過去も未来も かなしみもよろこびも全て 『僕だけがいない街』9巻(外伝)
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誰かいませんかー?
ヒット作となった「僕だけがいない街」第9巻。
本編は8巻で完結しており、9巻はサブキャラクターたちに焦点を当てた外伝集となっています。
9巻として出たのでやや分かりづらい仕様かもしれませんが、内容は充実の一冊。
ヒットした後に、しかも本編が終わったあとで出る外伝って、いかにも商業的な事情を勘ぐってしまうものではあるけれど、大事に描かれていることが伝わってきました。
本編最終話に登場する、主人公のモノローグです。印象的。僕だけがいない街
そこに刻まれた時間こそ 僕の宝物だ
いろんな解釈はあれど、主人公の口から語られた本作タイトルのひとつの答えでもあり、この作品のストーリーを思い返しながら噛みしめると、染み染みと、主人公の感動や切なさや、誇りと感じられるものが、たしかに伝わってきます。
9巻はいわばそこの、「僕だけがいなかった」街の日々を描いた群像劇。
誰もがあの悲劇に縛られながら、しかし主人公が確かに変えることができた日々。
様々な角度からもう一度物語を見つめ直す、番外編にして最後の一幕。
装丁も、特別感があります。実際手に取ると分かるんですけど、「Re:」の形でニス?で加工されています。こういうの好き。家でシュリンク破るまで仕掛けに気が付きませんでした。
『雛月加代』
中学に進学した雛月からスタート。彼女は真相を知らないけれど「自分のためにひどい目に合せてしまった」と人一倍、悟に対する罪悪感が強かった彼女。やはりというべきか、ずっとずっと、献身的に悟の看病をしてくれていた。
本編でも一部語られていた内容ではあるけれど、悟が眠りについているあいだの雛月というのは非常にドラマチックな要素でもあり、読めて嬉しいです。
個人的には最初本編で雛月があの形で再登場して、おもいっきりドキンとさせられたんですが・・・・・・・・こうして見てみると、大正解。中学の雛月、みちゃおれん。
この作品は大人がきちんとカッコいいのも好きだったポイントで
本エピソードはやっぱりかあちゃんが素敵すぎるんだよなぁ
雛月の描写は痛々しくもあるけれど、こんなに多彩な表情を見せてくれて、すごく生命力を感じるんですよね。そういう意味でも、悟の行いの価値が、ここで輝く。
『小林賢也』
いやぁ・・・本編最終話はいいブロマンスでしたね・・・。BLとも違う、友情とも違う。けれど非常に強く結びついた男と男の、使命を共有し戦いを終えた者たちのドラマ、その終着点・・・!!
というわけで主人公・悟のよきパートナーであり理解者であり、ともに事件を追った小林賢也少年のエピソード。
今にしても思えばアホですけど、ミステリアスなキャラだったせいで、本編読んでる最中はじつはコイツが犯人の可能性は・・・?とか考えていました。
しかし今回で彼の中身がすべてわかりましたね。
優等生がゆえの達観や苦悩、そして自らを恥じ、人間としてみるみる成長していく姿を見ることができます。いやぁ、出来た両親だなぁ・・・。
クールだった少年を、情熱が突き動かしていく。シンプルに熱い。
『藤沼佐知子』
作中ナンバーワンのイケメンキャラ。通称かーちゃん(通称ではない)
母親という立場からよりハッキリと悟の動きを見てきた人物でもあり、母親であることからそこに複雑な思いも抱いてきた女性キャラクター。
離婚という過去が悟に与えた影響というのが実はあんがい大きかったのだというのが今になって分かるんだけれど、母親からすると、息子の成長というか変化って本当に著しいものだろうなとも思う。だってある日から突然、息子が中身だけ年食ったんだもんな・・・。
しかし彼女の視線から物語を見ると、俺は彼女を超人的な女性だと思っていた部分があったんだけれど、それは違ったんだなと思う。彼女の素質もあるが、母親なりの気付きが大きい。注意深い観測・観察のなせた技だったのだ。
「でかした あんた達」といい、本当に心強い言葉をいくつもくれた。
母子のキズナもテーマのひとつとなっていた本作だけに、非常にエネルギッシュな番外編でした。読めてよかった。
『片桐愛梨』
本作ヒロインの、本編最終回の直前までのエピソード。
彼女の底抜けのポジティブさというか、キラキラした佇まいって、きっと過去に戻る前の主人公に影響を与えていただろうし、つまり本編の重要人物に間違いない。
ただ、過去の事件に迫るというメインストーリーである以上、どうしても後半からは彼女の出番が少なかったのが寂しかったな・・・が!やはりヒロイン!最後は持っていく!
多くは語りませんが、そしていつの頃かは知りませんが、
物語はコミックスのカバー裏へと続くのです。
その2人分の足跡は、8巻最終話とも見事にリンクしており、いやぁいい終わり方。
しかし雪に閉ざされていく、静寂が際立ったラストシーンのなんと美しい事か。
舞台が雪国であり、そして本編も、時効となり人々の記憶から消えていく事件を解決するための物語だった。
「雪に覆い隠されていく」ことそれ自体が、この作品を鮮烈に彩る風景だった。
覆い隠されたものを暴き、そしてまた未来は雪に閉ざされていく。
という感じで、個々のキャラクタの視点から空白の期間を描いた番外編。
きっちりと8巻で完結した作品ですが、蛇足にならずにうまく読者がみたいポイントを描いてくれている一冊だと思います。
特に傷ついた雛月・ミステリアスな少年だった賢也のエピソードは、作者がなくなく本編から削ったというのが納得の内容の濃さでした。
これでいよいよ一連の「僕だけがいない街」シリーズも完全完結かな。
とても読み応えのあるミステリー漫画でした。著者の新作も楽しみです。
『僕だけがいない街』9巻(外伝) ・・・・・・・・・★★★★
外伝集。読みたかった断片たち。そしてやはり物語の雪の中で終わっていく。
一貫したテーマを感じます。
[漫画]取り戻せるかな、あの頃夢みたこと『はれたら明日!』
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ああ でも カッコわるいほうがいろいろできるな
高嶋ひろみ先生の1巻完結青春漫画「はれたら明日!」の感想です。めちゃ爽やかだぞ!
「加瀬さん」シリーズの第3巻と同じタイミングで出た一冊。
リアルのことをお話しますとこの秋転職しまして、来月から新しい職場になるってタイミングなのですが、退職願をほぼ勢いだけで前の会社に突き出してしまってから次の会社が決まらないめちゃくちゃ不安な時期に読んで、自分にちょっと勇気をくれた本が「はれたら明日!」です。
大人になってから、1度は諦めた夢を再び追うために人生をやり直す!系のストーリーで
普段読んでても好きなテーマではあったのですが
前略のような状況で読んだらもうなんかかなり揺さぶられてしまったので、久しぶりにレビュー書きたいな、と。
自分自身そんな夢をもう一度どーだとか大層な転職をしたわけでは無いですが、新しいことをやったろうというエネルギーはもらいました。きちんと前向きな青春物語であり、ポジティブな光に満ちた漫画です。
岡山の田舎から上京し、東京で順風満帆に社会人生活を送るイケメン青年原田。
同僚上司からの信頼も厚い彼でしたが、昇進の話を持ちかけられた彼は
それを保留にしてその脚で故郷・岡山にふらりと帰ってきます。
懐かしの地で偶然出会った女の子は、原田がかつて教育実習で短期間だけ小学校に行ったときの教え子。
その少女・梅村ひなの前向きさに支えられながら、教師という夢を再び目指しだす原田。
かつての友、幼馴染、そして家族。自分が去ったあとに確実に変わった故郷の中で、
あがきながらたまに息抜きしながら再スタートを頑張る、大人の青春漫画。
う~~~んなんだこの清々しいストーリーは!
1巻完結ということでテンポよく物語も転がり、ラストは爽快な気持ちにさせてくれる。
主人公の原田とひなちゃんのコンビも見ているだけで微笑ましい・・・!
高嶋先生らしいかわいらしくてPOPな世界の中にはとてもとても癒やされますね。
しかしそれだけではない。
変わりゆく風景、住まう人々。見ないフリをしていたかつての夢。
一度捨てたはずのものに、真正面からもう一度向き合っていく。
そこに伴う切なさや戸惑いや、再会の歓び、うまくいかない現実への苛立ち・・・
マイナスな気持ちも、たしかな温度と重みを持って描かれる。ここが良い。
描かれている主人公たちの年齢(20代)が近いこともあってか、親近感の湧く作品。
生徒であるひなちゃんとの関係性も良い。
主人公からすると恋愛的な色っぽい感情が介されず、自分を現実に向きあわせてくれる、大人になって臆病になった脚を無理にでも歩かせてくれるような、眩しくてほっとけない存在。
ひなちゃんとしては、結構ロコツに主人公に対する好意を押し出してるんだけれどもw
現実に思いが届くかどうかは置いといて、そういう距離感のまま最後まで進む。
この作品においてはそのことが心地よい。
なにより梅村ひなちゃんがかわいいんだ。本当に。
あの生命力のカタマリのような天然色のキラキラはまぶしすぎるよ・・
原田との恋愛については、幼馴染であり今は教師となった山口さんが魅力的な立ち位置だ。
同じ夢を追ったこと、学生時代の思い出、原田から一方的に距離をとられてからも、彼女は彼女なりの教師人生を歩んでいた。そして今再び、ふたりの人生が交差する。
ネタバレになってしまうので伏せますが、彼女との「憧れ」の関係性がとても好き。
第5話のふたりのエピソードは本作の1番の盛り上がりどころ。甘酸っぺェ・・・甘酢っぺえよ!
最終話での原田と父親のやりとりは静かに泣ける。
かっこわるいほうが身軽でいろいろできると気づくってのはこの作品で言われると響くなァ。
もともとこの作家さんのファンだったために何気なしにレジに持って行った1冊でしたが、いい作品だったなぁ。
仕事にまつわる大人の青春物語。
田舎の寂れた空気とか、田舎特有のやたら結婚が早いような雰囲気とか
そういう部分でも「わかるわかる」なところ盛りだくさんでした。
ありがちっぽいタイトルだけど、ラストにああやってこのタイトルを盛り込まれてしまうと爽やかで好き。
『はれたら明日!』 ・・・・・・・・・★★★★
自分にとってはタイムリーすぎた。それ差し引いても綺麗にまとまった読後感のいい物語。
[漫画]悲しい運命が脈動する。優しい戦士は笑いかける。『ブレイクブレイド』13巻
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馬鹿め… …勝った奴が… 泣くな…
ブレイクブレイド最新刊、第13巻の感想。
ロボット戦記モノらしい、バッチリと格好良くキマった表紙にしびれる!!
冷たい眼をしたゼス。涙を流すライガット。交差するゴゥレム!
11巻12巻とわりと平和なイラストだったのですが、今回の表紙は緊迫感があってたまりません。このままポスターで欲しい。
しかし作者コメントを見たら「表紙詐欺は続くよどこまでも」と書いています。いやそれを言っちゃあおしめえよ。たしかに今回のゼス様は、ほぼ良いとこナシだったからな!!
前巻の感想→避けられぬ衝突!戦争への加速!『ブレイクブレイド』12巻
戦場復帰したゼスと、国の英雄となったライガットが相見える。
2人の直接対決は第3巻以来。あの一戦で脚を負傷したゼスは治療のため戦線を離脱。そしてボルキュスが率いる進軍が始まった。そして戦争。そして決着。
いまやゼスの立場も激変している。いまや危機的状況に陥ったアテネスの東方討伐軍・筆頭将軍として、あまりに多くのものを背負う身となっている。
さぁ!いよいよ切ない展開に入ってきましたよ!
つまり、かつての仲良し4人組がいかに引き裂かれ、苦悩し、運命に翻弄されるのか!
「運命に、抗おう―――」という本作の重要なコピーがあります。
つまり運命の苛酷さがまずある。それは13巻のここに至るまで多数の死のドラマを踏み越えていることから理解しています。けれどここからはいよいよ、主人公たちがその渦中に飛び込んでいく。
囚われたシギュン。彼女の処刑を目論むゼス。それを止めたいライガット。国王として身動きのとれないホズル。
いいぞ…こういうのがたまらないんだ…!ハッピーエンドを望みつつ、途方も無い悲しみや離別や喪失だってきっと待ち受けているんだ。
引き裂かれた昔なじみ4人のドラマについて言えば、シリーズ最大級の盛り上がりへと突入していく!
この13巻、ゼス関連の謎がサクサクと種明かしがされていくのが意外でした。
・ゼスとライガットが共有していた秘密――ゼスがアッサム国立士官学校に入学した理由とはなんなのか。
・ゼスが抱えるロキス書記長への“負い目”とは、過去に何があったものなのか。
これらが見えてくることで頑ななゼスの現在にも納得がいくし、4人の絆のルーツを知ったことで更なるセンチメンタルが加速する。最初から…なにもかも、うまくいくはずがなかったのだ……!!!
それにしても、もっと勿体ぶって種明かししていくかと思った。
そして始まるゼスとの対決。
しかしこれはまぁー、ライガットさん強すぎィ!!
11巻予告の「お前は…誰だ…?」がまさかゼスがライガットに向けて言ったセリフだったとは。ゼスは作中だと強キャラなのにライガット相手だとそれがイマイチ実感しづらい、なんという不幸イケメン…。
まぁそれは「手加減はしないぞ。貴様を殺す(キリッ」とか言っても心のどこかでブレーキがかかっているのか、はたまたライガットがマジでヒーローすぎるのか。
まるでお手玉のように、2本の武器を空に投げてはキャッチして攻撃、投げては次のをキャッチして攻撃……片手二刀流という離れ業まで披露する圧倒的魅せプレイ。闘争本能全開のライガットさん。
ゼスを圧倒し、腕部を破壊した時のライガットの表情が、絶品なのですよ。
この乾いたような、諦めたような、悟ったような表情は。いったい何だ。
親友と呼ぶべき相手と国をかけて殺し合いをしなければならない、非情なこの場面において、なんて静かな表情をするんだろう。
正直、自分はまだこのシーンでのライガットを掴みきれてはいない。
やりきれない現実の中、死と隣り合わせの戦場で、いまなおゼスのことを信じてしまう。甘すぎる。しかしこうでなきゃライガットではないんだ。
復讐の狂気に駆られたボルキュス戦以降、ライガットは不安定な精神状態にあります。彼本来の性格とは別に、恐ろしいほどに冷たく残酷な別人格を秘めている。
この2面性が今後のライガットの描かれ方において注目したいポイント。今後ゼスとの戦いにおいて、どんな表情を見せてくれるのだろうか。
正直「ゼスの覚悟を甘く見過ぎだろ、大丈夫かよ」と思うけれどなぁ。
この一戦、予想していたものとはかなり違った内容となったが、ゼスとはじめての戦いを思い出させるようなカットがあったり、過去との対比によって「変わったしまったこと」を深々を感じさせる、バトルの高揚の中にもの淋しい寂寥がにじむ一戦だったなと思う。
話は移り、サーブラフ家の軸にストーリーは更なる急展開を見せる。
カギを握るのは、クレオ。
クレオの揺れる思いに関しては前々からじっくりと描写が深められていました。クリシュナの捕虜となるもシギュンに保護された段階から、「本当にクリシュナは蛮族なのか?」という疑問を抱き、過去受けた教育と現実とのギャップに苦しんでいた。
しかしシギュンの処刑が迫る中で、誰より勇気ある行動をとったのはその彼女だったのだ!
ずっと暖め続けられていた想いが実を結んだ。
微笑みかける。全部全部、なくしてしまうのを覚悟して。優しい戦士はここにいる!
クレオはドジッ娘キャラでありつつ才能を秘めたキャラクターですが
彼女の真髄は、自分のすべてを投げ捨てるほどに誰かに優しくできる、その心にあると言える。こんな決断を下せるまでに、シギュンは彼女の心を深く癒やすことができたんだ。
こうなってくるとクレオもまた、もうひとりの主人公だな。物語を突き動かすプラスエネルギーだ。背負ったドラマが層をなして分厚くなってきたし、応援できる。かわいいし(大事)。
この時、わずか12歳の幼いクレオの決断を後押しした大人たちがいる。
それは彼女の母親と祖母。いざというときには女が強いもんだわ!
幼い娘の一世一代の決意を無下にしない。それどころか最大限のバックアップとフォロー!
凛として娘と寄り添う。すべてを捨てて共に生きる。
この時のクレオママンのきっぱりとした口調がめちゃくちゃ格好良かった……!母親としてか、いやそれよりもっと原始的な、人間としての強さを感じる。
あまりに格好良すぎるし、いいオンナすぎたので、死亡フラグのようなものをうっすらと感じてしまったんですが…大丈夫でしょうか…。
個人的にはブレイクブレイドで1番エロスを感じる女性なので(1番エロスを感じる男性はチート眼鏡でした)、退場はどうか、どうか…。
クレオママンはね、部屋着でも胸元がパッカリしたラフオサレスタイルだからね、とってもイイんですよ。
そんな「ブレイクブレイド」13巻でした。
サクサクと進んでいるというか、グイグイと未来に引っ張られていくような展開。
テンポがよくて嬉しいですが、益々緊迫感が増してきており
キャラを殺すのに躊躇のない作品だけに、いつ誰が退場するやら…
そんな不安やら楽しさを胸に、また次の巻を楽しみにしています。
この作品はバトルもアツイですが、人間関係にやきもきして悶々して切なくなるのが大好きなので、そういった要素が色濃い最近の展開はたまんのですよ!
ライガットが、ゼスを相手に、まさかここまで余裕の戦いを見せるなんて…!
この展開に衝撃を受けた読者は多いことでしょう。
ライガットさん、いつのまにかめっちゃ頼れる男になっちまったわ…。
けれどこの戦いの結果で、戦争はさらに混沌する。すれ違ったまま、戦争の心臓は脈動する。
あの頃には戻れない。
砕け散った思い出のカケラは心に突き刺さって、血の流れない痛みを戦士たちに与えるのだ。
『ブレイクブレイド』13巻 ・・・・・・・・・★★★★
着々とアツい展開を突っ走る!迫力あるロボットバトルとセンチメンタルMAXな人間模様がたまらない。
余談ですが、ブレイクブレイドは最近、WEB掲載より先にコミックスで最新話が読める試みをしており、こういうスケジュール調整はネット漫画ならではのフットワークなのかなーと思ったりします。
[漫画]その楽園は腐臭に満ちて『ヒメゴト~十九歳の制服~』7 巻
ヒメゴト~十九歳の制服~ 7 (ビッグコミックス) (2014/04/30) 峰浪 りょう 商品詳細を見る |
ああ、これで、やっと行ける… 暗い、汚い、底の底に…
「ヒメゴト~十九歳の制服~」の第7巻が出たので感想を。
まず表紙には主人公3人が揃いました。これまでの表紙は1人ずつ(1巻~3巻)→2人ずつ(4巻~6巻)と来ていました。
ついに3人揃って、物語も佳境に差し掛かってきたなと実感!
じっさい内容を読んでも、いよいよすべてが暴かれていくストーリー。
3人それぞれが持つヒミツが絡まり、ヒミツを守るためにヒミツに縛られていく。
それぞれがヒミツを持ち合わせ、けれどそれを隠して形作る『楽園』が今回描かれるのですが、すべてがグズグズの駄目になっていく感じが素晴らしいです。
なにもかも底へ落ちていく。底の底に墜ちていく。
これまでの感想。
ヒミツを抱えあう19歳の三角関係。『ヒメゴト~十九歳の制服~』1,2巻歪み絡まる19歳たちの性。『ヒメゴト~十九歳の制服~』3巻
友達でも恋人でも足りない気持ち。色めく19歳の夜。『ヒメゴト~十九歳の制服~』4巻
黒髪ロングの日らしいので永尾未果子さん(ヒメゴト)についてまとめる
……なんか巻を飛ばして穴空き状態で申し訳ない。
「ヒメゴト~十九歳の制服~」の主人公は19歳の3人。
ボーイッシュな風貌ながら、自分の中の「女」を素直に見つめることができない由樹。
イケメンだが女性への変身願望をかかえ、由樹の“女友達”となった男、佳人。
清楚なお嬢様を装い、夜は学生服に身を包み売春を行う未果子。
それぞれが性別や年齢、性に関係したコンプレックスや欲望を持っています。
この3人の関係がとてもおもしろい!
利己的で残酷で、刹那的な快楽を求め合っている。
友達のフリして、好きなフリして、受け入れるフリして、実は己の欲望に忠実に。
けれどただそれだけに相手を利用できるほど乾いた関係でもなく、やり場のない感情がひたすら積もっていく。大切なのは間違いない。けれど痛む心とうずく体は矛盾する。
それぞれのヒミツが暴かれたり、バレる寸前にまで来たものの致命的な決定打には至らず、なんとかここまでやってこれた3人。
けれどこの3人のヒミツ、…とくに未果子のヒミツはバレたら即・関係崩壊待ったなしな爆弾であり、すでに佳人は知っている段階。
あとはいつ由樹が知ってしまうのか。あるいは最後まで隠し通し、未果子は欲望を完遂できるのか。
さてこの7巻の見どころといえばついに始まったレズセックスのターンであることは疑いようもなく、それはそれは味わい深いものでしたねハイ。
ウム…
しかしまぁ、なんて幸福感のない。密やかで暗いものであることよ。
描写としてはやはり色っぽく、さすがに気分が高揚します。
けれどこの2人の関係は……こんな事をしたって埋まるわけがない。すれ違うばかりなのに。
影の中で、闇に隠れて、ひっそりと息が絡み合う。
ひとりで慰めていた由樹を目撃に、そのまま押し倒して抱き始める未果子。
由樹の中の少年性に心奪われている彼女は、由樹が『女性』の体をもてあましていたことに強い動揺を覚えましたが、すぐに考えを切り替えました。
だって未果子自身がふたつの顔を持っているから。
少年である由樹を手に入れるために、女性である由樹を虜にする。それこそが7巻での未果子の行動原理。
むしろセックスならば未果子の得意分野。自分から離れられなくするため、未果子はついに由樹との性的接触を持ちます。
ところが、そうも上手くいかない。
未果子は由樹にたいして積極的に責めの手を加えますが、逆に由樹から“される”ことに強い拒絶を見せる。
相手には触れたい。気持よくさせたい。けれど自分は相手から触れられたくない。
未果子には様々な矛盾があります。
少年、あるいは少女へのあこがれ。美しく清らかなものを求める彼女の心は真実。
でも体が求めるのは、ちがう。もっと汚らしい、男と交わる闇の時間です。
男を利用し見下しエクスタシーを感じるあの時間がどうしても欲しい。
だからこそ。
由樹は純粋・純潔の象徴であり、由樹に触れているその瞬間の自分も、未果子自身の理想でなくてはならない。由樹と交わるその時間は、未果子にとっての宝物だから。
けれど心のどこかが囁きかける。「お前の体は汚い」と。
由樹にこんな汚いものを触らせるわけにはいかない。
未果子のつよい欲望は、その欲望すら裏返しにしてもっと純度の高いものを求めてしまう。
理想と切り離された下半身・・・快楽を得るためのそれが、本当に欲しいものを遠ざける。
心地いい闇にそまるほど、憧れのものは手からすり抜ける。
めんどくせぇ!でもこういうのが、いいんだ‥‥!!
ストーリーの大きな展開と言えば、3人が共同生活を始めたということ。
いやこれ全然歓迎できることじゃなくて、むしろ「ああ…いよいよ終わりだ、おしまいだ」ぐらいの絶望です。
こんなふうにこじれた3人が共同生活とか送ったって、むしろそれは地獄にしかなりえない。こいつら全速力でドブ沼ダイブ決めやがった!
すぐにボロが出て、いよいよ全員のすべてが丸裸になるよ!すべてが台無しだ!まったくもって壊れてしまうんだ!
それでも、たった刹那の安らぎであったとしても。
この「家族ごっこ」には癒やされてしまう。
互いに監視の目を光らせて、策略を巡らせ、“あわよくば”を胸に抱きながら、欺きの上でやさしい家族ごっこをしよう。
友達ごっこをしよう。普通の仲の良い、女の子の楽園を満喫しよう。
平穏を装う中に互いの思惑や欲望がひっそりと息づき、隠し切れないほどの性のにおいをまき散らしだす。けれど正面上だけは清い少女たちの、理想的なほどに閉じた世界。
まさしくギリギリのバランスで成り立った楽園だった。
しかし楽園は腐敗する。
(予想通りに)転落していく7巻終盤の展開は、目を覆いたくなるような、けれど続きが気になって仕方がない、極上のスリルがあります。
まさしく7巻最終話のタイトルは「約束地-ヤクソクノチ-」。
このラストは最初から決まっていた事であるかのような、そんなタイトルが付けられました。
それを踏まえて今回を表紙絵をもう一度見なおしてみる。
きっとここは水中で、光も届きにくい所にまで落ちている3人。
中央で全身から力をぬいている由樹とそれに絡みつく2人。
未果子は腕を伸ばして由樹を抱こうとしており、そのまま底にまで共に向かおうとするかのようです。一方で右側、佳人は由樹の背を抱えようとしてるようなポーズ。
未果子が黒の制服、佳人が白の制服を身につけているのも意図的か。
まぁ佳人が由樹を救おうとしていても、むしろ彼という存在が由樹を苦しめている最大級の要因でもあったりするわけで、なかなかどうして3人ともが幸せになれそうもない。
さてそんな「ヒメゴト~十九歳の制服~」7巻の感想でした。
クライマックス目前ということで、次の巻で完結かな。
個人的には最初からおそらく最後まで、未果子という少女を追いかけたいという理由がとても大きい作品です。それだけ彼女は好きだな。
7巻ではこれまでにない、円満な雰囲気で未果子が満ち足りた表情をしてくれた。
味わったことのない“家族のぬくもり”ってやつを擬似的にでも楽しんで、穏やかに眠った。…それだけでよかったのに!!
体に触れられるのを拒絶したけれど、ホントは体ごと全部まるごと愛されたいはずなのにね。大事な所で臆病で、きっとこれから何か大切なものをを失うね。アンビバレンスかわいい未果子さんの未来を見届けたい。
光と影が世界にあるなら人間にだってそうだ。ふたつの顔があってふたつの欲があって、満たされたい。大切にしたいし一緒に落ちていきたいし穢したいのに愛されたい。そんな面倒くささがが最高に楽しい!
それぞれ張り巡らす策略は、破滅に向かうのか、はたまたちゃんと幸福に導かれていくのか。…全速力でバッドエンドに向かっているように見えますけれど、それは最後の審判(作中)を待つべし。
そこは楽園だ。腐ったようなにおいが漂う。関係が腐っていく、人間が腐っていく、空間。そこは楽園だったのだ。
優しい日々がそこにはあったのに、いまにも砕け散りそうだ。
「ヒメゴト~十九歳の制服~」7巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
正直面白すぎる。物語も佳境でヒートアップする地獄!
心をジワジワと蝕むような緊迫感はこの作品の強い魅力です。
[漫画]優しく、胸に響くようなフレーズを。『僕らはみんな河合荘』5巻
テレビアニメOP曲のタイトルが「いつかの、いくつかのきみとのせかい」でニヤッとするファン。
こういうのはニクい演出ですねぇ。単行本4巻の律ちゃんが読んでいた本です。
…まずくても知らないからね
アニメも始まりました、「僕らはみんな河合荘」第5巻の感想です。
うちではまだ見れていませんけどね・・・。
4巻感想のとき、『宮原るり先生は「恋愛ラボ」が今度アニメ化しますけれど、こっちもなってくれないかな…!』と書いたものですが、次の巻が出るころにはアニメが放送されてるとは。でもアワーズ作品の中からだったら納得だよな。
毎度おもうことですが、今回も表紙イラストが素晴らしい・・・!
宮原先生の特にカラーイラストは問答無用に視線を惹きつけるオーラがあります。光が絶妙。
寒さからか、はたまた別の理由からか。ほんのりと頬を染めた表情も素敵。
内容はと言えば下ネタが乱舞するしっちゃかめっちゃかな物で、ばからしかったり賑やかだったり。でもその中に胸をときめかせるエッセンスを欠かさない。地道に大切に関係を深めていっているのがわかる。
小さな進歩を積み重ねていくのを見守るのは楽しいですね。「なんとなく、気になって」しまうところまで進んだ第4巻。5巻もまた、ニヤニヤできるぞ!
前巻→寂しさだって賑やかさに塗りかえられて『僕らはみんな河合荘』 4巻
イエス!バレンタイン!
5巻もいろんなエピソードが描かれましたが、やはりラブコメとして欠かせぬイベントであるところのバレンタイン関連は、ウン・・・本当に、本当に・・・いいものだった・・・ウン・・・(何度も頷きながら
「僕らはみんな河合荘」という作品は、本当に登場人物がみんな魅力的。
いい意味でヒロインを食っちゃうくらい賑やかなんですが今回はやはり、ヒロインの律ちゃんについて語りたいことが多いのです。
失礼ですが、めんどくさい娘なんですよ!律ちゃんて。めんどくさくてかわいいんです。
かわいいけどめんどくさいというふうに逆になると途端危険になりますが(それはそれでいい)めんどくさくてかわいいです。
バレンタインディに、義理チョコを、友達に渡す。
義理でもいいから欲しい!と右往左往しちゃう宇佐くんですが、律ちゃんはどうも何か、シックリ来ない様子。
大事にしたいこの1日に、いっぱいいっぱい、悩んで挫けて想いすれ違う!
林さんがいい味出しましたよね。律ちゃんを掻き乱したきっかけを作り、それ以上に、宇佐との関係を見直す引き金にもなった。
林の言葉はけっこう痛烈で、律ちゃんとしても”痛いところ突かれた”ということか。
『宇佐が自分にかまってくれるのは、宇佐がそういうのを当たり前にする人間だから』
そういう仮説を盾にして、宇佐の気持ちを見ないように心を塞ぐ。深く相手に立ち入らないために彼女が身につけた処世術のようなもの。遠慮や謙遜をするうち、逆に傷つけたり失礼になってしまうのツラい・・・!
そこに林が噛み付いたのは面白いですね。
これは林としては感謝や意地悪とか、応援とか、色々込めてそうです。まぁ咄嗟にムッとしたことが大半だろうけどw
この言葉をキッカケに宇佐と微妙にすれ違い、けれど後に律ちゃんは自分の言葉を見つける。
「私が 宇佐くんが喜ぶもの あげたいからあげる」
心射抜かれる、この表情、この言葉!
律ちゃんは言葉数が少なく、しゃべるのが得意な方ではない。
じっくりと物事を考える。だからこそきっとこの一言を、じっくりと練ったんじゃないかな。
言いたいことや伝えたいことを、とてもストレートな言葉にのせてくれた。
「あげたいからあげる」なんてさ。周りくどい感情表現なんかより、よっぽど刺さるよな・・・。
世話になってるからあげる、欲しがってるからあげる――そこに自分の気持ちをプラスして、「あげたいからあげる」なんだ!!強い意思なんだ!!
正直、震えるくらい興奮しましたw
律ちゃんが自発的に、ちょっと特別な気持ちを込めたことを告白して、チョコレート。
「好きだからあげる」じゃないし、律ちゃんとしてもまーためんどくさい思考の果てに行き着いたものではありますがそれでも!嬉しがる宇佐をみつめる律ちゃんは嬉しそうだったんだ!
しかもチョコだから渡したのではない。宇佐くんが欲しがっているものを、それに応えてあげたいから渡した。そこも結構、重要なような気がしますよね。
うまく息が吸えない・・・
かつて、そんなポエム書いちゃった律ちゃんですが、今は「そんなこと忘れていた」んですね。
知らず知らず、かつて囚われていた感情から開放されていたことなんてよくある。きっと彼女はいい方にそれが作用したんだな。
彼女のそういう変化は普段の彼女をみている読者としても頷けるところ。
学校での彼女より、きっと何倍も感情豊かな河合荘での様子を見ているし
例えばさっきのバレンタインのように、彼女は自分から歩みを進めている訳です。
律ちゃんが、自分の気持ちを理由に、宇佐に近づこうとした。
それだけでもうさ!ニヤニヤがとまらないんですよ!
・・・5巻の8話と9話があまりにうまく行っちゃったので、我慢しきれなかったとあるお姉さんが暴走するのも「オイオイ」とは思いつつ分からないでもないなぁw
もうひとつ5巻の個人的律ちゃん名場面と言えばお正月です。
一年最初のメールを送ったと笑う宇佐に対して、初返信をしようと思ったら
林に先を越されて少しムスッとしちゃう律ちゃんがかわいいわー・・・!
この後「初読書」と言って、宇佐に本を渡すわけですが、
こうやって“初めて”にこだわる時点で、彼女は自分の気持ちに素直になりつつあったのかな。
普段の本の虫・ものぐさな律ちゃんも愛らしいですが
初めての気持ちを前にほんのり困惑しつつ、自分を変えていく律ちゃんの可愛さ。最高ですわ・・・。
この作品の面白さは、そのまま河合荘という場の魅力だと思います。
律ちゃんだけじゃない、自然と河合荘の住人みんなを好きになっていくし、なにせそれぞれ濃ゆいし!
大人なのに大人げないことやっちゃうとか(5巻のラストとかモロにw)、でも時に大人は大人として若人に言葉をなげかけたりだとか。
シロさん!時として!時として!いい大人になる!
けど説教臭くなく、あくまでも『なにげない日常を全力で面白がろう』という姿勢であり、それが“場”としての魅力だな。
しかし5巻は河合律という女の子の躍進が目立つ!だから感想としてはそこに集中する形になりましたね。お母さんとの会話も、彼女のバックボーンが垣間見えて嬉しいものでした。
アニメも始まって盛り上がっていくことでしょう。長く読んでいたい、長くこの空気の中にいたい漫画。
たまに心にズッシリと届く、真剣な言葉もあったりするのも好き。
『僕らはみんな河合荘』5巻 ・・・・・・・・・★★★★
律ちゃんのかわいさが過去最高にはじけた一冊となっているのでは。
本当にゆっくりじっくり、深まっていくんだよなぁ。
こういうのはニクい演出ですねぇ。単行本4巻の律ちゃんが読んでいた本です。
僕らはみんな河合荘 5 (ヤングキングコミックス) (2014/03/26) 宮原 るり 商品詳細を見る |
…まずくても知らないからね
アニメも始まりました、「僕らはみんな河合荘」第5巻の感想です。
うちではまだ見れていませんけどね・・・。
4巻感想のとき、『宮原るり先生は「恋愛ラボ」が今度アニメ化しますけれど、こっちもなってくれないかな…!』と書いたものですが、次の巻が出るころにはアニメが放送されてるとは。でもアワーズ作品の中からだったら納得だよな。
毎度おもうことですが、今回も表紙イラストが素晴らしい・・・!
宮原先生の特にカラーイラストは問答無用に視線を惹きつけるオーラがあります。光が絶妙。
寒さからか、はたまた別の理由からか。ほんのりと頬を染めた表情も素敵。
内容はと言えば下ネタが乱舞するしっちゃかめっちゃかな物で、ばからしかったり賑やかだったり。でもその中に胸をときめかせるエッセンスを欠かさない。地道に大切に関係を深めていっているのがわかる。
小さな進歩を積み重ねていくのを見守るのは楽しいですね。「なんとなく、気になって」しまうところまで進んだ第4巻。5巻もまた、ニヤニヤできるぞ!
前巻→寂しさだって賑やかさに塗りかえられて『僕らはみんな河合荘』 4巻
イエス!バレンタイン!
5巻もいろんなエピソードが描かれましたが、やはりラブコメとして欠かせぬイベントであるところのバレンタイン関連は、ウン・・・本当に、本当に・・・いいものだった・・・ウン・・・(何度も頷きながら
「僕らはみんな河合荘」という作品は、本当に登場人物がみんな魅力的。
いい意味でヒロインを食っちゃうくらい賑やかなんですが今回はやはり、ヒロインの律ちゃんについて語りたいことが多いのです。
失礼ですが、めんどくさい娘なんですよ!律ちゃんて。めんどくさくてかわいいんです。
かわいいけどめんどくさいというふうに逆になると途端危険になりますが(それはそれでいい)めんどくさくてかわいいです。
バレンタインディに、義理チョコを、友達に渡す。
義理でもいいから欲しい!と右往左往しちゃう宇佐くんですが、律ちゃんはどうも何か、シックリ来ない様子。
大事にしたいこの1日に、いっぱいいっぱい、悩んで挫けて想いすれ違う!
林さんがいい味出しましたよね。律ちゃんを掻き乱したきっかけを作り、それ以上に、宇佐との関係を見直す引き金にもなった。
林の言葉はけっこう痛烈で、律ちゃんとしても”痛いところ突かれた”ということか。
『宇佐が自分にかまってくれるのは、宇佐がそういうのを当たり前にする人間だから』
そういう仮説を盾にして、宇佐の気持ちを見ないように心を塞ぐ。深く相手に立ち入らないために彼女が身につけた処世術のようなもの。遠慮や謙遜をするうち、逆に傷つけたり失礼になってしまうのツラい・・・!
そこに林が噛み付いたのは面白いですね。
これは林としては感謝や意地悪とか、応援とか、色々込めてそうです。まぁ咄嗟にムッとしたことが大半だろうけどw
この言葉をキッカケに宇佐と微妙にすれ違い、けれど後に律ちゃんは自分の言葉を見つける。
「私が 宇佐くんが喜ぶもの あげたいからあげる」
心射抜かれる、この表情、この言葉!
律ちゃんは言葉数が少なく、しゃべるのが得意な方ではない。
じっくりと物事を考える。だからこそきっとこの一言を、じっくりと練ったんじゃないかな。
言いたいことや伝えたいことを、とてもストレートな言葉にのせてくれた。
「あげたいからあげる」なんてさ。周りくどい感情表現なんかより、よっぽど刺さるよな・・・。
世話になってるからあげる、欲しがってるからあげる――そこに自分の気持ちをプラスして、「あげたいからあげる」なんだ!!強い意思なんだ!!
正直、震えるくらい興奮しましたw
律ちゃんが自発的に、ちょっと特別な気持ちを込めたことを告白して、チョコレート。
「好きだからあげる」じゃないし、律ちゃんとしてもまーためんどくさい思考の果てに行き着いたものではありますがそれでも!嬉しがる宇佐をみつめる律ちゃんは嬉しそうだったんだ!
しかもチョコだから渡したのではない。宇佐くんが欲しがっているものを、それに応えてあげたいから渡した。そこも結構、重要なような気がしますよね。
うまく息が吸えない・・・
かつて、そんなポエム書いちゃった律ちゃんですが、今は「そんなこと忘れていた」んですね。
知らず知らず、かつて囚われていた感情から開放されていたことなんてよくある。きっと彼女はいい方にそれが作用したんだな。
彼女のそういう変化は普段の彼女をみている読者としても頷けるところ。
学校での彼女より、きっと何倍も感情豊かな河合荘での様子を見ているし
例えばさっきのバレンタインのように、彼女は自分から歩みを進めている訳です。
律ちゃんが、自分の気持ちを理由に、宇佐に近づこうとした。
それだけでもうさ!ニヤニヤがとまらないんですよ!
・・・5巻の8話と9話があまりにうまく行っちゃったので、我慢しきれなかったとあるお姉さんが暴走するのも「オイオイ」とは思いつつ分からないでもないなぁw
もうひとつ5巻の個人的律ちゃん名場面と言えばお正月です。
一年最初のメールを送ったと笑う宇佐に対して、初返信をしようと思ったら
林に先を越されて少しムスッとしちゃう律ちゃんがかわいいわー・・・!
この後「初読書」と言って、宇佐に本を渡すわけですが、
こうやって“初めて”にこだわる時点で、彼女は自分の気持ちに素直になりつつあったのかな。
普段の本の虫・ものぐさな律ちゃんも愛らしいですが
初めての気持ちを前にほんのり困惑しつつ、自分を変えていく律ちゃんの可愛さ。最高ですわ・・・。
この作品の面白さは、そのまま河合荘という場の魅力だと思います。
律ちゃんだけじゃない、自然と河合荘の住人みんなを好きになっていくし、なにせそれぞれ濃ゆいし!
大人なのに大人げないことやっちゃうとか(5巻のラストとかモロにw)、でも時に大人は大人として若人に言葉をなげかけたりだとか。
シロさん!時として!時として!いい大人になる!
けど説教臭くなく、あくまでも『なにげない日常を全力で面白がろう』という姿勢であり、それが“場”としての魅力だな。
しかし5巻は河合律という女の子の躍進が目立つ!だから感想としてはそこに集中する形になりましたね。お母さんとの会話も、彼女のバックボーンが垣間見えて嬉しいものでした。
アニメも始まって盛り上がっていくことでしょう。長く読んでいたい、長くこの空気の中にいたい漫画。
たまに心にズッシリと届く、真剣な言葉もあったりするのも好き。
『僕らはみんな河合荘』5巻 ・・・・・・・・・★★★★
律ちゃんのかわいさが過去最高にはじけた一冊となっているのでは。
本当にゆっくりじっくり、深まっていくんだよなぁ。