夢さえつきぬけて、君を探している。/映画 『君の名は。』感想
新海誠監督の最新作「君の名は。」の感想記事です。
見終わったあと、しばらく立ち上がれず、エンディング曲の残響が耳から離れないままでした。
間違いなく、傑作だと思う。いやもう、毎回言ってるけど、今回も傑作。
過去最大規模で全国公開された本作はこれまでのキャリアの総括のような内容。
過去作の様々な要素が結集された、これまでのファンもここからのファンも満足のいくであろうエンタメ作品として仕上がっていました。
後述しますが過去作を観ている人にこそ観てほしい作品。
今作に挑戦的なエッセンスがいくつも含まれていることは公開前から
この素晴らしい予告ムービーからして、読み取ることができましたが、
それにしたって、ここまで真っ直ぐに大衆の方を向いた、それでいて新海監督らしさがあふれる映画に仕上がっていようとは。
新機軸のコメディ要素も、切り裂かれそうなセンチメンタルも、惑わされそうな透明な空も、こんなに幸せな映画があるのか、(大げさにいうと)自分のための作品だと感じられる映画があるのかと思ってしまうような。
ざっくりと感想かいていきます。ネタバレを含みます。ご注意ください。
過去作の感想記事
・『秒速5センチメートル』感想。
・最高級の、雨ふる楽園の物語。『言の葉の庭』感想
秒速の記事とか15歳のときにかいたやつだしもう読み返せないけど。
楽曲との融合性
まず音楽のことを書きたい。本作においては本当に大切な要素。
過去作「秒速5センチメートル」に代表される、音楽と映像の融合は新海監督作品の持ち味。
今作ではRADWIMPSとコラボをしており、ボーカル曲から劇伴まで彼らが手がけています。
RAD・・・RADはなぁ・・・これまでもう・・・イヤホンで野田洋次郎の声をとろけるまで耳に詰め込んだ高校生活を送ってたやつらからしたらなぁ・・・新海誠×RADWIMPSなんて、MAD動画みたいな夢タッグが現実になったことだけでもう絶頂モノなんですよ。
しかもボーカル曲が4つも映画で流れる。しかもしかも、全部超クオリティ。
タイトルトラック的ポジションの「前前前世」。ガンッと自転車を蹴りだすような疾走感と、甘酸っぱく宇宙を感じさせる歌詞・・・完全に新たなる代表曲の誕生だよ・・・。
アニメとリンクする、しかし独立した楽曲としても聞ける歌詞も素晴らしい。
壮大な世界観で、内容はあくまでも「君」と「僕」だけの物語。やや閉塞的で依存的で、しかし切実なそのRADWIMPSの歌詞の有り様は、考えてみれば新海誠監督の描く宇宙と密接に寄り添えるものだった。
前前前世だけではない。映画のオープニングを飾る「夢灯籠」もやばい。
夢から覚めたばかりのような、いや、夢に落ちていく時のような、夢と現実の境界が曖昧になるような浮遊感と迫力のある一曲。
「ああ このまま僕たちの声が 世界の端っこまで消えることなく 届いたりしたらいいのにな」
と歌い上げるボーカルとたゆたうようなクリーンなギターで幕が上がる。それは幻想的な映像と完全にシンクロし、スクリーンに吸い込まれそうな最高なオープニングを演出する。
「スパークル」は非常に重要なシーンでかかる、本作の核となるような楽曲。
ボーカルの息遣いまでわかるような劇場の音響で、その最初に一節が歌いだされた時。
泣くつもりなかったのに思わず敗北した。負けだよ。完全敗北。俺は、野田洋次郎に、新海誠に命のすべて握られた。俺は生まれ変わった俺になったんだよ。
エンディング曲「なんでもないや」は多くは語らない。
ぜひ、スタッフロールで呆然としながら聞いてほしい。
ただオープニング「夢灯籠」で歌われた「君の名を 今追いかけるよ」というフレーズがある。それと対応するかのようにエンディング曲「なんでもないや」では、「君の心が 君を追い越したんだよ」というフレーズが歌われる。こういった美しいリンクが、個々の曲を聞いていても映画の世界に再度連れて行ってくれる。
様々な感情が胸の中であふれつつも、「なんでもないや」ってちょっと誤魔化しながら
あんなにも大変だった出来事が、時が経ちいつしか記憶はおぼろげに、日常の中のちょっとした空想劇のひとつとして片付けられる。わけもわからない感情を押し殺し「君」に語りかける。空想劇の中でつながった、たしかな愛おしさを抱きながら。
そのぶっ飛んだ歌詞でたびたびネタにされる事もあるRAD。
けれど思い出した。そして確信する。孤独な、そして誰かを強烈に欲求する寂しい心に、RADWIMPSは救いをくれる。そういう音楽をやっていてくれてたんだ。
観終えたあとようやく席を立ったあと、そのまま物販でこれらの楽曲が収められたミニアルバム「君の名は。」を購入。サントラも兼ねている本作。映画を見た方なら、きっと欲しくなるはず。
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コミカルなキャラクター
本作のコメディタッチな序盤の流れなんかは、過去の監督作品になかった新機軸の要素。
しかしこれが本作を立派な「エンタメ作品」たらしめる大切な要素だった。
流れとしては劇場作品もだがCMアニメ「クロスロード」を汲んでいるように思う。
いやー久しぶりに見るとクロスロードも最高だな。
「君の名は。」これまで新海作品よりオープニングから中盤のつかみがよく、モノローグですべてを語ろうともしない。些細なやりとりであってもメインとなるキャラクター同士の関係性なそこに流れる気持ちが汲み取れる。
ポエムではなく、キャラクターのセリフに、視線に、強度がある。
主人公。
瀧は東京に通う男子高校生。三葉は田舎(岐阜!!!!!!)の女子高生。
ある時から互いの心が入れ替わり、まったく別の世界を体験していくことになる。戸惑いながらも時に楽しみ、入れ替わってしまった互いの人生に興味を持ち、そして通じ合う部分も出てくる・・・
という非常に!非常にベタな男女入れ替わりネタを新海誠監督が持ってくるとは!!という驚きはありますがこれが面白い。ベタなのはみんなやっぱり好きだからなんじゃないか。
三葉が素直に東京生活を楽しみまくっていることに対し、
瀧は田舎の風習や古来からの言い伝えに非常におおくのことを学び、己に響かせていく。
ストーリー中盤からは取り憑かれたように三葉の地元である糸守町のスケッチをしていくことになる。その姿はちょっと前作「言の葉の庭」と重なる部分も感じる。
キャラデザの田中将賀さんも言及していましたが、瀧くんはかつてないほどに強い少年だったと思います。
互いの人生をのっとって痛快な行動を起こしていくので観る側としては楽しみ
その周囲の人物にとっては突如豹変する彼らの姿を異様に感じられていて良い。
個人的に好きなのは四葉とテッシー。
テッシーが父親に怒鳴られたあと、「ホントかなわんなぁ・・・」と言いながら宮水神社のほうを眺めるシーンは最高の田舎エモって感じでよかったですね。
声優の、とくに主役ふたりの演技も素晴らしい。
少年の声で少女がしゃべる、そしてその逆もしかり。そんなややこしいことをやってのける。ギャグはもちろんシリアスパートも、常にスレスレのバランス感覚で演技がされる。
ともすれば全編ギャグみたいになってしまいそうだもんな、この設定。
それをここまで磨き上げられた急転直下の長編アニメとして成立させているのは
映像や音楽、シナリオの良さだけではない。それに命を吹き込む、声の仕事があってこそ。
ところで自分は岐阜出身岐阜在住で。
この映画には岐阜県飛騨地方が大々的に登場して、方言も聞き馴染みあるもので、そういう意味でもとても楽しかった・・・!
微妙に見覚えのあるJR岐阜駅のホームや、あのしょぼい線路風景や・・・。
地上初の美濃太田アニメなんじゃない?あっのうりんあった。
滑り落ちていく壮大なストーリー
コミカルなキャラクターたちによる序盤から一転、後半はまさに新海誠ワールド全開。
内省的なモノローグ。希求する孤独な心。埋まることない空白。越えがたい距離。突如の喪失。
自分の世界に没頭し、そしてはるか彼方の君に向けて言葉を紡ぐ。
おそらく男女入れ替わりボーイミーツガールという前知識の上で見た人が多いだろうから、途中からの彗星落下という大災害、生命の危機、時空の歪みといった、ハリウッドSF映画みたいな要素も出てくるとは予想できていなかったはず。
序盤の賑やかさ。中盤の鼓動が早まる感じ。クライマックスの静寂。このメリハリついた緩急が、エンタメ作品としても成功させつつ、新海誠ワールドを存分に味わえる贅沢な構成となっている。
しかもタイムスリップもの大事な要素として、いかに伏線をまくか、そして回収するか。
ここに至っても本作はとても楽しませてくれる。
特に結びを象徴する組紐が、そもそも物語が始まる前から瀧の手にあり、
それが最後に三葉に渡るあたりはゾクゾクされられましたね・・・。
神社のご神体そばの幽世で、口噛酒を口にすることで再会を果たす場面は
「こまけぇこたぁいいんだよ」の精神がにじみ出て、しかもその後の圧倒的に美しく儚いシーンでその感慨も吹き飛ばされる、特に好きなシーン。
パンフレットで新海誠監督のインタビューが掲載されており、それによると
本作は意図的にストーリー色を強めて、観る人にクリエイターとしての意図を確実に伝えられるよう長い時間をかけて調整をした、という。
それだけの苦労のとおり、本作はこれまでになかった緻密さとスケールで展開されていく。
4次元的な大きな物語と、世界のすみっこのちいさなボーイミーツガールとしての側面が共存する。
金曜ロードショーで流れても全然OKなだけの一般的強度を持った作品を作成したことは、なんか嬉しいやら寂しいやらなんだけれど、この作品を観るとやっぱり俺はこの監督が大好きだと思う。
過去作との関係性
ユキちゃん先生ー!!!!!!!!!!!
ハァ・・・ハァ・・・こんなところで会えるだなんて・・・。
「言の葉の庭」のヒロインである雪乃先生が、糸守で教鞭をとっていました。
こんなにストレートに過去作品とキャラが登場するとは思ってなかった。
今作も万葉集がキーとなってくるため納得の人選ではありますが。
時間軸がどうなっているのか。
言の葉の庭の物語の前なのか後なのかはわかりませんがそれでも
あの美しい声を聞けたことがしびれるほどに嬉しいですね。
そういえば言の葉の庭とリンクしている部分で、新宿御苑も出てましたね。
多くの人が言及するように、これまでの監督作品のボーイミーツガール(?)には、
「距離」というものが非常に重要な要素としてフィーチャーされていた。
「ほしのこえ」は地球と宇宙に2人は引き裂かれた。流れる時間の流れの違いもあった。
「雲のむこう、約束の場所」では消えゆく記憶に翻弄された。夢の中で君の孤独の音がした。
「秒速5センチメートル」は物理的な距離より心の距離。願うこと、ただそれだけの尊さ。
「星を追う子ども」はそもそも別の世界から少年はやってきた。サブテーマは死者との再会。
「言の葉の庭」は子供と大人の、歳の差の距離。そして自分の世界への没頭。
「クロスロード」は、都会と田舎から巡りあう、出会う前までのボーイミーツガール。
そして結論からいうと過去作のこれら要素を「君の名は。」は全部やってのけた。
全部も全部。欲張りにも特盛り状態である。過去作のセルフオマージュを盛り込み、それだけでなくこれまでの世界から一歩抜け出ていく。
だからこそこれまでの新海ファンはもうお腹いっぱいなのだ。
冒頭にも書きましたがこれまでの総決算的なものに仕上がっているのです。
そして「秒速5センチメートル」という、おそらく新海誠作品で1番話題性のあった映画を見た人は、この映画のラストシーンで成仏できるかもしれない。
監督は「秒速」をバッドエンドの物語として解釈されたくはないようだけれど
「じゃあこれでどうだ」と言わんばかりにもう一度、あのシーンを再演した。
もちろん作品が違うし過程も違う。それは当然わかっている。
けれど、秒速の物語でチリヂリになった僕ら全部の無念を、
この映画は晴らそうとしてくれているのかもしれない。
雪がふる都会の夜景が映されたときにハッとしたけれど、すれ違う男女で確信する。
秒速が公開されて9年半。長い時を経て、かすかに魂が癒やされた。
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」
・・・君には会えないけれどだいたい10年で僕は救われたよ・・・
ちょっとくらいは。
キービジュアルの構図をこう使うか、という部分もにやりとさせられる。
ともかく過去作を見ている人にも強烈におすすめしたい一作なのです。
夢の先のリアル
夢って目覚めるとゆっくりと消えていく。今作のモチーフのひとつ。
「あれ、なにを見ていたんだっけ」とおぼろげになり、大切なものが手のひらからこぼれ落ちるように、自分から世界から、なにかが消えていく。
雲の向こうでも描かれた夢のモチーフを再度使用し長編とした本作。
序盤のコミカルな展開から終盤、「夢となって消えたあと世界」の中で
その真価を発揮していました。
これはもうロジックの話でもテクニックの話でもなく、ロマンの話です。
なにがあったかは覚えてない。何かがあったことさえ、忘れている。
けれどどうしようもなく、途方も無く強く、魂が求めてしまう存在。
理由もなく、いつもだれかを探している。
いつもなにかをだれかを探しながら生きている。
それは恋物語だけではなく思春期の、いやもしかしたら誰しもが抱えている、ある種の潜在意識なのではないかなと思う。
なんとなく、欠けている感覚。例えばもっといい生き方を探す事。もっと自分にあった居場所はないかと、自分にはなにができるのかと、探し求めている。
瀧と三葉の場合には、それは互いの事だった。
口噛み酒は自分の半身なのだ。口にしたことで、魂は結ばれた。
手繰り寄せられた運命。渡された組紐。これは、時をも超える赤い糸の物語だった。
もはや互いに何があったのか、思い出せないに違いない。
けれどもはや本能か、神様の仕組んだ必然か、直感で互いを見つける。
併走する電車で目があった一目惚れのような一瞬、
消えたはずの思い出から、消えたはずの想いだけが、溢れ出る。
誰かを強く求めていた。そんな感覚だけに突き動かされた、8年後の東京で
新海誠映画、過去最高のハッピーエンドが待ち受けていた。
運命というものは、もしかしたら記憶から消えたもうひとつの物語で作られた、
もうひとつの人生の残滓がただよっているようなものなのかもしれない。
そんな空想をしてしまう、幸せな映画。
挿入歌、「スパークル」の歌詞が、映画のすべてを包むような素晴らしい内容なので、一部引用する。
運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を伸ばそうとも届かない場所で 僕ら恋をする。
昨日見てきたばかりのテンションでざーっと書いてみました。
非常に贅沢なアニメーション映画でした。
新海監督のこだわりと挑戦を濃密に感じられる107分間。
いまさら背景の美しさをあえて言うのも馬鹿らしいけれど、でも言わざるを得ない。劇場のスクリーンで夜空いっぱいの彗星が流れていく、あの美しさを見たら。
きらめく木漏れ日の光。都会の喧騒と静寂の対比。
日常のなにげない風景を、現実以上の輝きでみせること。この魔法にかかったら劇場から出てきたその時からもう頭からあの輝きが離れない。
それでいて、これまで以上に音楽との融合性を高めている。RADWIMPS最高でしょ、みんな。
そしてガラス細工のような、繊細な言葉選び。情緒あふれるモノローグもまた心射抜かれる。
音楽と映像の両面から、そしてシナリオのあまいロマンチシズムから
全身で幸せを感じられるアニメ映画でした。
心のやわらかい10代には純粋な衝撃を、カサついた人生ベテラン選手たちにも、心にうるおいを与えてくれること間違いない。
めぐる運命の美しさを、世界にかがやきが灯る一瞬を、見に行こう。
俺は映画を見る前に小説版を読みました。内容は映画そのものです。
ただ互いが互いを補完しあう関係となっているので、小説版もオススメ。
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