轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
だらだら長文。
そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。
元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。
ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
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そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
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元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
居場所を求めて彷徨う
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
「母性」とは
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
漫画家を目指して
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
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ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
「レズ風俗レポ漫画」として。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
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