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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

たったそれだけのための万能薬 『売野機子のハート・ビート』

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売野 機子

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   じゅりがアパートから出て行ってしまった
   おれたちの にせもののアパートから


今でもひとりでアジカンの「ソルファ」や事変の「教育」を聞いているときは立ちあがってエアギターをしているので、根本的に10年前からなんら進歩がない。
漫画を読むのと同じくらい音楽を聞くのも好きで、大好きなものが2つも一緒に摂取できると小躍りしてしまう。音楽漫画が好きです。演者側でも、リスナー側でもいい。音楽が流れている漫画が好き。

そんなわけで「売野機子のハート・ビート」もドンぴしゃ。
もともと大好きな作家さんだったんですけど、今回のテーマはもうズバリ音楽。
まずこの作品集のこのタイトルをつけるのがニクいですよね。
「売野機子のハート・ビート」・・・短編集に作家名が冠せられてるのも、まるでラジオ番組名のように感じられるのもかっこいい。
ラジオ番組のようだというのはまさしく、本作はナビゲーターである著者が、いかに読者を心地よく楽しませラストシーンに運ぶかをきっちりと計算し1冊に仕上げられている感触もある。その点で言えばラジオ番組とも言えるが、ミュージシャンのミニ・アルバムに近いかもしれない。

ハート・ビート

各話の行間にはプレイ画面まで表示されて、デザインも細部に拘りが光る。
絵柄がレトロな少女漫画を思わせる作風なのに、細部には現代的なエッセンスが盛り込まれていて、そのギャップも甘酸っぱい。

全4曲。いろんな角度から、「音楽と生きる人」「人に寄り添う音楽」を描く。
すげぇ面白いってわけではないんだけどすげぇ好き。そんな本。



『イントロダクション』
有名バンドマンがとある夜明けに、一般人の女性に一目惚れする。
無骨だがロマンチストな性格の主人公。彼がこれまで歌ってきた歌詞になぞるようにシンクロしていくストーリーがとても美しいです。
この作品に登場するヒロインとか、後述する「青間飛行」のLULUとか、まさしく売野機子作品のヒロインの王道をいっている。言葉数が少なく、覚めたような顔をして、冷たい言葉を放ちながら、強く強くぬくもりを求めている。不器用な女性だ。
本作には「ああ、この瞬間って素敵だ」「こういうとき、相手を好きだと思う」というような、瞬間瞬間のロマンチシズムというか、
甘酸っぱい感触だけを遺していく断片がいくつも重ねられている。
ストーリーもしっかりしているけれど、本当に詩集のようだ。
夜明け前、過ぎるヘッドライトが君の髪を1本1本を照らしていく。

ヒロインの詳細はネタバレになってしまうんだけれど、彼女からすれば望み続けた音楽を手に入れた形にもなって、それに自分の血を混ぜていくんだろう。
彼女の執念が現実に勝ったとも言えるけれど、主人公からしても彼の空想が現実に塗り替えられていく感覚があるはずだ。男女ちがった立ち位置からひとつの曲に接していて、そして人生が交わった瞬間に、より強く光る。
パッと眩く照らし出される瞬間に宿る、男女の甘い夜の物語。

・・・冷静になればなるほど、ヒロインが恐ろしくなるけどな!!




『ゆみのたましい』
貫かれるような力強い言葉がとにかく印象的な一片。
おねショタものだが、一筋縄ではいかない、初恋のストーリー。
高名な音楽家の母をもつ主人公のぼく。音大受験のために母に教わるべく、ぼくより6つ上の女子高生ゆみが家にやってきて、ふたりの交流が始まる。
音楽がもつ残酷な一面が描かれていて、たとえば本作では音楽にまつわる才能の話だ。ただ寄り添うだけの優しいものではなく、時として人は音楽に”選ばれる”。そして選ばれなかった人だっているのだ。

ヒロインのゆみは、恵まれていて、きっと幸福だった。
そこを主人公のぼくは幼さゆえに勘違いをして、勝手に寂しくなって、自分の知らない世界の巨大さを知る。
少年が、大人の世界に触れてハッとする瞬間に、切り刻まれたようなショックって尊いよなあ、大事だよなぁ。
けれどそんな時に、ゆみが放つとっておきのセリフが心に染み込む。
モヤモヤした気持ちがすっと透明になるような感覚がお見事でした。




『夫のイヤホン』
このコミックスでは一番好きな作品かも。
これは音楽と仕事をする人間ではなく、ただの一般市民にまつわるエピソード。
専業主夫をしている男性が、昔のヒット曲をテレビ番組で聞いてから、なーんかひっかかる感覚に囚われしまう。ずっとイヤホンで昔の曲ばかりきいてしまう。
違和感の正体を探っているだけなのに、いつもと違うようすの旦那さんに奥さんも慌てふためいて可愛いったらありゃしない。

思春期の生きづらい日々の中。
親の言葉も遠い。友人の言葉も見当ハズレ。自分の言葉も見つからない。
答えを知りたいのにだれも答えてくれない孤独の毒に犯されていく。
きっとそんな時に救ってくれたり、答えをくれたり、そもそも悩みを忘れさせてくれる・・・そんな役割と、10代の時に聞く音楽というのは担ってくれている。いや音楽に限定せずに、なにか夢中になれることとか憧れとか、とにかく自分だけが浸れる別世界というのは、本当にあの時、頼りになるのだ。
本作における音楽というのも、そういった面をフィーチャーしている。
音楽と思い出は、俺たちの中で血管につながれている。

人生は地続きで、昔聞いていた曲を再び聞いて、当時を思い出し立ちすくむ時だってある。けれど今きいている音楽を、10年後、どんな時に再び聞いているだろうか。
夫婦の空気感も大好き。穏やかな顔して、自分にとってのやわい部分を鋭利に突いてくる。それでいてポジティブで、音楽への情熱も過剰ではなく、馴染みやすい。
いい漫画だなぁ。俺はこういうぬるい漫画、大好きなんだよ。




『青間飛行』
大ヒット歌手のLULU。彼女はとある男からのインタビューしか受けなかった。
ところがその男(主人公の上司)がアメリカに渡って別の仕事を始めるってことで白羽の矢が立ったのが春紀。音楽ライターの主人公だ。
音楽ライターの仕事ってどんなのだろうっていう意味では、面白い世界を覗けてワクワクする短編となっている。
同時に、気難しい女性歌手のバックボーンから始まり、仕事を通じて音楽で繋がった男女の、遠く薄く秘密めいた、甘酸っぱいストーリーへの向かっていく。

LULU、大人の世界で怯えて縮こまる少女でしかない。圧倒的な才能のせいで、だれにも彼女は笑顔を晒せられなかった。
そんななか、主人公の上司だけは彼女に歩みよった。

上司は、どんな遣り取りがあの日にLULUとあったか、話そうとしない。
それは彼自身も、話したくない美しさをあの思い出に感じていたんじゃないかな。
恋心とかではなく、人と人の心がつながれた瞬間の、微かな振動を。
LULUが青空を仰いだシーン、映画のワンシーンみたいで泣きそうになった。




そんな感じで音楽をテーマにした短編集。
どれもこれも、いろんな角度から音楽と人の関係を描いていて堪らない。
人を選びそうな作風ではあるけれど、刺さる人にはきっとぶっ刺さる。
今後も、おぼつかない、美しい、不器用な物語を描いてほしい作家さんです。

音楽の持つ作用って時に恐ろしく、時に優しく、いろんな言葉で音楽について語る本作は
自分の中にまた新しい音楽観を作ってくれたようにも感じます。
最後に本作で印象的なモノローグを。

おれたちは
ゆらぐものと
ゆるぎないもとの
波間を遊ぶ



『売野機子のハート・ビート』・・・・・・・・・★★★★
好きな音楽を聞いているとき、普段より少しだけマシな自分になれる気がする。
それだけ。たったそんだけの万能薬。

きっと今は自由に、空も 『魔女くんと私』

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   これって 魔法のせいじゃないのかな

警戒心のつよい怯えた小動物を、デレッデレになるまで、なつかせたい

一発目から欲望ダダ漏れになりましたが「魔女くんと私」の感想です。
縞あさと先生の初コミックスにして初連載作。いきなりハイレベルなデビュー作。
これがですね・・・めっちゃ破壊力強くて、ちょっとヨロメキましたよね・・・
ファンタジー要素もある青春ラブストーリー。さくっと読めてオススメです。



主人公の女子高生・凪のクラスに、とある少年が転入してきました。
真白というその男の子は実は魔法のちからを秘めた、魔女の一族。
男でありながら「魔女」と呼ばれる彼にはしかし、重大な秘密があります。

男の魔女は単体では魔法が扱えない。
魔力の源は女にあり、男の魔女は、女に接触した状態でないと魔法を使えないのだ。
にも関わらず。男の魔女になったばかりに散々な扱いを受け続け、
真白くんは女子アレルギーとなってしまったのだ・・・!

というわけで真白くんがめっちゃかわいい。ハイ。
そもそも人見知りというか積極的に人と関わろうとしない消極的なヤツなのに、加えて女子が苦手なせいで勘違いされまくる。
じっさい女子を避けるようになった致命的な理由も明かされるんだけど、
「苦労してきたんだろうなあ」と一発で伝わる"目つき"をしている。
すさんでいて、人に怯えた、まるで捨て犬のような。

そんな彼に興味を持つ主人公、凪。
最初こそ衝突をするも、徐々にいっしょにいる時間も増えていく凪と真白。
この凪がいいキャラをしているんですよ、真白をいい意味でコントロールする存在で、真白くんの持つ対人距離のテリトリーにズケズケに入り込み、引きずり出す。
ちょっとSッ気もあるのもかわいい。
イタズラをしたくなっちゃったときの彼女のすこし妖しい表情にゾクゾクします。

そんなわけで、2人の空気感がバツグンに好きになってしまったのです。
凪ちゃんが真白くんをムリヤリ可愛がる感じとか、
最初は怯えていた真白くんが少しずつ心を開いてゆく感じとか、もう。



設定も上手にボーイ・ミーツ・ガールの高揚感を手助けしてくれる。
女子アレルギーの男の子が、女子に触れたときだけ、魔法を使える。
そんな葛藤が滲む設定に、彼らの感情の変化も合わさって
後半はニヤニヤがとまらねぇ事にやっていく訳ですよ。

魔女くん1

触れたくないけど、触れたい。

「異性に触れる」という思春期の、10代の、圧倒的な憧れを
それこそ本当に「魔法」に直結させる、このダイナミックな舞台がたまらん!
どんどんと真白くんも凪ちゃんも、表情に熱を帯びていくんですよ。
魔法というファンタジーな要素があっても、誰かを手つなぐことで心がときめいてしまうような、ありふれた、少年と少女の初恋の物語なんです。

魔法で起こせる事象は、真白くん自身の精神状況も多いに影響するという、
その前提を踏まえると、彼の放つ魔法の特性の変化や、それが使用された場面との噛み合わせすべてがメッセージを含んでいてタイヘンに良い(良い)(良い)。
これは真白くんの成長の物語でもあって、彼が凪という少女に受け入れてもらったことで、すこしずつ癒やされていく。ついでに懐いていってしまう。かわいいなあ、かわいいなコイツめ・・・!!
ときおり、彼が「男の子」としてムキになっちゃう時があって
思春期男子の図鑑の説明通りな行動をしてくれるので、
「意識しすぎィ!!」ともうこっちは爆笑モンなんだよな。

絵のタッチも、眩しさでかすむような、柔らかく切ない感触。
作品の魅力のおおきなポイントとして、作画の素晴らしさというのが間違いなくありますよ。見た瞬間に「好き」ってなるもんな。はかなげで甘酸っぱい。柑橘系の匂いがコミックスに刷り込まれんじゃねえのか。尊い・・・。
描き下ろしの初雪のエピソードとかその最たるもので、あまりにもエモすぎて一旦正座して読んだぞ。


気になった箇所は、本当に細かいところで本編ではないんですけど、
オビに「いじめたい系赤面男子!!」って書いてあるんですよ。
真白くんの魅力を閉じ込めたひじょうに分かりやすいテキストだと思うんですけれど、「いじめたい」という言葉はちょいと強すぎる気がして。本編で言ってないし。
というか途中で魔女への迫害・差別意識といったややシリアスな要素も顔を出す作品で、実際に真白くんもそういった目に合ってきたであろうキャラクタなのに
堂々と「いじめたい系赤面男子」と言い放つのは些か無神経でなかろうか。
まあそんな事を気にする俺もちっちゃいなと思いますが・・・

個人的には本当に大好きで、応援したい。これで終わってほしくないなぁ。
ぜひ続編を出してほしいですね。「男の魔女」という設定で学園で恋愛してくれるの、美味しすぎてもっともっと寄越せという気持ちでいっぱいです。
「魔女くんと私」シリーズではなくても、今後も追っていきたい作家さん。
いい新人さんが出てきてくれた。こういう、ピタッとくる作家さんが新しく出て来るとワクワクしてしまいます。次のコミックス待ってます。

『魔女くんと私』 ・・・・・・・・・★★★★
眩しいボーイミーツガール全1巻(今のところ)。男子がかわいい少女漫画はいい漫画だ。

2016年面白かった漫画BEST30! 後半戦 15位~1位 (+α)

あけましておめでとうございます。もう1月15日でした。
前回の続き、2016年の漫画BEST30。後半戦です。

前回→2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位

2017年に入って2週間も立ってしまったので、出遅れた感はまんまんですが。
相変わらず長々と書いている部分がありますので適当にお付き合いください。

では15位から。



HaHa (モーニング KC)HaHa (モーニング KC)
押切 蓮介

講談社 2016-01-22
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15.HaHa/押切蓮介

狙ってんなぁ畜生、という作品にきちんとハマってしまう単純な自分がやや恥ずかしくもあるけれど、実際これはめちゃくちゃ面白い。
ストーリーそのものも、そこから透けて見えてくる押切蓮介という作家のバックボーンや力の源のようなものも感じられてくる。月並みな言い方だけれど、とにかく励まされる、心温まる、ポジティブなオーラがガンガンでている。

本作は押切蓮介先生自身の母親の反省を描いた作品です。息子が母親の自叙伝を描いているのです。
しばしば押切作品に登場する、やたらと生命力ある母親キャラやちょっと根っこが図太い少女たちの空想は、ここから産まれて生きているんだろうなとおもう。
作者自身の人生観や女性観というものの源流を垣間見ることで、より作家性を再認識させられる。とか小難しいこといったってやってることはなんてことない親孝行なのだ。

たとえば歴史の偉人だったりすごい経営者だったり、そういうエラい人の半生を知っていたとしても意外と自分の身内が歩んできた人生って、知らなかったりしませんか。
歴史に名を残す偉人でもなければ、だれかが記録しないと、その人が歩んできた道のりを、その中で見てきた風景を、見つけて拾い上げてきたいくつかの大切なことを、だれも知らないまま過ぎ去っていくのだ。
だから本書は漫画家の息子だからこそ出来たとびきりの親孝行の形

さらに、ただそれだけだったらまた別物になったであろうに、加えて本書は母親やその周辺環境があまりにもぶっ飛んでいたせいで普通にエンタメしちゃってる、なんともすごいバランス感覚のもと成り立っている作品でもあるのです。
旅館の娘として生まれたものの、ヤンチャすぎる学生時代・・・話題に事欠かない毎日・・・はじめての就職に、一家を巻き揉む一大事・・・1巻にギュギュっと濃密に、ひとりの女性の半生が詰め込まれている。すごい濃度で、すごい生命力を感じる・・・!
第3話で次々入れ替わっていく飼い犬の話はリアルに吹き出しながら読み進めた。めっちゃくちゃだなこの一家。最高かよ。
しかもきちんと綺麗に一本のストーリーが出来上がっている。父親とのささやかなひとときは感動するし、母親の含蓄ある言葉たちはとにかく染みる。
母親が語り聞かせる構成をとっているため、なにかにつけて説得力があり、そのことがこの作品に宿る生命力につながっているのかな。言葉のひとつひとつも深みがあって素晴らしい。

ハイスコアガールの騒動でクソ袋とかした作者へと、終盤話が舞い戻ってきますが、そこで分かるんですよね。本書は作者自身が苦境から這い上がるために自分に向けて書いた、ひとつの人生指南書だったのではないかと。
無事復活して這い上がってきた今となっては受け止め方も違いますが、リアルタイムでこれを読んでいた人はまたちがった楽しみがあったんだろうなと思うと、後追いになってしまったことが悔しくもあります。
押切蓮介という作家のルーツを探るとともに、波乱万丈と一言といえる”誰かの半生”を身近に感じられる巧みな構成が光る一作。ある意味、初めて押切蓮介作品に触れるという人にもオススメしたいかも。1巻完結と読みやすいです。



僕たちがやりました(7) (ヤングマガジンコミックス)僕たちがやりました(7) (ヤングマガジンコミックス)
金城宗幸 荒木光

講談社 2016-12-06
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14.僕たちがやりました/金城宗幸・荒木光

ヤンマガでこういう強烈なダウナー系漫画が来ると、もう無条件で読んでしまって、今だとこの作品かなと思います。
めちゃくちゃおもしれぇ・・・
いま週刊連載で1番楽しみにしている作品です。とにかくめまぐるしいドライブ感と、感情を揺さぶってくるストーリーの意地悪さがハンパじゃない。
いかにもチャラいウェイな男子高校生たちの気だるくもバカバカしいい日常・・・かと思っていたら一気に崩れ去る。
普段の仕返しとイタズラで他校に仕掛けた爆弾が、偶然アホみたいな威力を発揮して、大事故に発展。けが人も死者も出て、テロの疑惑なんか出て・・・・・・
ネットでよく学生たちが炎上するじゃないですか。本作は「滅茶苦茶やらかしてしまったバカ学生」側の物語なんですよ。
国家権力・警察の捜査からの逃亡。そして報復にガチで殺しにきているヤクザまがいの不良からの逃亡。
ただ日々の退屈をどうにかしたかっただけなのに、いきなり人生をかけた逃亡劇が始まってしまった。
自分たちの常識ではあり得ないような、アタマいっちゃってる奴らに追い掛け回され、命さえ狙われる。加えて警察に捕まれば人生一瞬でパァだ。逃げなければ。逃げなければ。捕まりたくない。普通に楽しく生きていたかっただけなのに。
社会の闇に放り込まれた男子高校生たちの物語。

この作品、根っこが非常に暗い。スリリングかつダークな世界に病みつきになります。
罪悪感に押しつぶされそうな悲壮感。けれど人生を台無しにはしたくない。
人の命を奪ってしまったことへの重圧、追い詰められる緊迫感、容赦なくおそいくる暴力と、破滅へのカウントダウン・・・!!そして展開も非常にスピーディ!
張り詰めた緊張がストーリーを支配しており、そんななかでオチャラケたコメディシーンが挿入されても、空虚なだけなんだよなぁ。
だからこそ、ヒロインとの優しい時間が本当に心安らいで
それすらも奪い取られようという展開に、心の底からヒヤヒヤが止まらない。

明らかに、圧倒的に「間違えてしまった青春劇」なのに
高校生だからこその刹那的な感情とテキトーさとバカバカしさがこの作品をより息もつかせぬ勢いと、味わい深さを与えてくれています。「なんとかなるでしょ☆」と世の中を舐めていたら本当に取替しのつかない現実が、すぐ目の前までナイフ持って待ち受けてるんだ。
だって僕らは、人殺しなんだから。
罪の意識に蝕まれながら、それから目を背けるためにいつものようなバカ騒ぎを続ける主人公たちが、どんな顛末を迎えるのか。
いまも連載中です。テンションはトップギアのまま。今読みたい、今読まなければならない作品のひとつでしょう。毎週ドキドキしながらヤンマガ読んでます。



やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)
仲谷 鳰

KADOKAWA 2016-11-26
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13.やがて君になる/仲谷 鳰

ゆっくりと丁寧に、おぼろげな感情の正体をさぐっていく、神秘的で静謐な物語。
ガールズラブストーリーであるのと同時にその枠にとらわれない、「恋愛感情」の在り処とその価値を確かめるための日々。素晴らしい作品なのは間違いないんだけどそれがここまで売れるというのも少々驚きで、嬉しい限りですね・・・
あと個人的にこの作品が電撃大王から出てきたというのが少し嬉しい、なんというか、あそこのプライドを感じる。

すでに3巻まで発売されていますが既刊の感想はいぜん書いたのでそちらも。
わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻  
絶対、好きにならない、だから。『やがて君になる』2巻 

恋愛感情がわからない主人公・小糸侑。
生徒会の先輩である七海燈子から想いを寄せられ、しかしそれに応えられない。それどころか「私が知らない感情を知っているなんてずるい」のような気持ちにまで飛躍するなど、かなり捻くれている部分もあったり。
はじめて特別な感情を抱いた先輩と、いまだ“特別”の感触を知らない小糸。
ふたりのふれあいを描いていく中で、徐々にサブキャラたちも絡み合い、
非常に独特な空気をもった、完成度のたかい青春物語として歩んでいます。

すでに単独記事を書いているのでそちらでじっくり書いているのですが
最近発売された3巻はさらにサブキャラ陣の掘り下げ、そして主人公ズの過激なキスまでなだれ込んで来て更にテンションあがるヤツだった。佐伯先輩スキィ・・・。
さらに彼女たちの青春を「過ぎ去りし日々」と重ねて見つめる大人カップル(意外な)も登場。彼女たちの立ち位置や、持っている温度といったものが、不思議とこの作品を包み込んでくれる。
様々な想いも人間も巻き込んで、物語はいよいよ生徒会劇へ進む。
4巻以降もばっちり追っていきたい、恋愛漫画のひとつの名作となり得るピース。



ハピネス(4) (週刊少年マガジンコミックス)ハピネス(4) (週刊少年マガジンコミックス)
押見修造

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12.ハピネス/押見修造

ハピネスのカケラもないことでおなじみの現代吸血鬼耽美浪漫「ハピネス」だ!
「惡の華」完結後に去年から始まった押見修造先生の最新作ですが
なんか面白いとかいう話以前に、この作品やばいなって思う・・・(語彙)

なんとなく凄い。なんとなく、恐ろしい。本能的な部分に訴えかけてくる。
例えば頭キマってんじゃないかというくらいに視界も思考もドロッドロにとろけていくカオス描写もあるし、ドス黒く凄惨な吸血鬼たちの生き様も言えるし、主人公がたどる物語の血生臭さとか不幸っぷりとか・・・
感想として相応しくないだろうけれど、「怪しい世界に引きずり込まれる感覚」これが強烈で魅惑的でめちゃくちゃカッコいいのだ・・・!!
自分が壊れていくのを肌を感じながら脳みそがグツグツに煮え立って、そんな時に誘うように輝く夜の街の寂しげな感じがすげぇジンワリくるってんですよ。
悲痛なドラマを抱えて自ら家族も友も捨てすすんで孤独になりながら謎の女と都会の夜を旅立ちたいでしょみんな!!!クラスメートのヒロインに心配されてもそれを振り切りたい!!!それだよそれ!そのリビドーだ!!
そんな中二病を懐かしく発症させてくれる漫画。

本作は押見先生が表現の実験をしているような感じで、実にいろんな感情演出や混沌とした背景が多数描かれている。それが本作のテーマやストーリーに見事に合致して、「見たことがない光景」の体験を主人公と読者が一緒に感じられるんですよ。
単純ですけど漫画においてビジュアルで引き込まれるってのは、それだけで好きになれる。

3巻のノラとのキスシーンが鮮烈だった。未知なる存在と口づけをする恐怖や不快感や・・・そしてそこから甘美な恍惚と、癒やしが主人公を包んでいく・・・4巻でもういちどキスをした時には、また違った描写がされている。
けれど2016年の「ハピネス」は勇樹サイドのストーリーが濃密でしんどかったなぁ。
彼の涙が、絶望で崩れた表情があまりにもむごい。元々は気に食わないキャラだったんだけど、気づけばけっこう好きなヤツになっていたんだよなぁ。それがもう。
いよいよぶっ壊れた吸血鬼が身内?から登場して、5巻以降は主人公との関係もぜったいマトモじゃいられない。加速する、落下する物語はさらに深い夜へ。

でもこの作品は「ダークヒーロー」ものだと謳われていることを忘れない。
この閉塞感を打ち破る・・・かどうかはわからないけれど、スッキリとする展開が来てほしいな。
ワクワクする展開が続いていることは間違いなくて、ただあまりにも暗い。



戦国妖狐 17 (コミックブレイド)戦国妖狐 17 (コミックブレイド)
水上悟志

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11.戦国妖狐/水上悟志

いやーーーーー面白かった!!!!こんなに爽やかな最終巻読んだの久々だな!!!
水上悟志作品では最長となった「戦国妖狐」。文句のつけようがない、完全無欠の大団円。全17巻、全99話の長い道のりのはてに待つ、極上のエンドロールだ。
じっくり練り込まれた・・・ようでいてかなり自由に筆を走らせていたという本作。それなのにこんなに綺麗に、あそこまで広げた風呂敷をたたみきれるのかと、水上先生のハンドルさばきには恐れ入る。
超ド級のスケールで行われたラストバトルと、それからのながい人生の旅路。
戦いはこれにておしまい。でも人生は続く。

最終巻の感想だけに慎重に書こうとは思う。
思うが、「惑星のさみだれ」然り、ラストバトル後のあと寂しい空気を引きずったまま、エピローグでぐんぐんと読者をおいてキャラクターたちがひとりでに未来へ歩んでいく・・・この頼もしさと眩しさがたまらない。読んできて良かったと思える、かけがえのない瞬間だ。
本作はとくに歴史モノ(という意識は作者にも読者にももしかしたらあまり無かったが)という側面もあったがゆえに、エピローグでは急加速して時代がめぐっていく。
その中で千夜は年を取らぬまま、歴史の見届け人として生き続ける。
大切なものたちが天寿を全うし、あるいは不慮の死を遂げていき・・・それでもなお、生き続けていく。
同じ歩幅で生きていけないことの切なさが、時代というあまりにも巨大する流れの中で膨らみ続ける。けれど、おなじ境遇の連中もいて、そして相変わらず、バカなことを言い合える。

気が抜けつつも暖かく力強い生命賛歌は、水上悟志作品共通のテーマなんだろうな。
月並みな言葉になってしまうけれど、人のつながりの温かさを改めて感じられる。
水上悟志作品のエピローグは最高。これぞ少年漫画の王道ってヤツだ



かわいいひと 3 (花とゆめCOMICS)かわいいひと 3 (花とゆめCOMICS)
斎藤けん

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10.かわいいひと/斎藤けん

かわいいいーーーーーーーーーーッツっ
かわいいすぎるーーーーーーっっっっ


もうそれがすべて。かわいい。これに尽きる。これ以上はない。
ヒロイン(めっちゃ美少女)も主人公(目つきわるい)もほんとうにかわいい。
ゴチャゴチャ感想書いてる場合じゃない、語彙力もクソもない、初々しいカップルをひたすらニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤnヤny見ていたい人たちは今すぐ買って読んでから死んだほうがいい。俺は一足先に死んでいる。

いちおう説明すると、死神フェイスで他人から距離を置かれがちだけど優しい花屋の青年花園くんと、彼を好きになってしまったゆるふわ超絶美少女日和さんがお付き合いすることになったという話。
ふたりして奥手で、相手のことが大好きすすぎて、けれど触れたくて・・・
お互いにはじめてのお付き合い、いわゆるはつきあいなこともあり、手探りだらけの初々days。
ぶっちゃけそれだけなんです。バカップルのイチャつきを眺めているだけなんです。

天国ですよね。
快楽堕ちしたみたいにハートマークで脳内埋め尽くされて俺は死ぬ。

きっちり毎回盛り上がりどころを作ってくれるのはお約束なんですが、盛り上げ方がうまい。
ヒロインにしても主人公にしても「相手のことが好きで好きでたまらない」ゲージがMAXになったときの感情の暴走が可愛すぎて大声で叫びたくなるんですよね・・・一瞬理性と本能のせめぎあいが起きて、基本的にふたりとも奥手で弱気なんだけど、イザというときにはグッと前のめりになっちゃう。で、別にそれでもいいよってお互い受け入れちゃうやつ。あーーーーーーーーーーーーー(天を仰ぐ)ーーーーーーかわい。

3巻は日和ちゃんの「もっとイチャイチャしたい・・・!!」という叫び。
全読者が魂を振り絞る全力で「いけー!!!」「イチャつけー!!!」という声援を送ったことでしょう。
そしてカラオケでイチャついてたら日がついちゃう日和ちゃんのオンナっぷりも見どころ。
至福とはここだ。天国とはここなのだ。

へんな当て馬とか、日和ちゃんを追い回すイケメンとか、そういう読者を不安に揺さぶる要素がほとんどないいあたりも素晴らしい。
最高に甘酸っぱいだけのイチャラブ漫画って本当に嬉しい。
今後長期連載になっていく中で、たぶん他のライバルキャラ的なやつらも出てくるかもだが。
まぁその時はその時だし、ふたりの絆の強さをすでに確信できるし、まぁ、見守りましょう・・・!
ろくな感想書いていませんがそんな感じ。いま最高にイチャついてる漫画はこれだ。



花井沢町公民館便り(3)<完> (アフタヌーンKC)花井沢町公民館便り(3)<完> (アフタヌーンKC)
ヤマシタ トモコ

講談社 2016-09-23
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9.花井沢町公民館便り/ヤマシタトモコ

「花井沢町公民館便り」うーん、この当たり障りのなさそうな、人畜無害の顔したタイトルで放たれる、最悪の劇薬みたいなディストピア・オムニバス。
最高に悪趣味で、最高にセンチメンタルで、本気で息が詰まる絶望感。
全3巻。完結してもなお、ずっと引きづり続ける。この作品が持つエネルギーは正直凄い。
ここに描かれているのは、能天気で生きるたがりな者たちの人生と、すべて静かに崩壊するまでの長く短い数十年、その断片だ。

「一度でもきみとキスしたり抱き合ったりしてみたかったな」
作中のセリフに凝縮される、決して触れ合えない、目の前の人との距離を突きつけられる作品。

いわゆる3.11以降のエッセンスが濃厚な作品でもある。
俺は正直エンタメにそういった社会派なテーマを放り込まれるとうまく飲み込めないたちなので、「3.11以降の」とかいう文面を見ただけでウゲェとなる人間です、けれどこの作品を語るには触れておきたい部分でもあるのだ。
あの日からのしばらくの日々の恐怖をみんな記憶していて、トラウマとしてみんなが共有している。本作に描かれている壁の外/壁の中の世界のギャップや断絶は、イヤでもあの時を思い出せられて、ひたすらに心がザワつくのだ。

詳しくは語られない。どっかの企業か団体かがシェルター技術実験が失敗して、首都近くのとあるベッドタウンがその被害にあった。見えない膜に覆われて、生命の行き来ができなくなった。外界と隔離されたその小さな町、花井沢町の住民たちが、ゆっくりと生きて、死んでいく。

それだけの話。
いずれ、確実に、滅びる、『わたしたちの町』の思い出話だ。

時系列をシャッフルすることで構成的にも巧妙。
あのエピソードのキャラとこっちのキャラが思わぬ所で繋がったとか、あの時の出来事が未来にこんな影響を及ぼしていたとか、読み込むほどに発見の面白さがあります。
けれど第一話冒頭でしょっぱなから、町最後の生き残りとなる少女の独白がある。
つまり全て破滅へ向かっていくことを承知で、読者はこの物語に向き合うことになる。

ヤマシタトモコ先生らしい鋭い人間観察からくる、人間関係のズレや素朴な疎外感などをテーマにした短編たちはどれもエグってきて素晴らしい。
個人的には国からの配給で食生活や金銭にまったく不安がないという設定をみせるエピソードで、パンを焼いて売りたい女性が「私は一度も自分の稼いだお金を使ったことがないのが 本当に恥ずかしくて悔しい」とボロボロ泣くシーンが強烈でしたね・・・。なるほど、と。
外界の社会とのギャップや、それよりも単純に、閉鎖されたことで人間関係がより濃く醜くなっていく感じも最高に悪趣味。
けれどそういう人間の悪い面ばかりを描くんじゃなくて、ささいな幸せだってたくさん書いている。いろんな人々を描くからこそ、その町の中に流れている空気もすごくリアルに浮かび上がってくる。

そして連続して描かれるのが、町内の少女と外界の少年のカップルのエピソード。
けっして触れ合えない。けれど惹かれ合った2人。
微笑ましくも美しい彼らの恋がたどる行方は、町の未来そのもののようだった。
だからこそ、・・・最終話が、あまりにも、パンチききすぎでしょ、「そりゃそーなるよ」とも思ったけれど、もう、ああ・・・やりきれんな・・・

実は3巻末の描き下ろし漫画ですごい情報が出るので最後まで気を抜かないでほしいのと、それを踏まえて、3巻の表紙をじっくりと見直して見ると、またゾクリとさせられる仕掛けがアります。
全3巻となりましたがまだまだ読みたかったなぁ。
人間本来の醜さと美しさを浮き彫りにする、強烈かつ刹那的なオムニバス作品集。
ごちゃごちゃ書いてしまって申し訳ないです。めっちゃ好きな作品です。



兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)
山うた

新潮社 2016-02-09
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8.兎が二匹/山うた

ピクシブにアップされたこちらの短編を長編に膨らませた全2巻。とりあえずこれを↓



美しく、心が張り裂けそうに切ないラブストーリー。何度読み返してもそのたびに震えるし、なんだか大切になってあまり話題にも出せない、不思議な作品でもある。わりと、全部が超ツボでした。

不死を手に入れて400年近くを生きている女、すず。
彼とその恋人(??)のサクとの日々を描いた作品。
しかし連載のもととなった上の短編を読むと分かるんですけど、1話でほとんど片がつくんですよ。おおよそ7割8割くらいはここに集約されている。それくらい濃密だからぜひ上のやつだけでも読んでほしい。

それで全2巻でなにをやっていくかと言うと、第一話で見事に崩壊した2人の、それまでだ。
時を巻き戻してサクがすずに保護され、ともに住まい、そして惹かれ合っていき
すずの過去を解き明かしその心のうちに巣食う強烈なトラウマの正体も辿る。
彼らの人生をすべて明かして、それから物語は膨大な未来へと向かっていく。

すずにしろサクにしろ、心にすさまじい孤独と痛みを抱えていて、
それらが響きあいながら2人寄り添っていく過程にはしんみりと暖められる。
幸せをすなおに受け取れずむしろ遠ざけて、そんな不器用な様子がかわいいすぎる。
けれど傍にいたところで2人は癒やされながらもさらに傷ついていって、
不死という永遠を生きるすずを本当に救うなんてことは、ただの人間の男には無理なのだと思い知らされる。
好きだというくせに、愛しているというくせに、お前はいつか死んでしまうじゃないかと、
すずは泣きながらこぼすのだ。そんなことを言っても仕方がないのに。永遠を生きていてもこんな子供じみた事を漏らしてしまうその追い詰められた人間の心理にゾクゾクしてしまう。
そして2人は互いの死をとことんまで引きずって、今度こそ永遠に。

すずが自殺をするシーンやすずの過去回想を含め、けっこうエグい絵面も多い。
ただ黒を非常にうまく使ったビビッドな画面づくりがされていて、グロテスクなシーンも感傷的なシーンも構図からしてかっこいいのも好き。
またシリアスな内容だけれど肩の力がぬける穏やかシーンも豊富で、むしろそちらでの間の抜けたかわいらしいやり取りも印象深く、どんどんとこの2人が好きになっていく。

最終話の持っていきかたも、個人的には最高だった。この終わり方じゃなかったらこんなに好きになっていない。かすかな希望と、それにすがることしか出来ない永遠の命の脆さと愚かしさ。
「永遠」という響きをこんなにも残酷に、しかし尊く清らかに感じられる。
1巻2巻ともにカバーを外したところのおまけページの秀逸で、一層泣かされてしまうのだ。
とほうもなく膨大な時間を、すずさんという軸を通すことで不思議とつかみやすく、だからこそ彼女の生きてきた、これから生きていく日々が宇宙のように恐ろしくなる。それが本作の強烈な余韻の正体かもしれない。
不滅の恋物語。手軽に読めてがっつり後引くのでオススメです()



ラストゲーム 11 (花とゆめコミックス)ラストゲーム 11 (花とゆめコミックス)
天乃忍

白泉社 2016-10-05
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7.ラストゲーム/天乃忍

感無量のラストを迎えた人気シリーズ。天乃忍先生の出世作となりました。
当ブログでも定期的に感想かいてましたが、最終巻の記事はこちら
完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻

・・・いや全然まじめに感想かいてないですけど、愛おしくて仕方がない作品なんですよ!
とくに主人公の柳くんが最高だった。個人的に少女漫画のへっぽこなヒーロー役って大好きで、本作はむしろヒロインの邦画基本的には男前だったりする。
ヒロイン九条を自分に惚れさせようとする柳くんが、ものの見事に「片想い男子」をこじらせていく青春模様は至高の一言。
自分の思いに気づいてからの九条は圧倒的なかわいらしさを誇っていましたが
シリーズ全体での可愛さポイント獲得量で言うと柳くんの方が上という説が有力です。

幼馴染、両片思い、ふたりとも不器用、そして不安になる要素ゼロという
最高にベタ甘なまま11巻を駆け抜けていきましたが、サブキャラ勢も魅力的でした。
恋敗れた側の感傷をかろやかにそして印象的に描くのも、
やはり悲恋大好き作家たる天乃忍先生らしい味わいでしたね。
個人的にはアニメ化まで行ってほしかったけれど、ドラマCDになってくれただけでも嬉しかった。
コミックス特装版で2回、LaLa付録で1回だったかな。大切にします。



そして今年には新連載も始動。甘いラブコメだったラストゲーム終了のガス抜きにまた悲恋モノを描いてほしかったところではあるけれど新作も楽しみにしております・・・!!

なお「柳くんみたいなしょうもない少女漫画のイケメンキャラ」を発見しましたら私までご連絡いただけると大変ありがたいです。



ネトラセラレ(3) (バンブーコミックス COLORFULセレクト)ネトラセラレ(3) (バンブーコミックス COLORFULセレクト)
色白好

竹書房 2016-07-27
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6.ネトラセラレ/色白好

妻が不倫SEXしているのを見てシコってる旦那の漫画。(イヤな紹介だ・・・)
黄色い楕円マークのない、いわゆる非18禁エロ漫画というジャンルの作品。
大傑作「過ち、はじめまして。」に続く色白好先生の長編シリーズ、3巻完結。
ぶっちゃけ本作も名作。「クソッ!クソッ!!」と悔しそうにしかし股間をこする手を止めない主人公、クズすぎて愛しかないとか思っちゃうヤバい。

NTR属性持ちの男が美人な奥さんをゲットしたものの、夫婦生活に満足できず、「他の男と寝てくれ」と土下座で妻に頼んで始まる、どうしようもない感じマンテンな作品。
大切な最愛の女性を、別の男に汚される。それでしか愛せない夫の苦悩・・・・・・
エロ漫画としての実用性もバッチリ。それでいて「夫婦愛とは」という非常に奥深い、答えの見えないテーマを深掘りしていく。

画力も高く、心理描写もおろそかにはしない。凄まじい濃度で混沌とした物語が綴られる。
登場人物の感情も行為もどんどんエスカレートしていくし、「愛しているから」という言い訳も通用しないほどに醜い、おぞましい暗黒へと足を踏み入れていく。
夫婦というカタチをとりつつも別の人間と関係を結ばせ、それに夫婦互いにボロボロになりながら憎しみも愛しさもヒートアップし続け、そして煮えたぎった瞬間に、破滅が訪れる。
「苦しむことが愛することだ」と彼は言う。「あなたと結婚なんかしなきゃよかった」と彼女は言う。しかしそれもひとつの男女の形として、この作品は魅力的にふたりを描いてくれました。
こんな漫画初めて読んだ。感動しました。ラストは賛否両論あるとは思うけれど。

ヘヴィなストーリーに見合う人物の表情も魅力的。気合が入っています。感情移入して読んでるこっちまでゼェゼェ息が切れてきそう。
また純情な奥さんが変貌していき、最終話には全然ちがうキャラになりますがこれはこれで愛おしくて仕方がない・・・!むしろ彼女の本質が引きずり出されたかのようで興奮度マシマシってもんよ。この変貌も本作のオススメポイントですね。

毎度おなじみ、本編が地獄なのに作者本人が奥さんとノロケまくるあとがき漫画が、最終巻にはなかったのはやや寂しい所。ブログをみるに、また次回作にはあの楽しいあとがきが復活してくれることでしょう。退院となったようで良かったです。
そんなこんなで、エロ漫画としても極限の環境下で試される夫婦愛の漫画としても読み応えは最高峰なので、読んでない方はぜひこの機会に。

あと個人的にはクライマックスでの、主人公の父親の扱いで爆笑したんですが如何か。



デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 5 (ビッグコミックススペシャル)デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 5 (ビッグコミックススペシャル)
浅野 いにお

小学館 2016-09-30
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5.デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション/浅野いにお

堂々と言うよ俺は浅野いにおが好きなんだ。
毎年ブログのランキングに入れてますが許してほしい。ましては2016年には4巻と5巻が発売されて、物語もどんどんうねり、加速していたわけで、めっちゃかわいかったんですよね。あ、まぁ面白くもあったんですけど。かわいい。俺が言えることはたったそれだけ。・・・かわいい・・・。

どうやら世界がヤバイらしい、たぶん。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻
君がいるならたとえ世界が終わる日も。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』3巻

節目節目で大好きだと叫んでいるわけですが、本作もいよいよ最終章へと突入していく。
「人類終了まであと半年」という明確なラインを突きつけられ、読んでいる側としては「ああ・・・」と複雑な思いが湧き上がりますが、そんなこと露知らずにおんたんと門出の日常はバカバカしくてぬるくて時々刺激的。キラキラかがやく大学生活の始まりだ!!!

デ32

げぇーっへっへっへっへ!!(好き)

『侵略者』サイドの描写が増えました。あまりにも非力な、人間に虐殺されるばかりの宇宙人と、ぷかぷかと浮かぶだけのただのUFO。
地上におちた彼らはコロニーを形成に、数少ない生き残りがかろうじてそこで生活をしている。
そこで彼らは当たり前のように、家族を持っている。大切な両親や子供とともに暮らし、
『人間』という脅威に怯えながらも生活を送っている。
見えてくるのはそんな皮肉な構図。人間が侵略者を圧倒し、圧倒的な暴力で虐殺しつつも大義名分で許される。

そんな中でおんたんと門出は侵略者と遭遇する。
これまで何度か登場していた、死亡したイケメンアイドルに変身したあの侵略者だ。
彼とふしぎな絆で結ばれてく彼女たちに、しかし密かに現実の脅威は忍び寄る。
侵略者をめぐるあまりにも過酷な現実からせめて彼は守らなければと、秘密を共有していく・・・
そしてその中で芽生えていく、おんたん初めての淡い感情・・・・・・これは・・・なんだ・・・!!
世界崩壊とともに始まっちまうのか。未知との遭遇・青春ラブストーリーってのが。

おんたんと門出の友情の原風景に涙腺がゆるみつつ、5巻ラストでは甘酸っぱさが炸裂しつつ
印象深いのは第36話、侵略者を殺しまくった軍人が自分の行いに疑問を抱いて帰省するエピソード。
浅野いにお先生の本領発揮とも言える、「闇」をするどく切り取ったソリッドな内容でした。
本作はおんたんと門出の物語を中心に動きつつも、その周囲をとりかこむ社会情勢や、秘密をぎっている大人たちのしびれる遣り取りも洒脱に描かれており、そこも魅力のひとつでしょう。なんか深刻なことをしゃべってる大人たちが感情を密かにバチバチさせてるの好き(小並感)
まぁ、本当に"知っている"大人たちは、もはや諦観で動けなくなっている部分もあり、表情に暗い影が落ちていて
だからこそ、現実を見ていながらも馬鹿騒ぎをしている主人公たちが眩しく感じられてくる。
歪んだ世界の中で少女たちの青春をみていると、尊さのあまり身動きが取れなくなってしまう・・・

スレッスレ、キワッキワのバランス感覚で成り立っているんですけど、明らかにそれが悪い方向へと傾きだしているのが感じられてゾクゾクしますね。ただ、4巻にしろ5巻にしろ伏線が散りばめられていっている段階に過ぎない。本当の爆発はここからなんですよね・・・しんど・・・

そんな小難しいこと言ってないで、俺はもうおんたんの初恋の心奪われっぱなしなんですよ。
世界がどうなろうと知らないからおんたんの恋の行く先だけでも見届けたいですね。そんなセカイ系な終わり方。



青春のアフター : 3 (アクションコミックス)青春のアフター : 3 (アクションコミックス)
緑のルーペ

双葉社 2016-11-11
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4.青春のアフター/緑のルーペ

緑のルーペ先生の一般向け作品。
先生特有の、あの生臭くも甘酸っぱい強烈な個性がビンビン際立っているシリーズです。1巻も最高でしたが2巻3巻と物語が進むにつれ、苦々しくも目が離せない圧倒的な求心力で夢中にさせてくれました。

男女において過去の恋愛へのスタンスは違うという俗説がありますね。男は別名保存、女は上書き保存みたいな有名なやつ。本作はその「男が恋をひきずるとどれだけ醜いか」をこれでもかと描き出す。
本作の主人公は非常に醜悪で、貧弱で、神経質な、ありふれた男です。
しかし一点、おかしな点がある。初恋の女の子は、目の前で消えてしまったのだ。それは神隠しのように。いや、レコードの音飛びのようなものだ。だって彼女は、時を超えていったのだから。
というわけで高校時代、突如として恋の相手を消失した主人公が、いろいろあってそんな思い出も飲み込んで別の女性と付き合って順風満帆だってときに、初恋の少女があの当時のままの姿で還ってきたってんだからこりゃあ意地悪な設定ですよ。

突然きえたさくらに対して「彼女にいつ帰ってきてもいいように」とさくらの居場所を守り、ノートに手紙とも自分の日記とも取れる文書を遺し続けた鳥羽。
戻れないからこそ過去とは過去として割り切れる。そこにどんな後悔や羞恥や美しい記憶があったとしても、等しく過去として時の中に埋もれる。
なのに、よりにもよってというタイミングで過去は再びやってくる。
バッドエンディングを迎えた青春の、その先へ。

これはどちらのヒロインを選ぶかというラブコメ的な話というより、主人公自身の葛藤の物語なのだ。
2巻3巻と、さくら消失のその後に主人公鳥羽がたどった人生が断片的に語られていく。
たったひとつの恋とその後悔が、どれだけ彼に重くのしかかったか。その傷の深さ、呪いの凶悪さは饒舌に尽くし難く、苦しみ抜いてのた打ち回って、そうして彼は青春から抜け出すことができたのに。大人になれたのに。
”戻ってきた”ヒロインにたいして、主人公が叫ぶシーンがある。
「いなくなってしまえばいい」と。
あれだけの情熱で彼女の帰りを、ずっと、待ち続けていたはずなのに。
そんな言葉を吐き出してしまうまでのストーリーのうねりはハンパじゃなく、修羅場も修羅場、そしてその先の闇へとズブズブと重く沈んでいく・・・ああ恐ろしい。ワクワクが止まらない・・・

圧倒的に追い詰めてくる迫真の描写とともに、そこに宿るキャラクタたちのメンタルは少しずつブレていき、波紋のように広がっていく。
自分を苦しめる過去は、自分にとってのすべてでもあり、忘れたくても捨てられない大切な日々でもあり、一生それを背負って生きていかなきゃならないのに、今もなおどうしようもなく過去に呪われていく。
10代のわずかばかりの日々はあまりにも無防備で繊細で、青春のトラウマというのは一生モノなんだろう。そして大人のいま青春をやり直すことで、より深く青春の闇へと囚われていく。
ひきずりこまれていく自分をごまかすように主人公は進むけれど、実際誰から見ても修羅場間違いないは明らかってところでいよいよ次回4巻で完結。
あーーーーーーー見たくないけど読まざるを得ない。ところで1巻から3巻に進むに連れ、表紙の桜の花びらの量は減っているんだけど、あーあ、もうどうなっちゃうんだろうね。死臭がする。



あげくの果てのカノン(2) (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン(2) (ビッグコミックス)
米代恭

小学館 2016-10-12
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3.あげくの果てのカノン/米代恭

炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

おおよそ、単独記事で書いてしまっているので蒸し返すようになってしまうんですけども
不倫恋愛×SF(×ポエム)という悪魔的合体でここまで面白い作品になってしまうのかと。

恋に暴走する主人公、かのん。憧れの先輩への片面いを引きずりはや8年目。
エイリアンと戦う使命を帯び、任務に損傷するたびに少しずつ、もとの自分から少しずつ変化していく。
それにより、ただ遠くから見ているだけだったかのんに、不意にチャンスが訪れてしまう・・・
倫理・道徳に反するということから「不倫」・・・ただ、ただ、ずっと先輩が好きで、ずっと先輩を見ていて、ずっと先輩だけを追いかけていただけなのに、いつしかこの恋は「許されない」ものになっていて、でも大好きな彼に選んでもらえる、触れることができる幸福はしびれるくらい甘く…
まぁそんなわけでズブズブの不倫沼へと突っ込んでいく作品です。

特徴的なのが、時に理不尽で時に暴力的で、そもそも言葉にすら表現しきれない感情の暴走を(特にかのんという特異な恋の仕方をしているキャラクタを)非常にうまく描いている事。
その恋によって例えば誰かを遠ざけたり、大事なものが壊れたり、裁きを受けたりするかもしれない。けれどそれでも向かっていかなくてはならないというムチャクチャな正当化とか、けれど相反する葛藤だとか、あらゆる面から「恋」という言葉が持つ残酷な2面性を描写していく。

きっと真剣に恋愛に向かっていこうという時に人間はとてもエネルギーが必要で、だけどかのんはそれこそ機関部がぶっこわれてるので無尽蔵に燃料をもやして突っ走っていってしまうのだ。恋愛脳だとバカにする言葉はあるけれど、正直こういった「ぶっ飛んだイカレ野郎の恋」は見ていてとてもとても楽しいのだ。

それでいて、やわらかく突き刺さるポエムが散りばめられていてたまらない。
彼女なりのロジックに乗っ取りモノローグは流れ、オトメの全力全開な内容は可愛らしくもあり、しかし23歳に当たり前に備わっているべき社会的常識を踏み倒しているこの未成熟すぎる感覚が、恐ろしくもある。

2巻になって先輩の奥様の描写もされ、物語はいっそう厚みを持ちはじめた。かのんを思う弟くんの存在など、気になるサブキャラ勢は数多い。
そして追い詰められるごとに、かのんのマトモな部分も見えてきて微笑ましくなったり。
2017年も注目作。いまにも壊れそうな世界の中で"発情する"私たちの悲劇と、ラブロマンス。



ぼくは麻理のなか(9) (アクションコミックス)ぼくは麻理のなか(9) (アクションコミックス)
押見 修造

双葉社 2016-09-28
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2.ぼくは麻理のなか/押見修造

「ハピネス」といい、どーーも押見修造先生の作品に弱い。弱いっていうかこの作家さん凄すぎ。
「ぼくは麻理のなか」は漫画アクションにて2012年から連載がはじまり、4年目にして完結した長編シリーズです。過去作にも似たテーマがありますが、本作はやや複雑ではありますがTSというジャンルで勝負した作品。いわゆる性転換モノ。

とはいっても「やや複雑」と濁しただけの理由があって、その秘密というのが物語の根幹に関わることなので書くわけにもいかず・・・扱いがむずかしいな!「ある日突然女の子の身体に乗り移ってヒャッホー!でも女の子の世界ってタイヘン!わたし、これからどうなっちゃうの~!?」だよ!!

個人的には2016年に完結した作品の中でもトップクラスに美しく見事な着地をした名作だと思うんですが、いかんせん語りたいことがクライマックスの展開についてのことばかりで、書けば書くほどにこれからこの作品を読むぞって言う人の感動や衝撃を削いでしまいそうで難しい。

当初は突然女子高生の身体を手に入れてしまった主人公のゲスな下心と、一方でヒロインを聖なる存在として崇め守りたいというアンビバレンツの葛藤を描いていました。
じっさい本作のリビドーは「女の子になりたい」という想いや、過剰に女性を神聖視するあまりの暴走したイマジネーションだったり、そもそも「エロスってなに?」という疑問からきているように感じます。
いざ女性になってみれば、周囲の男たちの視線の気持ち悪いこと。クラスの中の窒息しそうな空気も、母親の態度も、やたら突っかかってきては過剰に懐いてくる友人も、すべての日常がぼくを追い詰める。

で、ちょっとネタバレをこれから書くのでご注意いただくとして・・・
そんなわけで終わってから一度読み返してみると、麻里は「僕」になったことで家族にたいして言えなかった本心をぶつけられたりしている(第30話他)。また性的な物事への嫌悪や罪悪感にしたって、「僕」を通じてある種のロールプレイングをしつつ、葛藤と咀嚼を行っていく。
結局「自分」というものの正体がわからなくなる、思春期の孤独や不全感が根っこの根っこにあって、そこが読んでいてヒシヒシと伝わる。読者に切っ先が向けられていることに気づく。背筋が寒くなるんですよ。自分のなかの汚い部分とか、そのくせ潔癖な部分とか、夢見がちだったり愚かななにかを、全部丸裸にされている気分になる。
ひとりの人間のルーツを辿り、その心のナカミを洗いざらい確かめていく過程が丁寧で、全9巻をついじて「麻理」という少女を"解剖"していく。
改めて考えてみればタイトルが「ぼくは麻理のなか」というのはうまいなぁと思いますね。完結後は視点が変わって2度読みも楽しいです。(まったく関係ないんですけどこういう作品のwikiがストーリーの九割五分かいちゃってるのどうかと・・・)

作品自体は、男が悶々と抱え続ける「女の子」という夢をある意味ブチ壊すような、男も女もじっさい同じ人間だよなに幻みちゃってんの、って語りかけているような実に押見修造先生らしい物語でした。哲学的な、言葉にすると陳腐化しそうなテーマをとてもうまく表現していると思います。苦しんでもがいて泣いちゃうような、そんな剥き出しの生き方を不器用にもしてしまう、尊い時代なんだよな思春期。
他の作品でも共通していえますが、言葉ではなく抽象的なビジュアルで訴えてくるのもパワフルで好きでした。精神が乱れているときの心理描写とか鳥肌モンです。



さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポさびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ
永田カビ

イースト・プレス 2016-06-17
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1.さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ/永田カビ

2016年の話題作をあげたらまぁおそらく挙がってくるでろうタイトル。
有名すぎて逆にトップに持ってきたくない天邪鬼な気持ちもありますが、かと言ってこんなにすごい作品を読んだらどうすることも出来ず。改めて、凄まじい情念とエネルギーが120%でブチこまれた脅威の一冊だと感じます。そこらへんは単独記事で書いているのっでちょいと省略。

轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』

その徹底的な自己分析。読者への気付きと共感、そしてなにより「読み物として知りたい事・見たいことが魅力的に描かれていく」構成の妙もあり、とにかく濃密の著者の内部へと引きずり込まれていく作品です。
よくぞここまですべてを明かせるな。赤裸々という言葉はこの領域に到達しなければ使えないんじゃないのか。
思わず興味をそそられるタイトルですが内容の6割7割は著者のバックボーンを紐解く尺に当てられている。そもそも「さびしすぎて」と、「レズ風俗に行きました」の接続がムチャクチャだから興味がそそられるわけで、正しいことなんだけれど。
とは言えその著者のバックボーンが凄まじい事になっている。そこらへんは是非本著でご確認を。

そして本作を読んだ誰もが感じると思う、「この作家さんのこの先を見てみたい」。
「レズ風俗」の本そのものも大ヒットしメディア露出も多数。きっと生活も一変しているだろうし、いやもしかしたら・・・と。それは作品のファンというより、永田カビ先生のファンになっていた自分に気付かされた瞬間なのです。
興味の対象が圧倒的に作者本人に向かっていっている。

一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)
永田 カビ

小学館 2016-12-10
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そんななかで発売された「一人交換日記」は、まさにそれを叶えてくれる一冊。一人交換日記は見ての通り「レズ風俗」の先の永田カビ先生のレポ漫画で、こちらも濃密の一言。
単独でと言うよりかは「レズ風俗」のあとすぐ読みたい、いわばレズ風俗増刊号だ(なんだそれ)
レズ風俗と一人交換日記、合わせて一本、俺的2016年No.1です。

レズ風俗を出した後、またレズ風俗に行ったり、実家を出たり、親バレしたり、エゴサしまくったり、ヲチスレみたり、……うん、全体的に相変わらずで最高です、永田カビ先生。
でもなんとなく、ポジティブな内容だった。ヤケクソで、思い悩んだりもするけれど、
愛し愛されたいと願うことをこんなに堂々と、なんせレポ漫画として描いて出版できるような
それはもう普通の人には出来ない凄まじい勇気を感じて、意味不明に励まされたりしちゃう。

もちろん漫画として面白いのもお見事。驚異的なバランス感覚。自分を分解・解析してキャラクタといて落とし込んでいる。ただダラダラとレポートしているんじゃなく、情報を整理して「交換日記」という相手にたいして語りかける形式になっていることも深く染み込む。まぁ、相手は自分なんだけれど、一人交換日記なんだけど。
血なまぐさい内容なのはもう相変わらずで、「レズ風俗」が少しでも響いた人はこちらもぜひ読んでほしいです。
痛みとか切なさとか、逃げ出したくなるような絶望をきちんとまな板の上において押さえ込み刻んで料理してくれてます。

・・・後半、一人交換日記の事ばっかり書いてた。
この作品は「レズ風俗」ありきな内容なことは間違いないので、見逃してください。














・・・ということで前回更新と合わせて全30作の紹介でした!
ここからは色々な理由から別枠として紹介したい +α 的な作品です。




まもって守護月天!  解封の章 1 (BLADE COMICS)まもって守護月天! 解封の章 1 (BLADE COMICS)
桜野みねね

マッグガーデン 2016-10-08
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<特別部門> まもって守護月天! 解封の章

2016年は守護月天の年だったといっても良い。・・・言い過ぎだな。言い過ぎでした。
いや、でも、それくらい個人的には衝撃ニュースだった。
漫画原作の新章がスタート、しかも『再逢』とは違う歴史を歩んだ全くの新シリーズ。
それにTVシリーズのBDが出たり、まぁお祭りですよね。
去年コロチキのコントで「さぁ」が使われたあたりから守護月天という作品を思い出すひとは増えていたのだろうと思うけれど、実は前々から電子書籍などで守護月天の新作は発表されていました。

ちっちゃいシャオとでっかい離珠のお料理教室 
まもって守護月天! ~初めてあなたに逢ったとき私が思っていたこと~ 
二個目のは、初代第一話をシャオ視点を交えながらリメイクした、ぶっちゃけ書籍化するだろうと思ってたら今なおされていない、必読。

そんな中ついに連載として帰ってきた守護月天。
あの柔らかくときに強烈に切ない世界をそのままに、初代から3年の月日が経った高校生編。
変わらないやつら、なんかめっちゃ変わってるヤツラ、いろいろ居るけどとにかくなつかしいメンバーとの再会が楽しめる。そしてシャオがあまりにも・・・あまりにも可愛すぎる・・・それだけで最高・・・ッ!!!

正直、とてつもなくスゴい漫画というわけではない。この作品に対する俺の評価は、思い出補正が発揮されまくった結果だから。
しかしながら本作でもみねね作品の切れ味はいかんなく発揮されている。届かない思いの儚さ、それが持つ熱のもどかしさ。孤独と恋の揺れ動く恋模様には悶絶させられます・・・。
こんなにも臆病に、言葉の意味を、視線の先を、気持ちの在り処をさがしつづける物語を、好きになれないわけがない。触れれば崩れてしまいそうな、神秘的なオーラをまとっている作品なのですよ。

うわ~守護月天懐かしい!と思ったかつての読者のみなさんは、「フェアリアル・ガーデン」も読んでみてほしい。こちらも守護月天に通ずる、コミュニケーションと種族のすれ違いが織りなす甘酸っぱい恋物語だ。
「あれ」からの桜野みねね先生はきちんと漫画活動をしていてくれた。
桜野みねねという作家を語る上でも、今作は非常に重要です。
「いろいろあった」んだ。それは本作の著者コメントでも書いている。

今後の創作活動の方法のお知らせ 桜野みねね
守護月天!関連作品についてのお詫び 

他にも調べればたくさん出てきます。黒歴史化してしまった、前作の守護月天とか。
作品・作者の背景をすこし知っておくと、この作品の意味深さに触れられると思う。
兎に角、また戻ってきてくれてありがとうございます。
またシャオたちにあわせてくれてありがとうございます、と。

・・・

思い入れの強さというか、「作品の存在に対する感動」が強すぎて
最初BEST30に入れていたんですけど、好きすぎて1位になっちゃって、
「いや1位になるような作品じゃねぇぞ、冷静になれ」と我に返って別枠にしました。
それなりには面白いですけど、ぶっちゃけこれだけ読んでも、良質なラブコメというだけの捉え方で終わってしまいます。いや、本当はもっとベタ褒めしたいんですけど一般的にはそうなんだろかなと思って・・・
でもどうしても好きだから書きました。感謝しかない復帰作。



DSC_0659.jpg

<同人部門> シュノーケルはいらない/藤咲ゆう

こちらは同人誌なので除外。同人誌部門ってなんだよって感じですけど、俺的ゴリ押ししたい同人誌ランキング2016のNo1がいるんですよ。それがこれ。

恋人ごっこは屋上で。「シュノーケルはいらない/ねこかんロマンス」

スクールカースト的に混じり合わない男の子と女の子の、薄暗い青春の漫画です。(二次創作じゃなくオリジナル)
「わたしがここから落ちたって 速水くんは普通に生きていけるでしょ」というセリフが印象的。
傷つける/傷つけられることでしか関係を許せない自己嫌悪とか、窒息しそうな共依存とか、
弱い力でそれでも求めあってしまう、そんな生きづらい感覚に満ちていて
ひたすら最高of最高なので、入手は普通では難しいですが気になったからはぜひぜひ。
コミティアなどイベントで頒布されていましたが、現在はkindleとかでも配信してます。

シュノーケルはいらない1シュノーケルはいらない1
藤咲ゆう

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げんしけん 二代目の十二(21)<完> (アフタヌーンKC)げんしけん 二代目の十二(21)<完> (アフタヌーンKC)
木尾 士目

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<悔やみきれない部門> げんしけん 二代目

斑目・・・・ ・・・ ・ ・… ‥

完結しました。大好きな作品ですけど、素直な気持ちでランキングに入れられなかったので除外しました。
でもすっごく楽しめました。ありがとうございました。矢島っちに幸せになって欲しい。
もっと長く、ながく読んでいたかった。もっと二代目の空気を感じていたかった。昔のげんしけんと違うことをひとつひとつ確認してしまうような事であっても、大好きな彼らとまた会えて良かったしもっと彼らのとなりで話を聞いていたかった。でも完結。よかったな、斑目さん。大切な作品です。愛おしさしかない。

……問題の「spotted flower」も冷や汗かきながら続き追っていきますのでよろしくお願いします。




以上でおしまいです。長々とありがとうございました。
2017年もいい漫画と出会いたいですね。

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