過去も未来も かなしみもよろこびも全て 『僕だけがいない街』9巻(外伝)
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誰かいませんかー?
ヒット作となった「僕だけがいない街」第9巻。
本編は8巻で完結しており、9巻はサブキャラクターたちに焦点を当てた外伝集となっています。
9巻として出たのでやや分かりづらい仕様かもしれませんが、内容は充実の一冊。
ヒットした後に、しかも本編が終わったあとで出る外伝って、いかにも商業的な事情を勘ぐってしまうものではあるけれど、大事に描かれていることが伝わってきました。
本編最終話に登場する、主人公のモノローグです。印象的。僕だけがいない街
そこに刻まれた時間こそ 僕の宝物だ
いろんな解釈はあれど、主人公の口から語られた本作タイトルのひとつの答えでもあり、この作品のストーリーを思い返しながら噛みしめると、染み染みと、主人公の感動や切なさや、誇りと感じられるものが、たしかに伝わってきます。
9巻はいわばそこの、「僕だけがいなかった」街の日々を描いた群像劇。
誰もがあの悲劇に縛られながら、しかし主人公が確かに変えることができた日々。
様々な角度からもう一度物語を見つめ直す、番外編にして最後の一幕。
装丁も、特別感があります。実際手に取ると分かるんですけど、「Re:」の形でニス?で加工されています。こういうの好き。家でシュリンク破るまで仕掛けに気が付きませんでした。
『雛月加代』
中学に進学した雛月からスタート。彼女は真相を知らないけれど「自分のためにひどい目に合せてしまった」と人一倍、悟に対する罪悪感が強かった彼女。やはりというべきか、ずっとずっと、献身的に悟の看病をしてくれていた。
本編でも一部語られていた内容ではあるけれど、悟が眠りについているあいだの雛月というのは非常にドラマチックな要素でもあり、読めて嬉しいです。
個人的には最初本編で雛月があの形で再登場して、おもいっきりドキンとさせられたんですが・・・・・・・・こうして見てみると、大正解。中学の雛月、みちゃおれん。
この作品は大人がきちんとカッコいいのも好きだったポイントで
本エピソードはやっぱりかあちゃんが素敵すぎるんだよなぁ
雛月の描写は痛々しくもあるけれど、こんなに多彩な表情を見せてくれて、すごく生命力を感じるんですよね。そういう意味でも、悟の行いの価値が、ここで輝く。
『小林賢也』
いやぁ・・・本編最終話はいいブロマンスでしたね・・・。BLとも違う、友情とも違う。けれど非常に強く結びついた男と男の、使命を共有し戦いを終えた者たちのドラマ、その終着点・・・!!
というわけで主人公・悟のよきパートナーであり理解者であり、ともに事件を追った小林賢也少年のエピソード。
今にしても思えばアホですけど、ミステリアスなキャラだったせいで、本編読んでる最中はじつはコイツが犯人の可能性は・・・?とか考えていました。
しかし今回で彼の中身がすべてわかりましたね。
優等生がゆえの達観や苦悩、そして自らを恥じ、人間としてみるみる成長していく姿を見ることができます。いやぁ、出来た両親だなぁ・・・。
クールだった少年を、情熱が突き動かしていく。シンプルに熱い。
『藤沼佐知子』
作中ナンバーワンのイケメンキャラ。通称かーちゃん(通称ではない)
母親という立場からよりハッキリと悟の動きを見てきた人物でもあり、母親であることからそこに複雑な思いも抱いてきた女性キャラクター。
離婚という過去が悟に与えた影響というのが実はあんがい大きかったのだというのが今になって分かるんだけれど、母親からすると、息子の成長というか変化って本当に著しいものだろうなとも思う。だってある日から突然、息子が中身だけ年食ったんだもんな・・・。
しかし彼女の視線から物語を見ると、俺は彼女を超人的な女性だと思っていた部分があったんだけれど、それは違ったんだなと思う。彼女の素質もあるが、母親なりの気付きが大きい。注意深い観測・観察のなせた技だったのだ。
「でかした あんた達」といい、本当に心強い言葉をいくつもくれた。
母子のキズナもテーマのひとつとなっていた本作だけに、非常にエネルギッシュな番外編でした。読めてよかった。
『片桐愛梨』
本作ヒロインの、本編最終回の直前までのエピソード。
彼女の底抜けのポジティブさというか、キラキラした佇まいって、きっと過去に戻る前の主人公に影響を与えていただろうし、つまり本編の重要人物に間違いない。
ただ、過去の事件に迫るというメインストーリーである以上、どうしても後半からは彼女の出番が少なかったのが寂しかったな・・・が!やはりヒロイン!最後は持っていく!
多くは語りませんが、そしていつの頃かは知りませんが、
物語はコミックスのカバー裏へと続くのです。
その2人分の足跡は、8巻最終話とも見事にリンクしており、いやぁいい終わり方。
しかし雪に閉ざされていく、静寂が際立ったラストシーンのなんと美しい事か。
舞台が雪国であり、そして本編も、時効となり人々の記憶から消えていく事件を解決するための物語だった。
「雪に覆い隠されていく」ことそれ自体が、この作品を鮮烈に彩る風景だった。
覆い隠されたものを暴き、そしてまた未来は雪に閉ざされていく。
という感じで、個々のキャラクタの視点から空白の期間を描いた番外編。
きっちりと8巻で完結した作品ですが、蛇足にならずにうまく読者がみたいポイントを描いてくれている一冊だと思います。
特に傷ついた雛月・ミステリアスな少年だった賢也のエピソードは、作者がなくなく本編から削ったというのが納得の内容の濃さでした。
これでいよいよ一連の「僕だけがいない街」シリーズも完全完結かな。
とても読み応えのあるミステリー漫画でした。著者の新作も楽しみです。
『僕だけがいない街』9巻(外伝) ・・・・・・・・・★★★★
外伝集。読みたかった断片たち。そしてやはり物語の雪の中で終わっていく。
一貫したテーマを感じます。
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