[漫画]その楽園は腐臭に満ちて『ヒメゴト~十九歳の制服~』7 巻
ヒメゴト~十九歳の制服~ 7 (ビッグコミックス) (2014/04/30) 峰浪 りょう 商品詳細を見る |
ああ、これで、やっと行ける… 暗い、汚い、底の底に…
「ヒメゴト~十九歳の制服~」の第7巻が出たので感想を。
まず表紙には主人公3人が揃いました。これまでの表紙は1人ずつ(1巻~3巻)→2人ずつ(4巻~6巻)と来ていました。
ついに3人揃って、物語も佳境に差し掛かってきたなと実感!
じっさい内容を読んでも、いよいよすべてが暴かれていくストーリー。
3人それぞれが持つヒミツが絡まり、ヒミツを守るためにヒミツに縛られていく。
それぞれがヒミツを持ち合わせ、けれどそれを隠して形作る『楽園』が今回描かれるのですが、すべてがグズグズの駄目になっていく感じが素晴らしいです。
なにもかも底へ落ちていく。底の底に墜ちていく。
これまでの感想。
ヒミツを抱えあう19歳の三角関係。『ヒメゴト~十九歳の制服~』1,2巻歪み絡まる19歳たちの性。『ヒメゴト~十九歳の制服~』3巻
友達でも恋人でも足りない気持ち。色めく19歳の夜。『ヒメゴト~十九歳の制服~』4巻
黒髪ロングの日らしいので永尾未果子さん(ヒメゴト)についてまとめる
……なんか巻を飛ばして穴空き状態で申し訳ない。
「ヒメゴト~十九歳の制服~」の主人公は19歳の3人。
ボーイッシュな風貌ながら、自分の中の「女」を素直に見つめることができない由樹。
イケメンだが女性への変身願望をかかえ、由樹の“女友達”となった男、佳人。
清楚なお嬢様を装い、夜は学生服に身を包み売春を行う未果子。
それぞれが性別や年齢、性に関係したコンプレックスや欲望を持っています。
この3人の関係がとてもおもしろい!
利己的で残酷で、刹那的な快楽を求め合っている。
友達のフリして、好きなフリして、受け入れるフリして、実は己の欲望に忠実に。
けれどただそれだけに相手を利用できるほど乾いた関係でもなく、やり場のない感情がひたすら積もっていく。大切なのは間違いない。けれど痛む心とうずく体は矛盾する。
それぞれのヒミツが暴かれたり、バレる寸前にまで来たものの致命的な決定打には至らず、なんとかここまでやってこれた3人。
けれどこの3人のヒミツ、…とくに未果子のヒミツはバレたら即・関係崩壊待ったなしな爆弾であり、すでに佳人は知っている段階。
あとはいつ由樹が知ってしまうのか。あるいは最後まで隠し通し、未果子は欲望を完遂できるのか。
さてこの7巻の見どころといえばついに始まったレズセックスのターンであることは疑いようもなく、それはそれは味わい深いものでしたねハイ。
ウム…
しかしまぁ、なんて幸福感のない。密やかで暗いものであることよ。
描写としてはやはり色っぽく、さすがに気分が高揚します。
けれどこの2人の関係は……こんな事をしたって埋まるわけがない。すれ違うばかりなのに。
影の中で、闇に隠れて、ひっそりと息が絡み合う。
ひとりで慰めていた由樹を目撃に、そのまま押し倒して抱き始める未果子。
由樹の中の少年性に心奪われている彼女は、由樹が『女性』の体をもてあましていたことに強い動揺を覚えましたが、すぐに考えを切り替えました。
だって未果子自身がふたつの顔を持っているから。
少年である由樹を手に入れるために、女性である由樹を虜にする。それこそが7巻での未果子の行動原理。
むしろセックスならば未果子の得意分野。自分から離れられなくするため、未果子はついに由樹との性的接触を持ちます。
ところが、そうも上手くいかない。
未果子は由樹にたいして積極的に責めの手を加えますが、逆に由樹から“される”ことに強い拒絶を見せる。
相手には触れたい。気持よくさせたい。けれど自分は相手から触れられたくない。
未果子には様々な矛盾があります。
少年、あるいは少女へのあこがれ。美しく清らかなものを求める彼女の心は真実。
でも体が求めるのは、ちがう。もっと汚らしい、男と交わる闇の時間です。
男を利用し見下しエクスタシーを感じるあの時間がどうしても欲しい。
だからこそ。
由樹は純粋・純潔の象徴であり、由樹に触れているその瞬間の自分も、未果子自身の理想でなくてはならない。由樹と交わるその時間は、未果子にとっての宝物だから。
けれど心のどこかが囁きかける。「お前の体は汚い」と。
由樹にこんな汚いものを触らせるわけにはいかない。
未果子のつよい欲望は、その欲望すら裏返しにしてもっと純度の高いものを求めてしまう。
理想と切り離された下半身・・・快楽を得るためのそれが、本当に欲しいものを遠ざける。
心地いい闇にそまるほど、憧れのものは手からすり抜ける。
めんどくせぇ!でもこういうのが、いいんだ‥‥!!
ストーリーの大きな展開と言えば、3人が共同生活を始めたということ。
いやこれ全然歓迎できることじゃなくて、むしろ「ああ…いよいよ終わりだ、おしまいだ」ぐらいの絶望です。
こんなふうにこじれた3人が共同生活とか送ったって、むしろそれは地獄にしかなりえない。こいつら全速力でドブ沼ダイブ決めやがった!
すぐにボロが出て、いよいよ全員のすべてが丸裸になるよ!すべてが台無しだ!まったくもって壊れてしまうんだ!
それでも、たった刹那の安らぎであったとしても。
この「家族ごっこ」には癒やされてしまう。
互いに監視の目を光らせて、策略を巡らせ、“あわよくば”を胸に抱きながら、欺きの上でやさしい家族ごっこをしよう。
友達ごっこをしよう。普通の仲の良い、女の子の楽園を満喫しよう。
平穏を装う中に互いの思惑や欲望がひっそりと息づき、隠し切れないほどの性のにおいをまき散らしだす。けれど正面上だけは清い少女たちの、理想的なほどに閉じた世界。
まさしくギリギリのバランスで成り立った楽園だった。
しかし楽園は腐敗する。
(予想通りに)転落していく7巻終盤の展開は、目を覆いたくなるような、けれど続きが気になって仕方がない、極上のスリルがあります。
まさしく7巻最終話のタイトルは「約束地-ヤクソクノチ-」。
このラストは最初から決まっていた事であるかのような、そんなタイトルが付けられました。
それを踏まえて今回を表紙絵をもう一度見なおしてみる。
きっとここは水中で、光も届きにくい所にまで落ちている3人。
中央で全身から力をぬいている由樹とそれに絡みつく2人。
未果子は腕を伸ばして由樹を抱こうとしており、そのまま底にまで共に向かおうとするかのようです。一方で右側、佳人は由樹の背を抱えようとしてるようなポーズ。
未果子が黒の制服、佳人が白の制服を身につけているのも意図的か。
まぁ佳人が由樹を救おうとしていても、むしろ彼という存在が由樹を苦しめている最大級の要因でもあったりするわけで、なかなかどうして3人ともが幸せになれそうもない。
さてそんな「ヒメゴト~十九歳の制服~」7巻の感想でした。
クライマックス目前ということで、次の巻で完結かな。
個人的には最初からおそらく最後まで、未果子という少女を追いかけたいという理由がとても大きい作品です。それだけ彼女は好きだな。
7巻ではこれまでにない、円満な雰囲気で未果子が満ち足りた表情をしてくれた。
味わったことのない“家族のぬくもり”ってやつを擬似的にでも楽しんで、穏やかに眠った。…それだけでよかったのに!!
体に触れられるのを拒絶したけれど、ホントは体ごと全部まるごと愛されたいはずなのにね。大事な所で臆病で、きっとこれから何か大切なものをを失うね。アンビバレンスかわいい未果子さんの未来を見届けたい。
光と影が世界にあるなら人間にだってそうだ。ふたつの顔があってふたつの欲があって、満たされたい。大切にしたいし一緒に落ちていきたいし穢したいのに愛されたい。そんな面倒くささがが最高に楽しい!
それぞれ張り巡らす策略は、破滅に向かうのか、はたまたちゃんと幸福に導かれていくのか。…全速力でバッドエンドに向かっているように見えますけれど、それは最後の審判(作中)を待つべし。
そこは楽園だ。腐ったようなにおいが漂う。関係が腐っていく、人間が腐っていく、空間。そこは楽園だったのだ。
優しい日々がそこにはあったのに、いまにも砕け散りそうだ。
「ヒメゴト~十九歳の制服~」7巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
正直面白すぎる。物語も佳境でヒートアップする地獄!
心をジワジワと蝕むような緊迫感はこの作品の強い魅力です。
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