちゃけそれだけなんです。バカップルのイチャつきを眺めているだけなんです。

天国ですよね。
快楽堕ちしたみたいにハートマークで脳内埋め尽くされて俺は死ぬ。

きっちり毎回盛り上がりどころを作ってくれるのはお約束なんですが、盛り上げ方がうまい。
ヒロインにしても主人公にしても「相手のことが好きで好きでたまらない」ゲージがMAXになったときの感情の暴走が可愛すぎて大声で叫びたくなるんですよね・・・一瞬理性と本能のせめぎあいが起きて、基本的にふたりとも奥手で弱気なんだけど、イザというときにはグッと前のめりになっちゃう。で、別にそれでもいいよってお互い受け入れちゃうやつ。あーーーーーーーーーーーーー(天を仰ぐ)ーーーーーーかわい。

3巻は日和ちゃんの「もっとイチャイチャしたい・・・!!」という叫び。
全読者が魂を振り絞る全力で「いけー!!!」「イチャつけー!!!」という声援を送ったことでしょう。
そしてカラオケでイチャついてたら日がついちゃう日和ちゃんのオンナっぷりも見どころ。
至福とはここだ。天国とはここなのだ。

へんな当て馬とか、日和ちゃんを追い回すイケメンとか、そういう読者を不安に揺さぶる要素がほとんどないいあたりも素晴らしい。
最高に甘酸っぱいだけのイチャラブ漫画って本当に嬉しい。
今後長期連載になっていく中で、たぶん他のライバルキャラ的なやつらも出てくるかもだが。
まぁその時はその時だし、ふたりの絆の強さをすでに確信できるし、まぁ、見守りましょう・・・!
ろくな感想書いていませんがそんな感じ。いま最高にイチャついてる漫画はこれだ。



花井沢町公民館便り(3)<完> (アフタヌーンKC)花井沢町公民館便り(3)<完> (アフタヌーンKC)
ヤマシタ トモコ

講談社 2016-09-23
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9.花井沢町公民館便り/ヤマシタトモコ

「花井沢町公民館便り」うーん、この当たり障りのなさそうな、人畜無害の顔したタイトルで放たれる、最悪の劇薬みたいなディストピア・オムニバス。
最高に悪趣味で、最高にセンチメンタルで、本気で息が詰まる絶望感。
全3巻。完結してもなお、ずっと引きづり続ける。この作品が持つエネルギーは正直凄い。
ここに描かれているのは、能天気で生きるたがりな者たちの人生と、すべて静かに崩壊するまでの長く短い数十年、その断片だ。

「一度でもきみとキスしたり抱き合ったりしてみたかったな」
作中のセリフに凝縮される、決して触れ合えない、目の前の人との距離を突きつけられる作品。

いわゆる3.11以降のエッセンスが濃厚な作品でもある。
俺は正直エンタメにそういった社会派なテーマを放り込まれるとうまく飲み込めないたちなので、「3.11以降の」とかいう文面を見ただけでウゲェとなる人間です、けれどこの作品を語るには触れておきたい部分でもあるのだ。
あの日からのしばらくの日々の恐怖をみんな記憶していて、トラウマとしてみんなが共有している。本作に描かれている壁の外/壁の中の世界のギャップや断絶は、イヤでもあの時を思い出せられて、ひたすらに心がザワつくのだ。

詳しくは語られない。どっかの企業か団体かがシェルター技術実験が失敗して、首都近くのとあるベッドタウンがその被害にあった。見えない膜に覆われて、生命の行き来ができなくなった。外界と隔離されたその小さな町、花井沢町の住民たちが、ゆっくりと生きて、死んでいく。

それだけの話。
いずれ、確実に、滅びる、『わたしたちの町』の思い出話だ。

時系列をシャッフルすることで構成的にも巧妙。
あのエピソードのキャラとこっちのキャラが思わぬ所で繋がったとか、あの時の出来事が未来にこんな影響を及ぼしていたとか、読み込むほどに発見の面白さがあります。
けれど第一話冒頭でしょっぱなから、町最後の生き残りとなる少女の独白がある。
つまり全て破滅へ向かっていくことを承知で、読者はこの物語に向き合うことになる。

ヤマシタトモコ先生らしい鋭い人間観察からくる、人間関係のズレや素朴な疎外感などをテーマにした短編たちはどれもエグってきて素晴らしい。
個人的には国からの配給で食生活や金銭にまったく不安がないという設定をみせるエピソードで、パンを焼いて売りたい女性が「私は一度も自分の稼いだお金を使ったことがないのが 本当に恥ずかしくて悔しい」とボロボロ泣くシーンが強烈でしたね・・・。なるほど、と。
外界の社会とのギャップや、それよりも単純に、閉鎖されたことで人間関係がより濃く醜くなっていく感じも最高に悪趣味。
けれどそういう人間の悪い面ばかりを描くんじゃなくて、ささいな幸せだってたくさん書いている。いろんな人々を描くからこそ、その町の中に流れている空気もすごくリアルに浮かび上がってくる。

そして連続して描かれるのが、町内の少女と外界の少年のカップルのエピソード。
けっして触れ合えない。けれど惹かれ合った2人。
微笑ましくも美しい彼らの恋がたどる行方は、町の未来そのもののようだった。
だからこそ、・・・最終話が、あまりにも、パンチききすぎでしょ、「そりゃそーなるよ」とも思ったけれど、もう、ああ・・・やりきれんな・・・

実は3巻末の描き下ろし漫画ですごい情報が出るので最後まで気を抜かないでほしいのと、それを踏まえて、3巻の表紙をじっくりと見直して見ると、またゾクリとさせられる仕掛けがアります。
全3巻となりましたがまだまだ読みたかったなぁ。
人間本来の醜さと美しさを浮き彫りにする、強烈かつ刹那的なオムニバス作品集。
ごちゃごちゃ書いてしまって申し訳ないです。めっちゃ好きな作品です。



兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)
山うた

新潮社 2016-02-09
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8.兎が二匹/山うた

ピクシブにアップされたこちらの短編を長編に膨らませた全2巻。とりあえずこれを↓



美しく、心が張り裂けそうに切ないラブストーリー。何度読み返してもそのたびに震えるし、なんだか大切になってあまり話題にも出せない、不思議な作品でもある。わりと、全部が超ツボでした。

不死を手に入れて400年近くを生きている女、すず。
彼とその恋人(??)のサクとの日々を描いた作品。
しかし連載のもととなった上の短編を読むと分かるんですけど、1話でほとんど片がつくんですよ。おおよそ7割8割くらいはここに集約されている。それくらい濃密だからぜひ上のやつだけでも読んでほしい。

それで全2巻でなにをやっていくかと言うと、第一話で見事に崩壊した2人の、それまでだ。
時を巻き戻してサクがすずに保護され、ともに住まい、そして惹かれ合っていき
すずの過去を解き明かしその心のうちに巣食う強烈なトラウマの正体も辿る。
彼らの人生をすべて明かして、それから物語は膨大な未来へと向かっていく。

すずにしろサクにしろ、心にすさまじい孤独と痛みを抱えていて、
それらが響きあいながら2人寄り添っていく過程にはしんみりと暖められる。
幸せをすなおに受け取れずむしろ遠ざけて、そんな不器用な様子がかわいいすぎる。
けれど傍にいたところで2人は癒やされながらもさらに傷ついていって、
不死という永遠を生きるすずを本当に救うなんてことは、ただの人間の男には無理なのだと思い知らされる。
好きだというくせに、愛しているというくせに、お前はいつか死んでしまうじゃないかと、
すずは泣きながらこぼすのだ。そんなことを言っても仕方がないのに。永遠を生きていてもこんな子供じみた事を漏らしてしまうその追い詰められた人間の心理にゾクゾクしてしまう。
そして2人は互いの死をとことんまで引きずって、今度こそ永遠に。

すずが自殺をするシーンやすずの過去回想を含め、けっこうエグい絵面も多い。
ただ黒を非常にうまく使ったビビッドな画面づくりがされていて、グロテスクなシーンも感傷的なシーンも構図からしてかっこいいのも好き。
またシリアスな内容だけれど肩の力がぬける穏やかシーンも豊富で、むしろそちらでの間の抜けたかわいらしいやり取りも印象深く、どんどんとこの2人が好きになっていく。

最終話の持っていきかたも、個人的には最高だった。この終わり方じゃなかったらこんなに好きになっていない。かすかな希望と、それにすがることしか出来ない永遠の命の脆さと愚かしさ。
「永遠」という響きをこんなにも残酷に、しかし尊く清らかに感じられる。
1巻2巻ともにカバーを外したところのおまけページの秀逸で、一層泣かされてしまうのだ。
とほうもなく膨大な時間を、すずさんという軸を通すことで不思議とつかみやすく、だからこそ彼女の生きてきた、これから生きていく日々が宇宙のように恐ろしくなる。それが本作の強烈な余韻の正体かもしれない。
不滅の恋物語。手軽に読めてがっつり後引くのでオススメです()



ラストゲーム 11 (花とゆめコミックス)ラストゲーム 11 (花とゆめコミックス)
天乃忍

白泉社 2016-10-05
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7.ラストゲーム/天乃忍

感無量のラストを迎えた人気シリーズ。天乃忍先生の出世作となりました。
当ブログでも定期的に感想かいてましたが、最終巻の記事はこちら
完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻

・・・いや全然まじめに感想かいてないですけど、愛おしくて仕方がない作品なんですよ!
とくに主人公の柳くんが最高だった。個人的に少女漫画のへっぽこなヒーロー役って大好きで、本作はむしろヒロインの邦画基本的には男前だったりする。
ヒロイン九条を自分に惚れさせようとする柳くんが、ものの見事に「片想い男子」をこじらせていく青春模様は至高の一言。
自分の思いに気づいてからの九条は圧倒的なかわいらしさを誇っていましたが
シリーズ全体での可愛さポイント獲得量で言うと柳くんの方が上という説が有力です。

幼馴染、両片思い、ふたりとも不器用、そして不安になる要素ゼロという
最高にベタ甘なまま11巻を駆け抜けていきましたが、サブキャラ勢も魅力的でした。
恋敗れた側の感傷をかろやかにそして印象的に描くのも、
やはり悲恋大好き作家たる天乃忍先生らしい味わいでしたね。
個人的にはアニメ化まで行ってほしかったけれど、ドラマCDになってくれただけでも嬉しかった。
コミックス特装版で2回、LaLa付録で1回だったかな。大切にします。



そして今年には新連載も始動。甘いラブコメだったラストゲーム終了のガス抜きにまた悲恋モノを描いてほしかったところではあるけれど新作も楽しみにしております・・・!!

なお「柳くんみたいなしょうもない少女漫画のイケメンキャラ」を発見しましたら私までご連絡いただけると大変ありがたいです。



ネトラセラレ(3) (バンブーコミックス COLORFULセレクト)ネトラセラレ(3) (バンブーコミックス COLORFULセレクト)
色白好

竹書房 2016-07-27
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6.ネトラセラレ/色白好

妻が不倫SEXしているのを見てシコってる旦那の漫画。(イヤな紹介だ・・・)
黄色い楕円マークのない、いわゆる非18禁エロ漫画というジャンルの作品。
大傑作「過ち、はじめまして。」に続く色白好先生の長編シリーズ、3巻完結。
ぶっちゃけ本作も名作。「クソッ!クソッ!!」と悔しそうにしかし股間をこする手を止めない主人公、クズすぎて愛しかないとか思っちゃうヤバい。

NTR属性持ちの男が美人な奥さんをゲットしたものの、夫婦生活に満足できず、「他の男と寝てくれ」と土下座で妻に頼んで始まる、どうしようもない感じマンテンな作品。
大切な最愛の女性を、別の男に汚される。それでしか愛せない夫の苦悩・・・・・・
エロ漫画としての実用性もバッチリ。それでいて「夫婦愛とは」という非常に奥深い、答えの見えないテーマを深掘りしていく。

画力も高く、心理描写もおろそかにはしない。凄まじい濃度で混沌とした物語が綴られる。
登場人物の感情も行為もどんどんエスカレートしていくし、「愛しているから」という言い訳も通用しないほどに醜い、おぞましい暗黒へと足を踏み入れていく。
夫婦というカタチをとりつつも別の人間と関係を結ばせ、それに夫婦互いにボロボロになりながら憎しみも愛しさもヒートアップし続け、そして煮えたぎった瞬間に、破滅が訪れる。
「苦しむことが愛することだ」と彼は言う。「あなたと結婚なんかしなきゃよかった」と彼女は言う。しかしそれもひとつの男女の形として、この作品は魅力的にふたりを描いてくれました。
こんな漫画初めて読んだ。感動しました。ラストは賛否両論あるとは思うけれど。

ヘヴィなストーリーに見合う人物の表情も魅力的。気合が入っています。感情移入して読んでるこっちまでゼェゼェ息が切れてきそう。
また純情な奥さんが変貌していき、最終話には全然ちがうキャラになりますがこれはこれで愛おしくて仕方がない・・・!むしろ彼女の本質が引きずり出されたかのようで興奮度マシマシってもんよ。この変貌も本作のオススメポイントですね。

毎度おなじみ、本編が地獄なのに作者本人が奥さんとノロケまくるあとがき漫画が、最終巻にはなかったのはやや寂しい所。ブログをみるに、また次回作にはあの楽しいあとがきが復活してくれることでしょう。退院となったようで良かったです。
そんなこんなで、エロ漫画としても極限の環境下で試される夫婦愛の漫画としても読み応えは最高峰なので、読んでない方はぜひこの機会に。

あと個人的にはクライマックスでの、主人公の父親の扱いで爆笑したんですが如何か。



デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 5 (ビッグコミックススペシャル)デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 5 (ビッグコミックススペシャル)
浅野 いにお

小学館 2016-09-30
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5.デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション/浅野いにお

堂々と言うよ俺は浅野いにおが好きなんだ。
毎年ブログのランキングに入れてますが許してほしい。ましては2016年には4巻と5巻が発売されて、物語もどんどんうねり、加速していたわけで、めっちゃかわいかったんですよね。あ、まぁ面白くもあったんですけど。かわいい。俺が言えることはたったそれだけ。・・・かわいい・・・。

どうやら世界がヤバイらしい、たぶん。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻
君がいるならたとえ世界が終わる日も。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』3巻

節目節目で大好きだと叫んでいるわけですが、本作もいよいよ最終章へと突入していく。
「人類終了まであと半年」という明確なラインを突きつけられ、読んでいる側としては「ああ・・・」と複雑な思いが湧き上がりますが、そんなこと露知らずにおんたんと門出の日常はバカバカしくてぬるくて時々刺激的。キラキラかがやく大学生活の始まりだ!!!

デ32

げぇーっへっへっへっへ!!(好き)

『侵略者』サイドの描写が増えました。あまりにも非力な、人間に虐殺されるばかりの宇宙人と、ぷかぷかと浮かぶだけのただのUFO。
地上におちた彼らはコロニーを形成に、数少ない生き残りがかろうじてそこで生活をしている。
そこで彼らは当たり前のように、家族を持っている。大切な両親や子供とともに暮らし、
『人間』という脅威に怯えながらも生活を送っている。
見えてくるのはそんな皮肉な構図。人間が侵略者を圧倒し、圧倒的な暴力で虐殺しつつも大義名分で許される。

そんな中でおんたんと門出は侵略者と遭遇する。
これまで何度か登場していた、死亡したイケメンアイドルに変身したあの侵略者だ。
彼とふしぎな絆で結ばれてく彼女たちに、しかし密かに現実の脅威は忍び寄る。
侵略者をめぐるあまりにも過酷な現実からせめて彼は守らなければと、秘密を共有していく・・・
そしてその中で芽生えていく、おんたん初めての淡い感情・・・・・・これは・・・なんだ・・・!!
世界崩壊とともに始まっちまうのか。未知との遭遇・青春ラブストーリーってのが。

おんたんと門出の友情の原風景に涙腺がゆるみつつ、5巻ラストでは甘酸っぱさが炸裂しつつ
印象深いのは第36話、侵略者を殺しまくった軍人が自分の行いに疑問を抱いて帰省するエピソード。
浅野いにお先生の本領発揮とも言える、「闇」をするどく切り取ったソリッドな内容でした。
本作はおんたんと門出の物語を中心に動きつつも、その周囲をとりかこむ社会情勢や、秘密をぎっている大人たちのしびれる遣り取りも洒脱に描かれており、そこも魅力のひとつでしょう。なんか深刻なことをしゃべってる大人たちが感情を密かにバチバチさせてるの好き(小並感)
まぁ、本当に"知っている"大人たちは、もはや諦観で動けなくなっている部分もあり、表情に暗い影が落ちていて
だからこそ、現実を見ていながらも馬鹿騒ぎをしている主人公たちが眩しく感じられてくる。
歪んだ世界の中で少女たちの青春をみていると、尊さのあまり身動きが取れなくなってしまう・・・

スレッスレ、キワッキワのバランス感覚で成り立っているんですけど、明らかにそれが悪い方向へと傾きだしているのが感じられてゾクゾクしますね。ただ、4巻にしろ5巻にしろ伏線が散りばめられていっている段階に過ぎない。本当の爆発はここからなんですよね・・・しんど・・・

そんな小難しいこと言ってないで、俺はもうおんたんの初恋の心奪われっぱなしなんですよ。
世界がどうなろうと知らないからおんたんの恋の行く先だけでも見届けたいですね。そんなセカイ系な終わり方。



青春のアフター : 3 (アクションコミックス)青春のアフター : 3 (アクションコミックス)
緑のルーペ

双葉社 2016-11-11
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4.青春のアフター/緑のルーペ

緑のルーペ先生の一般向け作品。
先生特有の、あの生臭くも甘酸っぱい強烈な個性がビンビン際立っているシリーズです。1巻も最高でしたが2巻3巻と物語が進むにつれ、苦々しくも目が離せない圧倒的な求心力で夢中にさせてくれました。

男女において過去の恋愛へのスタンスは違うという俗説がありますね。男は別名保存、女は上書き保存みたいな有名なやつ。本作はその「男が恋をひきずるとどれだけ醜いか」をこれでもかと描き出す。
本作の主人公は非常に醜悪で、貧弱で、神経質な、ありふれた男です。
しかし一点、おかしな点がある。初恋の女の子は、目の前で消えてしまったのだ。それは神隠しのように。いや、レコードの音飛びのようなものだ。だって彼女は、時を超えていったのだから。
というわけで高校時代、突如として恋の相手を消失した主人公が、いろいろあってそんな思い出も飲み込んで別の女性と付き合って順風満帆だってときに、初恋の少女があの当時のままの姿で還ってきたってんだからこりゃあ意地悪な設定ですよ。

突然きえたさくらに対して「彼女にいつ帰ってきてもいいように」とさくらの居場所を守り、ノートに手紙とも自分の日記とも取れる文書を遺し続けた鳥羽。
戻れないからこそ過去とは過去として割り切れる。そこにどんな後悔や羞恥や美しい記憶があったとしても、等しく過去として時の中に埋もれる。
なのに、よりにもよってというタイミングで過去は再びやってくる。
バッドエンディングを迎えた青春の、その先へ。

これはどちらのヒロインを選ぶかというラブコメ的な話というより、主人公自身の葛藤の物語なのだ。
2巻3巻と、さくら消失のその後に主人公鳥羽がたどった人生が断片的に語られていく。
たったひとつの恋とその後悔が、どれだけ彼に重くのしかかったか。その傷の深さ、呪いの凶悪さは饒舌に尽くし難く、苦しみ抜いてのた打ち回って、そうして彼は青春から抜け出すことができたのに。大人になれたのに。
”戻ってきた”ヒロインにたいして、主人公が叫ぶシーンがある。
「いなくなってしまえばいい」と。
あれだけの情熱で彼女の帰りを、ずっと、待ち続けていたはずなのに。
そんな言葉を吐き出してしまうまでのストーリーのうねりはハンパじゃなく、修羅場も修羅場、そしてその先の闇へとズブズブと重く沈んでいく・・・ああ恐ろしい。ワクワクが止まらない・・・

圧倒的に追い詰めてくる迫真の描写とともに、そこに宿るキャラクタたちのメンタルは少しずつブレていき、波紋のように広がっていく。
自分を苦しめる過去は、自分にとってのすべてでもあり、忘れたくても捨てられない大切な日々でもあり、一生それを背負って生きていかなきゃならないのに、今もなおどうしようもなく過去に呪われていく。
10代のわずかばかりの日々はあまりにも無防備で繊細で、青春のトラウマというのは一生モノなんだろう。そして大人のいま青春をやり直すことで、より深く青春の闇へと囚われていく。
ひきずりこまれていく自分をごまかすように主人公は進むけれど、実際誰から見ても修羅場間違いないは明らかってところでいよいよ次回4巻で完結。
あーーーーーーー見たくないけど読まざるを得ない。ところで1巻から3巻に進むに連れ、表紙の桜の花びらの量は減っているんだけど、あーあ、もうどうなっちゃうんだろうね。死臭がする。



あげくの果てのカノン(2) (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン(2) (ビッグコミックス)
米代恭

小学館 2016-10-12
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3.あげくの果てのカノン/米代恭

炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

おおよそ、単独記事で書いてしまっているので蒸し返すようになってしまうんですけども
不倫恋愛×SF(×ポエム)という悪魔的合体でここまで面白い作品になってしまうのかと。

恋に暴走する主人公、かのん。憧れの先輩への片面いを引きずりはや8年目。
エイリアンと戦う使命を帯び、任務に損傷するたびに少しずつ、もとの自分から少しずつ変化していく。
それにより、ただ遠くから見ているだけだったかのんに、不意にチャンスが訪れてしまう・・・
倫理・道徳に反するということから「不倫」・・・ただ、ただ、ずっと先輩が好きで、ずっと先輩を見ていて、ずっと先輩だけを追いかけていただけなのに、いつしかこの恋は「許されない」ものになっていて、でも大好きな彼に選んでもらえる、触れることができる幸福はしびれるくらい甘く…
まぁそんなわけでズブズブの不倫沼へと突っ込んでいく作品です。

特徴的なのが、時に理不尽で時に暴力的で、そもそも言葉にすら表現しきれない感情の暴走を(特にかのんという特異な恋の仕方をしているキャラクタを)非常にうまく描いている事。
その恋によって例えば誰かを遠ざけたり、大事なものが壊れたり、裁きを受けたりするかもしれない。けれどそれでも向かっていかなくてはならないというムチャクチャな正当化とか、けれど相反する葛藤だとか、あらゆる面から「恋」という言葉が持つ残酷な2面性を描写していく。

きっと真剣に恋愛に向かっていこうという時に人間はとてもエネルギーが必要で、だけどかのんはそれこそ機関部がぶっこわれてるので無尽蔵に燃料をもやして突っ走っていってしまうのだ。恋愛脳だとバカにする言葉はあるけれど、正直こういった「ぶっ飛んだイカレ野郎の恋」は見ていてとてもとても楽しいのだ。

それでいて、やわらかく突き刺さるポエムが散りばめられていてたまらない。
彼女なりのロジックに乗っ取りモノローグは流れ、オトメの全力全開な内容は可愛らしくもあり、しかし23歳に当たり前に備わっているべき社会的常識を踏み倒しているこの未成熟すぎる感覚が、恐ろしくもある。

2巻になって先輩の奥様の描写もされ、物語はいっそう厚みを持ちはじめた。かのんを思う弟くんの存在など、気になるサブキャラ勢は数多い。
そして追い詰められるごとに、かのんのマトモな部分も見えてきて微笑ましくなったり。
2017年も注目作。いまにも壊れそうな世界の中で"発情する"私たちの悲劇と、ラブロマンス。



ぼくは麻理のなか(9) (アクションコミックス)ぼくは麻理のなか(9) (アクションコミックス)
押見 修造

双葉社 2016-09-28
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2.ぼくは麻理のなか/押見修造

「ハピネス」といい、どーーも押見修造先生の作品に弱い。弱いっていうかこの作家さん凄すぎ。
「ぼくは麻理のなか」は漫画アクションにて2012年から連載がはじまり、4年目にして完結した長編シリーズです。過去作にも似たテーマがありますが、本作はやや複雑ではありますがTSというジャンルで勝負した作品。いわゆる性転換モノ。

とはいっても「やや複雑」と濁しただけの理由があって、その秘密というのが物語の根幹に関わることなので書くわけにもいかず・・・扱いがむずかしいな!「ある日突然女の子の身体に乗り移ってヒャッホー!でも女の子の世界ってタイヘン!わたし、これからどうなっちゃうの~!?」だよ!!

個人的には2016年に完結した作品の中でもトップクラスに美しく見事な着地をした名作だと思うんですが、いかんせん語りたいことがクライマックスの展開についてのことばかりで、書けば書くほどにこれからこの作品を読むぞって言う人の感動や衝撃を削いでしまいそうで難しい。

当初は突然女子高生の身体を手に入れてしまった主人公のゲスな下心と、一方でヒロインを聖なる存在として崇め守りたいというアンビバレンツの葛藤を描いていました。
じっさい本作のリビドーは「女の子になりたい」という想いや、過剰に女性を神聖視するあまりの暴走したイマジネーションだったり、そもそも「エロスってなに?」という疑問からきているように感じます。
いざ女性になってみれば、周囲の男たちの視線の気持ち悪いこと。クラスの中の窒息しそうな空気も、母親の態度も、やたら突っかかってきては過剰に懐いてくる友人も、すべての日常がぼくを追い詰める。

で、ちょっとネタバレをこれから書くのでご注意いただくとして・・・
そんなわけで終わってから一度読み返してみると、麻里は「僕」になったことで家族にたいして言えなかった本心をぶつけられたりしている(第30話他)。また性的な物事への嫌悪や罪悪感にしたって、「僕」を通じてある種のロールプレイングをしつつ、葛藤と咀嚼を行っていく。
結局「自分」というものの正体がわからなくなる、思春期の孤独や不全感が根っこの根っこにあって、そこが読んでいてヒシヒシと伝わる。読者に切っ先が向けられていることに気づく。背筋が寒くなるんですよ。自分のなかの汚い部分とか、そのくせ潔癖な部分とか、夢見がちだったり愚かななにかを、全部丸裸にされている気分になる。
ひとりの人間のルーツを辿り、その心のナカミを洗いざらい確かめていく過程が丁寧で、全9巻をついじて「麻理」という少女を"解剖"していく。
改めて考えてみればタイトルが「ぼくは麻理のなか」というのはうまいなぁと思いますね。完結後は視点が変わって2度読みも楽しいです。(まったく関係ないんですけどこういう作品のwikiがストーリーの九割五分かいちゃってるのどうかと・・・)

作品自体は、男が悶々と抱え続ける「女の子」という夢をある意味ブチ壊すような、男も女もじっさい同じ人間だよなに幻みちゃってんの、って語りかけているような実に押見修造先生らしい物語でした。哲学的な、言葉にすると陳腐化しそうなテーマをとてもうまく表現していると思います。苦しんでもがいて泣いちゃうような、そんな剥き出しの生き方を不器用にもしてしまう、尊い時代なんだよな思春期。
他の作品でも共通していえますが、言葉ではなく抽象的なビジュアルで訴えてくるのもパワフルで好きでした。精神が乱れているときの心理描写とか鳥肌モンです。



さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポさびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ
永田カビ

イースト・プレス 2016-06-17
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1.さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ/永田カビ

2016年の話題作をあげたらまぁおそらく挙がってくるでろうタイトル。
有名すぎて逆にトップに持ってきたくない天邪鬼な気持ちもありますが、かと言ってこんなにすごい作品を読んだらどうすることも出来ず。改めて、凄まじい情念とエネルギーが120%でブチこまれた脅威の一冊だと感じます。そこらへんは単独記事で書いているのっでちょいと省略。

轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』

その徹底的な自己分析。読者への気付きと共感、そしてなにより「読み物として知りたい事・見たいことが魅力的に描かれていく」構成の妙もあり、とにかく濃密の著者の内部へと引きずり込まれていく作品です。
よくぞここまですべてを明かせるな。赤裸々という言葉はこの領域に到達しなければ使えないんじゃないのか。
思わず興味をそそられるタイトルですが内容の6割7割は著者のバックボーンを紐解く尺に当てられている。そもそも「さびしすぎて」と、「レズ風俗に行きました」の接続がムチャクチャだから興味がそそられるわけで、正しいことなんだけれど。
とは言えその著者のバックボーンが凄まじい事になっている。そこらへんは是非本著でご確認を。

そして本作を読んだ誰もが感じると思う、「この作家さんのこの先を見てみたい」。
「レズ風俗」の本そのものも大ヒットしメディア露出も多数。きっと生活も一変しているだろうし、いやもしかしたら・・・と。それは作品のファンというより、永田カビ先生のファンになっていた自分に気付かされた瞬間なのです。
興味の対象が圧倒的に作者本人に向かっていっている。

一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)
永田 カビ

小学館 2016-12-10
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そんななかで発売された「一人交換日記」は、まさにそれを叶えてくれる一冊。一人交換日記は見ての通り「レズ風俗」の先の永田カビ先生のレポ漫画で、こちらも濃密の一言。
単独でと言うよりかは「レズ風俗」のあとすぐ読みたい、いわばレズ風俗増刊号だ(なんだそれ)
レズ風俗と一人交換日記、合わせて一本、俺的2016年No.1です。

レズ風俗を出した後、またレズ風俗に行ったり、実家を出たり、親バレしたり、エゴサしまくったり、ヲチスレみたり、……うん、全体的に相変わらずで最高です、永田カビ先生。
でもなんとなく、ポジティブな内容だった。ヤケクソで、思い悩んだりもするけれど、
愛し愛されたいと願うことをこんなに堂々と、なんせレポ漫画として描いて出版できるような
それはもう普通の人には出来ない凄まじい勇気を感じて、意味不明に励まされたりしちゃう。

もちろん漫画として面白いのもお見事。驚異的なバランス感覚。自分を分解・解析してキャラクタといて落とし込んでいる。ただダラダラとレポートしているんじゃなく、情報を整理して「交換日記」という相手にたいして語りかける形式になっていることも深く染み込む。まぁ、相手は自分なんだけれど、一人交換日記なんだけど。
血なまぐさい内容なのはもう相変わらずで、「レズ風俗」が少しでも響いた人はこちらもぜひ読んでほしいです。
痛みとか切なさとか、逃げ出したくなるような絶望をきちんとまな板の上において押さえ込み刻んで料理してくれてます。

・・・後半、一人交換日記の事ばっかり書いてた。
この作品は「レズ風俗」ありきな内容なことは間違いないので、見逃してください。














・・・ということで前回更新と合わせて全30作の紹介でした!
ここからは色々な理由から別枠として紹介したい +α 的な作品です。




まもって守護月天!  解封の章 1 (BLADE COMICS)まもって守護月天! 解封の章 1 (BLADE COMICS)
桜野みねね

マッグガーデン 2016-10-08
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<特別部門> まもって守護月天! 解封の章

2016年は守護月天の年だったといっても良い。・・・言い過ぎだな。言い過ぎでした。
いや、でも、それくらい個人的には衝撃ニュースだった。
漫画原作の新章がスタート、しかも『再逢』とは違う歴史を歩んだ全くの新シリーズ。
それにTVシリーズのBDが出たり、まぁお祭りですよね。
去年コロチキのコントで「さぁ」が使われたあたりから守護月天という作品を思い出すひとは増えていたのだろうと思うけれど、実は前々から電子書籍などで守護月天の新作は発表されていました。

ちっちゃいシャオとでっかい離珠のお料理教室 
まもって守護月天! ~初めてあなたに逢ったとき私が思っていたこと~ 
二個目のは、初代第一話をシャオ視点を交えながらリメイクした、ぶっちゃけ書籍化するだろうと思ってたら今なおされていない、必読。

そんな中ついに連載として帰ってきた守護月天。
あの柔らかくときに強烈に切ない世界をそのままに、初代から3年の月日が経った高校生編。
変わらないやつら、なんかめっちゃ変わってるヤツラ、いろいろ居るけどとにかくなつかしいメンバーとの再会が楽しめる。そしてシャオがあまりにも・・・あまりにも可愛すぎる・・・それだけで最高・・・ッ!!!

正直、とてつもなくスゴい漫画というわけではない。この作品に対する俺の評価は、思い出補正が発揮されまくった結果だから。
しかしながら本作でもみねね作品の切れ味はいかんなく発揮されている。届かない思いの儚さ、それが持つ熱のもどかしさ。孤独と恋の揺れ動く恋模様には悶絶させられます・・・。
こんなにも臆病に、言葉の意味を、視線の先を、気持ちの在り処をさがしつづける物語を、好きになれないわけがない。触れれば崩れてしまいそうな、神秘的なオーラをまとっている作品なのですよ。

うわ~守護月天懐かしい!と思ったかつての読者のみなさんは、「フェアリアル・ガーデン」も読んでみてほしい。こちらも守護月天に通ずる、コミュニケーションと種族のすれ違いが織りなす甘酸っぱい恋物語だ。
「あれ」からの桜野みねね先生はきちんと漫画活動をしていてくれた。
桜野みねねという作家を語る上でも、今作は非常に重要です。
「いろいろあった」んだ。それは本作の著者コメントでも書いている。

今後の創作活動の方法のお知らせ 桜野みねね
守護月天!関連作品についてのお詫び 

他にも調べればたくさん出てきます。黒歴史化してしまった、前作の守護月天とか。
作品・作者の背景をすこし知っておくと、この作品の意味深さに触れられると思う。
兎に角、また戻ってきてくれてありがとうございます。
またシャオたちにあわせてくれてありがとうございます、と。

・・・

思い入れの強さというか、「作品の存在に対する感動」が強すぎて
最初BEST30に入れていたんですけど、好きすぎて1位になっちゃって、
「いや1位になるような作品じゃねぇぞ、冷静になれ」と我に返って別枠にしました。
それなりには面白いですけど、ぶっちゃけこれだけ読んでも、良質なラブコメというだけの捉え方で終わってしまいます。いや、本当はもっとベタ褒めしたいんですけど一般的にはそうなんだろかなと思って・・・
でもどうしても好きだから書きました。感謝しかない復帰作。



DSC_0659.jpg

<同人部門> シュノーケルはいらない/藤咲ゆう

こちらは同人誌なので除外。同人誌部門ってなんだよって感じですけど、俺的ゴリ押ししたい同人誌ランキング2016のNo1がいるんですよ。それがこれ。

恋人ごっこは屋上で。「シュノーケルはいらない/ねこかんロマンス」

スクールカースト的に混じり合わない男の子と女の子の、薄暗い青春の漫画です。(二次創作じゃなくオリジナル)
「わたしがここから落ちたって 速水くんは普通に生きていけるでしょ」というセリフが印象的。
傷つける/傷つけられることでしか関係を許せない自己嫌悪とか、窒息しそうな共依存とか、
弱い力でそれでも求めあってしまう、そんな生きづらい感覚に満ちていて
ひたすら最高of最高なので、入手は普通では難しいですが気になったからはぜひぜひ。
コミティアなどイベントで頒布されていましたが、現在はkindleとかでも配信してます。

シュノーケルはいらない1シュノーケルはいらない1
藤咲ゆう

G2Comix 2016-08-05
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げんしけん 二代目の十二(21)<完> (アフタヌーンKC)げんしけん 二代目の十二(21)<完> (アフタヌーンKC)
木尾 士目

講談社 2016-11-22
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<悔やみきれない部門> げんしけん 二代目

斑目・・・・ ・・・ ・ ・… ‥

完結しました。大好きな作品ですけど、素直な気持ちでランキングに入れられなかったので除外しました。
でもすっごく楽しめました。ありがとうございました。矢島っちに幸せになって欲しい。
もっと長く、ながく読んでいたかった。もっと二代目の空気を感じていたかった。昔のげんしけんと違うことをひとつひとつ確認してしまうような事であっても、大好きな彼らとまた会えて良かったしもっと彼らのとなりで話を聞いていたかった。でも完結。よかったな、斑目さん。大切な作品です。愛おしさしかない。

……問題の「spotted flower」も冷や汗かきながら続き追っていきますのでよろしくお願いします。




以上でおしまいです。長々とありがとうございました。
2017年もいい漫画と出会いたいですね。

2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位

今年は本当に更新が少ない1年となってしまいました・・・もう仕事ソシャゲ仕事ソシャゲ
なので年末くらいは一年を振り返る記事を。
前回がエロ漫画の総括だったので、今回は一般向け漫画の総括。

2016年に発売された漫画作品から個人的に面白かった作品BEST30です。
が、いざ各作品でコメント書き始めたら、最近更新が減っていることもあって書きたいこと山積みで、えらい文章量に・・・。なので分割して更新。
今回は前半戦です。だらだら書いていきますので適当に読み流すカンジで、よろしくです。
いちおうランキングっぽくしましたけど酒入れたテンションで書いてるのでわりと適当です。



のーぷろぶれむ家族(2)<完> (ヤンマガKCスペシャル)のーぷろぶれむ家族(2)<完> (ヤンマガKCスペシャル)
麦盛 なぎ

講談社 2016-07-20
売り上げランキング : 117420

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30.のーぷろぶれむ家族/麦盛 なぎ

全2巻。初期からは考えつかなかったシリアス展開へと進んでいったが、綺麗にまとまったと思います。
タイトルに関する通り、「家族」を描いた作品。しかも描き方が濃密だ。
主人公の母親はマネキン。いや、そんなわけはないんだけれど。主人公の父親が”壊れて”しまって、マネキンを妻と思い込んだ生活をしている。そんな秘密を抱えながら、ややコメディチックにスタートした本作。
しかしその秘密が暴かれたことで、主人公をめぐる学生生活は一変する。

主人公がせいいっぱいに日々を戦い抜く姿がジンとくるしとてもかわいらしい・・・。
しかし濃密に、思春期の、ドロリと濁った黒い分子がたしかに感じられる、ここがたまらんのですよ。非常に息苦しいあの中学校の教室の空気がページがのぼりたつようなリアリティでそこにある。
見えないルールに縛られたり、得体の知れない悪意に触れたり、もっと近づきたい相手にも素直になれなかったり、心細くて泣いてしまったり、そうして誰かを信じられなくなったり。
きっと経験があるあの束縛を、主人公は体当たりでぶつかりながら手探りで前へ進む。
儚げな印象の主人公だけれど、いざというときの苛烈な攻めがアツい。

正しい人なんていない。みんな間違えていく。でもそんな事たいしたことじゃないと、ぜんぶ包んで認めてくれる。ノープロブレム。家族がいること、相談できるだれかがいること、大切な自分の居場所。
当初、問題ありまくりな家族を描く皮肉のような意味合いで「のーぷろぶれむ家族」というタイトルになったのかと思ったが、最後まで読むとまた違った側面からタイトルも味わえる仕掛け。

2巻ラストでお父さんが「気付いていた」ことに気付いたシーンはこっちまで泣きそうになりました・・・すごい、こんなに突き刺してくるのかよ、と!
そして迎えるクライマックスの爽やかな事。ラブ的な意味でも、ハッピーエンドで大満足。
それと装丁が非常に美しいです。1巻2巻あわせて、ものとして手元においておきたくなる。良い本というのは良い装丁がされているということです。
家族モノでもあるし、暴走する思春期の過ちとそれの救済でもある。いろんな角度から何度読んでも違った楽しみ方ができそうな作品ですね。
あとデビュー作もすごくいいのでオススメですよ→微熱のまま触れあって歌いあって『17歳℃』




マドンナはガラスケースの中(2) (リュエルコミックス)マドンナはガラスケースの中(2) (リュエルコミックス)
スガワラ エスコ

実業之日本社 2016-05-20
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29.マドンナはガラスケースの中/スガワラエスコ

スガワラエスコ先生の連載デビュー作、全2巻。そもそもリュエルコミックスというのはコミティアありきな作家選出をしておりコミティアキッズはやや複雑な思いがあるものと勝手に思っているんですが、そんな中飛び出した本作は作家の持ち味が生かされまくったかなりいい出来栄え。
爬虫類にしか興奮できない特殊性癖持ちの男が主人公。彼のつとめる爬虫類専門ペットショップに出入りしはじめた妖艶な少女に惹かれだすも、なんと彼女はランドセルをせおう年齢だった、という年の差ラブコメ。
臆病なのに悶々としまくる主人公のいじらしさがまずかわいいし、いやそんなことよりふたまわり近く年が離れている男を手玉に取る、JSヒロインゆりちゃんの魔性の女っぷりな・・・最高でっしょ・・・!!!

少女でありながら大人びていて、自分が『そう見られる』ことを知った上で距離感を測ってくるオトナなエロスも漂わせる。しかしときに彼女は年相応の、単なる12歳としての顔で涙を流す瞬間もある。この2面性よ!
末恐ろしいな・・・12歳って男性から性的な視線を浴びることにまず嫌悪感があるような年頃だと思うんですが、彼女はすでに遥か先ゆく。
逆に言えば、もっと昔からそういうふうに見られてきたという、悲しい成熟の証なのだとも感じる。

いわゆる男性的な性描写やあざとい仕草にグッと胸を掴まれますが、スガワラ先生の描く”線の艶やかさ”も非常にキャッチーな要素。そして描かれる生き物たちも愛情たっぷりに存在している。
動物たちの生態がキャラクターたちのドラマにもシンクロしたり、「生命」の持つ力をみせることでこの作品のストーリーも補強されています。
そしてなにより、ヒロインの造形が魅力的すぎる。
この瞳に見つめられたらもうイチコロってもんだ・・・。

2巻というコンパクトな尺の中で、爬虫類飼育漫画としての面も年の差ラブコメとしてもばっちり深められていく。もちろんもっと長く読みたかったことは間違いないけれど・・・
それにしてもこのラストシーンの圧倒的な爽やかさ!何段飛ばしかという跳躍!
しかしこれくらいの生き急いだ、感情をコントロールしきれない恋愛感情の発露というのが、最後にしてヒロインのキャラをより愛おしいものにしてくれているように感じます。
いくつであって女は女ということか。魅惑の美少女を堪能したい、そしてきらめく年の差恋愛を読みたい方に。




AIの遺電子 1 (少年チャンピオン・コミックス)AIの遺電子 1 (少年チャンピオン・コミックス)
山田胡瓜

秋田書店 2016-04-08
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28.AIの遺伝子/山田胡瓜

オムニバス形式で綴られる人とアンドロイドの近未来系ショートストーリーズ。
少年誌らしからぬ作風なんだけど、そういう雑多な紙面こそがチャンピオンらしいなとも思う。
雑な説明をすると、なんとなく「世にも奇妙な物語」の原案になりそうなマンガです(雑)

既発表作「バイナリ畑でつかまえて」のテーマを引き継いでいるようにも思えますが、今作は特にアンドロイドに特化した内容になっている。
人間が生み出した技術としてのアンドロイド。パートナーとして社会に溶け込んだアンドロイド。
アンドロイドによって変わった未来の、その片隅にある小さな小さな個々の物語。
科学というのは人の感情とは切り離されたロジックの世界かと思っていたんだけど、本作を読んでいるとそれは違うのかもとも思った。
非常に繊細でときに理不尽な「感情」に、人はもちろん機械すら振り回されていく。
人と機械の世界はノスタルジックでときにシニカルで、毎回毎回ふかみのあるテーマに取り組んでいる。
週刊連載とは思えない濃度で毎週描かれているものだから、もうコミックス1冊読んだだけで満足感がすごいのだ。
さらりとした清涼感のある絵柄なんだけども、思いの外エグかったり、気持ちを大切にした優しい物語もある。そしてそのどれもが科学技術が世界を前へと進ませていくという事実。
1話1話はシンプルでも、何話も積み重ねることで「未来の姿」を読者にリアルに浮かび上がらせてくれるんですよね。技術の進歩やガジェットの発展へのロマンを感じる。
そしてこんなに進んだ世界なのに、どこか人間本来の「愚かしさ」が根っこにある。
あいもかわらず馬鹿げた気持ちを優先しても、それで満足だってしてしまう。人も愛も変わらず。アンドロイドが隣人となる世界のビジョンを、こんなに多面的に描けるんだなぁ。
ネタがどれだけ続くのかなぁという心配もあるけれど、願わくばいつまでも読んでいたい作品の一つ。
AIの物語でもあり、愛の物語でもあり。良質なSF作品。




ミッドナイトブルー (フィールコミックス)ミッドナイトブルー (フィールコミックス)
須藤 佑実

祥伝社 2016-11-08
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27.ミッドナイトブルー/須藤佑実

タイトル!!!表紙絵!!!装丁!!!!
三位一体のノスタルジー攻撃になす術なくレジ直行いたしました。買ってから気づいたけど「流寓の姉弟」の作家さんだった。通りでセンスのいい漫画だ。
今回も小さな世界と小さな感情でおおきく揺さぶってくる、珠玉の一冊。
しかもこれまた、「過去にしばられた人々」がテーマなのかってくらい、割り切れていない奴らばっかりでてきてもう堪らない。これでもかと性癖をストレートに突いてくる。
フィーヤンに掲載されていたということで雑誌のイメージからちょっと身構えたのだけれど、非常にかわいらしい作品集です。女心の複雑さと、その女心に振り回されるかわいそうな男たちを描いた、感傷的な人生の断片たち。

「箱の中の思い出」、整形した元生徒との再会。美しい、記憶に留めたいと思ったそれは、他者からすれば無用のものだったと。再会がもたらすのは甘酸っぱい青春のやりなおしと後悔とセトセトラ。
結局主人公が墓まで気持ちを持ち続けるお話なことからも、本作が「死ぬまでゆっくりと引きずる」作品集だと印象づけられる。まぁ死ぬまでなにかに縛られているなんて、きっと誰だってそうなんだ。

「白い糸」仲が良かった、けれど深くは知らなかった、そうして遠ざけられた憧れの先輩とのエピソード。こりゃまた青春濃度が高くて素晴らしい。
青春を取り戻すために一瞬瞳が輝く大人たち、それもまた青春なんだよな。ヒロインのキャラクター性が示唆的で、彼女自身もそう認識するように魔法のような力があのころにはある。そしてそれを失った無力感から、自らその魔法の種明かしをするシーンは、漂う切なさに泣きそうになった・・・。

「ある夫婦の記録」本作で一番ひねくれた男女が登場するセクシーな短編。妻を尊く思うすぎるがあまり触れられず、別居して監視カメラで妻を見る夫。夫の言うがまま、そして夫への小さな反抗心を伴って行われる公認の浮気。
一度壊れた関係が、ゆっくりとコーヒーの香りとともに癒やされていくラストシーンは余韻もたっぷり。大好きな作品です。

最終作であり表題作「ミッドナイトブルー」は、2年ごとの同期会に現れる、昔好きだった少女の幽霊との逢瀬を描いたリリカルな作品。雰囲気作りも一際丁寧で、少女の停滞した時空と、主人公たちの残酷な時間の流れのズレがどんどんと開いていく中、いっきにその距離を詰めていく流れはゾクゾクが止まらなかった・・・!!コミックス最後にふさわしい内容だと思います。

全体的に表紙イラストの雰囲気に非常に合っていて、みんなセピア色の記憶の中で逃れられない運命を掴んでしまった連中ばかりなのだ。
さらりとした質感のポップな絵柄も好印象です。まったりと流れていく中で、インパクトのある絵をスムーズに投入してきている感じもうまいなぁ。
万人受けする短編集だと思います。ノスタルジー全開、喪失者たちのやさしい物語。

いや、正直内容もいいけど装丁が最高すぎる。手に取った時のテンションの高ぶり。本編の良さを何倍にも引き上げているように思います。こういう相乗効果が単行本の良さだよな。俺的2016年コミックス装丁完成度No.1。




恋のツキ(2) (モーニングコミックス)恋のツキ(2) (モーニングコミックス)
新田章

講談社 2016-11-22
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26.恋のツキ/新田章

超傑作「あそびあい」に続く新田章先生の新作。なんというか、「あそびあい」の流れから見ると作者の性癖を色濃く感じる・・・いいぞ、それでいいんだ・・・俺も大好きだから・・・!!
31歳、彼氏持ちの主人公。惰性で同棲し、ときめきもなく、このままだらだら人生を消費ししていくのみの人生。かと思っていたのに映画の趣味もファッションもドンピシャ、しかも顔立ちもタイプな男の子と急接近!
問題はその男の子が高校生だということだ。なんと16再歳の差。
いけないと思いつつもどうしても心惹かれていく主人公ワコ。スリル満点・・・というほどのアドベンチャー感はないが、日常の描写がしっかりとしている分、非常にリアリティのある、『浮気』の物語に仕上がっている。

女性にとって「20後半から30を過ぎて付き合っている異性」がどういう存在であるか、生々しい言葉やワコ本人の描写とともに綴られていく。結婚は意識する。なんとなく老後のこととかのイメージも湧く。彼はサラリーマン、こっちはフリーター。なんとなく・・・合う、感じがある。
けれど女としてココロ揺さぶられるかと言うと・・・・・・No.
彼氏のふうくんはお調子者で態度もでかい、たぶんよくいる、雑なタイプの男性。リアルなキャラ。
そんなときに現れた超タイプの美少年が、なんと自分に好意さえ抱いてくれる。
本能と理性がせめぎあい・・・結果的に、ワコは自分に少しずつ言い訳を繰り返しながら――浮気をしていってしまうのだ。

さわやかなタッチでねっとりと男女の関係を描く作風は相変わらず。
目に見えない情念のようなものがページから匂い立つ。ここらへんは流石の一言。
その上、刺激的なストーリーともに飛び出す「女の本音」的部分も魅力的だ。
ワコは天然っぽくて可愛らしい女性なんだけれど、31歳という年齢がリアルに肩にのしかかっている。夢ばかり見てはいられない。けれどドラマのようなときめきに憧れる。三十路女性ならではの葛藤だ。
特に2巻、ラブホまで行っちゃってだいぶ浮気も深まってきた中で、ワコがいまの彼氏と少年を比べたとき、ひとりの女性として本気で自分の言葉で二人の男性を比較するシーンがある。この切れ味の鋭さと言ったら・・・!

年の差なんて関係無いって言うけれど、いざ直面したとき、16歳の年の差を恐れない訳がない。
自分は今31歳で、相手は高校生だ。しかも浮気の関係で。
じゃあ結婚をするとしたら?何年後だ?そのとき私は何歳になっている?子供はどうする?いくつで産める?4年付き合っているいまの彼氏は結婚を意識している。両親に挨拶へいく約束もした。そんな相手とこれから別れを切り出せる?友人たちに顔向けができる?
きっと10年前なら違う結論が出せていたのだ。人にとっての10年が、どれほど重要か。

1巻からすでに胃が痛かったけれど2巻から本番。完全にスイッチが入って作者もノリノリだ。
ストレスでハゲそう。でもページを捲る手が止まらない。この本にかかれている言葉たちはどれも素直だ。それは理性で押し込めた社会常識より、ずっと熱く、そして痛みを伴う。
誰もがいけないことと知って、それでも人は罪を犯す。「浮気は文化」なんて言えない。これは卑怯者が一人ひとり背負う、本当の愛と罪の十字架だ。



月曜日は2限から(7) (ゲッサン少年サンデーコミックス)月曜日は2限から(7) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
斉藤ゆう

小学館 2016-11-11
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25.月曜日は2限から/斉藤ゆう

終わってみれば、本当に寂しい。なんかいつもあるような気がしてたんだよな。使い慣れたシャーペンみたいな、ずっと着けてるイヤホンみたいな感じで、決して派手ではないけれど4年弱ゲッサンで連載されていた青春4コマ漫画。

主人公の男子高校生居村くんと、校則まもらない自由奔放ガール咲野さんの日常を描いた作品です。
何が面白いのかって言うと、まぁ本当にありふれた事なんですけど、この空気感。
会話のかけあい、そのひとつひとつ。激しいツッコミも無ければぶっ飛んだボケもない。
淡々とした日常の中で、たんたんと会話している。それだけなのに、テンポのコントロールやギャグのシュールなセンス、言葉選びからすべてがツボだった・・・!
咲野の言葉はなんか世の真理をついていそうで、実際はただの怠け癖だったり皮肉だったりを言っているだけなんですけれど、あのけだるい表情で言われると全部許してしまう。

個人的にゲッサンという雑誌自体に思い入れがありまして、まぁ創刊からずっと追っているので、いろんな新人さんが出てきましたけれど、別にこの作品って有名でもないし雑誌内ですごくいい位置にあったというわけでもありません。唯一の4コマ漫画という特徴はあったけれども。
MIXとか信長協奏曲とか高木さんとか、人気作の影に隠れ続けておそらく知名度もそれほど高くないでしょう。
けれど毎月読むことで心がさっぱりとしてしかも笑えて、本当に、物語が終わりに向かっていくにつれてどんどんと好きになってしまった作品でした。

もちろんストーリーの盛り上がりも素晴らしかった。
終盤ラブがコメりだした頃からの主人公と咲野のやりとりは一層可愛らしく、両思いだとお互いにわかっていてもそれを避けながら、探り合いながらふざけ合いながら、いつものトーンでおしゃべりを続けてくれた。
最終話付近では、静かに盛り上がったテンションがいっきに弾ける、最高の青春劇を見せてくれる。叫び出したいくらいに興奮してしまって自分でも「あれ、こんな作品だったか???」と混乱したりもしたw
明らかに途中からムードも変わってきたのにそれに違和感がなかったのも見事。徐々に徐々に、クライマックスへの流れが計算され組み込まれていった。いや偶然かな・・・

いや、本当に自分でも訳わからんくらい今年いきなり好きになったからビビる。
青春4コマの傑作だと思います。いろんな人に読まれて愛されて欲しい。



ハイスコアガール(6) (ビッグガンガンコミックススーパー)ハイスコアガール(6) (ビッグガンガンコミックススーパー)
押切 蓮介

スクウェア・エニックス 2016-07-25
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24.ハイスコアガール/押切 蓮介

復活を遂げたハイスコアガール2年ぶりの新刊!!
シンプルに「久しぶり!」という気持ちと、大人な事情はさておきともかく内容がクッソ面白かったわけで、とにかく夢中にさせられた一冊だ。
なんせ5巻のヒキが卑怯すぎた。最高潮の盛り上がりの中で、まさかの悲劇が巻き起こり連載中断、完全に絶望させられたものである。ホント、復活してくれてよかった・・・アニメ化の企画はまだ動いているのかな・・・。
自分は正直この作品で描かれている時代をリアルタイムでは生きていないし
出てくるゲームもちゃんと触ったことのないものばっかりだ。
それでも彼らの姿になんとなく心強さや親しみを感じてしまうのは、自分自身、どうしようもなく夢中になってしまうときがあったり、ゲームやアニメといった二次元の住民たちに、自己暗示のようなものだが、自分の背中を押してもらえていると思う瞬間があったりするからだ。

ハイスコアガールではときおり風景に、キャラクターたちが思い描いたキャラクターがまるでそこに実在するかのように描かれたり、重要なシーンでは彼らに声援やアドバイスを送っている。もちろん妄想にすぎないのだけれど、
ただの娯楽じゃない。楽しい瞬間をくれた作品というのは、いつしか自分の一部になってしまうんだ。
その作品のキャラクターが自分の中で生命をもってひとりでに動き出し、激しく自分を奮い立たせてくれたりする。今巻収録の第35話のクライマックスでは、日高が自分の操作キャラを空に浮かべて微笑む。名シーンだ・・・。
没頭する趣味への愛。この描き方が素晴らしくて、羨ましくなるほどなんだよな。

そういう熱を持った作品であるとともに、まさに今、ラブコメ的にも大盛り上がりだった。
まあまず日高さんとの一騎打ち。これが読みたくて読みたくて仕方がなかった。
さらには大野といっしょにAOUに出かけるデートイベントも発生。甘酸っペエ!!!そして濃厚に時代背景を反映する懐かしゲームの数々に酔いしれる!!
じれったくて仕方がないけれど、確実な関係も進歩・・・ニヤニヤしすぎて頬がとけそうだぞ。
幽閉状態の大野さんにむけてイタズラ心満点の自作データ入り「RPGツクール」を渡すハルオ。女性陣にイチャモンつけられながらときメモをプレイするハルオ。
ほどほどにクソガキできちんとラブコメ主人公をやってくれるハルオは、本当にいい主人公だな。
ともかく、ようやく連載も再開されたハイスコアガール。これからも楽しみにしていきたいです。



hなhとA子の呪い 1 (リュウコミックス)hなhとA子の呪い 1 (リュウコミックス)
中野でいち

徳間書店 2016-04-13
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23.hなhとA子の呪い/中野でいち

濃密だなー!とてもリュウらしいひねくれたテーマとエネルギッシュな勢いを併せ持つ期待の新作。
前作「十月桜」はキャッチーな設定がありましたが、今回はかなりぶっ飛んだ内容となっています。
人間と性欲とそれにともなう罪悪感、それをどう折り合いつければいいのか。
中野でいち作品と、コミュニケーションの中で不全する事故、そして己の中の葛藤、自意識への苦しみ・・・といったテーマで作品とおおく発表している、ぶっちゃけめちゃくちゃ捻くれてて大好きなんですが
今作は毒々しいほどのカラフルな極彩色の世界。そして己と戦う青年が描かれていく。

若くして社長となり地位を手に入れた主人公は、「性欲は真実の愛にとって障害となる」という持論を持ち、自分には性欲は一滴も存在しない、そうあることが正しく祝福されるべきとしてこれまで生きてきた。
しかし彼の視界に現れた妖精のような少女が突如すべてを変えてしまう。
いや、押し隠していたものすべてを暴いてしまう。
彼が奥底に秘めてきた、きたないドロドロとした欲望を。
そして誰よりもそのことに本人が傷ついて、読者にまで突き刺さってくる迫真さがある。

愛する人が処女でなければ赦せないような、いわゆる「童貞臭い」という男性性について
鋭く切り込んできている。主人公が描く理想は、実際、共感できてしまう。
100%の純度で人は人を愛せはしないのだろうか。
誰かを愛することはセックスがしたいだけなのではないだろうか。
ただただ穏やかに清らかに誰かを愛せるような人間に、自分はなれないのだろうか―――

かなりデフォルメを効かせたかわいらしいキャラクターたちですが、展開されていく内容は文学的。テーマがエロスについてですが性的になりすぎず、しかしエンタメらしく疾走感に満ちた破天荒さにあふれていて、とにかくアツい。
ただ、なんとなくだけれど本作を真正面から楽しめるのは、きっと男の特権なのかな、という雑な優越感もある。女性しか/男性しか読めないという断言はナンセンスなのは百も承知なんだけれど。
いつの頃かこれを思い、いつの頃か忘れてしまう”拘り”を思い出せる気がする。

彼の新年は間違っているのかもしれない。
子供じみたくだらない理想かもしれない。
真実の愛なんてどこにも、無いかもしれない。
けれど彼が彼なりに、正しくあろうと足掻くことに、少しでも、少しでも価値があってほしい。
自分なりの正義を貫こうとすることを誇らしく思えるようなそういう物語が読みたい。
そう願ってしまう作品。ネックはちょっとタイトルがタイピングしづらいことぐらいだな。



春の呪い 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)春の呪い 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
小西明日翔

一迅社 2016-12-24
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22.春の呪い/小西明日翔

最愛の妹が死んだ。
それから私はその妹の婚約者だった男の、恋人になった。

導入のこれだけで読みたくなる。これがキャッチーってヤツなんだよな・・・(キャッチーとは
ゼロサム連載作。全2巻。
今年のいろんな漫画賞でも上位にノミネートされており、漫画好きからの評価も高い作品です。それも頷ける出来栄え。こんなに心に迫ってくる、死者との対峙の物語を初連載作しょっぱなから放ってくる新人作家さん、恐ろしい・・・。

基本的に死者と生者の関係をクローズアップする作品は大好物で
しかも本作なりに「死をひきずる」の先を描いてみせてくれる。
もう性癖にド直球投げ込まれすぎて精神的にしんどい。超興奮。

自分のすべてとも言える存在だった妹が亡くなり、
なのに今、その妹を心底裏切る、道徳的に許されない感情に踊らされる。
妹への執着から大切な男性にも優しくできず、家族からも厳しい言葉を投げかけられ、自分でも幸せになるならもっと別の未知があるだろうとわかっている、わかりきっているのに、
それはもう呪いのように、離れがたい。
誰も彼も、誰かに許されたいのに。いや本質的には自分に許されたいのに。

個人的にはハルのHNが「アキ」だったのがグッときました。
たまたまこの名前にしたと彼女は言っていたけれど、多分そうではなくて春⇔秋という対比から「まったく別の自分になりたい」という気持ちが透けてみえるよう。
実際に冬吾が自分とはタイプのちがう姉を見る時の視線に、敏感に反応していた春。
愛しい姉でもありながら憧れでもあり、しかし嫉妬の対象でもあったのだろう。
そして春は、自分が死んだあとにもし姉と冬吾が恋人になったら・・・という想定で、悩み抜いた末の強烈なひと文を遺してる。
ただ儚いだけの存在ではなかった。女性ならではの感覚にゾクゾクする。

そしてこれだけ難しく入り組んだ物語が、しっかりと全2巻で決着する。
最初から決めていた着地ができたと作者も言っていたし、この構成力の高さにもグッと掴まれました。個人的に長編よりも単巻とか全5巻とか、やや短めのお話の方が好きなので。
絵のタッチは荒々しいのですが、それも物語に合っていました。思いっきり心労で目んたまグチャグチャになってるやつらの顔、みんな苦しそうでとてもとても可愛いです。
終盤なんか言葉のひとつひとつが重すぎて、悩み抜いて絞りきって出した覚悟がドロドロ沸騰しているようなラストシーンにんってます。

とけない呪いに一生苦しめられていく。
苦しまなければ生きていけないふたりだから。




あの日、世界の真ん中で (ウィングス・コミックス)あの日、世界の真ん中で (ウィングス・コミックス)
小鬼36℃

新書館 2016-11-25
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21.あの日、世界の真ん中で/小鬼36℃

鮮烈。
それは目に突き刺さるような色彩のカバーイラストでもあるし、
あまりにも剥き出しにリビドーが叩きつけられたストーリーにも感じる。
子鬼36℃先生の商業デビューコミックスは、悶々とした10代のネガティブな迷いを歌にしてぶっ飛ばす、超かっこいいクソエモ青春漫画です。
というかもう「好きな歌を自分の作品内で歌わせたい!!」という熱がガンガン伝わってくる。
きっと作者さんも大好きなんであろう、実在するとある曲が大々的に登場しますので
俺含めそういう「実在する曲と漫画のストーリーがシンクロしてすげぇいい感じになる(語彙」のが大好きなひとは、ちょっとコイツは素通りできませんぜ。要注目。

主人公の茎太はギター少年だがそれには打ち込めず、腐って過ごす田舎の少年。
しかし幼馴染の少女が陸上でスカウトされ、いずれはこの町を出るという話が出て来る。
やる気がでない、なにも出来ない、下らない自分のどうしようもなく停滞した日常。そんな中で自分の半身とも呼べる少女が、自分から離れていく不安に襲われる。
片や部活で評価され町を出る。片や自分は無気力、非生産の穀潰し―――
劣等感と無力感のあまり暴走してしまう。暴走して気づく、脈打つ心臓の音、その熱さ。
ふたたびギターを手に取る主人公。そしてそれを優しく支える幼馴染の少女・・・
もう、めちゃくちゃ青春してんなお前ら!!!って感じで大好きです。

途中からわりとサクッと主人公とヒロインが結ばれるんですが、
もうふたりとも可愛くて可愛くて、モダモダしちゃうんですよ・・・!
関西の男女はケンカのながれでセックスするという艦これの龍驤本で学んだ事象が俺の中でさらに補強されましたね。
あと日本人はDNAに刻まれてるレベルで幼馴染属性持ちだと思う。大好き。
幼馴染から恋人へのステップアップで、本人たちもギクシャクしてるし周囲もワクワクしちゃう。ぎこちないけれど確かに両思いで、きちんと幼馴染が幸せになれる。俺はいつまでもこういう漫画を好きでいたい。

しかし幸せな中でも主人公の心の不安は晴れない。むしろ幸福を手にすればそれだけ闇は彼に降り注ぐ。拭いきれない思春期の苛立ちを、少年はもういちどギターと歌にたたきつけていく。
ギターなんかで世界は変わらないと、達観したようなことを彼は言う。
この世界を呪って、つまらない日々を腐して、非力な自分を憎んで。
けれど、物語はとてもすがすがしく幕を閉じる。
この物語は少年が人生に灯る光を見つけるための、世界への必死の抗戦だ。




あにいもうとあにいもうと
ハルミチヒロ

白泉社 2016-12-22
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20.あにいもうと/ハルミチヒロ

あーーーーー染みる、染みますなぁハルミチヒロ先生の漫画は・・・!!!
楽園に掲載された短編をおさめた短編集。過去作よりグッと「少女漫画」に接近しているような感じ。タイトルに「いもうと」とあるようにティーンの少女たちが多いです。もちろん、それだけじゃないので一筋縄でも行かないのですが・・・
恋愛という一言で括りきれない、括りたくない、繊細かつ複雑なそれぞれの感情。
近親へ、同性へ、異性へ、そして自分へ。
成熟していない10代だからこその不透明さとか、機嫌の悪さとか、もうホンットかわいいなぁ。

お気に入りなのを個別に感想。
「間違っている恋」付き合っているけど経験はまだな高校生カップル。その彼女さんはどこか冷めているようで、彼氏へのこじれた想いを抱いている。「かわいそうなあなたの顔が好き」という。そしてまだ知らない世界への不安のような、ざわめきのような感覚。キラキラしているだなんて思わない、けれどひたすらに胸を焦がす甘くじれったい憂鬱。
ストーリー色は薄いんだけど、少女ならではのもの寂しい感覚がすみまで行き渡っていて、最後のモノローグへの流れも非常に美しい。何度も読んでしまう、澄み切った冬のような空気です。

「あにいもうと」お兄ちゃん離れができていない妹さんのお話。ギャンギャン喚くしワガママだし、非常に幼い印象のヒロインです。しかし彼女のセリフはいっこいっこがリアルで剥き身の感情がほとばしっていて、身動きが取れない。本人にすら持て余す感情を読者だって受け止めきれるわけがないんだな。
お兄ちゃんにかわいがってもらえる幼い女の子のままでいたい。まだ、あと、もう少し・・・
彼女なりの決別(というか納得かな)が、なんとも彼女らしいふんわりさでニッコリ。

「魔法使いの娘」ちょっとファンタジックな設定で送られる、思春期女子全開のお話。これはラブコメでもあるけれど、母娘の物語だなぁ実質。娘のためを思って貞操をまもる魔法をかけた母親に、娘は立ち向かう。「ママと私は違う人間なんだから!」のセリフで泣きそうなお母さんにじんわり切なくなってしまう。。。
母親とぶつかるのも思春期らしくて、オトナの2,3歩手前でもじもじしている10代の時間をやさしく見つめていられる作品です。子供っていうのはオトナの幼虫なのではなく、別の生き物に近い。

全体的に思春期力が高くて、短編集としてテンションも統一されてて読みやすいですね。ハルミチヒロ先生はオトナな女性を描くのがうまいと思っていたけれど、そうじゃなかったんだな、女という性を描くのが本当に素晴らしい。
とっても甘酸っぱい一冊。幅広くオススメしたい。




初恋ゾンビ 5 (少年サンデーコミックス)初恋ゾンビ 5 (少年サンデーコミックス)
峰浪 りょう

小学館 2016-12-16
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19.初恋ゾンビ/峰浪りょう

超傑作「ヒメゴト~十九歳の制服~」完結後、週刊少年サンデーに舞台を移した峰浪りょう先生の新作。
ヒメゴトのことを語りだすと面倒くさくなるおじさんなので程々に留めておきますが。主要キャラクターたちが生み出す深みのある”コンプレックス”の物語と加速しまくる急転直下のストーリーが最高の青春漫画です。
セクシーな漫画でもあった前作から様変わりし、「初恋ゾンビ」は少年誌的なラブコメにほどよく作者の持ち味がブレンドされています。

男の初恋
それは恋の目覚めと、性的趣向と、たっぷりと妄想に押し固められた産物。
しかもそれは悲しいことに男の人生の奥底に眠り、一生つきまとう。
嘘と願望の防腐剤でコーティングされた、美しいままの偶像―――
『初恋ゾンビ』と呼ばれるそんな男の妄想上の女の子たち。
主人公はとあることをきっかけに「初恋ゾンビ」が見えるようになってしまう。省エネ主義、恋愛嫌いのタロウは、恋愛ゾンビを付き合っていくうちに学校内の人間たちの恋愛ごとに関わっていかざるをなっていくのです。

前作もそうでしたがキャラクターが非常に魅力的ですね!
キャラの魅力こそラブコメでは最重要項目といえますが、主人公の初恋ゾンビのイヴちゃんの圧倒的キラキラ感、幼馴染の高身長おっぱいスポーツ女子江火野さん、主人公の初恋の張本人にしてカギを握る男装少女・指宿さん・・・
ほか、各エピソードでゲスト的に出演する男女も、みんなクセがありつつも人間臭さがあります。そこに峰浪先生の鮮やかな感情描写が重なり・・・
人間模様の変化がめちゃくちゃおもしろいんですよね。
個人的に江火野さんを応援してるんですけど、指宿くんの赤面顔ももっと見たいんだ・・・
ラブコメとしての高揚感もピカ一。今年1番夢中になったラブコメだったかも。

すっきりとした雰囲気のなかに、粘りつくような人間の残念さが、あくまでもかわいらしい範囲で注ぎ込まれている。
そもそも初恋ゾンビの根本が「いつまでも初恋を大事にしちゃって、男ってバカだよね、しかも現実と全然ちがうじゃん」みたいな少々覚めた感覚を最初から備えているので、ところどころで読者をチクチク刺してくる。
そういうある種の愚かしさや恥ずかしさを抱えたまま、いかにして感情と現実に向き合っていくか。目を背けたくなる自分の醜い部分を、誰かに手向けることができるのか、その勇気は。
結局この作家さんは人間の弱い部分を肯定する漫画をかいてくれる。ずっとついていきたいです。

小難しいことは置いといて、初恋ゾンビちゃんがみんなムッチムチでエロくて絵面も最高です。




AV女優とAV男優が同居する話。 (アイプロセレクション)AV女優とAV男優が同居する話。 (アイプロセレクション)
時計

小学館クリエイティブ 2016-10-11
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18.AV女優とAV男優が同居する話。/時計

コミティアファン(というか俺)の心をアツくした待望のコミックス化。
というのも、本作はすべてコミティアで頒布された同人誌を商業単行本にした、いわば総集編なのだ。まぁ全部同人版持ってるけど買っちゃうよね・・・!!
しかもこれまた濃密。男女のすれ違いを甘酸っぱく、ときに鋭い痛みを伴いつつ描いていく短編集。
激情ほとばしる圧倒的にエモーショナルな一冊だ。つまりエモいってやつだよ!
ただ甘いだけの物語を読みたい人には毒でしかないけれど、こじれためんどくさい恋模様が大好きマンたちには大好評(俺の知り合い調べ
大きくは3つの短編から構成されており、どれもそれぞれ違った方にトガっており読み応えばっちり。

表題作「AV女優と~」は流石タイトルトラックだけあり、殺傷能力もピカイチだ。セックスを生業とする男女。他者には理解されがたいがゆえに理解者として、そして異性として惹かれ合っていくが―――
仕事としての性行為。商品としてのセックス。すれ違う肉体と心模様・・・ああ、これぞ。これぞ「妄想をトランクに詰めて。」なんだよなぁ・・・!

「兄が好きな妹と 妹が怖い兄の話」。こちらは兄妹モノ。タイトルがそのものズバリを示しているんですが、こちらはよりソリッドに「傷つける瞬間」を切り取っている。
結ばれない、報われない、幸福になれない。そんな恋としりながら、救われないと願う。それこそが救われ難い。いい表情をする思春期女子にグッときちゃうよな・・・。
個人的には最後のヒロインの仕返しが、レシートをみせるだけではなんか物足りなかった。しかしそれくらいの生活感こそが、この作品ならではの距離の完結なのかもとも思う。

「自意識過剰なあたしの話」。こちらはより自分のナカミに目を向けた、これまでよりかは明るい作品。なんだけどなんか描かれている感情が前2作とくらべても格段に生々しく、ラストシーンで笑いとともに堪えがたい程の羞恥に襲われる。あ~~~~~悲恋というほど美しいものではないけれどお前絶対に幸せになってくれよな~~~~~ってなる。
セリフにぶん殴られるような、Sッケのあるストーリー展開も見どころ。

「一日一回、~」はオムニバス形式で綴られていく様々な男女の恋愛劇。
こういった、エッセンスを抽出したのみの短編でも十分に甘酸っぱくさせられる、雰囲気作りが素晴らしいのだ。
トータルとして「めんどくせぇ」連中のモヤモヤとしたラブストーリーが目白押しの、強烈なコミックスになっていると思います。ロマンチックで残酷なリリカルポエトリー。



こいいじ(5) (KC KISS)こいいじ(5) (KC KISS)
志村 貴子

講談社 2016-12-13
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17.こいいじ/志村貴子

どこからっていうのを表現しづらいけれど、ジワジワと確実に面白くなっている「こいいじ」。
まあまずタイトルがかわいくてシンプルで深みがある・・・恋の意地。維持。
少女漫画レーベルで発売される志村貴子先生の作品ですが、非常に間口のひろい読み心地。
これまでの先生のファンにも、はじめて読むぞって人にもススメやすくて、ストレートに人間模様が面白い。

主人公は31歳の女性。子供のころからの恋を諦めずにジタバタしていくラブコメ作品。
乙女でありながらも童貞臭もすごい主人公がかわいくてかわいくて仕方ないんだけれど、しかし彼女自身も31、恋する相手は子持ちで奥さんはすでに亡くなっていて。
ほかにも面倒くさい複雑な人間関係。
初々しい想いをずりずり引きずって、気づけばもう、周囲の環境はすっかり「大人の社会」になっていた。

一度諦めた恋だとか、亡くなった奥さんへの消えない想いだとか、死者を通じて様々な感情でつながっていく人々の描き方もいい。というか、ここが大好きなのです。
もや~っとした行き場のない不安が、少女漫画というにはやや成熟した、アダルトな口当たりを生んでいる。
年相応に重ねた傷跡がスパイスとなって、この作品をなんともほろにがい空気で包んでくれる。

4巻はとくに、聡ちゃんの辛いシーンの回想が多くてちょっと、しんどかった。
ふ、と。まるでフラッシュバックのように断片的な回想やモノローグが差し込まれて
その切れ味の鋭さを味わいたくて何度も読み返してしまう。

グダグダやってたまめちゃんも、4巻で最大のチャンス・・・というか転機を迎える。
急激に加速する人間模様と、それでもどこか冷え切った、”そもそも恋愛をする体力がやや衰えてきた大人たち”、ゆっくり沈みゆく陽の光のような感傷深い言葉たち・・・うむ、染みる・・・。
と、ややアンニュイに紹介はしましたが、主人公のまめちゃんのポジティブさにずいぶんと救われる。基本的にくらい顔の似合わない女。片想いのプロは、かんたんには負けてやらないのだ。
今年は4巻、5巻とストーリー的にもおおきな盛り上がりを迎えており、特に楽しかった!
少年少女より長くを生き、積み重ねたものがあるこそ、今、今なんだよと語りかける、
志村先生の新境地とも感じるオトナなラブコメシリーズです。




夜にとろける 1夜にとろける 1
志摩時緒

白泉社 2016-08-31
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16.夜にとろける/志摩時緒

しっとりポエミーな恋愛漫画の旗手、志摩時緒先生の新コミックスは楽園掲載作と同人シリーズがひとつにパッケージされた瑞々しい一冊となっております。
っていうか同人シリーズ、同人誌で読んでたときは「同人誌」感覚だったのでそう思わなかったけど、こうして商業単行本として改めて読んでみたらかなり過激でしたね・・・うむ・・・よい・・・・・・

まぁ。毎度の如く。本当に悶死するくらいのすンごいラブラブっぷりである。
いちいち書き挙げたらキリがないけれど、志摩時緒作品のヒロインたちの「恋人にだけみせる表情」の破壊力ったらない。恋によって自分も世界も変わるようなキラキラ感。好きな人に好きといってもらえる幸福は人をここまで魅力的にするんだな。
少女としての自覚――それは恋人としての、あれやこれやを、なんか早いかなーでもしたいなーしてあげたいなーでもこわいなーっていうああメンドクセーなかわいーな畜生、ともかくそんな思春期女子の臆病さと蛮勇さととびきりの愛くるしさを味わいたかったら読んでくれ。

けれど本作は甘いだけではなくて、同時にその裏側に潜む闇も描く。
「第三者の片想い視線」。
こんなのを入れてくるあたりが志摩先生いじわるだなーと思いますね。第三者なんて冷たいこと言いますけどそれなりに仲がいいクラスメイトなんですよ。けれど彼女のことはクラスメイトとして以上には何も知らなくて。ああ、何がだめだったんだろうなぁ。どうすればよかったんだろうなぁ。おそすぎたよな。いや、仮に早く行動したとして。どんな結果になってたかなんて、下らない希望を抱く方が虚しいだけなんだけど。はーあ「なんなんだよそれ」。俺か!!!中学の時の俺か!!!!!高校の時もだ!!!!殺せ!!!!!!!!
でも気付かないうちに誰かを傷つけているなんて、よくあることなんだ。誰もが傷つけられて、そして誰かを傷つける。無邪気に無自覚に血は流れる。
部外者の「そんな事情」は恋に夢中は当人らは知らなくて良いことだし、知らないでほしい。
甘い甘い恋そのものが「誰か」を苦しめていく、楽しいラブコメの裏側を描くのが素敵。

その点でいえば「こいはやみ」も後半から仲良し6人組の秘密が明かされてからそういう意地の悪い構造が見えてきてヨダレが分泌されまくりだった。
序盤でダダ甘カップルの、付き合う前と後の世界の感じ方が違うっていう初々しさ超炸裂のエピソードをやったあと、じゃあそれを聞いてグループ内の男女はどう思うかという、ニヤニヤがとまらないやつです。
後半はガラッと視点がかわって、なんとも後ろ暗い、切ないモノローグで幕を閉じる。
こういうある種の”犠牲者”側の感情もしっかり描くことで、夜にいろんな色が混じり合っていく。むしろたくさんの気持ちを吸い取って分解してそして抱きしめて、夜は今日もぼくらに訪れるのだ。
夜にとろけるのは、なにも恋にはやる10代の心だけではない。美しい夜景を作っているのは飾りじゃない、だれかの仕事の灯ってことだよ。俺は仕事で脳みそとろけそうだよ(脱線)

あーーーー初体験に失敗して「次もよろしくおねがいします」ってお願いするヒロインまじで可愛すぎてちょっとつらい、小岩井ちゃんん・・・
語彙力をなくしました。もうやめます。





以上、30位から16位でした。
のこりの作品自体は決めてるんですけどコメントがまだ手付かずなので1月に入っちゃうと思います。
ではコミケ行ってきます。皆様よいお年を。

クリスマスはエロ漫画だよ2016!

仕事で瀕死なままクリスマスが近づいてきました、なんとか今年もやれました
クリスマスはエロ漫画だよ2016
うちでこういうイベント合わせの更新するのはこれしかないのでなんとか間に合わせた。
でもなんか今年ってクリスマス自体そんなに盛り上がってる感じがしない気がする・・・

毎年やってるんですけど去年のクリスマスから今年のクリスマスの間に出た
成年向け単行本から俺的TOP10を発表するやつです。
基準は適当ですが、基本的にちんこに従ってるので抜き重視です。

↓過去のエロ漫画総括記事
クリスマスだからエロ漫画2010!
クリスマスこそエロ漫画だよ2011!
クリスマスだしエロ漫画2012!
クリスマスなんだしエロ漫画2013!
クリスマスなのでエロ漫画2014!
クリスマスだよエロ漫画2015!

ってことで今年で7回目。
相変わらずだらだら書いていきますので、よろしければお付き合いよろしくお願いします。


以下、もちろんですが18歳未満閲覧禁止です。

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一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

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米代 恭

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   私の『希望』は、先輩の苦しみや、彼の妻を、踏み台にして、やっと『恋』になる。
 
「あげくの果てのカノン」2巻が出ています、結構前に。遅くてすんません。
今年1巻がリリースされた作品の中でもかなりお気に入りな一作。
不倫恋愛×SFという悪魔的合体、そして主人公の暴走とともにストーリーもカオス。
崩壊した世界でたっひとつの想いに振り回される、かわいらしい、悪党の物語だ。どうしようもない片思いの顛末の物語だ。誰かを不幸にすることでしか完結しない恋だ。誰かを。己を。

前回→炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻




1巻がとんでもない所で終わったのですが、しすかに幕を開ける第2巻。
呆然としたまま、変わりない日常にもどるかのん。
あの一件の後になるとその日常が守られてることの価値を、痛いほど感じる。
変わらない世界の代償に、変わって変わって変わり果てていく先輩に、胸が締め付けられる。
そんな所にやってくるのだ。超、重要人物!

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奥様襲来!

「今度はあなたなのね」という、ああもう、こんなヒドイ言葉ってあるのかと。
明らかな敵意をもって目の前にたつ彼女に、かのんは立ち向かえるわけもなく。
大好きな男性に世界でたったひとり選ばれた女性に、凍てついた視線を浴びるのみ。

きましたねー、非道徳的な恋愛をしているシチュエーションにおいてこれは重大イベント。
個人的にはまだまだ先の話かと思ったら、2巻からガッツリと奥様・初穂さんが絡んでくる展開。
かのんがしていることは。かのんが抱く想いは。初穂さんを傷つける。
それと知っても恋をやめられない以上、かのんと初穂さんは火花散らせるしかない。
だめなことだとしても、好きな人のあたたかさに触れてしまったとき、世間体なんて単なる「つまらない話」に成り下がってしまう。

不倫と覚悟して踏み込んだ部分は間違いなくあって、そもそも報われると思っていたわけでも無い。
けれど目の前に、自分の恋が万が一成就したときに転落させてしまう人物が現れたとき
どこまで想い貫くことができるかは、ひとつの分岐路だと思う。
「恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム」って、不倫したミュージシャンも歌ってた。
そしてかのんは今回、ひとつの決心を持って、いや決心もできぬまま、周囲を巻き込んでいく。



この作品は適度のアニメチックで、そして純文学的でもあって
読んでるとき、セリフのひとつひとつに、かのんの淋しげなモノローグに、まるで耳をそばだてるかのように慎重に文字をメでゆっくりと追いながら読んでしまう。

2巻はスタンダールの恋愛論から引用がされていて
「恋が生まれるには、ほんの少しの希望があれば十分だ。」のフレーズが登場する。
まさにこの作品にぴったりだし、ひねくれた脳みそしているので一瞬立ち止まってしまえば「しゃらくせぇ!」と思ってしまうようなポエミーな演出にも感じる。でもやはり、そんな小さな恥ずかしさは吹き飛んでいく。いやむしろもっとしゃらくささと出していってほしい。こういうの大好きだから。
この作品は神秘的に聴かせてくれる。言葉が持つ小さな棘までも、ありのままに操っている。
湧き上がる切なさ、行く当てない絶望、血管を駆け巡る興奮、狂信的な恋のありさまを。
余すこと無く。
作者が慎重に、絵と言葉を紡いで漫画にしていることが感じられるんですよね。

かのんが先輩の顔に触れたときの「私は今、神さまに触れている。」ははっとさせられるような、グロテスクさと祝福を感じました。
グロいって先輩がじゃない。あの場面そのものが。

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「正しい」という言葉の意味を、もう一度見つめ直したくなる。
8年間思い続け、叶わなかったはずの恋。それが果実のようにいま目の前に実るとき、
『どんな控えめな女でも、希望を見た瞬間 目が血走る』。




変わり続ける先輩。かのんにキスをしたあと「ごめんね」と言った先輩。
先輩に愛されることの幸福と、「不倫する先輩」を信じられない、アンビバレンスな混乱が彼女の脳内をぐるぐる巡る。
問い詰めるかのんにたいして、先輩があきらめたような表情とともに言ったセリフが
どこか作り物めいた印象の先輩らしからぬ、人間くさすぎるセリフでたまらないのです。
「人はそう単純いられないから」と。
ドキッとしますよね。どんなに体がおかしくなっても先輩は人だし、生きているし、ときに間違えを犯す。
そして浮き彫りになる、かのんの強烈な信仰心と盲目。
かのんは、先輩を人として、自分と同じ生物として、捉えられているだろうか。
そこに強烈な距離がないだろうか。

不倫をする。自分にたいして冷たい声をかける。
そんな新しい先輩のいち面すら、かのんにとってはある種ファンタジーのようなものなんだろうなとも思う。
究極的には自分が満たされたいだけのエゴをいつしか見出されてしまう。
自分の恋に「発狂」する彼女の姿は、人間として根っこにある汚い部分、幼い部分、そしてとてもかわいらしい部分のように感じますね。見ていて危なっかしくて仕方がないけれど。

先輩にまつわる思い出のエピソードに、パッヘルベルのカノンがありました。
内省的な少女だった幼いかのんは、自分の名前がコンプレックスだった。
自分には到底似合わない、美しい名前だと言って。
しかしそこに境先輩がパッヘルベルのカノンをピアノ演奏したことを知り、
かのんにとって自分の名前が、価値あるものに変貌する。
先輩はある彼女からコンプレックスを拭い去り、本当に救済となり得ていたと分かる。
「生きる希望」とまで呼べてしまうほど、強大すぎる存在感。
そう考えると今の2人の距離感ってすごいことなってるよな。キスまでしたぞ。




さてさて、2巻ではさらにサブキャラクターたちの心情も描かれだして
これまた一層ストーリーが面白くなってきています。
かのんの弟と先輩の奥さん。当事者と家族として接してきた人物のうちに秘めた感情とは。
悲恋萌えをこじらせるとかのんの弟くんとか可愛すぎて仕方がないし、
初穂さんも、いまの彼女を形成した歴史が紐解かれたことで、魅力がうなぎのぼりってもんです。
第10話とか幸せすぎて何も言えなかったですからね。
境さんの恋人として、また妻として、研究者としてどんどん新しい一面が見えてくる至福。

戦闘による欠損修復によって書き換えられていく個人の人間、「心変わり」。
初穂さんは研究者の立場からその現象について理解をしてたし、それをさせないための研究に熱意も燃やしていた。・・・現状、自分の旦那の心変わりを止める手立てはないが。
旦那が浮気をしていることを知っているし、むしろなんかめっちゃ隠しカメラで観察している。
その上で旦那を牽制する。
いっときの浮ついた感情より「結婚」という契約の重大さを、その価値を。
まるで隠しナイフをつきつけるかのように、彼女は彼に問うのだ。
初穂さんの側からこの物語を観たとき、あまりにも残酷で、ゾクゾクする。

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そして印象的だったのが、かのんが友人と不倫の恋について話していたときに出た
「結婚って、なんなのだろうか」という問い。
ここでは、いろいろ変化があるのが当たり前だから互いの変化を許し合えるようになっていく「結婚」なのかな、という表現がされている。
この作品がもっと未来へと進んだとき、登場人物たちはそれぞれどんな答えを持っているのだろうか。一度ここに立ち返って比較してみるのもきっと面白いはずだ。



そんなこんなの第2巻。
1巻も面白かったが、正直2巻から一気に加速してきたように感じます。
ここまで来て、恋愛漫画に抵抗がない人にはひろくおすすめできる領域に来たような。
織り込まれてた様々な立場のキャラクターの感情と、理屈をときに凌駕する暴力的な恋心。
甘酸っぱくて、ほんのすこし血の味の混じった、ダークでポエミーな作品です。

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ああ、かのんのこの眼が、夢を見るばかりの人間ではなくなっていて
寂しいやら嬉しいやら、きっと不幸が待ち受けると知る、悲痛な覚悟だ。

改めて2巻の表紙を見てみる。
崩壊した都市、
夕焼けの世界、
着たままのレインコートと風に流される雨傘、
かのんのむかう先には先輩が待つ。けれど地続きではない。彼女はそこにたどり着けるのだろうか。
かのんは先輩に「やさしくしたい」と言う。先輩を苦しめているのは自分なのに。そして先輩を苦しめられるほどに彼の人生に食い込めたことの幸福と残虐な信仰が並び立つ。
先輩を思って無邪気にストーキングしてたときの方が、よほどいい顔していたのに。

『あげくの果てのカノン』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
めちゃくちゃ面白い、おい・・・感情揺さぶられまくる。じっくりと世界に浸りたい。

完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻

過去記事 1巻→[漫画]小学校から大学へ、10年かけて挑む恋のバトル 『ラストゲーム』1巻

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   泣いても傷ついてもそれでも好きっていいたいの

「ラストゲーム」完結記念!!!!
この柳の浮かれっぷりがヒドい!!!!!
2016を開催いたします!!!!!!

勝手に選びました。さっそくネタバレ全開だ、振り落とされんなよ!

第5位!!!!!

ラスゲ112

付き合うことになりました

わ、わ~~!あるある!こういうやつ!浮かれちゃって改まって報告しちゃうやつ!!
浮かれきった柳の顔に一瞬「かわいそうなことにならないかな」という念も浮かぶが
これまでのことを思えばもうちょっと過剰なくらい幸せになってくれてもいいよ、柳は。
しかし「いえ~い」の軽いノリ、ここだけ大学生テンション強くて笑う

真面目に感想を挟んでいくと、ようやく念願かなってついにいよいよ、
焦れったくて勿体ぶられて仕方がなかった柳と九条もお付き合いスタート。
ラストゲーム最終巻となる11巻は切なさ20%、幸福度3億%ぐらいの比率。
言葉にならないくらいのハッピーエンドが全力全開でめくるめく。
これは戦争だ。天乃忍先生は、こちらを殺すつもりでかかってきているんだぞ。

第4位!!!!!

ラスゲ114

取り残されてキレる柳

めんっどくせーな!!!そういう所がかわいいんだよ!!!!!
付き合ったとたんにもう「仕事と私どっちが大事なのよ!?」のテンションである。
しかもこいつ少女漫画のヒーロー役なんだけどな。

第3位!!!!!

ラスゲ113

あまりに恋人が可愛すぎたため崩れ落ちる柳

これまで不憫な出来事が続きすぎたため、九条が本当に彼女になってくれたことに
脳の処理能力が追いつかずたまにこうなる。かわいいしか言えなくなるとき、あるある。

第2位!!!!!

ラスゲ111

にじみでる気持ちわるさ

俺の大好きな柳がそのまま全面に出ている柳。彼がもっとも輝いている瞬間である。
嬉しいあまりいちいち「はあ・・・九条が俺の彼女かぁ~~~~」とか再確認ばかりしてしまう。
しかもそれが口に出てしまうから最高!柳!やったな!ドン引き!

第1位!!!!!!

ラスゲ115

俺のこと好き?

言わせたいだけじゃねーか牢にブチこむぞ!!!!九条と二人きりにしてやる!!!!
直前にでこちゅーを挟んでくるのもポイント高いですね、とびきりのイタズラ顔も眩しい。
相手の反応見て楽しむような余裕を持ってしまうほど調子に乗ってる柳もムカつきますが最終巻だしまぁね。いやそれにしてもひどいよ、愛されキャラすぎるぜ柳。



以上、散々たる浮かれっぷりをご覧いただきました。なんだよいやヒドイものだよ・・・
女漫画のヒーロー役として、こんなに情けない姿を見せてもいいんですか?
なんとか言ってやってくださいよ九条さん!!

ラスゲ116

かわいすぎ😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇
だめだ~~~鉄壁の九条さんですら陥落してしまった~~~~~幸せな家庭を築いてくれ🏠

思う存分にイチャついてもらったところで、まだ本番は残っているのです。
迎えるは結婚式、その当日、そしてその未来。
余すとこなく彼らの満開の笑顔を噛みしめて、俺の頬はゆるゆるさ。



恐るべきは上にあげたシーンはすべて第54話に収められているという所。
なんと付き合いたてのエピソードは54話、その次はもう最終話で結婚式。
正直を言えばもっとたっぷりと、幸せを味わっている2人を見ていたかったように思うけれど
まぁこれまでも両片思いシチュをひたすら突き進んでいた彼らのことだから、この1話だけでも満腹ありますね。
もうほんっと・・・・・・・・・この2人、可愛すぎる・・・
結婚式も、オマケ漫画での未来も、サブキャラたちの関係性も、全てキラキラとまっすぐ輝いていた。

1巻のふたりのゲームが始まったあの夜をフラッシュバックさせ、それと重ねるエンディングも見事。
1巻第3話から始まったゲームの勝敗も、第6話の指輪の予約も、全部やりきる。
最終話はもう王道中の王道。
ほしい展開がほしいままに来るような、答え合わせみたいな気持ちでした。
思えば1巻が出てから5年近くが経っています。
クラクラしそうなほどに甘く幸福な2人を見ていると、当然ながら作中10年と続く腐れ縁を決着されたという意味でも、長期連載の幕引きという意味でも、すばらしい時間に立ち会えた喜びのような思いさえしてくるのです。


告白に至る流れも、これまでまったりとしていた本作らしからぬ疾走感でたまらない!
あの九条が、柳のために空港まで走って向かい、息も落ち着かないまま勢いでドン。
あれだけ焦れったかった、焦がれるのも飽き飽きした、けれどずっと欲しかったシンプルな恋の告白はついに柳の耳を捉える!泣くわ!
落ち込んで柳からの着信も取れない九条の切ないワンシーンとかもね、かわいすぎる。
告白の場面となっては、本当に今にも泣きそうで、ただわけも分から走り出してしまうようなただの女の子。
理性的な彼女らしくない、けれどだからこそ言うことのできた言葉でもあったように思います。

そしてそんな告白をアシストした蛍くん。やはり最後まで、愛された失恋キャラでしたね。
結婚式で撮影係をしていた彼が、九条に向けて「笑って!」と本心から言うことができることに、
そしてかすかな痛みを感じる要素も入れ込んでくるあたりもニクい演出。
桃香様ともやりともも微笑ましくて大好きだった。

特別編もオマケ漫画もぎっちりとサービス精神が詰まった嬉しい内容ばかり。
さらに8巻から引き続きドラマCD付き限定版も同時発売。またこのドラマCDがいいんだよ。
ドラマCDでしか聞けない結婚式での一幕をふくめ、オリジナルエピソードも。
最終巻のお祝いに、お得感たっぷりと約50分のボイスドラマ、こちらも是非。
個人的には、九条とお母さんのやりとりがグッときた。そうなのだ、九条という女の子を語る上で、母親の存在は外せない。強い絆で結ばれた母子の歴史を感じるようなスペシャル感のある演出だ。
通常版と限定版で表紙も違うので俺は両方買ってしまいました。
本編通りのウェディングな九条も最高だが、神前式での九条もまた最高。柳は両方なんか笑える。

作者も書いていたけれど、九条の満面の笑みというのはこれまで意図的に封印されていたらしい。
だからこそ、溢れ出した恋がかなったとき、そして永遠を誓う式のとき、彼女はこれまで見たこともなかった最高の笑顔を見せてくれる。
蛍くんが向けたカメラへの力強い返しを見て、なんだかほっとしてしまった。
あんな顔をされたら、安心してしまうほかないんです。

個人的な思い入れの強さもあって、リアルタイムで追い続けたラブコメだけに
終わってしまうことはとても寂しいですね・・・読めば幸せになれる薬みたいな(怪しい響きだな)作品だった。もとは1巻で完結していた作品で、好評だったからってことで10巻も増えてしまった本作。
1巻の完成度から評価も高かったですが、いやいや、よくぞ続けてくれた。
積み重ねた年月の重みが、そしてボリュームをましたストーリーに読み手の想いも募って
成熟した作品になったなと感じます。読み続けてよかった本当に。
すれ違ってばかり、から回ってばかりの、柳と九条の物語を読むことができてよかった。


最高のハッピーエンドをありがとうございました!
次回作楽しみです。趣味全開の悲恋ものも待ってます!

『ラストゲーム』11巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
10年をかけた恋のバトルの行方がここに。感極まるエンディングでひたすらニヤニヤできる。
柳くんをこバカにしたような記事を書いてしまって気分を害されたらすみません。柳大好きなんです・・・

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引っ越し先

ブログを引っ越しました。 当ブログは更新を停止し、新ブログにて更新をしています。 https://sazanami233.hatenablog.com/

楽園に花束を

プロフィール

漣

Author:漣
「さざなみ」と読みます。
漫画と邦ロックとゲーム。
好きなのは思春期とかラブコメとか終末。

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基本毎日います。記事にしない漫画感想とかもたまにつぶやいてますので、宜しければどうぞ。

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