[漫画]She was beautiful.『惡の華』10巻
記事タイトルはまた、syrup16gの楽曲より。
おかえり 佐和
『惡の華』10巻の感想。もう11巻が出ましたが、10巻です。
表紙がかもすオーラが凄まじい。美しく少し不気味で、なんにせよたまりません。焼ける空を背に、こちらを見つめる黒髪の少女。
睨んでいるにも見えるし、すこし、涙ぐんでいるようにも、見えなくない。
笑っているようも、表情はないようにも見える。影が覆い隠す。
9巻は比較的幸福度の高い、ポジティブな内容でした。10巻は一転して胃がいたくなるような、過去と向き合うためのストーリーが展開します。
祖父が危篤との知らせが届き、春日一家は3年ぶりに帰ってきた。
呪縛が息づく故郷へ。
前巻→Reborn.『惡の華』9巻
●罪を背負え
帰郷した春日を待っていたのは、まず親族らの冷たい視線。
そして直接投げかけられる、春日の罪を咎める声。
それはなんら理不尽なものではなく当然のことで、春日がしでかした事の大きさはそれだけの影響力があったのだ。親戚だというだけで、彼らは多くの悔しさを味わったことだったろう。それこそが理不尽であり、春日にはその罪がある。責任がある。
この帰郷で改めてわかったことは、春日に対する現実の冷たさ(当たり前ではあるがこれまで実感がわかなかった)。
そして春日には、それを背負うだけの覚悟がすでに備わっていたということ。
自己嫌悪や自責の念で押しつぶされたりしない。受け止めて、現実で生きていこうという姿勢だ。
個人的にはこの帰郷したエピソードの中で、地味にかつ強力に心が傷んだのは、春日の両親の疲れた表情……。
事件をおこした本人だけではなく、曝され、貶されたのは、両親だって同じだろう。
この両親が背負った後悔や痛みなんてのは、春日が味わっているものとは別種のものだ。どちらが優っているかではなく、まるで別。子供と保護者では、その立ち位置は違う。
「惡の華」はこうした、春日の両親のドラマにも目を向けてくれているのがいいよなぁ。
罪をおかした人間を取り囲む環境の情報量が多く、それで更に胃が痛くなるんだよなぁ(白目)
でも、春日をひとりで木下に会いにいかせたこの両親は、春日をもう信じることができていた。そういった、家族の絆の再生なんかも垣間見ることが出来た。
傷つくだけではない優しさも伴ったエピソードだと思う。
●木下亜衣の苦悩
惡の華という物語において木下という少女は、サブキャラの1人だった。
それでも中学生編の登場人物としては存在感が大きいほうだったし、春日や佐伯や仲村といったメイン級には劣るものの、貴重なポジションにした少女だと思う。
あと、いたって普通の娘っぽくて、ちょっと可愛かったよね。
ところがこの10巻で木下さんの存在価値は、個人的には爆上がりである。
そう、彼女のまた思春期の犠牲者であり、今なお苦悩を続ける放浪者であり、現実とそして自分自身に深く傷つけられていたのだ…!
彼女は今もなお、取り残されている。このしがらみだらけの田舎の町で、囚われている。
今いる場所が彼女を絶望させ続けているのに、逃げることができない。みんな、逃げるようにこの町から消えてしまったのに。
春日とは違った方面で、彼女もまたこんなふうにボロボロになっていたのか……
このエピソードを読むまで、「あの事件のあと、木下ってどうなったんだろう?」と考えることすらしていなかった自分が恥ずかしい。全部壊れてしまったのは彼女だって同じだったのに。
佐伯さんがいまどうなっているのか、なにも知らない木下に、春日は佐伯さんと再会したこと、「ふつうに幸せ」と言っていたことを伝えた。すると木下さんは号泣してしまう。
この「ふつうに幸せ」という言葉は、トゲがあるようで、やはり素敵なことなのだろうと思う。特別なことは何もない平凡な人生へと、彼女は帰っていった。
憎んでさえいた春日に、涙を見せるという最大級の失態をおかし、さらに手を重ねて慰められた。木下にとって悔しいことだったのかもしれないが、彼女は不思議と素直な表情をしていたように思う。
春日とのこの会話で、彼女はようやく、あの夏を終えることが出来たのかもしれない。
勝手に引きずり込まれて勝手にとりのこされた少女は、二度と会うことはないであろう少年に別れを告げる。
こんな鮮やかな離別。素晴らしいな。胸がギュッとなって、切なくなって、嬉しくなってしまうだろ。
●常磐さんの小説と彼女の覚悟
常盤さんが小説を完成させたのは、春日を励ますためだったのかもしれない。
彼女が小説を書き上げた春日が帰郷をしていた間のことで、このタイミングにしたのは図ってか図らずしてか、ともかく結果的に、彼女は春日に小説を、特別な意味合いで渡した。
家に上がった時、「両親はいない」と告げる。ふたりきりの部屋で、同じベッドに腰掛ける。
セックスへの雪崩れを思わせる前置きで行われたのが、「完成した小説を渡す」という儀式だったのが面白い。ふたりにとってその行為はそれだけの重みがあったのかもしれない。
もちろん常磐さんとしては、本当に関係が進むことを意識していたという匂いも感じられる。
思わず下世話な話をしたくなるけど今回は真面目な更新だから控えるよ(でも画像は貼りたかった)
こんな表情で、自分の分身たる創作物を差し出す少女。アツいぜ。これはな。アツいのさ。
春日のために、最初の読者のために、書いた小説。
けれど完成した小説を、春日は読まなかった。
そして君に言わなくりゃいけない事があると……中学時代の出来事をすべて伝えた。
で、このセリフである。
僕はまだ 仲村さんから離れられないでいる
好きとか嫌いとかじゃない 抱きしめたいのか殺されたいのかわからない
もう一度会いたい
仲村さんに会いたい きみと…生きるために
あーあ言っちゃったよ!
わかってはいたけれどこのタイミングは最悪である。エンジェル常磐もそりゃご立腹よ。
けれどここで素知らぬ顔で彼女の渾身の物語を読む男じゃなくてよかった。潔癖な春日でよかった。そうしてしまうこと彼自身が一番忌避したから、彼はここですべてを打ち明けたのだろう。
彼女にだけはせめて、まっすぐ向き合いたいと願っているのだ。
怒って完成原稿をビリビリに破り捨ててしまった常磐さん。春日のその言葉で破り捨ててしまうということは、どれだけの想いで春日のためにこの作品を書き上げたのか、ってことだ。
そして、この一連に流れにおける常磐さんの表情は、一瞬たりとも見逃せない!
緊張、混乱、覚悟。そのほかにもいろいろ混ざっても、やはり彼女は優しく、格好いい。芯のある人間だ。
それでも受け止めきれるかどうかの分岐点で、キスを誘い、そして春日からキスをすると、彼女は決意を固めた。
春日の思春期のエンディングに、自らも巻き添えになってやろうと。道連れになって、見届けてやろうと。そういう覚悟だ。
●仲村さんと水
春日と常磐が、仲村さんの現在の住所を訪ねようとするシーンです。
その移動中を描いたこの見開きでは、『水滴』が印象的に存在しています。
そして10巻のラスト、仲村さんと再会した瞬間にも、真っ暗な闇に水滴がひとつ、ポツリと落ちるシーンがあります。
つまり水とは、きっと仲村さんとなんらかの関係があるアイテムなのでしょう。
仲村さんと「水」を結びつける、なにか決定的なシーンはなかっただろうか。
そう思って単行本を読み返してみたら、あった。個人的にはこれがアンサー。
(6巻150,151P)
涙。
きっと春日にとって、仲村さんはずっと「泣いている女の子」だったのだ。
だから、助けてあげたかった。
仲村さんを救いたいと春日は言っていました。助けたい少女の象徴が涙だとすれば、個人的には腑に落ちます。
今でも春日が仲村さんに会いたがったのは、恋愛感情ではなく、ただ、やり残してしまった後悔を感じていたのだと思う。
仲村さんをまた1人にしてしまった。何も出来なかった。救えなかったのだと、自責の念に押しつぶされていた。
つまり仲村さんに会いに行く道程で水滴がイメージとして描かれていたのは
涙こそが春日にとって仲村さんの象徴であるということと、
この道中に仲村さんとの日々を思い返していることと、
仲村さんにたしかに近づいていっているという距離的な描写だった、と思うわけです。
仲村さんの現在の住所であり、春日と再会した場所は「食堂 水越」。ここにも「水」が現れていることも、ひとつのポイントとしてメモしておきます。
少年は美しかった少女を思い出していた。その涙を思い出していた。
いまの彼女は、どうだろうか。あの時の言葉を今日も噛み砕いて、今日こそ、会いに行く。
さて、さきほどの画像、6巻にて仲村が涙を流しているシーン。
巻き戻って読んでみると、この直前に春日が「キミを救いたい」と言っていたのです。その言葉に激怒し「ふざけるな」と吐き捨てバットで襲いかかった仲村。けれどその目には涙が―――という流れだった。
今にして思えば、 …この言葉は仲村さんを傷つけてしまうかもしれないけれど
仲村さんは、救われたがっていた。
春日に救われることを望んでいた、と改めて思う。
その感情はきっと恋ではない。
恋であったとして、きっとすぐに消えてしまう雷のような刹那の光で、きっと永遠には残らない。
けれどその美しい一瞬が、思春期にはいくつかあって、死ぬまで人間は抱えて生きていく。
かつて2人は一緒にいた。
今にもその身を食い破りそうな怒りや寂しさや恐怖を、共有し、抱きしめあい、かつて一緒に破滅しようとした。
蒸し暑いあの夏の日々に、腐敗した世界の中でたしかに色づいた、小さな愛があったのかもしれない。
今は違う。2人はもう、その世界にはいない。
一生まじわることのない人間として、違う人生を歩んでいく。
しかし春日は再会することを選んだ。
過去に決着をつけるために。初恋を終わらせるために。これからの人生のために。大切な人と生きていくために。
11巻の感想に続くとします。
『惡の華』10巻 ・・・・・・・・・★★★★★
あらゆる面で最高の緊迫感と面白さ。灰色なこの世界で、その罪を償え。
最終巻。発売中です。また近いうちに感想を書こうと思います。
惡の華(10) (少年マガジンコミックス) (2014/01/09) 押見 修造 商品詳細を見る |
おかえり 佐和
『惡の華』10巻の感想。もう11巻が出ましたが、10巻です。
表紙がかもすオーラが凄まじい。美しく少し不気味で、なんにせよたまりません。焼ける空を背に、こちらを見つめる黒髪の少女。
睨んでいるにも見えるし、すこし、涙ぐんでいるようにも、見えなくない。
笑っているようも、表情はないようにも見える。影が覆い隠す。
9巻は比較的幸福度の高い、ポジティブな内容でした。10巻は一転して胃がいたくなるような、過去と向き合うためのストーリーが展開します。
祖父が危篤との知らせが届き、春日一家は3年ぶりに帰ってきた。
呪縛が息づく故郷へ。
前巻→Reborn.『惡の華』9巻
●罪を背負え
帰郷した春日を待っていたのは、まず親族らの冷たい視線。
そして直接投げかけられる、春日の罪を咎める声。
それはなんら理不尽なものではなく当然のことで、春日がしでかした事の大きさはそれだけの影響力があったのだ。親戚だというだけで、彼らは多くの悔しさを味わったことだったろう。それこそが理不尽であり、春日にはその罪がある。責任がある。
この帰郷で改めてわかったことは、春日に対する現実の冷たさ(当たり前ではあるがこれまで実感がわかなかった)。
そして春日には、それを背負うだけの覚悟がすでに備わっていたということ。
自己嫌悪や自責の念で押しつぶされたりしない。受け止めて、現実で生きていこうという姿勢だ。
個人的にはこの帰郷したエピソードの中で、地味にかつ強力に心が傷んだのは、春日の両親の疲れた表情……。
事件をおこした本人だけではなく、曝され、貶されたのは、両親だって同じだろう。
この両親が背負った後悔や痛みなんてのは、春日が味わっているものとは別種のものだ。どちらが優っているかではなく、まるで別。子供と保護者では、その立ち位置は違う。
「惡の華」はこうした、春日の両親のドラマにも目を向けてくれているのがいいよなぁ。
罪をおかした人間を取り囲む環境の情報量が多く、それで更に胃が痛くなるんだよなぁ(白目)
でも、春日をひとりで木下に会いにいかせたこの両親は、春日をもう信じることができていた。そういった、家族の絆の再生なんかも垣間見ることが出来た。
傷つくだけではない優しさも伴ったエピソードだと思う。
●木下亜衣の苦悩
惡の華という物語において木下という少女は、サブキャラの1人だった。
それでも中学生編の登場人物としては存在感が大きいほうだったし、春日や佐伯や仲村といったメイン級には劣るものの、貴重なポジションにした少女だと思う。
あと、いたって普通の娘っぽくて、ちょっと可愛かったよね。
ところがこの10巻で木下さんの存在価値は、個人的には爆上がりである。
そう、彼女のまた思春期の犠牲者であり、今なお苦悩を続ける放浪者であり、現実とそして自分自身に深く傷つけられていたのだ…!
彼女は今もなお、取り残されている。このしがらみだらけの田舎の町で、囚われている。
今いる場所が彼女を絶望させ続けているのに、逃げることができない。みんな、逃げるようにこの町から消えてしまったのに。
春日とは違った方面で、彼女もまたこんなふうにボロボロになっていたのか……
このエピソードを読むまで、「あの事件のあと、木下ってどうなったんだろう?」と考えることすらしていなかった自分が恥ずかしい。全部壊れてしまったのは彼女だって同じだったのに。
佐伯さんがいまどうなっているのか、なにも知らない木下に、春日は佐伯さんと再会したこと、「ふつうに幸せ」と言っていたことを伝えた。すると木下さんは号泣してしまう。
この「ふつうに幸せ」という言葉は、トゲがあるようで、やはり素敵なことなのだろうと思う。特別なことは何もない平凡な人生へと、彼女は帰っていった。
憎んでさえいた春日に、涙を見せるという最大級の失態をおかし、さらに手を重ねて慰められた。木下にとって悔しいことだったのかもしれないが、彼女は不思議と素直な表情をしていたように思う。
春日とのこの会話で、彼女はようやく、あの夏を終えることが出来たのかもしれない。
勝手に引きずり込まれて勝手にとりのこされた少女は、二度と会うことはないであろう少年に別れを告げる。
こんな鮮やかな離別。素晴らしいな。胸がギュッとなって、切なくなって、嬉しくなってしまうだろ。
●常磐さんの小説と彼女の覚悟
常盤さんが小説を完成させたのは、春日を励ますためだったのかもしれない。
彼女が小説を書き上げた春日が帰郷をしていた間のことで、このタイミングにしたのは図ってか図らずしてか、ともかく結果的に、彼女は春日に小説を、特別な意味合いで渡した。
家に上がった時、「両親はいない」と告げる。ふたりきりの部屋で、同じベッドに腰掛ける。
セックスへの雪崩れを思わせる前置きで行われたのが、「完成した小説を渡す」という儀式だったのが面白い。ふたりにとってその行為はそれだけの重みがあったのかもしれない。
もちろん常磐さんとしては、本当に関係が進むことを意識していたという匂いも感じられる。
思わず下世話な話をしたくなるけど今回は真面目な更新だから控えるよ(でも画像は貼りたかった)
こんな表情で、自分の分身たる創作物を差し出す少女。アツいぜ。これはな。アツいのさ。
春日のために、最初の読者のために、書いた小説。
けれど完成した小説を、春日は読まなかった。
そして君に言わなくりゃいけない事があると……中学時代の出来事をすべて伝えた。
で、このセリフである。
僕はまだ 仲村さんから離れられないでいる
好きとか嫌いとかじゃない 抱きしめたいのか殺されたいのかわからない
もう一度会いたい
仲村さんに会いたい きみと…生きるために
あーあ言っちゃったよ!
わかってはいたけれどこのタイミングは最悪である。エンジェル常磐もそりゃご立腹よ。
けれどここで素知らぬ顔で彼女の渾身の物語を読む男じゃなくてよかった。潔癖な春日でよかった。そうしてしまうこと彼自身が一番忌避したから、彼はここですべてを打ち明けたのだろう。
彼女にだけはせめて、まっすぐ向き合いたいと願っているのだ。
怒って完成原稿をビリビリに破り捨ててしまった常磐さん。春日のその言葉で破り捨ててしまうということは、どれだけの想いで春日のためにこの作品を書き上げたのか、ってことだ。
そして、この一連に流れにおける常磐さんの表情は、一瞬たりとも見逃せない!
緊張、混乱、覚悟。そのほかにもいろいろ混ざっても、やはり彼女は優しく、格好いい。芯のある人間だ。
それでも受け止めきれるかどうかの分岐点で、キスを誘い、そして春日からキスをすると、彼女は決意を固めた。
春日の思春期のエンディングに、自らも巻き添えになってやろうと。道連れになって、見届けてやろうと。そういう覚悟だ。
●仲村さんと水
春日と常磐が、仲村さんの現在の住所を訪ねようとするシーンです。
その移動中を描いたこの見開きでは、『水滴』が印象的に存在しています。
そして10巻のラスト、仲村さんと再会した瞬間にも、真っ暗な闇に水滴がひとつ、ポツリと落ちるシーンがあります。
つまり水とは、きっと仲村さんとなんらかの関係があるアイテムなのでしょう。
仲村さんと「水」を結びつける、なにか決定的なシーンはなかっただろうか。
そう思って単行本を読み返してみたら、あった。個人的にはこれがアンサー。
(6巻150,151P)
涙。
きっと春日にとって、仲村さんはずっと「泣いている女の子」だったのだ。
だから、助けてあげたかった。
仲村さんを救いたいと春日は言っていました。助けたい少女の象徴が涙だとすれば、個人的には腑に落ちます。
今でも春日が仲村さんに会いたがったのは、恋愛感情ではなく、ただ、やり残してしまった後悔を感じていたのだと思う。
仲村さんをまた1人にしてしまった。何も出来なかった。救えなかったのだと、自責の念に押しつぶされていた。
つまり仲村さんに会いに行く道程で水滴がイメージとして描かれていたのは
涙こそが春日にとって仲村さんの象徴であるということと、
この道中に仲村さんとの日々を思い返していることと、
仲村さんにたしかに近づいていっているという距離的な描写だった、と思うわけです。
仲村さんの現在の住所であり、春日と再会した場所は「食堂 水越」。ここにも「水」が現れていることも、ひとつのポイントとしてメモしておきます。
少年は美しかった少女を思い出していた。その涙を思い出していた。
いまの彼女は、どうだろうか。あの時の言葉を今日も噛み砕いて、今日こそ、会いに行く。
さて、さきほどの画像、6巻にて仲村が涙を流しているシーン。
巻き戻って読んでみると、この直前に春日が「キミを救いたい」と言っていたのです。その言葉に激怒し「ふざけるな」と吐き捨てバットで襲いかかった仲村。けれどその目には涙が―――という流れだった。
今にして思えば、 …この言葉は仲村さんを傷つけてしまうかもしれないけれど
仲村さんは、救われたがっていた。
春日に救われることを望んでいた、と改めて思う。
その感情はきっと恋ではない。
恋であったとして、きっとすぐに消えてしまう雷のような刹那の光で、きっと永遠には残らない。
けれどその美しい一瞬が、思春期にはいくつかあって、死ぬまで人間は抱えて生きていく。
かつて2人は一緒にいた。
今にもその身を食い破りそうな怒りや寂しさや恐怖を、共有し、抱きしめあい、かつて一緒に破滅しようとした。
蒸し暑いあの夏の日々に、腐敗した世界の中でたしかに色づいた、小さな愛があったのかもしれない。
今は違う。2人はもう、その世界にはいない。
一生まじわることのない人間として、違う人生を歩んでいく。
しかし春日は再会することを選んだ。
過去に決着をつけるために。初恋を終わらせるために。これからの人生のために。大切な人と生きていくために。
11巻の感想に続くとします。
『惡の華』10巻 ・・・・・・・・・★★★★★
あらゆる面で最高の緊迫感と面白さ。灰色なこの世界で、その罪を償え。
惡の華(11)<完> (少年マガジンコミックス) (2014/06/09) 押見 修造 商品詳細を見る |
最終巻。発売中です。また近いうちに感想を書こうと思います。
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