[漫画]トラウマに立ち向かうループ・ミステリー『僕だけがいない街』1巻
僕だけがいない街 (1) (カドカワコミックス・エース) (2013/01/25) 三部 けい 商品詳細を見る |
僕なら助けられたはずなのに。
三部けいさんの新作「僕だけがいない街」1巻の感想。
詩的でかっこいいタイトルと表紙の寂しげなムードに惹かれて購入しました。
かっこいい表紙デザインだと思います。印象的なタイオルがくっきり目に入る感じで。オビのコピーもすごい。
「なぜ彼女は殺されなければいけなかったのか?」というもの。
単純なサスペンスではなく、タイムスリップ要素もある作品です。
歴史「改変」を行っていくという面白さとスリリングなストーリーが組み合わさって、ドキドキしながら読めました。ループ系ストーリーとも言えるのかな。
漫画家になることを夢見る28歳の青年、藤沼。しかし現実はなかなか上手くいかない。
漫画が評価されないのは、自分自身が自分の内面に踏み込めていないから、という分析をする藤沼。
小学生のころ、彼の住む田舎では凄惨な連続殺人が起こった。
それに関連して彼は自ら封じ込めた記憶がある。記憶は取り戻せていないけれど、昔を思い出すことに潜在的なトラウマとして抱えるようにも見えます。
そんな藤沼、じつは不思議な能力を持っている。「巻き戻し」の力です。
突然に時間が1分~5分くらい巻き戻ってしまう。それはなんらかの事件が起こる前触れ。巻き戻しがおこったら藤沼は周囲を見渡し、事故や事件を未然にふせぐべく行動を起こしていきます。
望まずして彼は誰にも知られぬところでヒーローとして活躍しているのだ。
いや、心の底では望んでいるんだろうな。
所々に回想で、幼少時代に見たヒーローが登場します。ヒーローへの憧れをいまだに持っているんだろう。そういう自分をバカみたいだと自嘲するときもあるけれど、仕方ないといいつつ彼はかなり頑張って人を救っている。
この「巻き戻し」を使って、日常の事件を未然に取り除いていく。
その流れはかなりカッコいい。彼のすごさを周囲はあまり知らないという意味でも、そういう隠れたヒーロー感が素敵ですよ!
でもその力も関係しないところで、彼は過去にあった大事件へと引き込まれていく。過去を知ろうと動き出す。
それに合わせたかのように、悪意と殺意が藤沼のまわりに忍び寄っていくのですよ!
ということで、最初にも書きましたが、スリリングなストーリー展開でドキドキします。
ムードメーカー的ヒロインの女子高生・片桐さんの存在がありがたい。
でも片桐さんがいてもなお、このどんよりとした空気・・・。
「同級生の少女の死」
「連続誘拐殺人事件」
「救えなかった友人」
「犯人の正体・・・。」
そんな物騒なワードに彩られた、藤沼の封印された記憶。
物語はどんどんとその過去について探っていく流れになっていくのですが
「時を巻き戻せる能力」なら、こういう展開は来て欲しいな、って展開にしっかり入って行ってくれた。
小学生時代をやりなおす!
ここまで時を巻戻してしまうに至った経緯はあまりに痛々しく悲しい。
それでもこの展開に入ったら、この言いようのない不快感がただよう世界から逃れられるんじゃないか、なんて期待をしてしまいますよ!テンション上がりますよ!ゾクゾクするって!
・・・小学生に戻ったからこそ、これからもっと悲惨なことになる、という可能性も捨てきれない、というか高いですが・・・。
それでも、28歳になった自分を救うには、小学生の自分が頑張るべきなのだ。
だって、あんなに後悔した。そして記憶を封じ込めた。
大人になっても自分を巣食っていた、あの無力感を、取り除く。
過去のトラウマを乗り越えて、藤沼はなにかを変えることができるかな。
そしてまだたくさんは描かれていませんが、これからのカギになりそうなのが雛月加代。
連続殺人事件の被害者の女の子。この1巻の表紙で描かれているのもこの娘だろうし、どう関係していくのかな。想像するのも楽しい。
雛月の母親が見せた恐ろしい表情も気になりますね。事件の真相はどんなものだろう。
そんなこんなの作品。
ループ、過去改変というだけでもワクワクするテーマですが
「小学生のときに起こった惨劇を回避する」する展開に突入したら、そこに至る流れを踏まえてめちゃくちゃ盛り上がります。「え、これからどうなるの」っていう行き先不透明な感覚。
サスペンスとループものの面白さがうまく混ざり合っています。
ダークな物語にのめり込んで楽しめた一冊ですなー。
暗いばかりではなく、主人公とその母親の親子愛の描写とか、心にささる・・・!
なんとなく後ろから正体不明のなにかが忍び寄ってくるかのような
作品の世界そのまんまな、怪しげで恐ろしいムードがナイス。
あと、個人的に、雪にうもれた田舎で展開するジメ~ってとした暗いストーリーって、そういうムードもベタながら好きなんですよね。いかにも何かおきそうで。実際なにか起こるんですけど。雪に悲劇は似合う。
2巻からはガラッと世界を変えた内容になるでしょうし、楽しみです!
あとはこのタイトルも興味深いですね。どう内容にシンクロしてくるのか。
『僕だけがいない街』1巻 ・・・・・・・・・★★★☆
リアルなループ系サスペンス。ストーリーに純粋に引き込まれる。
[漫画]世界が君で光った。『花と落雷』1巻
花と落雷 1 (マーガレットコミックス) (2013/01/25) 渡辺 カナ 商品詳細を見る |
それは雷のように一瞬で あらがえる暇もない
「花と落雷」1巻が発売されたので感想を!
渡辺カナさんといえば前作「星屑クライベイビー」がかなりお気に入りの短編集でして、何度も読み返したりしてます。新作ってことで今回の「花と落雷」ももちろん購入。
タイトルがいいですよね。あまり一緒になることのない単語同士で、シンプルかつ印象に残るタイトルです。英語にするとフラワー・アンド・サンダーボルト。やだ、カッコいい!
自分はまず表紙でドキッとしました。カラーイラストとしての美しさもお見事ですが、一枚絵としてバッチリ決まってる。キラキラしててオシャレでかわいくて、うーん・・・見惚れる!
前作は短編集ですが、1巻と打たれているように今回は長編です。
前作→ほんとは寂しがり家のあなたに届くように。『星屑クライベイビー』
主人公の海美帆が、「有言実行委員会」をなのるちょっと不思議な女の子と出会うことから、ストーリーは動き出します。
その娘は八千代といい、クラスでも変人と認識されているような女の子。
学校の人々の後押しや手伝いを目的に活動するのが「有言実行委員会」!とハデに登場をキメるも、メンバーは八千代ただひとりという寂しい現状。
人並みに臆病で、踏ん切りがつかなくて、淡い恋を胸に閉じ込めてしまいそうな海美帆。その応援をしてくれる八千代。「有言実行委員会」との出会いは、海美帆をどんどん変化させていくのです。
少女漫画のお約束というか無くちゃいけない恋愛要素をしっかり入れつつ
作品の主題は、不器用な人たちが他者と、そして自分の気持ちとどう向き合うか、ってところにあります。くじけそうになりながらも必死に前進していく。その様子は感動的で、恋愛漫画に収まらない魅力があると思います。
八千代がいいキャラですよねえ。文字通り、人を引っ張っていくパワーがあるキャラ。黒髪おかっぱというのも、彼女に不思議とピッタリな気がする。
強引すぎずでも軽すぎず、真摯に心に寄り添ってくれる素晴らしい友人キャラとして描かれています。
実際、1話において主人公の恋と同じくらいに大切に描かれていると思ったのが、八千代にむける海美帆の憧れのまなざし。「こんな風になれたらなぁ」という願望と、こんなステキな娘と知り合えた、友達になれた、という高揚感。
この1巻の中で主人公の気持ちはけっこう変わっていくんだけれど、その最大のきっかけは八千代ですよね。そのことをわかっていて、海美帆は彼女を大切に思っている。
つまり、海美帆と八千代の友情が素晴らしいのですよって話です!
百合というほどでもなく、2巻の2人の結びつきが楽しみです。
んでもって恋愛要素。こちらももちろん良かった!
「星屑クライベイビー」では結構ビターな味わいの作品もあったりして、「花と落雷」はどういう漫画になっているか楽しみでしたが、なるほど。
まず1話で主人公は男にフラれちゃうんですね。そこに至るまでの流れは心にグッとくる。フラれても単なる悲劇にならず、あくまでも前向きさを失わない、そのきらめきが素晴らしかった。
そのあとに真打登場ってふうに新しい男の子の出てきます。四宮くんです。
読みながら懸念したのは主人公の心変わりはやすぎだろ、っていう状況。告白してすぐにほかの男の子になびいちゃうと、ほら。でもこの作品、そこはうまくやってくれていました。そういう人を好きになるタイミングにこだわるのバカみたいですけど、気になっちゃうものは仕方ないじゃないですか。
ストーリーはなんだかんだで、四宮くんと海美帆がラブりだすわけですが、その過程もいちいち愛らしくて敵わない!ゆっくりゆっくりと、四宮くんへの想いが膨らんで、ふとしたことで破裂しちゃいそうなくらい高まっちゃって。
どうすんのこれ。ニヤニヤするしかないでしょうが!!
でこれまた四宮くんもかわいいんですよー!
海美帆以上の臆病ものなんですけど、少しずつ彼の世界が開けて行って、どんどん四宮くんの表情を明るくなっていく!
というか海美帆はいっかい殻を破ったので、あれ以降は結構大胆な行動とってますよね。
人見知り&しゃべりベタな四宮くんの手助けから始まり
気づけば海美帆、八千代、四宮の3人でいつも動くようになっていたりして。
キャラクターたちが確実に世界を広げていっている実感が得られてにっこり。
世界がひろがる瞬間、つまり人と人の心が結びつく瞬間を描くのが上手いですね。ここ!ってタイミングで頭に残るシーンがちゃんとある。漫画として魅力的です。表紙イラストでも思いましたが、絵ヂカラがあります。
2巻の展開についてですが、どうやら八千代の話になりそうな予感。
まだ謎ばかりな少女。何が明かされるのか楽しみです。
そんな新作「花と落雷」でした。
花という静かに綺麗に佇むものと、一瞬だけでも空を強烈に照らす輝き。アンバランスなようでいて、やはりいいタイトルだなぁ!平穏を一瞬で変貌させる光。それは空に強く輝くように、彼らの世界だって変えてしまうに違いない。
落雷とはすなわち恋だったり、友達だったりするんだろう。
雷ってのは自然現象で、ひかったらそういうものと考えるしかない。そこには理由はない。光ったら、心が明るくなったら、それはもう抗いようもない。
キラキラしてて瑞々しくて、恋愛ばかりじゃなくキャラクターそれぞれが紡ぐ成長のドラマが、素直に気持ちがいい作品ですね。
もちろん絵も素晴らしい。この作家さんは内容も雰囲気もいいけど、まず絵の第一印象からして「あ、好きだ」だったもんな。ふわっとしつつ、光がチカチカ舞っているような眩さもまた読んでいて快感!
空気がきらめくかのような星が細かく描かれたコマもあって、小さな雷みたい。
作者のコメントを見るに、どうやら2巻完結漫画?らしいので
サクッと読めるコンパクトな傑作になってくれるといいですね。2巻の出来次第ですが、きっと期待に応えてくれるんじゃないかなと思ってます。これまでの短編を読んでいても、ラストの余韻がすばらしい作家さんなので。
『花と落雷』1巻 ・・・・・・・・・★★★☆
期待のシリーズ。表紙に惹きつけられたらきっとハズレない、素直な青春ストーリー!
[漫画]甘く痺れて逃げられない、貴女から。『沼、暗闇、夜の森』
沼、暗闇、夜の森 (百合姫コミックス) (2013/01/18) さかもと 麻乃 商品詳細を見る |
今、この瞬間、私はこの少女に失恋したのだ
さかもの麻乃先生の百合漫画新刊「沼、暗闇、夜の森」の感想です。
百合姫にて掲載された短編4つと、描き下ろしを多数収録した一冊。
タイトルがすごいですよね。もう一度。「沼、暗闇、夜の森」。これだけでもう心惹かれてしまいますよ!同じようにグッと来る人は、きっとこの本の雰囲気はお気に召すでしょう。
どこか痛みを伴う恋。甘く痺れるような毒が、この本にはギュッと詰まっているのです。
女の子の可愛らしさと、しなやかさと、そして闇。
あと、この本はオビが付いている状態がマジでカッコいいです。書影だとオビなしなので、画像で載せておこう。この黒とコピーがバチッとハマってます。
では内容の話へ。
前作「パイをあげましょ、あなたにパイをね」もお気に入りの一冊でしたが
今回の「沼、暗闇、夜の森」はさらに鋭利に心に入り込んでは傷つけてくるような感覚を味わいました。切ない作品ばかりではなくもちろんハッピーな作品もあります。
しかし、自分の心を震わせてくれた作品ばかりです。これはいい作品集だ・・・!
以下、個別に感想。若干ネタバレを含んでしまっているので注意で。
●魔少女
教師と生徒の百合。トップバッターにして辛口。この本でも1番好きかもしれない漫画です。最初のモノローグからして俺の良作センサーがビンビンになりました。
「今、この瞬間、私はこの少女に失恋したのだ―――」
常識人の先生と、不良の女の子マホ。事あるごとに問題を起こすマホに苛立ちを覚えるも、その奔放な美しさに心惹かれてしまう先生。
好きな花は、愛情を持って育ててあげたい。でも、ありのままの自然の姿だって尊い。上手い愛し方ってどういうものだろう?
バラのトゲをめぐる、恋と愛情のお話。「恋と愛情は別物なのではないか」という想いを込めた内容にしたと作者が語るとおり、切ないすれ違いが胸にザックリ突き刺さる作品です。
これはもうラストが好きすぎるので、ネタバレ前提のお話をしてしまいます。
バラのトゲを抜いてはいけなかったのだ。そう諭したのは、ほかならぬ先生だった。けれどいつしか、先生はマホのトゲを抜いてしまった。そしてありのままの姿を失った先生は、
うまく愛してやることはできた。でも彼女は、うまく恋をし続けることが出来なかったのだ。愛を与えようとするのは、きっと恋じゃなかった。少なくとも彼女達の関係においては、先生が望む恋愛から遠ざけてしまう悪手だった。
この作品、すごく皮肉が効いているのに、間違いなく幸福です。間違いなく幸福なのに、凄まじいもどかしさと切なさを残していくんですよ。この矛盾を抱えたままのストーリーにとにかく魅せられる。
愛してしまったからこそ、「私が愛した貴女」が消えていく。だから私の恋も、いつしか溶けてなくなってしまったのだ、と。
ハッピーエンドなのに悲恋の香りを強く残す、不思議な作品です。
こういう世界もあるのか、と新鮮な気持ちで読むことができました。
マホの変わりようは、読者として見ればなかなか魅力的なんですよ。
でも確かに、中盤までとラストでは、マホの目つきが全然ちがう。
あの、闇にいざなうような、怪しい光をたたえた瞳ではなくなった。
愛を与えられ満ち足りた、明るい輝きを放つ瞳になっている。
よく人は恋で変わるとかなんとかいうけれど、変化の肯定的な面ばかりを見ていた自分だからこそ、この作品でクラクラしたのかな。その衝撃も込めて、大好きな作品。
●ショートヘアの似合う女
「魔少女」も大好きですがこれも大好き。というかこの単行本は全部好き。
「ショートヘアの似合う女」もまた、心にチクッとした痛みを与えてくれる作品。でもどこか晴れやかな読後感だ。
北欧に旅行にきた女性たちが、昔を思い出したかたちで語られるストーリー。もう終わってしまった恋。叶わなかった恋。それでも忘れられず今だって綺麗にとっておいた想い。それらが冷たい北欧の世界でノスタルジックに回想され、そして改めて1つの答えが出される。
お互いの少女時代の恋との決別がされるクライマックスは、気持ちのいいものではあるけれど、やっぱり切ない。
昔を懐かしんだり悔やんだり、そういう情けない感傷的な部分は自分にも多分にあります。で、改めて考えるに、これはこれで幸せなものかもしれない。
「あの頃、私のこと、どう思ってた?」とそんな風にあとから確かめる機会も滅多にないでしょう。その上で尋ねる勇気も相当いる。
でもこの漫画では、報われない形であったけれど、それが叶えられたわけです。
思い出は思い出のままで美しいけれど、でももっと欲張りになってしまえば、もしかしたらこの漫画みたいに、甘酸っぱくて気持ちのいい世界を味わえるのかな。
「私、あの時、加奈のこと好きだったんだ」
「実は、そうなんじゃないかなって思ってました、薄々と・・・」
「あはは」
この会話の空気が愛らしさ!
切なさも可愛らしさも交ざってニヤニヤするしかない。
●世界の終わりとケイコとフーコ
嫉妬と独占欲。女の子の後ろめたい感情がこれはこれで可愛らしいお話。
恋愛漫画ではあるけど感覚的には強固な友情関係という印象。でも恋愛か友情か、なんて分けて考えるのも百合漫画じゃバカらしいので良しとする。想い合えばそれが2人のオリジナルな関係です。
途中、ケイコがあまりフーコのことを見ていないって描かれていたけれど
ケイコがフーコのことを好きじゃないっていうんじゃなく、単にケイコがそういう人なんだよねっていう話。でもフーコとしては、もっと自分をもっと見て欲しい。もっと自分をわかってほしい。そういうすれ違いでちょっとストレスためちゃう場面すら、「かわいいなこいつら!」としか思えないのである!
「世界の終わり」なんて突拍子も途方もない想像をして、結局は相手しか見えていないという時点で、もう、ね!
●沼、暗闇、夜の森
表題作はトリッキーな演出が見応えのある意欲作。これまでにない仕上がり。
冷たく暗い水の中をたゆたうような、妙な気持ちよさと気持ちわるさが同居した不思議な雰囲気。最初はクエスチョンが浮かぶタイトルも、読んでみれば納得。
幽霊が見える女の子・キコが主人公。彼女は現実のクラスメイトたちと全然話せないし、教室で幽霊としゃべりこんで気味悪がられているような女の子。死人としかうまく話せないキコですが、憧れの女の子がいるのです。それが磯谷さん。さて、
死人としか話せないキコの、歪んだ想いが見事に表現されていたのがこのモノローグ。
「磯谷さん 死ねばいいのに そうすればうまく話せるのに」
強烈!これはすごいと思いましたね。仲良くなるために、憧れの少女の死すら願ってしまう。なんという理不尽で凶暴な欲望だろう。ゾクゾク!
しかしゾクゾクするのはそこからの展開ですよ!何を信じればいいのかわからない、想像の余地をたっぷりと残したラストです。面白いな。
個人的な解釈を書いておくと、ラストシーンの磯谷さんの登場シーンに違和感がありますよね。クラスの人気者であるはずの彼女が入ってきても、クラスメイトたちは挨拶をする素振りすらない。ということは、彼女は幽霊で、キコだけが見えている状態?でも、この漫画のどこからが「キコの世界」だったのかで見え方が違ってくるか。現実と夢の境界が見えないからこそ、何度も読んではいろいろ考えを巡らせてしまいますね。
怪しくドリーミーな仕上がり。女の子の、血なまぐさい欲望。ドキドキしっぱなし。
これからは単行本描き下ろし漫画の話。
●スワコさんとデート
前作「パイをあげましょ、あなたにパイをね」で登場したインパクト大のキャラクター、スワコさんの番外編。
印象的な女性だったので記憶に強く残っていました。また会えて嬉しいです。
奔放で自由な愛を持った人だからこその寂しさ。寄り添う主人公も、その寂しさを紛らわせることはできないんだろう。スワコさんがスワコさんであるのに必要なものなのだ、この言いようのない寂しさは。ハッピーな漫画ではないけれど、でもこの2人はなんだかんだで上手くやっていけるんじゃないかな、という余韻が残る。
●下着通り
バカ漫画その1。「ここから先は下着姿じゃないと通り抜けできません」というとおりにやってきた百合カップル。しかしこまった、ブラを忘れた!ということで以下に胸を隠しつつ通ろうか、と悩むお話。なぜか途中で、いかにして自分たちのラブラブっぷりを見せつけて歩くか、という話に変わっていくw
「抱き合っていれば胸も隠せすしイチャイチャできるぞ!」ソウデスネ!
アイデア勝負という風の勢いある漫画ですねー。バカみたいだけど可愛い!いい意味で頭が悪くて、本編で負った傷がちょっと癒えたように感じる。
●ケンカ
バカ漫画その2。百合カップルがチンコらしきものを投げ合いぶつけ合い、はげしくケンカをするという異次元すぎる展開がヤバい・・・!最初意味がわからなかった。
最後は二人が仲直りして、一緒にチンコをバキッとへし折るという・・・。
ディルドでしょうけど、まんまチンコとしても全然違和感ないですからね。
痛快だなぁ!チンコなんていらねーよ!というメッセージだろうかw
これも一発ネタっぽいんだけど、だからこそ瞬間風速が凄まじい!
これも頭ワルいですなー。本編でしっとりと読者を甘い毒に浸しておいて、単行本のラストがコレである。もう笑うしかない!
そんな作品集。
百合姫掲載の作品郡のクオリティは高く、ツボるの人はとことんツボるであろう、じめっとした作風。暗いばかりでもなく、でも甘いばかりでもない。女の子の様々な秘めた想いたちを明かしていく。
その刹那な感情たちは、自分にとってはなかなか飲み込み難く、心の中で暴れまわる。完璧な理解ができないからこそ、ここまで胸に残るのでしょうかね。百合って、こういう不思議な感触が楽しいです。柔らかいのに優しくない、この独特の味わい。
お洒落で、カッコよくてかわいくて、傷つきやすくて強い女の子たちの、いろんな表情。繊細さの中にしたたかさを備えた、やみつきになる作品集です。
『沼、暗闇、夜の森』 ・・・・・・・・・★★★★
心を澄ませて、歪で美しい恋愛を味わいたい一冊。けっこう、辛口かも。
[漫画]本気で吠えて本気で悔しがる、これぞ青春!『銀の匙 Silver Spoon』6巻
銀の匙 Silver Spoon 6 (少年サンデーコミックス) (2013/01/18) 荒川 弘 商品詳細を見る |
でも私、めんどくさい馬けっこう好き!
『銀の匙 Silver Spoon』6巻が発売されました。そしてアニメ化も決定!
ノイタミナ枠での放送ってのはなるほどピッタリじゃないか、と思いますが・・・「銀の匙」のような作品だったら、夕方とかいろんな人が見られる時間帯に放送してほしかったなーとも思ったり。ちょっともったいないかなぁ。今の時点で充分メジャー作だからこそ。
それはともかく6巻ですよ。まるっと秋の章です。
今回の大きな見どころはやはり馬術の試合。八軒の初試合です!
エゾノーで世界やら視界やら広げた八軒が再び挑む、勝負の世界です。
表紙にも登場した馬・マロンが活躍しまくりの一冊でしたね!
前巻→秋深まり絆も深まる。『銀の匙 Silver Spoon』5巻
●ゆるいけどここは確かに勝負の世界
乗馬の秋季大会がいよいよ開幕。
大会そのものは、かなりゆる~っと進んでいく。静かでもなく厳かでもなく、和やか。
でも出場する選手たちは緊張の面持ち。だって自分の実力が周囲と図られて、ほかの人にも見られる場なのだから。ややゆるっとしていても大会だ。試合だ。
そして中でも八軒の緊張やら気合やらは並大抵のものではない。それは実力をはかる場面で、いつも結果を求められていた彼だからこその気負いなんでしょう。
「試験」はいくらでもやってきたものだけれど「試合」は初めてなんですね。
試合はうまくいかなかったり、最大限の集中で結果を出せたり。
シビアな勝負の世界で、八軒は思いっきり喜んで、思いっきり悔しがるんだ。
戸惑うこともあったり、むしろ戸惑ってばかりだった乗馬の世界だけど
こうして全身全霊で臨んでいる八軒の姿がまぶしかった。そのことが印象的なエピソードだったと思います。アツいじゃないか、八軒。
こんなに感情を爆発させちゃって、青春を満喫してますよ!
この乗馬大会エピソードでは、人だけじゃなく、馬も主役です。まぁこの作品は最初から人だけじゃ生きてらんないよって言ってきたので今さらですが、これまた、カッコいいんだ、馬の躍動が。
マロンはあんなかわいくない上に緊張感もない顔のように思われますが、流石走ってる時はカッチョいいですわ!気難しいけれどそれがいい味出してる馬。
迫力たっぷりの真剣勝負。人と馬が一体になる瞬間がカッコよくてキラキラしてる!
●御影アキってヒドい女?
そう、御影アキってけっこうヒドい女だと思うんですよ!
八軒との間に一線引いて、いいところで踏み込ませないように後ろにさがる感じ。
やさしい言葉をかけて誘い込んでおいて、近づいたら拒絶するかのような。
そんなことを彼女は無意識でやっているもんだから、これはちょっとした悪女。
今回ちゃんとクラスメイト達が本人にそれを指摘してくれました。
ちょっと気持ちがスッとしたような気がしますw 別に恨んでいるわけじゃないですが・・・!
いやまぁ、クライメイトたちは実態を知らないからこそ「ニブい!」の一言で済ませているけど、ホントはニブいだけじゃないんだ、彼女のいけない所は・・・!
まぁそれはいいや。彼女はここから改善されていく流れにはいった様子ですし。
クラスメイトたちに指摘されて、ようやく男女のデートのお誘いを受けたとわかる御影(ヒデェ)。その夜の御影の混乱っぷりは、初々しくてかわいかったですな・・・!!
来てる!ラブコメ来てる!ちゃんとしたの来てるよ!
でもこういうドキドキを、周囲に見せませんからね御影は。友達の前じゃこんな顔しなかったし、本当の自分をあまり周囲に見せたがらない娘だと思います。こんな一面があるって、ほかの人はあまり知らないだろうに。
計算じゃなく本能レベルで、他人に近づきすぎないように自分をセーブしている印象さえある。
そういう意味で、今後の御影がどうなっていくのか楽しみなんですよ。
八軒のがんばりは、確かに御影を普通じゃなくさせているのだから。
そんなこんなの第6巻。
馬術の試合風景ってあまり漫画で読んだことなかったので新鮮でしたね。
でも6巻のヒキはなかなか強烈で、これからどうなるんだよ!と次の巻を急かしたくなる感じ。八軒の抜けた穴はデカい。どうなるのか・・・!7巻は4月に出るとのことです。
しかしこの漫画、どれくらいで完結するんでしょうね。作中で1年経って、また次の春の章になって完結、と思っているんですが。アニメに合わせる形で完結したりするのかな。
作品としても大きな盛り上がりどころに突入していくでしょうね。
さらりと壮大さを感じさせてくれるのも上手い作品です。
車の全然通らない、ずっと先まで続く車道を、馬で進んでいくあたりとか。
きっとすっげえ気持ちいいんだろうなーと羨ましくなりますね!
なんでもないことのように北海道の雄大さを感じさせてくれるシーンはこの作品の見どころでもあります。
『銀の匙 Silver Spoon』6巻 ・・・・・・・・・★★★★
乗馬大会の興奮が味わえる一冊。八軒と御影の関係もちょっとずつ・・・?
[漫画]クール・クーラー・クーレスト!スタイリッシュ学園コメディ『坂本ですが?』1巻
坂本ですが? 1 (ビームコミックス) (2013/01/15) 佐野菜見 商品詳細を見る |
…やれやれ 貴方もMr.ビーも授業中ですよ 静粛に
「坂本ですが?」いや知らねーよ。そんな『坂本ですが?』1巻が出ました。
この絶妙にウザいタイトルが、すごくあってるんだよなあw
Fellows連載のギャグ漫画で、もとは読み切りだった記憶があります。それが連載化して単行本化という流れ。
雑誌で追っていたしコミックスはいいかな~とも思っていましたが、書店でこの1巻表紙の坂本くんに鋭く見つめられたら、逃れられなかったですね・・・。そのままレジまでお供。
坂本くんはとにかくクールでスタイリッシュな男子高校生。
何気ない日常の一幕も、彼の手にかかれば映画のオシャレなワンシーンに変わる!
シュールながら爆発力のある、いいギャグ漫画ですよ。
やっていることは普通なんですよ。登校して、遅刻しそうになる。授業を受ける。日直の仕事をこなす。バイトをする。普通の高校生と同じ生活。
でも坂本くんは、それらを全てカッコよくやってのける!
坂本くんにかかれば日直の仕事すらこんなカッコいい!普通にやれよ!なんてツッコミはヤボってもんですよ!
学校のみんなは、いや学校外の人も坂本くんのクールっぷりに惚れている。
彼のことを気に食わない不良も登場しますが、最終的にはコロッと坂本くん攻略されてしまいます。坂本くんハイスペックすぎィ!
そんなわけで、もうとにかく坂本くんのキャラクターが強烈。
どんな時でもブレない。媚びない。孤高のイケメンである。
読者としては、坂本くんのクールなアクションも、それに「おおっ」と見惚れちゃう観客たち(もう観客と言ってもいいと思う)も、バカバカしすぎて笑ってしまうのだ。
でも、坂本くんのやるスタイリッシュアクションは、もしかしたら読者自身が妄想したことがあるものもあるかもしれない。こんなことしてみたいなぁ~っていう、とりとめもないバカな妄想。
なんでもない一挙一動を、気取ったふうにクールにやってみる、なんてことはもしかしたら今もひとりでやっているかもしれない。ちなみに俺はたまにやる。・・・やりません?テレビのリモコンをかっこよく構えてボタン押したりとか。・・・や、やらないですか。まぁともかく。
そんな、誰かが見てるところでは絶対にやれないようなことや妄想を、現実にやっちゃってるのが坂本くん。それも恥ずかしげもなく、めちゃくちゃカッコよく。
だから「うわぁぁぁぁぁ」と顔を覆いたくなるような恥ずかしさが、笑いに昇華されるってところがこの作品の面白いポイントだと個人的には思いますw
行き過ぎたスタイリッシュは、笑いに変わってしまうんだな・・・・・・・。
笑わせるつもりでスタイリッシュに描かれている漫画なんですが!
ストーリーも実にしょーもない。しょーもないからこそ笑える!
授業中にハチが入ってきて大混乱になったり、ボヤ騒ぎを反復横とびで消そうをしたり。いちいちバカらしくて楽しいですなー。
「やれやれ」じゃねえよ!
バカっぽいんだけど、坂本くんがちゃんとホントにカッコいいのがいいですね。カッコいいけどバカみたい、バカみたいだけどカッコいい。その揺らぎがこの作品の魅力。
そして坂本くんのおかげで、周囲の人たちは大切なことを知っていく。
しょーもないストーリーなのにイイハナシダナー的に終わるのがまた笑えるw
Fellowsと言えば雑誌に深い味わいを与えてくれる、ギャグ漫画が豊富な雑誌でもあります。
「ヒナまつり」「秋津」「ふうらい姉妹」あたりはすでに人気ある作品だと思いますが
そこに「坂本ですが?」も加えて、いい連載陣になってるじゃないの、と。ギャグ漫画のレベルが高いのは嬉しいものですからね。
余談ですが、Fellowsは「ハルタ」って名前に変わるらしいですな。名前まで変えなくてもいいのにねえ。
さぁ、これを読んだらきっとあなたも坂本くんの虜!
スタイリッシュすぎて笑いがこみ上げる不思議な学園コメディ漫画です。
『坂本ですが?』1巻 ・・・・・・・・・★★★☆
書いておいてなんですが、細かな説明は不要。読めばわかる、坂本くんのかっこよさと面白さ。