[漫画]炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
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この人を好きでいたら不幸になる。わかっているのに、どうしようもなくずっと好き。
禁忌的な関係だとか、終末世界だとか、無垢がゆえの狂気だとか。
これでもかと俺の”好き”を内包してくれた新作「あげくの果てのカノン」の1巻が出ました。
ひっさしぶりにドストライクな新作。面白いのはもちろんの事、愛してしょうがないなにかがこの物語の中にはある。煮えたぎって溢れでてしまうような恋のエネルギー、それは非常に真剣で、ときに恐怖を感じさせる。
これはもう痛々しくて仕方がない。格別に恥ずかしくなるほどに、そして胸がきしむほどに、痛む。
オビには押見修造先生、志村貴子先生、村田沙耶香先生と漫画家のみならずビッグネームから応援コメントが寄せられているけれど、各作家さんのコメントもかなりエモくてオススメです。
ともかくかなりグッと来ましたので久しぶりに更新・・・!
とりあえず第一話の試し読みができるから気になったら読んでみて欲しい。
エイリアン襲来によって世界のあり方は大きく変わった。
しかしそんなことお構いなしに主人公、かのんは8年間にも及ぶ境先輩への強烈片思いを抱えている。
先輩はもはや世界のすべて。その恋心はストーカーじみていて、精神の不安定さとかメンヘラ全開である。
先輩との会話を録音して反芻するわ、これまでのやり取りを日記にして全部書き留めてるし、先輩の職場やスケジュールも調べあげて出待ちするし、第三者からストーカー行為を咎められようものなら逆上、癇癪、あとの祭・・・。
そんな主人公の危うさを、たっぷり余すことなく楽しめるこの一冊!
見ていて面白い、というのが1番の感想。
ハイテンションと超ダウナーな空気が瞬時に入れ替わる。むしろ切り替わらずに同居させ、もう思考回路もムチャクチャなまま感情爆発。
「そんなわけない」って思っても、「もしかしたら」と思う心が歓喜する。都合のいい解釈と自己嫌悪のループ。
彼女なりのロジックの上でモノローグは垂れ流されるんだけど、オトメの全力全開な内容は可愛らしくもあり、しかし23歳に当たり前に備わっているべき社会的常識を踏み倒しているこの未成熟すぎる感覚が、恐ろしくもある。
なのに、彼女に不思議と感情移入をしてしまう。
コントロールの効かない恋愛感情に浮かされて、自己嫌悪の沼におもいっきりハマりこんで
それでも圧倒的な自己肯定と個人崇拝のエネルギーで、自分と心と戦って、相手にぶつかっていく愚かな姿を
愛おしいと思えないんなんてそんなのウソだなって思うわけですよ。俺はね。
はっとさせられるシーンやモノローグの多いこと多いこと。
言葉を大切にしている作品だなと感じます。言葉のチョイスや、それをどうページに配置するかをじっくり吟味して作られているように感じる。
質のいい詩集のような、言葉と思考のゆらぎがとてもとても心地良いのです。
静かに彼女の中でだけ繰り広げられる感情の爆発。歓喜、自責、興奮、絶叫、傷嘆。
頭のおかしい、おかしくなりそうな、甘くて苦い恋の世界。
不思議とこの世界の異常さを、住人たちは口にしないんだけれど。
例えばエイリアンと戦う特別機関に所属する人間は、ちぎれた身体のパーツを復活させることができる。
進化した科学のチカラが「絶対」の安心感を産む。勝てるし、取れても復活するし、きっと死なない。
だから警報がなって避難をしなくちゃならなくても人々は至ってのんきだ。
人々の順応性の高さを感じる。だけれどそこから浮かび上がる、主人公の「異常な正常さ」が面白い。
境先輩は、戦場の最前線でエイリアンと戦う戦士です。
甘いルックスから世間的にもアイドル的人気を得ている先輩は、主人公の学校の先輩でもあり
彼女は学生時代からの8年間をひたすら先輩につぎ込んで、先輩だけが世界のすべてで。
だからこそ、パーツ交換によって、人格や趣味趣向までどんどんと変わっていく先輩に対して
「大好き!!!!!愛してる!!!!!!!!」だけじゃない感情まで抱き始めている。
ハンバーガーを食べようとしたのを止めたシーンはギャグのようでもあるし、
「私の知らない先輩」を受け入れられなかった彼女の、一瞬の拒絶反応だったように思う。
かのんの中で渦巻く感情は、もはや「恋」の一言では片付けられない。
いや、そもそも、恋を一言で片付けようというのが愚かなことなのかもしれないね。(いつか使おうとノートに温存していた決めゼリフです)
だから危うく思うのは、「私は先輩のことが好きなのだ」という刷り込みだけが頭に残って
とうの先輩がまったく別の人間になり変わっていたとして、その時はたして彼女はなにを選べるのか、ということ。
どこまで描かれるか、続くのか分からない物語だけれど
1巻の時点で相当バランス的にグラグラしているのに、これから一体どうなっちゃうってんだ。見逃せない。
あとこれ本当にアツいんですけど。
先輩は既婚者です。
先輩、ロクでもねえな
かわいく思われたいし、でも近づき過ぎたら自信の無さですぐにヘタれちゃうし、
特別にはなりたいけれど、かと言って「不倫とする先輩」なんて見たくはない・・・
1巻のラストでは怒涛の展開で急転直下、スリリングなのは恋模様だけじゃないって事で
素直にストーリーのうねりにも唸らされる期待作。
タイトルにも主人公の名前にもなっている「カノン」。
有名なクラシック曲だったり、カノンコードだったり、色々と聴くワードですが
意味を調べてみると「聖書」と結びつくワードでもあるようで。
妄信的な恋を描くこの作品らしい要素ですね。
繰り返されて、少しずつ変化していく思考回路。その迷路をたどっていく読者。
それにしても俺はこういう、ひとケカラほどのセカイ系DNAを持って生まれた作品を愛してしまうクセがついているらしい。途方も無い世界の残酷さを、素晴らしさを、虚しさを感じさせてくれるこういう作品が、大好きです。
それでもってネジはぶっ飛んでるが、純粋に恋のエネルギーを漲らせて生きている主人公を見ると、思い報われようが報われまいが、素敵だなって気持ちにさせられる。
まぁともかく。月スピ的にもプッシュされていると見る本作。さらに盛り上がる2巻への期待がすごい。
『あげくの果てのカノン』1巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
メンヘラストーカー女の純愛記録。というだけでもない。人間本来の危うさや恐ろしさ、愛おしさを詰め込んだ作品。
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