夢さえつきぬけて、君を探している。/映画 『君の名は。』感想
新海誠監督の最新作「君の名は。」の感想記事です。
見終わったあと、しばらく立ち上がれず、エンディング曲の残響が耳から離れないままでした。
間違いなく、傑作だと思う。いやもう、毎回言ってるけど、今回も傑作。
過去最大規模で全国公開された本作はこれまでのキャリアの総括のような内容。
過去作の様々な要素が結集された、これまでのファンもここからのファンも満足のいくであろうエンタメ作品として仕上がっていました。
後述しますが過去作を観ている人にこそ観てほしい作品。
今作に挑戦的なエッセンスがいくつも含まれていることは公開前から
この素晴らしい予告ムービーからして、読み取ることができましたが、
それにしたって、ここまで真っ直ぐに大衆の方を向いた、それでいて新海監督らしさがあふれる映画に仕上がっていようとは。
新機軸のコメディ要素も、切り裂かれそうなセンチメンタルも、惑わされそうな透明な空も、こんなに幸せな映画があるのか、(大げさにいうと)自分のための作品だと感じられる映画があるのかと思ってしまうような。
ざっくりと感想かいていきます。ネタバレを含みます。ご注意ください。
過去作の感想記事
・『秒速5センチメートル』感想。
・最高級の、雨ふる楽園の物語。『言の葉の庭』感想
秒速の記事とか15歳のときにかいたやつだしもう読み返せないけど。
楽曲との融合性
まず音楽のことを書きたい。本作においては本当に大切な要素。
過去作「秒速5センチメートル」に代表される、音楽と映像の融合は新海監督作品の持ち味。
今作ではRADWIMPSとコラボをしており、ボーカル曲から劇伴まで彼らが手がけています。
RAD・・・RADはなぁ・・・これまでもう・・・イヤホンで野田洋次郎の声をとろけるまで耳に詰め込んだ高校生活を送ってたやつらからしたらなぁ・・・新海誠×RADWIMPSなんて、MAD動画みたいな夢タッグが現実になったことだけでもう絶頂モノなんですよ。
しかもボーカル曲が4つも映画で流れる。しかもしかも、全部超クオリティ。
タイトルトラック的ポジションの「前前前世」。ガンッと自転車を蹴りだすような疾走感と、甘酸っぱく宇宙を感じさせる歌詞・・・完全に新たなる代表曲の誕生だよ・・・。
アニメとリンクする、しかし独立した楽曲としても聞ける歌詞も素晴らしい。
壮大な世界観で、内容はあくまでも「君」と「僕」だけの物語。やや閉塞的で依存的で、しかし切実なそのRADWIMPSの歌詞の有り様は、考えてみれば新海誠監督の描く宇宙と密接に寄り添えるものだった。
前前前世だけではない。映画のオープニングを飾る「夢灯籠」もやばい。
夢から覚めたばかりのような、いや、夢に落ちていく時のような、夢と現実の境界が曖昧になるような浮遊感と迫力のある一曲。
「ああ このまま僕たちの声が 世界の端っこまで消えることなく 届いたりしたらいいのにな」
と歌い上げるボーカルとたゆたうようなクリーンなギターで幕が上がる。それは幻想的な映像と完全にシンクロし、スクリーンに吸い込まれそうな最高なオープニングを演出する。
「スパークル」は非常に重要なシーンでかかる、本作の核となるような楽曲。
ボーカルの息遣いまでわかるような劇場の音響で、その最初に一節が歌いだされた時。
泣くつもりなかったのに思わず敗北した。負けだよ。完全敗北。俺は、野田洋次郎に、新海誠に命のすべて握られた。俺は生まれ変わった俺になったんだよ。
エンディング曲「なんでもないや」は多くは語らない。
ぜひ、スタッフロールで呆然としながら聞いてほしい。
ただオープニング「夢灯籠」で歌われた「君の名を 今追いかけるよ」というフレーズがある。それと対応するかのようにエンディング曲「なんでもないや」では、「君の心が 君を追い越したんだよ」というフレーズが歌われる。こういった美しいリンクが、個々の曲を聞いていても映画の世界に再度連れて行ってくれる。
様々な感情が胸の中であふれつつも、「なんでもないや」ってちょっと誤魔化しながら
あんなにも大変だった出来事が、時が経ちいつしか記憶はおぼろげに、日常の中のちょっとした空想劇のひとつとして片付けられる。わけもわからない感情を押し殺し「君」に語りかける。空想劇の中でつながった、たしかな愛おしさを抱きながら。
そのぶっ飛んだ歌詞でたびたびネタにされる事もあるRAD。
けれど思い出した。そして確信する。孤独な、そして誰かを強烈に欲求する寂しい心に、RADWIMPSは救いをくれる。そういう音楽をやっていてくれてたんだ。
観終えたあとようやく席を立ったあと、そのまま物販でこれらの楽曲が収められたミニアルバム「君の名は。」を購入。サントラも兼ねている本作。映画を見た方なら、きっと欲しくなるはず。
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コミカルなキャラクター
本作のコメディタッチな序盤の流れなんかは、過去の監督作品になかった新機軸の要素。
しかしこれが本作を立派な「エンタメ作品」たらしめる大切な要素だった。
流れとしては劇場作品もだがCMアニメ「クロスロード」を汲んでいるように思う。
いやー久しぶりに見るとクロスロードも最高だな。
「君の名は。」これまで新海作品よりオープニングから中盤のつかみがよく、モノローグですべてを語ろうともしない。些細なやりとりであってもメインとなるキャラクター同士の関係性なそこに流れる気持ちが汲み取れる。
ポエムではなく、キャラクターのセリフに、視線に、強度がある。
主人公。
瀧は東京に通う男子高校生。三葉は田舎(岐阜!!!!!!)の女子高生。
ある時から互いの心が入れ替わり、まったく別の世界を体験していくことになる。戸惑いながらも時に楽しみ、入れ替わってしまった互いの人生に興味を持ち、そして通じ合う部分も出てくる・・・
という非常に!非常にベタな男女入れ替わりネタを新海誠監督が持ってくるとは!!という驚きはありますがこれが面白い。ベタなのはみんなやっぱり好きだからなんじゃないか。
三葉が素直に東京生活を楽しみまくっていることに対し、
瀧は田舎の風習や古来からの言い伝えに非常におおくのことを学び、己に響かせていく。
ストーリー中盤からは取り憑かれたように三葉の地元である糸守町のスケッチをしていくことになる。その姿はちょっと前作「言の葉の庭」と重なる部分も感じる。
キャラデザの田中将賀さんも言及していましたが、瀧くんはかつてないほどに強い少年だったと思います。
互いの人生をのっとって痛快な行動を起こしていくので観る側としては楽しみ
その周囲の人物にとっては突如豹変する彼らの姿を異様に感じられていて良い。
個人的に好きなのは四葉とテッシー。
テッシーが父親に怒鳴られたあと、「ホントかなわんなぁ・・・」と言いながら宮水神社のほうを眺めるシーンは最高の田舎エモって感じでよかったですね。
声優の、とくに主役ふたりの演技も素晴らしい。
少年の声で少女がしゃべる、そしてその逆もしかり。そんなややこしいことをやってのける。ギャグはもちろんシリアスパートも、常にスレスレのバランス感覚で演技がされる。
ともすれば全編ギャグみたいになってしまいそうだもんな、この設定。
それをここまで磨き上げられた急転直下の長編アニメとして成立させているのは
映像や音楽、シナリオの良さだけではない。それに命を吹き込む、声の仕事があってこそ。
ところで自分は岐阜出身岐阜在住で。
この映画には岐阜県飛騨地方が大々的に登場して、方言も聞き馴染みあるもので、そういう意味でもとても楽しかった・・・!
微妙に見覚えのあるJR岐阜駅のホームや、あのしょぼい線路風景や・・・。
地上初の美濃太田アニメなんじゃない?あっのうりんあった。
滑り落ちていく壮大なストーリー
コミカルなキャラクターたちによる序盤から一転、後半はまさに新海誠ワールド全開。
内省的なモノローグ。希求する孤独な心。埋まることない空白。越えがたい距離。突如の喪失。
自分の世界に没頭し、そしてはるか彼方の君に向けて言葉を紡ぐ。
おそらく男女入れ替わりボーイミーツガールという前知識の上で見た人が多いだろうから、途中からの彗星落下という大災害、生命の危機、時空の歪みといった、ハリウッドSF映画みたいな要素も出てくるとは予想できていなかったはず。
序盤の賑やかさ。中盤の鼓動が早まる感じ。クライマックスの静寂。このメリハリついた緩急が、エンタメ作品としても成功させつつ、新海誠ワールドを存分に味わえる贅沢な構成となっている。
しかもタイムスリップもの大事な要素として、いかに伏線をまくか、そして回収するか。
ここに至っても本作はとても楽しませてくれる。
特に結びを象徴する組紐が、そもそも物語が始まる前から瀧の手にあり、
それが最後に三葉に渡るあたりはゾクゾクされられましたね・・・。
神社のご神体そばの幽世で、口噛酒を口にすることで再会を果たす場面は
「こまけぇこたぁいいんだよ」の精神がにじみ出て、しかもその後の圧倒的に美しく儚いシーンでその感慨も吹き飛ばされる、特に好きなシーン。
パンフレットで新海誠監督のインタビューが掲載されており、それによると
本作は意図的にストーリー色を強めて、観る人にクリエイターとしての意図を確実に伝えられるよう長い時間をかけて調整をした、という。
それだけの苦労のとおり、本作はこれまでになかった緻密さとスケールで展開されていく。
4次元的な大きな物語と、世界のすみっこのちいさなボーイミーツガールとしての側面が共存する。
金曜ロードショーで流れても全然OKなだけの一般的強度を持った作品を作成したことは、なんか嬉しいやら寂しいやらなんだけれど、この作品を観るとやっぱり俺はこの監督が大好きだと思う。
過去作との関係性
ユキちゃん先生ー!!!!!!!!!!!
ハァ・・・ハァ・・・こんなところで会えるだなんて・・・。
「言の葉の庭」のヒロインである雪乃先生が、糸守で教鞭をとっていました。
こんなにストレートに過去作品とキャラが登場するとは思ってなかった。
今作も万葉集がキーとなってくるため納得の人選ではありますが。
時間軸がどうなっているのか。
言の葉の庭の物語の前なのか後なのかはわかりませんがそれでも
あの美しい声を聞けたことがしびれるほどに嬉しいですね。
そういえば言の葉の庭とリンクしている部分で、新宿御苑も出てましたね。
多くの人が言及するように、これまでの監督作品のボーイミーツガール(?)には、
「距離」というものが非常に重要な要素としてフィーチャーされていた。
「ほしのこえ」は地球と宇宙に2人は引き裂かれた。流れる時間の流れの違いもあった。
「雲のむこう、約束の場所」では消えゆく記憶に翻弄された。夢の中で君の孤独の音がした。
「秒速5センチメートル」は物理的な距離より心の距離。願うこと、ただそれだけの尊さ。
「星を追う子ども」はそもそも別の世界から少年はやってきた。サブテーマは死者との再会。
「言の葉の庭」は子供と大人の、歳の差の距離。そして自分の世界への没頭。
「クロスロード」は、都会と田舎から巡りあう、出会う前までのボーイミーツガール。
そして結論からいうと過去作のこれら要素を「君の名は。」は全部やってのけた。
全部も全部。欲張りにも特盛り状態である。過去作のセルフオマージュを盛り込み、それだけでなくこれまでの世界から一歩抜け出ていく。
だからこそこれまでの新海ファンはもうお腹いっぱいなのだ。
冒頭にも書きましたがこれまでの総決算的なものに仕上がっているのです。
そして「秒速5センチメートル」という、おそらく新海誠作品で1番話題性のあった映画を見た人は、この映画のラストシーンで成仏できるかもしれない。
監督は「秒速」をバッドエンドの物語として解釈されたくはないようだけれど
「じゃあこれでどうだ」と言わんばかりにもう一度、あのシーンを再演した。
もちろん作品が違うし過程も違う。それは当然わかっている。
けれど、秒速の物語でチリヂリになった僕ら全部の無念を、
この映画は晴らそうとしてくれているのかもしれない。
雪がふる都会の夜景が映されたときにハッとしたけれど、すれ違う男女で確信する。
秒速が公開されて9年半。長い時を経て、かすかに魂が癒やされた。
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」
・・・君には会えないけれどだいたい10年で僕は救われたよ・・・
ちょっとくらいは。
キービジュアルの構図をこう使うか、という部分もにやりとさせられる。
ともかく過去作を見ている人にも強烈におすすめしたい一作なのです。
夢の先のリアル
夢って目覚めるとゆっくりと消えていく。今作のモチーフのひとつ。
「あれ、なにを見ていたんだっけ」とおぼろげになり、大切なものが手のひらからこぼれ落ちるように、自分から世界から、なにかが消えていく。
雲の向こうでも描かれた夢のモチーフを再度使用し長編とした本作。
序盤のコミカルな展開から終盤、「夢となって消えたあと世界」の中で
その真価を発揮していました。
これはもうロジックの話でもテクニックの話でもなく、ロマンの話です。
なにがあったかは覚えてない。何かがあったことさえ、忘れている。
けれどどうしようもなく、途方も無く強く、魂が求めてしまう存在。
理由もなく、いつもだれかを探している。
いつもなにかをだれかを探しながら生きている。
それは恋物語だけではなく思春期の、いやもしかしたら誰しもが抱えている、ある種の潜在意識なのではないかなと思う。
なんとなく、欠けている感覚。例えばもっといい生き方を探す事。もっと自分にあった居場所はないかと、自分にはなにができるのかと、探し求めている。
瀧と三葉の場合には、それは互いの事だった。
口噛み酒は自分の半身なのだ。口にしたことで、魂は結ばれた。
手繰り寄せられた運命。渡された組紐。これは、時をも超える赤い糸の物語だった。
もはや互いに何があったのか、思い出せないに違いない。
けれどもはや本能か、神様の仕組んだ必然か、直感で互いを見つける。
併走する電車で目があった一目惚れのような一瞬、
消えたはずの思い出から、消えたはずの想いだけが、溢れ出る。
誰かを強く求めていた。そんな感覚だけに突き動かされた、8年後の東京で
新海誠映画、過去最高のハッピーエンドが待ち受けていた。
運命というものは、もしかしたら記憶から消えたもうひとつの物語で作られた、
もうひとつの人生の残滓がただよっているようなものなのかもしれない。
そんな空想をしてしまう、幸せな映画。
挿入歌、「スパークル」の歌詞が、映画のすべてを包むような素晴らしい内容なので、一部引用する。
運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を伸ばそうとも届かない場所で 僕ら恋をする。
昨日見てきたばかりのテンションでざーっと書いてみました。
非常に贅沢なアニメーション映画でした。
新海監督のこだわりと挑戦を濃密に感じられる107分間。
いまさら背景の美しさをあえて言うのも馬鹿らしいけれど、でも言わざるを得ない。劇場のスクリーンで夜空いっぱいの彗星が流れていく、あの美しさを見たら。
きらめく木漏れ日の光。都会の喧騒と静寂の対比。
日常のなにげない風景を、現実以上の輝きでみせること。この魔法にかかったら劇場から出てきたその時からもう頭からあの輝きが離れない。
それでいて、これまで以上に音楽との融合性を高めている。RADWIMPS最高でしょ、みんな。
そしてガラス細工のような、繊細な言葉選び。情緒あふれるモノローグもまた心射抜かれる。
音楽と映像の両面から、そしてシナリオのあまいロマンチシズムから
全身で幸せを感じられるアニメ映画でした。
心のやわらかい10代には純粋な衝撃を、カサついた人生ベテラン選手たちにも、心にうるおいを与えてくれること間違いない。
めぐる運命の美しさを、世界にかがやきが灯る一瞬を、見に行こう。
俺は映画を見る前に小説版を読みました。内容は映画そのものです。
ただ互いが互いを補完しあう関係となっているので、小説版もオススメ。
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轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
だらだら長文。
そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。
元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。
ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
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そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。
元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
居場所を求めて彷徨う
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
「母性」とは
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
漫画家を目指して
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。
Awesome Fellows! Perfect (ビームコミックス) 入江 亜季 紗久楽 さわ 犬童 千絵 福島 聡 佐々 大河 KADOKAWA/エンターブレイン 2016-03-14 売り上げランキング : 92398 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
「レズ風俗レポ漫画」として。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
絶対、好きにならない、だから。『やがて君になる』2巻
7年ぶりにPCを買い換えてwin10に変えたらスキャナーが使えなくなったよくある話。
心臓が選んでくれたらいいのに
大人気「やがて君になる」2巻です。
冷ややかな感情描写と熱を帯びていく物語の加速に惚れ惚れした本作。
1巻発売後から各所で話題となって、すでにかなりの知名度になっている感じ。
それもうなずける面白さ。発売から時間は立ってしまいましたが2巻の感想も行きます。
前回感想→わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻
2巻からは生徒会のほかの生徒たちも揃い、メインメンバーが揃った感じがある。
会長の七海、副会長の佐伯、主人公の小糸。
そこに加わった男子2人(!!)。チャラいノリのメガネ男子、堂島。ややおとなしい性格の慎。
メインキャラにがっつり男子キャラを増やしたあたり、この作品なりの挑戦とこだわりと感じますね。
個人的にも男子も出る百合漫画の方が好きだったりする。
性という言葉が持つ境界をさぐるのも百合漫画の醍醐味だとも思う。
という話はさておきこの新キャラのうち慎くん。
こちらがなかなかすごい形で小糸と七海との形に介入してくる。
秘密を握るという形でいきなり小糸の超至近距離までやってくる。
けれど悪意のある人物じゃなく、あくまでも傍観者として、演目を客席で眺めているスタンス。
当事者たる小糸としては、客席に誰かがいると知ってしまっては・・・小さな変化も訪れるだろうとは思うけれど・・・。
客席から見る彼は、これは相思相愛の恋物語に見えると言う。
壇上にいる彼女は、これはなんてことない普通の感情と言う。
他人と判断する状況と、当人の感じる気持ちのズレ。
自分の態度を、第三者に観察されて、くだされる判断。恋愛を知らない小糸にとってはかなりのプレッシャーでもあるのでは。
具体的にアクションは取らず、ただ傍観をするという意味で慎くんは読者に近いポジションのキャラクターですね。男子がこんなに存在感を出してきても、正直危機感はあまりなくて、いいスパイスになっている。
年頃の男子にしては達観しすぎているので、なにか裏や過去の傷があるのかと考えてしまったりもする。
ともかく、今後もストーリーの根幹にある程度噛んできそうなキャラクタ。
そしてストーリーはかつての伝統、「生徒会劇の復活」へと進んでいく。
七海の追うお姉さんの影も具体的に見えてきて、ぐんぐん話もディープになっていく。
つきつけられる拒絶。
より複雑に、より純度を増していく「好き」という呪縛。
上記のシーンが登場する第10話「言葉は閉じ込めて」は過去最高のスリルとポエムが味わえるまさに至極の32ページ。このこじらせ方が青春か。
そしてその番外編「言葉で閉じ込めて」で完全KOを喰らいリングに沈むのである。
姉の影を追う七海先輩にとって、浴びせられる好意は「姉のコピーをする私」に対するものとして捉えてしまう。だから「好き」は彼女にとっての枷だった。「こういうあなたが好き」というならば、そうじゃない私は好きではないのではないか。
けれど小糸は「好き」を持たない。だからこそ好き。
あたたかく包んでくれる、心はずむ言葉をくれる、けれど愛してくれない。
世界で1番優しい、私だけの特別なぬいぐるみ。
彼女はあえて「好きだよ」と言う。
こたえてもらえないことを知っている。それでも彼女は私の特別でいてくれる。
聡明な彼女は、すべてを知り尽くして自分を騙している。
彼女自身が愛されることを望んでいないのだから。
・・・それもまた、自身を騙しているだけなのかもしれないけれど。
性癖に見逃せないのが副会長の佐伯先輩ですよ!!
1巻よりずっとずっと嫉妬心をむき出しにして、スマートな振る舞いしているようで、傍からみるとなかなかにみっともない事になってますよ!!
無茶をする彼女をただ救うのではない。私がいる。私が助ける。私がそばにいる。
小糸に対して「年季が違うんだよォ!」とばかりに牽制する佐伯先輩~~ウオォ~~。
ハァハァ・・・クッ・・・だめだろ先輩・・・こんなかっこいい、かっこわるいことばっかりしてちゃ・・・・・・・・・・耐えらんねぇよ・・・・・・もっとくれ
ツイッター上で見かけた説ですが、主人公のフルネームが「小糸侑」で、これは「恋という」という言葉につながっているのでは、というネタ。
たしかに主人公は恋心を知らないという物語上キーとなる個性があるので、その由来は非常に納得できる。
しかして物語は次々と転がり、ある種の「特別」をつかめているように感じる。
甘く熱い感情だけではない。応えられない、理解のできない悲しみに、「心臓が選んでくれたらいいのに」とさえ願ってしまう切ない夜。
そこに小糸なりの本当の気持ちが隠されているかもしれないし、たとえ恋じゃなくたっていい。
こんなに一人の人だけをおもう瞬間があるのなら。
え、エッモ・・・!
ところでメロンブックスで買うとゲスト作家陣ふくめ超豪華な冊子がついてきまして。
http://daioh.dengeki.com/blog/comics/『やがて君になる』第2巻書店特典をまとめてみ/
書店特典だけにとどめて欲しくない超クオリティな特典だったので
どうでならこちらもゲットすることをおすすめしたい・・・が・・・これ書いてる時点で残ってるのかどうかは怪しかったので気にしないでください。
『やがて君になる』2巻 ・・・・・・・・・★★★★
盛り上がってきている百合漫画といえば、うむ、これだ(差し出す)
女の子たちの姿勢がとても綺麗な漫画だと思います。不安な気持ちも隠して凛と立つ。
やがて君になる (2) (電撃コミックスNEXT) 仲谷鳰 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2016-04-26 売り上げランキング : 6138 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
心臓が選んでくれたらいいのに
大人気「やがて君になる」2巻です。
冷ややかな感情描写と熱を帯びていく物語の加速に惚れ惚れした本作。
1巻発売後から各所で話題となって、すでにかなりの知名度になっている感じ。
それもうなずける面白さ。発売から時間は立ってしまいましたが2巻の感想も行きます。
前回感想→わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻
2巻からは生徒会のほかの生徒たちも揃い、メインメンバーが揃った感じがある。
会長の七海、副会長の佐伯、主人公の小糸。
そこに加わった男子2人(!!)。チャラいノリのメガネ男子、堂島。ややおとなしい性格の慎。
メインキャラにがっつり男子キャラを増やしたあたり、この作品なりの挑戦とこだわりと感じますね。
個人的にも男子も出る百合漫画の方が好きだったりする。
性という言葉が持つ境界をさぐるのも百合漫画の醍醐味だとも思う。
という話はさておきこの新キャラのうち慎くん。
こちらがなかなかすごい形で小糸と七海との形に介入してくる。
秘密を握るという形でいきなり小糸の超至近距離までやってくる。
けれど悪意のある人物じゃなく、あくまでも傍観者として、演目を客席で眺めているスタンス。
当事者たる小糸としては、客席に誰かがいると知ってしまっては・・・小さな変化も訪れるだろうとは思うけれど・・・。
客席から見る彼は、これは相思相愛の恋物語に見えると言う。
壇上にいる彼女は、これはなんてことない普通の感情と言う。
他人と判断する状況と、当人の感じる気持ちのズレ。
自分の態度を、第三者に観察されて、くだされる判断。恋愛を知らない小糸にとってはかなりのプレッシャーでもあるのでは。
具体的にアクションは取らず、ただ傍観をするという意味で慎くんは読者に近いポジションのキャラクターですね。男子がこんなに存在感を出してきても、正直危機感はあまりなくて、いいスパイスになっている。
年頃の男子にしては達観しすぎているので、なにか裏や過去の傷があるのかと考えてしまったりもする。
ともかく、今後もストーリーの根幹にある程度噛んできそうなキャラクタ。
そしてストーリーはかつての伝統、「生徒会劇の復活」へと進んでいく。
七海の追うお姉さんの影も具体的に見えてきて、ぐんぐん話もディープになっていく。
つきつけられる拒絶。
より複雑に、より純度を増していく「好き」という呪縛。
上記のシーンが登場する第10話「言葉は閉じ込めて」は過去最高のスリルとポエムが味わえるまさに至極の32ページ。このこじらせ方が青春か。
そしてその番外編「言葉で閉じ込めて」で完全KOを喰らいリングに沈むのである。
姉の影を追う七海先輩にとって、浴びせられる好意は「姉のコピーをする私」に対するものとして捉えてしまう。だから「好き」は彼女にとっての枷だった。「こういうあなたが好き」というならば、そうじゃない私は好きではないのではないか。
けれど小糸は「好き」を持たない。だからこそ好き。
あたたかく包んでくれる、心はずむ言葉をくれる、けれど愛してくれない。
世界で1番優しい、私だけの特別なぬいぐるみ。
彼女はあえて「好きだよ」と言う。
こたえてもらえないことを知っている。それでも彼女は私の特別でいてくれる。
聡明な彼女は、すべてを知り尽くして自分を騙している。
彼女自身が愛されることを望んでいないのだから。
・・・それもまた、自身を騙しているだけなのかもしれないけれど。
性癖に見逃せないのが副会長の佐伯先輩ですよ!!
1巻よりずっとずっと嫉妬心をむき出しにして、スマートな振る舞いしているようで、傍からみるとなかなかにみっともない事になってますよ!!
無茶をする彼女をただ救うのではない。私がいる。私が助ける。私がそばにいる。
小糸に対して「年季が違うんだよォ!」とばかりに牽制する佐伯先輩~~ウオォ~~。
ハァハァ・・・クッ・・・だめだろ先輩・・・こんなかっこいい、かっこわるいことばっかりしてちゃ・・・・・・・・・・耐えらんねぇよ・・・・・・もっとくれ
ツイッター上で見かけた説ですが、主人公のフルネームが「小糸侑」で、これは「恋という」という言葉につながっているのでは、というネタ。
たしかに主人公は恋心を知らないという物語上キーとなる個性があるので、その由来は非常に納得できる。
しかして物語は次々と転がり、ある種の「特別」をつかめているように感じる。
甘く熱い感情だけではない。応えられない、理解のできない悲しみに、「心臓が選んでくれたらいいのに」とさえ願ってしまう切ない夜。
そこに小糸なりの本当の気持ちが隠されているかもしれないし、たとえ恋じゃなくたっていい。
こんなに一人の人だけをおもう瞬間があるのなら。
え、エッモ・・・!
ところでメロンブックスで買うとゲスト作家陣ふくめ超豪華な冊子がついてきまして。
http://daioh.dengeki.com/blog/comics/『やがて君になる』第2巻書店特典をまとめてみ/
書店特典だけにとどめて欲しくない超クオリティな特典だったので
どうでならこちらもゲットすることをおすすめしたい・・・が・・・これ書いてる時点で残ってるのかどうかは怪しかったので気にしないでください。
『やがて君になる』2巻 ・・・・・・・・・★★★★
盛り上がってきている百合漫画といえば、うむ、これだ(差し出す)
女の子たちの姿勢がとても綺麗な漫画だと思います。不安な気持ちも隠して凛と立つ。