[漫画]She was beautiful.『惡の華』10巻
記事タイトルはまた、syrup16gの楽曲より。
おかえり 佐和
『惡の華』10巻の感想。もう11巻が出ましたが、10巻です。
表紙がかもすオーラが凄まじい。美しく少し不気味で、なんにせよたまりません。焼ける空を背に、こちらを見つめる黒髪の少女。
睨んでいるにも見えるし、すこし、涙ぐんでいるようにも、見えなくない。
笑っているようも、表情はないようにも見える。影が覆い隠す。
9巻は比較的幸福度の高い、ポジティブな内容でした。10巻は一転して胃がいたくなるような、過去と向き合うためのストーリーが展開します。
祖父が危篤との知らせが届き、春日一家は3年ぶりに帰ってきた。
呪縛が息づく故郷へ。
前巻→Reborn.『惡の華』9巻
●罪を背負え
帰郷した春日を待っていたのは、まず親族らの冷たい視線。
そして直接投げかけられる、春日の罪を咎める声。
それはなんら理不尽なものではなく当然のことで、春日がしでかした事の大きさはそれだけの影響力があったのだ。親戚だというだけで、彼らは多くの悔しさを味わったことだったろう。それこそが理不尽であり、春日にはその罪がある。責任がある。
この帰郷で改めてわかったことは、春日に対する現実の冷たさ(当たり前ではあるがこれまで実感がわかなかった)。
そして春日には、それを背負うだけの覚悟がすでに備わっていたということ。
自己嫌悪や自責の念で押しつぶされたりしない。受け止めて、現実で生きていこうという姿勢だ。
個人的にはこの帰郷したエピソードの中で、地味にかつ強力に心が傷んだのは、春日の両親の疲れた表情……。
事件をおこした本人だけではなく、曝され、貶されたのは、両親だって同じだろう。
この両親が背負った後悔や痛みなんてのは、春日が味わっているものとは別種のものだ。どちらが優っているかではなく、まるで別。子供と保護者では、その立ち位置は違う。
「惡の華」はこうした、春日の両親のドラマにも目を向けてくれているのがいいよなぁ。
罪をおかした人間を取り囲む環境の情報量が多く、それで更に胃が痛くなるんだよなぁ(白目)
でも、春日をひとりで木下に会いにいかせたこの両親は、春日をもう信じることができていた。そういった、家族の絆の再生なんかも垣間見ることが出来た。
傷つくだけではない優しさも伴ったエピソードだと思う。
●木下亜衣の苦悩
惡の華という物語において木下という少女は、サブキャラの1人だった。
それでも中学生編の登場人物としては存在感が大きいほうだったし、春日や佐伯や仲村といったメイン級には劣るものの、貴重なポジションにした少女だと思う。
あと、いたって普通の娘っぽくて、ちょっと可愛かったよね。
ところがこの10巻で木下さんの存在価値は、個人的には爆上がりである。
そう、彼女のまた思春期の犠牲者であり、今なお苦悩を続ける放浪者であり、現実とそして自分自身に深く傷つけられていたのだ…!
彼女は今もなお、取り残されている。このしがらみだらけの田舎の町で、囚われている。
今いる場所が彼女を絶望させ続けているのに、逃げることができない。みんな、逃げるようにこの町から消えてしまったのに。
春日とは違った方面で、彼女もまたこんなふうにボロボロになっていたのか……
このエピソードを読むまで、「あの事件のあと、木下ってどうなったんだろう?」と考えることすらしていなかった自分が恥ずかしい。全部壊れてしまったのは彼女だって同じだったのに。
佐伯さんがいまどうなっているのか、なにも知らない木下に、春日は佐伯さんと再会したこと、「ふつうに幸せ」と言っていたことを伝えた。すると木下さんは号泣してしまう。
この「ふつうに幸せ」という言葉は、トゲがあるようで、やはり素敵なことなのだろうと思う。特別なことは何もない平凡な人生へと、彼女は帰っていった。
憎んでさえいた春日に、涙を見せるという最大級の失態をおかし、さらに手を重ねて慰められた。木下にとって悔しいことだったのかもしれないが、彼女は不思議と素直な表情をしていたように思う。
春日とのこの会話で、彼女はようやく、あの夏を終えることが出来たのかもしれない。
勝手に引きずり込まれて勝手にとりのこされた少女は、二度と会うことはないであろう少年に別れを告げる。
こんな鮮やかな離別。素晴らしいな。胸がギュッとなって、切なくなって、嬉しくなってしまうだろ。
●常磐さんの小説と彼女の覚悟
常盤さんが小説を完成させたのは、春日を励ますためだったのかもしれない。
彼女が小説を書き上げた春日が帰郷をしていた間のことで、このタイミングにしたのは図ってか図らずしてか、ともかく結果的に、彼女は春日に小説を、特別な意味合いで渡した。
家に上がった時、「両親はいない」と告げる。ふたりきりの部屋で、同じベッドに腰掛ける。
セックスへの雪崩れを思わせる前置きで行われたのが、「完成した小説を渡す」という儀式だったのが面白い。ふたりにとってその行為はそれだけの重みがあったのかもしれない。
もちろん常磐さんとしては、本当に関係が進むことを意識していたという匂いも感じられる。
思わず下世話な話をしたくなるけど今回は真面目な更新だから控えるよ(でも画像は貼りたかった)
こんな表情で、自分の分身たる創作物を差し出す少女。アツいぜ。これはな。アツいのさ。
春日のために、最初の読者のために、書いた小説。
けれど完成した小説を、春日は読まなかった。
そして君に言わなくりゃいけない事があると……中学時代の出来事をすべて伝えた。
で、このセリフである。
僕はまだ 仲村さんから離れられないでいる
好きとか嫌いとかじゃない 抱きしめたいのか殺されたいのかわからない
もう一度会いたい
仲村さんに会いたい きみと…生きるために
あーあ言っちゃったよ!
わかってはいたけれどこのタイミングは最悪である。エンジェル常磐もそりゃご立腹よ。
けれどここで素知らぬ顔で彼女の渾身の物語を読む男じゃなくてよかった。潔癖な春日でよかった。そうしてしまうこと彼自身が一番忌避したから、彼はここですべてを打ち明けたのだろう。
彼女にだけはせめて、まっすぐ向き合いたいと願っているのだ。
怒って完成原稿をビリビリに破り捨ててしまった常磐さん。春日のその言葉で破り捨ててしまうということは、どれだけの想いで春日のためにこの作品を書き上げたのか、ってことだ。
そして、この一連に流れにおける常磐さんの表情は、一瞬たりとも見逃せない!
緊張、混乱、覚悟。そのほかにもいろいろ混ざっても、やはり彼女は優しく、格好いい。芯のある人間だ。
それでも受け止めきれるかどうかの分岐点で、キスを誘い、そして春日からキスをすると、彼女は決意を固めた。
春日の思春期のエンディングに、自らも巻き添えになってやろうと。道連れになって、見届けてやろうと。そういう覚悟だ。
●仲村さんと水
春日と常磐が、仲村さんの現在の住所を訪ねようとするシーンです。
その移動中を描いたこの見開きでは、『水滴』が印象的に存在しています。
そして10巻のラスト、仲村さんと再会した瞬間にも、真っ暗な闇に水滴がひとつ、ポツリと落ちるシーンがあります。
つまり水とは、きっと仲村さんとなんらかの関係があるアイテムなのでしょう。
仲村さんと「水」を結びつける、なにか決定的なシーンはなかっただろうか。
そう思って単行本を読み返してみたら、あった。個人的にはこれがアンサー。
(6巻150,151P)
涙。
きっと春日にとって、仲村さんはずっと「泣いている女の子」だったのだ。
だから、助けてあげたかった。
仲村さんを救いたいと春日は言っていました。助けたい少女の象徴が涙だとすれば、個人的には腑に落ちます。
今でも春日が仲村さんに会いたがったのは、恋愛感情ではなく、ただ、やり残してしまった後悔を感じていたのだと思う。
仲村さんをまた1人にしてしまった。何も出来なかった。救えなかったのだと、自責の念に押しつぶされていた。
つまり仲村さんに会いに行く道程で水滴がイメージとして描かれていたのは
涙こそが春日にとって仲村さんの象徴であるということと、
この道中に仲村さんとの日々を思い返していることと、
仲村さんにたしかに近づいていっているという距離的な描写だった、と思うわけです。
仲村さんの現在の住所であり、春日と再会した場所は「食堂 水越」。ここにも「水」が現れていることも、ひとつのポイントとしてメモしておきます。
少年は美しかった少女を思い出していた。その涙を思い出していた。
いまの彼女は、どうだろうか。あの時の言葉を今日も噛み砕いて、今日こそ、会いに行く。
さて、さきほどの画像、6巻にて仲村が涙を流しているシーン。
巻き戻って読んでみると、この直前に春日が「キミを救いたい」と言っていたのです。その言葉に激怒し「ふざけるな」と吐き捨てバットで襲いかかった仲村。けれどその目には涙が―――という流れだった。
今にして思えば、 …この言葉は仲村さんを傷つけてしまうかもしれないけれど
仲村さんは、救われたがっていた。
春日に救われることを望んでいた、と改めて思う。
その感情はきっと恋ではない。
恋であったとして、きっとすぐに消えてしまう雷のような刹那の光で、きっと永遠には残らない。
けれどその美しい一瞬が、思春期にはいくつかあって、死ぬまで人間は抱えて生きていく。
かつて2人は一緒にいた。
今にもその身を食い破りそうな怒りや寂しさや恐怖を、共有し、抱きしめあい、かつて一緒に破滅しようとした。
蒸し暑いあの夏の日々に、腐敗した世界の中でたしかに色づいた、小さな愛があったのかもしれない。
今は違う。2人はもう、その世界にはいない。
一生まじわることのない人間として、違う人生を歩んでいく。
しかし春日は再会することを選んだ。
過去に決着をつけるために。初恋を終わらせるために。これからの人生のために。大切な人と生きていくために。
11巻の感想に続くとします。
『惡の華』10巻 ・・・・・・・・・★★★★★
あらゆる面で最高の緊迫感と面白さ。灰色なこの世界で、その罪を償え。
最終巻。発売中です。また近いうちに感想を書こうと思います。
惡の華(10) (少年マガジンコミックス) (2014/01/09) 押見 修造 商品詳細を見る |
おかえり 佐和
『惡の華』10巻の感想。もう11巻が出ましたが、10巻です。
表紙がかもすオーラが凄まじい。美しく少し不気味で、なんにせよたまりません。焼ける空を背に、こちらを見つめる黒髪の少女。
睨んでいるにも見えるし、すこし、涙ぐんでいるようにも、見えなくない。
笑っているようも、表情はないようにも見える。影が覆い隠す。
9巻は比較的幸福度の高い、ポジティブな内容でした。10巻は一転して胃がいたくなるような、過去と向き合うためのストーリーが展開します。
祖父が危篤との知らせが届き、春日一家は3年ぶりに帰ってきた。
呪縛が息づく故郷へ。
前巻→Reborn.『惡の華』9巻
●罪を背負え
帰郷した春日を待っていたのは、まず親族らの冷たい視線。
そして直接投げかけられる、春日の罪を咎める声。
それはなんら理不尽なものではなく当然のことで、春日がしでかした事の大きさはそれだけの影響力があったのだ。親戚だというだけで、彼らは多くの悔しさを味わったことだったろう。それこそが理不尽であり、春日にはその罪がある。責任がある。
この帰郷で改めてわかったことは、春日に対する現実の冷たさ(当たり前ではあるがこれまで実感がわかなかった)。
そして春日には、それを背負うだけの覚悟がすでに備わっていたということ。
自己嫌悪や自責の念で押しつぶされたりしない。受け止めて、現実で生きていこうという姿勢だ。
個人的にはこの帰郷したエピソードの中で、地味にかつ強力に心が傷んだのは、春日の両親の疲れた表情……。
事件をおこした本人だけではなく、曝され、貶されたのは、両親だって同じだろう。
この両親が背負った後悔や痛みなんてのは、春日が味わっているものとは別種のものだ。どちらが優っているかではなく、まるで別。子供と保護者では、その立ち位置は違う。
「惡の華」はこうした、春日の両親のドラマにも目を向けてくれているのがいいよなぁ。
罪をおかした人間を取り囲む環境の情報量が多く、それで更に胃が痛くなるんだよなぁ(白目)
でも、春日をひとりで木下に会いにいかせたこの両親は、春日をもう信じることができていた。そういった、家族の絆の再生なんかも垣間見ることが出来た。
傷つくだけではない優しさも伴ったエピソードだと思う。
●木下亜衣の苦悩
惡の華という物語において木下という少女は、サブキャラの1人だった。
それでも中学生編の登場人物としては存在感が大きいほうだったし、春日や佐伯や仲村といったメイン級には劣るものの、貴重なポジションにした少女だと思う。
あと、いたって普通の娘っぽくて、ちょっと可愛かったよね。
ところがこの10巻で木下さんの存在価値は、個人的には爆上がりである。
そう、彼女のまた思春期の犠牲者であり、今なお苦悩を続ける放浪者であり、現実とそして自分自身に深く傷つけられていたのだ…!
彼女は今もなお、取り残されている。このしがらみだらけの田舎の町で、囚われている。
今いる場所が彼女を絶望させ続けているのに、逃げることができない。みんな、逃げるようにこの町から消えてしまったのに。
春日とは違った方面で、彼女もまたこんなふうにボロボロになっていたのか……
このエピソードを読むまで、「あの事件のあと、木下ってどうなったんだろう?」と考えることすらしていなかった自分が恥ずかしい。全部壊れてしまったのは彼女だって同じだったのに。
佐伯さんがいまどうなっているのか、なにも知らない木下に、春日は佐伯さんと再会したこと、「ふつうに幸せ」と言っていたことを伝えた。すると木下さんは号泣してしまう。
この「ふつうに幸せ」という言葉は、トゲがあるようで、やはり素敵なことなのだろうと思う。特別なことは何もない平凡な人生へと、彼女は帰っていった。
憎んでさえいた春日に、涙を見せるという最大級の失態をおかし、さらに手を重ねて慰められた。木下にとって悔しいことだったのかもしれないが、彼女は不思議と素直な表情をしていたように思う。
春日とのこの会話で、彼女はようやく、あの夏を終えることが出来たのかもしれない。
勝手に引きずり込まれて勝手にとりのこされた少女は、二度と会うことはないであろう少年に別れを告げる。
こんな鮮やかな離別。素晴らしいな。胸がギュッとなって、切なくなって、嬉しくなってしまうだろ。
●常磐さんの小説と彼女の覚悟
常盤さんが小説を完成させたのは、春日を励ますためだったのかもしれない。
彼女が小説を書き上げた春日が帰郷をしていた間のことで、このタイミングにしたのは図ってか図らずしてか、ともかく結果的に、彼女は春日に小説を、特別な意味合いで渡した。
家に上がった時、「両親はいない」と告げる。ふたりきりの部屋で、同じベッドに腰掛ける。
セックスへの雪崩れを思わせる前置きで行われたのが、「完成した小説を渡す」という儀式だったのが面白い。ふたりにとってその行為はそれだけの重みがあったのかもしれない。
もちろん常磐さんとしては、本当に関係が進むことを意識していたという匂いも感じられる。
思わず下世話な話をしたくなるけど今回は真面目な更新だから控えるよ(でも画像は貼りたかった)
こんな表情で、自分の分身たる創作物を差し出す少女。アツいぜ。これはな。アツいのさ。
春日のために、最初の読者のために、書いた小説。
けれど完成した小説を、春日は読まなかった。
そして君に言わなくりゃいけない事があると……中学時代の出来事をすべて伝えた。
で、このセリフである。
僕はまだ 仲村さんから離れられないでいる
好きとか嫌いとかじゃない 抱きしめたいのか殺されたいのかわからない
もう一度会いたい
仲村さんに会いたい きみと…生きるために
あーあ言っちゃったよ!
わかってはいたけれどこのタイミングは最悪である。エンジェル常磐もそりゃご立腹よ。
けれどここで素知らぬ顔で彼女の渾身の物語を読む男じゃなくてよかった。潔癖な春日でよかった。そうしてしまうこと彼自身が一番忌避したから、彼はここですべてを打ち明けたのだろう。
彼女にだけはせめて、まっすぐ向き合いたいと願っているのだ。
怒って完成原稿をビリビリに破り捨ててしまった常磐さん。春日のその言葉で破り捨ててしまうということは、どれだけの想いで春日のためにこの作品を書き上げたのか、ってことだ。
そして、この一連に流れにおける常磐さんの表情は、一瞬たりとも見逃せない!
緊張、混乱、覚悟。そのほかにもいろいろ混ざっても、やはり彼女は優しく、格好いい。芯のある人間だ。
それでも受け止めきれるかどうかの分岐点で、キスを誘い、そして春日からキスをすると、彼女は決意を固めた。
春日の思春期のエンディングに、自らも巻き添えになってやろうと。道連れになって、見届けてやろうと。そういう覚悟だ。
●仲村さんと水
春日と常磐が、仲村さんの現在の住所を訪ねようとするシーンです。
その移動中を描いたこの見開きでは、『水滴』が印象的に存在しています。
そして10巻のラスト、仲村さんと再会した瞬間にも、真っ暗な闇に水滴がひとつ、ポツリと落ちるシーンがあります。
つまり水とは、きっと仲村さんとなんらかの関係があるアイテムなのでしょう。
仲村さんと「水」を結びつける、なにか決定的なシーンはなかっただろうか。
そう思って単行本を読み返してみたら、あった。個人的にはこれがアンサー。
(6巻150,151P)
涙。
きっと春日にとって、仲村さんはずっと「泣いている女の子」だったのだ。
だから、助けてあげたかった。
仲村さんを救いたいと春日は言っていました。助けたい少女の象徴が涙だとすれば、個人的には腑に落ちます。
今でも春日が仲村さんに会いたがったのは、恋愛感情ではなく、ただ、やり残してしまった後悔を感じていたのだと思う。
仲村さんをまた1人にしてしまった。何も出来なかった。救えなかったのだと、自責の念に押しつぶされていた。
つまり仲村さんに会いに行く道程で水滴がイメージとして描かれていたのは
涙こそが春日にとって仲村さんの象徴であるということと、
この道中に仲村さんとの日々を思い返していることと、
仲村さんにたしかに近づいていっているという距離的な描写だった、と思うわけです。
仲村さんの現在の住所であり、春日と再会した場所は「食堂 水越」。ここにも「水」が現れていることも、ひとつのポイントとしてメモしておきます。
少年は美しかった少女を思い出していた。その涙を思い出していた。
いまの彼女は、どうだろうか。あの時の言葉を今日も噛み砕いて、今日こそ、会いに行く。
さて、さきほどの画像、6巻にて仲村が涙を流しているシーン。
巻き戻って読んでみると、この直前に春日が「キミを救いたい」と言っていたのです。その言葉に激怒し「ふざけるな」と吐き捨てバットで襲いかかった仲村。けれどその目には涙が―――という流れだった。
今にして思えば、 …この言葉は仲村さんを傷つけてしまうかもしれないけれど
仲村さんは、救われたがっていた。
春日に救われることを望んでいた、と改めて思う。
その感情はきっと恋ではない。
恋であったとして、きっとすぐに消えてしまう雷のような刹那の光で、きっと永遠には残らない。
けれどその美しい一瞬が、思春期にはいくつかあって、死ぬまで人間は抱えて生きていく。
かつて2人は一緒にいた。
今にもその身を食い破りそうな怒りや寂しさや恐怖を、共有し、抱きしめあい、かつて一緒に破滅しようとした。
蒸し暑いあの夏の日々に、腐敗した世界の中でたしかに色づいた、小さな愛があったのかもしれない。
今は違う。2人はもう、その世界にはいない。
一生まじわることのない人間として、違う人生を歩んでいく。
しかし春日は再会することを選んだ。
過去に決着をつけるために。初恋を終わらせるために。これからの人生のために。大切な人と生きていくために。
11巻の感想に続くとします。
『惡の華』10巻 ・・・・・・・・・★★★★★
あらゆる面で最高の緊迫感と面白さ。灰色なこの世界で、その罪を償え。
惡の華(11)<完> (少年マガジンコミックス) (2014/06/09) 押見 修造 商品詳細を見る |
最終巻。発売中です。また近いうちに感想を書こうと思います。
[漫画]Reborn.『惡の華』9巻
タイトルは大好きなsyrup16gというバンドの、やさしい曲から。個人的には9巻に合う歌。
「時間は流れて 僕らは年をとり 汚れて傷ついて 生まれ変わっていくのさ」
完結となる第11巻が発売だ!ということで、まる1年できていなかった「惡の華」のコミックス感想を再開…。いまさらかよ!でも今やらなかったら本当にタイミングなくなってしまうよ!
書けていなかった9巻と10巻をやっていきます。そのあとに最終巻の感想を書く予定。
今日は9巻の感想記事です。
僕がきみの幽霊を殺す
いつまでも、ひとりぼっちなような気がしていた。
けれど分かち合える人と出会えて、手を取ることができた。
9巻は、そんなふうに、少年が生まれ変わるための物語だった。
もちろん本当にまっさらに生まれ変わることなんて出来ない。
過去と未来は地続きで、過去をなくすことも過去と無関係な未来を歩むこともできない。
けれど生まれ変わる。ここからが、彼の思春期のエンディングだ。
前巻→怯える幽霊と忘れられない華の影。『惡の華』8巻
●幽霊から生まれ変わるのだ
常磐さんの小説にはキーワードとして「幽霊」が使われている。
この言葉は春日の心を貫き、ひたすらに彼を虜にした。
そこにいるのに、こんなにも膨大な気持ちが溢れそうなのに、誰にも気付かれず、誰とも繋がれずにひとりぼっちの存在。
それを一言で「幽霊」と表現し、それはまるで自分のことだと春日は言う。
第44話「罪深い僕の心が求めるのは」は、1話単位で考えるならこれまででトップクラスに好きな一話となりました。
この回は春日の精神世界と、その自問自答、自己嫌悪との戦いが描かれていて、高校生・春日高男のその時点のすべてが炸裂しているような。
畳み掛けるような刺激的な言葉と印象深いカットの連発で、最高のカタルシスがこちらに体当りしてくるエピソードです。ここから彼は生まれ変わった。
仲村の幻影がうしろから見つめてくる。内なる自分が語りかけてくる。過去の罪の汚い嗤い声が響く。それでも春日の胸にいたのはひとりの女の子だった。
この44話では、囚われた屋敷に佇む2人の幽霊が描かれました。
これがそのシーン。春日と常磐がふたり、幽霊となって屋敷にとらわれている。
この時点で春日が、「常磐と付き合いたい」と思っていてそれが具現化したイメージがこれだった…とは思わない。そういう肉体的な欲求とは違う。
ふたりで幽霊となっているというこのイメージを浮かべたということは、
春日がそれだけ、常磐の中に自分とおなじ空気や温度を感じ取ったということだろうなと思う。
「一緒にいたい」というより「一緒にいなきゃいけない」という使命感に突き動かされたような感触ですね。
「キミはずっと…ひとりで悩んで…幽霊みたいに…」
「僕にはできない 一生 幽霊の世界で生きていくなんて」
そして春日は走り、「僕と生きてくれ」と、手を差し伸べる。
春日ってやっぱり行動力はあるよなぁ…!本作トップクラスの燃えシーンですよ!!
「生きてくれ」というのは、プロポーズのような重みを感じるフレーズだし
同時に「幽霊のきみを救ってみせる」という、彼女のナイーヴな部分に言及し、ふたりにしかわからないメッセージ性を宿した、とっておきの言葉だった。
そして春日自身の、幽霊としての自分から変わろうとする意思も含まれている。
ともに幽霊の世界から抜けだして、変わっていこうという強い覚悟が溢れる。
しかし「僕がきみの幽霊を殺す」と告白するのって……すごく……うん…うん!!!!!(身震いしながら) こういう文学的な言葉でやってしまうのが彼らしさであるし、こういう所に、常磐さんも心掴まれてしまったのかもしれないな。
抱きしめあって「あったかい」と言ったら、照れた恋人に叩かれてしまった。
そんな幸福な夜が、春日にもやってきた。
●「ただいま」
あれから影の落ちたままの春日一家。
そっけなく、過去には触れようとせず、恐れるように距離をとった家族。
しかし春日は、ようやく、「ただいま」を言うことが出来た。
それは再生の合言葉だったのかもしれない。
この「ただいま」は、簡単な言葉ではなかった。
外出して戻ってきたからの「ただいま」ではなくて、きっと数年来もの。
1人さまよって、寂しがっても1人で、涙を流したのもきっと1人だった。しかしこれからは違ってくる。誰かをともに生きる、平凡な世界へ、帰っていく。
親からしても、待ちわびた、希望の鐘のような一言だったに違いない。ここから再生する。
●握りつぶした惡の華
印象的だったのが、春日が惡の華を握りつぶした場面。
第44話は先ほども書きましたが彼の内面における葛藤が渦巻いていました。
その最後に、彼は惡の華を握りつぶす。そして常磐への告白へと駆け出すのです。
これが、個人的には、春日の思春期のエンディングのためのカギだった。
それはかつて彼が大切にしていた美しいものであり、魅力的な世界の象徴だった。
心に渦巻く闇や、破滅的な諦観や、暴れ狂う自意識や……様々なものが内包された、彼の思春期の象徴。それを彼は握りつぶした。彼の決意をこれほど強く表したシーンも無い。
第47話では、握りつぶしたあとの右手に惡の華の残骸がこびりついているシーンがあります。これが面白かったですね。「華」を握りつぶしたとて、その手が綺麗になるわけではない。心に黒くこびり付き、過去を忘れさせないための証となる。もしくは、忘れないための戒め。
また単行本巻末には、見開きで3枚のイラストが描かれています。
1枚目は「惡の華」の文庫本。佐伯さんの体操着。そびえ立つ山と降り注ぐ雨。
2枚目は無数に咲いた惡の華。燃え盛る炎。包丁。
これらのアイテムは物語の進行を表しているように思えます。
そして3枚目。これが良い。とてもいい。
「惡の華」の文庫本。バラの花。惡の華の残骸。階段に足をかける少年。
彼を惑わす「惡の華」はもう咲かない。かわりに咲くのは、愛の象徴である、バラの花。けれどかつて拠り所とした文庫本は今もある。そして少年は階段を登る。
春日が過去を乗り越えつつあることがわかる、素敵なイラストなのです。
「惡の華」9巻感想でした。過去最高に、ポジティブな内容だった……!!
わりとすぐに、つぎの10巻の感想にも着手します。
この9巻は、緊張で震えながら読みました…。
雑誌で読んでいたのですが、毎回毎回、凄まじいくらいのストーリーのうねり!
思春期のドロドロとした不安や疑心暗鬼や自意識をこれでもかとページにたたきつけていた中学生編。高校生編はそれよりも趣が違っていました。消せない過去、消せない罪を背負った、静かで残酷な傷だらけの日々。
けれど9巻は、春日が過去最高に前向きで格好良く、自分でなにかをつかみとろうとする必死さが、最高だった。間違いなく彼の人生のターニングポイント。
表情。言葉。心象風景。9巻はどれも絶品でした。
高校生編は特に、その場に流れている時間の流れや感触を描くことに、執念のような情熱を感じます。常磐と散歩して空を見上げたら、春日が泣いてしまう場面なんかは、こっちまで泣けてきた。
中学生編がリビドーと破壊衝動の爆発だったことを考えれば作品としてかなり雰囲気がかわりましたが、そういった面でもテクニックを感じますね。
ああ、もう、幸せそうで、良かったぞ、春日。よかったな。
『惡の華』9巻 ・・・・・・・・・★★★★
幽霊の世界から飛び出した。締め付けられるような切なさと高揚感に、全身震えてしまった巻でした。彼女が出来て幸福恐怖症な春日くんがかわいい。
「時間は流れて 僕らは年をとり 汚れて傷ついて 生まれ変わっていくのさ」
完結となる第11巻が発売だ!ということで、まる1年できていなかった「惡の華」のコミックス感想を再開…。いまさらかよ!でも今やらなかったら本当にタイミングなくなってしまうよ!
書けていなかった9巻と10巻をやっていきます。そのあとに最終巻の感想を書く予定。
今日は9巻の感想記事です。
惡の華(9) (少年マガジンコミックス) (2013/08/09) 押見 修造 商品詳細を見る |
僕がきみの幽霊を殺す
いつまでも、ひとりぼっちなような気がしていた。
けれど分かち合える人と出会えて、手を取ることができた。
9巻は、そんなふうに、少年が生まれ変わるための物語だった。
もちろん本当にまっさらに生まれ変わることなんて出来ない。
過去と未来は地続きで、過去をなくすことも過去と無関係な未来を歩むこともできない。
けれど生まれ変わる。ここからが、彼の思春期のエンディングだ。
前巻→怯える幽霊と忘れられない華の影。『惡の華』8巻
●幽霊から生まれ変わるのだ
常磐さんの小説にはキーワードとして「幽霊」が使われている。
この言葉は春日の心を貫き、ひたすらに彼を虜にした。
そこにいるのに、こんなにも膨大な気持ちが溢れそうなのに、誰にも気付かれず、誰とも繋がれずにひとりぼっちの存在。
それを一言で「幽霊」と表現し、それはまるで自分のことだと春日は言う。
第44話「罪深い僕の心が求めるのは」は、1話単位で考えるならこれまででトップクラスに好きな一話となりました。
この回は春日の精神世界と、その自問自答、自己嫌悪との戦いが描かれていて、高校生・春日高男のその時点のすべてが炸裂しているような。
畳み掛けるような刺激的な言葉と印象深いカットの連発で、最高のカタルシスがこちらに体当りしてくるエピソードです。ここから彼は生まれ変わった。
仲村の幻影がうしろから見つめてくる。内なる自分が語りかけてくる。過去の罪の汚い嗤い声が響く。それでも春日の胸にいたのはひとりの女の子だった。
この44話では、囚われた屋敷に佇む2人の幽霊が描かれました。
これがそのシーン。春日と常磐がふたり、幽霊となって屋敷にとらわれている。
この時点で春日が、「常磐と付き合いたい」と思っていてそれが具現化したイメージがこれだった…とは思わない。そういう肉体的な欲求とは違う。
ふたりで幽霊となっているというこのイメージを浮かべたということは、
春日がそれだけ、常磐の中に自分とおなじ空気や温度を感じ取ったということだろうなと思う。
「一緒にいたい」というより「一緒にいなきゃいけない」という使命感に突き動かされたような感触ですね。
「キミはずっと…ひとりで悩んで…幽霊みたいに…」
「僕にはできない 一生 幽霊の世界で生きていくなんて」
そして春日は走り、「僕と生きてくれ」と、手を差し伸べる。
春日ってやっぱり行動力はあるよなぁ…!本作トップクラスの燃えシーンですよ!!
「生きてくれ」というのは、プロポーズのような重みを感じるフレーズだし
同時に「幽霊のきみを救ってみせる」という、彼女のナイーヴな部分に言及し、ふたりにしかわからないメッセージ性を宿した、とっておきの言葉だった。
そして春日自身の、幽霊としての自分から変わろうとする意思も含まれている。
ともに幽霊の世界から抜けだして、変わっていこうという強い覚悟が溢れる。
しかし「僕がきみの幽霊を殺す」と告白するのって……すごく……うん…うん!!!!!(身震いしながら) こういう文学的な言葉でやってしまうのが彼らしさであるし、こういう所に、常磐さんも心掴まれてしまったのかもしれないな。
抱きしめあって「あったかい」と言ったら、照れた恋人に叩かれてしまった。
そんな幸福な夜が、春日にもやってきた。
●「ただいま」
あれから影の落ちたままの春日一家。
そっけなく、過去には触れようとせず、恐れるように距離をとった家族。
しかし春日は、ようやく、「ただいま」を言うことが出来た。
それは再生の合言葉だったのかもしれない。
この「ただいま」は、簡単な言葉ではなかった。
外出して戻ってきたからの「ただいま」ではなくて、きっと数年来もの。
1人さまよって、寂しがっても1人で、涙を流したのもきっと1人だった。しかしこれからは違ってくる。誰かをともに生きる、平凡な世界へ、帰っていく。
親からしても、待ちわびた、希望の鐘のような一言だったに違いない。ここから再生する。
●握りつぶした惡の華
印象的だったのが、春日が惡の華を握りつぶした場面。
第44話は先ほども書きましたが彼の内面における葛藤が渦巻いていました。
その最後に、彼は惡の華を握りつぶす。そして常磐への告白へと駆け出すのです。
これが、個人的には、春日の思春期のエンディングのためのカギだった。
それはかつて彼が大切にしていた美しいものであり、魅力的な世界の象徴だった。
心に渦巻く闇や、破滅的な諦観や、暴れ狂う自意識や……様々なものが内包された、彼の思春期の象徴。それを彼は握りつぶした。彼の決意をこれほど強く表したシーンも無い。
第47話では、握りつぶしたあとの右手に惡の華の残骸がこびりついているシーンがあります。これが面白かったですね。「華」を握りつぶしたとて、その手が綺麗になるわけではない。心に黒くこびり付き、過去を忘れさせないための証となる。もしくは、忘れないための戒め。
また単行本巻末には、見開きで3枚のイラストが描かれています。
1枚目は「惡の華」の文庫本。佐伯さんの体操着。そびえ立つ山と降り注ぐ雨。
2枚目は無数に咲いた惡の華。燃え盛る炎。包丁。
これらのアイテムは物語の進行を表しているように思えます。
そして3枚目。これが良い。とてもいい。
「惡の華」の文庫本。バラの花。惡の華の残骸。階段に足をかける少年。
彼を惑わす「惡の華」はもう咲かない。かわりに咲くのは、愛の象徴である、バラの花。けれどかつて拠り所とした文庫本は今もある。そして少年は階段を登る。
春日が過去を乗り越えつつあることがわかる、素敵なイラストなのです。
「惡の華」9巻感想でした。過去最高に、ポジティブな内容だった……!!
わりとすぐに、つぎの10巻の感想にも着手します。
この9巻は、緊張で震えながら読みました…。
雑誌で読んでいたのですが、毎回毎回、凄まじいくらいのストーリーのうねり!
思春期のドロドロとした不安や疑心暗鬼や自意識をこれでもかとページにたたきつけていた中学生編。高校生編はそれよりも趣が違っていました。消せない過去、消せない罪を背負った、静かで残酷な傷だらけの日々。
けれど9巻は、春日が過去最高に前向きで格好良く、自分でなにかをつかみとろうとする必死さが、最高だった。間違いなく彼の人生のターニングポイント。
表情。言葉。心象風景。9巻はどれも絶品でした。
高校生編は特に、その場に流れている時間の流れや感触を描くことに、執念のような情熱を感じます。常磐と散歩して空を見上げたら、春日が泣いてしまう場面なんかは、こっちまで泣けてきた。
中学生編がリビドーと破壊衝動の爆発だったことを考えれば作品としてかなり雰囲気がかわりましたが、そういった面でもテクニックを感じますね。
ああ、もう、幸せそうで、良かったぞ、春日。よかったな。
『惡の華』9巻 ・・・・・・・・・★★★★
幽霊の世界から飛び出した。締め付けられるような切なさと高揚感に、全身震えてしまった巻でした。彼女が出来て幸福恐怖症な春日くんがかわいい。
[漫画]悲しい運命が脈動する。優しい戦士は笑いかける。『ブレイクブレイド』13巻
ブレイクブレイド(13) (メテオCOMICS) (2014/05/12) 吉永裕ノ介 商品詳細を見る |
馬鹿め… …勝った奴が… 泣くな…
ブレイクブレイド最新刊、第13巻の感想。
ロボット戦記モノらしい、バッチリと格好良くキマった表紙にしびれる!!
冷たい眼をしたゼス。涙を流すライガット。交差するゴゥレム!
11巻12巻とわりと平和なイラストだったのですが、今回の表紙は緊迫感があってたまりません。このままポスターで欲しい。
しかし作者コメントを見たら「表紙詐欺は続くよどこまでも」と書いています。いやそれを言っちゃあおしめえよ。たしかに今回のゼス様は、ほぼ良いとこナシだったからな!!
前巻の感想→避けられぬ衝突!戦争への加速!『ブレイクブレイド』12巻
戦場復帰したゼスと、国の英雄となったライガットが相見える。
2人の直接対決は第3巻以来。あの一戦で脚を負傷したゼスは治療のため戦線を離脱。そしてボルキュスが率いる進軍が始まった。そして戦争。そして決着。
いまやゼスの立場も激変している。いまや危機的状況に陥ったアテネスの東方討伐軍・筆頭将軍として、あまりに多くのものを背負う身となっている。
さぁ!いよいよ切ない展開に入ってきましたよ!
つまり、かつての仲良し4人組がいかに引き裂かれ、苦悩し、運命に翻弄されるのか!
「運命に、抗おう―――」という本作の重要なコピーがあります。
つまり運命の苛酷さがまずある。それは13巻のここに至るまで多数の死のドラマを踏み越えていることから理解しています。けれどここからはいよいよ、主人公たちがその渦中に飛び込んでいく。
囚われたシギュン。彼女の処刑を目論むゼス。それを止めたいライガット。国王として身動きのとれないホズル。
いいぞ…こういうのがたまらないんだ…!ハッピーエンドを望みつつ、途方も無い悲しみや離別や喪失だってきっと待ち受けているんだ。
引き裂かれた昔なじみ4人のドラマについて言えば、シリーズ最大級の盛り上がりへと突入していく!
この13巻、ゼス関連の謎がサクサクと種明かしがされていくのが意外でした。
・ゼスとライガットが共有していた秘密――ゼスがアッサム国立士官学校に入学した理由とはなんなのか。
・ゼスが抱えるロキス書記長への“負い目”とは、過去に何があったものなのか。
これらが見えてくることで頑ななゼスの現在にも納得がいくし、4人の絆のルーツを知ったことで更なるセンチメンタルが加速する。最初から…なにもかも、うまくいくはずがなかったのだ……!!!
それにしても、もっと勿体ぶって種明かししていくかと思った。
そして始まるゼスとの対決。
しかしこれはまぁー、ライガットさん強すぎィ!!
11巻予告の「お前は…誰だ…?」がまさかゼスがライガットに向けて言ったセリフだったとは。ゼスは作中だと強キャラなのにライガット相手だとそれがイマイチ実感しづらい、なんという不幸イケメン…。
まぁそれは「手加減はしないぞ。貴様を殺す(キリッ」とか言っても心のどこかでブレーキがかかっているのか、はたまたライガットがマジでヒーローすぎるのか。
まるでお手玉のように、2本の武器を空に投げてはキャッチして攻撃、投げては次のをキャッチして攻撃……片手二刀流という離れ業まで披露する圧倒的魅せプレイ。闘争本能全開のライガットさん。
ゼスを圧倒し、腕部を破壊した時のライガットの表情が、絶品なのですよ。
この乾いたような、諦めたような、悟ったような表情は。いったい何だ。
親友と呼ぶべき相手と国をかけて殺し合いをしなければならない、非情なこの場面において、なんて静かな表情をするんだろう。
正直、自分はまだこのシーンでのライガットを掴みきれてはいない。
やりきれない現実の中、死と隣り合わせの戦場で、いまなおゼスのことを信じてしまう。甘すぎる。しかしこうでなきゃライガットではないんだ。
復讐の狂気に駆られたボルキュス戦以降、ライガットは不安定な精神状態にあります。彼本来の性格とは別に、恐ろしいほどに冷たく残酷な別人格を秘めている。
この2面性が今後のライガットの描かれ方において注目したいポイント。今後ゼスとの戦いにおいて、どんな表情を見せてくれるのだろうか。
正直「ゼスの覚悟を甘く見過ぎだろ、大丈夫かよ」と思うけれどなぁ。
この一戦、予想していたものとはかなり違った内容となったが、ゼスとはじめての戦いを思い出させるようなカットがあったり、過去との対比によって「変わったしまったこと」を深々を感じさせる、バトルの高揚の中にもの淋しい寂寥がにじむ一戦だったなと思う。
話は移り、サーブラフ家の軸にストーリーは更なる急展開を見せる。
カギを握るのは、クレオ。
クレオの揺れる思いに関しては前々からじっくりと描写が深められていました。クリシュナの捕虜となるもシギュンに保護された段階から、「本当にクリシュナは蛮族なのか?」という疑問を抱き、過去受けた教育と現実とのギャップに苦しんでいた。
しかしシギュンの処刑が迫る中で、誰より勇気ある行動をとったのはその彼女だったのだ!
ずっと暖め続けられていた想いが実を結んだ。
微笑みかける。全部全部、なくしてしまうのを覚悟して。優しい戦士はここにいる!
クレオはドジッ娘キャラでありつつ才能を秘めたキャラクターですが
彼女の真髄は、自分のすべてを投げ捨てるほどに誰かに優しくできる、その心にあると言える。こんな決断を下せるまでに、シギュンは彼女の心を深く癒やすことができたんだ。
こうなってくるとクレオもまた、もうひとりの主人公だな。物語を突き動かすプラスエネルギーだ。背負ったドラマが層をなして分厚くなってきたし、応援できる。かわいいし(大事)。
この時、わずか12歳の幼いクレオの決断を後押しした大人たちがいる。
それは彼女の母親と祖母。いざというときには女が強いもんだわ!
幼い娘の一世一代の決意を無下にしない。それどころか最大限のバックアップとフォロー!
凛として娘と寄り添う。すべてを捨てて共に生きる。
この時のクレオママンのきっぱりとした口調がめちゃくちゃ格好良かった……!母親としてか、いやそれよりもっと原始的な、人間としての強さを感じる。
あまりに格好良すぎるし、いいオンナすぎたので、死亡フラグのようなものをうっすらと感じてしまったんですが…大丈夫でしょうか…。
個人的にはブレイクブレイドで1番エロスを感じる女性なので(1番エロスを感じる男性はチート眼鏡でした)、退場はどうか、どうか…。
クレオママンはね、部屋着でも胸元がパッカリしたラフオサレスタイルだからね、とってもイイんですよ。
そんな「ブレイクブレイド」13巻でした。
サクサクと進んでいるというか、グイグイと未来に引っ張られていくような展開。
テンポがよくて嬉しいですが、益々緊迫感が増してきており
キャラを殺すのに躊躇のない作品だけに、いつ誰が退場するやら…
そんな不安やら楽しさを胸に、また次の巻を楽しみにしています。
この作品はバトルもアツイですが、人間関係にやきもきして悶々して切なくなるのが大好きなので、そういった要素が色濃い最近の展開はたまんのですよ!
ライガットが、ゼスを相手に、まさかここまで余裕の戦いを見せるなんて…!
この展開に衝撃を受けた読者は多いことでしょう。
ライガットさん、いつのまにかめっちゃ頼れる男になっちまったわ…。
けれどこの戦いの結果で、戦争はさらに混沌する。すれ違ったまま、戦争の心臓は脈動する。
あの頃には戻れない。
砕け散った思い出のカケラは心に突き刺さって、血の流れない痛みを戦士たちに与えるのだ。
『ブレイクブレイド』13巻 ・・・・・・・・・★★★★
着々とアツい展開を突っ走る!迫力あるロボットバトルとセンチメンタルMAXな人間模様がたまらない。
余談ですが、ブレイクブレイドは最近、WEB掲載より先にコミックスで最新話が読める試みをしており、こういうスケジュール調整はネット漫画ならではのフットワークなのかなーと思ったりします。
[漫画]“そんな未来”がここにある。『Spotted Flower』1巻
Spotted Flower 1 (2014/04/25) 木尾 士目 商品詳細を見る |
今が俺の人生の頂点だと思う
もしかしたらあったかもしれない未来。そんな夢が叶ってしまった。
どんな夢かと言えば、とある1人のオタク野郎が、そんな趣味はまるでない別世界な1人の女性を好きになり、そして結ばれた。
「好きになり」までが別の世界線との共通事項で、「そして結ばれた」のがこの作品の肝であり、最大最強の爆弾でもある。
かなり出遅れましたが、「Spotted Flower」第1巻の感想。とあるご夫婦の日常コメディです。
奥さんは妊婦ですが、性欲の薄い旦那さんをなんとか誘う日々……そんな赤裸々な新婚ライフ。
もちろんそういうものとして楽しめるのはもちろんですが、この作品には裏がある。
それは、このご夫婦が他の作品に登場しているあの2人なのではないか…という『別作品との関連性』なのですが、掲載誌「楽園」で連載がはじまった当時に記事をかきましたので、そちらも読んでいただければと。
→木尾士目先生新連載、どう見ても“あの2人”です・・・他『楽園 Le Paradis 』Vol.4
この2人、いったい誰と誰なんでしょうね?
うーん………
・・・
どう見ても「げんしけん」の斑目と咲だよ!!!!!!!!
(げんしけん14巻,29P)
楽園はここにある。
“そんな未来”がここにある。
オタクな旦那と一般人な奥さん。
微妙にズレてるような……でも愛し合っている2人のやりとりは心やすらぐし、ちょっと間が抜けていて楽しいのです。
お腹いっぱいにノロケ話を頂けるのは至福なんだ…!
旦那をその気にさせようと勝負下着で誘惑するもイマイチ反応うすく、じゃあどんな下着がいいのよ→縞パンとかどうしようもねえなこの旦那感すごくてめっちゃ笑えたぞ。
どうしようもねえなこの旦那感が激しくナイスなワンシーン。
子供が男の子かもしれないという下りではこの発言である。うわーーやっぱこうなんだー……
連載は毎回短いページではあるのですが、その中に小ネタも積み込まれていて、その上ちゃんと妊婦あるあるネタ的なのを繰り出してくる。
妊婦あるあるとオタクあるあるな話題が融合して混沌としていますが、それがいい。
コメディですが時たまドキッとする。オタクとしての自己嫌悪からか、男の子を健全に育てる自信がないという旦那さん。でも夫婦で話し合って、不安に立ち向かっていく。一歩一歩、親になっていく姿。
ゲスト的サブキャラの存在もいい味出しています。
誕生してくる孫の名前のこっそり、というかガッツリとアニメヒロインの名前を押してくるおばあちゃん。お約束もしっかりと踏まえ、かなりのアニオタっぷりを見せつけてきましたが、なにものだよお婆ちゃん!すごすぎるw
そして大学時代の友人、コスプレ趣味のある巨乳奥さん(2児の母)。いったい何者なんだ……結婚して苗字かわっただろうけど少し心当たりがあるので仮名として「大野さん」と呼んでもいいかもしれないな…
この巨乳さんのセリフ、いちいち鋭くてドキドキしますよ。
「女が本気で誘惑して落ちない男なんていないですよね…?」とか。旦那さんの目の前でオ○ニーしろとか。この話題をするときの巨乳さんの経験値の高さを伺わせる発言にゾクゾクするなぁ。
セクハラして遊んでいるような余裕と、ちゃんと実践的なアドバイスしちゃう優しさを感じます。
女性ふたりでじゃれているような空気で、突っ込んだ話題までできちゃう親しさも見えてきますよね。
そして同意できる。「お前ら、かわいすぎるだろうがー!」って。
いまがきっと最高に幸せで、その最高がずっと続いてくれればいい。
なんて平和で微笑ましい新婚ライフ!
そんな「Spotted Flower」の感想でした。
単行本になるまでかなーりかかりました。2巻はいつになるやら。3年以上あとかなぁ。それでも、この面白さならずっと待っていたい。
上でも張った過去記事でも言及しましたが、このタイトルは訳すと斑目と咲のことを指しているように解釈できます。
spot→しみ、よごれ、まだら flower→花
と、spottedは斑目、flowerは咲につながってくる。
げんしけんが自分は大好きなので、げんしけんとの関連が見えてくるような小ネタを見つけると、その度にニヤリとしてしまったり「ちくしょう」と作者を恨んだりしているわけですが、そういうのを全部ひっくるめてとても楽しいのです。
感想を書くにあたって、本来だったらこの作品そのものに絞って書いた方がよかったのですが
どうしても同作者の別作品との関連とかも書いてしまいました。
それは自分自身、木尾士目先生の意地悪な遊び心を楽しめたんですよね。とても。とても。
あとがきを読んだら作者自身もかなりノリノリでこんなヒドいことをやってるとわかったので、納得というか嬉しい思いです。
あとがきページでは今より昔、茶髪だったころの奥さんと黒髪だった旦那さんが描かれており……もう…。
ifとは言えげんしけん世界の未来を描いているので、キャラクターがどういう大人になっていくのか、というひとつの可能性としても見ることができる。こういう部分も見逃せないのです。
ただ完全に「げんしけん」キャラクターとして見ることも出来ない(する必要も無いけれど)
例えば旦那さんなんかは、斑目の数年後として見るにはかなり美化されてるというか、格好いいじゃないですか。でも似てはいる絶妙さ。あくまでも「もしかしたら、ね」くらいに、げんしけんと重ねるならほんのりと読むべき。
けれど実際、イジワルな作品なんですよ。内容ではなく根本が。
だってげんしけんの方でズバッと「そんな未来」を切り捨てて、でもいまこの漫画が存在しているんだから。残酷にも思えますよ。
でも読めて嬉しいのは本当で、漫画として楽しいのも間違いなくて、なによりキャラクターが愛されているのを感じる。ひねくれていて、意地が悪くて、遊び心の効いた漫画なんですよ。この作品にはそういう特別な熱があります。
読者もきっと作者も、ニヤニヤしながらこれを楽しんでるに違いない。
オビの裏面に書かれた「ま、愛があればたぶん大丈夫」というのはあれですかね
出版社の垣根を超えてしまっても、的なそういうアレか……愛は正義!!
『Spotted Flower』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
眩しいifルート。妊娠中でも積極的な奥さんと、どうしようもない腐れオタクな旦那さんの微笑ましすぎる日々を見よ。
[漫画]2014年6月単行本の購入予定
すでにアツすぎるし夏本番になったらどうなってしまうのか。
06/03 マッグガーデン 死神ナースののさんの厄災 1 麦盛 なぎ
06/04 KADOKAWA 僕だけがいない街 4 三部 け
06/05 白泉社 今日の恋のダイヤ 草川 為
06/06 講談社 鉄風 6 太田 モアレ
06/09 講談社 橙は、半透明に二度寝する 1 阿部 洋一
06/09 講談社 惡の華 11 押見 修造
06/09 双葉社 ぼくは麻理のなか 3 押見 修造
06/10 双葉社 中学性日記 2 シモダ アサミ
06/12 フレックスコミックス発行/ほるぷ出版発売 恋愛暴君 5 三星 めがね
06/17 講談社 聲の形 4 大今 良時
06/18 一迅社 百合男子 5 倉田 嘘
06/18 小学館 ノゾ×キミ 3 本名 ワコウ
06/19 集英社 恋は光 1 秋★枝
06/19 集英社 ねじまきカギュー 15 中山 敦支
06/21 一迅社 やはり4コマでも俺の青春ラブコメはまちがっている。 1 種田 優太/渡 航(小学館「ガガガ文庫」刊)/ぽんかん(8)
06/23 講談社 げんしけん 二代目の七 16 木尾 士目
06/23 講談社 思春期シンドローム 2 赤星 トモ
06/27 一迅社 現代魔女図鑑 1 伊咲 ウタ
06/27 KADOKAWA この美術部には問題がある! 3 いみぎ むる
06/27 KADOKAWA やさしいセカイのつくりかた 5 竹葉 久美子
06/27 白泉社 SE 2 此ノ木 よしる
06/27 白泉社 変女 ~変な女子高生 甘栗千子~ 1 此ノ木 よしる
06/30 少年画報社 蒼き鋼のアルペジオ 9 Ark Performance
06/30 少年画報社 蒼き鋼のアルペジオ OFFICIAL BOOK~戦闘詳報2059~ Ark Performance/ビーライズ
06/30 新書館 青年発火点 雨隠 ギド
06/30 白泉社 楽園 Le Paradis 15 アンソロジー
「僕だけがいない街」4巻、まさしく待望。引き込まれるSFサスペンス漫画。
先月のブラックラグーンに引き続きお前生きていたのか案件、「鉄風」6巻!
「惡の華」最終第11巻。強い夕焼けを待って読みたい。
「中学生日記」2巻、短編形式・思春期・ラブコメと俺の好きな要素が揃った作品。
「げんしけん」16巻、二代目になって7冊目と、初代の巻数が見えてきた。
「やさしいセカイのつくりかた」5巻、才能とか恋愛とか大人とか、いい青春漫画。
「蒼き鋼のアルペジオ」、メディア展開も成功している中でいよいよ新刊。アシガラちゃん!!!
年に3度のお楽しみアンソロジー「楽園」を美味しくいただきターンエンド。
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06/30 少年画報社 蒼き鋼のアルペジオ 9 Ark Performance
06/30 少年画報社 蒼き鋼のアルペジオ OFFICIAL BOOK~戦闘詳報2059~ Ark Performance/ビーライズ
06/30 新書館 青年発火点 雨隠 ギド
06/30 白泉社 楽園 Le Paradis 15 アンソロジー
「僕だけがいない街」4巻、まさしく待望。引き込まれるSFサスペンス漫画。
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