ソラニン新装版に寄せて 思い出話と第29話のこと
ソラニン 新装版 (ビッグコミックススペシャル) 浅野 いにお 小学館 2017-10-30 売り上げランキング : 73 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ソラニンの新装版が発売されましたのでちょっと書きます。
まぁ落ち着け、おちついて、・・・いやいや、そんな浅野いにおを嫌うなよ。結構、いい漫画描いてるんだよ。とサブカル御用達イジリだってもういい加減風化してほしいくらい。
やっぱり浅野いにおは良い作家だし、やっぱりソラニンは名作だ。
普段作家さんをさん付けとか先生付けして書くけど、いにおは別枠だから許してほしい。
せっかく新装版も出たわけだし、どうでもいい自分の思い出話を書きたい。
旧版ソラニンを買ったのは中3の時で、家族で北海道旅行の出発の日だった。セントレアに行く前に名駅で時間を潰していて、道中暇だろうからと駅チカのちいさな本屋さんで買った。
全2巻。ほど良い。旅行のお供にジャストサイズ。
当時「マンガがあればいーのだ。」さんの紹介記事を読んで気になっていたので、何気なしに買って行きの飛行機の中で読んだわけです。
1巻まで読んで、種田がどうなったのかイマイチわからないままに北海道に到着した。たしか残りは泊まり先で読んだ気がする。
正直その頃は、素晴らしい青春漫画だとは十分に感じていたんだけど、100%を理解できてはいなかった。今だって100%の理解が出来ているとも思わないけれど。
なんというかこの作品をキラキラしたものとしか掴めていなかった。
読み返すのも辛いけどこのブログにも当時かいた感想記事が残ってる。頑張って読み返すと
「うーーーーん、わかる、わかるよお前の気持ち。でも惜しい、これからもっとソラニンは最高の作品になるぞ」って感じだ。
自分は漫画の実写映画化のうち、かなりレアケースな成功例のひとつとして映画「ソラニン」を挙げる。
大学生で一人暮らしをしていて、20時までのバイトが終わって何気なしに映画館のほうに自転車で向かった。ツイッターでだれかが「ソラニンの映画が良かった」とつぶやいていたので、レイトショーで見た。公開されてから結構経っていたので自分のほかにはスーツ姿の30手前くらいの男の人しか劇場にいなかった。
で、まぁ、この映画でボロボロ泣いたのだった。
それから家に戻って、実家から持ってきていたソラニンを読み返した。中学の時読んだときより、はたまた何気なく本を手に取った高校の時の暇な夏休みのときより、断然ブッ刺さった。
なんせ音楽がいい。
説明不要でしょうけれど漫画の作中で歌われる「ソラニン」は、
アジカンの手によって映画主題歌として制作、リリース。
原作漫画も映画も見たことないけど曲は好きって人も結構いると思うし、なんならソラニンしかアジカンの曲を知らない人だっているかもしれない。
アジカンの中でもかなりの人気曲だし(まぁ本人たちが作詞してないのが人気投票一位になるのは流石にアレだし、人気には個人差がある)単なるメディアミックスの一環として以上の輝きを放ち続けている。イントロの最初のギターの音ですでに泣ける。なんて透明で淡い、締め付けられるような切ない音なんだよ。
というか自分にとってアジカンって本当に特別でめちゃくちゃ大きな存在で、高校受験の時にどんだけ「ファイブエム」「ソルファ」をリピートしたんだか分からない。深夜に「アンダースタンド」って曲のコーラスの「ナッナーナナナ」ってところを裏声で音源とハモってたら母ちゃんが入ってきてすっげえ気まずかったんだぞ・・・
脱線した。ともかくアジカンは最高であり、ソラニンも唯一無二の最強音楽なので、つまり映画も良い。サンボマスター近藤洋一の演技力に驚愕しろ。映画のエンドロールで流れる「ムスタング」の別アレンジバージョンもすっごくいいよ。おすすめです。
ソラニンはアジカンのライブでは勿論、超満員のロックフェスでも演奏されている。
それだけで胸が熱くなるんですよ。種田が遺したあの曲が。デモCDはほとんど箸にも棒にも引っかからなかったあの曲が。ちっさな地下のライブハウスで芽衣子が拙いながらに歌った曲が。こんなに大勢の前で歌われる、愛される曲になっているという現実。
フィクションとリアルを完全に混同してます。でも、でももうこの事実そのものが、現象それこそが、「ソラニン」という物語の隠しシナリオみたいに感じる。泣くしかない。奇跡でしかない。おい種田。種田・・・・・・お前の曲、イントロ流れるだけで歓声があがってるんだぞ・・・
そして新装版の発売である。
旧版発売から11年。
描き下ろしの第29話ではあれから10年の時が経った、彼らの姿が描かれている。
久しぶりに読み返した本編。20代なかばとなったいま読んだソラニンも痺れる読み応えだった。かつてとは味わいもだいぶ違う。年をとって彼らの年齢に近づいた。なんなら少し通り過ぎたくらいだ。
リアルに、それこそ内なる自分から問いただされるような剥き出しの言葉が作中に散らばっている。
ひとつひとつがギラリと鋭利に光っている。
将来をうやむやにしたい破滅願望や、求められる役割と自分自身とのギャップや、特別ななにかになりたいという淡い期待や、ちっぽけなダメ人間なりに大事なものを守ろうとしている感じとか、でも守ろうとしてるのはちっぽけな自分のプライドじゃん?で、嘆息するわけですよ。なんだよこれ。よくこんな漫画売れたな。世の中の人そんなにメンタルがタフなのかな。
種田が信号無視した理由があとがきで触れられていたけれど、作者の答えは非常に納得にいくものだった。スッキリしたようにも思うしなんだか余計にしょーもないようにも思えて、また泣けた。
とにかく痛々しくて、だからこそ彼らが足掻く姿が眩しい。豪雨とともに流れる涙。なにかを掴もうとする細い腕。がむしゃらな汗の一滴。
そしてそんな日々も、途方もない喪失も、いつしか薄れていく。
そうして毎日を生きていく。行きていくしかない。
見失いながら、倒れ込みそうになりながら、たまにあの頃を思い出して、酒をあおったりする。そういう何処にでもいる大人になっている。
第29話で作者の強い信念を感じた点は、種田の姿を描かったことだ。
例えば本編で描かれなかった回想シーンとしてや、芽衣子が夢に見たことだったりとかで、種田を描いても良かったかも知れない。
けれど29話は一切そんな内容じゃない。2017年を生きる芽衣子や、アイちゃんや、加藤やビリーがそこにいる。
みんな穏やかな表情をした、大人になった。
種田は図らずしも「ソラニン」という別れの歌を彼らに遺した。
この29話を読んで改めて、曲のメッセージ性の強さを確かめられる。
あの曲に支えられて、そして背中を押されながら、のこされた彼らは生きてきたのだろう。
けっして忘れたわけじゃない。でも、確実に日常のなかで薄れていく。
ただその残像が強烈な熱を宿していく。喪失の先にある暖かな日常に到達している。
寂しいし、名残惜しいけど、いいんだよ。あのメロディーを誰かが口ずさむなら。
加藤とビリーはあの時、腕をたかく掲げた。
芽衣子はある日、ふと思い出の曲のワンフレーズを思い出した。
そんなふうに。たまに引き出しから取り出しては眺める宝物みたいに。少しずつ色素を薄くして誰からも見えなくなっても、きっとそこに残っているものだって有るのかもしれない。
”意味もなく何となく進む淀みあるストーリー”。
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いっしょに「零落」も買いましたけどまだ上手に飲み込めていないので、別の時に。
危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻
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持って帰れないなら捨ててください。
女の子ってかわいくて得体の知れないいきものだなぁということを染み染み、深々を感じさせてくれる恋愛漫画の新シリーズ「潜熱」。
ヤクザのおっさんに惚れ込んでしまったウブな女子大生の、静かで熱い季節の物語。
すぐとなりにある非日常と、自分との境界線が、とけてなくなっていくことの恐怖とか、ある種のエクスタシーとか、知らない世界にふっとやってきてしまったようなフワフワとした感覚がある恋愛漫画です。
いわゆる年の差恋愛漫画っていうのだと、アニメ化もきまったあれとかこれとか、人気も高いジャンルではあるんだけれど、そういうキャッチーなものを野田彩子先生が放り込んでくることがまず意外ではありました。
読んだことがあったのが「わたしの宇宙」だったからかな。
それと比べると本作は非常に間口の広い作品でありながら、
言語化出来ない不気味な感情に自分が押し流されていく感覚がリアルに感じ取れる。
切迫したスリリングな駆け引きや、気持ちの変化の断片を嗅ぎ取れる仕上がり。
甘く繊細。それでいてクッキリと光と影を描き出す濃厚なタッチも、「潜熱」という理不尽な感情の暴走を描き出すのにピッタリだ。
「暴力」という、非日常を間近で見る時。
きっと誰しも、心臓が高鳴るはずだ。見てはいけないもの、見たくもないもの、血、破壊、悪意、そういうものから目を背けたくなるはずだ。
主人公はこともあろうにそんな暴力の世界の住人の、しかもオッサンに恋をする。
昔からよく聞くやつだ。ちょっとキケンな匂いを漂わすような男に、女はクラッと来てしまう・・・・・・そんなことあるかぁ????と長年懐疑的な男だったよ俺は。
でも「潜熱」を読むと、その感覚がわかった。
何なのだろうな。このノセガワの意味不明な色気は・・・。
世界のなんでも知っているような高い目線で、知らないことをたくさん知っていて、ちょっとだけ自分を特別扱いしてくれてるような気がいて、
怖くてズルい、『大人の男』。
ダメだよーーーーノセガワは絶対やべぇよーーーーーいい年こいて女子大生のおとなしい娘にちょっかいかけてくる大人とか絶対ロクでもねえよーーーーーー
と叫んでも、ページをめくっているそのさなかには、俺自身のそんな叫びも俺に届かない。
ノセガワさん・・めっちゃシブい・・・格好いい・・・。ロリコン趣味だけど・・・。
おそらく年齢よりも少々幼かった主人公・瑠璃も、みるみるその表情を変えていく。
うぶだった女の子が、いつしか覚悟を秘めた、どこまでも堕ちていきそうな暗い色を、その表情に宿していく。
瑠璃の心がジンと震えるとき、しずかに絶望するとき、ノセガワの言葉に体を熱くするとき、
彼女は本当にいい表情をする。ノセガワも言うほどだ。それはもう、そそるのだ。
おそらく彼女自身、冷静な頭で理解できていた部分もあったはずだ。
触れてはいけない。近寄ってはいけない。好きになっちゃいけない。
けれど「いけない」と脳みそが繰り返すほどに、心は疾まる、熱は高まる。
理不尽なばかりの感情に押し流されて、にじませた言葉をかわされながらも目で追って、そうしてその背広の綺麗な薄い背中に、こびりついた煙草の匂いに、ノセガワの残酷さに、瑠璃は絡め取られていく。
どんなにヒドイことを言われても、自分がただの都合のいい女に過ぎなくても、
あなたは私を見てくれる、褒めてくれる、綺麗だと言ってくれる。
騙されていたっていい。私が選んだんだから。
第一巻のクライマックスの彼女の独白で俺は陥落。
俺はこういう、わけの分からない女心を、そのシナプスの仕組みを、漫画を読んでいるときにだけわかったような気になるからこういう漫画が大好きなんだよ!(酷い)
言葉にできないような複雑な感情を、ほどかず噛み砕かず、そのままを
空気に溶かし込んで、こちらに届けてくれる抜群の描写力もあり
メランコリックで透明ですこしくすぐったい、そして胸を熱くする物語になっているのです。
ヤクザが物語の中心として描かれるも、直接的なバイオレンス表現は少なく
それが逆にノセガワという男の、”熟練”感が増している。
101ページのノセガワの手のアップもドキドキするなぁ。こんなに無骨でエロい手。
そしてさっきも書いたけれど主人公の瑠璃の変貌っぷりにゾクゾクきますね。
こういうタイプが逆に極道のママとして染まってしまうのかもしれない。
どうも、重版とかしてけっこう売れてるようでうれしいです。
2巻もばっちり買う予定。第一話はこちらから試し読みできますよ。
『潜熱』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
悪い男を好きになる。そういうのもきっとわるくない。潜む、熱。ピッタリのタイトルだ。
小学館の青年誌の女性主人公漫画は、こういう路線ホント強いな。
轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
だらだら長文。
そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。
元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。
ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ 永田カビ イースト・プレス 2016-06-17 売り上げランキング : 859 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか
寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。
元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。
「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。
読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。
かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。
この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。
居場所を求めて彷徨う
開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。
そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。
特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。
正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。
自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。
それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。
追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。
「母性」とは
バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。
恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。
著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。
この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。
漫画家を目指して
「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。
この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。
その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。
それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。
Awesome Fellows! Perfect (ビームコミックス) 入江 亜季 紗久楽 さわ 犬童 千絵 福島 聡 佐々 大河 KADOKAWA/エンターブレイン 2016-03-14 売り上げランキング : 92398 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。
あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。
「レズ風俗レポ漫画」として。
レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。
しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。
高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。
ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。
つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。
[漫画]消えない春に君はいる。『四月は君の嘘』11巻
リハビリ更新・・・みたいなやつ。久しぶりに更新欲爆発な一冊だった。
きっと 素晴らしい旅になるよ
さて「四月は君の嘘」ラストとなる第11巻が発売しました。
結論から言うに、間違いなく素晴らしい作品だった。
これほどまでにセンチメンタルで、激情ほとばしる作品として最後まで走りきってくれるとは。
傑作。傑作ですよこれは!
雑誌で掲載された最終話を読み、そしてアニメも最終話まで見切り、いよいよ原作コミックス最終巻となったわけですが、この3フェイズそれぞれでボロボロ泣いてますからね俺。
特にこの作品に関して言えばアニメ版の出来も最高級だった。
漫画も変に引き伸ばしとかもされず(と読んでて思っただけだけど)、作品的にベストなタイミングでの幕引き。そして本編のストーリーそのものの、完成度。さまざまな面からみても、幸福な作品のように感じられます。
過去の更新記事↓
輝きだした、かけがえのない春。 『四月は君の嘘』1巻
熱狂がぼくらの背中を押す『四月は君の嘘』2巻
波乱のコンクールが幕を開ける『四月は君の嘘』3巻
最初のうちしか感想あげてなかったか・・・もっと毎回かかないといけなかったなぁ。
それでは11巻の内容について触れていきますが、ネタバレ注意でお願いします。
タイトルに付けられた「四月」と「嘘」の秘密が最終巻でついに明かされるってのも、出来すぎなくらい、キザなくらい、完璧な構成だよなぁ。
目の前で倒れたかをり。想像以上に深刻だった彼女の病状を目の当たりにした公生。
過去のトラウマがフラッシュバックして襲いかかり、公生はとてもコンクールに臨める精神状態ではなくなってしまう。
喪失の予感。抱えきれないほどの切なさと痛みに、ただうずくまる。
しかしそんな彼の背中をまたも押してくれるのは、かをりなのです。
本当は彼女が1番こわくて、泣きそうで、挫けそうなのに。
それでも公生の目の前で、強い「宮園かをり」を演じる。
もはや強がりだと公生も知っているけれど、それでも「あがく姿勢」を見せつける、いや彼に突きつける。今までどおりの、公生を煽って立ち上がらせる、彼女ならではのやり方。
この二人をつなぐ「君」という言葉に宿る神聖さ。タイトルにもあるとおりこの作品にとって「君」というワードはある種特別なのだ。
この病院の屋上でのシーンは、不思議と神秘的にも感じた。
セリフのひとつひとつの鋭さもある。ストーリーにおけるこの場面の重要性を、結末をこの時点で知らなくても読者としてはなんとなく察していた事もある。
ひとつの覚悟を固めるための大切な場面であり、喪失の恐怖に震えながら立ち向かう少年と少女の悲しい触れ合い。
ひとりぼっちになるのは嫌だという君に、「私がいる/僕がいる」と伝え合う。
ヒリヒリするように息苦しい緊張感と、ただただ綺麗な「雪の中の君」。
ああ・・・もう、言葉にならないな、本当に、なんでこんなに綺麗で、哀愁に満ちてるんだよ。最高だよ。読んでて心が散り散りに砕けそうだ。
悲しみの中に、人を突き動かすための熱いエネルギーまであふれている。
名シーンだな、これぞ。
最終話を読んだあとに読み返してみれば、この屋上での場面っていうのがもしかしたら彼と彼女の最後の対面だったのかな、と思い至りより一層この場面の重要性が浮かび上がる。
そしていよいよコンクール――― 公生の出番だ。
「四月は君の嘘」の演奏シーンが大好きでした。
演奏シーンの迫力が、この作品の魅力に直結していたようも思う。
情熱的で、スピード感にあふれていて、もうとにかく絵としてカッコいい。
演奏の疾走感や、それを味わう客席の感嘆、膨れ上がる熱量、奏者の必死な、あるいは悲しげな表情―――音楽を披露するという試された場所で、“とっておきの一瞬”が連発されていく。ドラマティックとしか言いようがない。突き動かされないワケがない。
そしてそれに載る言葉の数々。ポエム台詞、センチメンタル。モノローグ。これもまたこの作品の味わい深さ。というかポエミーな要素が濃い作品ほど大好きなんですよね・・・。力強く、絵と言葉が踊っている。
そんな演奏シーンのクオリティは、最終巻でも発揮されている。
どんなに悲しいシーンであっても、演奏に入ればこっちのテンションが俄然上がるのです。
まるで胸ぐら掴まれて「こっちを見ろ」と言われてるような、問答無用な迫力。
公生の瞳に鍵盤がうつりこんでみるのを見るたびに脳みそチカチカしてくる、かっこいい。
そんな中、作中最後の演奏シーンには、神がかり的泣き演出でもって更に豪華な装飾が施される。
この場面はアニメ版の演奏シーンも最強なんでね、見てない人はチェックですよ。
かをりがステージの上から消えたアトの、暗闇にひとり取り残された公生、静寂――――
そして会場全体から万感の、最大級の絶賛が送られる。爆音の歓声。
しかし公生は、静かに涙を流す。
君への、君からの「さよなら」のメッセージを胸に。
音を伝えられない漫画という媒体において、鮮やかなほどに音の緩急を描く。静寂からの大歓声なんかは、もうこの漫画の醍醐味のような興奮が詰まっている。
そしてエンドロールとなる最終話は、穏やかなオルゴールが終始鳴っているような、ゆるやかなテンポの中で、喪失とそしてひとりの少女のすべての想いが明かされていく。
綺麗な、本当に綺麗な構成。
で、こっからはもう本当にいよいよネタバレでしかないです。
名作であることは前提とした上で、個人的には、この最終話は「欠けることない大団円だった」とは言いがたい結末でもあったのです。個人的には、ですよ。
なのでちょっとした不満を書くので、気分を害される方も居るかもしれないです。ごめんなさい。
まあまず、かをりちゃんは生き抜いてほしかったという自分の熱望はかなわなかった事。
これはしょうがない。最終話を読んだら、もう最初からこの結末はきまっていたんだってわかる。この結末のための全44話だったのだから。
けれど。奇跡を信じさせてくれるこの漫画だからこそ。最後の奇跡がかなわなかったことのショックがデカい・・・。
かをりちゃんは必死に最後の1年間を生きた。だからこそ彼女は、この世界にたくさんの足あとを残せた。だれかの記憶の中で永遠に生き続けていく。
でもさー!!やっぱ彼女には生きて、もっともっと幸せに成ってほしかった。もっともっと、遠くまで羽ばたいて欲しかった。欲張りに、遥か彼方まで。
あと作中で「いちご同盟」という作品が登場しました。自分もこれを機に読みまして、どうやら「四月は君の嘘」という作品はこの「いちご同盟」をとても意識して描かれてるのだと分かりました。たぶん作家さんにとっての大切な作品なんだろうなと思う。
だからこそ、「いちご同盟」の結末を力強く乗り越えるようなラストを楽しみにしていた部分があります。
しかし結果としては「いちご同盟」に近い結着となったため、なんとも言えないモヤモヤに襲われています。「結局同じことがやりたかったのか」とか。
でも作品そのもの完成度やストーリーの力があるからこそ、「二番煎じ」感がない。そこがこの作家さんなりの、「いちご同盟」への挑戦だったのかもしれない。
影響を強く受けている別の作品のタイトルやその台詞を、作中に盛り込んでまで、「四月は君の嘘」は読者に「いちご同盟」を意識させた。これは作家としてかなり勇気が要ることだったはず。
それを考えるとなんと堂々としたエンディングだろうか。同じところにたどり着いても、薄っぺらにならない。むしろ「いちご同盟」を乗り越えることができていると思う。
かをりちゃん愛がある分やっぱりモヤモヤするけれど、作品としては一級品だわ、やっぱりさ。
あと一点、「音楽漫画として熱中させてくれたのに音楽漫画としての到達点が見えにくい」こと。
極上の音楽漫画であり、格別な青春ラブストーリーでもあった本作。
涙腺をブチ壊す勢いでセンチメンタルに綴られる最終話は見事なものでしたが・・・
もうちょっと、かをりの死を乗り越えた先の公生の姿を見たかった。
あの死をどう受け止め、彼はどんなふうに演奏家として成長したのか。
それをちゃんと確認できないと、音楽漫画のラストとしてはやや足りてないように感じてしまう。
青春漫画としては完璧だ。
しかし音楽漫画として見た時、微妙な歯切れの悪さがあって、そこがなんとも惜しく思う。
せめてラストシーンでかをりに向けて一曲弾く公生が見たかったかもしれない。
贅沢を言うなら、もうすこし大人になったみんなの姿を見て、安心したかった。
でもこの作品は14歳から15歳にかけての作品として完結した。
そこは作者なりのこだわりがあるように感じるから、一概に不満も言えないけれど。
やはり「公生はこんなにも成長したのか!」ってのを感じたかったという思いは強い。
かをりの宝物である写真をピアノの上に飾った公生。
この部分から、この先ずっと公生がかをりへの思いを忘れないこと、そしてピアノに寄り添った人生を送ることが暗示されている。
公生の、読者の胸をえぐるように切ない、かをりからのラブレターは
あの出会いの四月を永遠のものにしてしまう魔法そのもの。
誰も彼も、彼女を忘れない。いや忘れられない。
ああ、なんて甘酸っぱい「嘘」なんだ。彼女の青春がここから始まった。
走りだした足が止まらない。いけ、いけ、あの人のところまで。
これが最期だって光っていたい!
ということで「四月は君の嘘」最終巻の感想でした。
最後でちらほらとマイナスなことも描いてしまいましたが、それらは全部読者の贅沢な希望ってだけです。
やっぱり総括すると「素晴らしい作品だった!」と大満足なのです。
特に冒頭でも書きましたが、かをりの「嘘」の秘密が最終話で明かされる構成はもう完璧にきまりすぎ。
最後まで読んだ今ではこの11巻表紙を見るだけでもすでにジワリと来る・・・。
11巻という巻数も一気読みしやすいでしょうし、これは音楽漫画の傑作のひとつとしてこれからも語り継がれていくはず。
美しく切ない“君の嘘”、とろけるように甘酸っぱい青春模様、情熱的に疾走する音楽へのロマン。
そしてこれだけの作品を完結させ新川直司先生の次の作品にかかる期待は凄まじい。
ありがとうございました。大切な作品になりました。
Twinkle,twinkle,little star,
How I wonder what you are!
『四月は君の嘘』11巻(最終巻) ・・・・・・・・★★★★☆
綺麗な最終巻。祈るように、これからの未来を思い描きたい。また、春が来る。
四月は君の嘘(11)<完> (講談社コミックス月刊マガジン) 新川 直司 講談社 2015-05-15 売り上げランキング : 16 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
きっと 素晴らしい旅になるよ
さて「四月は君の嘘」ラストとなる第11巻が発売しました。
結論から言うに、間違いなく素晴らしい作品だった。
これほどまでにセンチメンタルで、激情ほとばしる作品として最後まで走りきってくれるとは。
傑作。傑作ですよこれは!
雑誌で掲載された最終話を読み、そしてアニメも最終話まで見切り、いよいよ原作コミックス最終巻となったわけですが、この3フェイズそれぞれでボロボロ泣いてますからね俺。
特にこの作品に関して言えばアニメ版の出来も最高級だった。
漫画も変に引き伸ばしとかもされず(と読んでて思っただけだけど)、作品的にベストなタイミングでの幕引き。そして本編のストーリーそのものの、完成度。さまざまな面からみても、幸福な作品のように感じられます。
過去の更新記事↓
輝きだした、かけがえのない春。 『四月は君の嘘』1巻
熱狂がぼくらの背中を押す『四月は君の嘘』2巻
波乱のコンクールが幕を開ける『四月は君の嘘』3巻
最初のうちしか感想あげてなかったか・・・もっと毎回かかないといけなかったなぁ。
それでは11巻の内容について触れていきますが、ネタバレ注意でお願いします。
タイトルに付けられた「四月」と「嘘」の秘密が最終巻でついに明かされるってのも、出来すぎなくらい、キザなくらい、完璧な構成だよなぁ。
目の前で倒れたかをり。想像以上に深刻だった彼女の病状を目の当たりにした公生。
過去のトラウマがフラッシュバックして襲いかかり、公生はとてもコンクールに臨める精神状態ではなくなってしまう。
喪失の予感。抱えきれないほどの切なさと痛みに、ただうずくまる。
しかしそんな彼の背中をまたも押してくれるのは、かをりなのです。
本当は彼女が1番こわくて、泣きそうで、挫けそうなのに。
それでも公生の目の前で、強い「宮園かをり」を演じる。
もはや強がりだと公生も知っているけれど、それでも「あがく姿勢」を見せつける、いや彼に突きつける。今までどおりの、公生を煽って立ち上がらせる、彼女ならではのやり方。
この二人をつなぐ「君」という言葉に宿る神聖さ。タイトルにもあるとおりこの作品にとって「君」というワードはある種特別なのだ。
この病院の屋上でのシーンは、不思議と神秘的にも感じた。
セリフのひとつひとつの鋭さもある。ストーリーにおけるこの場面の重要性を、結末をこの時点で知らなくても読者としてはなんとなく察していた事もある。
ひとつの覚悟を固めるための大切な場面であり、喪失の恐怖に震えながら立ち向かう少年と少女の悲しい触れ合い。
ひとりぼっちになるのは嫌だという君に、「私がいる/僕がいる」と伝え合う。
ヒリヒリするように息苦しい緊張感と、ただただ綺麗な「雪の中の君」。
ああ・・・もう、言葉にならないな、本当に、なんでこんなに綺麗で、哀愁に満ちてるんだよ。最高だよ。読んでて心が散り散りに砕けそうだ。
悲しみの中に、人を突き動かすための熱いエネルギーまであふれている。
名シーンだな、これぞ。
最終話を読んだあとに読み返してみれば、この屋上での場面っていうのがもしかしたら彼と彼女の最後の対面だったのかな、と思い至りより一層この場面の重要性が浮かび上がる。
そしていよいよコンクール――― 公生の出番だ。
「四月は君の嘘」の演奏シーンが大好きでした。
演奏シーンの迫力が、この作品の魅力に直結していたようも思う。
情熱的で、スピード感にあふれていて、もうとにかく絵としてカッコいい。
演奏の疾走感や、それを味わう客席の感嘆、膨れ上がる熱量、奏者の必死な、あるいは悲しげな表情―――音楽を披露するという試された場所で、“とっておきの一瞬”が連発されていく。ドラマティックとしか言いようがない。突き動かされないワケがない。
そしてそれに載る言葉の数々。ポエム台詞、センチメンタル。モノローグ。これもまたこの作品の味わい深さ。というかポエミーな要素が濃い作品ほど大好きなんですよね・・・。力強く、絵と言葉が踊っている。
そんな演奏シーンのクオリティは、最終巻でも発揮されている。
どんなに悲しいシーンであっても、演奏に入ればこっちのテンションが俄然上がるのです。
まるで胸ぐら掴まれて「こっちを見ろ」と言われてるような、問答無用な迫力。
公生の瞳に鍵盤がうつりこんでみるのを見るたびに脳みそチカチカしてくる、かっこいい。
そんな中、作中最後の演奏シーンには、神がかり的泣き演出でもって更に豪華な装飾が施される。
この場面はアニメ版の演奏シーンも最強なんでね、見てない人はチェックですよ。
かをりがステージの上から消えたアトの、暗闇にひとり取り残された公生、静寂――――
そして会場全体から万感の、最大級の絶賛が送られる。爆音の歓声。
しかし公生は、静かに涙を流す。
君への、君からの「さよなら」のメッセージを胸に。
音を伝えられない漫画という媒体において、鮮やかなほどに音の緩急を描く。静寂からの大歓声なんかは、もうこの漫画の醍醐味のような興奮が詰まっている。
そしてエンドロールとなる最終話は、穏やかなオルゴールが終始鳴っているような、ゆるやかなテンポの中で、喪失とそしてひとりの少女のすべての想いが明かされていく。
綺麗な、本当に綺麗な構成。
で、こっからはもう本当にいよいよネタバレでしかないです。
名作であることは前提とした上で、個人的には、この最終話は「欠けることない大団円だった」とは言いがたい結末でもあったのです。個人的には、ですよ。
なのでちょっとした不満を書くので、気分を害される方も居るかもしれないです。ごめんなさい。
まあまず、かをりちゃんは生き抜いてほしかったという自分の熱望はかなわなかった事。
これはしょうがない。最終話を読んだら、もう最初からこの結末はきまっていたんだってわかる。この結末のための全44話だったのだから。
けれど。奇跡を信じさせてくれるこの漫画だからこそ。最後の奇跡がかなわなかったことのショックがデカい・・・。
かをりちゃんは必死に最後の1年間を生きた。だからこそ彼女は、この世界にたくさんの足あとを残せた。だれかの記憶の中で永遠に生き続けていく。
でもさー!!やっぱ彼女には生きて、もっともっと幸せに成ってほしかった。もっともっと、遠くまで羽ばたいて欲しかった。欲張りに、遥か彼方まで。
あと作中で「いちご同盟」という作品が登場しました。自分もこれを機に読みまして、どうやら「四月は君の嘘」という作品はこの「いちご同盟」をとても意識して描かれてるのだと分かりました。たぶん作家さんにとっての大切な作品なんだろうなと思う。
だからこそ、「いちご同盟」の結末を力強く乗り越えるようなラストを楽しみにしていた部分があります。
しかし結果としては「いちご同盟」に近い結着となったため、なんとも言えないモヤモヤに襲われています。「結局同じことがやりたかったのか」とか。
でも作品そのもの完成度やストーリーの力があるからこそ、「二番煎じ」感がない。そこがこの作家さんなりの、「いちご同盟」への挑戦だったのかもしれない。
影響を強く受けている別の作品のタイトルやその台詞を、作中に盛り込んでまで、「四月は君の嘘」は読者に「いちご同盟」を意識させた。これは作家としてかなり勇気が要ることだったはず。
それを考えるとなんと堂々としたエンディングだろうか。同じところにたどり着いても、薄っぺらにならない。むしろ「いちご同盟」を乗り越えることができていると思う。
かをりちゃん愛がある分やっぱりモヤモヤするけれど、作品としては一級品だわ、やっぱりさ。
あと一点、「音楽漫画として熱中させてくれたのに音楽漫画としての到達点が見えにくい」こと。
極上の音楽漫画であり、格別な青春ラブストーリーでもあった本作。
涙腺をブチ壊す勢いでセンチメンタルに綴られる最終話は見事なものでしたが・・・
もうちょっと、かをりの死を乗り越えた先の公生の姿を見たかった。
あの死をどう受け止め、彼はどんなふうに演奏家として成長したのか。
それをちゃんと確認できないと、音楽漫画のラストとしてはやや足りてないように感じてしまう。
青春漫画としては完璧だ。
しかし音楽漫画として見た時、微妙な歯切れの悪さがあって、そこがなんとも惜しく思う。
せめてラストシーンでかをりに向けて一曲弾く公生が見たかったかもしれない。
贅沢を言うなら、もうすこし大人になったみんなの姿を見て、安心したかった。
でもこの作品は14歳から15歳にかけての作品として完結した。
そこは作者なりのこだわりがあるように感じるから、一概に不満も言えないけれど。
やはり「公生はこんなにも成長したのか!」ってのを感じたかったという思いは強い。
かをりの宝物である写真をピアノの上に飾った公生。
この部分から、この先ずっと公生がかをりへの思いを忘れないこと、そしてピアノに寄り添った人生を送ることが暗示されている。
公生の、読者の胸をえぐるように切ない、かをりからのラブレターは
あの出会いの四月を永遠のものにしてしまう魔法そのもの。
誰も彼も、彼女を忘れない。いや忘れられない。
ああ、なんて甘酸っぱい「嘘」なんだ。彼女の青春がここから始まった。
走りだした足が止まらない。いけ、いけ、あの人のところまで。
これが最期だって光っていたい!
ということで「四月は君の嘘」最終巻の感想でした。
最後でちらほらとマイナスなことも描いてしまいましたが、それらは全部読者の贅沢な希望ってだけです。
やっぱり総括すると「素晴らしい作品だった!」と大満足なのです。
特に冒頭でも書きましたが、かをりの「嘘」の秘密が最終話で明かされる構成はもう完璧にきまりすぎ。
最後まで読んだ今ではこの11巻表紙を見るだけでもすでにジワリと来る・・・。
11巻という巻数も一気読みしやすいでしょうし、これは音楽漫画の傑作のひとつとしてこれからも語り継がれていくはず。
美しく切ない“君の嘘”、とろけるように甘酸っぱい青春模様、情熱的に疾走する音楽へのロマン。
そしてこれだけの作品を完結させ新川直司先生の次の作品にかかる期待は凄まじい。
ありがとうございました。大切な作品になりました。
Twinkle,twinkle,little star,
How I wonder what you are!
『四月は君の嘘』11巻(最終巻) ・・・・・・・・★★★★☆
綺麗な最終巻。祈るように、これからの未来を思い描きたい。また、春が来る。
[漫画]“そんな未来”がここにある。『Spotted Flower』1巻
Spotted Flower 1 (2014/04/25) 木尾 士目 商品詳細を見る |
今が俺の人生の頂点だと思う
もしかしたらあったかもしれない未来。そんな夢が叶ってしまった。
どんな夢かと言えば、とある1人のオタク野郎が、そんな趣味はまるでない別世界な1人の女性を好きになり、そして結ばれた。
「好きになり」までが別の世界線との共通事項で、「そして結ばれた」のがこの作品の肝であり、最大最強の爆弾でもある。
かなり出遅れましたが、「Spotted Flower」第1巻の感想。とあるご夫婦の日常コメディです。
奥さんは妊婦ですが、性欲の薄い旦那さんをなんとか誘う日々……そんな赤裸々な新婚ライフ。
もちろんそういうものとして楽しめるのはもちろんですが、この作品には裏がある。
それは、このご夫婦が他の作品に登場しているあの2人なのではないか…という『別作品との関連性』なのですが、掲載誌「楽園」で連載がはじまった当時に記事をかきましたので、そちらも読んでいただければと。
→木尾士目先生新連載、どう見ても“あの2人”です・・・他『楽園 Le Paradis 』Vol.4
この2人、いったい誰と誰なんでしょうね?
うーん………
・・・
どう見ても「げんしけん」の斑目と咲だよ!!!!!!!!
(げんしけん14巻,29P)
楽園はここにある。
“そんな未来”がここにある。
オタクな旦那と一般人な奥さん。
微妙にズレてるような……でも愛し合っている2人のやりとりは心やすらぐし、ちょっと間が抜けていて楽しいのです。
お腹いっぱいにノロケ話を頂けるのは至福なんだ…!
旦那をその気にさせようと勝負下着で誘惑するもイマイチ反応うすく、じゃあどんな下着がいいのよ→縞パンとかどうしようもねえなこの旦那感すごくてめっちゃ笑えたぞ。
どうしようもねえなこの旦那感が激しくナイスなワンシーン。
子供が男の子かもしれないという下りではこの発言である。うわーーやっぱこうなんだー……
連載は毎回短いページではあるのですが、その中に小ネタも積み込まれていて、その上ちゃんと妊婦あるあるネタ的なのを繰り出してくる。
妊婦あるあるとオタクあるあるな話題が融合して混沌としていますが、それがいい。
コメディですが時たまドキッとする。オタクとしての自己嫌悪からか、男の子を健全に育てる自信がないという旦那さん。でも夫婦で話し合って、不安に立ち向かっていく。一歩一歩、親になっていく姿。
ゲスト的サブキャラの存在もいい味出しています。
誕生してくる孫の名前のこっそり、というかガッツリとアニメヒロインの名前を押してくるおばあちゃん。お約束もしっかりと踏まえ、かなりのアニオタっぷりを見せつけてきましたが、なにものだよお婆ちゃん!すごすぎるw
そして大学時代の友人、コスプレ趣味のある巨乳奥さん(2児の母)。いったい何者なんだ……結婚して苗字かわっただろうけど少し心当たりがあるので仮名として「大野さん」と呼んでもいいかもしれないな…
この巨乳さんのセリフ、いちいち鋭くてドキドキしますよ。
「女が本気で誘惑して落ちない男なんていないですよね…?」とか。旦那さんの目の前でオ○ニーしろとか。この話題をするときの巨乳さんの経験値の高さを伺わせる発言にゾクゾクするなぁ。
セクハラして遊んでいるような余裕と、ちゃんと実践的なアドバイスしちゃう優しさを感じます。
女性ふたりでじゃれているような空気で、突っ込んだ話題までできちゃう親しさも見えてきますよね。
そして同意できる。「お前ら、かわいすぎるだろうがー!」って。
いまがきっと最高に幸せで、その最高がずっと続いてくれればいい。
なんて平和で微笑ましい新婚ライフ!
そんな「Spotted Flower」の感想でした。
単行本になるまでかなーりかかりました。2巻はいつになるやら。3年以上あとかなぁ。それでも、この面白さならずっと待っていたい。
上でも張った過去記事でも言及しましたが、このタイトルは訳すと斑目と咲のことを指しているように解釈できます。
spot→しみ、よごれ、まだら flower→花
と、spottedは斑目、flowerは咲につながってくる。
げんしけんが自分は大好きなので、げんしけんとの関連が見えてくるような小ネタを見つけると、その度にニヤリとしてしまったり「ちくしょう」と作者を恨んだりしているわけですが、そういうのを全部ひっくるめてとても楽しいのです。
感想を書くにあたって、本来だったらこの作品そのものに絞って書いた方がよかったのですが
どうしても同作者の別作品との関連とかも書いてしまいました。
それは自分自身、木尾士目先生の意地悪な遊び心を楽しめたんですよね。とても。とても。
あとがきを読んだら作者自身もかなりノリノリでこんなヒドいことをやってるとわかったので、納得というか嬉しい思いです。
あとがきページでは今より昔、茶髪だったころの奥さんと黒髪だった旦那さんが描かれており……もう…。
ifとは言えげんしけん世界の未来を描いているので、キャラクターがどういう大人になっていくのか、というひとつの可能性としても見ることができる。こういう部分も見逃せないのです。
ただ完全に「げんしけん」キャラクターとして見ることも出来ない(する必要も無いけれど)
例えば旦那さんなんかは、斑目の数年後として見るにはかなり美化されてるというか、格好いいじゃないですか。でも似てはいる絶妙さ。あくまでも「もしかしたら、ね」くらいに、げんしけんと重ねるならほんのりと読むべき。
けれど実際、イジワルな作品なんですよ。内容ではなく根本が。
だってげんしけんの方でズバッと「そんな未来」を切り捨てて、でもいまこの漫画が存在しているんだから。残酷にも思えますよ。
でも読めて嬉しいのは本当で、漫画として楽しいのも間違いなくて、なによりキャラクターが愛されているのを感じる。ひねくれていて、意地が悪くて、遊び心の効いた漫画なんですよ。この作品にはそういう特別な熱があります。
読者もきっと作者も、ニヤニヤしながらこれを楽しんでるに違いない。
オビの裏面に書かれた「ま、愛があればたぶん大丈夫」というのはあれですかね
出版社の垣根を超えてしまっても、的なそういうアレか……愛は正義!!
『Spotted Flower』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
眩しいifルート。妊娠中でも積極的な奥さんと、どうしようもない腐れオタクな旦那さんの微笑ましすぎる日々を見よ。