危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻
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持って帰れないなら捨ててください。
女の子ってかわいくて得体の知れないいきものだなぁということを染み染み、深々を感じさせてくれる恋愛漫画の新シリーズ「潜熱」。
ヤクザのおっさんに惚れ込んでしまったウブな女子大生の、静かで熱い季節の物語。
すぐとなりにある非日常と、自分との境界線が、とけてなくなっていくことの恐怖とか、ある種のエクスタシーとか、知らない世界にふっとやってきてしまったようなフワフワとした感覚がある恋愛漫画です。
いわゆる年の差恋愛漫画っていうのだと、アニメ化もきまったあれとかこれとか、人気も高いジャンルではあるんだけれど、そういうキャッチーなものを野田彩子先生が放り込んでくることがまず意外ではありました。
読んだことがあったのが「わたしの宇宙」だったからかな。
それと比べると本作は非常に間口の広い作品でありながら、
言語化出来ない不気味な感情に自分が押し流されていく感覚がリアルに感じ取れる。
切迫したスリリングな駆け引きや、気持ちの変化の断片を嗅ぎ取れる仕上がり。
甘く繊細。それでいてクッキリと光と影を描き出す濃厚なタッチも、「潜熱」という理不尽な感情の暴走を描き出すのにピッタリだ。
「暴力」という、非日常を間近で見る時。
きっと誰しも、心臓が高鳴るはずだ。見てはいけないもの、見たくもないもの、血、破壊、悪意、そういうものから目を背けたくなるはずだ。
主人公はこともあろうにそんな暴力の世界の住人の、しかもオッサンに恋をする。
昔からよく聞くやつだ。ちょっとキケンな匂いを漂わすような男に、女はクラッと来てしまう・・・・・・そんなことあるかぁ????と長年懐疑的な男だったよ俺は。
でも「潜熱」を読むと、その感覚がわかった。
何なのだろうな。このノセガワの意味不明な色気は・・・。
世界のなんでも知っているような高い目線で、知らないことをたくさん知っていて、ちょっとだけ自分を特別扱いしてくれてるような気がいて、
怖くてズルい、『大人の男』。
ダメだよーーーーノセガワは絶対やべぇよーーーーーいい年こいて女子大生のおとなしい娘にちょっかいかけてくる大人とか絶対ロクでもねえよーーーーーー
と叫んでも、ページをめくっているそのさなかには、俺自身のそんな叫びも俺に届かない。
ノセガワさん・・めっちゃシブい・・・格好いい・・・。ロリコン趣味だけど・・・。
おそらく年齢よりも少々幼かった主人公・瑠璃も、みるみるその表情を変えていく。
うぶだった女の子が、いつしか覚悟を秘めた、どこまでも堕ちていきそうな暗い色を、その表情に宿していく。
瑠璃の心がジンと震えるとき、しずかに絶望するとき、ノセガワの言葉に体を熱くするとき、
彼女は本当にいい表情をする。ノセガワも言うほどだ。それはもう、そそるのだ。
おそらく彼女自身、冷静な頭で理解できていた部分もあったはずだ。
触れてはいけない。近寄ってはいけない。好きになっちゃいけない。
けれど「いけない」と脳みそが繰り返すほどに、心は疾まる、熱は高まる。
理不尽なばかりの感情に押し流されて、にじませた言葉をかわされながらも目で追って、そうしてその背広の綺麗な薄い背中に、こびりついた煙草の匂いに、ノセガワの残酷さに、瑠璃は絡め取られていく。
どんなにヒドイことを言われても、自分がただの都合のいい女に過ぎなくても、
あなたは私を見てくれる、褒めてくれる、綺麗だと言ってくれる。
騙されていたっていい。私が選んだんだから。
第一巻のクライマックスの彼女の独白で俺は陥落。
俺はこういう、わけの分からない女心を、そのシナプスの仕組みを、漫画を読んでいるときにだけわかったような気になるからこういう漫画が大好きなんだよ!(酷い)
言葉にできないような複雑な感情を、ほどかず噛み砕かず、そのままを
空気に溶かし込んで、こちらに届けてくれる抜群の描写力もあり
メランコリックで透明ですこしくすぐったい、そして胸を熱くする物語になっているのです。
ヤクザが物語の中心として描かれるも、直接的なバイオレンス表現は少なく
それが逆にノセガワという男の、”熟練”感が増している。
101ページのノセガワの手のアップもドキドキするなぁ。こんなに無骨でエロい手。
そしてさっきも書いたけれど主人公の瑠璃の変貌っぷりにゾクゾクきますね。
こういうタイプが逆に極道のママとして染まってしまうのかもしれない。
どうも、重版とかしてけっこう売れてるようでうれしいです。
2巻もばっちり買う予定。第一話はこちらから試し読みできますよ。
『潜熱』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
悪い男を好きになる。そういうのもきっとわるくない。潜む、熱。ピッタリのタイトルだ。
小学館の青年誌の女性主人公漫画は、こういう路線ホント強いな。
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