2017年上半期 面白かった新作コミックス12作
あっさりと2017年が折り返してしまったぞ。どうなっているんだ。
ということであまり更新もできぬままこのザマですが、せっかくなので上半期のまとめ的な記事でも。
「新作コミックス」というのは、今回の括りで言うと、第1巻だったり単巻モノだったりを指します。
なぜ12作かと言うと、10作のつもりでガーッと書き始めて、あとで数えてみたら12個分だった・・・
ということで。順番はあまり関係ないです。 ↓↓↓
狭い世界のアイデンティティー/押切蓮介
押切蓮介先生は本当に多彩で多作だ。
新作である「狭い世界のアイデンティティー」はズバリ漫画家マンガである。
しかも思いっきり歪ませた、おふざけ全開の、血で血を洗う漫画家バトルロワイヤルだ・・・!!
兎にも角にも勢いが素晴らしい。第一話の冒頭からぶっちぎってカッコいいので読んでいない方はぜひこちらからでもどうぞ
→http://morning.moae.jp/lineup/681
このヤケクソテンション!胸焼けしそうな殺気!一度漫画家が寄り集まれば、そこは修羅の巷!!
幾多もの天才たちが蠢く漫画界、そこに誰ひとりとして凡人は存在しない!!己のプライド、欲望、承認欲求、漫画愛・・・さまざまな感情が交錯しハチバチと爆ぜる!!
主人公は、兄を出版社に殺され復讐に燃える少女。
生半可な覚悟では生き残れない過酷なマンガ業界。そこに彼女は挑んでいくのだ。己の漫画が・・・2割くらい・・・!!のこりは大体暴力で解決し、のし上がっていく!!!ライバルたちを蹴散らしその頂上への駆け上るのだ!!
破茶目茶なギャグテイストが濃厚な本作ですが、過剰に描写した中にも漫画家の本音のようなものも潜んでいる気がして(出版社の忘年会で渦巻く欲望だとか・・・)なかなか笑っているだけで終わらせるのももったいない。耳を済ませて、この下らない騒音の中に潜んだ本当の声を探してみたくなる。すごく繊細で、ギャグっぽく照れ隠しした何かが、熱いものが、たしかにこの漫画にはある。
それはきっとこんな漫画を手にとるような、漫画が好きな人にこそ分かる気がする。
明日ちゃんのセーラー服。/博
表紙の”圧”やばくないですか!?もうなんにも知らなくてもレジ直行、表紙買いセンサーとかまったく無意味の圧倒的な暴力性。かわいい女の子の本を買いたい。ソレだけなんだよ!
と思ったら中身もすごいんです。「明日ちゃんのセーラー服。」はかわいい顔してかなり尖った漫画ですよ!
作者「博」先生と言えば「アクアリウム」から素晴らしく美麗かつ多彩な少女絵描きさんという印象でしたが、本作はさらに特性を爆発されたような感じ。
ストーリーはシンプルで、田舎の名門中学にあたらしく入学した主人公、明日小路ちゃんの学校生活を描いた、おだやかな日常者。目標は、友達をたくさんつくりたい。みんなと仲良くなりたい。なんて等身大の願いだろうか・・・優しい気持ちになれる・・・。
個人的にも大好きなんですが、フェチ写真家の青山裕企さん写真集のような
「ここの動作に、この一瞬に目をつけるか!」と言ったような驚きと輝きがちりばめられていて、自分の中に新しい視点が生み出されていく。
ただ髪を結ぶだけのシーンをじっくり描いてみせたり、極端な例を上げると、アイドルを夢見る小路ちゃんが妄想の中でアクロバティックなキメシーンを炸裂させるその妄想の中身を、1ページまるまる使った大ゴマを14ページも連続させて描写したり。
つまりフェチ描写を優先させるがあまりコマ割も放棄して、イラスト集はたまたパラパラ漫画のような構成になる瞬間が度々ある。この情熱のほとばしる感じ、たまらない。
ここらへんはWEB掲載漫画ということも影響しているのだろうけれど、なんというか非常に21世紀的な、『ディスプレイで読む漫画』としての特性を備えているように感じます。
それなのに、個人的には紙のコミックスで読むことがとてもうれしい。
あどけない少女たちが一瞬、ほんの僅かみせるゾクリと背筋が震えるような”魔力”を、みごとに神とインクで閉じ込められている魅惑のコミックスなのですよ。まさに、宿っている、のだ。
それの最たるものがこの表紙。冒頭に戻りますが、”圧”やばくないですか。
物語の面白さというより創作物として独特の存在感を放つ一作。
ツイッターで絵師さんが投下するモノクロ1枚絵の少女絵をとかをお気に入りに放り込んでいるようなムッツリスケベに是非読んでほしい。
不滅のあなたへ/大今良時
「聲の形」という傑作を送り出した作者の新連載。
期待の大きかったであろう中で繰り出してきたのは、けっこう予想外だった。SFでもあるが、冒険ファンタジーと読んでもいいのだろうか。それにしたって哲学的だ。けれど王道のようにも感じる。個人的にはなんだか少し、漫画版のナウシカのような雰囲気にも感じます。
もしくは雰囲気で言うと、半世紀くらい昔の、外国の冒険小説みたいな。
後に不死<フシ>と呼ばれる生命を、神は世界へと産み落とした。
それは死者の肉体を借りながら次々に形を変え、世界を彷徨っていく。
おぼろげな思考。おぼろげな本能。様々な出会いを経て、フシは変化をしていく。
まとめてみるとシンプルなんだけど大今先生の独特のテンポや描写力によってグッと深みを増した、とにかくメッセージ性の強い作品に感じます。
生命における死だとか、理不尽な掟、絶望的な暴力・・・
世の中のいろいろな”抗いがたいもの”に対する強い怒り。そして反抗心。
肉弾戦という括りだけではなくメンタル的な部分も含め、広義な「戦い」が展開されていく。読んでいると本当に心が突き動かされる。今年になって漫画を読んで泣いた経験は、たぶんこの作品だけだったかもしれない。
誰かが残したメッセージをフシは受けとり、そのつもりは無くても誰かに繋いていく。フシは主人公として、メッセンジャーの役割を担っているのですね。
ストーリーの緩急の付け方もお見事。個人的には、数巻溜まってから一気読みすると面白さ倍増パターンの漫画かなとも思います。
おじさんとみーこ/朝日 悠
やさぐれ金髪おじさんが、初心なJCを手篭めにするお話。
それはもう語弊もなんでもなくストレートにそういう話で、生理的に付け付けないという人もいるだろうとは思う。が!!!そんなことは!!!どうでもいい!!!
いいか俺はちょっと背伸びした危険な恋にゾクゾクしてるJCを眺めていたいんだよ!!!
身寄りをなくした少女のもとへ、おじさんがやってくる。
互いに孤独を内に抱えた2人は共鳴するかのように、ぬくもりを、安らぎを求めていく。
少女漫画らしいほわほわと幼気なタッチから紡ぎ出される物語は、絵柄で緩和はされてはいるが、非常にアダルトでいやらしい世界観となっている。
だってもう、流し目でタバコ蒸す怖いおじさんと、いたいけな女の子が同居してですね、もうイチャイチャちゅっちゅしまくりなんですよ。そりゃヤルことヤってますし。思いの外遠慮なくエロいよ。
1巻ではゲスト的に部外者の男性が登場し、ズバリ2人の関係性を異常だと指摘する。しかし少女は静かに彼と決別を果たす。哀れんでくれる男性の手を取らず、より闇を深くしていく。ここらへんの演出は同人誌版とくらべても秀逸だった。
世界から疎外されているような、薄暗い空洞がどちらの胸にも存在して
まるでその深さを確かめ合うように、やはり抱きしめあってしまう。
切迫した2人の心理描写と、ドロッドロになるまで甘くなったイチャラブシーンの波状攻撃にすっかりやられてしまうのです。下巻のカラー口絵なんかもう泣けてしまうから・・・。
コミティアで通ってシリーズを買い集めてたんですが商業出版化。
前からちょくちょくある流れのやつですが、なんだかんだで嬉しい半面ちょっとさみしいヤツですよね。
しかし商業単行本として冷静にこの漫画を読むと、あまりにも強いコミティア臭にクラクラしてしまう。あの”におい”、我々の脳みそに直接感覚を呼び覚ましてくれる。
日々是平坦/迂闊
あぁァーーーーーーこんな青春が欲しかった。それだけなんだよ。
迂闊先生が楽園本誌とWEB増刊で連載しているふたつのシリーズをパッケージした「日々是日常」の1巻。
収録の2シリーズが毛色が違っていて、同じ学校で同じ時間を共有しているはずなのに、“バカサイド”と”リア充サイド”では文字通りに見えている世界が違っていることが丸分かりになっている一冊なのです。
おバカたちは楽しくどうでもいいことで盛り上がっている一方で、
初めてのお付き合いに戸惑い赤面しあってしまうような初々カップルがいる。
けれどどちらかを選ぶこともできないような幸福さ。いわば両A面盤!
青春の美味しいところばかり食べてしまおう。レッツ・ハイスクール!(謎)
なんといっても『純粋男女交際』がね、ほんと、もうむり。
彼らの脈拍が、吐く息の湿り方が、ふとした瞬間に目を奪われる静寂が、全部生々しい。
真面目なばかりの2人だけと、周囲がイメージしているよりかは、ちょっとだけナイショが多かったりして。ちょっとだけ(きっと)走りすぎていたりして。
非常にプライベートな内容を、第三者目線のモノローグが気持ちのいい切り取り方をしてくれている。
体が温まった所でやってくる『日々是平坦』のバカバカしさで一気に喉越し良くなる感じ。意味わからんな。なんかグイッとツルッと行ける面白さなんですよ。
そんなこんなの一冊。よくあるようでなんだか特別。迂闊先生の描く女の子はみんな健康的で素晴らしい。
ルポルタージュ/売野機子
2033年。恋愛する者がマイノリティとなった社会が舞台。
売野機子先生といえば詩的な恋愛漫画の名手ですが、最新作「ルポルタージュ」はまさに売野ワールドが全開になっている。
”飛ばし”結婚という現代的な結婚・・・恋愛感情を必要としないパートナシップのような共存生活を人々が選択している。
この社会においては、結婚相手とは『共同経営者』という考えなのだ。
現代の思想のその先を見せてくれる設定、有り得そうな近未来のビジョン。
そんな中でテロ事件を追う主人公が、とある男と出会ったことで
さらに深く事件へと巻き込まれていく。そして、恋をする。
もともと好きな作家さんではあったけれど、本作はとくに作家さんの独自色が色濃く出ているように感じますね。まさしく真骨頂と言える。
描かれている世界観も素晴らしい。恋愛は人生に必要不可欠だった時代はもうとうに終焉していて、人々は次の生き方を見つけている。そんな時代に、あえてムダな恋愛に落ちてしまう。もはや本能的に、直感的に、致命的に、誰かを好きになってしまう。その理不尽さに誰も抗えない。
「非・恋愛コミューン」というシステムも描き方も、刺さる所がありますね。
大恋愛の果てに結ばれても、離婚する夫婦ばっかりだ。
そんなのを見ていれば恋愛がおっくうにもなるし、もっとシンプルで「めんどくさい」という感情に支配されてしまう。
それならば最初から相手をしっかり見極めて、全て計算して調整して、安心で丈夫な『強い家庭』を作っていこう、と。まるで自衛策のようで。傷つきたくないという思いが強い、省エネ主義的な思想も、非常に現代的に感じますね。
続刊においてはどんどんとこの世界観の深掘りもされていくことでしょう。
それに、こんなに鮮やかに1巻を締めくくられては、2巻も買うしかない。
売野機子という才能の在り処がきちんと見つけられたような作品。
「自分は恋をしなくても生きていけると 思っていた頃があったんだってさ…」
おとなとこども、あなたとわたし。/糸なつみ
「年の差」がテーマのオムニバス漫画。もうテーマから絵から内容から全部好き。コミックitというKADOKAWAの中でもちょっと異質な女性向け誌に掲載されており、コミクスが出るまで知らなかったのですが、読んでみたらもうドンピシャ。まぁコミックit自体がそもそも好みだったということもある。
1巻2巻が同時発売されたのですが、1巻だけ最初に買って、次の日にはすぐ2巻を買いに行ってましたね・・・。
3つのストーリーがありまして、1巻につき各1話ずつ、同時進行していく。
それぞれが違った角度から「年の差」を軸にしたドラマが展開され、それは切々とした恋のお話だったり、すでに亡くなった人物によって繋がれた疑似家族だったり、同じオフィスで務める女性同士の交流だったり・・・
読んでいると作者の年の差属性の強さを感じる。生半可なものではないのですよ。年の差によって隔たれた人生観。視線の違い。年をとる事で失ってしまったもの・・・。
生きてきた時間の違い。それは時に残酷なほどに人々の間を切り裂き、すべてを傷つけていってしまう。シビアな側面もかなりフィーチャーされていきます。
いわゆるオトナ女子向け、レディース漫画っぽい内容ではありますが
ソフトな絵のタッチと、作者のエモい完成によって幅広く受け入れられそうな作品ですね。
3つのストーリー、それぞれ甲乙つけがたいほどに味わい深く、「どれ派」かでも知り合いと話し合ってみたいくらい。いやぁ。年の差OLのオフィスドロドロ物語、イイヨネ。
怒りのロードショー/マクレーン
映画好きの「語り」をメインに据えたような作品、いくつか浮かびますが、中でも個人的にはこれが好きかなぁという一作。
絵も内容も荒削りなんだけれど、ソレがゆえに我武者羅なエネルギーがビシバシ放たれている。
そもそもペンネームが「マクレーン」て。その時点で相当おバカな香りが漂ってきますね。
とっても下らない、しかし愛にあふれる映画好きたちの日々。
時に言い争いをしたり、時にいっしょの映画を見て震え立ちあるいは涙する!
ぶっちゃけ読んでてよくわからないネタも頻出する。映画好きなら拾えるものが多いと思うけれど、有名な筋肉映画をそんなに見れていない自分はクエスチョンマークもいっぱいだ。でも面白い!!例えば友達が必死なテンションでオタクトーク全開してたら話の意味はわからなくても面白いじゃない?そういう感じなんです。そして話をきいているとワクワクする。ムズムズしてくる。俺も、その映画、みたい・・・!!!
というか実は映画語りと同時進行的に「オタク」という人種の生き様も熱く描いてくれる。
理解もされず、むしろ違う方面のオタクから理不尽な争いを持ち込まれたり、なんなら同じ映画オタクの中でも娯楽主義or芸術主義といった火種がそこかしこに散りばめられる。
なんというかこの漫画は際どい。ブレーキ積んでいない車みたいに、楽しい気分のまま次には冷水ぶっかけられるようなスリリングな展開が待ち受ける。
けれど結局は、自分の大好きなことを誰かを共有できる歓びが、この作品の圧倒的な肯定感を裏付ける。
あと出てくる女の子がだいたいとても優しくておちんちんにくる。(お姉ちゃんはNG)
幸色のワンルーム/はくり
少年は大好きな大好きなだいすきな少女を誘拐した。そんな危ないオープニング。
欲望のままのその行動は結果、どん底にいた少女を救い出すことになった。
しょせん誘拐犯とその被害者というただそれだけの共存。
なのにそのワンルームに、不思議な温かさが宿ってゆく。
なんて危うい漫画なんだろう。
エンターティメントとしてこの漫画を飲み込むことができない人だって、きっと大勢いる。けれどこんなにも切実に、お互いの空白を埋めることだけを目的とした共存関係を。スレスレで恋愛に陥らないような、もはや手遅れないような、この不思議な絆を。じっと見守りたくなる人も大勢いるはずだ。
発売、即重版。自分もしばらく入手ができず、たまたま入った小さな本屋で初版を購入できましたが、非常に話題性のある作品であることは間違いない。
どうしようもなく寄り添うことでしかもう生きていけないことを、お互いに知ってしまったのに、「誘拐犯」「被害者」という関係性でしかお互いを赦すことができない。だからイビツな感情にふたりともが絡め取られていく。
あまりにも純粋な将来の誓いを、彼らは破滅のために結ぶ。
だからギリギリで心を許し合わないような、けれど自身が理解しきれていない本能レベルで互いに依存してしまっているような、あまりにも切実で子供じみた男女のストーリーに転がり込んでいくのです。いわゆるエモいってやつなんだよな。
ぶっちゃけ読んでスッキリする話なんかじゃなくて、ニヤニヤゴロゴロできるものでもなくて、描かれている人間の汚さとか世界の歪みとか理不尽な暴力とかに目を覆いたくもなる。でも素直に、幸せになってほしいなと、祈りたい。
商業連載ではあるけれど非常に『ネット』の世界のあの、というかこんな感じの、いろんな黒いものを感じる作品ですね。
たとえとどかぬ糸だとしても/tMnR
大好きなtMnR先生の商業デビュー作。モチロン最高だった(条件反射)
同一作品ジャンルでたぶん人生で1番買い漁ったのが「ラブライブ!」同人で、好みのCPはあれどわりと無差別にシリアス系のを収集していましたが、そこから商業誌に進出してくれました。
そんなデビュー作ですが、もうあらすじの時点で勝利を確信ってもんですよ。
やったぜ・・・。
というか1巻の内容、ほぼほぼこのあらすじに集約されてしまうんですが。
なんといっても可愛らしい絵のタッチと、ヒリヒリとしたモノローグのバランスが絶妙。痛くても痛くても、恋心を手放すことができない苦しみ。幸せなれるわけがないと自分を諭しておきながら、それでも堕ちていく悲しい矛盾。
主人公の少女の苦悩に身をよじりつつ、しかりながらその恋の相手である薫瑠さんの天真爛漫な魅力と、その包容力!
薫瑠にとって主人公は、夫の妹で、幼馴染で、守りたい家族で――
そんな風に”特別”に扱われるほどに、よけいに拗れていく片想い。
不憫な恋をする男女のことがだいすきなみんな~~~! ・・・ここが楽園だ・・・
初情事まであと1時間/ノッツ
大発明だ。そう言うほかない至高のコンセプトはずばりタイトルそのままだ。
例えばサッカーで歴代の名試合・名プレイを集めた番組があったとして、見てる誰しもが試合中のムービーを見ながら「このあとなんかあってゴールして得点が入るわけね」って分かりきっているわけじゃないですか。でも滅茶苦茶楽しい。綺麗に場面が繋がって、そして最高潮のシーンで結ばれる。結果が分かっていても、いや結果がわかっているからこそワクワクしながら過程を見守れる。
くどい例えをしてしまったけれど本作が楽しいのもそれなのだ。
結果ヤッてしまうと分かっていながら読み進めて、そしてまんまと”そういう流れ”に発展していった時、興奮と安心が一度にやってきて最高に幸せ。最高のカタルシス・・・!
ちょっぴり情けない男の子や女の子が、それを受け入れてくれる誰かに触れる・・・
というそれだけで、その瞬間の奇跡の価値で涙腺がぶっ壊れてしまうのだ。
コンプレックスがあったり、人と接するのが怖かったり、変化を恐れたり
様々な理由があって、けれどそれを踏み越えてしまう愛おしい瞬間たち。
すこしだけ、男性側が受け身体制のものが多いことが気にかかる所ではあるけれど、まぁ女の子から積極的に来てもらって悪い気がするわけがねぇんだよな(悟)
もとはコミティアで発行された同人誌がはじまり、当時から大好きだったシリーズです。それが連載となりもっといろんな世界の「初情事まであと1時間」をニマニマ楽しむことができるようになった奇跡・・・。500巻くらい続いて欲しい。
あさは、おはよう/大澄 剛
あれ、これ去年末発売だった・・・まぁいいや・・・。
書影ではモノクロで少女の笑顔が描かれていますが、これ実際に書店で買うと表紙下部分のイラストを覆うような大きいカラーオビが巻かれていて、それをとると少女の笑顔が現れる仕掛け。
もともとオビと本体が一体となったデザインって大好きなんですよね。
本作で言うと、これが本編を読むとまた二重に意味が変わってきて、「本」としての面白さがある。こういう見せ方や演出で紙のコミックスならではの意味を持たせてくれるの好き。
内容としては家族ドラマだったり青春物語だったり、人情モノのオムニバス6作。
それぞれ単独としても楽しめるんですが、微妙につながりがあったりして、
その中心にあるのが表紙の女の子ですね。
特にすきなのはノスタルジーあふれる少女同士の絆を描いた「イコール」、幼少の恋心との決別、あるいは新たな始まりを感じる「さよならわんぱく」。この2作がお気に入りなですが、短編集として雰囲気も統一されており、ついつい涙腺が緩んでしまうような、優しさと切なさと眩しさが詰まった本になっています。
話題になるタイプではないせよ、素直に、暖かな漫画ですね。
発売年的にルール違反(まぁ縛りという意味で)ではありましたが、触れておきたい漫画だったので。
そんな12作でした。
新作開拓も過去と比べるとかなり減っては来てしまいましたが、なんだかんだで表紙買いとか結構してしまうんですよね。次もこの縛りで更新やるかどうかは分かりませんが。またよろしくお願いします。
ということであまり更新もできぬままこのザマですが、せっかくなので上半期のまとめ的な記事でも。
「新作コミックス」というのは、今回の括りで言うと、第1巻だったり単巻モノだったりを指します。
なぜ12作かと言うと、10作のつもりでガーッと書き始めて、あとで数えてみたら12個分だった・・・
ということで。順番はあまり関係ないです。 ↓↓↓
狭い世界のアイデンティティー(1) (モーニングコミックス) 押切蓮介 講談社 2017-04-21 売り上げランキング : 11164 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
狭い世界のアイデンティティー/押切蓮介
押切蓮介先生は本当に多彩で多作だ。
新作である「狭い世界のアイデンティティー」はズバリ漫画家マンガである。
しかも思いっきり歪ませた、おふざけ全開の、血で血を洗う漫画家バトルロワイヤルだ・・・!!
兎にも角にも勢いが素晴らしい。第一話の冒頭からぶっちぎってカッコいいので読んでいない方はぜひこちらからでもどうぞ
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このヤケクソテンション!胸焼けしそうな殺気!一度漫画家が寄り集まれば、そこは修羅の巷!!
幾多もの天才たちが蠢く漫画界、そこに誰ひとりとして凡人は存在しない!!己のプライド、欲望、承認欲求、漫画愛・・・さまざまな感情が交錯しハチバチと爆ぜる!!
主人公は、兄を出版社に殺され復讐に燃える少女。
生半可な覚悟では生き残れない過酷なマンガ業界。そこに彼女は挑んでいくのだ。己の漫画が・・・2割くらい・・・!!のこりは大体暴力で解決し、のし上がっていく!!!ライバルたちを蹴散らしその頂上への駆け上るのだ!!
破茶目茶なギャグテイストが濃厚な本作ですが、過剰に描写した中にも漫画家の本音のようなものも潜んでいる気がして(出版社の忘年会で渦巻く欲望だとか・・・)なかなか笑っているだけで終わらせるのももったいない。耳を済ませて、この下らない騒音の中に潜んだ本当の声を探してみたくなる。すごく繊細で、ギャグっぽく照れ隠しした何かが、熱いものが、たしかにこの漫画にはある。
それはきっとこんな漫画を手にとるような、漫画が好きな人にこそ分かる気がする。
明日ちゃんのセーラー服 1 (ヤングジャンプコミックス) 博 集英社 2017-04-19 売り上げランキング : 1888 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
明日ちゃんのセーラー服。/博
表紙の”圧”やばくないですか!?もうなんにも知らなくてもレジ直行、表紙買いセンサーとかまったく無意味の圧倒的な暴力性。かわいい女の子の本を買いたい。ソレだけなんだよ!
と思ったら中身もすごいんです。「明日ちゃんのセーラー服。」はかわいい顔してかなり尖った漫画ですよ!
作者「博」先生と言えば「アクアリウム」から素晴らしく美麗かつ多彩な少女絵描きさんという印象でしたが、本作はさらに特性を爆発されたような感じ。
ストーリーはシンプルで、田舎の名門中学にあたらしく入学した主人公、明日小路ちゃんの学校生活を描いた、おだやかな日常者。目標は、友達をたくさんつくりたい。みんなと仲良くなりたい。なんて等身大の願いだろうか・・・優しい気持ちになれる・・・。
個人的にも大好きなんですが、フェチ写真家の青山裕企さん写真集のような
「ここの動作に、この一瞬に目をつけるか!」と言ったような驚きと輝きがちりばめられていて、自分の中に新しい視点が生み出されていく。
ただ髪を結ぶだけのシーンをじっくり描いてみせたり、極端な例を上げると、アイドルを夢見る小路ちゃんが妄想の中でアクロバティックなキメシーンを炸裂させるその妄想の中身を、1ページまるまる使った大ゴマを14ページも連続させて描写したり。
つまりフェチ描写を優先させるがあまりコマ割も放棄して、イラスト集はたまたパラパラ漫画のような構成になる瞬間が度々ある。この情熱のほとばしる感じ、たまらない。
ここらへんはWEB掲載漫画ということも影響しているのだろうけれど、なんというか非常に21世紀的な、『ディスプレイで読む漫画』としての特性を備えているように感じます。
それなのに、個人的には紙のコミックスで読むことがとてもうれしい。
あどけない少女たちが一瞬、ほんの僅かみせるゾクリと背筋が震えるような”魔力”を、みごとに神とインクで閉じ込められている魅惑のコミックスなのですよ。まさに、宿っている、のだ。
それの最たるものがこの表紙。冒頭に戻りますが、”圧”やばくないですか。
物語の面白さというより創作物として独特の存在感を放つ一作。
ツイッターで絵師さんが投下するモノクロ1枚絵の少女絵をとかをお気に入りに放り込んでいるようなムッツリスケベに是非読んでほしい。
不滅のあなたへ(1) (週刊少年マガジンコミックス) 大今良時 講談社 2017-01-17 売り上げランキング : 1416 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
不滅のあなたへ/大今良時
「聲の形」という傑作を送り出した作者の新連載。
期待の大きかったであろう中で繰り出してきたのは、けっこう予想外だった。SFでもあるが、冒険ファンタジーと読んでもいいのだろうか。それにしたって哲学的だ。けれど王道のようにも感じる。個人的にはなんだか少し、漫画版のナウシカのような雰囲気にも感じます。
もしくは雰囲気で言うと、半世紀くらい昔の、外国の冒険小説みたいな。
後に不死<フシ>と呼ばれる生命を、神は世界へと産み落とした。
それは死者の肉体を借りながら次々に形を変え、世界を彷徨っていく。
おぼろげな思考。おぼろげな本能。様々な出会いを経て、フシは変化をしていく。
まとめてみるとシンプルなんだけど大今先生の独特のテンポや描写力によってグッと深みを増した、とにかくメッセージ性の強い作品に感じます。
生命における死だとか、理不尽な掟、絶望的な暴力・・・
世の中のいろいろな”抗いがたいもの”に対する強い怒り。そして反抗心。
肉弾戦という括りだけではなくメンタル的な部分も含め、広義な「戦い」が展開されていく。読んでいると本当に心が突き動かされる。今年になって漫画を読んで泣いた経験は、たぶんこの作品だけだったかもしれない。
誰かが残したメッセージをフシは受けとり、そのつもりは無くても誰かに繋いていく。フシは主人公として、メッセンジャーの役割を担っているのですね。
ストーリーの緩急の付け方もお見事。個人的には、数巻溜まってから一気読みすると面白さ倍増パターンの漫画かなとも思います。
おじさんとみーこ 上 (ZERO-SUMコミックス) 朝日 悠 一迅社 2017-05-25 売り上げランキング : 67610 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
おじさんとみーこ/朝日 悠
やさぐれ金髪おじさんが、初心なJCを手篭めにするお話。
それはもう語弊もなんでもなくストレートにそういう話で、生理的に付け付けないという人もいるだろうとは思う。が!!!そんなことは!!!どうでもいい!!!
いいか俺はちょっと背伸びした危険な恋にゾクゾクしてるJCを眺めていたいんだよ!!!
身寄りをなくした少女のもとへ、おじさんがやってくる。
互いに孤独を内に抱えた2人は共鳴するかのように、ぬくもりを、安らぎを求めていく。
少女漫画らしいほわほわと幼気なタッチから紡ぎ出される物語は、絵柄で緩和はされてはいるが、非常にアダルトでいやらしい世界観となっている。
だってもう、流し目でタバコ蒸す怖いおじさんと、いたいけな女の子が同居してですね、もうイチャイチャちゅっちゅしまくりなんですよ。そりゃヤルことヤってますし。思いの外遠慮なくエロいよ。
1巻ではゲスト的に部外者の男性が登場し、ズバリ2人の関係性を異常だと指摘する。しかし少女は静かに彼と決別を果たす。哀れんでくれる男性の手を取らず、より闇を深くしていく。ここらへんの演出は同人誌版とくらべても秀逸だった。
世界から疎外されているような、薄暗い空洞がどちらの胸にも存在して
まるでその深さを確かめ合うように、やはり抱きしめあってしまう。
切迫した2人の心理描写と、ドロッドロになるまで甘くなったイチャラブシーンの波状攻撃にすっかりやられてしまうのです。下巻のカラー口絵なんかもう泣けてしまうから・・・。
コミティアで通ってシリーズを買い集めてたんですが商業出版化。
前からちょくちょくある流れのやつですが、なんだかんだで嬉しい半面ちょっとさみしいヤツですよね。
しかし商業単行本として冷静にこの漫画を読むと、あまりにも強いコミティア臭にクラクラしてしまう。あの”におい”、我々の脳みそに直接感覚を呼び覚ましてくれる。
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日々是平坦/迂闊
あぁァーーーーーーこんな青春が欲しかった。それだけなんだよ。
迂闊先生が楽園本誌とWEB増刊で連載しているふたつのシリーズをパッケージした「日々是日常」の1巻。
収録の2シリーズが毛色が違っていて、同じ学校で同じ時間を共有しているはずなのに、“バカサイド”と”リア充サイド”では文字通りに見えている世界が違っていることが丸分かりになっている一冊なのです。
おバカたちは楽しくどうでもいいことで盛り上がっている一方で、
初めてのお付き合いに戸惑い赤面しあってしまうような初々カップルがいる。
けれどどちらかを選ぶこともできないような幸福さ。いわば両A面盤!
青春の美味しいところばかり食べてしまおう。レッツ・ハイスクール!(謎)
なんといっても『純粋男女交際』がね、ほんと、もうむり。
彼らの脈拍が、吐く息の湿り方が、ふとした瞬間に目を奪われる静寂が、全部生々しい。
真面目なばかりの2人だけと、周囲がイメージしているよりかは、ちょっとだけナイショが多かったりして。ちょっとだけ(きっと)走りすぎていたりして。
非常にプライベートな内容を、第三者目線のモノローグが気持ちのいい切り取り方をしてくれている。
体が温まった所でやってくる『日々是平坦』のバカバカしさで一気に喉越し良くなる感じ。意味わからんな。なんかグイッとツルッと行ける面白さなんですよ。
そんなこんなの一冊。よくあるようでなんだか特別。迂闊先生の描く女の子はみんな健康的で素晴らしい。
ルポルタージュ (1) (バーズコミックス) 売野機子 幻冬舎コミックス 2017-06-24 売り上げランキング : 2716 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ルポルタージュ/売野機子
2033年。恋愛する者がマイノリティとなった社会が舞台。
売野機子先生といえば詩的な恋愛漫画の名手ですが、最新作「ルポルタージュ」はまさに売野ワールドが全開になっている。
”飛ばし”結婚という現代的な結婚・・・恋愛感情を必要としないパートナシップのような共存生活を人々が選択している。
この社会においては、結婚相手とは『共同経営者』という考えなのだ。
現代の思想のその先を見せてくれる設定、有り得そうな近未来のビジョン。
そんな中でテロ事件を追う主人公が、とある男と出会ったことで
さらに深く事件へと巻き込まれていく。そして、恋をする。
もともと好きな作家さんではあったけれど、本作はとくに作家さんの独自色が色濃く出ているように感じますね。まさしく真骨頂と言える。
描かれている世界観も素晴らしい。恋愛は人生に必要不可欠だった時代はもうとうに終焉していて、人々は次の生き方を見つけている。そんな時代に、あえてムダな恋愛に落ちてしまう。もはや本能的に、直感的に、致命的に、誰かを好きになってしまう。その理不尽さに誰も抗えない。
「非・恋愛コミューン」というシステムも描き方も、刺さる所がありますね。
大恋愛の果てに結ばれても、離婚する夫婦ばっかりだ。
そんなのを見ていれば恋愛がおっくうにもなるし、もっとシンプルで「めんどくさい」という感情に支配されてしまう。
それならば最初から相手をしっかり見極めて、全て計算して調整して、安心で丈夫な『強い家庭』を作っていこう、と。まるで自衛策のようで。傷つきたくないという思いが強い、省エネ主義的な思想も、非常に現代的に感じますね。
続刊においてはどんどんとこの世界観の深掘りもされていくことでしょう。
それに、こんなに鮮やかに1巻を締めくくられては、2巻も買うしかない。
売野機子という才能の在り処がきちんと見つけられたような作品。
「自分は恋をしなくても生きていけると 思っていた頃があったんだってさ…」
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おとなとこども、あなたとわたし。/糸なつみ
「年の差」がテーマのオムニバス漫画。もうテーマから絵から内容から全部好き。コミックitというKADOKAWAの中でもちょっと異質な女性向け誌に掲載されており、コミクスが出るまで知らなかったのですが、読んでみたらもうドンピシャ。まぁコミックit自体がそもそも好みだったということもある。
1巻2巻が同時発売されたのですが、1巻だけ最初に買って、次の日にはすぐ2巻を買いに行ってましたね・・・。
3つのストーリーがありまして、1巻につき各1話ずつ、同時進行していく。
それぞれが違った角度から「年の差」を軸にしたドラマが展開され、それは切々とした恋のお話だったり、すでに亡くなった人物によって繋がれた疑似家族だったり、同じオフィスで務める女性同士の交流だったり・・・
読んでいると作者の年の差属性の強さを感じる。生半可なものではないのですよ。年の差によって隔たれた人生観。視線の違い。年をとる事で失ってしまったもの・・・。
生きてきた時間の違い。それは時に残酷なほどに人々の間を切り裂き、すべてを傷つけていってしまう。シビアな側面もかなりフィーチャーされていきます。
いわゆるオトナ女子向け、レディース漫画っぽい内容ではありますが
ソフトな絵のタッチと、作者のエモい完成によって幅広く受け入れられそうな作品ですね。
3つのストーリー、それぞれ甲乙つけがたいほどに味わい深く、「どれ派」かでも知り合いと話し合ってみたいくらい。いやぁ。年の差OLのオフィスドロドロ物語、イイヨネ。
怒りのロードショー マクレーン KADOKAWA 2017-01-30 売り上げランキング : 41727 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
怒りのロードショー/マクレーン
映画好きの「語り」をメインに据えたような作品、いくつか浮かびますが、中でも個人的にはこれが好きかなぁという一作。
絵も内容も荒削りなんだけれど、ソレがゆえに我武者羅なエネルギーがビシバシ放たれている。
そもそもペンネームが「マクレーン」て。その時点で相当おバカな香りが漂ってきますね。
とっても下らない、しかし愛にあふれる映画好きたちの日々。
時に言い争いをしたり、時にいっしょの映画を見て震え立ちあるいは涙する!
ぶっちゃけ読んでてよくわからないネタも頻出する。映画好きなら拾えるものが多いと思うけれど、有名な筋肉映画をそんなに見れていない自分はクエスチョンマークもいっぱいだ。でも面白い!!例えば友達が必死なテンションでオタクトーク全開してたら話の意味はわからなくても面白いじゃない?そういう感じなんです。そして話をきいているとワクワクする。ムズムズしてくる。俺も、その映画、みたい・・・!!!
というか実は映画語りと同時進行的に「オタク」という人種の生き様も熱く描いてくれる。
理解もされず、むしろ違う方面のオタクから理不尽な争いを持ち込まれたり、なんなら同じ映画オタクの中でも娯楽主義or芸術主義といった火種がそこかしこに散りばめられる。
なんというかこの漫画は際どい。ブレーキ積んでいない車みたいに、楽しい気分のまま次には冷水ぶっかけられるようなスリリングな展開が待ち受ける。
けれど結局は、自分の大好きなことを誰かを共有できる歓びが、この作品の圧倒的な肯定感を裏付ける。
あと出てくる女の子がだいたいとても優しくておちんちんにくる。(お姉ちゃんはNG)
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幸色のワンルーム/はくり
少年は大好きな大好きなだいすきな少女を誘拐した。そんな危ないオープニング。
欲望のままのその行動は結果、どん底にいた少女を救い出すことになった。
しょせん誘拐犯とその被害者というただそれだけの共存。
なのにそのワンルームに、不思議な温かさが宿ってゆく。
なんて危うい漫画なんだろう。
エンターティメントとしてこの漫画を飲み込むことができない人だって、きっと大勢いる。けれどこんなにも切実に、お互いの空白を埋めることだけを目的とした共存関係を。スレスレで恋愛に陥らないような、もはや手遅れないような、この不思議な絆を。じっと見守りたくなる人も大勢いるはずだ。
発売、即重版。自分もしばらく入手ができず、たまたま入った小さな本屋で初版を購入できましたが、非常に話題性のある作品であることは間違いない。
どうしようもなく寄り添うことでしかもう生きていけないことを、お互いに知ってしまったのに、「誘拐犯」「被害者」という関係性でしかお互いを赦すことができない。だからイビツな感情にふたりともが絡め取られていく。
あまりにも純粋な将来の誓いを、彼らは破滅のために結ぶ。
だからギリギリで心を許し合わないような、けれど自身が理解しきれていない本能レベルで互いに依存してしまっているような、あまりにも切実で子供じみた男女のストーリーに転がり込んでいくのです。いわゆるエモいってやつなんだよな。
ぶっちゃけ読んでスッキリする話なんかじゃなくて、ニヤニヤゴロゴロできるものでもなくて、描かれている人間の汚さとか世界の歪みとか理不尽な暴力とかに目を覆いたくもなる。でも素直に、幸せになってほしいなと、祈りたい。
商業連載ではあるけれど非常に『ネット』の世界のあの、というかこんな感じの、いろんな黒いものを感じる作品ですね。
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たとえとどかぬ糸だとしても/tMnR
大好きなtMnR先生の商業デビュー作。モチロン最高だった(条件反射)
同一作品ジャンルでたぶん人生で1番買い漁ったのが「ラブライブ!」同人で、好みのCPはあれどわりと無差別にシリアス系のを収集していましたが、そこから商業誌に進出してくれました。
そんなデビュー作ですが、もうあらすじの時点で勝利を確信ってもんですよ。
ごくごく平凡な高校生、
鳴瀬ウタには、人には言えない秘密があった。
それは、実の兄のお嫁さんである薫瑠に恋をしていること。
決して実らない恋だけど、日々の営みが嬉しくて、
その一方で兄との新婚生活を見ていると胸が張り裂けそうで…
彼女は心を押し殺す。
そっと心に秘めた恋心が、目を覚まさないように――。
やったぜ・・・。
というか1巻の内容、ほぼほぼこのあらすじに集約されてしまうんですが。
なんといっても可愛らしい絵のタッチと、ヒリヒリとしたモノローグのバランスが絶妙。痛くても痛くても、恋心を手放すことができない苦しみ。幸せなれるわけがないと自分を諭しておきながら、それでも堕ちていく悲しい矛盾。
主人公の少女の苦悩に身をよじりつつ、しかりながらその恋の相手である薫瑠さんの天真爛漫な魅力と、その包容力!
薫瑠にとって主人公は、夫の妹で、幼馴染で、守りたい家族で――
そんな風に”特別”に扱われるほどに、よけいに拗れていく片想い。
不憫な恋をする男女のことがだいすきなみんな~~~! ・・・ここが楽園だ・・・
初情事まであと1時間 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ) ノッツ KADOKAWA 2017-05-23 売り上げランキング : 8045 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
初情事まであと1時間/ノッツ
大発明だ。そう言うほかない至高のコンセプトはずばりタイトルそのままだ。
例えばサッカーで歴代の名試合・名プレイを集めた番組があったとして、見てる誰しもが試合中のムービーを見ながら「このあとなんかあってゴールして得点が入るわけね」って分かりきっているわけじゃないですか。でも滅茶苦茶楽しい。綺麗に場面が繋がって、そして最高潮のシーンで結ばれる。結果が分かっていても、いや結果がわかっているからこそワクワクしながら過程を見守れる。
くどい例えをしてしまったけれど本作が楽しいのもそれなのだ。
結果ヤッてしまうと分かっていながら読み進めて、そしてまんまと”そういう流れ”に発展していった時、興奮と安心が一度にやってきて最高に幸せ。最高のカタルシス・・・!
ちょっぴり情けない男の子や女の子が、それを受け入れてくれる誰かに触れる・・・
というそれだけで、その瞬間の奇跡の価値で涙腺がぶっ壊れてしまうのだ。
コンプレックスがあったり、人と接するのが怖かったり、変化を恐れたり
様々な理由があって、けれどそれを踏み越えてしまう愛おしい瞬間たち。
すこしだけ、男性側が受け身体制のものが多いことが気にかかる所ではあるけれど、まぁ女の子から積極的に来てもらって悪い気がするわけがねぇんだよな(悟)
もとはコミティアで発行された同人誌がはじまり、当時から大好きだったシリーズです。それが連載となりもっといろんな世界の「初情事まであと1時間」をニマニマ楽しむことができるようになった奇跡・・・。500巻くらい続いて欲しい。
あさは、おはよう -大澄剛短編集- (ヤングキングコミックス) 大澄 剛 少年画報社 2016-12-26 売り上げランキング : 49952 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
あさは、おはよう/大澄 剛
あれ、これ去年末発売だった・・・まぁいいや・・・。
書影ではモノクロで少女の笑顔が描かれていますが、これ実際に書店で買うと表紙下部分のイラストを覆うような大きいカラーオビが巻かれていて、それをとると少女の笑顔が現れる仕掛け。
もともとオビと本体が一体となったデザインって大好きなんですよね。
本作で言うと、これが本編を読むとまた二重に意味が変わってきて、「本」としての面白さがある。こういう見せ方や演出で紙のコミックスならではの意味を持たせてくれるの好き。
内容としては家族ドラマだったり青春物語だったり、人情モノのオムニバス6作。
それぞれ単独としても楽しめるんですが、微妙につながりがあったりして、
その中心にあるのが表紙の女の子ですね。
特にすきなのはノスタルジーあふれる少女同士の絆を描いた「イコール」、幼少の恋心との決別、あるいは新たな始まりを感じる「さよならわんぱく」。この2作がお気に入りなですが、短編集として雰囲気も統一されており、ついつい涙腺が緩んでしまうような、優しさと切なさと眩しさが詰まった本になっています。
話題になるタイプではないせよ、素直に、暖かな漫画ですね。
発売年的にルール違反(まぁ縛りという意味で)ではありましたが、触れておきたい漫画だったので。
そんな12作でした。
新作開拓も過去と比べるとかなり減っては来てしまいましたが、なんだかんだで表紙買いとか結構してしまうんですよね。次もこの縛りで更新やるかどうかは分かりませんが。またよろしくお願いします。
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