[小説]幻想は冷めていく。憧れはすれ違う。君を見失う。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻
大遅刻ですよ!
わかるものだとばかり、思っていたのね……
かなり、かなり遅れましたが「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想です。
6巻で一時的な団円を迎えたのち、今や奉仕部の面々の人間系はけっこう……いやだいぶこじれております。
人生における取り返しのつかない過ち、失敗。
もしかしたらその瞬間がいまなのかもしれない。そんな恐怖感も漂う内容。
いやはや、1巻のころとはまるで違う雰囲気になってきました。
作品らしさが深まり、ハマる人は一層ドツボにハマり、反動で拒絶せざるをえない人も出てくるでしょう(拒絶する人はこの8巻に至るまでのどこかですでに断念してるかもしれませんが)
正直、感想の冒頭でこんなことを言うのもあれですが、スッキリしない巻でした。(あれっ、7巻と同じこと書いてる!!
つなぎの巻だということを踏まえても、人間関係の軋みと揺らぎ……読んでいて非常に不安にさせられる。
しかしきっと主人公らが乗り越えてくれる、乗り越えるべき壁であると祈って、希望を託すように読み進めました。
いやぁツラい。どれだけ間違えたら間違えずに済むのか。
ときたま昔を思いだしては勝手に刺激されて傷ついたりしているわけで、いつもいつもこの作品には刺激を貰っているのよな。とかいう自分語りはさておきちゃっちゃと感想本編に参りましょう。適度に自意識が揺さぶられる。
以下は過去の感想一覧。
優しい女の子は嫌いだ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻
甘い青春には慣れない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻
かつて「彼ら」だったぼくらが出来ること 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』4巻
憧れだった君を許せない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』5巻
独りの英雄は、ステージの輝きを浴びられない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6巻
それでも彼らは当たり前の嘘をつく。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7巻
そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
奉仕部の人間関係。まずい感じになっています。
7巻で八幡がとった「嘘告白」という手段に、雪ノ下と由比ヶ浜が反発。
消化不良感を残したまま奉仕部は、力をあわせなくては難しい、難題といえる依頼を受けます。
けれど奉仕部の3人は、それぞれ別の方法をとり行動を開始。
きっと大切に思い合っている。それなのにうまくいかない。何がだめかも分からないまま間違え続けていく。
ここからは順番に気になったポイントを取り上げていこう。
ネタバレ注意で。
・雪ノ下とのすれ違いが加速する
ただ、この場面で注意すべきは、7巻のラストで雪ノ下が憤った理由の断片が見えたことでしょうか。
つまりあの時、恋愛感情だのよりも、比企谷八幡という人間を支えるポリシーが揺らいでいたことを彼女は咎めていたんだ。
そしてこの言葉に八幡は反論できない。
視線をあわせることもできず、ただ言葉を受け止めることしかできずにいた。
彼自身、自分の変化を知りつつも行動している。
・葉山くんエンドが見えつつある…?
ヒロインとの関係が悪化するなか、グングンと存在感を増すヤツがひとり。
葉山隼人、その人である。
というかもうこいつがヒロインとして八幡と結ばれた方が話が早いんじゃねーかなとか思ってしまうまである。
今回葉山のアクションが大きかったこともあり、物語に介入し、新たな一面を見せてくれる場面も多かった。はやはちが捗るな。
「あれで結構プライド高いから(P.144)」と、陽乃さんはそう葉山を評価している。ただ八幡もだが自分もそういった要素が葉山にはあまり見当たらない。葉山のプライドとは一体なんだろう。
話は変わって、葉山の想い人。
八幡と葉山がコイバナ……すごいよな…距離縮まりまくりだわ…。
彼女の登場でまた話はこじれたわけですが、レアな話を聞けました。
葉山の想い人のイニシャルはY。これは4巻で明らかになっていたことですが、それも踏まえると考察しがいがあるやりとりです。
自分としては、陽乃さんだと思っているんですけどね。雪乃かもしれないけど。
しかしここで気になるのは、どちらにせよ、幸せな恋をしてはいないなということ。終わってしまったか、あるいはうまく始めることができないのか…。いいよねイケメンが不憫な片思いしちゃうってのはさ…。
ともかく雪ノ下姉妹との関係も深いわけで、今後もし雪ノ下家の内部事情にまで話が及ぶようだったら、展開の足がかりになりそうなキャラクターである。
・葉山が八幡をかばったのは
折本らに直接、葉山は怒りを見せた。それは八幡をかばうため、八幡の価値を訴えるためだった。
葉山くんが八幡を好きすぎる問題。
「俺はただできることをやろうと思っただけだよ」
葉山のこの言葉は、おなじ言葉を吐きながら行動してきた八幡に向けたものだったのかもしれない。これまで葉山は自分が問題解決を直接できる立場ではないことや、7巻では八幡を追い詰めてしまったことを悔やんでいたように見える。
そしてここにきてこの言葉である。八幡をおもう葉山の気持ちは相当なもんやで♂
P.200以降、葉山と八幡の口論が書かれている。
ここのやりとりは葉山との関係のみならず、雪ノ下へのあこがれもまた強く現れた内容だったので何度も読み返したい重要場面。
・雪ノ下へのあこがれと「自己犠牲」
そしてその口論シーンについて。
「誰かを救おうとするのは、誰かに救われたいという願望の現れではないのか?」
そう投げかけた葉山に静かに激怒した八幡。その中で見逃せない、彼のこだわりが表現されているのがこの一幕。
それほどまでに強く憧れ、もはや信仰とも言えるくらいに達しているのに、理解にまで達せない。一方的な憧れなんてただの押し付けにすぎないのは本人も述べているが、ほんとそれ。
作中、「自己犠牲」と言うなと八幡は言っていました。
この部分は、かなり突き刺さりましたね。
これまでの感想の中で自分も幾度と無く彼の行為を「自己犠牲」と表現していたので、これは反省するしかなかった。そうか、そうだよな。
「誰が貴様らのためなんかに犠牲になってやるものか(P.204)」はその怒りが爆発していて、とても格好いい。
でもあえて自己犠牲という言葉を使っていく。
八幡は自己犠牲で誰かを救ってきたわけですが、今回はだれかの自己犠牲によって守られたり庇われる立場となるシーンが多かった。
雪ノ下、由比ヶ浜、そして葉山に。
本人が絞りだすように選択した一手を「自己犠牲」と呼んで憐れむべきではないにしろ、それを見て痛ましく思う人が居るならば、あえて勇気をだして「なにやってんだ馬鹿野郎」という意味を込めて「犠牲」という言葉を使いたい。
・陽乃さんコワイ
ひさびさに背筋がゾクゾクする一言、いただきました。
「比企谷くんは何でもわかっちゃうんだねえ(P.196)」
理解をにじませた八幡を拒絶するがごとく上からかぶせた、かなり悪意アリアリなセリフ。こういう所でそこしれなさを恐ろしく提示してくるこの女は、やはりコワイわな。
「悪意に怯えているみたいで可愛いもの」というセリフも、八幡を言い表しているのかもしれない。誰かに傷つけられる前に自らすすんで傷つく。そうすれば不安にならない。怯えなくて済む。
「理性の化け物」と、八幡を呼んだ陽乃さん。
もしかしたら家族である小町に並ぶくらい、八幡を深く見つめている、あるいは見透かしているのは彼女かもしれない。
・かつての八幡の恋
折本というキャラクターが登場し、八幡が揺さぶられたのと同時、前に進めたのも面白い。特にこの一文はかなりしびれた。
「始まってもいなかったものを、今になってちゃんと終わらせることができた気がした」
勘違いして、空回りして、思い込んで、恥をかいた。なんてことない。好かれているんじゃないか?という錯覚に酔って作った、一生ものの傷跡。
けれどちょっとは癒えたんじゃないかな。小さな自己満足にすぎないけれど、大切なことだった。
・部室の鍵
ささいなシーンですが、泣きそうになった。216Pの部分ですね。
八幡が奉仕部を訪れなくなってしまっても、彼女はずっと部室にいた。
それは由比ヶ浜との時間があったからという理由がまずありますが、それでも
あの部室での時間を彼女は守ろうとしていたのだと、そう思えて、泣けた。
これがあるからこそ、8巻ラストで失われていくものが、あまりにも痛い。
・手の届かない、彼方の人
これもこれも小さなワンシーンですが示唆に飛んでいたのでお気に入り。
雪ノ下のために、「自分も立候補する」という形で参入してきた由比ヶ浜。そういった彼女の心の強さ、純粋に友達思いで自分を投げ打てる覚悟など、そういった部分は八幡には無い部分。だって裏方だものね。
けれど実際に行動に映せる由比ヶ浜は眩しい。
手が届かないのは、そういう憧れが出ているのかもしれない。物理的な距離じゃないんだ。
また、少なからずの違和感として由比ヶ浜の接近に警戒している八幡としては、彼なりの卑屈な思考から、「自分には手の届かない存在なんだろう」というような含み感じる、かもしれない。
触れられた場所が痛むのは、期待をしてはいけない、釣り合うわけがないって、理性がかけるブレーキに心が悲鳴をあげているのかもしれない。由比ヶ浜は素敵な女の子なんだ。
憧れと自虐のふたつが織り交ざった、けれど由比ヶ浜と八幡の切ない距離感が現れているかのようで、垂涎モノに美しいシーンでした。
・八幡の矛盾と弱さ
この部分はかなり広範囲になってしまうのですが、P.237とP.250ですね。
自分は犠牲になってるわけではないから同情も憐れみも必要ない。それなのに誰かがその役を担うのを目にすると、苦しくなる。悲しくなる。寂しくなる。
八幡は自分の中にある矛盾とついに直面し言及しました。
確実に八幡の世界が広がっているのを感じる。だからこそ、今まで見えてこなかった視点からものを考えるようにもなり、彼はまた苦しむ道を往く。
そして、八幡は奉仕部を守るために行動してもいい自分のための理由を探していた。誰かのためになんて彼にとって嘘っぱちな言葉じゃなく、なんとか自分を納得させるための理由が必要だった。
それをわかって小町がちゃんと理由を与えてあげるのがP.250であり、八幡のクソ捻デレっぷりが現れている。
結局のところ、八幡はもはや自分以外の誰かのことを気にしすぎて、これまで通りの彼の論理哲学を貫けなくなってきているんだな。
・失われていくもの
あまりに哀しく、空回りとすれ違いのもどかしさ、切なさが爆発する場面です。
その理由はなんだったのか。これがまだ8巻の段階では見えてこない。
だが現実に、雪ノ下が奉仕部という空間から遠ざかっていく予感だけが強く心にこびりついて、非常に後味がわるいラストを迎える。
読者にとって安心したいための聖域が崩れていこうとする。これに対する緊張感や精神的負荷は、どんどんと大きく重く冷たく存在感を増していきます。
八幡は奉仕部の活動として“偽り”を用いて課題をこなしてきたけれど
奉仕部の面々に“偽り”を持って接したことは、無かったはずだ、きっと。
だって奉仕部は本物でなければならなかった。薄っぺらな友情ごっこすら拒んで、もっと頑丈な、もっと純粋な本物を探していた。安い妥協が許されてはならない聖域だった。
けれど八幡は、守りたいがために奉仕部を“偽り”でつなぎとめた。
本物のつながりでなくてはいつかは瓦解することはわかっていたはずなのに。
つなぎとめる努力をしなければ続かない関係なんて、目指したものではなないのに。
それでもいま目の前に迫る瓦解の危機を回避するために、偽ってしまった。
信念を共にする、理想を求め合う、ふたりだった。
聡い彼女のことだ。証拠はなくとも察して、静かに傷ついたんだろうな。
だからこそ出てきたセリフがこれなんだろうな、と想像する。
わかるものだとばかり、思っていたのね……
近い理想を抱き合った。その事は直接確認せずとも通じ合った。だからこそ深い失望があったのではないだろうか。
どうしてそこまで近くにいながら、すれ違ってしまうのか。
それは八幡が葉山に対して抱いた感情と同じであり、まぁそういうことなのだろうなと思う。
奉仕部を守るための八幡の一手は、そのまま雪ノ下を傷つけ、奉仕部をさらに崩壊へと追いやった。
今を大切にしてしまいたかった八幡の心情は、責められるものではない。
だからこそ、本物を求め合った彼と彼女がすれ違い離れていくことは、悲しいけど、どうしようもないことのように思える。
けれどむしろ8巻で浮き彫りになったのは雪ノ下雪乃の潔癖さ。
潔癖といえば八幡だったが、今度は彼女の番。
正直に言えば読者としては、彼女の心理面は想像で補わなければならない部分が多く、情報の少なさから置いてきぼり感というか、…悪く捉えてしまうなら彼女の狭量さを見せつけられた思いすらある。
気むずかしい性格だよ。あっちもこっちもどいつもこいつも!
根本的には八幡と雪ノ下は似たもの同士で
読者からすればたっぷりの八幡モノローグでやっと彼の内面を少しずつ掴んでいく。
なら心のうちについてなんら語られていない雪ノ下の心の動きを完璧に把握することも難しいんだなぁ。
かつて雪ノ下は「世界を変える」とまで言った。
崩壊間近となった彼女と彼と彼女の3人の小さな世界は、ここからどう変わるのだろう。
大きなものを見据えすぎて大切なちっぽけなものを見逃す。そういう間違いだって、ありふれている。けれど間違いを間違いと思わない間違いだってあるのかもしれない。正しさを盾に苦しみを押し殺し、寂しさを噛み殺して。
・小町 is エンジェル
天使です。
そんなこんなで「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想でした。
ほぼポイントつまんでの箇条書き形式というか、まとまりがなくなってしまったのが残念ではあります。でもやっぱり、この巻はうまく咀嚼できません。
もうすぐ!もうすぐ9巻が出てしまう!ハァ!はやく読みたい!!ってことで以上!
さっさと9巻読んでまた悶ます。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫) (2013/11/19) 渡 航 商品詳細を見る |
わかるものだとばかり、思っていたのね……
かなり、かなり遅れましたが「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想です。
6巻で一時的な団円を迎えたのち、今や奉仕部の面々の人間系はけっこう……いやだいぶこじれております。
人生における取り返しのつかない過ち、失敗。
もしかしたらその瞬間がいまなのかもしれない。そんな恐怖感も漂う内容。
いやはや、1巻のころとはまるで違う雰囲気になってきました。
作品らしさが深まり、ハマる人は一層ドツボにハマり、反動で拒絶せざるをえない人も出てくるでしょう(拒絶する人はこの8巻に至るまでのどこかですでに断念してるかもしれませんが)
正直、感想の冒頭でこんなことを言うのもあれですが、スッキリしない巻でした。(あれっ、7巻と同じこと書いてる!!
つなぎの巻だということを踏まえても、人間関係の軋みと揺らぎ……読んでいて非常に不安にさせられる。
しかしきっと主人公らが乗り越えてくれる、乗り越えるべき壁であると祈って、希望を託すように読み進めました。
いやぁツラい。どれだけ間違えたら間違えずに済むのか。
ときたま昔を思いだしては勝手に刺激されて傷ついたりしているわけで、いつもいつもこの作品には刺激を貰っているのよな。とかいう自分語りはさておきちゃっちゃと感想本編に参りましょう。適度に自意識が揺さぶられる。
以下は過去の感想一覧。
優しい女の子は嫌いだ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻
甘い青春には慣れない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻
かつて「彼ら」だったぼくらが出来ること 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』4巻
憧れだった君を許せない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』5巻
独りの英雄は、ステージの輝きを浴びられない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6巻
それでも彼らは当たり前の嘘をつく。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7巻
そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
奉仕部の人間関係。まずい感じになっています。
7巻で八幡がとった「嘘告白」という手段に、雪ノ下と由比ヶ浜が反発。
消化不良感を残したまま奉仕部は、力をあわせなくては難しい、難題といえる依頼を受けます。
けれど奉仕部の3人は、それぞれ別の方法をとり行動を開始。
きっと大切に思い合っている。それなのにうまくいかない。何がだめかも分からないまま間違え続けていく。
ここからは順番に気になったポイントを取り上げていこう。
ネタバレ注意で。
・雪ノ下とのすれ違いが加速する
雪ノ下とのすれ違いは、8巻の特に注目すべき点であり、これは下の方で考えまとめようと思っています。「そんなうわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ…」
~
それはきっと比企谷八幡と雪ノ下雪乃がただひとつ共有していた信念だったから(P.134)
ただ、この場面で注意すべきは、7巻のラストで雪ノ下が憤った理由の断片が見えたことでしょうか。
つまりあの時、恋愛感情だのよりも、比企谷八幡という人間を支えるポリシーが揺らいでいたことを彼女は咎めていたんだ。
そしてこの言葉に八幡は反論できない。
視線をあわせることもできず、ただ言葉を受け止めることしかできずにいた。
彼自身、自分の変化を知りつつも行動している。
・葉山くんエンドが見えつつある…?
ヒロインとの関係が悪化するなか、グングンと存在感を増すヤツがひとり。
葉山隼人、その人である。
というかもうこいつがヒロインとして八幡と結ばれた方が話が早いんじゃねーかなとか思ってしまうまである。
今回葉山のアクションが大きかったこともあり、物語に介入し、新たな一面を見せてくれる場面も多かった。はやはちが捗るな。
「あれで結構プライド高いから(P.144)」と、陽乃さんはそう葉山を評価している。ただ八幡もだが自分もそういった要素が葉山にはあまり見当たらない。葉山のプライドとは一体なんだろう。
話は変わって、葉山の想い人。
八幡と葉山がコイバナ……すごいよな…距離縮まりまくりだわ…。
八幡が中学時代に告白し、さんざんな目に会い、トラウマを産んだ少女・折本。「……だいたい昔そうだったからって今もそうとは限らないだろ」
「……そうだな」
~
「結局、本当に人を好きになったことがないんだろうな」
「…君も、俺も」(P.183-184)
彼女の登場でまた話はこじれたわけですが、レアな話を聞けました。
葉山の想い人のイニシャルはY。これは4巻で明らかになっていたことですが、それも踏まえると考察しがいがあるやりとりです。
自分としては、陽乃さんだと思っているんですけどね。雪乃かもしれないけど。
しかしここで気になるのは、どちらにせよ、幸せな恋をしてはいないなということ。終わってしまったか、あるいはうまく始めることができないのか…。いいよねイケメンが不憫な片思いしちゃうってのはさ…。
ともかく雪ノ下姉妹との関係も深いわけで、今後もし雪ノ下家の内部事情にまで話が及ぶようだったら、展開の足がかりになりそうなキャラクターである。
・葉山が八幡をかばったのは
折本らに直接、葉山は怒りを見せた。それは八幡をかばうため、八幡の価値を訴えるためだった。
葉山くんが八幡を好きすぎる問題。
「俺はただできることをやろうと思っただけだよ」
葉山のこの言葉は、おなじ言葉を吐きながら行動してきた八幡に向けたものだったのかもしれない。これまで葉山は自分が問題解決を直接できる立場ではないことや、7巻では八幡を追い詰めてしまったことを悔やんでいたように見える。
そしてここにきてこの言葉である。八幡をおもう葉山の気持ちは相当なもんやで♂
P.200以降、葉山と八幡の口論が書かれている。
ここのやりとりは葉山との関係のみならず、雪ノ下へのあこがれもまた強く現れた内容だったので何度も読み返したい重要場面。
・雪ノ下へのあこがれと「自己犠牲」
そしてその口論シーンについて。
「誰かを救おうとするのは、誰かに救われたいという願望の現れではないのか?」
そう投げかけた葉山に静かに激怒した八幡。その中で見逃せない、彼のこだわりが表現されているのがこの一幕。
自分の正しいより、雪ノ下の正しさを信じているんだ。もし仮に、比企谷八幡はそうであったとしても。
それ以外の人間もそうであるとは言わせてはならない。
そんな紛い物みたいな感情で、俺も、彼女も今までやってきたわけじゃない。(P.202)
それほどまでに強く憧れ、もはや信仰とも言えるくらいに達しているのに、理解にまで達せない。一方的な憧れなんてただの押し付けにすぎないのは本人も述べているが、ほんとそれ。
作中、「自己犠牲」と言うなと八幡は言っていました。
この部分は、かなり突き刺さりましたね。
これまでの感想の中で自分も幾度と無く彼の行為を「自己犠牲」と表現していたので、これは反省するしかなかった。そうか、そうだよな。
「誰が貴様らのためなんかに犠牲になってやるものか(P.204)」はその怒りが爆発していて、とても格好いい。
でもあえて自己犠牲という言葉を使っていく。
八幡は自己犠牲で誰かを救ってきたわけですが、今回はだれかの自己犠牲によって守られたり庇われる立場となるシーンが多かった。
雪ノ下、由比ヶ浜、そして葉山に。
本人が絞りだすように選択した一手を「自己犠牲」と呼んで憐れむべきではないにしろ、それを見て痛ましく思う人が居るならば、あえて勇気をだして「なにやってんだ馬鹿野郎」という意味を込めて「犠牲」という言葉を使いたい。
・陽乃さんコワイ
ひさびさに背筋がゾクゾクする一言、いただきました。
「比企谷くんは何でもわかっちゃうんだねえ(P.196)」
理解をにじませた八幡を拒絶するがごとく上からかぶせた、かなり悪意アリアリなセリフ。こういう所でそこしれなさを恐ろしく提示してくるこの女は、やはりコワイわな。
「悪意に怯えているみたいで可愛いもの」というセリフも、八幡を言い表しているのかもしれない。誰かに傷つけられる前に自らすすんで傷つく。そうすれば不安にならない。怯えなくて済む。
「理性の化け物」と、八幡を呼んだ陽乃さん。
もしかしたら家族である小町に並ぶくらい、八幡を深く見つめている、あるいは見透かしているのは彼女かもしれない。
・かつての八幡の恋
折本というキャラクターが登場し、八幡が揺さぶられたのと同時、前に進めたのも面白い。特にこの一文はかなりしびれた。
「始まってもいなかったものを、今になってちゃんと終わらせることができた気がした」
勘違いして、空回りして、思い込んで、恥をかいた。なんてことない。好かれているんじゃないか?という錯覚に酔って作った、一生ものの傷跡。
けれどちょっとは癒えたんじゃないかな。小さな自己満足にすぎないけれど、大切なことだった。
・部室の鍵
ささいなシーンですが、泣きそうになった。216Pの部分ですね。
八幡が奉仕部を訪れなくなってしまっても、彼女はずっと部室にいた。
それは由比ヶ浜との時間があったからという理由がまずありますが、それでも
あの部室での時間を彼女は守ろうとしていたのだと、そう思えて、泣けた。
これがあるからこそ、8巻ラストで失われていくものが、あまりにも痛い。
・手の届かない、彼方の人
これもこれも小さなワンシーンですが示唆に飛んでいたのでお気に入り。
由比ヶ浜と一緒に帰った後の場面。“俺の手の届かない場所で”の部分にキュンと来ますわ。斜陽の中、俺の手の届かない場所で微笑む由比ヶ浜を見送ると、さっき触れられた場所が締め付けられるように傷んだ。(P.235)
雪ノ下のために、「自分も立候補する」という形で参入してきた由比ヶ浜。そういった彼女の心の強さ、純粋に友達思いで自分を投げ打てる覚悟など、そういった部分は八幡には無い部分。だって裏方だものね。
けれど実際に行動に映せる由比ヶ浜は眩しい。
手が届かないのは、そういう憧れが出ているのかもしれない。物理的な距離じゃないんだ。
また、少なからずの違和感として由比ヶ浜の接近に警戒している八幡としては、彼なりの卑屈な思考から、「自分には手の届かない存在なんだろう」というような含み感じる、かもしれない。
触れられた場所が痛むのは、期待をしてはいけない、釣り合うわけがないって、理性がかけるブレーキに心が悲鳴をあげているのかもしれない。由比ヶ浜は素敵な女の子なんだ。
憧れと自虐のふたつが織り交ざった、けれど由比ヶ浜と八幡の切ない距離感が現れているかのようで、垂涎モノに美しいシーンでした。
・八幡の矛盾と弱さ
この部分はかなり広範囲になってしまうのですが、P.237とP.250ですね。
自分は犠牲になってるわけではないから同情も憐れみも必要ない。それなのに誰かがその役を担うのを目にすると、苦しくなる。悲しくなる。寂しくなる。
八幡は自分の中にある矛盾とついに直面し言及しました。
確実に八幡の世界が広がっているのを感じる。だからこそ、今まで見えてこなかった視点からものを考えるようにもなり、彼はまた苦しむ道を往く。
そして、八幡は奉仕部を守るために行動してもいい自分のための理由を探していた。誰かのためになんて彼にとって嘘っぱちな言葉じゃなく、なんとか自分を納得させるための理由が必要だった。
それをわかって小町がちゃんと理由を与えてあげるのがP.250であり、八幡のクソ捻デレっぷりが現れている。
結局のところ、八幡はもはや自分以外の誰かのことを気にしすぎて、これまで通りの彼の論理哲学を貫けなくなってきているんだな。
・失われていくもの
雪ノ下が冷たいまま凍えたまま透明のまま、鋭く傷ついていく。「わかるものだとばかり、思っていたのね……」(P.332)
あまりに哀しく、空回りとすれ違いのもどかしさ、切なさが爆発する場面です。
その理由はなんだったのか。これがまだ8巻の段階では見えてこない。
だが現実に、雪ノ下が奉仕部という空間から遠ざかっていく予感だけが強く心にこびりついて、非常に後味がわるいラストを迎える。
読者にとって安心したいための聖域が崩れていこうとする。これに対する緊張感や精神的負荷は、どんどんと大きく重く冷たく存在感を増していきます。
八幡は奉仕部の活動として“偽り”を用いて課題をこなしてきたけれど
奉仕部の面々に“偽り”を持って接したことは、無かったはずだ、きっと。
だって奉仕部は本物でなければならなかった。薄っぺらな友情ごっこすら拒んで、もっと頑丈な、もっと純粋な本物を探していた。安い妥協が許されてはならない聖域だった。
けれど八幡は、守りたいがために奉仕部を“偽り”でつなぎとめた。
本物のつながりでなくてはいつかは瓦解することはわかっていたはずなのに。
つなぎとめる努力をしなければ続かない関係なんて、目指したものではなないのに。
それでもいま目の前に迫る瓦解の危機を回避するために、偽ってしまった。
信念を共にする、理想を求め合う、ふたりだった。
聡い彼女のことだ。証拠はなくとも察して、静かに傷ついたんだろうな。
だからこそ出てきたセリフがこれなんだろうな、と想像する。
わかるものだとばかり、思っていたのね……
近い理想を抱き合った。その事は直接確認せずとも通じ合った。だからこそ深い失望があったのではないだろうか。
どうしてそこまで近くにいながら、すれ違ってしまうのか。
それは八幡が葉山に対して抱いた感情と同じであり、まぁそういうことなのだろうなと思う。
奉仕部を守るための八幡の一手は、そのまま雪ノ下を傷つけ、奉仕部をさらに崩壊へと追いやった。
今を大切にしてしまいたかった八幡の心情は、責められるものではない。
だからこそ、本物を求め合った彼と彼女がすれ違い離れていくことは、悲しいけど、どうしようもないことのように思える。
けれどむしろ8巻で浮き彫りになったのは雪ノ下雪乃の潔癖さ。
潔癖といえば八幡だったが、今度は彼女の番。
正直に言えば読者としては、彼女の心理面は想像で補わなければならない部分が多く、情報の少なさから置いてきぼり感というか、…悪く捉えてしまうなら彼女の狭量さを見せつけられた思いすらある。
気むずかしい性格だよ。あっちもこっちもどいつもこいつも!
根本的には八幡と雪ノ下は似たもの同士で
読者からすればたっぷりの八幡モノローグでやっと彼の内面を少しずつ掴んでいく。
なら心のうちについてなんら語られていない雪ノ下の心の動きを完璧に把握することも難しいんだなぁ。
かつて雪ノ下は「世界を変える」とまで言った。
崩壊間近となった彼女と彼と彼女の3人の小さな世界は、ここからどう変わるのだろう。
大きなものを見据えすぎて大切なちっぽけなものを見逃す。そういう間違いだって、ありふれている。けれど間違いを間違いと思わない間違いだってあるのかもしれない。正しさを盾に苦しみを押し殺し、寂しさを噛み殺して。
・小町 is エンジェル
天使です。
そんなこんなで「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想でした。
ほぼポイントつまんでの箇条書き形式というか、まとまりがなくなってしまったのが残念ではあります。でもやっぱり、この巻はうまく咀嚼できません。
もうすぐ!もうすぐ9巻が出てしまう!ハァ!はやく読みたい!!ってことで以上!
さっさと9巻読んでまた悶ます。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。9 (ガガガ文庫 わ 3-14) (2014/04/18) 渡 航 商品詳細を見る |
[小説]そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のBD/DVD特典小説の感想です。
6.25巻、6.5巻、6.75巻という扱い。3冊連続した長編小説です。
内容はアニメ最終話の体育祭の裏側とそれに至るエピソードを綴ったもの。
原作6巻と7巻をつなぐところに位置するお話なので、そのとおりの人間関係。
素晴らしく面白かったんですよ!3冊合計で400ページを超える長編で読み応えもばっちり。本作特有の捻くれたほろにがい青春のエッセンスも活きていて内容も大満足…!
6巻で物議を醸した城廻めぐり会長や相模といった女子たちと八幡の関係性を修復、あるいは見つめなおし、再構築されるまでのエピソードであり、これを読んでいるかどうかで6巻ラストの受け取り方も微妙に変わってくるのではないかという程。
わたりんの気合がビシビシと伝わってくる意欲作である!
でもだからこそ、個人的にこの3冊の内容にはモニョります。
これちゃんとガガガ文庫で出してほしいんだよな…。
「これほとんど本編ですよね?」と言いたくもなる。
原作7.5巻くらいの軽い短篇集ノリの方が、情報の格差は生まれなかったのではと思う。
円盤の特典だと読める人も限られます。面白いからこそちゃんと読みたい人が読めるような体制で出て欲しかった…。実際6.25巻が付属したBD/DVD1巻はややプレミアがついてしまっています。
キャラクターの関係性を見ていく上でも、これは見逃せないと言えるシーンもたくさんあって、尚もったいない!
「これを読んでおかないと本編ストーリーの把握すらできなくなる」というレベルのものではありませんが、見どころの多い内容だったこともあり、モニョりが加速するのであった‥。
と。いろいろ思ってはいてもファンとしては面白いものが読めただけで最高に幸せであり、大金はたいてBDを買って良かったと思いますね。
「ガガガ文庫で出していろんな人に読めるようになってほしい」とは繰り返しますが思います。しかし一度特典として出た以上、ガガガ文庫で再出版される可能性は低いし、あったとしても、相当未来。すぐに安く読めるようなってしまったら頑張ってBD/DVDを買った読者の方が浮かばれねぇ、俺含む。
というわけでBD特典小説という業界の商法に悪態をつきつつ、作品には罪はないという考えで感想を書いていきますよ。
今月には原作8巻が出ますけど、この特典小説が読める時期と原作小説の発売時期を見るに最近は「ほぼ月刊・渡航」状態になっており、わたりんの過酷な執筆状況が偲ばれる…。
ネタバレを含みます。
この特典小説シリーズの目玉は、相模の救済。
救済と言っても「なんでだ!相模は6巻であれだけやらかしてただろ!あんなヤツ救われてたら納得いかねぇぞ!」と憤る俺も納得満悦の内容でございました。
つまりは「相模が再起するために必要なものを与える」。それが奉仕部が今回いどむ依頼です。
文化祭での失敗を克服するために、ふたたびイベントの実行委員のリーダーとして相模を頑張らせる。
今度は体育祭。しかし今度は相模が自らの友人に裏切られ、リーダーとして力不足であると恥をかかされるというまたまた悪趣味なフルボッコ展開。
6巻のラストを経ても相模は落ち込んでいただけで、なんら成長はしていないのでした。ある意味安心。そして相模がちゃんと、痛い目を見る。そこから這い上がってくる。その手助けをする奉仕部の物語は、今回も平穏無事では済まないもので。
正直、アニメ最終話の裏側を描くと言われていたので、あの最終話のバカなテンションのエピソードかなと思っていました。
蓋を開けてビックリ。6巻のあの居心地の悪い雰囲気が再び充満する、シリアス全開モードですよ。
つらつらとストーリー展開について書いてしまうのも如何なものなので、注目したシーンをあげていきます。
6.5巻66P、総武高校に入ろうと受験勉強をがんばる小町との会話で「奉仕部だけはやめとけよ。あれ、いつなくなるかわからんし」とこたえる八幡。
自分も雪ノ下も由比ヶ浜も、いつか奉仕部じゃなくなる、卒業まで待たなくてももしかしたらそれまでに何かが起きて、離れ離れになる。
いつか来るさよならを予感している。終わりの瞬間をいつだって予期している。
「立場も、環境も、性格も違う、俺たちの関係はいずれ失われる」
と、悲観的なモノローグは彼らしい。同じ部活にいるだけで、卒業後も関係が続くような仲ではないと、彼は知っている。
守られるべき平穏な楽園が、いつか必ず無くなってしまうということを読者に残酷につきつけるし、この冷ややかな青春の見方こそがこの作品らしいなと思います。
とは言え、「元来、人と人の結びつきは脆いのだ。たぶん俺が思っているよりも、ずっと。」と言葉をつないでいるのが良い。
現実はやさしくないけれど、できればずっと今のままでありたいと願う彼の弱さがここに現れている気がしますね。
というかこの一連の八幡と小町のシーンは、たんなるお兄ちゃんとその妹というリアルな空気が出ていて好印象です。
6.5巻だとあとは由比ヶ浜関連のらぶいイベントは面白かったですね。
男子たちに連絡先を聞かれる由比ヶ浜。そのやりとりに聞き耳たてている八幡のソワソワした感じがかわいいなw
ここは八幡が由比ヶ浜との身分差を再確認する場面でもあり、素直になれない八幡にニヤニヤしてしまう。八幡が由比ヶ浜をどう思っているのか、というのはこれまでも触れられているけれど、何度よんでもこの不安定な距離感は最高です…!
ドキリとするのが八幡はモノローグでジョークを言っておいて、「どれだけ引いていただいても大丈夫です(P122)」という場面。あえて悪役じみた言動をする八幡なので、由比ヶ浜に向けて「どれだけでも引いてくれても大丈夫」という言葉をここで浮かばせるのは、ちょっとした裏を感じます。
普段から距離を詰めてくる由比ヶ浜に対して戸惑いを見せる八幡。彼としては、もっと冷静になるべく隔たりがほしいのかもしれない。まぁそこに彼の心中に葛藤があるのでしょう。それなりに愛着は持って(しまって)いるから。
エピソードを締めくくる6.75巻はとくに印象深いシーンが多いです。
カゲは薄かったけど川崎さんはほんのり期待させるやりとりにドキマギできてよかったね!(ひどい)
八幡が見せた今回の「斜め上解決方法」は面白かったですね。数には数を。
それに最終的には八幡の思惑通りではない方法で、相模は自分のポジションを勝ち取ってみせる。
参謀たる八幡がその予想を裏切られ、しかしそれで彼は不快にはならない。
いい落とし所。ストンと気持よく納得できるラストでした。
そこに至るまで、いかに相模であろうともさすがに可哀想になっていたので、余計に。たしかにこの話は相模を救済するためのものでありました。
6.5巻までどうやって終わるものだろうかと、この状況に収集は着くのかと思っていましたが、お見事。本当にこの作品はクライマックスにとびきりのものをくれる。
相模が吹っ切れるキッカケが、八幡への対抗心だったのもいい。
「八幡からの慰めも同情もいらないし、ましてや守られるなんて絶対にイヤだ」
とばかりに、八幡が差し伸べた手を払いのけることで、八幡の予期せぬ形で、八幡らが受け持った依頼が完遂される。この流れはお見事…!
相模も八幡も、だれも自分らしさを失わない。ヘタレない。改めて読み返しても鮮やかだ…。
特に相模は今回「救済される」という弱者の立場でありながら、最後の最後で自身のプライドを守りぬく。これが本当に大切なことだったと思います。
相模の成長、変化という意味で見逃せないシーンは他にもある。
6.25巻で「相模がヘコんでて暗くてウザい」とぶっきらぼうにメールを送ってきた三浦と、地獄から這い上がり処世術を少しずつでも理解できてきた相模の、ギクシャクした会話シーン(6.75巻、99P)は、達成感やカタルシスとは言えなくても、胸の中のしこりがスッと溶けていくような心地よさがありました。
そして、最後の1ページ。これですよ。
6巻終了時点で、相模は八幡を「敵」と見て、憎しみを抱いていました。
しかしこの一連の体育祭エピソードの中で、彼と彼女は他人になった。なれた。
適当な挨拶ができる。目は合わさない。極力会話も交わさない。
ただの日常の風景に埋没する存在として。相手を意識しすぎない程度の距離感に戻る。
胸の内になにかを思っても、それを表には出さない、完璧に世界を分かつ他人になる。
なによりもリアルで、でも救いがあるラストだったなぁ。
ディスコミュニケーションが救いになる場面だってあるんだよな。
それに、事実は明かされませんが、相模は八幡をかばったと思われる描写もあります。
これで貸し借りはチャラである、と。
相模というクセモノキャラが抱えたカルマをすべて消化しきりました。
これからも本編で登場するかもしれませんが、少なくとも今回でスッキリと気持ちがいい所にまで結論を持ってこられた。特典小説にしておくのが惜しいくらい、ギッシリ詰まった内容でした。
だからさ!こういうのはもっといろんな人が読める形で世に出てほしいんですが!
ということはもう最初に言ったので…はい。
個人的に今回はやや雪ノ下さんの出番が薄かったんですが、本編では相変わらずの活躍なので。今回はよかったね由比ヶ浜&川崎さんということで。
あの相模という少女の、確かな成長が刻まれる瞬間が見られる、という意味で、読む価値は存分にあったものだったと思います。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫) (2013/11/19) 渡 航 商品詳細を見る |
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 イラスト集付き限定特装版 (ガガガ文庫) (2013/11/19) 渡 航、ぽんかん8 他 商品詳細を見る |
今月には8巻が出ますねぇ。ついに7巻の、あの続きが読めるぞ!
ってことで8巻を読み終えたらまた感想書きたいです。楽しみだ。
[小説]いつか戻ってきたくなる、優しい日々の集積。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7.5巻
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7.5 (ガガガ文庫) (2013/08/20) 渡 航 商品詳細を見る |
うるせぇ。そんなの全部わかってんだよ。
完璧なるあーしさんヒロインまっしぐら表紙で登場した俺ガイル7.5巻!!
アニメ放送を挟んで届けられた新刊は本編ではなく番外編です。
表紙のあーしさんかわいいな…。強気そうな表情や、スカートの質感も素晴らしい。ぽんかん⑧神の進化がとまらない。
シリアスな要素もガンガン掘り込んでくる本作ですが、今回は超平和!めっちゃ平和です!あまりに明るすぎて次の巻でどうなるんだかな!
時系列はバラバラ。基本的に6巻後のものが多いです。
前回、7巻は波乱のままに終了したので、はやく8巻が読みたいところですが…わたりん忙しいだろうから…ガマンだョ…っ!!
なおディープなファンはすでにゲットしているシナリオも多い短篇集です。
例えば小説6巻の店舗特典小説として配布されたSSが全て収録。
自分は結局4店舗分の特典小説をがんばって集めましたが、正直あの商法はまったく褒められたものではないので、こうして収録されてよかったですね。これはガガガ文庫GJ。GJ部にかけたわけではない。
そして「比企谷小町の策略」。これはコミケの企業ブースで限定発売されたドラマCDのシナリオを小説用にリライトしたものです。
「比企谷小町の策略」はオークション等でプレミア価格で取引されてるのも見かけましたし、これもちゃんと原作小説に吸収されてよかったです。
個人的に目新しさはあまりない短篇集ではありましたが、刊行ペースがやや落ちて飢餓感が出てきた中でリリースされた最新刊なのでもうムチャクチャ面白かったですよ。
ざっくり感想を書いていこう。
過去の感想。
青春とは嘘であり、悪である。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』
優しい女の子は嫌いだ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻
甘い青春には慣れない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻
かつて「彼ら」だったぼくらが出来ること 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』4巻
憧れだった君を許せない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』5巻
独りの英雄は、ステージの輝きを浴びられない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6巻
それでも彼らは当たり前の嘘をつく。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7巻
そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
SSに関しては省略。暇人がメール送ってきすぎである。しかしこのメールお悩み相談の設定テンプレは便利だなぁ。いくらでもSSが作れそうなシステムである。「人生」を思い出すけれども。
●「こちらとしても彼ら彼女らの行く末に幸多からんことを願わざるを得ない。」
章のタイトルとしては過去最長じゃないかなこれ。
ちなみに今度出るvitaのゲームの特典アニメになっているシナリオです。
詳しい内容は置いとけ。ともかくヒロインたちのウェディングドレス姿が拝める。この短編の存在意義はそこに全て集約される。
地方紙の結婚特集記事をつくることになった奉仕部の面々。
とはいえ一介の高校生である彼らにとって「結婚」なんて縁遠いもの。
そこで小町が介入し、ヒロインたちの「嫁度」チェックなる催しが行われる!
ということでいろんなイベントを通じて由比ヶ浜、雪ノ下の対照的?な結婚観を楽しめたり、実際にお嫁さんっぽいことをしてみたり。
なるほど、これは妄想が捗るってもんよ。
それにしたってやはり最大の見どころはドレスのシーンである。
この場面はそれを見つめる八幡のモノローグのポエム加速値が尋常ではなく、明らかに彼が心底うっとりしていることが伺えて笑える。
八幡は美しいもの、尊いものを見る時、たまにモノローグのノリがガラッと変わるので面白い。あとやたら細部を凝視し言及するので、めちゃくちゃ観察しているのも伺える。
長いポエムのあと、「だっておwwwwwwww(バンバン」と、やるおAA的ツッコミを入れて楽しむのも可。
しかし心底まで捻くれた彼が揺らいでしまう、その光景の輝きに感動もあったりして。やっぱり八幡ポエムは大好きなんだよな。
MVPはどう考えても平塚先生ですよね。まさかのカラー口絵ポスターで縦ブチヌキのウェディングドレス振り向き美人!!その美貌を打ち消す圧倒的に残念なナカミ。
「誰かもらってあげて!じゃないと俺貰っちゃうよ!」なんて独白で述べている八幡さん、確実に先生に攻略されているようだね(ニッコリ
でも制服エプロンでお料理してるゆきのんの挿絵の破壊力も途轍もない。
●「比企谷小町の計略」
コミケ用ドラマCDのシナリオ小説。
時系列としては3巻の後。平和だったころですね…。
ドラマCDになるとこの作品は中の人つながりのパロディをいっぱい仕掛けてきます。
クイズマジックチバデミーの存在そのものにこの作品らしい猛烈な千葉愛を感じるw
ドラマCDシナリオだったためか、とくに会話劇のテンポが意識されているような。とても読みやすく賑やかで心が暖まってきますね。
それにしても「女子高生が彼氏と行きたいデートスポットはどこ?」に八幡が答えた内容は…うん…あるよ…男子高校生だもんな…。
●「未だ、彼らは帰るべき場所を知らない。」
100ページ以上ある、この作品的には中編と呼べそうなボリューム。
描きおろしであり、いちばん読み応えがあったエピソードです。
時系列としては梅雨の後、夏休みに突入というタイミングだから結構遡るな。
帰るべき場所。タイトルどおり、「居場所」をテーマとした短編となっています。
本筋は部活にOBが来て雰囲気がヤバいからなんとかしたいって柔道部の依頼を解決するお話。
しかしテーマ的に、奉仕部や八幡自身と重なる部分もあったりする。
やはりこういうのは悩める青年期につきまとう、ありふれた、ナイーブな話題なんだな。
いつか戻りたいと思えるような居場所。
それに思い馳せる八幡は印象的であり、そんなことをぼんやりと考えてしまう時点で、彼の中で見当は付いているんじゃないか、なんて勘ぐりたくなる。
ただ、このエピソード中では夏休み前。
7巻で彼がどんな行動を起こしたのか、どんな思いを抱いて葉山らに協力したのか。
未来と過去を照らし合わせると皮肉が効いている。
夏休み前の段階で、八幡は自分自身の未来に伏線を張ってしまっていたんだな。
聡い彼のことだから、ある種の予感と悲観を混ぜ込んだ言葉だったのだろうと思う。
「いつか戻りたいと思えるような居場所」というキーワードは、7巻が世に出た後のこのタイミングで現れた言葉としてあまりに重みが感じられる。
単なる番外編の短篇集として7.5巻を終わらせたくなかった、作者の想いがそこに込められているようだ。7巻の内容を思うと、一層見逃せない。
このシリーズに今後寄り添いつづける、繊細で触れ難い、大切な言葉になっていくのではないかな。
おだんごヘアのゆきのんが美味でもある。素直に百合として組み合わせいいよね、ガハマゆきのん…。
あ、あとあーしさんこと三浦の恋のライバルみたいな新キャラ(後輩)が登場。
このタイミングで名前アリで出てくるということは、本編にも関連したキャラクターになるかも。
そんな「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」7.5巻の感想でした。
とにかく平和です。
こういうひと時が後々、胸ふるわせる思い出になったりするんだろう。
ギャグが多くて読みやすいですね。この作品はいつも読みやすいですが。
パロディのネタが異様に新しいものもあったりして、さすが取り入れるのが早いなぁw もう艦これネタだよ!
次はいよいよ8巻。今年中に出るのか…!?
タイミング的に物語は冬に突入するわけで、12月発売とかかな…。
ラノベはアニメ化すると刊行ペースが鈍るケースが結構ありますねぇ。半年に一冊ペースでいいので、さくさく進んでいってくれれば言うことなし。半年に一冊ペースって業界全体から見れば贅沢なんですけどね…!
まぁ今はアニメのBD/DVDに付属する小説の方が本編同等の盛り上がりある内容で読み応えあるので、しばらくはそれを追う形で満足しよう。
まさかあんなしっかりした内容で責めてくるとは思わなかったですね。
ちょっとだけ、この7.5巻のようなのを付属小説に回した方がよかったのではとも思ったりする。
それにしてもオビにありましたが140万部ですか。アニメ化でずいぶんブーストかかったみたいで。嬉しいですね。ガガガ文庫にこんなヒット作が…っ。
わたりんも兼業じゃなく専業で…とは思うけど、わたりんはあれで仕事がめちゃくちゃ楽しそうに見えたりもするので、いいや。
とりとめない感想になりましたが、そんな感じ。
八幡の新作モノローグポエムが堪能できて嬉しかったです。
[CD]明るいと思いきや……隠し切れない心の傷。『Hello Alone』
Hello Alone TVアニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」エンディングテーマ (2013/05/22) 雪ノ下雪乃(CV.早見沙織)&由比ヶ浜結衣(CV.東山奈央) 商品詳細を見る |
アニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のED曲「Hello Alone」が発売したので購入。ジャケットはぽんかん⑧神の描きおろしだぁー!!
OP曲「ユキトキ」でも更新をしたので、EDをやろうと思っていましたが
買ってみて歌詞を読んでみたら、びっくり。
爽やかに気持ちを盛り上げるサウンドで歌われるのは、
後悔にまみれた、とても心痛む歌詞。
通常のものと、由比ヶ浜結衣ソロのバラードバージョンがあります。
曲調がガラリと違っていて面白いです。特にバラードバージョンのピアノの旋律は美しいですねえ。これアニメ5話で流れた時おおっ!?となりましたよ。
でもこの記事で注目していきたいのは主に歌詞についてです。
OP曲→雪ノ下雪乃の内面を描く、アニメ俺ガイルOP『ユキトキ』
歌詞はうたまっぷとかで見ればいいんじゃないかな。
「最後まで僕は素直じゃなくて 繋がれてた糸をわざと もつれさせて 切り離した」
自ら距離をとる。人間関係に臆病な人物が浮かびます。
傷つけられるなら自分で傷つきたい。
「ヒコーキ雲がにじんで 消えてしまう前に 逢いたいと言えてたなら」
「終わりのない切なさからも 抜け出せていたのかな」
盛り上がりあるサビ部分の歌詞。
しかし明るい歌声に乗せて、こんなに後悔の念が込められている。
「言えてたなら」「抜け出せていたのかな」など、失敗をしてしまった人物がifを夢想する切ない場面が思い浮かぶ。
多くの言葉が過去形で綴られている点で、心の痛みが深められていきますよ…。
2番の歌詞になるとさらに傷は見えやすくなっていきます。
「無理に笑って 忘れるよりも 静けさへと仕舞いこんで 止まったまま 傷つきたい」
「夕日が海の果てに 消えてしまう前に 嘘だって伝えてたら」
「あのまぶし過ぎた毎日を 取り戻すことできた?」
素直な気持ちを伝えられなかった。嘘をついてしまった。
楽しかった日々を失ってしまった。それ取り戻すためのチャンスすら逃した。
などなど、至る所に「人間関係における致命的な失敗」を匂わせるフレーズが散りばめられており、とても不穏なものを感じます。
OP「ユキトキ」は本編にはまだありえないほど幸福度がたかい内容でした。
しかしEDでここまで爽やかにどん底に落としてくるあたり、凄い。
では自分の解釈か何かを。
この曲の歌詞中では一人称は登場しないので、俺なのか私なのかすらわからない。
でも歌詞から察する後ろ向きなキャラクターから察するに
やはりこの歌の主人公は比企谷八幡なのかなと思う。
「Hello Alone」というフレーズにぴったりくるような精神性を持つのは彼くらいなものだと思う。
でも彼だけの曲だ、それ以外の可能性はない、と断じてしまうのも勿体無い。
例えばCメロの
「言葉は欺くし(雪ノ下)」
「優しさは裏腹で(由比ヶ浜)」
「実は逃げてばかりいたのかも(雪ノ下)」
「甘え過ぎていたのかも(由比ヶ浜)」
といった、ヒロイン2人がそれぞれ違うところを順番に歌っていく箇所は
その担当キャラクターの資質や心理を示しているような気もする。
「嘘」で八幡を苦しめた雪ノ下が「欺き」と言い、実は逃げていたと歌うのも、
「優しい女の子」である由比ヶ浜が「裏腹」と言い、甘え過ぎていたのかもと反省するのも。
2人の切実な思いが反映されているような構成だと思います。
もしくは、ストーリーは今後この詩のような内容になっていくのか。
その中で特に気になってくるのが、サビで繰り返されるこのフレーズ。
「また君とふたりぼっち Hello Hello,Alone」
失敗をして、大切な人との間の距離に苦しみ悲しむ主人公。
しかし最後にやってくる「君とふたりぼっち」は、ともすれば非常に救いがある言葉。
失敗をしたって君は傍にいてくれる。そんな確信と安心を感じているであろう一節だなぁ。寄り添う誰かの存在は本当の救いだ。
でも正直この他の歌詞を読んでいると、サビ最後だけ「また君とふたりぼっち」なんて優しい言葉を投げかけてくれていても、うまくそれが信じられなかったりする。
暖かい時間を、大切な人を遠ざけて自分を傷つけた。
涙を止められなかった。ごめんねと言えなかった。
けれど君はいてくれる。ふたりぼっち。だけどAlone。
「君」ってのはもう1人の自分なのではないかな、とも思った。
自分だけの世界に閉じこもって、そこに救いを探す切迫した想いがあふれているようにも考えられるんですよね。
失敗をしてしまった自分。それを慰めてくれる、胸の内のもう一人の自分。
より救いのない解釈だけれども、個人的にはこれがシックリくるかな。「Alone」をどう捉えるかは、考えてみるともっと面白そうな解釈の幅を見つけられるかも。
作詞を担当したのは藤林聖子さん。
何やら調べてみたら、『さも物語の展開を読んでいるかのような作詞に定評があり、一部ファンからは「予言者」と呼ばれていたりする。』という記述がされていたりしている。
曲調からは想像できないような青春の苦味をはじけさせる素晴らしい歌詞だと思います。
ドラマCDで過去に歌われてきた雪ノ下&由比ヶ浜のデュエットソングはほぼラブソングでした。アニメEDでそれを裏切ってシビアな内容で攻めてきたのは素晴らしいですね。
今度でるキャラソンアルバムでも歌詞に注目してみたいところ。
ともかく、「Hello Alone」、切ない心理描写が鮮やかに美しい風景に溶け込んでいる佳曲。元気いっぱいなA面、しっとりバラードな別バージョンの違うも面白いし、CD買ってよかったなとおもいます。
[漫画]俺と彼女は、友達にはなれっこなかった。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。@comic』1巻
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。@comic 1 (サンデーGXコミックス) (2013/05/17) 伊緒 直道 商品詳細を見る |
ありがと、さっき立ち上がってくれて。
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。@comic」第1巻の感想―。
アニメも放送中ですね。だんだんとこの作品らしい黒さが浮き彫りになってきた感ありワクワクが止まらんな!
こちらはサンデーGXで伊緒直道が手がけている方のコミカライズ。
「俺ガイル」のコミカライズといえば、ビッグガンガンでやっている佳月玲茅先生によるコミック版もあります。どちらも原作小説1巻の途中まで、アニメで言う所の2話くらいまでかな。
同じ範囲をわざわざ2つのコミカライズで描くのは勿体ないかもなーとも思いつつ、しかしどちらもなかなかいい出来。作家の違いが現れますしね。
そういえばこの1巻、オビがついたままだと主人公の八幡が隠れてしまうんですね。いいデザインじゃん。それでいいよそれで。彼は隠れてこそだと思う。
さて内容について。
収録範囲はチラッと戸塚が出てきたまで。実質、材木座がいい笑顔で締めくくる。
そんなことはいいんだけど、このサンデーGX版コミカライズ、原作読者の視点から見ても演出・解釈・些細だけど追加要素などがあり、普通にお気に入り。
まず八幡がちゃんと格好いい(&情けない)という所。
自分の為、というていで由比ヶ浜の為に立ち上がる場面は迫力バッチリで力に呑まれました。
その直後との落差も面白くてよかったw
作品のテンションの上下がつよめに描かれている気がしますね。
浮き沈みがはげしいぶん、この作品らしい毒も見えやすくなっているような。
それはキャラクターの表情にも表れている。とても生き生きとしていますね。主人公は死んだような目をしていますがそれが彼の生きている証なのである。
ヒロインたちもきちんと可愛らしく描かれています。
雪ノ下も彼女らしい気難しさと捻くれを見せつつ、凛とした佇まい。
初期はまったく雪ノ下のデレが無い一方、甘い成分を担うのは由比ヶ浜。しょっぱなからフラグ立てちゃってるビッチっぽい恋愛脳ピュアガール。
雪ノ下とくらべて分かりやすい思考回路をしてくれている分、ストレートなラブコメ担当という感じですねえ。実際可愛いし。
たぶん雑誌掲載したときバレンタイン時期だったんだろうなーって扉絵。
原作小説だとまだ冬になっていないので、いまから2月14日イベントが待ち遠しくなるなw
八幡が負った小中でのトラウマイベントの数々も、心底痛々しく、けれど感傷的になりすぎない。カラッと笑えるものとしても流せる塩梅。
失恋したり嘲笑を受けたりする主人公をまっとうに描いたら暗いばかりになってしまいそうなものです。でもそこは八幡。卑屈すぎるほど卑屈な高二病マインドを手に入れたことにより、ギャグ風な自虐のようなタッチで語られる。この空気がまた好きだったりする。
そしてこれはいいと思ったのが、このシーン。
以下は原作の軽いネタバレを含んでしまうものなのですが…。
原作5巻6巻と、もしかしたらこれ以降に関わってくるかもしれない話題に「雪ノ下の嘘」というものがあります。
これの精算が行われる原作6巻の盛り上がりは凄まじいものなのですよ…。
八幡のことを“知っていた”のかどうか。
より正確には、『雪ノ下雪乃は、八幡が雪ノ下家がおこした事故に被害者であることを知っていたのか?』ということです。
これに関しては原作1巻に、手がかりとなる描写は見つけられていない(俺は)んですけれども、ここの補完をしてくれているのがこのコミカライズ。
高校入学式の日に交通事故で入院して、入学ぼっちが確定した八幡。
そのことを聴いた雪ノ下は、かすかな動揺を見せます。それが上のシーン。
八幡をひと目見たときから、「あ、あの時うちの車が轢いちゃった人だわ(ざっくり)」とは分かって無かった、ということかな。少なくとも自分はそう解釈する。会った瞬間には分かっていなかったし、奉仕部にやってくるまで八幡という少年を認識はしてなかったんだろう。
まぁ雪ノ下自身が起こした事故ではありませんし、たぶん運転手の都築さんや雪ノ下の両親がなんとかやったんでしょう。だから雪ノ下は八幡を見たことはなかった。もしくは顔を覚えるほどの接触は無かった、と。
八幡は5巻で雪ノ下雪乃へした失望の正体は、彼女が嘘をついたこと。
嘘とはなんだったのか?
これが恐らく、奉仕部として出会う前につながりがあったことを知っていて隠した、という内容のものです。隠しただけで嘘と解釈するのだから、八幡の潔癖は相当なものだと思うけれど(そういう少年だから、きっといろんな人が心を動かされる。)
雪ノ下がどんなことを思い、自分の立場(あの事故の加害者側であったこと)を明かさずにいたのか。この疑問への描写は原作にも非常に少なく、手がかりに欠けていたポイント。
今回のコミカライズで、雪ノ下雪乃の心理を読み解く小さなヒントが与えられたように思いますね。
これは原作ファンは目を通しておくとニヤリとできる箇所かと。
そんな「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている@comic」1巻の感想。
やータイトル長いですね。
作画を手がけた伊緒直道さんは、これが連載デビューとのことですが、読みやすいし絵もキュートかつ格好いい感触でなかなかお気に入り。
キャラクターの感情の迫力をきっちり描いてくれており、満足いっています。
八幡が読んでるラノベとか、小ネタも効いているw
ただ進行は遅いので、どこまでこのコミカライズが続いてくれるかだなぁ。
漫画でも原作6巻を読みたいし、もちろん7巻以降の漫画化も見てみたいんですが、果たして。
アニメと合わせて各種コミカライズシリーズも楽しみですね。
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている@comic」1巻 ・・・・・・・・・★★★☆
ちょっとした原作補完と、メリハリある演出で読ませてくれる漫画版。