ナイト・イズ・スティル・ヤング.『アフターアワーズ』1巻
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私たちの夜は、まだ始まったばかり。
ヒバナで連載中。ゆるふわオシャレ系クラブ百合漫画という唯一無二のジャンルを切り開く「アフターアワーズ」の第一巻の感想です。
陰キャラとして全力で人目を避ける学生時代を過ごしたものとしては
「渋谷のクラブ」なんてワードはもはや許しがたい程のパリピ力を持っており
半ば憎しみめいた感情が湧く・・・かと思いきや
渋谷のクラブとか、アングラなDJ文化とか、女性の同棲生活とか、
自分にとっての未知がたっぷり詰まった世界が展開され、しかもそれが輝いて見える。
そんな魔法のような空間にすっかり魅了されてしまうのですよ。
誰かと出会うことで世界が変わる快感。
それは人でも音楽でも同じ。
きっと人は未知のなにかに魅了されることをどこかで願いながら生きている。
クラブは別に人との出会いの場だけではなく、新しい音楽に夢中になれる場でもある。
むしろ音楽好きが集まるわけで、そりゃあ話があうやつもいるかもしれない。
新しい何かに触れられる小さな箱庭。現実も、ちょっぴり忘れられる。
「ミラーボールの下でゴリゴリEDMでウェイしながら酒のんでクネクネするんでしょ?」
・・・とんでもない。クラブはいいぞ。都会は眩しいぞ。音楽は楽しいぞ!ワクワクすんぞ!!
個人的にはこういうタッチでDJ文化を描いた作品は読んだことがなくて、この界隈への興味も湧いた。ひとつの職業・文化を取り扱うマニアックな視点も素晴らしい。
それでいてシンプルに、女性同士のココロの交流を描いた作品としてもレベル高い。
キラキラした素粒子がガンガン放出されている、そんな漫画です。
都会の夜のエモさ、ここにあり。
どうか拡散をお願いします【アフターアワーズ2集を楽しみにしてくださっている皆様へ。これから読者になってくれるかもしれない方々へ。】https://t.co/FfD74jpyO0 pic.twitter.com/cijZPBh7wP
— 西尾雄太 (@snobby_snob) 2016年9月8日
で、そんな素晴らしい作品がまさかそんな事態に陥ってるとは・・・
けっこうタイムラインを賑わせたこのツイート。
自分もなんかできたらってことでブログを書くわけですが。
こんな騒動が無くてもいつかは言及したいなと思っていたので
みんなもっと読んでくれ!!!!という気持ちで更新です。
まぁとにかく。紹介がてら今更ながらの1巻感想です。
主人公のエミは友人に連れられ気乗りしないままクラブにやってきた。
そこで出会ったケイに関係が含まっていき、深夜のクラブ文化に触れていく。
夜の楽しみ方。知らない音楽の聞き方。音楽の新しい聞き方。VJってなに?
「知らないでしょ?とろろこんぶのおにぎり 探して買ってきて」
一夜を共にしたあと、そう微笑むケイ。非常に印象的な第一話のセリフ。
この漫画のテーマを言ったいるように思えます。きっと探せば見つかる、もしかしたら意識してないだけでそばにあるかもしれない、でもこれまで見えていなかった新しい何か。
美味しいかもしれないし、口に合わないかもしれない。でも、それを知るために。
VJとはDJが流す音楽に合わせて、リアルタイムで映像を編集する人。
初挑戦で身震いするほどの興奮を味わったエミは、そこから新しい音楽の味わい方を知る。
音楽が楽しい瞬間。あの高揚が、本作は爽やかに描かれている。
そしてその快感を初めて味わって、ドキドキしてたまらない感触。これが清々しいのです。
ケイさんの伸び伸びした立ち振舞いが、俺が思う「都会的」そのもので、憧れがある。
彼女のまとっている空気がそのままこの作品のカラーになっているように感じる。
奔放で、ちょっとミステリアスで、なのに笑顔ばかりが似合って、
楽しいこと全部やりたいだけやってしまうようなエネルギーがあって。
あと部屋が超かっこいい。
ケイさんの過去が語られていく中で、たどってきた悔しい思い出や
好きばかりの情熱だけではなんともならなかった現実も見えてくる。
クラブイベントの主催側の事情が垣間見えてドキドキするんですけど
そこらへんは知識豊富な作者だからこそ踏み込めた領域なのだろうとも思う。
細かな部分を言えば構図や演出が凝っているシーンがとても多くて
ひとつの画集のような気持ちでページを開くこともできる。
内容もそうだけど作品全体がなんかもうオシャレなんだよな。
例えば第3話のラスト、はじめてVJをやって打ち上げして、店から出たらもう朝で。
スタッフたちが真っしろな朝の街をゆっくり静かに歩いて行く見開きなんか
映画のクライマックスのような情緒感があふれていてたまらない。
間のとり方や、吹き出しの工夫とか、上のような「魅せる構図」とか
あと内容とセリフと演出が完全にバチッとハマってたこのシーン
後ろで車が通りすぎて、逆光で一瞬ケイさんの表情が見えなくなるんですけど
あまりにカッコよすぐてスマホの待受にしたくなった。
エミちゃんが彼氏とズルズル同棲しているっていう設定もグッとくる。なるほど浮気百合。
百合漫画というにはいわゆる恋愛要素はそんなに濃くはなくさっぱりとしている。
しかし、エミちゃんがケイさんがべったりと甘えてるような、精神的にも
どんどん拠り所としていくその様子にホッコリしてしまうのだ。
むしろ1話でずいぶん性急にセックスをしたことが
ケイさんもあの夜に酔ってしまっていたことがわかる嬉しい部分。
ふたりとも、もう大人といえる年齢なんですよ。
けれどまるで楽しいことしかこの世にないような夜を知っている。何度も足を踏み入れる。
大人だからこそ知る現実の辛さを、それを忘れさせてくれる夜の時間の、描かれる日常バランスの巧みさ。
音楽を楽しむことはそういう心の豊かさをくれることんだと感じさせてくれますね。
音楽漫画というほどズンズン言わせていないんですが、「音楽を楽しむ空間」への強い愛情が感じられる漫画なんですよね。プレイヤーよりではなくむしろ客席のほうに近い。
秘密めいた都会の夜の香りがする、いい漫画なんですよ。
俺もこの漫画を読んでからクラブ行きました。ニジロックっていうアニソンと邦ロックばっかり流れる岐阜アニクラなんですが、楽しくて大体2ヶ月おきに行ってます。
個人的にはそういう楽しみをくれた意味もあって大好きな漫画です。
クラブ文化を知らなかった人がクラブに行き出すようなエネルギーがあるんですよ。
続刊、ちゃんと出てほしいなぁ。
http://hi-bana.com/works008.html
試し読みできるから。ぜひ1話だけでも読んでみてほしい。
『アフターアワーズ』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
夜のたのしみはまだまだこれから。東京と、音楽と、女の子の景色。