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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

[漫画]思春期の空虚も愛しさも理不尽なほど理由も無い。『人魚王子』

今年の目標は気楽な更新をすることです。
人魚王子 (ウィングス・コミックス)人魚王子 (ウィングス・コミックス)
尾崎 かおり

新書館 2015-12-25
売り上げランキング : 12797

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   死んだら何もない 何もないよ

尾崎かおり先生は少年少女のかわいた感情やしとしと降り積もるピカピカした感動を描かせたら天才だなってことを再認識した最新作「人魚王子」です。
まぁ、もお、まず、この表紙が可愛すぎる。
エメラルド色の海、見つめ合って沈む男の子と女の子。綺麗すぎて魔力でも宿っていそうである。

さて3作を収録した短編集となっている本作。
どれも完成度がたかい、というかどことなくメランコリックな色が染みこんだ、大変に俺好みな作品がズラリ揃っていて、もう訳もなく「天才か」とリアルにつぶやいていた。

尾崎かおり先生と言えば「神様がうそをつく。」の一作しか読めていないものの、これまた傑作。少年少女の切実な思いがそのまま光となって駆け抜けてくような、甘酸っぱい逃避行が眩しすぎる傑作でした。
「人魚王子」もそんな期待通りどおりの一冊。短編集なので個別感想。

「神様がうそをつく。」感想→http://omuraisu0317.blog.2nt.com/blog-entry-1539.html



●アメツキガハラ
しょっぱなから本作随一のマスターピース。かなり殺伐とした、少女の内面を綴った前後編。
例えば思春期のころ、例えばなにか悩み塞ぎこんでしまう時、訳もなくすべてをダメにしてしまいたいような破滅願望じみた気持ちが生まれて、けれどそれを実行する勇気は持てず、鬱屈した自分をどこか遠くにさまよわせる。死ぬのがこわいのに死にたいなって思う。瑞々しい懐かしい感覚。ギュッと愛おしくなるくらい、そこに痛みも携えている。
理由を伴わない感情に振り回される。その理不尽さ。その窮屈さ。なのにその中でもがく彼らを眺めることをなんと楽しいことかって事で、本当にこういう思春期こじらせた連中はかわいくて仕方ないな!!

人魚王子

別に好きでもない男とはじめてを済ませても、そこに感動がなくったって、裸で朝の海をおよぐ静かなひとときが、人生を変えてしまうこともあるのだ。
彼も彼女も、正しく生きることはできなかった。
けれど未熟な彼らを突き動かす感情に正しさなんて無くて、だからこそ
誰かの夢を、知らず知らず良いなって思って、それを自分が叶えてしまう未来にまでつながってしまう。そんなことだってある。あるんだよ。

かつての親友まで幸か不幸か届いた、自分の本当の言葉。
本当の想いを伝えるための手段は、けして目の前の相手に向けて話すことに限らず、例えばしたためた言葉だって届くこともある。
この主人公の場合はそれが小説という手段だったんだけれど。
別離の後、再開を果たす手段としてこの作品のラストシーンはとても美しくて、なくしてしまった関係に対してこれほど優しい態度を見せてくれるかと、本作で1番感動した場面。

「うまく気持ちを外に吐き出せない」、多くの人が経験するモヤッとした感覚を
この作品はうまく拾い上げて、とても鋭くやさしく、青春の物語に閉じ込めている。
今、今しかない。彼女たちは今生き残るしかない。なにをそんなに怯えているのって、大人になってしまったら脳天気に思うけれど、彼らは刹那的にしか生きられない。
そういうキリキリと胸を絞り上げるような性急さと、「死ぬってことは」とか「人間なんて」とか達観した100%の理解なんてできないスケールの話を投げかけられて呆然としてしまうような、あの置いてけぼり感みたいなのが散らばっていて、とにかくポエムポエムな作品でした。
わかる。中学の時って、急に「世界はこういうものです」って種明かしがいっぱいされて、それがわかる頭にもなっていて、知識だけ与えられて恐怖しか無くて、そんな上手に生きていけないよってくよくよしてたでしょ。わかる。(勝手に押し付け
あと、ノーパンJCというロマンをありがとうございます。

●「ゆきの日」

ファンタジックな作品。ひとけの少ない冬の図書館の空気、好きだなぁ。
高校の時、勉強するために図書館に行ってやっていたことがあったんだけど、そういうことを久しぶりに思い出した、図書館愛のある作品。
ある日図書館にやってきた親子二人組の正体は・・・という、ネタとしては簡潔なものなんだけれど、それを情感たっぷりにふくらませている。
雪がしずかに降る橋のシーンなんか、もう絵が語らってくるような迫力。

●「人魚王子」

表題作にして1番ポップな、少女漫画らしい明るさを備えた短編。
明るさの中にそっと差し込まれる闇、未知なるものたちへの畏怖、そういったものもアクセントとして効いている、ひとなつの爽やかなお話です。

「アメツキガハラ」と同じように、うまく周囲に馴染むことができないキャラクターがいて、「人魚王子」はそんな男の子に元気いっぱいな女の子が手を差し伸べていく。
内省的な男の子・麦は、家にも学校にも居場所を見つけられず、ただ絵を描くことだけは上手で、その絵もいじめっこたちにダメにされてしまう。
麦は物語冒頭、「人魚」と名付けたグロテスクな絵を描く。
その「人魚」というワードが、この物語をさらに奥深くに誘っていく。
舞台は沖縄。人魚伝説。そして甘いボーイ・ミーツ・ガール。

死ぬことが怖いくせに死にたがり、死ぬことに何か意味を持たせたい、そんな憂鬱、そんな10代。
「俺が居ない方が あの二人は絵になるよ 絵になるよ」
というセリフがもうたまらない。なんで2回言ったんだ!そういうところがだなぁ・・・いいんだっ!!!
しかしそんな麦くんを突き動かす主人公の真鳥ちゃんのまっすぐさがすごく癒やしになります。
暗い空気を吹き飛ばすエネルギッシュな言葉たち。
麦くんともどもに読者まるごと救い出してくれる存在感です。

人魚王子2

終盤にある、海にまるく光がさして穴のようになっている場面が印象深い。
端からみるからそこが光が差しているけれど、その中にいる人達は、はたして自分が光の中にあることを知っているのだろうかと。
これ以外にも、読後感の良さを打ち出す展開が重なり、とても爽やか。
そして、あの見開きで物語が終わるところも、センスを感じるんだよなぁ。




そんなこんなの一冊。
思春期ならではの破滅願望とか、異性への意識とか、現実逃避とか
たっぷりと青い世界を堪能できます。美しい翠の海に沈む、未熟の魂。

『人魚王子』・・・・・・・・・★★★★
「アメツキガハラ」の衝撃が群を抜く。けれど3編ともに味わいが違って、いい作品集です。

[漫画]明けない夜が明けるまで。『昇る朝日にくちづけを』

昇る朝日にくちづけを (ヤングジャンプコミックス)昇る朝日にくちづけを (ヤングジャンプコミックス)
(2014/08/20)
TNSK

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   傷くらい… くれたっていいじゃない

「昇る朝日にくちづけを」
このタイトルが添えられて、心洗われる透明感あふれる色彩の表紙イラスト。
いやちょっとこの表紙デザインが好きすぎて、これだけで買ってよかったと思えるレベルに達している。
けれど作品集として、本編の漫画も面白いのです。
集英社ヤングジャンプ増刊のアオハル(増刊ではあるもののヤンジャン感薄い雑誌だった)に掲載された作品を主に収録した短篇集。表題作なんかはWEBのアオハルオンラインに掲載されたもの。
すべて恋愛がテーマの作品となっていますが、どれもこれも真っ青な空とかがまるで似合わない。
光が薄くて束縛されていて、正直言ってちょっと暗い作品群。でもこういうのが好きなんですよ。心の性感帯、感じちゃうね( ポルノグラフィティ)
きっと作者の好きな世界が詰め込まれてるんだなということが強く感じられる
インモラルな空気にロマンチックな灯を感じてしまう、素敵な一冊なのです。
あと舞台が山中や漁村で、それを活かした“田舎感”がストーリーにも組み込まれているのもいいですね。



「忘月夏」
大切な女性を失ってしまった主人公。里帰りして迎えてくれたのは、その女性の妹。
その田舎の町には不思議な祭りがあるのです。
「笠成祭」。お面をかぶって村を歩くというその祭りでは、ひっそりと死者が紛れ込むという話。

最初からねじくれた、しかし素直な感情が炸裂している作品。
死んだ者に会いたい。そして、代わりでもいいから愛されたい。
男女のいびつな感情が絡み合い、祭りの夜、それは結ばれる。
つまりはそういうことなのだと、もう「私は夏子姉ちゃんの代わりなんじゃ」と「少し 酒の臭いがした」でお察し。
けれどふたりとも、相手がどういうつもりなのかを知った上で、わざと騙されながらもつれ込んでいく。あのおぞましい見開きページにはきっと結ばれても果たされない、怨念じみた少女の無念があるのだろうな。

だから最後に「いつか・・・ 私に 会いに来て」と、自分の存在を求めてもらえるよう願う。切実な気持ちにグッとくるが、主人公といつまでも仮面をかぶって祭りに乗じた夏の夜を毎年送ってもらうのもいいぞ!
田舎の風習はなんか不気味さがよく出ていて好き。ってのと、どことなく気持ちが晴れない、けれどセンチメンタルが胸を刺す、作家とこの単行本の挨拶代わりとなるオープニングストーリー。
「笠成祭」は「かさなり」と読む。誰かに誰かを重ねてしまいたい、歪んだ夢を叶えてしまう夜。

「鬼火の夜」

まーた山か!そして寂れた町!好きだな!俺も好きだ!
田舎町を舞台にブラコン姉とシスコン弟が織りなすお話。
なんとも先が見えないというか、じっとりと息が詰まる閉塞感があり、まさしく残念なタイプの田舎風情が出ていて良い。「鬼火」というモチーフにしたって、美しくもあるが災いをもたらす、非常に危うい臭いが感じられている。
弟のため。と自分の人生を、その可能性をすり潰しながら日々を生きる姉。弟はそんな姉を心配しつつも奔放に、自分の行き方を探す。
「いつかどんな大人になるだろうか」「どんなことを成せるだろうか」
そんな、将来への期待や不安といった思春期のきらめきも、明るい予感をそれほど与えてくれないのが本作の残酷さであり、好きなポイントです。

本作のクライマックスでは本当に、心をグッサリをやられてしまいました。これは是非読んでいただきたい。
近親相姦という禁断のシチュエーションを描く上で、個人的にはかなり理想的な距離感に帰結してくれた!
互いが互いの夢として、きっとこの田舎で生きていってほしい。そんな姉弟。

昇る12

「昇る朝日にくちづけを」

表題作。そして舞台は海!でもやっぱり町は田舎だ!
3部作構成となっており、1話目が過去にあった悲劇の話。身分差の恋。
2話と3話が前後編。現代を舞台に女教師と男子学生の激燃えカップル。

第一話、黎明編はこの物語を結びつける1人の漁師のはじまりの物語。明けない夜のはじまりなのだ。
幼なじみは権力者の元へ嫁に行った。歯痒くも無力感に苛まれる主人公だったが、少女の結婚には裏があったのです。
現代編に移ると彼がたどった人生がほんのりをかいま見えるのですが、素晴らしく気高い生き方をしたのだと、涙が出そうになる。
そしてこの黎明編が、後半の現代編への最高の助走になっているんですよね。そのためのこの構成とは言えキレイにはまってる。

昇る11

現代編は、女教師と男子高校生へと主役が移る。
ヒロインであるあかり先生は過去の悲劇から、いまは結構ドライな性格をしている。
そんな彼女が潤いを取り戻していく様がめちゃくちゃかわいいんですよね・・・。
大人の女性が少女に戻る瞬間のような、そういう輝きが好き。
ラストはとても爽やかで、とてもニヤニヤさせてくれる・・・!

「私を連れて 逃げてくれる?」

あかり先生が言うこの言葉には、諦めていた未来への期待とか罪悪の感触とか、目の前の幸福をうまく受け止めきれていない戸惑いとか、いろんな感情が混ぜこぜになっていて大好きです。名場面。今年の「この女教師がかわいい!」にノミネート間違いないですね。

それだけでなく、この作品にこそ作者が込めたいメッセージが強く出ている気がする。
記録に残ろうが記憶に残らまいが、その場所にその大地には確かに過去、だれかが存在して、様々な想いを巡らせ生きて物語を紡いできた。
「昇る朝日にくちづけを」では迎えられたひとつの結末が、時空を超えて2組の男女のハッピーエンドを感じさせてくれます。
死んでも、消えても、だれかの想いはずっと「そこ」にある。
あとがきにあった言葉がきちんとストーリーに落とし込まれていました。



絵柄のポップさのおかげで読みやすいですが、内容はどれもこれもインモラル風味。
でもこのほんのりジメッとした雰囲気が最高に好みだったりします。
女の子もかわいいしね!
そしてちょっとした遺跡ロマンの似た、寂れた田舎ロマン。愛を感じます。
自分が住んでる所もど田舎という程ではないにしろ都会ではなく
この作品から感じられる空気は、すこし親近感のあるものです。

仄暗い。明けない夜に閉じ込められたような窮屈さ。
だからこそ、昇る朝日の眩しさにちょっと涙ぐんでしまう。
光を待ち続ける、光を待ち続けていた人々の物語。

『昇る朝日にくちずづけを』 ・・・・・・・・・★★★★
アオハル発コミックス。ポップでダークなセンチメンタル短篇集。

[漫画]たゆたいながら、いつしか照らし出される。『夏の前日』4巻

夏の前日(4) (アフタヌーンKC)夏の前日(4) (アフタヌーンKC)
(2013/07/05)
吉田 基已

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   泣くかと思った

しっとり官能的な空気が最高にグッとくる「夏の前日」。4巻が出ましたので感想を。
表紙いいですね!ゆらめく水面と、まどろむ哲夫。晶さん膝枕。
甘えているような、すがっているような…。なんだろう、哲夫が溺れて晶さんにたどり着いたようにも見えます。水面というモチーフがまずこの作品にぴったりですねえ。晶さんの和服も涼しげな青。夏らしい。

基本的に主人公の2人がイチャイチャするのを眺める漫画…
だったはずが3巻でいよいよ話が大きく動き始めました。
4巻はすこしずつ恐ろしさが背筋を登ってくるような感覚でした。静かに少しずつ端っこの方から崩れていくような。
相変わらず愛おしげに触れ合う哲生と晶さんのセクシーな場面に鼻息あらく興奮する。性的接触はなくとも甘いひと時に、思わず悶絶しながら読める。
…しかし。この巻はなかなに辛い展開もあったりする。
いいなぁこの空気は。夏の生ぬるい空気の中に、ギリギリの切実な感情がある。

前巻→触れて、感じて、愛して、1人で描く。『夏の前日』3巻



さてさてもう。俺がこの漫画にハマってる大きな理由は、哲生と晶さんの関係が大変にニヤニヤできるからってことですよ。
幸せすぎて見てて飽きない。お前らかわいすぎだよ!!

夏の前日43

甘えて、甘えさせて、甘えられて、甘やかして。
学生である哲生にとって晶さんは年上の彼女です。2人の関係ってけっこうあやふやだと思うんですよね。間違いなく好き合っているけど、直接そういう言葉を投げかけ合うようなことはしない。相手をどう向き合うか、どう愛するか、そこに微かな葛藤も実に美味しい部分です。
3巻で晶さんは「孤独を手放さないで」「私に媚びないで」と述べていましたが、でも自分に甘え媚びてくる相手を嫌になんて思ったりしない。相手に触れられることは、至福。

一方的に甘えたり甘やかしたりするんじゃなくて、相手にとっての大切な居場所として、その人がいる。時には甘えるし、時には甘やかす。どっちだっていいんだ、繋がってさえいれば。その時の気分でいい。
そういう、良い意味での不安定さ。それが生身の体温のような確かさで感じられて凄く好き。イニシアチブを交換しあってるみたいな関係。
つまり俺にそういう立場逆転のしあうセックスをもっと見せてくれ、とこう言いたいのです。今回だと20話と26話では明らかにセックスの質が違っていて、それはストーリーの展開の影響もあるのですが、…素晴らしいな…!
まぁそんな下品な話はともかく、愛しあう2人を見るのが楽しい。結論。

晶さんの可愛さは今回も最高でしたね。「あたし哲生のおよめさんになればいいのではないかしら」の言葉はもう、テンション上がるよな…!!



しかし哲生は揺れている。
「はなみ」という女性が、どんどん彼との距離を縮めてくる。
別に華海が哲生に興味があるというわけじゃなく、ただ自分の彼氏の友人だから。まぁどんな人なのか興味を持っているようだけれど、この娘はナチュラルに無意識に接近して、そういうのに免疫ない人間をまどわせてしまうタイプだと思う。明るくて人懐っこくて素直。
哲生はかねてから華海のことを絵のモチーフとしてか、もしかしたらそれを含んだもっと大きな気持ちをいだいて見つめてきた。
そこからの急激な接近。今回なんてふたりきりで映画なんて行っちゃう。
自然と、揺れる。

仕事に疲れる晶さんと、恋人ではない女の子と遊びに行って思わず笑顔になっちゃってる哲生。まるで心まで遠くなってるようにそんな風景が描かれた第25話「やましいなんかなにも」はもう胸が締め付けられましたよ。タイトルから言い訳がましくてツラい…。
友人の恋人、恋人の友人、今後という関係以上に進展は哲生と華海のことだからないと思うけれど、哲生の明らかな動揺・感動を見るに、…浮気かこれ。

夏の前日44

写真を手に入れて、「俺の華海」。いけない…いけませんよ…。
隠し切れない。こんな風に所有欲の一端を見せてしまってはもう。
たゆたっていたのに、すっかり照らしだされてしまったよ、哲生の気持は。

心と体が欲するぬくもりや安らぎは晶。
けれどストイックに芸術の世界に生きている哲生。彼が欲するひとつの芸術として、彼の琴線に触れる女性は、きっと華海なんだろう。憧れの女性として華海はいる。
哲生自信「こっちはいってはいけない道だ」とばかりに自制を試みていますが、花海に惹かれているのはもやは明確。
はてさてどうなるかーと思ったら、単行本後半で爆弾が落とされたでござるの巻。

夏の前日41

きっつい…。
晶さんのこんな激しい感情の宿った表情は。そう見れるものではない。
ひとりで芸術に没頭する哲生を遠く眺めることで楽しそうにしていた晶さん。
「あたし見てみたいのよ。彼と、彼の見る世界を」は1巻での彼女のセリフ。
絵を描く哲生が好き。哲生の絵が好き。だからこそ読み取れたのかもしれない。哲生が華海に特別な情熱を燃やして描いたことが分かったのかもしれない。
珍しく負の感情を爆発させた晶さんは見どころのひとつではありますが、展開上、喜ばしいものではないなぁ…うぅ…。
激情ほとばしらせる晶さんに胸にあるのは、嫉妬か悲しみか。

過去最大の試練を迎えた哲生と晶の関係。
これからどう復活するのか。はたまた転げ落ちていくか。
いま、かなり危ないバランスでゆらゆらしてる状態ですね。
ほど1年に1冊ペースで来ている作品なので、続きはまた来年か。待ち遠しいなぁ。楽しみで、けっこう怖い…!



そんな「夏の前日」4巻でした。
書いてきたとおり、ストーリー的につらい局面に入って来ました。
前半はいつもどおり胸ほっこり股間もっこりなハートフルイチャラブに悶える。しかし後半でおもいっきり心傷めつけられました…。
1巻からずっとあたためてきた問題が、ついに表面化してきた。
まぁいつだって、どんなに甘やかなシーンにだって、なんだか刹那的な感覚がある作品でした。
トーンを使わない画風なこともあって、雰囲気はまるで戦前の日本みたいな感じ。完全に現代劇ではあるんですが、どこかセピア色なムードで、ノスタルジックな感傷を刺激してくる。

思えば「夏の前日」というタイトルが意味深で。
通り過ぎた日々。思い出を取り出し懐かしむ。そんな風景が浮かぶのです。
「気がつくと ボクらみんな 8ミリ映写機の フィルムの中」なんて、この作品の元ネタの曲でも歌われていました。最近聞きましたよ。
そんなわけで、胸の痛む切なさのつまった一冊。思わず息を潜めてじっと読んでしまった。心わしづかみにされた。

シリアス深まる本編のあと、注目すべきはほっこりする番外編を挟んで現れる巻末の「官能おまけまんが」!この漫画で吹き出すほど笑ってしまうとはww

夏の前日42

相手に来てほしい衣装をリクエストする試み。
晶さんのリクエストも哲生のリクエストもあたま悪いよwやっぱりこの2人かわいすぎ!

『夏の前日』4巻 ・・・・・・・・・★★★★
来たぞ来たぞ…いよいよ加速を始めた。じわじわと蝕まれるような恋物語に。

[漫画]さぁ、私達の恋を始めましょう。『名前はまだ無い』

名前はまだない (百合姫コミックス)名前はまだない (百合姫コミックス)
(2013/04/18)
かずま こを

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   それじゃあ 恋しようか

かずまこを先生の百合姫コミックス3冊め、「名前はまだない」の感想。
女の子の女の子の眩しく愛おしい一瞬をきりとった、爽やかなガールズラブ作品です。
どこか切なげな感触はあっても、基本ハッピーに胸暖まるストーリーが集まっています。はぁ。もう、何も言えない。ため息しかでてきませんよ、この可愛らしさ。この余韻。
ピュアで軽やかで、ギュッとこちらの心を掴んできますよ!
楽園でやってる「ディアティア」シリーズを好きになって、かずまこをさんの百合漫画を読むようになりましたが…いやぁこれはいいものだ。
もちろん百合姫コミックスなので、女性同士の恋愛ばかりの一冊です。
表紙も素晴らしいのです。作りのしっかりとしたオビと、表紙本体、として単行本最初のカラー口絵の3コンボがバッチリ決まる!

全3話からなる表題作「名前はまだない」のほか、一話完結の短編4つ、前の作品の番外編1つを収録。せっかくなので個別に感想書いていきます。どれも良かった!
15ページもない短編が大半ですが、短いページだからこそ一気に沸騰するようなスピード感もある。けれど空気感の演出も絶妙で、あとひく余韻にも舌鼓。



●3秒ルール
トップバッターにしていきなり凄まじくときめかせてくれる短編。
持ち時間は3秒。言葉に詰まったほうが負け。
そんなルールをこっそり心に秘めてはじまる、2人の恥ずかしい恋のお話。
「だったら私を付き合いませんか」
の唐突な一言を投げかけて、さて負けてしまうのはどちらかな。
たった11ページの短編。しかし3カウントで会話が進行していく演出と、最後に待ち受けるお見事としか言い様がない赤面に悶絶!!
告白をした後の、ふわふわと不安定で甘酸っぱい空間がたまりませんな。
「それじゃあ恋しようか」の決め台詞で華麗に〆るのもよかった。

●uracoi
いつもしかめっ面。そのせいか「殿」なんてアダ名をついた女の子・遠野さん。
そんな彼女に決死の覚悟の告白をされた主人公の、これまたニヤニヤできる短編。というかこの漫画全部まるごとニヤニヤ漫画ばっかりですからね…。
告白の返事をもらえず不安でそわそわして、悲しげな表情まで見せちゃう。告白されてどう応えればいいのかわからない。2人揃って不器用な感じで、おっかなびっくり近づいていく感じがイイ。
遠野さんのしかめっ面が徐々に崩れていくを見て、布団で転げまわった。照れた表情がかわいすぎる……!!

●恋はお静かに
頭をぶつけたら、密かに好きなあの娘の心の声みたいな幻聴が聞こえるようなる。
実は両思いでした…みたいな都合のいい、妄想全開な幻聴。でもそれは実は!みたいなアレでコレでニヤニヤでございます。
「恋はお静かに」なんてきっとムリな話。心の鼓動が鳴り止まない。
けれど今はまだ秘密にしていたい。好きだってことも、赤くなった顔の意味も、ドキドキを抑えようと必死になってるのも、あの娘にだけには秘密に。
2人が慌てぶりがまーーーかわいいんだ。急激に近づいていく過程!最後には耳まで真っ赤にしちゃう!クライマックスの逆転で変な声出たわ!!大のお気に入り!

名前は1

心がバレてしまったら困る。「今日だけは、あの娘のことを考えずに過ごさなきゃ!」なんて誓うわけですが、そんなの無理でしょわかってます!

●消し去る恋と願い事
そういえばあったなぁ。消しゴムに願い事を書いて使いきろうっておまじない。
一回なんか書いて、でも途中でその消しゴムなくした記憶しかない…。
まぁそれはともかく、この短編は消しゴムのおまじないで展開する、本作では唯一のややビターテイストな作品。切ない…。
今にも離れ離れになってしまいそうな、その間際の勇気は、幸せな未来をつかめただろうか。彼女たちの未来に幸福を想像して、自分だけちょっと救われた気分になったりしました。ハッキリとした結論を見せないのが、味わい深かったです。おまじないの効果、出るといいよな。

●名前はまだない
表題作。タイトルがお洒落だし、意味深くてカッコいいです。
私はあなたから名前を呼ばれない。名前はまだない。

ちょっと小悪魔っぽい女の子が、1人でいるのが静かな女の子にアタックを仕掛けていくお話。戦略的に、気まぐれみたいに、簡単にキスをする。このちょっと奔放な感じがいいなー!
いきなりキスして相手を観察してるシーンとか「こ、この女!」感ヤバい。

名前は2

でもこういうのが、なんだろうか、女の子の深い部分を覗けたような気持ちになれて、ある種の感動があったりする。
他の短編よりもぐっとじっくり関係を深めていく様子が印象的。

これこそ個人的には余韻が素晴らしいなと思った作品。「このわくわくと切ない気持ち」に名前をつけないんですよね。貴女と私の関係にも、きっとまだ名前はまだない。友達以上恋人未満のそれに、きちんとした言葉なんてない。
間違いなく恋し合った2人。両思いをほぼ確信したような2人。
でも、まだ結論は出さない。今の関係の浮遊感を楽しみませんか、と無言で通じ合えているようなムードに、俺の心は鷲掴みです。恋は過程も楽しむのだ!
そして最初に描かれたものの時系列的にエピローグに位置づけられたエピソード「recalculation」も綺麗で気持ちを落ち着けてくれます。忘れてならない巻末描きおろし漫画も、破壊力たかいよ!!
2人とも、結構なクセモノなんだけど、結局似たもの同士なんだろうなと思う。

●匿名プロローグ
作者初コミックス「純水アドレッセンス」のキャラクターの番外編。なつかしい2人に再会できました。やっぱこの先生すげえいいキャラだなー!ちゃんと大人っぽくてでも子供っぽくて!うーわー!



そんな作品がズラーリな「名前はまだない」でした。
糖分多め、だけどそこにちょっぴりのスパイスも効かせてあります。
涼やかな風が感じられるような、全体的に爽やかな空気がたまりませんね。
青春モノとしての百合漫画、という色が強い気がしますね。淡くて気持ちがいいです。ディープな百合ではなく、優しい百合漫画でした。
この作家さんの漫画はどうにもツボらしいので、飼い続けていきたい所です。

『名前はまだない』 ・・・・・・・・・★★★★
爽やか優しいほんわか百合作品集。ときめかされますわ。

[漫画]見えない=楽しい?カノジョとのほっこり同居生活『のぼさんとカノジョ?』1巻

のぼさんとカノジョ? 1 (ゼノンコミックス)のぼさんとカノジョ? 1 (ゼノンコミックス)
(2013/01/19)
モリコロス

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   ふたりの部屋なんだしさ 欲しい物は一緒に選ぼう

なんてかわいい漫画だ・・・。
モリコロスさんの「のぼさんとカノジョ?」の第1巻の感想を。
今作が初単行本である作者さんの、なんとも心温まるカップル同居漫画。・・・と言っていいものだろうか、これは。
主人公は大学生の男。どうやら同棲している女性がいるらしいのですが、友人のだれもその彼女の姿を見たことはない。果たしてどんな女性なのか・・・?
ちょっと、どころじゃなくおかし、な同居生活を描くほっこり漫画。



「カノジョ」の特徴・・・
料理が上手。掃除も得意。世話好き。可愛い小物が好き。ベタな映画が好き。嫉妬心は強め。根は優しい。会話は筆談。多分、女の子。
と、これだけカノジョの人間らしい一面が見えてくる漫画なのですが
困ったことにカノジョの姿は見えないのです。

のぼさん3

カノジョは、幽霊です。
主人公がやってきた激安家賃の部屋には、記憶を失った女性の幽霊がついていた!
という作品です。そして主人公はそのまま幽霊と同棲(?)へ・・・。

身体も見えない。声も出せない。だからカノジョとのコミュニケーションはホワイトボードを通じ行われます。
これがまたいいんだ。筆談でコミュニケーションをとってくる女の子(多分、女の子)ってのがキュンと来てしまう・・・!
筆談をメインに、幽霊の女の子との同居生活をという不思議なシチュエーションが描かれているだけでも楽しい。

しかもカノジョがやたらキャラが濃いのだ。
筆談でしかコミュニケーションが取れないってことはない。料理を作ってくれるということからも、現実のものに干渉することはできるのだ。そしていざとなれば部屋をあらしまわることだってできてしまう。
嫉妬心つよくてたまに荒れちゃうのも、またかわいいんですよ!まぁ主人公からすればたまったもんではありませんが、読者からすればこの奇妙な生活らしいワンシーンなのです。見えない存在に勝手に暴れられるのって。
そう。カノジョはすっごい感情豊で、しかもそれをストレートに表すのです。
姿は見えなくても、そこに強烈な人間らしさがある。作品の温かみがこういうところから染み出してくる感じですね。この2人のかけあいの面白さがじんわりと効いてくる。

のぼさん

字にも感情が現れているのも細かいです。
このシーンなんかわかりやすくて、そしてキュンときてしまいました。筆圧が弱々しくて、カノジョの揺れる心が、「文字通り」に見て取れる。
この時カノジョはどんな表情をしているのだろうか、妄想をしてしまう。
とは言え、なかなかどんな女の子なのかを具体的にイメージすることは難しいので、わりとカノジョはカノジョとして見てますね。身体の何もないそのままで。「もしかしたらこんな女の子なのかも?」という想像の余地があることが、そのまま彼女らしさというか。

主人公にべったりになったカノジョですが、幽霊になってからのカノジョの寂しさを想像するに、そうなるのも必然なのかもしれないと思いました。
「自分はここにいるよ」と頑張って伝えても、驚かれて怖がられて、ぜんぜん気持ちが伝えられない。だからこそ、自分を受け入れてくれた主人公にたいして、ものすごい愛情を向けている。強すぎて、たまに主人公を困惑させているけれどw



主人公とカノジョの生活を描く作品ですが
サブキャラクターたちの活躍もとても楽しいのです。
主人公の友人の男2人は、「カノジョさんはどんな女の子なんだろう?」と探りを入れに来ては、主人公のノロケっぷりに愕然としていくのがおもしろいですね。
そしてほぼレギュラーキャラの女の子、金城さんが素晴らしい!
主人公に片思いしてますオーラ全開で迫り来る不憫ガール。毎日のように「作りすぎました!」と言って気合の入ったごはんをおすそ分けにやってくる。
主人公はその好意に応える様子はなく、彼女の空回りっぷりは・・・かわいそうだけど、かわいそうだけど・・・かわいい。
アガりやすいけどサガりやすい。すぐめそめそしちゃうんですよ!

のぼさん2

かっわぁぁぁいいいい!
彼女本人のかわいさもいいですが、それに連鎖して幽霊のカノジョが主人公とおしゃべりする金城さんに嫉妬しちゃうし、おすそ分けもらっちゃう主人公にも怒っちゃうし。金城さんのアクションがカノジョが慌てたり怒ったりすることに繋がるのも素敵。
ずっとドタバタ生きていそうな金城さん。もうちょっと幸せになって欲しいかな。いまのままだと本当に不憫キャラになってしまう気がする・・・!



そんな「のぼさんとカノジョ?」1巻でした。
姿の見えない女の幽霊と同居生活。見えないことは、楽しいのだ。
同棲していますけど、恋愛のような色っぽいムードではないんですよね。
一緒に住んでいる友達同士、みたいな雰囲気が強くて。もちろんお互いに愛情を感じているようですけれど、性の匂いがあまりしない。ラブラブなんだけど嫌味がない不思議。
きっと相手に触れないというのが大きいんでしょうね。
それでもお互いにこの生活を大切に思っていることがわかります。そんなこの作品の暖かさが心地いいのだ。
でも期待としては、どうすればもっと恋人らしいことできるかな?と悩んじゃう姿を・・・。
この2人の奇妙な生活を、もっと覗きたくなる漫画でした。
容姿が見えなくたって、かわいさは見て分かる。ずいぶんと女の子らしい女の子なのだ、カノジョは。姿が見えないことが、結果的に精神的な繋がりの強さにつながっていて、清潔感があります。
最後にいろいろ台無しにする疑問を書くので白く伏字にして締める。
それにしても主人公は自慰とかどうしてるんでしょうか。この生活は楽しそうだけど、男としてはそこに興味がわいてしまう。カノジョにオ○ホ動かしてもらってフリーハンド・フリースタイルオ○ニーとかどうですか?(どうですかじゃねーよ
霊体であっても、ベッドの上のシーンをみるに質量はあるようなので、うまくやれば性行為も可能だと思う。そういうシーンが作中で見たいわけではありませんが、こんな妄想もはかどるいい漫画ですね、ということです。よしうまくまとめた!!!


『のぼさんとカノジョ?』1巻 ・・・・・・・・★★★☆
見えないカノジョとのほっこり同棲生活。恋愛漫画・・・なのか・・・?

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