[漫画]人も星も想いも、すべてめぐっていくんだ。『彗星★少年団』
今日やった更新がいつもより短めだったので、短め更新ふたつめ。
全部めぐるよ
倉薗紀彦先生の「彗星★少年団」。1巻完結の作品です。
元気な子供たちの日常をまったりと、しかしノスタルジックに描いた日常漫画!
倉薗先生といえばサンデー超で連載していた「魔法行商人ロマ」が、現時点では代表作になると思いますが、この作品はロマの連載が始まる前から続いていた作品。
1話6ページととても短く、しかもそれで月刊ペースだったので、4年もかけた連載です。
小学生の男女が主人公の漫画ってそれだけで好きなんですが、この作品も例外でなく好みだったので、感想をかいていきたいなと。とは言ってもさらりとですが。
作品の性質上、あまり長文を書き連ねるというのも逆に難しくて。
というのもこの作品、メインの小学生の5人の学校生活を淡々と描いていくもの。
1話完結形式でページ数も6ページと少なく、そうそう大きくストーリーを動かしません。小話をひたすら連続させていくようなスタイル。
しかしその小話には小学生ならではの生活習慣や、季節ごとの特色を強くフィーチャーした内容が多く、実に風味豊かな読み応えを与えてくれます。
しかしサザエさん形式ではなく、5年生の春から始まったこの物語は、少しずつでも確実に時を進めてゆくのです。その感覚がなんとももどかしいというか、キュンとくるというか。
この作品は本当に、特別なことはしないんです。
けどそんな日々の連続が、より「日常感」を強調してくれるんですね。
等身大の小学生!って感じがまたツボでした。
大冒険はないし、大事件もないけど、彼らが大人になってから少年時代を思い出したら、きっといつだって胸をあったくしてくれそうな。かけがえのない「日常」が広がっているのです。
そしてそんな「日常」は終わりへと向かい出す。
ものすごく居心地のいい世界だったものだから、終盤なんて自分も寂しくなっちゃって。
ダラダラと続くように見せかけて、実はクライマックスに向けてタネを巻きながら進行し、とっておきの展開へと着実に心を盛り上げてくれる。
なんでもないような日々を積み重ね、その大切さを感じさせてくれていたからこそ、それが終わってしまうことへの切なさにグッと来ます。
この終盤がやはりハイライト!
アルバムを一気にめくっていくように、それまでのいろんなシーンがフラッシュバックしてゆく。
なんでもない話の積み重なりが爆発し、、ラストで一気に切なくなる・・・!
正直このラストにやって来るまでは「普通の漫画」という気持ちだったんですけど、その「普通」の尊さというか眩しさというか、そういう想いがラストシーンで甘酸っぱさと一緒に胸いっぱいに広がる感覚に、思わずためいき。
そして最終話も秀逸。まぁ王道中の王道なんですけれども、彗星をモチーフに「すべてがめぐっていく」というテーマを上手く活かし、未来つながっていきます。
なにより物語の少年少女たちって、ラストで大人になった姿を見せてくれてこそかなと思うので、個人的にはとても嬉しくなりましたねw
そこに大きなカタルシスはなくとも、しみじみと味わい深い感動がありました。
そして1番最後に素晴らしい余韻を与えてくれる「あとがき」の存在も大きい。
作者自身からの言葉もいちいち胸打つのです。
そんな一冊でした。子供たちの日常は、いつだってちょっと眩しい。
「魔法行商人ロマ」が少年漫画にしてはちょっとダークな雰囲気の強い作品でしたが、こちらは全体的に微笑ましくかわいい作品となっていますね。
性別も年代も問わず読めるんじゃないかなと。嫌う人間は少ないんじゃないかなと思う作品です。さくっと読めて、読み返しても楽しめそうですねえ。ぼーっと何も考えなくても楽しめる。
そしてこの表紙、いいですねえ。走りまわる子供たちの夏の空はやっぱり合う!
表紙の雰囲気がそのまま本編にも通じているので、表紙買いで大丈夫!
なんでもないように続いていた日々が、思い出になった途端に輝き出す。
心地よく、懐かしい匂いの風を感じられるような作品でした。
『彗星★少年団』 ・・・・・・・・・★★★☆
まとまりある満足感を感じさせてくれる作品。小学生漫画の王道ですね。
彗星★少年団 (ぶんか社コミックス) (2012/02/17) 倉薗 紀彦 商品詳細を見る |
全部めぐるよ
倉薗紀彦先生の「彗星★少年団」。1巻完結の作品です。
元気な子供たちの日常をまったりと、しかしノスタルジックに描いた日常漫画!
倉薗先生といえばサンデー超で連載していた「魔法行商人ロマ」が、現時点では代表作になると思いますが、この作品はロマの連載が始まる前から続いていた作品。
1話6ページととても短く、しかもそれで月刊ペースだったので、4年もかけた連載です。
小学生の男女が主人公の漫画ってそれだけで好きなんですが、この作品も例外でなく好みだったので、感想をかいていきたいなと。とは言ってもさらりとですが。
作品の性質上、あまり長文を書き連ねるというのも逆に難しくて。
というのもこの作品、メインの小学生の5人の学校生活を淡々と描いていくもの。
1話完結形式でページ数も6ページと少なく、そうそう大きくストーリーを動かしません。小話をひたすら連続させていくようなスタイル。
しかしその小話には小学生ならではの生活習慣や、季節ごとの特色を強くフィーチャーした内容が多く、実に風味豊かな読み応えを与えてくれます。
しかしサザエさん形式ではなく、5年生の春から始まったこの物語は、少しずつでも確実に時を進めてゆくのです。その感覚がなんとももどかしいというか、キュンとくるというか。
この作品は本当に、特別なことはしないんです。
けどそんな日々の連続が、より「日常感」を強調してくれるんですね。
等身大の小学生!って感じがまたツボでした。
大冒険はないし、大事件もないけど、彼らが大人になってから少年時代を思い出したら、きっといつだって胸をあったくしてくれそうな。かけがえのない「日常」が広がっているのです。
そしてそんな「日常」は終わりへと向かい出す。
ものすごく居心地のいい世界だったものだから、終盤なんて自分も寂しくなっちゃって。
ダラダラと続くように見せかけて、実はクライマックスに向けてタネを巻きながら進行し、とっておきの展開へと着実に心を盛り上げてくれる。
なんでもないような日々を積み重ね、その大切さを感じさせてくれていたからこそ、それが終わってしまうことへの切なさにグッと来ます。
この終盤がやはりハイライト!
アルバムを一気にめくっていくように、それまでのいろんなシーンがフラッシュバックしてゆく。
なんでもない話の積み重なりが爆発し、、ラストで一気に切なくなる・・・!
正直このラストにやって来るまでは「普通の漫画」という気持ちだったんですけど、その「普通」の尊さというか眩しさというか、そういう想いがラストシーンで甘酸っぱさと一緒に胸いっぱいに広がる感覚に、思わずためいき。
そして最終話も秀逸。まぁ王道中の王道なんですけれども、彗星をモチーフに「すべてがめぐっていく」というテーマを上手く活かし、未来つながっていきます。
なにより物語の少年少女たちって、ラストで大人になった姿を見せてくれてこそかなと思うので、個人的にはとても嬉しくなりましたねw
そこに大きなカタルシスはなくとも、しみじみと味わい深い感動がありました。
そして1番最後に素晴らしい余韻を与えてくれる「あとがき」の存在も大きい。
作者自身からの言葉もいちいち胸打つのです。
そんな一冊でした。子供たちの日常は、いつだってちょっと眩しい。
「魔法行商人ロマ」が少年漫画にしてはちょっとダークな雰囲気の強い作品でしたが、こちらは全体的に微笑ましくかわいい作品となっていますね。
性別も年代も問わず読めるんじゃないかなと。嫌う人間は少ないんじゃないかなと思う作品です。さくっと読めて、読み返しても楽しめそうですねえ。ぼーっと何も考えなくても楽しめる。
そしてこの表紙、いいですねえ。走りまわる子供たちの夏の空はやっぱり合う!
表紙の雰囲気がそのまま本編にも通じているので、表紙買いで大丈夫!
なんでもないように続いていた日々が、思い出になった途端に輝き出す。
心地よく、懐かしい匂いの風を感じられるような作品でした。
『彗星★少年団』 ・・・・・・・・・★★★☆
まとまりある満足感を感じさせてくれる作品。小学生漫画の王道ですね。
[漫画]未来へつながる初期衝動 『THE DOG RACE 青山景初期作品集』
THE DOG RACE ~青山景初期作品集~ (IKKI COMIX) (2012/02/23) 青山 景 商品詳細を見る |
お前は僕に、「愛してる」としか言わなかった。
前回「よいこの黙示録」2巻の感想を書いたので今回は同時発売されたこちら、「THE DOG RACE」の感想でも書こうと思います。
「青山景初期作品集」と打たれるだけあって、収録作品はどれも昔のもの。
デビュー前の投稿作や、デビューにつながった作品、IKKIに掲載された読み切りなど。130ページにも及ぶ表題作「THE DOG RACE」は大学の卒業制作として描かれた作品だったりします。
まさに青山景先生の原石と言える作品がたっぷりと収録された1冊となっています。
学生時代の青山先生がどんなモチーフを好んでいたのか、全体的になんだか分かりやすい。
「THE DOG RACE」「FAKE FUR」「無題」といった、このコミックスの大半を占める作品群はどれもヤクザたちを描いた作品となっています。ヤクザ好きだったんだなー。
殺し屋たちのドライな世界観が広がりますが、しかしどこか愛嬌のあるキャラクターたちのおかげでコミカルな雰囲気になっています。
様々な点で未熟な部分は感じますが、しかしそれらは原石としての輝きも放っています。
しかしファン以外の人にオススメするには足らないかなぁと思ったりも。
個人的におっと思ったのは「黒いUFO」「リリカチュア」といった作品。
青山景先生の紡ぐ不安定な少年少女らの姿は心を揺さぶられてしまうのです。
「黒いUFO」は5ページのショートショート。
これも唐突にギャングが現れますが、メインは思い悩む主人公の女の子。
なんのドラマもなく、「仕事だから」と遠ざけられる少女の漠然とした悲しみとか不安がふわふわと漂っている作品です。でもラストにはUFOが!・・・だからなんなんだ。
続く「黒いUFO'05」にもラストにはUFOが。・・・だからなんなんだ!
脈絡なく現れるUFOはともかくとしても、思春期のモヤモヤが可愛らしいシリーズ。好き。
「リリカチュア」は自殺をしようとビルの屋上にやってきた女の子が、不思議な男性と出会うお話。
なかなか実験的な作品で、男性はまるで劇を演じるかのように熟年の刑事からガンコ親父、プロレスラー、サラリーマン、部活のコーチとキャラを変えていき、女の子と漫才(?)をします。
そうした中で女の子が自殺を考えなおし、生きる元気を得るというストーリー。
テンポよく切り替わっていく場面も見ていて楽しいですし、男性のあつっくるしくもコミカルな雰囲気も素敵。そしてラストシーンの2人のやりとりも、爽快な読後感を与えてくれます。
他にも「ドリップ」もかなり印象的な設定の作品でした。
Mな女子高生が自分の性器にバイブ型の爆弾を挿れている・・・ところに、性的に飢えたおじいさんがやって来る!・・・という不思議な漫画。
身悶えする女の子の挙動がいちいちエロいのはもちろん、ムダに壮大な世界観も見所。
見開きの放尿シーンはよくわからないけど迫力満点でした。
そしてIKKIで賞を受賞し、デビューのきっかけになった「茶番劇」も好き。
2人の小学生の、ちょっと特殊な友情を描いたもので。キャラクターの表情がとても豊かで、この単行本の作品群でもかなり力のこもった作品だと感じました。
シリアスなのに遊び心を加えて自分から茶化してる作風は、この作品でも見受けられます。
と、ざらっと気に入った作品について感想書いていきました。
目立つのはヤクザをメインにした作品たちで、次に少女を主人公にした作品。
しかし、のちに青山先生の作品で主軸となっていくのは、若者たちの青春だったり歪んだ暴走だったりと「青臭い」要素なのですが、この単行本でもその片鱗は見えています。
絵はさすがに、近年の丸っこく描き込みの多いタッチとはだいぶ違いますが、作品のテーマだったりちょくちょくヒネリを加えてくる作風は色濃く見受けられました。
ただ、やはりアマチュア時代の作品が多いので、近年の青山景作品のような面白さを求めると、肩透かしを食らうだろうなと。
個人的にも、期待していたほどの面白さが無かったというのは嘘ではありません。
でもファンならば抑えておきたい1冊だと思います。
後の主流になっていく、人間と人間が向き合って生じる面白さや温かみは、初期衝動たっぷりなこの作品群においても重視されています。ここから未来のあの素晴らしい作品達が飛び出していったのかと思うとワクワクするのです。
青山景という作家をより深く知りたいのであれば、きっと楽しめる本だと思います。
『THE DOG RACE 青山景初期作品集』 ・・・・・・・・・★★★☆
ファン以外はちょっと辛いかもしれない。ですがファンは抑えておきたい1冊かと。
[漫画]傑作になりえた遺作。『よいこの黙示録』2巻
よいこの黙示録(2) (イブニングKC) (2012/02/23) 青山 景 商品詳細を見る |
世界はつながってつづいているのだ
「よいこの黙示録」2巻が出ました。・・・出ましたけど、複雑です。
作者の青山景先生は昨年10月に自殺しました。この作品は未完結です。
この2巻は連載された原稿に加えて、キャラ設定画やラフイラスト、ネームやプロットといった資料が巻末に収録されています。
永遠に続きが読めないと分かりきってる作品を買うのは虚しいわけですが、・・・やっぱり好きな作品なので買いました。そしてやっぱり面白い。面白いので感想書きたくなります。でも普段と違う気持ちで書いてます。この感想を一体どんなテンションで書くべきなのか。
1巻の感想→このクラスに神様を作ろう。 『よいこの黙示録』1巻
この作品は小学生がクラスの中に宗教を興し、それを拡大させていくという内容。
2巻では野球部にいた五十嵐くんが宗教に傾倒し、それに複雑な思いを抱く根津くんを主軸に描かれていきます。男の子同士の泥臭い友情が見所。
それだけでなく主人公の先生にストーカーがついてしまったり、森ユリカを教祖とするその宗教の名前や役職をしっかり決定して更に組織として安定感を増したり・・・
「ここからどうなるんだろう!」とついワクワクさせられてしまうんですよ。
でもそのワクワクが気持ちよく消化されることはこれからずっとないのです。面白いからこそ余計つらいというか悔しいというか・・・。
普段なかなか描かれないであろう「宗教」という題材にあえてチャレンジした意欲作であり、好きだったポイントです。アイデアだけというワケでもなくちゃんと芯があり、作品の熱を確かに感じられるものでしたね。
小学校という舞台で、子供たちが宗教を作り組織し成長させていく、という設定も面白かった!
独特の人心掌握術が見えてくるというか、宗教がスピリチュアルなものに見えて実際はすごく作為的で計算づくめに組み上げられているという一面が描かれていました。
宗教というちょっと恐ろしいテーマを奥深くきり込んでいった内容で、なるほどを思わせられる部分も多く、読み応えがったんですよこれが。
子供が作ったおままごとみたいな宗教でも、信仰心を芽生えさせ人を操る事ができる。
かわいらしいタッチで描かれながらも背筋がゾクッとするような部分もあり。子供社会を舞台にしたからか、人間の本質に訴える光と闇がわかりやすい形で存在していたのもうまい。
作品のメインテーマの奥深さだけでなく、キャラクターがとても魅力的でした。
可愛らしいキャラクターが作品を飲み込みやすいものにしてくれていましたよなーと。
特に宗教を作り、意図的に人間をコントロールしていこうとする少年・伊勢崎のキャラクターも恐ろしいながら独特できらめくものがありました。
そして伊勢崎と朝子先生の関係も、なにやらエロさがあって素晴らしかったです。
小さい男の子にまんまと弄ばれちゃう大人の女性って・・・素敵じゃない。
伊勢崎と先生に関しては、巻末のプロットに気になる部分を発見しました。
青山先生が遺した、今後の展開の予定を書いたメモの一部です
・・・・・・・なんだと。・伊勢崎に良いように利用され、反旗を翻そうと決意した朝子がとち狂い、性的な誘惑と調教によって伊勢崎を手なづけようと試みるも、逆に伊勢崎に性的に支配されてしまう。
と、漫画はなにより娯楽なんだってことで明るめに本作の好きなポイントを語ってきましたが、もちろん一読者としてそれだけでないモヤモヤも抱えています。
というか上の時でも、「でした」とか「面白かった」とか過去形で言ってしまうのが辛い。
青山景先生には「ストロボライト」という作品で出会って、それからいろいろと単行本を集めてました。大好きな作家さんでした。絵が可愛らしく、しかしメッセージや世界観は重厚でいつも魅了されてきました。若い人間たちがエネルギー持て余してるようなちょっとねじれた青春劇も、またとても魅力的でした。
この「よいこの黙示録」にも期待していたんですが、この作品は永遠に完結しません。それはとても不幸なことです。こんな形で終わってしまうなんて、作品が不幸です。書き方が癇に障ってしまった方がいたらごめんなさい。
巻末のプロットを読むに相当先の展開まで構想してあったことが伺えます。
未完作品のプロットをこのように公開してもらえて、読者としてはわずかながらでもこの作品の未来を知ることができて幸せかもしれません。でも本来だったらちゃんと漫画として読めたであろうことを思うとすごく複雑なのです。プロットだけ読んでも超面白いんだものこの漫画。
あああーーーーなんだかなあーあ。もっと読みたかったんだよ青山先生の漫画が。本当に。
漫画を読みだして自分はそんなに経っていなくて、せいぜい7、8年くらいなんですけど、こんな形で楽しみにしてた連載作品が途絶えてしまうってことは今までなくて、どうすりゃいいのかわからないです気持ち的には。
そんな風にモヤモヤしながら読んでたら、コミックス一番最後のページで泣きましたよ。
グチャグチャなままの気持ちがせり上がってきて爆発しそう。
だって青山景キャラが勢ぞろいでこっち見てこんな微笑んでるんですよ。これ書かれた時にはそんなつもりはなかったはずでしょうけど、結果的に自分は青山先生から「さよなら」と言われてような気がしてしまいました。
そんな風に、とても冷静には読めない作品です。
ミュージシャンのCDが死んでから売れたりしますが、この作品は内容的にも非常に中途半端なので、この漫画を手にとってもきっといい気分にはなりません。だから人にも勧められない。
でも内容がつまらないなんてことは決してなく、このまま続いていれば傑作となっていたであろうポテンシャルを感じさせます。いろんな人に読んでもらいたいのは本当です。ファンとして青山先生の作品をもっと広めていきたいのも本当です。でもこの作品に限っては事情が違う。未完作品を勧めるのもおかしな話なので。
まぁともかく、これからきっと何度も青山先生の漫画を思い出して読み返したりするはずで、今まで楽しい漫画を届けてくれてありがとうございましたというのは書いておきたい。
「よいこの黙示録」第2巻でした。未完です。
『よいこの黙示録』2巻 ・・・・・・・・・★★★★
採点が上手くできない作品ですけど一応。本当に面白いからこそ惜しい。悔しい。
[漫画]熱狂がぼくらの背中を押す『四月は君の嘘』2巻
四月は君の嘘(2) (講談社コミックス月刊マガジン) (2012/01/17) 新川 直司 商品詳細を見る |
君の音が聞こえる
出てから結構経ってしまいましたが「四月は君の嘘」2巻が出ています。
1巻が出てるだけの状態で2012年度マンガ大賞にノミネートされ、注目度を上げた・・・ような。実際、ノミネートされるのも納得の作品です。
特にこの2巻では開始以来、最高の盛り上がりが到来。大興奮で読み終えましたよ!
名作への階段を駆け登ってきた気がしました。いやあ、熱い熱い。
輝きだした、かけがえのない春。 『四月は君の嘘』1巻
コンクールにでるかをりの伴奏を依頼された公生。
トラウマから長らくピアノの表舞台から姿を消してきた彼が、再びステージに上がる。
男の意地を見える形でここにやってきた公生ですが、果たしてどんな演奏をするのか。
読んでいてドキドキが止まらない展開。そして彼らの版がやって来る・・・!
●2巻最大の見所はなんといっても、かをり・公生の演奏!
この巻とても早く読めてしまったんですが、それはこの緊張感とスピード感と、なにより物語の面白さで一気に読んでしまったから。そして胸に残る満足感の凄まじいこと凄まじいこと!
今回で間違いなくこの漫画に魅了されてしまいました。
頭から背筋へゾクゾクと走る痺れ。こんなに興奮させてくれるなんて、幸せです。
引きずりこまれる。震えたつ。
表現するならそんな感覚が、もうずーっと続く恐ろしい内容。
一気に駆け登っていく興奮。緊張が身体を縛り付ける。しかし体の奥から渦巻き膨れ上がる力が、強い熱を帯びなが面倒くさい感情を吹き飛ばす。ステージの上で、鍵盤の上でで開放される音楽。それがどんどん人の心を動かしていく。
演奏中の2人は直接言葉を交わしません。演奏中ですしそれは当然。
けれどお互いの目で、そして音楽で意思を通じ合わせる。
言葉でなくてもつながりあえる。応援や叱咤が音楽となって心を震わせる。
お互いに全力をふりしぼりながら間違いなくパートナーを意識している、この極限の信頼関係。いや、信頼というかもう闘いですこれは。その目は語りかけるのです。「もっと上へ、もっと先へ行くぞ」と。
互いが互いを挑発するように、どんどん高みへ登っていく。そして2つの音色は音楽として高密度に絡み合って、恐ろしい迫力でもってコンクールを支配する。
加えて公生はかをりの背中を見つめます。戦うかえおりの背中は、同じステージに立つ自分に諦めることさえ許してはくれない。公生は彼女に食らいつくように突き進んでいく。
1度は諦めて演奏をやめてしまう公生ですが・・・ああ、そこからの流れが壮絶!作中でもあった表現ですが、2人はまるで殴りあうように音楽を奏でる。
公生も伴奏という立場でありながら、主役のかをりを脅かすような存在感を発揮しだし、会場もどよめく。
あまりにも力強く光を放つ2人。本当に眩しくて、最高にテンションが上がる!
●痛快ですらある清々しいその演奏。
歓迎してくれるのは観客たちの歓声。絶頂に突き進んでいく観客たちの姿もまた魅力的!
そしてただ湧き上がる歓声を描くだけでなく、その演出もお見事。
公生が何度もその光景を思い出すように作品内でも繰り返し描かれる歓声は、そのたびにあの演奏シーンの興奮を自分の胸に甦らせてらせてくれる。どれだけ公生がその光景を大きく受け止めたのかも分かるここ2巻一連の流れはすばらしいものだったなと。
音楽漫画における「観客」の描かれ方って実はとても大事だよなぁと思います。
読者はもちろん主人公に感情移入しながら読むことが多いんですけど、物語を外部から見ている立場からすればむしろ観客に近い。そして音楽の凄さってのは具体的な把握は難しいので、観客がどんなリアクションをとるかって部分で自分は感情を高めることが多いです。
他作品ですが「爆麗音」なんかは湧き上がる観客の描写が凄まじく、好きでしたねえ。
そしてこの作品も、観客の描かれ方が印象的でした。上手い。順調な奏者にまずは期待をよせ、途中の挫折から不安・不満を抱き、そこからそれを一気に解消させるカタルシスに我も忘れる様。それがスムーズに展開されるのです。
同時に観客のすさまじい沸きぶりに違和感もない、雰囲気作りと盛り上げ方も上手い。
みるみる高まっていく作品の熱に当然のごとくあてられて、自分も拍手喝采ですよもう!
拍手喝采で称えられる。それはコンクールでの評価とは別の栄光であり
ふさぎこんでいた公生が掴み取った、1つの勝利の証なのかも知れません。
●コンクールを終えてからも、登場人物も読んでる自分も、あの興奮が忘れられない。
そんな中でやってくるのは、次なる課題の布石。
一回きりステージに立って拍手を浴びただけで満足か。違うだろう。あの熱狂に身をおいたら忘れられない。忘れられるわけがないんだ。
ボロボロになりながら歯食いしばって、泣きながらも這いつくばって必死にしがみついて、それを追っていく生き物なんだ。そんな演奏家としての力強いメッセージがガンガン飛び出す後半。
あの主人公がこんなにカッコよく変われたのだからすごいなぁ。まだ成長過程というか、乗り越えなきゃならないものはたくさんあるけれど、心底応援したくなります。
内容としてはよくありそうなものですが、この作品はなんでこう、次に何が起こるのかってワクワクしてしまうんだろうか!
●この2巻でキャラクター同士のつながりより見えたというか、強調されてきました。
男2人女2人がメインキャラで、それぞれが恋愛感情なり友情なりなんなりで関連しあっているんですが、それぞれの感情がより深化してきたことでさらにもどかしさが出てきました。
これぞ青春!な4人の今後の展開にも注目していきたいですねえ。
「もしかして好きなのかも?」なんてついオーバーな期待をしてしまう。そんな思春期男子くささもナイス。でも公生とかをりの関係は、恋愛抜きだからこそ面白いのかな。
色っぽい感情よりもっと野性味あって荒々しい、音楽家としてのつながりがある。
かをりの考え方は常に公生に影響を及ぼしてして、縛り付けの公生を解放させます。
今回でも、もともと性格な演奏がウリであった公生に向けて楽譜を「五線譜の檻」と言い放っちゃうところとかカッコよかった。公生はそこに必要なものはそこにあると教えてられてきたのに、楽譜を「檻」と言い切るその発想の自由さ!そしてそれを実現してみせた公生もよかった。
でもかをりがどうやら体が少し弱い?ことも示唆する描写も見られましたし、そこも今後気になるポイントでしょうか。
ざわざら書いていきましたが「四月は君の嘘」2巻感想でした。
そういえばこのタイトルに関するヒントみたいな描写も今回ありましたね。「嘘」というワードが登場しました。もう作中では4月は終わりそうですが、春という季節は今後も印象的に描かれていきそうな予感。あとは「君」は誰なのか気になるところ。
公生とかをりは互いに「君」と呼び合う場面がちらほら見れるので、やはりこれは主人公2人を指すダブルミーニング的含みがあるのかなーと妄想してます。
今回のオビには森川ジョージ先生が「音が視える。」とコメントを寄せていましたが、これにはなるほどなと思わされました。
この作品、音楽の音色に関して作中で擬音や効果音は登場しません。
しかし、その瞬間その瞬間に鳴り響いている音がハッキリと感じられるほどの臨場感!
常にモノローグや絵でどんな状況かを示してくれるし、暴れるような迫力を見せつける演奏描のおかげで、効果音無くとも淡白になっていない。この爽快な演奏描写も大きな魅力です。
モノローグも最初はクサいと感じていましたが、ここまでくると何から何までカッコいい・・・。青春の匂いを強く感じさせてくれる日常パートでの雰囲気もすばらしいです。
ストーリーにも繊細な心理描写にも大迫力の演奏にも、爽やかでかつ最高に熱い!
圧倒されそうなほどの熱量で描かれた物語で、読むものの心を震わせます。
1巻は導入をじっくりと描いた内容でしたが、いよいよ本筋が動きました。
3巻以降どうなっていくのか本当に楽しみ。
『四月は君の嘘』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
震えっぱなしの第2巻。最初の山を超えた感じです。期待がうなぎのぼり。
[漫画]このモヤモヤも、空を飛んで吹き飛ばそう。『思春期飛行』
思春期飛行 (KC KISS) (2012/01/13) 江本 晴 商品詳細を見る |
自分の足で 行きたい場所へ
江本晴先生の「思春期飛行」。1巻完結の、オムニバス作品です。
思春期とか学生服とか大好きな自分はタイトルに釣られるのです。
「思春期飛行」というタイトルはなにかの比喩とかでも何でもありません。思春期になるとみんな短い期間だけ、本当に飛ぶことができる世界を描いた作品。
それをストレートに表現したこの表紙、とても好きです。雰囲気いいですねえ。
思春期になると飛べるようになる。本作はそんな「飛行」を、思春期がゆえに様々なことに頭を悩ませる女の子や男の子たちに絡めて描く作品。
どれもが思春期の男の子・女の子をメインにした作品で、まさに青春といった内容です。
今回は特にお気に入りな作品3作について、個別に感想を。
●転校生と飛行機雲
中途半端な時期に転入してきたのと、引っ込み思案な性格のせいでいまだクラスに馴染めない主人公・サキ。屋上でひっそりと過ごしていたら、同じ屋上の住人である少年・峠と知り合う。
おっかなびっくりでも、心の距離は少しずつ近づいていくのですが、まだ飛べないし相変わらずクラスの友達も出来ないサキ。果たして彼女はちゃんと前にすすめるのか。
この扉絵、好きだなあ。すごく青春の匂いがする。
絵のタッチも柔らかく、伸びやかな空気を作り出してくれていていい感じ。
「飛行」は誰もが遅かれ早くは訪れる変化。
しかし日々ちょっとずつ大人へとなっていく「身体の変化」とは違って、見た目ではっきりと見えてしまう「飛行」は、育ち盛りな思春期の子供たちの胸に独特の感情を呼ぶみたい。
心も繊細になっちゃうこの年頃には、他人と自分を比べてはコンプレックスを抱きやすく、「まだ自分は飛べない・・・」というのも、この設定ならではの少年少女の悩みとして立ちはだかる。
そしてモチロン、空を飛ぶというのは思春期の限られた時期にしか叶えられない。
みんな思い思いに空を飛びながら楽しそうに青春を謳歌してる様子が、たまらなく眩しい。
この短編では他人とのコミュニケーションが上手くとれず、いまだに飛ぶこともできないと塞ぎこんでしまっている女の子が主人公。コンプレックスになっていた「飛行」がキーワードとなり、彼女が自分のカラを破っていくきっかけになっていくのは、とても気持ちいい展開でしたねー!
空を飛んでいるという様子はそれだけで高揚感も爽やかさもあって、物語そのものとよく咬み合っているんですよね。本当だったら王道すぎるストーリーでも、思春期の飛行というファンタジー臭さが組み合わさって新鮮味を出してくれる。それはこの単行本のどの話にも言えること。
そしてこの短編でたまらないのがラストシーンですよ。思わず悶絶!
「だめ?」と聞く男の子に、返事をしないまま手を取る主人公!ああ、ひたすら鮮やか!
空を飛ぶ少年少女、そのモチーフの清々しさが物語全体に生きていて特にお気に入りのエピソードですね。
●坊主頭と子どもの霊
男の子の「ダメな思春期らしさ」がにじみ出てて好きな短編!
主人公の徳楽くんが友人や女の子にもついつい見栄をはってしまうのにニヤニヤw
野球部の少年と、ずっと病院にいる身体の弱い女の子のお話で、これも空を飛ぶということで話が広がっていきます。
単行本で唯一、男の子が主人公になっている作品。それだけに、主人公の男の子のくすぶった感じは他の短編にはない魅力を放っていると思います。
「小さい もう なんてか小さすぎる 手を掴まれんたんだぞ それを俺は」
なんて自己嫌悪に陥るシーンなんか、読んでてこっちもそわそわしてくるというか。
そして1番印象的なのがこの場面。
空を飛んだ少女を見上げて、「ああ なんか なんだコレ」としか言葉がでない主人公。
器用な物言いなんてできない、ただ呆然とため息と同時に漏らしたような感嘆。
まさにこの年頃の不器用な男の子って感じでたまりませんね!
ストーリーも感動するというよりは、力強くなった絆を見てふっと微笑めれるような感じ。やや中性的なヒロインですが、主人公が心惹かれたのも分かる気がするなあ。不思議な引力がある。
●りりと志央
こちらは女の子と女の子の友情を描いた作品。幼馴染の2人が主人公。
子供の頃の思い出を大切にする・・・というかやや固執しすぎてる部分もあるりりと、どこか冷めた物言いが特徴的な志央。仲のいい2人でしたが、タイムカプセルをめぐりちょっとケンカ状態に。
現実的なのは志央の方ですが、でもりりにはこの純粋さを守りぬいて欲しいというか、大切にされて欲しいというか、読んでいてなかなかモヤモヤしたものですが、しかしそれが面白い。
しかしラストへ向かう展開の心地よさと、最後の幸せな暖かさに思わず笑顔。
中学生の女の子って、きっと本当に子供と大人が入り交じっているんだろうなあ。この2人は端的にこの年頃の女の子を示している気がします。志央のキャラクターが個人的に好み。
そして「ぐえー」って言ってるウサギがなにげにお気に入りなのです。
そんな感じの1冊。ほか3つの短編も、みんな読後感のスッキリしたものばかりです。
思春期の人は飛べるようになる・・・という設定が存分に生きており、飛ぶことが子供たちを悩ませたり、その悩みを吹き飛ばしたり、いろんな風に作用するのが面白い。
そして上にも書きましたが、「人間が空を飛ぶ」というシンプルかつ魅力的なモチーフは、甘酸っぱい青春物語にさらなる爽やかなをプラスしてくれているのです。
もっとエッジの効いた作品も読んでみたくなりましたが、この優しくあたたかな作風はいいものです。読んでいていい気分にさせてくれるものばかり。
青空の似あう、甘酸っぱい思春期の面白さが詰まった作品と言えます。
『思春期飛行』 ・・・・・・・・・・★★★☆
空飛ぶ少年少女のキラめく青春模様。爽やかで読みやすいです。