「高木さん」も輩出したゲッサンminiが結構スゴいので読んでほしい
いやぁ「からかい上手の高木さん」のアニメは最高ですね。
幸せすぎる。自分をふりかえって鬱になるとか無い無い。そんなの通り越して高木さんがかわいい。
ちょっと昔のJ-POPのカバーソングを採用するっていうセンスも良すぎませんか。
今やあだち充先生のMIXと並ぶ、ゲッサンの大看板に成長した「からかい上手の高木さん」ですが、もとは雑誌連載ではありませんでした。はじまりは雑誌の付録冊子。ゲッサンにたまについてくる付録「ゲッサンmini」にシリーズ掲載されていき、ネットで人気がワッと拡大して本誌昇格。そっからはゲッサンお前なんかい高木さんを表紙にしてんだよ状態。新人さんが大出世ですよ。ついにアニメも始まりました。
本題ですが。ゲッサンminiはかなりヤバいです。
新しい個性がバンバン飛び出す、滅茶苦茶いい舞台になってます。
創刊号からゲッサンを購読してるので贔屓目ではありますが・・・
「からかい上手の高木さん」が誕生した聖地として、改めて取り上げてみたいと思います。
過去に掲載された中から個人的にお気に入りの作品をプレイバック。
なんとありがたいことに過去作はpixivコミックで読める!
あと最近うぇぶりで「ゲッサンルーキーズ」というコーナーが設けられ毎週作品が掲載されてます。
まぁゲッサン大好きマンの書く記事なので、小学館の回し者程度に思って読んで下さい。
空虚な人たち/吉川皓也(ゲッサンmini2017春掲載)
完全に天才。
ドロリと濁ったような妖しいペンタッチがクセになる。明らかにおかしいテンポが病みを感じさせる。けれど描かれる世界はどこかコミカルでもあったり、キャラクターがしっかりと息づいた魅力的な、魅惑的な漫画を描かれる新人さんです。
なんでこの人は数あるコミック誌からゲッサンを選んだんだと思わなくもない作風。でも読んでみると、不思議とゲッサンの空気からは外れていない(と、思うけどどうなんでしょう・・・
掲載当時から一部界隈がにわかに沸き立っていたこの読み切り。
物語の流れも素晴らしい。インモラルな空気とケロッとしたままの主人公の対比が面白いし、風景がゴチャっと猥雑で。混沌とした空気がたまらない。全編通して無機質じみた雰囲気の中で、かすかに動きをみせる少女の表情ひとつひとつに目が止まる。
語りすぎず、かと言って冷めきってもいない。漫画としての設定温度が絶妙。
いま自由に読める作品はこれだけですがゲッサンで過去に掲載された読み切りもそれぞれ尖りまくってました。埋もれさせてはいけない作品たちです。ぜったいに作品集を出してくれよな・・・!
これが初掲載された作品。
どれもこれも、個性とエンタメの両立が素晴らしい。(ゲッサンmini+2)
おと・ふと/井上まい (ゲッサンmini2016秋掲載)
読み切りとしての完成度で言ったらmini個人的に史上最高峰ですね。
童話的な設定で、見事なストーリー展開と仕掛け。あとは柔らかなタッチが世界観にピッタリ。
夫を探すために禁忌の森へ入った少女が出会ったのは、醜いクマのようなばけもの。不思議な関係がはじまり、少しずつ暖かな空気となっていくんですが・・・
作画のレベルも高いし雰囲気も最高、ラブストーリーとしてもグッとくる。これも埋もれておいてしまってはもったいない名作ですよ。
井上まい先生は「春のムショク」という作品を連載を始めており、もう少ししたら1巻が出るかなーという感じ。
こちらの一捻りが隠された青年と少女の物語。
井上まい先生の作品はやさしい柔らかな世界観で、ギュっと心が締め付けられるような切なさ、叙情をひと味加えるのが上手い。追いかけていきたい作家さんです。
(デカッ)
16歳でデビューを飾った仲沢ゆうか先生の作品を紹介。
ツイッターで貼られた作品は本紙掲載だったのでいまWEBでは見られないんですが、読める2作を。
東京ハイドソング (ゲッサンmini2016秋)
「東京ハイドソング」。音楽で殺され、音楽に救われていく人間のお話。心をへし折れる瞬間をばっちり描いてくれるので結構しんどいお話なんですが、そのぶんスカッとしますね。主人公の冴えないキャラクター性とか好きだったので、連載になったりしないかなーと密かな期待を寄せている。
この主人公がのし上がっていくの見たいよな。
吉野のおわり (ゲッサンmini2018冬)
「吉野のおわり」はこないだ掲載されたばかりの最新作。あまりにもエモ雪を多用してくるため問答無用で心臓に圧をかけてくる。
いきなり幼馴染に先立たれ始まる物語。非常にモノローグ的な短編なんですが、それゆえに作家さんのセンスがむき出しになっている。イラストとポエムの融合率の高さよ。
少年の死後、思い出をたどりながら自分の思いを見つめ直していく。無くしてから気づく。あれは恋なのだったのだと。
僕と彼女の発明(ゲッサンmini+ 7号)
犬養友先生の作品は結構いろんな方向性の作品を発表しています。ちょっとブラックだったりほんわか系だったり。その中でも1番お気に入りの作品。
天才がゆえにクラスから浮いてしまった少女と、素直になれないけれど彼女を見守る主人公の、思春期全開のこそばゆいお話。ラブコメと呼べるほどハッピーでもないけれど、少しだけ社会からはみ出したってそれでもいいじゃんって気楽に笑ってくれるような開放的なラストが印象的。
欠席0 (ゲッサンmini2017秋)
真田先生は近年のゲッサンのデビュー作家の注目株。エモいやつ描いてくれる人です。
絵柄の可愛らしさとキャラクターたちの掛け合いがなんともおかしくて、それなのにこの作品みたいに心にチクリとトゲが残るような作品を描いてくれる。侘び寂びですよね(???)
終盤のヒロインの表情で一発で心を鷲掴みされました、すべて物語ってますよ、そしてこれが全てなんだよな。
おかえりやさしい季節 (ゲッサンmini2017冬)
菊屋あさひ先生の描く作品は、作中で炸裂する感情がメチャクチャ生々しい。
怒りも悲しみも虚無も自己嫌悪を、ネガティブでしかも身に覚えがある葛藤を描くことが多い。
行き場のない気持ちを、どう落とし込むか。解決も解消もされないたったいま目の前にあるリアルと、どう向き合うか。
内省的なテーマを描き続けるがゆえに、きっと刺さる人にはぶっ刺さる殺傷能力の高さがたまらない。尖った作家さんが好き。よむたびに傷ついて、そしてちょっとスッキリする。自傷行為に似た。
あと新作がサンデーうぇぶりで公開されてます。2作。
海の底のヨーコ先生 http://www.sunday-webry.com/contents/33677
くっら。どうなってんだよ。でもラストの演出とか目頭が熱くなってしまう。家族というある種の牢獄、強すぎる繋がりに縛られ苦しむ人のリアルな痛みが、そしてほんの少しの救いがある。
ごめんなさいの夕暮れ http://www.sunday-webry.com/contents/34077
くっらい、くらいよ。一生引き摺ってしまいそうな思春期のトゲ、暗い罪悪感。うんうん、それもまた百合だね。たまらんやつです。
雑誌をよむ楽しみって、好きな連載を追うことはもちろん、新人さんの作品にいちはやく触れることができることだと思ってます。好きな雑誌に新しく載る作家さんって、それだけで自分へのヒット率高いし。
そういう意味でゲッサン系の新人作家さんは個人的にお気に入りがとても多くて
いっかいどこかで紹介したいと思ってたので今回記事にまとめてみました。
ゲッサンは新人さんの漫画だけ載った別冊付録がつくのも嬉しい。アフタヌーンは四季賞ポータブルをやめてしまいましたからね・・・。今後も続けてほしい。
幸せすぎる。自分をふりかえって鬱になるとか無い無い。そんなの通り越して高木さんがかわいい。
ちょっと昔のJ-POPのカバーソングを採用するっていうセンスも良すぎませんか。
今やあだち充先生のMIXと並ぶ、ゲッサンの大看板に成長した「からかい上手の高木さん」ですが、もとは雑誌連載ではありませんでした。はじまりは雑誌の付録冊子。ゲッサンにたまについてくる付録「ゲッサンmini」にシリーズ掲載されていき、ネットで人気がワッと拡大して本誌昇格。そっからはゲッサンお前なんかい高木さんを表紙にしてんだよ状態。新人さんが大出世ですよ。ついにアニメも始まりました。
本題ですが。ゲッサンminiはかなりヤバいです。
新しい個性がバンバン飛び出す、滅茶苦茶いい舞台になってます。
創刊号からゲッサンを購読してるので贔屓目ではありますが・・・
「からかい上手の高木さん」が誕生した聖地として、改めて取り上げてみたいと思います。
過去に掲載された中から個人的にお気に入りの作品をプレイバック。
なんとありがたいことに過去作はpixivコミックで読める!
あと最近うぇぶりで「ゲッサンルーキーズ」というコーナーが設けられ毎週作品が掲載されてます。
まぁゲッサン大好きマンの書く記事なので、小学館の回し者程度に思って読んで下さい。
空虚な人たち/吉川皓也(ゲッサンmini2017春掲載)
完全に天才。
ドロリと濁ったような妖しいペンタッチがクセになる。明らかにおかしいテンポが病みを感じさせる。けれど描かれる世界はどこかコミカルでもあったり、キャラクターがしっかりと息づいた魅力的な、魅惑的な漫画を描かれる新人さんです。
なんでこの人は数あるコミック誌からゲッサンを選んだんだと思わなくもない作風。でも読んでみると、不思議とゲッサンの空気からは外れていない(と、思うけどどうなんでしょう・・・
掲載当時から一部界隈がにわかに沸き立っていたこの読み切り。
物語の流れも素晴らしい。インモラルな空気とケロッとしたままの主人公の対比が面白いし、風景がゴチャっと猥雑で。混沌とした空気がたまらない。全編通して無機質じみた雰囲気の中で、かすかに動きをみせる少女の表情ひとつひとつに目が止まる。
語りすぎず、かと言って冷めきってもいない。漫画としての設定温度が絶妙。
いま自由に読める作品はこれだけですがゲッサンで過去に掲載された読み切りもそれぞれ尖りまくってました。埋もれさせてはいけない作品たちです。ぜったいに作品集を出してくれよな・・・!
これが初掲載された作品。
どれもこれも、個性とエンタメの両立が素晴らしい。(ゲッサンmini+2)
おと・ふと/井上まい (ゲッサンmini2016秋掲載)
読み切りとしての完成度で言ったらmini個人的に史上最高峰ですね。
童話的な設定で、見事なストーリー展開と仕掛け。あとは柔らかなタッチが世界観にピッタリ。
夫を探すために禁忌の森へ入った少女が出会ったのは、醜いクマのようなばけもの。不思議な関係がはじまり、少しずつ暖かな空気となっていくんですが・・・
作画のレベルも高いし雰囲気も最高、ラブストーリーとしてもグッとくる。これも埋もれておいてしまってはもったいない名作ですよ。
井上まい先生は「春のムショク」という作品を連載を始めており、もう少ししたら1巻が出るかなーという感じ。
こちらの一捻りが隠された青年と少女の物語。
井上まい先生の作品はやさしい柔らかな世界観で、ギュっと心が締め付けられるような切なさ、叙情をひと味加えるのが上手い。追いかけていきたい作家さんです。
とにかく読んでください!!
— ゲッサン編集部 (@gessanofficial) 2016年3月11日
弱冠16歳の瑞々しい感性に編集部一同震撼!!
第80回ゲッサン新人賞準グランプリ受賞作、
『左斜め前からの救世主』仲沢ゆうかを緊急掲載!!?
『ゲッサン4月号』は本日発売!! pic.twitter.com/wpQfqyipIK
(デカッ)
16歳でデビューを飾った仲沢ゆうか先生の作品を紹介。
ツイッターで貼られた作品は本紙掲載だったのでいまWEBでは見られないんですが、読める2作を。
東京ハイドソング (ゲッサンmini2016秋)
「東京ハイドソング」。音楽で殺され、音楽に救われていく人間のお話。心をへし折れる瞬間をばっちり描いてくれるので結構しんどいお話なんですが、そのぶんスカッとしますね。主人公の冴えないキャラクター性とか好きだったので、連載になったりしないかなーと密かな期待を寄せている。
この主人公がのし上がっていくの見たいよな。
吉野のおわり (ゲッサンmini2018冬)
「吉野のおわり」はこないだ掲載されたばかりの最新作。あまりにもエモ雪を多用してくるため問答無用で心臓に圧をかけてくる。
いきなり幼馴染に先立たれ始まる物語。非常にモノローグ的な短編なんですが、それゆえに作家さんのセンスがむき出しになっている。イラストとポエムの融合率の高さよ。
少年の死後、思い出をたどりながら自分の思いを見つめ直していく。無くしてから気づく。あれは恋なのだったのだと。
僕と彼女の発明(ゲッサンmini+ 7号)
犬養友先生の作品は結構いろんな方向性の作品を発表しています。ちょっとブラックだったりほんわか系だったり。その中でも1番お気に入りの作品。
天才がゆえにクラスから浮いてしまった少女と、素直になれないけれど彼女を見守る主人公の、思春期全開のこそばゆいお話。ラブコメと呼べるほどハッピーでもないけれど、少しだけ社会からはみ出したってそれでもいいじゃんって気楽に笑ってくれるような開放的なラストが印象的。
欠席0 (ゲッサンmini2017秋)
真田先生は近年のゲッサンのデビュー作家の注目株。エモいやつ描いてくれる人です。
絵柄の可愛らしさとキャラクターたちの掛け合いがなんともおかしくて、それなのにこの作品みたいに心にチクリとトゲが残るような作品を描いてくれる。侘び寂びですよね(???)
終盤のヒロインの表情で一発で心を鷲掴みされました、すべて物語ってますよ、そしてこれが全てなんだよな。
おかえりやさしい季節 (ゲッサンmini2017冬)
菊屋あさひ先生の描く作品は、作中で炸裂する感情がメチャクチャ生々しい。
怒りも悲しみも虚無も自己嫌悪を、ネガティブでしかも身に覚えがある葛藤を描くことが多い。
行き場のない気持ちを、どう落とし込むか。解決も解消もされないたったいま目の前にあるリアルと、どう向き合うか。
内省的なテーマを描き続けるがゆえに、きっと刺さる人にはぶっ刺さる殺傷能力の高さがたまらない。尖った作家さんが好き。よむたびに傷ついて、そしてちょっとスッキリする。自傷行為に似た。
あと新作がサンデーうぇぶりで公開されてます。2作。
海の底のヨーコ先生 http://www.sunday-webry.com/contents/33677
くっら。どうなってんだよ。でもラストの演出とか目頭が熱くなってしまう。家族というある種の牢獄、強すぎる繋がりに縛られ苦しむ人のリアルな痛みが、そしてほんの少しの救いがある。
ごめんなさいの夕暮れ http://www.sunday-webry.com/contents/34077
くっらい、くらいよ。一生引き摺ってしまいそうな思春期のトゲ、暗い罪悪感。うんうん、それもまた百合だね。たまらんやつです。
雑誌をよむ楽しみって、好きな連載を追うことはもちろん、新人さんの作品にいちはやく触れることができることだと思ってます。好きな雑誌に新しく載る作家さんって、それだけで自分へのヒット率高いし。
そういう意味でゲッサン系の新人作家さんは個人的にお気に入りがとても多くて
いっかいどこかで紹介したいと思ってたので今回記事にまとめてみました。
ゲッサンは新人さんの漫画だけ載った別冊付録がつくのも嬉しい。アフタヌーンは四季賞ポータブルをやめてしまいましたからね・・・。今後も続けてほしい。
クリスマスはエロ漫画だよ2017!
更新ペースは死んでても毎年これだけはやると決めてます
クリスマスはエロ漫画だよ2017!!
去年のクリスマスから今日までの間に出た成年向けコミックスから私的TOP10をピックアップ。
基準は適当ですが、基本的にちんこに従ってるので抜き重視です。毎年のことですけどね。
↓過去のエロ漫画総括記事
クリスマスだからエロ漫画2010!
クリスマスこそエロ漫画だよ2011!
クリスマスだしエロ漫画2012!
クリスマスなんだしエロ漫画2013!
クリスマスなのでエロ漫画2014!
クリスマスだよエロ漫画2015!
クリスマスはエロ漫画だよ2016!
毎年の苦悩なんですが、クリスマスという中途半端な時期のイベントに合わせて更新するので
12月末発売の作品を入れられないってあたりが悔しい限り。ひげなむち先生とか出るし…
ですが、そんな中で選んでみました。よろしければ今年もお付き合いください。
以下、もちろんですが18歳未満閲覧禁止です。
クリスマスはエロ漫画だよ2017!!
去年のクリスマスから今日までの間に出た成年向けコミックスから私的TOP10をピックアップ。
基準は適当ですが、基本的にちんこに従ってるので抜き重視です。毎年のことですけどね。
↓過去のエロ漫画総括記事
クリスマスだからエロ漫画2010!
クリスマスこそエロ漫画だよ2011!
クリスマスだしエロ漫画2012!
クリスマスなんだしエロ漫画2013!
クリスマスなのでエロ漫画2014!
クリスマスだよエロ漫画2015!
クリスマスはエロ漫画だよ2016!
毎年の苦悩なんですが、クリスマスという中途半端な時期のイベントに合わせて更新するので
12月末発売の作品を入れられないってあたりが悔しい限り。ひげなむち先生とか出るし…
ですが、そんな中で選んでみました。よろしければ今年もお付き合いください。
以下、もちろんですが18歳未満閲覧禁止です。
2017年上半期 面白かった新作コミックス12作
あっさりと2017年が折り返してしまったぞ。どうなっているんだ。
ということであまり更新もできぬままこのザマですが、せっかくなので上半期のまとめ的な記事でも。
「新作コミックス」というのは、今回の括りで言うと、第1巻だったり単巻モノだったりを指します。
なぜ12作かと言うと、10作のつもりでガーッと書き始めて、あとで数えてみたら12個分だった・・・
ということで。順番はあまり関係ないです。 ↓↓↓
狭い世界のアイデンティティー/押切蓮介
押切蓮介先生は本当に多彩で多作だ。
新作である「狭い世界のアイデンティティー」はズバリ漫画家マンガである。
しかも思いっきり歪ませた、おふざけ全開の、血で血を洗う漫画家バトルロワイヤルだ・・・!!
兎にも角にも勢いが素晴らしい。第一話の冒頭からぶっちぎってカッコいいので読んでいない方はぜひこちらからでもどうぞ
→http://morning.moae.jp/lineup/681
このヤケクソテンション!胸焼けしそうな殺気!一度漫画家が寄り集まれば、そこは修羅の巷!!
幾多もの天才たちが蠢く漫画界、そこに誰ひとりとして凡人は存在しない!!己のプライド、欲望、承認欲求、漫画愛・・・さまざまな感情が交錯しハチバチと爆ぜる!!
主人公は、兄を出版社に殺され復讐に燃える少女。
生半可な覚悟では生き残れない過酷なマンガ業界。そこに彼女は挑んでいくのだ。己の漫画が・・・2割くらい・・・!!のこりは大体暴力で解決し、のし上がっていく!!!ライバルたちを蹴散らしその頂上への駆け上るのだ!!
破茶目茶なギャグテイストが濃厚な本作ですが、過剰に描写した中にも漫画家の本音のようなものも潜んでいる気がして(出版社の忘年会で渦巻く欲望だとか・・・)なかなか笑っているだけで終わらせるのももったいない。耳を済ませて、この下らない騒音の中に潜んだ本当の声を探してみたくなる。すごく繊細で、ギャグっぽく照れ隠しした何かが、熱いものが、たしかにこの漫画にはある。
それはきっとこんな漫画を手にとるような、漫画が好きな人にこそ分かる気がする。
明日ちゃんのセーラー服。/博
表紙の”圧”やばくないですか!?もうなんにも知らなくてもレジ直行、表紙買いセンサーとかまったく無意味の圧倒的な暴力性。かわいい女の子の本を買いたい。ソレだけなんだよ!
と思ったら中身もすごいんです。「明日ちゃんのセーラー服。」はかわいい顔してかなり尖った漫画ですよ!
作者「博」先生と言えば「アクアリウム」から素晴らしく美麗かつ多彩な少女絵描きさんという印象でしたが、本作はさらに特性を爆発されたような感じ。
ストーリーはシンプルで、田舎の名門中学にあたらしく入学した主人公、明日小路ちゃんの学校生活を描いた、おだやかな日常者。目標は、友達をたくさんつくりたい。みんなと仲良くなりたい。なんて等身大の願いだろうか・・・優しい気持ちになれる・・・。
個人的にも大好きなんですが、フェチ写真家の青山裕企さん写真集のような
「ここの動作に、この一瞬に目をつけるか!」と言ったような驚きと輝きがちりばめられていて、自分の中に新しい視点が生み出されていく。
ただ髪を結ぶだけのシーンをじっくり描いてみせたり、極端な例を上げると、アイドルを夢見る小路ちゃんが妄想の中でアクロバティックなキメシーンを炸裂させるその妄想の中身を、1ページまるまる使った大ゴマを14ページも連続させて描写したり。
つまりフェチ描写を優先させるがあまりコマ割も放棄して、イラスト集はたまたパラパラ漫画のような構成になる瞬間が度々ある。この情熱のほとばしる感じ、たまらない。
ここらへんはWEB掲載漫画ということも影響しているのだろうけれど、なんというか非常に21世紀的な、『ディスプレイで読む漫画』としての特性を備えているように感じます。
それなのに、個人的には紙のコミックスで読むことがとてもうれしい。
あどけない少女たちが一瞬、ほんの僅かみせるゾクリと背筋が震えるような”魔力”を、みごとに神とインクで閉じ込められている魅惑のコミックスなのですよ。まさに、宿っている、のだ。
それの最たるものがこの表紙。冒頭に戻りますが、”圧”やばくないですか。
物語の面白さというより創作物として独特の存在感を放つ一作。
ツイッターで絵師さんが投下するモノクロ1枚絵の少女絵をとかをお気に入りに放り込んでいるようなムッツリスケベに是非読んでほしい。
不滅のあなたへ/大今良時
「聲の形」という傑作を送り出した作者の新連載。
期待の大きかったであろう中で繰り出してきたのは、けっこう予想外だった。SFでもあるが、冒険ファンタジーと読んでもいいのだろうか。それにしたって哲学的だ。けれど王道のようにも感じる。個人的にはなんだか少し、漫画版のナウシカのような雰囲気にも感じます。
もしくは雰囲気で言うと、半世紀くらい昔の、外国の冒険小説みたいな。
後に不死<フシ>と呼ばれる生命を、神は世界へと産み落とした。
それは死者の肉体を借りながら次々に形を変え、世界を彷徨っていく。
おぼろげな思考。おぼろげな本能。様々な出会いを経て、フシは変化をしていく。
まとめてみるとシンプルなんだけど大今先生の独特のテンポや描写力によってグッと深みを増した、とにかくメッセージ性の強い作品に感じます。
生命における死だとか、理不尽な掟、絶望的な暴力・・・
世の中のいろいろな”抗いがたいもの”に対する強い怒り。そして反抗心。
肉弾戦という括りだけではなくメンタル的な部分も含め、広義な「戦い」が展開されていく。読んでいると本当に心が突き動かされる。今年になって漫画を読んで泣いた経験は、たぶんこの作品だけだったかもしれない。
誰かが残したメッセージをフシは受けとり、そのつもりは無くても誰かに繋いていく。フシは主人公として、メッセンジャーの役割を担っているのですね。
ストーリーの緩急の付け方もお見事。個人的には、数巻溜まってから一気読みすると面白さ倍増パターンの漫画かなとも思います。
おじさんとみーこ/朝日 悠
やさぐれ金髪おじさんが、初心なJCを手篭めにするお話。
それはもう語弊もなんでもなくストレートにそういう話で、生理的に付け付けないという人もいるだろうとは思う。が!!!そんなことは!!!どうでもいい!!!
いいか俺はちょっと背伸びした危険な恋にゾクゾクしてるJCを眺めていたいんだよ!!!
身寄りをなくした少女のもとへ、おじさんがやってくる。
互いに孤独を内に抱えた2人は共鳴するかのように、ぬくもりを、安らぎを求めていく。
少女漫画らしいほわほわと幼気なタッチから紡ぎ出される物語は、絵柄で緩和はされてはいるが、非常にアダルトでいやらしい世界観となっている。
だってもう、流し目でタバコ蒸す怖いおじさんと、いたいけな女の子が同居してですね、もうイチャイチャちゅっちゅしまくりなんですよ。そりゃヤルことヤってますし。思いの外遠慮なくエロいよ。
1巻ではゲスト的に部外者の男性が登場し、ズバリ2人の関係性を異常だと指摘する。しかし少女は静かに彼と決別を果たす。哀れんでくれる男性の手を取らず、より闇を深くしていく。ここらへんの演出は同人誌版とくらべても秀逸だった。
世界から疎外されているような、薄暗い空洞がどちらの胸にも存在して
まるでその深さを確かめ合うように、やはり抱きしめあってしまう。
切迫した2人の心理描写と、ドロッドロになるまで甘くなったイチャラブシーンの波状攻撃にすっかりやられてしまうのです。下巻のカラー口絵なんかもう泣けてしまうから・・・。
コミティアで通ってシリーズを買い集めてたんですが商業出版化。
前からちょくちょくある流れのやつですが、なんだかんだで嬉しい半面ちょっとさみしいヤツですよね。
しかし商業単行本として冷静にこの漫画を読むと、あまりにも強いコミティア臭にクラクラしてしまう。あの”におい”、我々の脳みそに直接感覚を呼び覚ましてくれる。
日々是平坦/迂闊
あぁァーーーーーーこんな青春が欲しかった。それだけなんだよ。
迂闊先生が楽園本誌とWEB増刊で連載しているふたつのシリーズをパッケージした「日々是日常」の1巻。
収録の2シリーズが毛色が違っていて、同じ学校で同じ時間を共有しているはずなのに、“バカサイド”と”リア充サイド”では文字通りに見えている世界が違っていることが丸分かりになっている一冊なのです。
おバカたちは楽しくどうでもいいことで盛り上がっている一方で、
初めてのお付き合いに戸惑い赤面しあってしまうような初々カップルがいる。
けれどどちらかを選ぶこともできないような幸福さ。いわば両A面盤!
青春の美味しいところばかり食べてしまおう。レッツ・ハイスクール!(謎)
なんといっても『純粋男女交際』がね、ほんと、もうむり。
彼らの脈拍が、吐く息の湿り方が、ふとした瞬間に目を奪われる静寂が、全部生々しい。
真面目なばかりの2人だけと、周囲がイメージしているよりかは、ちょっとだけナイショが多かったりして。ちょっとだけ(きっと)走りすぎていたりして。
非常にプライベートな内容を、第三者目線のモノローグが気持ちのいい切り取り方をしてくれている。
体が温まった所でやってくる『日々是平坦』のバカバカしさで一気に喉越し良くなる感じ。意味わからんな。なんかグイッとツルッと行ける面白さなんですよ。
そんなこんなの一冊。よくあるようでなんだか特別。迂闊先生の描く女の子はみんな健康的で素晴らしい。
ルポルタージュ/売野機子
2033年。恋愛する者がマイノリティとなった社会が舞台。
売野機子先生といえば詩的な恋愛漫画の名手ですが、最新作「ルポルタージュ」はまさに売野ワールドが全開になっている。
”飛ばし”結婚という現代的な結婚・・・恋愛感情を必要としないパートナシップのような共存生活を人々が選択している。
この社会においては、結婚相手とは『共同経営者』という考えなのだ。
現代の思想のその先を見せてくれる設定、有り得そうな近未来のビジョン。
そんな中でテロ事件を追う主人公が、とある男と出会ったことで
さらに深く事件へと巻き込まれていく。そして、恋をする。
もともと好きな作家さんではあったけれど、本作はとくに作家さんの独自色が色濃く出ているように感じますね。まさしく真骨頂と言える。
描かれている世界観も素晴らしい。恋愛は人生に必要不可欠だった時代はもうとうに終焉していて、人々は次の生き方を見つけている。そんな時代に、あえてムダな恋愛に落ちてしまう。もはや本能的に、直感的に、致命的に、誰かを好きになってしまう。その理不尽さに誰も抗えない。
「非・恋愛コミューン」というシステムも描き方も、刺さる所がありますね。
大恋愛の果てに結ばれても、離婚する夫婦ばっかりだ。
そんなのを見ていれば恋愛がおっくうにもなるし、もっとシンプルで「めんどくさい」という感情に支配されてしまう。
それならば最初から相手をしっかり見極めて、全て計算して調整して、安心で丈夫な『強い家庭』を作っていこう、と。まるで自衛策のようで。傷つきたくないという思いが強い、省エネ主義的な思想も、非常に現代的に感じますね。
続刊においてはどんどんとこの世界観の深掘りもされていくことでしょう。
それに、こんなに鮮やかに1巻を締めくくられては、2巻も買うしかない。
売野機子という才能の在り処がきちんと見つけられたような作品。
「自分は恋をしなくても生きていけると 思っていた頃があったんだってさ…」
おとなとこども、あなたとわたし。/糸なつみ
「年の差」がテーマのオムニバス漫画。もうテーマから絵から内容から全部好き。コミックitというKADOKAWAの中でもちょっと異質な女性向け誌に掲載されており、コミクスが出るまで知らなかったのですが、読んでみたらもうドンピシャ。まぁコミックit自体がそもそも好みだったということもある。
1巻2巻が同時発売されたのですが、1巻だけ最初に買って、次の日にはすぐ2巻を買いに行ってましたね・・・。
3つのストーリーがありまして、1巻につき各1話ずつ、同時進行していく。
それぞれが違った角度から「年の差」を軸にしたドラマが展開され、それは切々とした恋のお話だったり、すでに亡くなった人物によって繋がれた疑似家族だったり、同じオフィスで務める女性同士の交流だったり・・・
読んでいると作者の年の差属性の強さを感じる。生半可なものではないのですよ。年の差によって隔たれた人生観。視線の違い。年をとる事で失ってしまったもの・・・。
生きてきた時間の違い。それは時に残酷なほどに人々の間を切り裂き、すべてを傷つけていってしまう。シビアな側面もかなりフィーチャーされていきます。
いわゆるオトナ女子向け、レディース漫画っぽい内容ではありますが
ソフトな絵のタッチと、作者のエモい完成によって幅広く受け入れられそうな作品ですね。
3つのストーリー、それぞれ甲乙つけがたいほどに味わい深く、「どれ派」かでも知り合いと話し合ってみたいくらい。いやぁ。年の差OLのオフィスドロドロ物語、イイヨネ。
怒りのロードショー/マクレーン
映画好きの「語り」をメインに据えたような作品、いくつか浮かびますが、中でも個人的にはこれが好きかなぁという一作。
絵も内容も荒削りなんだけれど、ソレがゆえに我武者羅なエネルギーがビシバシ放たれている。
そもそもペンネームが「マクレーン」て。その時点で相当おバカな香りが漂ってきますね。
とっても下らない、しかし愛にあふれる映画好きたちの日々。
時に言い争いをしたり、時にいっしょの映画を見て震え立ちあるいは涙する!
ぶっちゃけ読んでてよくわからないネタも頻出する。映画好きなら拾えるものが多いと思うけれど、有名な筋肉映画をそんなに見れていない自分はクエスチョンマークもいっぱいだ。でも面白い!!例えば友達が必死なテンションでオタクトーク全開してたら話の意味はわからなくても面白いじゃない?そういう感じなんです。そして話をきいているとワクワクする。ムズムズしてくる。俺も、その映画、みたい・・・!!!
というか実は映画語りと同時進行的に「オタク」という人種の生き様も熱く描いてくれる。
理解もされず、むしろ違う方面のオタクから理不尽な争いを持ち込まれたり、なんなら同じ映画オタクの中でも娯楽主義or芸術主義といった火種がそこかしこに散りばめられる。
なんというかこの漫画は際どい。ブレーキ積んでいない車みたいに、楽しい気分のまま次には冷水ぶっかけられるようなスリリングな展開が待ち受ける。
けれど結局は、自分の大好きなことを誰かを共有できる歓びが、この作品の圧倒的な肯定感を裏付ける。
あと出てくる女の子がだいたいとても優しくておちんちんにくる。(お姉ちゃんはNG)
幸色のワンルーム/はくり
少年は大好きな大好きなだいすきな少女を誘拐した。そんな危ないオープニング。
欲望のままのその行動は結果、どん底にいた少女を救い出すことになった。
しょせん誘拐犯とその被害者というただそれだけの共存。
なのにそのワンルームに、不思議な温かさが宿ってゆく。
なんて危うい漫画なんだろう。
エンターティメントとしてこの漫画を飲み込むことができない人だって、きっと大勢いる。けれどこんなにも切実に、お互いの空白を埋めることだけを目的とした共存関係を。スレスレで恋愛に陥らないような、もはや手遅れないような、この不思議な絆を。じっと見守りたくなる人も大勢いるはずだ。
発売、即重版。自分もしばらく入手ができず、たまたま入った小さな本屋で初版を購入できましたが、非常に話題性のある作品であることは間違いない。
どうしようもなく寄り添うことでしかもう生きていけないことを、お互いに知ってしまったのに、「誘拐犯」「被害者」という関係性でしかお互いを赦すことができない。だからイビツな感情にふたりともが絡め取られていく。
あまりにも純粋な将来の誓いを、彼らは破滅のために結ぶ。
だからギリギリで心を許し合わないような、けれど自身が理解しきれていない本能レベルで互いに依存してしまっているような、あまりにも切実で子供じみた男女のストーリーに転がり込んでいくのです。いわゆるエモいってやつなんだよな。
ぶっちゃけ読んでスッキリする話なんかじゃなくて、ニヤニヤゴロゴロできるものでもなくて、描かれている人間の汚さとか世界の歪みとか理不尽な暴力とかに目を覆いたくもなる。でも素直に、幸せになってほしいなと、祈りたい。
商業連載ではあるけれど非常に『ネット』の世界のあの、というかこんな感じの、いろんな黒いものを感じる作品ですね。
たとえとどかぬ糸だとしても/tMnR
大好きなtMnR先生の商業デビュー作。モチロン最高だった(条件反射)
同一作品ジャンルでたぶん人生で1番買い漁ったのが「ラブライブ!」同人で、好みのCPはあれどわりと無差別にシリアス系のを収集していましたが、そこから商業誌に進出してくれました。
そんなデビュー作ですが、もうあらすじの時点で勝利を確信ってもんですよ。
やったぜ・・・。
というか1巻の内容、ほぼほぼこのあらすじに集約されてしまうんですが。
なんといっても可愛らしい絵のタッチと、ヒリヒリとしたモノローグのバランスが絶妙。痛くても痛くても、恋心を手放すことができない苦しみ。幸せなれるわけがないと自分を諭しておきながら、それでも堕ちていく悲しい矛盾。
主人公の少女の苦悩に身をよじりつつ、しかりながらその恋の相手である薫瑠さんの天真爛漫な魅力と、その包容力!
薫瑠にとって主人公は、夫の妹で、幼馴染で、守りたい家族で――
そんな風に”特別”に扱われるほどに、よけいに拗れていく片想い。
不憫な恋をする男女のことがだいすきなみんな~~~! ・・・ここが楽園だ・・・
初情事まであと1時間/ノッツ
大発明だ。そう言うほかない至高のコンセプトはずばりタイトルそのままだ。
例えばサッカーで歴代の名試合・名プレイを集めた番組があったとして、見てる誰しもが試合中のムービーを見ながら「このあとなんかあってゴールして得点が入るわけね」って分かりきっているわけじゃないですか。でも滅茶苦茶楽しい。綺麗に場面が繋がって、そして最高潮のシーンで結ばれる。結果が分かっていても、いや結果がわかっているからこそワクワクしながら過程を見守れる。
くどい例えをしてしまったけれど本作が楽しいのもそれなのだ。
結果ヤッてしまうと分かっていながら読み進めて、そしてまんまと”そういう流れ”に発展していった時、興奮と安心が一度にやってきて最高に幸せ。最高のカタルシス・・・!
ちょっぴり情けない男の子や女の子が、それを受け入れてくれる誰かに触れる・・・
というそれだけで、その瞬間の奇跡の価値で涙腺がぶっ壊れてしまうのだ。
コンプレックスがあったり、人と接するのが怖かったり、変化を恐れたり
様々な理由があって、けれどそれを踏み越えてしまう愛おしい瞬間たち。
すこしだけ、男性側が受け身体制のものが多いことが気にかかる所ではあるけれど、まぁ女の子から積極的に来てもらって悪い気がするわけがねぇんだよな(悟)
もとはコミティアで発行された同人誌がはじまり、当時から大好きだったシリーズです。それが連載となりもっといろんな世界の「初情事まであと1時間」をニマニマ楽しむことができるようになった奇跡・・・。500巻くらい続いて欲しい。
あさは、おはよう/大澄 剛
あれ、これ去年末発売だった・・・まぁいいや・・・。
書影ではモノクロで少女の笑顔が描かれていますが、これ実際に書店で買うと表紙下部分のイラストを覆うような大きいカラーオビが巻かれていて、それをとると少女の笑顔が現れる仕掛け。
もともとオビと本体が一体となったデザインって大好きなんですよね。
本作で言うと、これが本編を読むとまた二重に意味が変わってきて、「本」としての面白さがある。こういう見せ方や演出で紙のコミックスならではの意味を持たせてくれるの好き。
内容としては家族ドラマだったり青春物語だったり、人情モノのオムニバス6作。
それぞれ単独としても楽しめるんですが、微妙につながりがあったりして、
その中心にあるのが表紙の女の子ですね。
特にすきなのはノスタルジーあふれる少女同士の絆を描いた「イコール」、幼少の恋心との決別、あるいは新たな始まりを感じる「さよならわんぱく」。この2作がお気に入りなですが、短編集として雰囲気も統一されており、ついつい涙腺が緩んでしまうような、優しさと切なさと眩しさが詰まった本になっています。
話題になるタイプではないせよ、素直に、暖かな漫画ですね。
発売年的にルール違反(まぁ縛りという意味で)ではありましたが、触れておきたい漫画だったので。
そんな12作でした。
新作開拓も過去と比べるとかなり減っては来てしまいましたが、なんだかんだで表紙買いとか結構してしまうんですよね。次もこの縛りで更新やるかどうかは分かりませんが。またよろしくお願いします。
ということであまり更新もできぬままこのザマですが、せっかくなので上半期のまとめ的な記事でも。
「新作コミックス」というのは、今回の括りで言うと、第1巻だったり単巻モノだったりを指します。
なぜ12作かと言うと、10作のつもりでガーッと書き始めて、あとで数えてみたら12個分だった・・・
ということで。順番はあまり関係ないです。 ↓↓↓
狭い世界のアイデンティティー(1) (モーニングコミックス) 押切蓮介 講談社 2017-04-21 売り上げランキング : 11164 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
狭い世界のアイデンティティー/押切蓮介
押切蓮介先生は本当に多彩で多作だ。
新作である「狭い世界のアイデンティティー」はズバリ漫画家マンガである。
しかも思いっきり歪ませた、おふざけ全開の、血で血を洗う漫画家バトルロワイヤルだ・・・!!
兎にも角にも勢いが素晴らしい。第一話の冒頭からぶっちぎってカッコいいので読んでいない方はぜひこちらからでもどうぞ
→http://morning.moae.jp/lineup/681
このヤケクソテンション!胸焼けしそうな殺気!一度漫画家が寄り集まれば、そこは修羅の巷!!
幾多もの天才たちが蠢く漫画界、そこに誰ひとりとして凡人は存在しない!!己のプライド、欲望、承認欲求、漫画愛・・・さまざまな感情が交錯しハチバチと爆ぜる!!
主人公は、兄を出版社に殺され復讐に燃える少女。
生半可な覚悟では生き残れない過酷なマンガ業界。そこに彼女は挑んでいくのだ。己の漫画が・・・2割くらい・・・!!のこりは大体暴力で解決し、のし上がっていく!!!ライバルたちを蹴散らしその頂上への駆け上るのだ!!
破茶目茶なギャグテイストが濃厚な本作ですが、過剰に描写した中にも漫画家の本音のようなものも潜んでいる気がして(出版社の忘年会で渦巻く欲望だとか・・・)なかなか笑っているだけで終わらせるのももったいない。耳を済ませて、この下らない騒音の中に潜んだ本当の声を探してみたくなる。すごく繊細で、ギャグっぽく照れ隠しした何かが、熱いものが、たしかにこの漫画にはある。
それはきっとこんな漫画を手にとるような、漫画が好きな人にこそ分かる気がする。
明日ちゃんのセーラー服 1 (ヤングジャンプコミックス) 博 集英社 2017-04-19 売り上げランキング : 1888 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
明日ちゃんのセーラー服。/博
表紙の”圧”やばくないですか!?もうなんにも知らなくてもレジ直行、表紙買いセンサーとかまったく無意味の圧倒的な暴力性。かわいい女の子の本を買いたい。ソレだけなんだよ!
と思ったら中身もすごいんです。「明日ちゃんのセーラー服。」はかわいい顔してかなり尖った漫画ですよ!
作者「博」先生と言えば「アクアリウム」から素晴らしく美麗かつ多彩な少女絵描きさんという印象でしたが、本作はさらに特性を爆発されたような感じ。
ストーリーはシンプルで、田舎の名門中学にあたらしく入学した主人公、明日小路ちゃんの学校生活を描いた、おだやかな日常者。目標は、友達をたくさんつくりたい。みんなと仲良くなりたい。なんて等身大の願いだろうか・・・優しい気持ちになれる・・・。
個人的にも大好きなんですが、フェチ写真家の青山裕企さん写真集のような
「ここの動作に、この一瞬に目をつけるか!」と言ったような驚きと輝きがちりばめられていて、自分の中に新しい視点が生み出されていく。
ただ髪を結ぶだけのシーンをじっくり描いてみせたり、極端な例を上げると、アイドルを夢見る小路ちゃんが妄想の中でアクロバティックなキメシーンを炸裂させるその妄想の中身を、1ページまるまる使った大ゴマを14ページも連続させて描写したり。
つまりフェチ描写を優先させるがあまりコマ割も放棄して、イラスト集はたまたパラパラ漫画のような構成になる瞬間が度々ある。この情熱のほとばしる感じ、たまらない。
ここらへんはWEB掲載漫画ということも影響しているのだろうけれど、なんというか非常に21世紀的な、『ディスプレイで読む漫画』としての特性を備えているように感じます。
それなのに、個人的には紙のコミックスで読むことがとてもうれしい。
あどけない少女たちが一瞬、ほんの僅かみせるゾクリと背筋が震えるような”魔力”を、みごとに神とインクで閉じ込められている魅惑のコミックスなのですよ。まさに、宿っている、のだ。
それの最たるものがこの表紙。冒頭に戻りますが、”圧”やばくないですか。
物語の面白さというより創作物として独特の存在感を放つ一作。
ツイッターで絵師さんが投下するモノクロ1枚絵の少女絵をとかをお気に入りに放り込んでいるようなムッツリスケベに是非読んでほしい。
不滅のあなたへ(1) (週刊少年マガジンコミックス) 大今良時 講談社 2017-01-17 売り上げランキング : 1416 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
不滅のあなたへ/大今良時
「聲の形」という傑作を送り出した作者の新連載。
期待の大きかったであろう中で繰り出してきたのは、けっこう予想外だった。SFでもあるが、冒険ファンタジーと読んでもいいのだろうか。それにしたって哲学的だ。けれど王道のようにも感じる。個人的にはなんだか少し、漫画版のナウシカのような雰囲気にも感じます。
もしくは雰囲気で言うと、半世紀くらい昔の、外国の冒険小説みたいな。
後に不死<フシ>と呼ばれる生命を、神は世界へと産み落とした。
それは死者の肉体を借りながら次々に形を変え、世界を彷徨っていく。
おぼろげな思考。おぼろげな本能。様々な出会いを経て、フシは変化をしていく。
まとめてみるとシンプルなんだけど大今先生の独特のテンポや描写力によってグッと深みを増した、とにかくメッセージ性の強い作品に感じます。
生命における死だとか、理不尽な掟、絶望的な暴力・・・
世の中のいろいろな”抗いがたいもの”に対する強い怒り。そして反抗心。
肉弾戦という括りだけではなくメンタル的な部分も含め、広義な「戦い」が展開されていく。読んでいると本当に心が突き動かされる。今年になって漫画を読んで泣いた経験は、たぶんこの作品だけだったかもしれない。
誰かが残したメッセージをフシは受けとり、そのつもりは無くても誰かに繋いていく。フシは主人公として、メッセンジャーの役割を担っているのですね。
ストーリーの緩急の付け方もお見事。個人的には、数巻溜まってから一気読みすると面白さ倍増パターンの漫画かなとも思います。
おじさんとみーこ 上 (ZERO-SUMコミックス) 朝日 悠 一迅社 2017-05-25 売り上げランキング : 67610 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
おじさんとみーこ/朝日 悠
やさぐれ金髪おじさんが、初心なJCを手篭めにするお話。
それはもう語弊もなんでもなくストレートにそういう話で、生理的に付け付けないという人もいるだろうとは思う。が!!!そんなことは!!!どうでもいい!!!
いいか俺はちょっと背伸びした危険な恋にゾクゾクしてるJCを眺めていたいんだよ!!!
身寄りをなくした少女のもとへ、おじさんがやってくる。
互いに孤独を内に抱えた2人は共鳴するかのように、ぬくもりを、安らぎを求めていく。
少女漫画らしいほわほわと幼気なタッチから紡ぎ出される物語は、絵柄で緩和はされてはいるが、非常にアダルトでいやらしい世界観となっている。
だってもう、流し目でタバコ蒸す怖いおじさんと、いたいけな女の子が同居してですね、もうイチャイチャちゅっちゅしまくりなんですよ。そりゃヤルことヤってますし。思いの外遠慮なくエロいよ。
1巻ではゲスト的に部外者の男性が登場し、ズバリ2人の関係性を異常だと指摘する。しかし少女は静かに彼と決別を果たす。哀れんでくれる男性の手を取らず、より闇を深くしていく。ここらへんの演出は同人誌版とくらべても秀逸だった。
世界から疎外されているような、薄暗い空洞がどちらの胸にも存在して
まるでその深さを確かめ合うように、やはり抱きしめあってしまう。
切迫した2人の心理描写と、ドロッドロになるまで甘くなったイチャラブシーンの波状攻撃にすっかりやられてしまうのです。下巻のカラー口絵なんかもう泣けてしまうから・・・。
コミティアで通ってシリーズを買い集めてたんですが商業出版化。
前からちょくちょくある流れのやつですが、なんだかんだで嬉しい半面ちょっとさみしいヤツですよね。
しかし商業単行本として冷静にこの漫画を読むと、あまりにも強いコミティア臭にクラクラしてしまう。あの”におい”、我々の脳みそに直接感覚を呼び覚ましてくれる。
日々是平坦 1 迂闊 白泉社 2017-04-28 売り上げランキング : 46465 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日々是平坦/迂闊
あぁァーーーーーーこんな青春が欲しかった。それだけなんだよ。
迂闊先生が楽園本誌とWEB増刊で連載しているふたつのシリーズをパッケージした「日々是日常」の1巻。
収録の2シリーズが毛色が違っていて、同じ学校で同じ時間を共有しているはずなのに、“バカサイド”と”リア充サイド”では文字通りに見えている世界が違っていることが丸分かりになっている一冊なのです。
おバカたちは楽しくどうでもいいことで盛り上がっている一方で、
初めてのお付き合いに戸惑い赤面しあってしまうような初々カップルがいる。
けれどどちらかを選ぶこともできないような幸福さ。いわば両A面盤!
青春の美味しいところばかり食べてしまおう。レッツ・ハイスクール!(謎)
なんといっても『純粋男女交際』がね、ほんと、もうむり。
彼らの脈拍が、吐く息の湿り方が、ふとした瞬間に目を奪われる静寂が、全部生々しい。
真面目なばかりの2人だけと、周囲がイメージしているよりかは、ちょっとだけナイショが多かったりして。ちょっとだけ(きっと)走りすぎていたりして。
非常にプライベートな内容を、第三者目線のモノローグが気持ちのいい切り取り方をしてくれている。
体が温まった所でやってくる『日々是平坦』のバカバカしさで一気に喉越し良くなる感じ。意味わからんな。なんかグイッとツルッと行ける面白さなんですよ。
そんなこんなの一冊。よくあるようでなんだか特別。迂闊先生の描く女の子はみんな健康的で素晴らしい。
ルポルタージュ (1) (バーズコミックス) 売野機子 幻冬舎コミックス 2017-06-24 売り上げランキング : 2716 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ルポルタージュ/売野機子
2033年。恋愛する者がマイノリティとなった社会が舞台。
売野機子先生といえば詩的な恋愛漫画の名手ですが、最新作「ルポルタージュ」はまさに売野ワールドが全開になっている。
”飛ばし”結婚という現代的な結婚・・・恋愛感情を必要としないパートナシップのような共存生活を人々が選択している。
この社会においては、結婚相手とは『共同経営者』という考えなのだ。
現代の思想のその先を見せてくれる設定、有り得そうな近未来のビジョン。
そんな中でテロ事件を追う主人公が、とある男と出会ったことで
さらに深く事件へと巻き込まれていく。そして、恋をする。
もともと好きな作家さんではあったけれど、本作はとくに作家さんの独自色が色濃く出ているように感じますね。まさしく真骨頂と言える。
描かれている世界観も素晴らしい。恋愛は人生に必要不可欠だった時代はもうとうに終焉していて、人々は次の生き方を見つけている。そんな時代に、あえてムダな恋愛に落ちてしまう。もはや本能的に、直感的に、致命的に、誰かを好きになってしまう。その理不尽さに誰も抗えない。
「非・恋愛コミューン」というシステムも描き方も、刺さる所がありますね。
大恋愛の果てに結ばれても、離婚する夫婦ばっかりだ。
そんなのを見ていれば恋愛がおっくうにもなるし、もっとシンプルで「めんどくさい」という感情に支配されてしまう。
それならば最初から相手をしっかり見極めて、全て計算して調整して、安心で丈夫な『強い家庭』を作っていこう、と。まるで自衛策のようで。傷つきたくないという思いが強い、省エネ主義的な思想も、非常に現代的に感じますね。
続刊においてはどんどんとこの世界観の深掘りもされていくことでしょう。
それに、こんなに鮮やかに1巻を締めくくられては、2巻も買うしかない。
売野機子という才能の在り処がきちんと見つけられたような作品。
「自分は恋をしなくても生きていけると 思っていた頃があったんだってさ…」
おとなとこども、あなたとわたし。 (1) (it COMICS) 糸 なつみ KADOKAWA 2017-01-19 売り上げランキング : 156703 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
おとなとこども、あなたとわたし。/糸なつみ
「年の差」がテーマのオムニバス漫画。もうテーマから絵から内容から全部好き。コミックitというKADOKAWAの中でもちょっと異質な女性向け誌に掲載されており、コミクスが出るまで知らなかったのですが、読んでみたらもうドンピシャ。まぁコミックit自体がそもそも好みだったということもある。
1巻2巻が同時発売されたのですが、1巻だけ最初に買って、次の日にはすぐ2巻を買いに行ってましたね・・・。
3つのストーリーがありまして、1巻につき各1話ずつ、同時進行していく。
それぞれが違った角度から「年の差」を軸にしたドラマが展開され、それは切々とした恋のお話だったり、すでに亡くなった人物によって繋がれた疑似家族だったり、同じオフィスで務める女性同士の交流だったり・・・
読んでいると作者の年の差属性の強さを感じる。生半可なものではないのですよ。年の差によって隔たれた人生観。視線の違い。年をとる事で失ってしまったもの・・・。
生きてきた時間の違い。それは時に残酷なほどに人々の間を切り裂き、すべてを傷つけていってしまう。シビアな側面もかなりフィーチャーされていきます。
いわゆるオトナ女子向け、レディース漫画っぽい内容ではありますが
ソフトな絵のタッチと、作者のエモい完成によって幅広く受け入れられそうな作品ですね。
3つのストーリー、それぞれ甲乙つけがたいほどに味わい深く、「どれ派」かでも知り合いと話し合ってみたいくらい。いやぁ。年の差OLのオフィスドロドロ物語、イイヨネ。
怒りのロードショー マクレーン KADOKAWA 2017-01-30 売り上げランキング : 41727 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
怒りのロードショー/マクレーン
映画好きの「語り」をメインに据えたような作品、いくつか浮かびますが、中でも個人的にはこれが好きかなぁという一作。
絵も内容も荒削りなんだけれど、ソレがゆえに我武者羅なエネルギーがビシバシ放たれている。
そもそもペンネームが「マクレーン」て。その時点で相当おバカな香りが漂ってきますね。
とっても下らない、しかし愛にあふれる映画好きたちの日々。
時に言い争いをしたり、時にいっしょの映画を見て震え立ちあるいは涙する!
ぶっちゃけ読んでてよくわからないネタも頻出する。映画好きなら拾えるものが多いと思うけれど、有名な筋肉映画をそんなに見れていない自分はクエスチョンマークもいっぱいだ。でも面白い!!例えば友達が必死なテンションでオタクトーク全開してたら話の意味はわからなくても面白いじゃない?そういう感じなんです。そして話をきいているとワクワクする。ムズムズしてくる。俺も、その映画、みたい・・・!!!
というか実は映画語りと同時進行的に「オタク」という人種の生き様も熱く描いてくれる。
理解もされず、むしろ違う方面のオタクから理不尽な争いを持ち込まれたり、なんなら同じ映画オタクの中でも娯楽主義or芸術主義といった火種がそこかしこに散りばめられる。
なんというかこの漫画は際どい。ブレーキ積んでいない車みたいに、楽しい気分のまま次には冷水ぶっかけられるようなスリリングな展開が待ち受ける。
けれど結局は、自分の大好きなことを誰かを共有できる歓びが、この作品の圧倒的な肯定感を裏付ける。
あと出てくる女の子がだいたいとても優しくておちんちんにくる。(お姉ちゃんはNG)
幸色のワンルーム(1) (ガンガンコミックスpixiv) はくり スクウェア・エニックス 2017-02-22 売り上げランキング : 1194 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
幸色のワンルーム/はくり
少年は大好きな大好きなだいすきな少女を誘拐した。そんな危ないオープニング。
欲望のままのその行動は結果、どん底にいた少女を救い出すことになった。
しょせん誘拐犯とその被害者というただそれだけの共存。
なのにそのワンルームに、不思議な温かさが宿ってゆく。
なんて危うい漫画なんだろう。
エンターティメントとしてこの漫画を飲み込むことができない人だって、きっと大勢いる。けれどこんなにも切実に、お互いの空白を埋めることだけを目的とした共存関係を。スレスレで恋愛に陥らないような、もはや手遅れないような、この不思議な絆を。じっと見守りたくなる人も大勢いるはずだ。
発売、即重版。自分もしばらく入手ができず、たまたま入った小さな本屋で初版を購入できましたが、非常に話題性のある作品であることは間違いない。
どうしようもなく寄り添うことでしかもう生きていけないことを、お互いに知ってしまったのに、「誘拐犯」「被害者」という関係性でしかお互いを赦すことができない。だからイビツな感情にふたりともが絡め取られていく。
あまりにも純粋な将来の誓いを、彼らは破滅のために結ぶ。
だからギリギリで心を許し合わないような、けれど自身が理解しきれていない本能レベルで互いに依存してしまっているような、あまりにも切実で子供じみた男女のストーリーに転がり込んでいくのです。いわゆるエモいってやつなんだよな。
ぶっちゃけ読んでスッキリする話なんかじゃなくて、ニヤニヤゴロゴロできるものでもなくて、描かれている人間の汚さとか世界の歪みとか理不尽な暴力とかに目を覆いたくもなる。でも素直に、幸せになってほしいなと、祈りたい。
商業連載ではあるけれど非常に『ネット』の世界のあの、というかこんな感じの、いろんな黒いものを感じる作品ですね。
たとえとどかぬ糸だとしても: 1 (百合姫コミックス) tMnR 一迅社 2017-05-18 売り上げランキング : 1865 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
たとえとどかぬ糸だとしても/tMnR
大好きなtMnR先生の商業デビュー作。モチロン最高だった(条件反射)
同一作品ジャンルでたぶん人生で1番買い漁ったのが「ラブライブ!」同人で、好みのCPはあれどわりと無差別にシリアス系のを収集していましたが、そこから商業誌に進出してくれました。
そんなデビュー作ですが、もうあらすじの時点で勝利を確信ってもんですよ。
ごくごく平凡な高校生、
鳴瀬ウタには、人には言えない秘密があった。
それは、実の兄のお嫁さんである薫瑠に恋をしていること。
決して実らない恋だけど、日々の営みが嬉しくて、
その一方で兄との新婚生活を見ていると胸が張り裂けそうで…
彼女は心を押し殺す。
そっと心に秘めた恋心が、目を覚まさないように――。
やったぜ・・・。
というか1巻の内容、ほぼほぼこのあらすじに集約されてしまうんですが。
なんといっても可愛らしい絵のタッチと、ヒリヒリとしたモノローグのバランスが絶妙。痛くても痛くても、恋心を手放すことができない苦しみ。幸せなれるわけがないと自分を諭しておきながら、それでも堕ちていく悲しい矛盾。
主人公の少女の苦悩に身をよじりつつ、しかりながらその恋の相手である薫瑠さんの天真爛漫な魅力と、その包容力!
薫瑠にとって主人公は、夫の妹で、幼馴染で、守りたい家族で――
そんな風に”特別”に扱われるほどに、よけいに拗れていく片想い。
不憫な恋をする男女のことがだいすきなみんな~~~! ・・・ここが楽園だ・・・
初情事まであと1時間 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ) ノッツ KADOKAWA 2017-05-23 売り上げランキング : 8045 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
初情事まであと1時間/ノッツ
大発明だ。そう言うほかない至高のコンセプトはずばりタイトルそのままだ。
例えばサッカーで歴代の名試合・名プレイを集めた番組があったとして、見てる誰しもが試合中のムービーを見ながら「このあとなんかあってゴールして得点が入るわけね」って分かりきっているわけじゃないですか。でも滅茶苦茶楽しい。綺麗に場面が繋がって、そして最高潮のシーンで結ばれる。結果が分かっていても、いや結果がわかっているからこそワクワクしながら過程を見守れる。
くどい例えをしてしまったけれど本作が楽しいのもそれなのだ。
結果ヤッてしまうと分かっていながら読み進めて、そしてまんまと”そういう流れ”に発展していった時、興奮と安心が一度にやってきて最高に幸せ。最高のカタルシス・・・!
ちょっぴり情けない男の子や女の子が、それを受け入れてくれる誰かに触れる・・・
というそれだけで、その瞬間の奇跡の価値で涙腺がぶっ壊れてしまうのだ。
コンプレックスがあったり、人と接するのが怖かったり、変化を恐れたり
様々な理由があって、けれどそれを踏み越えてしまう愛おしい瞬間たち。
すこしだけ、男性側が受け身体制のものが多いことが気にかかる所ではあるけれど、まぁ女の子から積極的に来てもらって悪い気がするわけがねぇんだよな(悟)
もとはコミティアで発行された同人誌がはじまり、当時から大好きだったシリーズです。それが連載となりもっといろんな世界の「初情事まであと1時間」をニマニマ楽しむことができるようになった奇跡・・・。500巻くらい続いて欲しい。
あさは、おはよう -大澄剛短編集- (ヤングキングコミックス) 大澄 剛 少年画報社 2016-12-26 売り上げランキング : 49952 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
あさは、おはよう/大澄 剛
あれ、これ去年末発売だった・・・まぁいいや・・・。
書影ではモノクロで少女の笑顔が描かれていますが、これ実際に書店で買うと表紙下部分のイラストを覆うような大きいカラーオビが巻かれていて、それをとると少女の笑顔が現れる仕掛け。
もともとオビと本体が一体となったデザインって大好きなんですよね。
本作で言うと、これが本編を読むとまた二重に意味が変わってきて、「本」としての面白さがある。こういう見せ方や演出で紙のコミックスならではの意味を持たせてくれるの好き。
内容としては家族ドラマだったり青春物語だったり、人情モノのオムニバス6作。
それぞれ単独としても楽しめるんですが、微妙につながりがあったりして、
その中心にあるのが表紙の女の子ですね。
特にすきなのはノスタルジーあふれる少女同士の絆を描いた「イコール」、幼少の恋心との決別、あるいは新たな始まりを感じる「さよならわんぱく」。この2作がお気に入りなですが、短編集として雰囲気も統一されており、ついつい涙腺が緩んでしまうような、優しさと切なさと眩しさが詰まった本になっています。
話題になるタイプではないせよ、素直に、暖かな漫画ですね。
発売年的にルール違反(まぁ縛りという意味で)ではありましたが、触れておきたい漫画だったので。
そんな12作でした。
新作開拓も過去と比べるとかなり減っては来てしまいましたが、なんだかんだで表紙買いとか結構してしまうんですよね。次もこの縛りで更新やるかどうかは分かりませんが。またよろしくお願いします。
2016年面白かった漫画BEST30! 後半戦 15位~1位 (+α)
あけましておめでとうございます。もう1月15日でした。
前回の続き、2016年の漫画BEST30。後半戦です。
前回→2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位
2017年に入って2週間も立ってしまったので、出遅れた感はまんまんですが。
相変わらず長々と書いている部分がありますので適当にお付き合いください。
では15位から。
15.HaHa/押切蓮介
狙ってんなぁ畜生、という作品にきちんとハマってしまう単純な自分がやや恥ずかしくもあるけれど、実際これはめちゃくちゃ面白い。
ストーリーそのものも、そこから透けて見えてくる押切蓮介という作家のバックボーンや力の源のようなものも感じられてくる。月並みな言い方だけれど、とにかく励まされる、心温まる、ポジティブなオーラがガンガンでている。
本作は押切蓮介先生自身の母親の反省を描いた作品です。息子が母親の自叙伝を描いているのです。
しばしば押切作品に登場する、やたらと生命力ある母親キャラやちょっと根っこが図太い少女たちの空想は、ここから産まれて生きているんだろうなとおもう。
作者自身の人生観や女性観というものの源流を垣間見ることで、より作家性を再認識させられる。とか小難しいこといったってやってることはなんてことない親孝行なのだ。
たとえば歴史の偉人だったりすごい経営者だったり、そういうエラい人の半生を知っていたとしても意外と自分の身内が歩んできた人生って、知らなかったりしませんか。
歴史に名を残す偉人でもなければ、だれかが記録しないと、その人が歩んできた道のりを、その中で見てきた風景を、見つけて拾い上げてきたいくつかの大切なことを、だれも知らないまま過ぎ去っていくのだ。
だから本書は漫画家の息子だからこそ出来たとびきりの親孝行の形。
さらに、ただそれだけだったらまた別物になったであろうに、加えて本書は母親やその周辺環境があまりにもぶっ飛んでいたせいで普通にエンタメしちゃってる、なんともすごいバランス感覚のもと成り立っている作品でもあるのです。
旅館の娘として生まれたものの、ヤンチャすぎる学生時代・・・話題に事欠かない毎日・・・はじめての就職に、一家を巻き揉む一大事・・・1巻にギュギュっと濃密に、ひとりの女性の半生が詰め込まれている。すごい濃度で、すごい生命力を感じる・・・!
第3話で次々入れ替わっていく飼い犬の話はリアルに吹き出しながら読み進めた。めっちゃくちゃだなこの一家。最高かよ。
しかもきちんと綺麗に一本のストーリーが出来上がっている。父親とのささやかなひとときは感動するし、母親の含蓄ある言葉たちはとにかく染みる。
母親が語り聞かせる構成をとっているため、なにかにつけて説得力があり、そのことがこの作品に宿る生命力につながっているのかな。言葉のひとつひとつも深みがあって素晴らしい。
ハイスコアガールの騒動でクソ袋とかした作者へと、終盤話が舞い戻ってきますが、そこで分かるんですよね。本書は作者自身が苦境から這い上がるために自分に向けて書いた、ひとつの人生指南書だったのではないかと。
無事復活して這い上がってきた今となっては受け止め方も違いますが、リアルタイムでこれを読んでいた人はまたちがった楽しみがあったんだろうなと思うと、後追いになってしまったことが悔しくもあります。
押切蓮介という作家のルーツを探るとともに、波乱万丈と一言といえる”誰かの半生”を身近に感じられる巧みな構成が光る一作。ある意味、初めて押切蓮介作品に触れるという人にもオススメしたいかも。1巻完結と読みやすいです。
14.僕たちがやりました/金城宗幸・荒木光
ヤンマガでこういう強烈なダウナー系漫画が来ると、もう無条件で読んでしまって、今だとこの作品かなと思います。
めちゃくちゃおもしれぇ・・・
いま週刊連載で1番楽しみにしている作品です。とにかくめまぐるしいドライブ感と、感情を揺さぶってくるストーリーの意地悪さがハンパじゃない。
いかにもチャラいウェイな男子高校生たちの気だるくもバカバカしいい日常・・・かと思っていたら一気に崩れ去る。
普段の仕返しとイタズラで他校に仕掛けた爆弾が、偶然アホみたいな威力を発揮して、大事故に発展。けが人も死者も出て、テロの疑惑なんか出て・・・・・・
ネットでよく学生たちが炎上するじゃないですか。本作は「滅茶苦茶やらかしてしまったバカ学生」側の物語なんですよ。
国家権力・警察の捜査からの逃亡。そして報復にガチで殺しにきているヤクザまがいの不良からの逃亡。
ただ日々の退屈をどうにかしたかっただけなのに、いきなり人生をかけた逃亡劇が始まってしまった。
自分たちの常識ではあり得ないような、アタマいっちゃってる奴らに追い掛け回され、命さえ狙われる。加えて警察に捕まれば人生一瞬でパァだ。逃げなければ。逃げなければ。捕まりたくない。普通に楽しく生きていたかっただけなのに。
社会の闇に放り込まれた男子高校生たちの物語。
この作品、根っこが非常に暗い。スリリングかつダークな世界に病みつきになります。
罪悪感に押しつぶされそうな悲壮感。けれど人生を台無しにはしたくない。
人の命を奪ってしまったことへの重圧、追い詰められる緊迫感、容赦なくおそいくる暴力と、破滅へのカウントダウン・・・!!そして展開も非常にスピーディ!
張り詰めた緊張がストーリーを支配しており、そんななかでオチャラケたコメディシーンが挿入されても、空虚なだけなんだよなぁ。
だからこそ、ヒロインとの優しい時間が本当に心安らいで
それすらも奪い取られようという展開に、心の底からヒヤヒヤが止まらない。
明らかに、圧倒的に「間違えてしまった青春劇」なのに
高校生だからこその刹那的な感情とテキトーさとバカバカしさがこの作品をより息もつかせぬ勢いと、味わい深さを与えてくれています。「なんとかなるでしょ☆」と世の中を舐めていたら本当に取替しのつかない現実が、すぐ目の前までナイフ持って待ち受けてるんだ。
だって僕らは、人殺しなんだから。
罪の意識に蝕まれながら、それから目を背けるためにいつものようなバカ騒ぎを続ける主人公たちが、どんな顛末を迎えるのか。
いまも連載中です。テンションはトップギアのまま。今読みたい、今読まなければならない作品のひとつでしょう。毎週ドキドキしながらヤンマガ読んでます。
13.やがて君になる/仲谷 鳰
ゆっくりと丁寧に、おぼろげな感情の正体をさぐっていく、神秘的で静謐な物語。
ガールズラブストーリーであるのと同時にその枠にとらわれない、「恋愛感情」の在り処とその価値を確かめるための日々。素晴らしい作品なのは間違いないんだけどそれがここまで売れるというのも少々驚きで、嬉しい限りですね・・・
あと個人的にこの作品が電撃大王から出てきたというのが少し嬉しい、なんというか、あそこのプライドを感じる。
すでに3巻まで発売されていますが既刊の感想はいぜん書いたのでそちらも。
→わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻
→絶対、好きにならない、だから。『やがて君になる』2巻
恋愛感情がわからない主人公・小糸侑。
生徒会の先輩である七海燈子から想いを寄せられ、しかしそれに応えられない。それどころか「私が知らない感情を知っているなんてずるい」のような気持ちにまで飛躍するなど、かなり捻くれている部分もあったり。
はじめて特別な感情を抱いた先輩と、いまだ“特別”の感触を知らない小糸。
ふたりのふれあいを描いていく中で、徐々にサブキャラたちも絡み合い、
非常に独特な空気をもった、完成度のたかい青春物語として歩んでいます。
すでに単独記事を書いているのでそちらでじっくり書いているのですが
最近発売された3巻はさらにサブキャラ陣の掘り下げ、そして主人公ズの過激なキスまでなだれ込んで来て更にテンションあがるヤツだった。佐伯先輩スキィ・・・。
さらに彼女たちの青春を「過ぎ去りし日々」と重ねて見つめる大人カップル(意外な)も登場。彼女たちの立ち位置や、持っている温度といったものが、不思議とこの作品を包み込んでくれる。
様々な想いも人間も巻き込んで、物語はいよいよ生徒会劇へ進む。
4巻以降もばっちり追っていきたい、恋愛漫画のひとつの名作となり得るピース。
12.ハピネス/押見修造
ハピネスのカケラもないことでおなじみの現代吸血鬼耽美浪漫「ハピネス」だ!
「惡の華」完結後に去年から始まった押見修造先生の最新作ですが
なんか面白いとかいう話以前に、この作品やばいなって思う・・・(語彙)
なんとなく凄い。なんとなく、恐ろしい。本能的な部分に訴えかけてくる。
例えば頭キマってんじゃないかというくらいに視界も思考もドロッドロにとろけていくカオス描写もあるし、ドス黒く凄惨な吸血鬼たちの生き様も言えるし、主人公がたどる物語の血生臭さとか不幸っぷりとか・・・
感想として相応しくないだろうけれど、「怪しい世界に引きずり込まれる感覚」これが強烈で魅惑的でめちゃくちゃカッコいいのだ・・・!!
自分が壊れていくのを肌を感じながら脳みそがグツグツに煮え立って、そんな時に誘うように輝く夜の街の寂しげな感じがすげぇジンワリくるってんですよ。
悲痛なドラマを抱えて自ら家族も友も捨てすすんで孤独になりながら謎の女と都会の夜を旅立ちたいでしょみんな!!!クラスメートのヒロインに心配されてもそれを振り切りたい!!!それだよそれ!そのリビドーだ!!
そんな中二病を懐かしく発症させてくれる漫画。
本作は押見先生が表現の実験をしているような感じで、実にいろんな感情演出や混沌とした背景が多数描かれている。それが本作のテーマやストーリーに見事に合致して、「見たことがない光景」の体験を主人公と読者が一緒に感じられるんですよ。
単純ですけど漫画においてビジュアルで引き込まれるってのは、それだけで好きになれる。
3巻のノラとのキスシーンが鮮烈だった。未知なる存在と口づけをする恐怖や不快感や・・・そしてそこから甘美な恍惚と、癒やしが主人公を包んでいく・・・4巻でもういちどキスをした時には、また違った描写がされている。
けれど2016年の「ハピネス」は勇樹サイドのストーリーが濃密でしんどかったなぁ。
彼の涙が、絶望で崩れた表情があまりにもむごい。元々は気に食わないキャラだったんだけど、気づけばけっこう好きなヤツになっていたんだよなぁ。それがもう。
いよいよぶっ壊れた吸血鬼が身内?から登場して、5巻以降は主人公との関係もぜったいマトモじゃいられない。加速する、落下する物語はさらに深い夜へ。
でもこの作品は「ダークヒーロー」ものだと謳われていることを忘れない。
この閉塞感を打ち破る・・・かどうかはわからないけれど、スッキリとする展開が来てほしいな。
ワクワクする展開が続いていることは間違いなくて、ただあまりにも暗い。
11.戦国妖狐/水上悟志
いやーーーーー面白かった!!!!こんなに爽やかな最終巻読んだの久々だな!!!
水上悟志作品では最長となった「戦国妖狐」。文句のつけようがない、完全無欠の大団円。全17巻、全99話の長い道のりのはてに待つ、極上のエンドロールだ。
じっくり練り込まれた・・・ようでいてかなり自由に筆を走らせていたという本作。それなのにこんなに綺麗に、あそこまで広げた風呂敷をたたみきれるのかと、水上先生のハンドルさばきには恐れ入る。
超ド級のスケールで行われたラストバトルと、それからのながい人生の旅路。
戦いはこれにておしまい。でも人生は続く。
最終巻の感想だけに慎重に書こうとは思う。
思うが、「惑星のさみだれ」然り、ラストバトル後のあと寂しい空気を引きずったまま、エピローグでぐんぐんと読者をおいてキャラクターたちがひとりでに未来へ歩んでいく・・・この頼もしさと眩しさがたまらない。読んできて良かったと思える、かけがえのない瞬間だ。
本作はとくに歴史モノ(という意識は作者にも読者にももしかしたらあまり無かったが)という側面もあったがゆえに、エピローグでは急加速して時代がめぐっていく。
その中で千夜は年を取らぬまま、歴史の見届け人として生き続ける。
大切なものたちが天寿を全うし、あるいは不慮の死を遂げていき・・・それでもなお、生き続けていく。
同じ歩幅で生きていけないことの切なさが、時代というあまりにも巨大する流れの中で膨らみ続ける。けれど、おなじ境遇の連中もいて、そして相変わらず、バカなことを言い合える。
気が抜けつつも暖かく力強い生命賛歌は、水上悟志作品共通のテーマなんだろうな。
月並みな言葉になってしまうけれど、人のつながりの温かさを改めて感じられる。
水上悟志作品のエピローグは最高。これぞ少年漫画の王道ってヤツだ。
10.かわいいひと/斎藤けん
かわいいいーーーーーーーーーーッツっ
かわいいすぎるーーーーーーっっっっ
もうそれがすべて。かわいい。これに尽きる。これ以上はない。
ヒロイン(めっちゃ美少女)も主人公(目つきわるい)もほんとうにかわいい。
ゴチャゴチャ感想書いてる場合じゃない、語彙力もクソもない、初々しいカップルをひたすらニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤnヤny見ていたい人たちは今すぐ買って読んでから死んだほうがいい。俺は一足先に死んでいる。
いちおう説明すると、死神フェイスで他人から距離を置かれがちだけど優しい花屋の青年花園くんと、彼を好きになってしまったゆるふわ超絶美少女日和さんがお付き合いすることになったという話。
ふたりして奥手で、相手のことが大好きすすぎて、けれど触れたくて・・・
お互いにはじめてのお付き合い、いわゆるはつきあいなこともあり、手探りだらけの初々days。
ぶっちゃけそれだけなんです。バカップルのイチャつきを眺めているだけなんです。
天国ですよね。
快楽堕ちしたみたいにハートマークで脳内埋め尽くされて俺は死ぬ。
きっちり毎回盛り上がりどころを作ってくれるのはお約束なんですが、盛り上げ方がうまい。
ヒロインにしても主人公にしても「相手のことが好きで好きでたまらない」ゲージがMAXになったときの感情の暴走が可愛すぎて大声で叫びたくなるんですよね・・・一瞬理性と本能のせめぎあいが起きて、基本的にふたりとも奥手で弱気なんだけど、イザというときにはグッと前のめりになっちゃう。で、別にそれでもいいよってお互い受け入れちゃうやつ。あーーーーーーーーーーーーー(天を仰ぐ)ーーーーーーかわい。
3巻は日和ちゃんの「もっとイチャイチャしたい・・・!!」という叫び。
全読者が魂を振り絞る全力で「いけー!!!」「イチャつけー!!!」という声援を送ったことでしょう。
そしてカラオケでイチャついてたら日がついちゃう日和ちゃんのオンナっぷりも見どころ。
至福とはここだ。天国とはここなのだ。
へんな当て馬とか、日和ちゃんを追い回すイケメンとか、そういう読者を不安に揺さぶる要素がほとんどないいあたりも素晴らしい。
最高に甘酸っぱいだけのイチャラブ漫画って本当に嬉しい。
今後長期連載になっていく中で、たぶん他のライバルキャラ的なやつらも出てくるかもだが。
まぁその時はその時だし、ふたりの絆の強さをすでに確信できるし、まぁ、見守りましょう・・・!
ろくな感想書いていませんがそんな感じ。いま最高にイチャついてる漫画はこれだ。
9.花井沢町公民館便り/ヤマシタトモコ
「花井沢町公民館便り」うーん、この当たり障りのなさそうな、人畜無害の顔したタイトルで放たれる、最悪の劇薬みたいなディストピア・オムニバス。
最高に悪趣味で、最高にセンチメンタルで、本気で息が詰まる絶望感。
全3巻。完結してもなお、ずっと引きづり続ける。この作品が持つエネルギーは正直凄い。
ここに描かれているのは、能天気で生きるたがりな者たちの人生と、すべて静かに崩壊するまでの長く短い数十年、その断片だ。
「一度でもきみとキスしたり抱き合ったりしてみたかったな」
作中のセリフに凝縮される、決して触れ合えない、目の前の人との距離を突きつけられる作品。
いわゆる3.11以降のエッセンスが濃厚な作品でもある。
俺は正直エンタメにそういった社会派なテーマを放り込まれるとうまく飲み込めないたちなので、「3.11以降の」とかいう文面を見ただけでウゲェとなる人間です、けれどこの作品を語るには触れておきたい部分でもあるのだ。
あの日からのしばらくの日々の恐怖をみんな記憶していて、トラウマとしてみんなが共有している。本作に描かれている壁の外/壁の中の世界のギャップや断絶は、イヤでもあの時を思い出せられて、ひたすらに心がザワつくのだ。
詳しくは語られない。どっかの企業か団体かがシェルター技術実験が失敗して、首都近くのとあるベッドタウンがその被害にあった。見えない膜に覆われて、生命の行き来ができなくなった。外界と隔離されたその小さな町、花井沢町の住民たちが、ゆっくりと生きて、死んでいく。
それだけの話。
いずれ、確実に、滅びる、『わたしたちの町』の思い出話だ。
時系列をシャッフルすることで構成的にも巧妙。
あのエピソードのキャラとこっちのキャラが思わぬ所で繋がったとか、あの時の出来事が未来にこんな影響を及ぼしていたとか、読み込むほどに発見の面白さがあります。
けれど第一話冒頭でしょっぱなから、町最後の生き残りとなる少女の独白がある。
つまり全て破滅へ向かっていくことを承知で、読者はこの物語に向き合うことになる。
ヤマシタトモコ先生らしい鋭い人間観察からくる、人間関係のズレや素朴な疎外感などをテーマにした短編たちはどれもエグってきて素晴らしい。
個人的には国からの配給で食生活や金銭にまったく不安がないという設定をみせるエピソードで、パンを焼いて売りたい女性が「私は一度も自分の稼いだお金を使ったことがないのが 本当に恥ずかしくて悔しい」とボロボロ泣くシーンが強烈でしたね・・・。なるほど、と。
外界の社会とのギャップや、それよりも単純に、閉鎖されたことで人間関係がより濃く醜くなっていく感じも最高に悪趣味。
けれどそういう人間の悪い面ばかりを描くんじゃなくて、ささいな幸せだってたくさん書いている。いろんな人々を描くからこそ、その町の中に流れている空気もすごくリアルに浮かび上がってくる。
そして連続して描かれるのが、町内の少女と外界の少年のカップルのエピソード。
けっして触れ合えない。けれど惹かれ合った2人。
微笑ましくも美しい彼らの恋がたどる行方は、町の未来そのもののようだった。
だからこそ、・・・最終話が、あまりにも、パンチききすぎでしょ、「そりゃそーなるよ」とも思ったけれど、もう、ああ・・・やりきれんな・・・
実は3巻末の描き下ろし漫画ですごい情報が出るので最後まで気を抜かないでほしいのと、それを踏まえて、3巻の表紙をじっくりと見直して見ると、またゾクリとさせられる仕掛けがアります。
全3巻となりましたがまだまだ読みたかったなぁ。
人間本来の醜さと美しさを浮き彫りにする、強烈かつ刹那的なオムニバス作品集。
ごちゃごちゃ書いてしまって申し訳ないです。めっちゃ好きな作品です。
8.兎が二匹/山うた
ピクシブにアップされたこちらの短編を長編に膨らませた全2巻。とりあえずこれを↓
美しく、心が張り裂けそうに切ないラブストーリー。何度読み返してもそのたびに震えるし、なんだか大切になってあまり話題にも出せない、不思議な作品でもある。わりと、全部が超ツボでした。
不死を手に入れて400年近くを生きている女、すず。
彼とその恋人(??)のサクとの日々を描いた作品。
しかし連載のもととなった上の短編を読むと分かるんですけど、1話でほとんど片がつくんですよ。おおよそ7割8割くらいはここに集約されている。それくらい濃密だからぜひ上のやつだけでも読んでほしい。
それで全2巻でなにをやっていくかと言うと、第一話で見事に崩壊した2人の、それまでだ。
時を巻き戻してサクがすずに保護され、ともに住まい、そして惹かれ合っていき
すずの過去を解き明かしその心のうちに巣食う強烈なトラウマの正体も辿る。
彼らの人生をすべて明かして、それから物語は膨大な未来へと向かっていく。
すずにしろサクにしろ、心にすさまじい孤独と痛みを抱えていて、
それらが響きあいながら2人寄り添っていく過程にはしんみりと暖められる。
幸せをすなおに受け取れずむしろ遠ざけて、そんな不器用な様子がかわいいすぎる。
けれど傍にいたところで2人は癒やされながらもさらに傷ついていって、
不死という永遠を生きるすずを本当に救うなんてことは、ただの人間の男には無理なのだと思い知らされる。
好きだというくせに、愛しているというくせに、お前はいつか死んでしまうじゃないかと、
すずは泣きながらこぼすのだ。そんなことを言っても仕方がないのに。永遠を生きていてもこんな子供じみた事を漏らしてしまうその追い詰められた人間の心理にゾクゾクしてしまう。
そして2人は互いの死をとことんまで引きずって、今度こそ永遠に。
すずが自殺をするシーンやすずの過去回想を含め、けっこうエグい絵面も多い。
ただ黒を非常にうまく使ったビビッドな画面づくりがされていて、グロテスクなシーンも感傷的なシーンも構図からしてかっこいいのも好き。
またシリアスな内容だけれど肩の力がぬける穏やかシーンも豊富で、むしろそちらでの間の抜けたかわいらしいやり取りも印象深く、どんどんとこの2人が好きになっていく。
最終話の持っていきかたも、個人的には最高だった。この終わり方じゃなかったらこんなに好きになっていない。かすかな希望と、それにすがることしか出来ない永遠の命の脆さと愚かしさ。
「永遠」という響きをこんなにも残酷に、しかし尊く清らかに感じられる。
1巻2巻ともにカバーを外したところのおまけページの秀逸で、一層泣かされてしまうのだ。
とほうもなく膨大な時間を、すずさんという軸を通すことで不思議とつかみやすく、だからこそ彼女の生きてきた、これから生きていく日々が宇宙のように恐ろしくなる。それが本作の強烈な余韻の正体かもしれない。
不滅の恋物語。手軽に読めてがっつり後引くのでオススメです()
7.ラストゲーム/天乃忍
感無量のラストを迎えた人気シリーズ。天乃忍先生の出世作となりました。
当ブログでも定期的に感想かいてましたが、最終巻の記事はこちら
→完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻
・・・いや全然まじめに感想かいてないですけど、愛おしくて仕方がない作品なんですよ!
とくに主人公の柳くんが最高だった。個人的に少女漫画のへっぽこなヒーロー役って大好きで、本作はむしろヒロインの邦画基本的には男前だったりする。
ヒロイン九条を自分に惚れさせようとする柳くんが、ものの見事に「片想い男子」をこじらせていく青春模様は至高の一言。
自分の思いに気づいてからの九条は圧倒的なかわいらしさを誇っていましたが
シリーズ全体での可愛さポイント獲得量で言うと柳くんの方が上という説が有力です。
幼馴染、両片思い、ふたりとも不器用、そして不安になる要素ゼロという
最高にベタ甘なまま11巻を駆け抜けていきましたが、サブキャラ勢も魅力的でした。
恋敗れた側の感傷をかろやかにそして印象的に描くのも、
やはり悲恋大好き作家たる天乃忍先生らしい味わいでしたね。
個人的にはアニメ化まで行ってほしかったけれど、ドラマCDになってくれただけでも嬉しかった。
コミックス特装版で2回、LaLa付録で1回だったかな。大切にします。
そして今年には新連載も始動。甘いラブコメだったラストゲーム終了のガス抜きにまた悲恋モノを描いてほしかったところではあるけれど新作も楽しみにしております・・・!!
なお「柳くんみたいなしょうもない少女漫画のイケメンキャラ」を発見しましたら私までご連絡いただけると大変ありがたいです。
6.ネトラセラレ/色白好
妻が不倫SEXしているのを見てシコってる旦那の漫画。(イヤな紹介だ・・・)
黄色い楕円マークのない、いわゆる非18禁エロ漫画というジャンルの作品。
大傑作「過ち、はじめまして。」に続く色白好先生の長編シリーズ、3巻完結。
ぶっちゃけ本作も名作。「クソッ!クソッ!!」と悔しそうにしかし股間をこする手を止めない主人公、クズすぎて愛しかないとか思っちゃうヤバい。
NTR属性持ちの男が美人な奥さんをゲットしたものの、夫婦生活に満足できず、「他の男と寝てくれ」と土下座で妻に頼んで始まる、どうしようもない感じマンテンな作品。
大切な最愛の女性を、別の男に汚される。それでしか愛せない夫の苦悩・・・・・・
エロ漫画としての実用性もバッチリ。それでいて「夫婦愛とは」という非常に奥深い、答えの見えないテーマを深掘りしていく。
画力も高く、心理描写もおろそかにはしない。凄まじい濃度で混沌とした物語が綴られる。
登場人物の感情も行為もどんどんエスカレートしていくし、「愛しているから」という言い訳も通用しないほどに醜い、おぞましい暗黒へと足を踏み入れていく。
夫婦というカタチをとりつつも別の人間と関係を結ばせ、それに夫婦互いにボロボロになりながら憎しみも愛しさもヒートアップし続け、そして煮えたぎった瞬間に、破滅が訪れる。
「苦しむことが愛することだ」と彼は言う。「あなたと結婚なんかしなきゃよかった」と彼女は言う。しかしそれもひとつの男女の形として、この作品は魅力的にふたりを描いてくれました。
こんな漫画初めて読んだ。感動しました。ラストは賛否両論あるとは思うけれど。
ヘヴィなストーリーに見合う人物の表情も魅力的。気合が入っています。感情移入して読んでるこっちまでゼェゼェ息が切れてきそう。
また純情な奥さんが変貌していき、最終話には全然ちがうキャラになりますがこれはこれで愛おしくて仕方がない・・・!むしろ彼女の本質が引きずり出されたかのようで興奮度マシマシってもんよ。この変貌も本作のオススメポイントですね。
毎度おなじみ、本編が地獄なのに作者本人が奥さんとノロケまくるあとがき漫画が、最終巻にはなかったのはやや寂しい所。ブログをみるに、また次回作にはあの楽しいあとがきが復活してくれることでしょう。退院となったようで良かったです。
そんなこんなで、エロ漫画としても極限の環境下で試される夫婦愛の漫画としても読み応えは最高峰なので、読んでない方はぜひこの機会に。
あと個人的にはクライマックスでの、主人公の父親の扱いで爆笑したんですが如何か。
5.デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション/浅野いにお
堂々と言うよ俺は浅野いにおが好きなんだ。
毎年ブログのランキングに入れてますが許してほしい。ましては2016年には4巻と5巻が発売されて、物語もどんどんうねり、加速していたわけで、めっちゃかわいかったんですよね。あ、まぁ面白くもあったんですけど。かわいい。俺が言えることはたったそれだけ。・・・かわいい・・・。
→どうやら世界がヤバイらしい、たぶん。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻
→君がいるならたとえ世界が終わる日も。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』3巻
節目節目で大好きだと叫んでいるわけですが、本作もいよいよ最終章へと突入していく。
「人類終了まであと半年」という明確なラインを突きつけられ、読んでいる側としては「ああ・・・」と複雑な思いが湧き上がりますが、そんなこと露知らずにおんたんと門出の日常はバカバカしくてぬるくて時々刺激的。キラキラかがやく大学生活の始まりだ!!!
げぇーっへっへっへっへ!!(好き)
『侵略者』サイドの描写が増えました。あまりにも非力な、人間に虐殺されるばかりの宇宙人と、ぷかぷかと浮かぶだけのただのUFO。
地上におちた彼らはコロニーを形成に、数少ない生き残りがかろうじてそこで生活をしている。
そこで彼らは当たり前のように、家族を持っている。大切な両親や子供とともに暮らし、
『人間』という脅威に怯えながらも生活を送っている。
見えてくるのはそんな皮肉な構図。人間が侵略者を圧倒し、圧倒的な暴力で虐殺しつつも大義名分で許される。
そんな中でおんたんと門出は侵略者と遭遇する。
これまで何度か登場していた、死亡したイケメンアイドルに変身したあの侵略者だ。
彼とふしぎな絆で結ばれてく彼女たちに、しかし密かに現実の脅威は忍び寄る。
侵略者をめぐるあまりにも過酷な現実からせめて彼は守らなければと、秘密を共有していく・・・
そしてその中で芽生えていく、おんたん初めての淡い感情・・・・・・これは・・・なんだ・・・!!
世界崩壊とともに始まっちまうのか。未知との遭遇・青春ラブストーリーってのが。
おんたんと門出の友情の原風景に涙腺がゆるみつつ、5巻ラストでは甘酸っぱさが炸裂しつつ
印象深いのは第36話、侵略者を殺しまくった軍人が自分の行いに疑問を抱いて帰省するエピソード。
浅野いにお先生の本領発揮とも言える、「闇」をするどく切り取ったソリッドな内容でした。
本作はおんたんと門出の物語を中心に動きつつも、その周囲をとりかこむ社会情勢や、秘密をぎっている大人たちのしびれる遣り取りも洒脱に描かれており、そこも魅力のひとつでしょう。なんか深刻なことをしゃべってる大人たちが感情を密かにバチバチさせてるの好き(小並感)
まぁ、本当に"知っている"大人たちは、もはや諦観で動けなくなっている部分もあり、表情に暗い影が落ちていて
だからこそ、現実を見ていながらも馬鹿騒ぎをしている主人公たちが眩しく感じられてくる。
歪んだ世界の中で少女たちの青春をみていると、尊さのあまり身動きが取れなくなってしまう・・・
スレッスレ、キワッキワのバランス感覚で成り立っているんですけど、明らかにそれが悪い方向へと傾きだしているのが感じられてゾクゾクしますね。ただ、4巻にしろ5巻にしろ伏線が散りばめられていっている段階に過ぎない。本当の爆発はここからなんですよね・・・しんど・・・
そんな小難しいこと言ってないで、俺はもうおんたんの初恋の心奪われっぱなしなんですよ。
世界がどうなろうと知らないからおんたんの恋の行く先だけでも見届けたいですね。そんなセカイ系な終わり方。
4.青春のアフター/緑のルーペ
緑のルーペ先生の一般向け作品。
先生特有の、あの生臭くも甘酸っぱい強烈な個性がビンビン際立っているシリーズです。1巻も最高でしたが2巻3巻と物語が進むにつれ、苦々しくも目が離せない圧倒的な求心力で夢中にさせてくれました。
男女において過去の恋愛へのスタンスは違うという俗説がありますね。男は別名保存、女は上書き保存みたいな有名なやつ。本作はその「男が恋をひきずるとどれだけ醜いか」をこれでもかと描き出す。
本作の主人公は非常に醜悪で、貧弱で、神経質な、ありふれた男です。
しかし一点、おかしな点がある。初恋の女の子は、目の前で消えてしまったのだ。それは神隠しのように。いや、レコードの音飛びのようなものだ。だって彼女は、時を超えていったのだから。
というわけで高校時代、突如として恋の相手を消失した主人公が、いろいろあってそんな思い出も飲み込んで別の女性と付き合って順風満帆だってときに、初恋の少女があの当時のままの姿で還ってきたってんだからこりゃあ意地悪な設定ですよ。
突然きえたさくらに対して「彼女にいつ帰ってきてもいいように」とさくらの居場所を守り、ノートに手紙とも自分の日記とも取れる文書を遺し続けた鳥羽。
戻れないからこそ過去とは過去として割り切れる。そこにどんな後悔や羞恥や美しい記憶があったとしても、等しく過去として時の中に埋もれる。
なのに、よりにもよってというタイミングで過去は再びやってくる。
バッドエンディングを迎えた青春の、その先へ。
これはどちらのヒロインを選ぶかというラブコメ的な話というより、主人公自身の葛藤の物語なのだ。
2巻3巻と、さくら消失のその後に主人公鳥羽がたどった人生が断片的に語られていく。
たったひとつの恋とその後悔が、どれだけ彼に重くのしかかったか。その傷の深さ、呪いの凶悪さは饒舌に尽くし難く、苦しみ抜いてのた打ち回って、そうして彼は青春から抜け出すことができたのに。大人になれたのに。
”戻ってきた”ヒロインにたいして、主人公が叫ぶシーンがある。
「いなくなってしまえばいい」と。
あれだけの情熱で彼女の帰りを、ずっと、待ち続けていたはずなのに。
そんな言葉を吐き出してしまうまでのストーリーのうねりはハンパじゃなく、修羅場も修羅場、そしてその先の闇へとズブズブと重く沈んでいく・・・ああ恐ろしい。ワクワクが止まらない・・・
圧倒的に追い詰めてくる迫真の描写とともに、そこに宿るキャラクタたちのメンタルは少しずつブレていき、波紋のように広がっていく。
自分を苦しめる過去は、自分にとってのすべてでもあり、忘れたくても捨てられない大切な日々でもあり、一生それを背負って生きていかなきゃならないのに、今もなおどうしようもなく過去に呪われていく。
10代のわずかばかりの日々はあまりにも無防備で繊細で、青春のトラウマというのは一生モノなんだろう。そして大人のいま青春をやり直すことで、より深く青春の闇へと囚われていく。
ひきずりこまれていく自分をごまかすように主人公は進むけれど、実際誰から見ても修羅場間違いないは明らかってところでいよいよ次回4巻で完結。
あーーーーーーー見たくないけど読まざるを得ない。ところで1巻から3巻に進むに連れ、表紙の桜の花びらの量は減っているんだけど、あーあ、もうどうなっちゃうんだろうね。死臭がする。
3.あげくの果てのカノン/米代恭
→炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
→一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻
おおよそ、単独記事で書いてしまっているので蒸し返すようになってしまうんですけども
不倫恋愛×SF(×ポエム)という悪魔的合体でここまで面白い作品になってしまうのかと。
恋に暴走する主人公、かのん。憧れの先輩への片面いを引きずりはや8年目。
エイリアンと戦う使命を帯び、任務に損傷するたびに少しずつ、もとの自分から少しずつ変化していく。
それにより、ただ遠くから見ているだけだったかのんに、不意にチャンスが訪れてしまう・・・
倫理・道徳に反するということから「不倫」・・・ただ、ただ、ずっと先輩が好きで、ずっと先輩を見ていて、ずっと先輩だけを追いかけていただけなのに、いつしかこの恋は「許されない」ものになっていて、でも大好きな彼に選んでもらえる、触れることができる幸福はしびれるくらい甘く…
まぁそんなわけでズブズブの不倫沼へと突っ込んでいく作品です。
特徴的なのが、時に理不尽で時に暴力的で、そもそも言葉にすら表現しきれない感情の暴走を(特にかのんという特異な恋の仕方をしているキャラクタを)非常にうまく描いている事。
その恋によって例えば誰かを遠ざけたり、大事なものが壊れたり、裁きを受けたりするかもしれない。けれどそれでも向かっていかなくてはならないというムチャクチャな正当化とか、けれど相反する葛藤だとか、あらゆる面から「恋」という言葉が持つ残酷な2面性を描写していく。
きっと真剣に恋愛に向かっていこうという時に人間はとてもエネルギーが必要で、だけどかのんはそれこそ機関部がぶっこわれてるので無尽蔵に燃料をもやして突っ走っていってしまうのだ。恋愛脳だとバカにする言葉はあるけれど、正直こういった「ぶっ飛んだイカレ野郎の恋」は見ていてとてもとても楽しいのだ。
それでいて、やわらかく突き刺さるポエムが散りばめられていてたまらない。
彼女なりのロジックに乗っ取りモノローグは流れ、オトメの全力全開な内容は可愛らしくもあり、しかし23歳に当たり前に備わっているべき社会的常識を踏み倒しているこの未成熟すぎる感覚が、恐ろしくもある。
2巻になって先輩の奥様の描写もされ、物語はいっそう厚みを持ちはじめた。かのんを思う弟くんの存在など、気になるサブキャラ勢は数多い。
そして追い詰められるごとに、かのんのマトモな部分も見えてきて微笑ましくなったり。
2017年も注目作。いまにも壊れそうな世界の中で"発情する"私たちの悲劇と、ラブロマンス。
2.ぼくは麻理のなか/押見修造
「ハピネス」といい、どーーも押見修造先生の作品に弱い。弱いっていうかこの作家さん凄すぎ。
「ぼくは麻理のなか」は漫画アクションにて2012年から連載がはじまり、4年目にして完結した長編シリーズです。過去作にも似たテーマがありますが、本作はやや複雑ではありますがTSというジャンルで勝負した作品。いわゆる性転換モノ。
とはいっても「やや複雑」と濁しただけの理由があって、その秘密というのが物語の根幹に関わることなので書くわけにもいかず・・・扱いがむずかしいな!「ある日突然女の子の身体に乗り移ってヒャッホー!でも女の子の世界ってタイヘン!わたし、これからどうなっちゃうの~!?」だよ!!
個人的には2016年に完結した作品の中でもトップクラスに美しく見事な着地をした名作だと思うんですが、いかんせん語りたいことがクライマックスの展開についてのことばかりで、書けば書くほどにこれからこの作品を読むぞって言う人の感動や衝撃を削いでしまいそうで難しい。
当初は突然女子高生の身体を手に入れてしまった主人公のゲスな下心と、一方でヒロインを聖なる存在として崇め守りたいというアンビバレンツの葛藤を描いていました。
じっさい本作のリビドーは「女の子になりたい」という想いや、過剰に女性を神聖視するあまりの暴走したイマジネーションだったり、そもそも「エロスってなに?」という疑問からきているように感じます。
いざ女性になってみれば、周囲の男たちの視線の気持ち悪いこと。クラスの中の窒息しそうな空気も、母親の態度も、やたら突っかかってきては過剰に懐いてくる友人も、すべての日常がぼくを追い詰める。
で、ちょっとネタバレをこれから書くのでご注意いただくとして・・・
そんなわけで終わってから一度読み返してみると、麻里は「僕」になったことで家族にたいして言えなかった本心をぶつけられたりしている(第30話他)。また性的な物事への嫌悪や罪悪感にしたって、「僕」を通じてある種のロールプレイングをしつつ、葛藤と咀嚼を行っていく。
結局「自分」というものの正体がわからなくなる、思春期の孤独や不全感が根っこの根っこにあって、そこが読んでいてヒシヒシと伝わる。読者に切っ先が向けられていることに気づく。背筋が寒くなるんですよ。自分のなかの汚い部分とか、そのくせ潔癖な部分とか、夢見がちだったり愚かななにかを、全部丸裸にされている気分になる。
ひとりの人間のルーツを辿り、その心のナカミを洗いざらい確かめていく過程が丁寧で、全9巻をついじて「麻理」という少女を"解剖"していく。
改めて考えてみればタイトルが「ぼくは麻理のなか」というのはうまいなぁと思いますね。完結後は視点が変わって2度読みも楽しいです。(まったく関係ないんですけどこういう作品のwikiがストーリーの九割五分かいちゃってるのどうかと・・・)
作品自体は、男が悶々と抱え続ける「女の子」という夢をある意味ブチ壊すような、男も女もじっさい同じ人間だよなに幻みちゃってんの、って語りかけているような実に押見修造先生らしい物語でした。哲学的な、言葉にすると陳腐化しそうなテーマをとてもうまく表現していると思います。苦しんでもがいて泣いちゃうような、そんな剥き出しの生き方を不器用にもしてしまう、尊い時代なんだよな思春期。
他の作品でも共通していえますが、言葉ではなく抽象的なビジュアルで訴えてくるのもパワフルで好きでした。精神が乱れているときの心理描写とか鳥肌モンです。
1.さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ/永田カビ
2016年の話題作をあげたらまぁおそらく挙がってくるでろうタイトル。
有名すぎて逆にトップに持ってきたくない天邪鬼な気持ちもありますが、かと言ってこんなにすごい作品を読んだらどうすることも出来ず。改めて、凄まじい情念とエネルギーが120%でブチこまれた脅威の一冊だと感じます。そこらへんは単独記事で書いているのっでちょいと省略。
→轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
その徹底的な自己分析。読者への気付きと共感、そしてなにより「読み物として知りたい事・見たいことが魅力的に描かれていく」構成の妙もあり、とにかく濃密の著者の内部へと引きずり込まれていく作品です。
よくぞここまですべてを明かせるな。赤裸々という言葉はこの領域に到達しなければ使えないんじゃないのか。
思わず興味をそそられるタイトルですが内容の6割7割は著者のバックボーンを紐解く尺に当てられている。そもそも「さびしすぎて」と、「レズ風俗に行きました」の接続がムチャクチャだから興味がそそられるわけで、正しいことなんだけれど。
とは言えその著者のバックボーンが凄まじい事になっている。そこらへんは是非本著でご確認を。
そして本作を読んだ誰もが感じると思う、「この作家さんのこの先を見てみたい」。
「レズ風俗」の本そのものも大ヒットしメディア露出も多数。きっと生活も一変しているだろうし、いやもしかしたら・・・と。それは作品のファンというより、永田カビ先生のファンになっていた自分に気付かされた瞬間なのです。
興味の対象が圧倒的に作者本人に向かっていっている。
そんななかで発売された「一人交換日記」は、まさにそれを叶えてくれる一冊。一人交換日記は見ての通り「レズ風俗」の先の永田カビ先生のレポ漫画で、こちらも濃密の一言。
単独でと言うよりかは「レズ風俗」のあとすぐ読みたい、いわばレズ風俗増刊号だ(なんだそれ)
レズ風俗と一人交換日記、合わせて一本、俺的2016年No.1です。
レズ風俗を出した後、またレズ風俗に行ったり、実家を出たり、親バレしたり、エゴサしまくったり、ヲチスレみたり、……うん、全体的に相変わらずで最高です、永田カビ先生。
でもなんとなく、ポジティブな内容だった。ヤケクソで、思い悩んだりもするけれど、
愛し愛されたいと願うことをこんなに堂々と、なんせレポ漫画として描いて出版できるような
それはもう普通の人には出来ない凄まじい勇気を感じて、意味不明に励まされたりしちゃう。
もちろん漫画として面白いのもお見事。驚異的なバランス感覚。自分を分解・解析してキャラクタといて落とし込んでいる。ただダラダラとレポートしているんじゃなく、情報を整理して「交換日記」という相手にたいして語りかける形式になっていることも深く染み込む。まぁ、相手は自分なんだけれど、一人交換日記なんだけど。
血なまぐさい内容なのはもう相変わらずで、「レズ風俗」が少しでも響いた人はこちらもぜひ読んでほしいです。
痛みとか切なさとか、逃げ出したくなるような絶望をきちんとまな板の上において押さえ込み刻んで料理してくれてます。
・・・後半、一人交換日記の事ばっかり書いてた。
この作品は「レズ風俗」ありきな内容なことは間違いないので、見逃してください。
・・・ということで前回更新と合わせて全30作の紹介でした!
ここからは色々な理由から別枠として紹介したい +α 的な作品です。
<特別部門> まもって守護月天! 解封の章
2016年は守護月天の年だったといっても良い。・・・言い過ぎだな。言い過ぎでした。
いや、でも、それくらい個人的には衝撃ニュースだった。
漫画原作の新章がスタート、しかも『再逢』とは違う歴史を歩んだ全くの新シリーズ。
それにTVシリーズのBDが出たり、まぁお祭りですよね。
去年コロチキのコントで「さぁ」が使われたあたりから守護月天という作品を思い出すひとは増えていたのだろうと思うけれど、実は前々から電子書籍などで守護月天の新作は発表されていました。
→ちっちゃいシャオとでっかい離珠のお料理教室
→まもって守護月天! ~初めてあなたに逢ったとき私が思っていたこと~
二個目のは、初代第一話をシャオ視点を交えながらリメイクした、ぶっちゃけ書籍化するだろうと思ってたら今なおされていない、必読。
そんな中ついに連載として帰ってきた守護月天。
あの柔らかくときに強烈に切ない世界をそのままに、初代から3年の月日が経った高校生編。
変わらないやつら、なんかめっちゃ変わってるヤツラ、いろいろ居るけどとにかくなつかしいメンバーとの再会が楽しめる。そしてシャオがあまりにも・・・あまりにも可愛すぎる・・・それだけで最高・・・ッ!!!
正直、とてつもなくスゴい漫画というわけではない。この作品に対する俺の評価は、思い出補正が発揮されまくった結果だから。
しかしながら本作でもみねね作品の切れ味はいかんなく発揮されている。届かない思いの儚さ、それが持つ熱のもどかしさ。孤独と恋の揺れ動く恋模様には悶絶させられます・・・。
こんなにも臆病に、言葉の意味を、視線の先を、気持ちの在り処をさがしつづける物語を、好きになれないわけがない。触れれば崩れてしまいそうな、神秘的なオーラをまとっている作品なのですよ。
うわ~守護月天懐かしい!と思ったかつての読者のみなさんは、「フェアリアル・ガーデン」も読んでみてほしい。こちらも守護月天に通ずる、コミュニケーションと種族のすれ違いが織りなす甘酸っぱい恋物語だ。
「あれ」からの桜野みねね先生はきちんと漫画活動をしていてくれた。
桜野みねねという作家を語る上でも、今作は非常に重要です。
「いろいろあった」んだ。それは本作の著者コメントでも書いている。
→今後の創作活動の方法のお知らせ 桜野みねね
→守護月天!関連作品についてのお詫び
他にも調べればたくさん出てきます。黒歴史化してしまった、前作の守護月天とか。
作品・作者の背景をすこし知っておくと、この作品の意味深さに触れられると思う。
兎に角、また戻ってきてくれてありがとうございます。
またシャオたちにあわせてくれてありがとうございます、と。
・・・
思い入れの強さというか、「作品の存在に対する感動」が強すぎて
最初BEST30に入れていたんですけど、好きすぎて1位になっちゃって、
「いや1位になるような作品じゃねぇぞ、冷静になれ」と我に返って別枠にしました。
それなりには面白いですけど、ぶっちゃけこれだけ読んでも、良質なラブコメというだけの捉え方で終わってしまいます。いや、本当はもっとベタ褒めしたいんですけど一般的にはそうなんだろかなと思って・・・
でもどうしても好きだから書きました。感謝しかない復帰作。
<同人部門> シュノーケルはいらない/藤咲ゆう
こちらは同人誌なので除外。同人誌部門ってなんだよって感じですけど、俺的ゴリ押ししたい同人誌ランキング2016のNo1がいるんですよ。それがこれ。
→恋人ごっこは屋上で。「シュノーケルはいらない/ねこかんロマンス」
スクールカースト的に混じり合わない男の子と女の子の、薄暗い青春の漫画です。(二次創作じゃなくオリジナル)
「わたしがここから落ちたって 速水くんは普通に生きていけるでしょ」というセリフが印象的。
傷つける/傷つけられることでしか関係を許せない自己嫌悪とか、窒息しそうな共依存とか、
弱い力でそれでも求めあってしまう、そんな生きづらい感覚に満ちていて
ひたすら最高of最高なので、入手は普通では難しいですが気になったからはぜひぜひ。
コミティアなどイベントで頒布されていましたが、現在はkindleとかでも配信してます。
<悔やみきれない部門> げんしけん 二代目
斑目・・・・ ・・・ ・ ・… ‥
完結しました。大好きな作品ですけど、素直な気持ちでランキングに入れられなかったので除外しました。
でもすっごく楽しめました。ありがとうございました。矢島っちに幸せになって欲しい。
もっと長く、ながく読んでいたかった。もっと二代目の空気を感じていたかった。昔のげんしけんと違うことをひとつひとつ確認してしまうような事であっても、大好きな彼らとまた会えて良かったしもっと彼らのとなりで話を聞いていたかった。でも完結。よかったな、斑目さん。大切な作品です。愛おしさしかない。
……問題の「spotted flower」も冷や汗かきながら続き追っていきますのでよろしくお願いします。
以上でおしまいです。長々とありがとうございました。
2017年もいい漫画と出会いたいですね。
前回の続き、2016年の漫画BEST30。後半戦です。
前回→2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位
2017年に入って2週間も立ってしまったので、出遅れた感はまんまんですが。
相変わらず長々と書いている部分がありますので適当にお付き合いください。
では15位から。
HaHa (モーニング KC) 押切 蓮介 講談社 2016-01-22 売り上げランキング : 19580 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
15.HaHa/押切蓮介
狙ってんなぁ畜生、という作品にきちんとハマってしまう単純な自分がやや恥ずかしくもあるけれど、実際これはめちゃくちゃ面白い。
ストーリーそのものも、そこから透けて見えてくる押切蓮介という作家のバックボーンや力の源のようなものも感じられてくる。月並みな言い方だけれど、とにかく励まされる、心温まる、ポジティブなオーラがガンガンでている。
本作は押切蓮介先生自身の母親の反省を描いた作品です。息子が母親の自叙伝を描いているのです。
しばしば押切作品に登場する、やたらと生命力ある母親キャラやちょっと根っこが図太い少女たちの空想は、ここから産まれて生きているんだろうなとおもう。
作者自身の人生観や女性観というものの源流を垣間見ることで、より作家性を再認識させられる。とか小難しいこといったってやってることはなんてことない親孝行なのだ。
たとえば歴史の偉人だったりすごい経営者だったり、そういうエラい人の半生を知っていたとしても意外と自分の身内が歩んできた人生って、知らなかったりしませんか。
歴史に名を残す偉人でもなければ、だれかが記録しないと、その人が歩んできた道のりを、その中で見てきた風景を、見つけて拾い上げてきたいくつかの大切なことを、だれも知らないまま過ぎ去っていくのだ。
だから本書は漫画家の息子だからこそ出来たとびきりの親孝行の形。
さらに、ただそれだけだったらまた別物になったであろうに、加えて本書は母親やその周辺環境があまりにもぶっ飛んでいたせいで普通にエンタメしちゃってる、なんともすごいバランス感覚のもと成り立っている作品でもあるのです。
旅館の娘として生まれたものの、ヤンチャすぎる学生時代・・・話題に事欠かない毎日・・・はじめての就職に、一家を巻き揉む一大事・・・1巻にギュギュっと濃密に、ひとりの女性の半生が詰め込まれている。すごい濃度で、すごい生命力を感じる・・・!
第3話で次々入れ替わっていく飼い犬の話はリアルに吹き出しながら読み進めた。めっちゃくちゃだなこの一家。最高かよ。
しかもきちんと綺麗に一本のストーリーが出来上がっている。父親とのささやかなひとときは感動するし、母親の含蓄ある言葉たちはとにかく染みる。
母親が語り聞かせる構成をとっているため、なにかにつけて説得力があり、そのことがこの作品に宿る生命力につながっているのかな。言葉のひとつひとつも深みがあって素晴らしい。
ハイスコアガールの騒動でクソ袋とかした作者へと、終盤話が舞い戻ってきますが、そこで分かるんですよね。本書は作者自身が苦境から這い上がるために自分に向けて書いた、ひとつの人生指南書だったのではないかと。
無事復活して這い上がってきた今となっては受け止め方も違いますが、リアルタイムでこれを読んでいた人はまたちがった楽しみがあったんだろうなと思うと、後追いになってしまったことが悔しくもあります。
押切蓮介という作家のルーツを探るとともに、波乱万丈と一言といえる”誰かの半生”を身近に感じられる巧みな構成が光る一作。ある意味、初めて押切蓮介作品に触れるという人にもオススメしたいかも。1巻完結と読みやすいです。
僕たちがやりました(7) (ヤングマガジンコミックス) 金城宗幸 荒木光 講談社 2016-12-06 売り上げランキング : 835 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
14.僕たちがやりました/金城宗幸・荒木光
ヤンマガでこういう強烈なダウナー系漫画が来ると、もう無条件で読んでしまって、今だとこの作品かなと思います。
めちゃくちゃおもしれぇ・・・
いま週刊連載で1番楽しみにしている作品です。とにかくめまぐるしいドライブ感と、感情を揺さぶってくるストーリーの意地悪さがハンパじゃない。
いかにもチャラいウェイな男子高校生たちの気だるくもバカバカしいい日常・・・かと思っていたら一気に崩れ去る。
普段の仕返しとイタズラで他校に仕掛けた爆弾が、偶然アホみたいな威力を発揮して、大事故に発展。けが人も死者も出て、テロの疑惑なんか出て・・・・・・
ネットでよく学生たちが炎上するじゃないですか。本作は「滅茶苦茶やらかしてしまったバカ学生」側の物語なんですよ。
国家権力・警察の捜査からの逃亡。そして報復にガチで殺しにきているヤクザまがいの不良からの逃亡。
ただ日々の退屈をどうにかしたかっただけなのに、いきなり人生をかけた逃亡劇が始まってしまった。
自分たちの常識ではあり得ないような、アタマいっちゃってる奴らに追い掛け回され、命さえ狙われる。加えて警察に捕まれば人生一瞬でパァだ。逃げなければ。逃げなければ。捕まりたくない。普通に楽しく生きていたかっただけなのに。
社会の闇に放り込まれた男子高校生たちの物語。
この作品、根っこが非常に暗い。スリリングかつダークな世界に病みつきになります。
罪悪感に押しつぶされそうな悲壮感。けれど人生を台無しにはしたくない。
人の命を奪ってしまったことへの重圧、追い詰められる緊迫感、容赦なくおそいくる暴力と、破滅へのカウントダウン・・・!!そして展開も非常にスピーディ!
張り詰めた緊張がストーリーを支配しており、そんななかでオチャラケたコメディシーンが挿入されても、空虚なだけなんだよなぁ。
だからこそ、ヒロインとの優しい時間が本当に心安らいで
それすらも奪い取られようという展開に、心の底からヒヤヒヤが止まらない。
明らかに、圧倒的に「間違えてしまった青春劇」なのに
高校生だからこその刹那的な感情とテキトーさとバカバカしさがこの作品をより息もつかせぬ勢いと、味わい深さを与えてくれています。「なんとかなるでしょ☆」と世の中を舐めていたら本当に取替しのつかない現実が、すぐ目の前までナイフ持って待ち受けてるんだ。
だって僕らは、人殺しなんだから。
罪の意識に蝕まれながら、それから目を背けるためにいつものようなバカ騒ぎを続ける主人公たちが、どんな顛末を迎えるのか。
いまも連載中です。テンションはトップギアのまま。今読みたい、今読まなければならない作品のひとつでしょう。毎週ドキドキしながらヤンマガ読んでます。
やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT) 仲谷 鳰 KADOKAWA 2016-11-26 売り上げランキング : 1533 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
13.やがて君になる/仲谷 鳰
ゆっくりと丁寧に、おぼろげな感情の正体をさぐっていく、神秘的で静謐な物語。
ガールズラブストーリーであるのと同時にその枠にとらわれない、「恋愛感情」の在り処とその価値を確かめるための日々。素晴らしい作品なのは間違いないんだけどそれがここまで売れるというのも少々驚きで、嬉しい限りですね・・・
あと個人的にこの作品が電撃大王から出てきたというのが少し嬉しい、なんというか、あそこのプライドを感じる。
すでに3巻まで発売されていますが既刊の感想はいぜん書いたのでそちらも。
→わたしは貴女の特別なひと。『やがて君になる』1巻
→絶対、好きにならない、だから。『やがて君になる』2巻
恋愛感情がわからない主人公・小糸侑。
生徒会の先輩である七海燈子から想いを寄せられ、しかしそれに応えられない。それどころか「私が知らない感情を知っているなんてずるい」のような気持ちにまで飛躍するなど、かなり捻くれている部分もあったり。
はじめて特別な感情を抱いた先輩と、いまだ“特別”の感触を知らない小糸。
ふたりのふれあいを描いていく中で、徐々にサブキャラたちも絡み合い、
非常に独特な空気をもった、完成度のたかい青春物語として歩んでいます。
すでに単独記事を書いているのでそちらでじっくり書いているのですが
最近発売された3巻はさらにサブキャラ陣の掘り下げ、そして主人公ズの過激なキスまでなだれ込んで来て更にテンションあがるヤツだった。佐伯先輩スキィ・・・。
さらに彼女たちの青春を「過ぎ去りし日々」と重ねて見つめる大人カップル(意外な)も登場。彼女たちの立ち位置や、持っている温度といったものが、不思議とこの作品を包み込んでくれる。
様々な想いも人間も巻き込んで、物語はいよいよ生徒会劇へ進む。
4巻以降もばっちり追っていきたい、恋愛漫画のひとつの名作となり得るピース。
ハピネス(4) (週刊少年マガジンコミックス) 押見修造 講談社 2016-10-07 売り上げランキング : 19815 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
12.ハピネス/押見修造
ハピネスのカケラもないことでおなじみの現代吸血鬼耽美浪漫「ハピネス」だ!
「惡の華」完結後に去年から始まった押見修造先生の最新作ですが
なんか面白いとかいう話以前に、この作品やばいなって思う・・・(語彙)
なんとなく凄い。なんとなく、恐ろしい。本能的な部分に訴えかけてくる。
例えば頭キマってんじゃないかというくらいに視界も思考もドロッドロにとろけていくカオス描写もあるし、ドス黒く凄惨な吸血鬼たちの生き様も言えるし、主人公がたどる物語の血生臭さとか不幸っぷりとか・・・
感想として相応しくないだろうけれど、「怪しい世界に引きずり込まれる感覚」これが強烈で魅惑的でめちゃくちゃカッコいいのだ・・・!!
自分が壊れていくのを肌を感じながら脳みそがグツグツに煮え立って、そんな時に誘うように輝く夜の街の寂しげな感じがすげぇジンワリくるってんですよ。
悲痛なドラマを抱えて自ら家族も友も捨てすすんで孤独になりながら謎の女と都会の夜を旅立ちたいでしょみんな!!!クラスメートのヒロインに心配されてもそれを振り切りたい!!!それだよそれ!そのリビドーだ!!
そんな中二病を懐かしく発症させてくれる漫画。
本作は押見先生が表現の実験をしているような感じで、実にいろんな感情演出や混沌とした背景が多数描かれている。それが本作のテーマやストーリーに見事に合致して、「見たことがない光景」の体験を主人公と読者が一緒に感じられるんですよ。
単純ですけど漫画においてビジュアルで引き込まれるってのは、それだけで好きになれる。
3巻のノラとのキスシーンが鮮烈だった。未知なる存在と口づけをする恐怖や不快感や・・・そしてそこから甘美な恍惚と、癒やしが主人公を包んでいく・・・4巻でもういちどキスをした時には、また違った描写がされている。
けれど2016年の「ハピネス」は勇樹サイドのストーリーが濃密でしんどかったなぁ。
彼の涙が、絶望で崩れた表情があまりにもむごい。元々は気に食わないキャラだったんだけど、気づけばけっこう好きなヤツになっていたんだよなぁ。それがもう。
いよいよぶっ壊れた吸血鬼が身内?から登場して、5巻以降は主人公との関係もぜったいマトモじゃいられない。加速する、落下する物語はさらに深い夜へ。
でもこの作品は「ダークヒーロー」ものだと謳われていることを忘れない。
この閉塞感を打ち破る・・・かどうかはわからないけれど、スッキリとする展開が来てほしいな。
ワクワクする展開が続いていることは間違いなくて、ただあまりにも暗い。
戦国妖狐 17 (コミックブレイド) 水上悟志 マッグガーデン 2016-06-10 売り上げランキング : 21896 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
11.戦国妖狐/水上悟志
いやーーーーー面白かった!!!!こんなに爽やかな最終巻読んだの久々だな!!!
水上悟志作品では最長となった「戦国妖狐」。文句のつけようがない、完全無欠の大団円。全17巻、全99話の長い道のりのはてに待つ、極上のエンドロールだ。
じっくり練り込まれた・・・ようでいてかなり自由に筆を走らせていたという本作。それなのにこんなに綺麗に、あそこまで広げた風呂敷をたたみきれるのかと、水上先生のハンドルさばきには恐れ入る。
超ド級のスケールで行われたラストバトルと、それからのながい人生の旅路。
戦いはこれにておしまい。でも人生は続く。
最終巻の感想だけに慎重に書こうとは思う。
思うが、「惑星のさみだれ」然り、ラストバトル後のあと寂しい空気を引きずったまま、エピローグでぐんぐんと読者をおいてキャラクターたちがひとりでに未来へ歩んでいく・・・この頼もしさと眩しさがたまらない。読んできて良かったと思える、かけがえのない瞬間だ。
本作はとくに歴史モノ(という意識は作者にも読者にももしかしたらあまり無かったが)という側面もあったがゆえに、エピローグでは急加速して時代がめぐっていく。
その中で千夜は年を取らぬまま、歴史の見届け人として生き続ける。
大切なものたちが天寿を全うし、あるいは不慮の死を遂げていき・・・それでもなお、生き続けていく。
同じ歩幅で生きていけないことの切なさが、時代というあまりにも巨大する流れの中で膨らみ続ける。けれど、おなじ境遇の連中もいて、そして相変わらず、バカなことを言い合える。
気が抜けつつも暖かく力強い生命賛歌は、水上悟志作品共通のテーマなんだろうな。
月並みな言葉になってしまうけれど、人のつながりの温かさを改めて感じられる。
水上悟志作品のエピローグは最高。これぞ少年漫画の王道ってヤツだ。
かわいいひと 3 (花とゆめCOMICS) 斎藤けん 白泉社 2016-11-04 売り上げランキング : 6967 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
10.かわいいひと/斎藤けん
かわいいいーーーーーーーーーーッツっ
かわいいすぎるーーーーーーっっっっ
もうそれがすべて。かわいい。これに尽きる。これ以上はない。
ヒロイン(めっちゃ美少女)も主人公(目つきわるい)もほんとうにかわいい。
ゴチャゴチャ感想書いてる場合じゃない、語彙力もクソもない、初々しいカップルをひたすらニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤnヤny見ていたい人たちは今すぐ買って読んでから死んだほうがいい。俺は一足先に死んでいる。
いちおう説明すると、死神フェイスで他人から距離を置かれがちだけど優しい花屋の青年花園くんと、彼を好きになってしまったゆるふわ超絶美少女日和さんがお付き合いすることになったという話。
ふたりして奥手で、相手のことが大好きすすぎて、けれど触れたくて・・・
お互いにはじめてのお付き合い、いわゆるはつきあいなこともあり、手探りだらけの初々days。
ぶっちゃけそれだけなんです。バカップルのイチャつきを眺めているだけなんです。
天国ですよね。
快楽堕ちしたみたいにハートマークで脳内埋め尽くされて俺は死ぬ。
きっちり毎回盛り上がりどころを作ってくれるのはお約束なんですが、盛り上げ方がうまい。
ヒロインにしても主人公にしても「相手のことが好きで好きでたまらない」ゲージがMAXになったときの感情の暴走が可愛すぎて大声で叫びたくなるんですよね・・・一瞬理性と本能のせめぎあいが起きて、基本的にふたりとも奥手で弱気なんだけど、イザというときにはグッと前のめりになっちゃう。で、別にそれでもいいよってお互い受け入れちゃうやつ。あーーーーーーーーーーーーー(天を仰ぐ)ーーーーーーかわい。
3巻は日和ちゃんの「もっとイチャイチャしたい・・・!!」という叫び。
全読者が魂を振り絞る全力で「いけー!!!」「イチャつけー!!!」という声援を送ったことでしょう。
そしてカラオケでイチャついてたら日がついちゃう日和ちゃんのオンナっぷりも見どころ。
至福とはここだ。天国とはここなのだ。
へんな当て馬とか、日和ちゃんを追い回すイケメンとか、そういう読者を不安に揺さぶる要素がほとんどないいあたりも素晴らしい。
最高に甘酸っぱいだけのイチャラブ漫画って本当に嬉しい。
今後長期連載になっていく中で、たぶん他のライバルキャラ的なやつらも出てくるかもだが。
まぁその時はその時だし、ふたりの絆の強さをすでに確信できるし、まぁ、見守りましょう・・・!
ろくな感想書いていませんがそんな感じ。いま最高にイチャついてる漫画はこれだ。
花井沢町公民館便り(3)<完> (アフタヌーンKC) ヤマシタ トモコ 講談社 2016-09-23 売り上げランキング : 22290 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
9.花井沢町公民館便り/ヤマシタトモコ
「花井沢町公民館便り」うーん、この当たり障りのなさそうな、人畜無害の顔したタイトルで放たれる、最悪の劇薬みたいなディストピア・オムニバス。
最高に悪趣味で、最高にセンチメンタルで、本気で息が詰まる絶望感。
全3巻。完結してもなお、ずっと引きづり続ける。この作品が持つエネルギーは正直凄い。
ここに描かれているのは、能天気で生きるたがりな者たちの人生と、すべて静かに崩壊するまでの長く短い数十年、その断片だ。
「一度でもきみとキスしたり抱き合ったりしてみたかったな」
作中のセリフに凝縮される、決して触れ合えない、目の前の人との距離を突きつけられる作品。
いわゆる3.11以降のエッセンスが濃厚な作品でもある。
俺は正直エンタメにそういった社会派なテーマを放り込まれるとうまく飲み込めないたちなので、「3.11以降の」とかいう文面を見ただけでウゲェとなる人間です、けれどこの作品を語るには触れておきたい部分でもあるのだ。
あの日からのしばらくの日々の恐怖をみんな記憶していて、トラウマとしてみんなが共有している。本作に描かれている壁の外/壁の中の世界のギャップや断絶は、イヤでもあの時を思い出せられて、ひたすらに心がザワつくのだ。
詳しくは語られない。どっかの企業か団体かがシェルター技術実験が失敗して、首都近くのとあるベッドタウンがその被害にあった。見えない膜に覆われて、生命の行き来ができなくなった。外界と隔離されたその小さな町、花井沢町の住民たちが、ゆっくりと生きて、死んでいく。
それだけの話。
いずれ、確実に、滅びる、『わたしたちの町』の思い出話だ。
時系列をシャッフルすることで構成的にも巧妙。
あのエピソードのキャラとこっちのキャラが思わぬ所で繋がったとか、あの時の出来事が未来にこんな影響を及ぼしていたとか、読み込むほどに発見の面白さがあります。
けれど第一話冒頭でしょっぱなから、町最後の生き残りとなる少女の独白がある。
つまり全て破滅へ向かっていくことを承知で、読者はこの物語に向き合うことになる。
ヤマシタトモコ先生らしい鋭い人間観察からくる、人間関係のズレや素朴な疎外感などをテーマにした短編たちはどれもエグってきて素晴らしい。
個人的には国からの配給で食生活や金銭にまったく不安がないという設定をみせるエピソードで、パンを焼いて売りたい女性が「私は一度も自分の稼いだお金を使ったことがないのが 本当に恥ずかしくて悔しい」とボロボロ泣くシーンが強烈でしたね・・・。なるほど、と。
外界の社会とのギャップや、それよりも単純に、閉鎖されたことで人間関係がより濃く醜くなっていく感じも最高に悪趣味。
けれどそういう人間の悪い面ばかりを描くんじゃなくて、ささいな幸せだってたくさん書いている。いろんな人々を描くからこそ、その町の中に流れている空気もすごくリアルに浮かび上がってくる。
そして連続して描かれるのが、町内の少女と外界の少年のカップルのエピソード。
けっして触れ合えない。けれど惹かれ合った2人。
微笑ましくも美しい彼らの恋がたどる行方は、町の未来そのもののようだった。
だからこそ、・・・最終話が、あまりにも、パンチききすぎでしょ、「そりゃそーなるよ」とも思ったけれど、もう、ああ・・・やりきれんな・・・
実は3巻末の描き下ろし漫画ですごい情報が出るので最後まで気を抜かないでほしいのと、それを踏まえて、3巻の表紙をじっくりと見直して見ると、またゾクリとさせられる仕掛けがアります。
全3巻となりましたがまだまだ読みたかったなぁ。
人間本来の醜さと美しさを浮き彫りにする、強烈かつ刹那的なオムニバス作品集。
ごちゃごちゃ書いてしまって申し訳ないです。めっちゃ好きな作品です。
兎が二匹 1 (BUNCH COMICS) 山うた 新潮社 2016-02-09 売り上げランキング : 8416 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
8.兎が二匹/山うた
ピクシブにアップされたこちらの短編を長編に膨らませた全2巻。とりあえずこれを↓
美しく、心が張り裂けそうに切ないラブストーリー。何度読み返してもそのたびに震えるし、なんだか大切になってあまり話題にも出せない、不思議な作品でもある。わりと、全部が超ツボでした。
不死を手に入れて400年近くを生きている女、すず。
彼とその恋人(??)のサクとの日々を描いた作品。
しかし連載のもととなった上の短編を読むと分かるんですけど、1話でほとんど片がつくんですよ。おおよそ7割8割くらいはここに集約されている。それくらい濃密だからぜひ上のやつだけでも読んでほしい。
それで全2巻でなにをやっていくかと言うと、第一話で見事に崩壊した2人の、それまでだ。
時を巻き戻してサクがすずに保護され、ともに住まい、そして惹かれ合っていき
すずの過去を解き明かしその心のうちに巣食う強烈なトラウマの正体も辿る。
彼らの人生をすべて明かして、それから物語は膨大な未来へと向かっていく。
すずにしろサクにしろ、心にすさまじい孤独と痛みを抱えていて、
それらが響きあいながら2人寄り添っていく過程にはしんみりと暖められる。
幸せをすなおに受け取れずむしろ遠ざけて、そんな不器用な様子がかわいいすぎる。
けれど傍にいたところで2人は癒やされながらもさらに傷ついていって、
不死という永遠を生きるすずを本当に救うなんてことは、ただの人間の男には無理なのだと思い知らされる。
好きだというくせに、愛しているというくせに、お前はいつか死んでしまうじゃないかと、
すずは泣きながらこぼすのだ。そんなことを言っても仕方がないのに。永遠を生きていてもこんな子供じみた事を漏らしてしまうその追い詰められた人間の心理にゾクゾクしてしまう。
そして2人は互いの死をとことんまで引きずって、今度こそ永遠に。
すずが自殺をするシーンやすずの過去回想を含め、けっこうエグい絵面も多い。
ただ黒を非常にうまく使ったビビッドな画面づくりがされていて、グロテスクなシーンも感傷的なシーンも構図からしてかっこいいのも好き。
またシリアスな内容だけれど肩の力がぬける穏やかシーンも豊富で、むしろそちらでの間の抜けたかわいらしいやり取りも印象深く、どんどんとこの2人が好きになっていく。
最終話の持っていきかたも、個人的には最高だった。この終わり方じゃなかったらこんなに好きになっていない。かすかな希望と、それにすがることしか出来ない永遠の命の脆さと愚かしさ。
「永遠」という響きをこんなにも残酷に、しかし尊く清らかに感じられる。
1巻2巻ともにカバーを外したところのおまけページの秀逸で、一層泣かされてしまうのだ。
とほうもなく膨大な時間を、すずさんという軸を通すことで不思議とつかみやすく、だからこそ彼女の生きてきた、これから生きていく日々が宇宙のように恐ろしくなる。それが本作の強烈な余韻の正体かもしれない。
不滅の恋物語。手軽に読めてがっつり後引くのでオススメです()
ラストゲーム 11 (花とゆめコミックス) 天乃忍 白泉社 2016-10-05 売り上げランキング : 623 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
7.ラストゲーム/天乃忍
感無量のラストを迎えた人気シリーズ。天乃忍先生の出世作となりました。
当ブログでも定期的に感想かいてましたが、最終巻の記事はこちら
→完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻
・・・いや全然まじめに感想かいてないですけど、愛おしくて仕方がない作品なんですよ!
とくに主人公の柳くんが最高だった。個人的に少女漫画のへっぽこなヒーロー役って大好きで、本作はむしろヒロインの邦画基本的には男前だったりする。
ヒロイン九条を自分に惚れさせようとする柳くんが、ものの見事に「片想い男子」をこじらせていく青春模様は至高の一言。
自分の思いに気づいてからの九条は圧倒的なかわいらしさを誇っていましたが
シリーズ全体での可愛さポイント獲得量で言うと柳くんの方が上という説が有力です。
幼馴染、両片思い、ふたりとも不器用、そして不安になる要素ゼロという
最高にベタ甘なまま11巻を駆け抜けていきましたが、サブキャラ勢も魅力的でした。
恋敗れた側の感傷をかろやかにそして印象的に描くのも、
やはり悲恋大好き作家たる天乃忍先生らしい味わいでしたね。
個人的にはアニメ化まで行ってほしかったけれど、ドラマCDになってくれただけでも嬉しかった。
コミックス特装版で2回、LaLa付録で1回だったかな。大切にします。
現在発売中のLaLa2月号に新連載「保健室の影山くん」の予告カットを載せて頂いています。1月24日発売のLaLa3月号から連載開始です。どうぞよろしくお願いいたしますヽ(´▽`)ノ pic.twitter.com/4n75fXKQA8
— 天乃忍@ラストゲーム⑪最終巻発売中 (@shinobu_amanoo) 2016年12月26日
そして今年には新連載も始動。甘いラブコメだったラストゲーム終了のガス抜きにまた悲恋モノを描いてほしかったところではあるけれど新作も楽しみにしております・・・!!
なお「柳くんみたいなしょうもない少女漫画のイケメンキャラ」を発見しましたら私までご連絡いただけると大変ありがたいです。
ネトラセラレ(3) (バンブーコミックス COLORFULセレクト) 色白好 竹書房 2016-07-27 売り上げランキング : 11296 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
6.ネトラセラレ/色白好
妻が不倫SEXしているのを見てシコってる旦那の漫画。(イヤな紹介だ・・・)
黄色い楕円マークのない、いわゆる非18禁エロ漫画というジャンルの作品。
大傑作「過ち、はじめまして。」に続く色白好先生の長編シリーズ、3巻完結。
ぶっちゃけ本作も名作。「クソッ!クソッ!!」と悔しそうにしかし股間をこする手を止めない主人公、クズすぎて愛しかないとか思っちゃうヤバい。
NTR属性持ちの男が美人な奥さんをゲットしたものの、夫婦生活に満足できず、「他の男と寝てくれ」と土下座で妻に頼んで始まる、どうしようもない感じマンテンな作品。
大切な最愛の女性を、別の男に汚される。それでしか愛せない夫の苦悩・・・・・・
エロ漫画としての実用性もバッチリ。それでいて「夫婦愛とは」という非常に奥深い、答えの見えないテーマを深掘りしていく。
画力も高く、心理描写もおろそかにはしない。凄まじい濃度で混沌とした物語が綴られる。
登場人物の感情も行為もどんどんエスカレートしていくし、「愛しているから」という言い訳も通用しないほどに醜い、おぞましい暗黒へと足を踏み入れていく。
夫婦というカタチをとりつつも別の人間と関係を結ばせ、それに夫婦互いにボロボロになりながら憎しみも愛しさもヒートアップし続け、そして煮えたぎった瞬間に、破滅が訪れる。
「苦しむことが愛することだ」と彼は言う。「あなたと結婚なんかしなきゃよかった」と彼女は言う。しかしそれもひとつの男女の形として、この作品は魅力的にふたりを描いてくれました。
こんな漫画初めて読んだ。感動しました。ラストは賛否両論あるとは思うけれど。
ヘヴィなストーリーに見合う人物の表情も魅力的。気合が入っています。感情移入して読んでるこっちまでゼェゼェ息が切れてきそう。
また純情な奥さんが変貌していき、最終話には全然ちがうキャラになりますがこれはこれで愛おしくて仕方がない・・・!むしろ彼女の本質が引きずり出されたかのようで興奮度マシマシってもんよ。この変貌も本作のオススメポイントですね。
毎度おなじみ、本編が地獄なのに作者本人が奥さんとノロケまくるあとがき漫画が、最終巻にはなかったのはやや寂しい所。ブログをみるに、また次回作にはあの楽しいあとがきが復活してくれることでしょう。退院となったようで良かったです。
そんなこんなで、エロ漫画としても極限の環境下で試される夫婦愛の漫画としても読み応えは最高峰なので、読んでない方はぜひこの機会に。
あと個人的にはクライマックスでの、主人公の父親の扱いで爆笑したんですが如何か。
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 5 (ビッグコミックススペシャル) 浅野 いにお 小学館 2016-09-30 売り上げランキング : 8060 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
5.デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション/浅野いにお
堂々と言うよ俺は浅野いにおが好きなんだ。
毎年ブログのランキングに入れてますが許してほしい。ましては2016年には4巻と5巻が発売されて、物語もどんどんうねり、加速していたわけで、めっちゃかわいかったんですよね。あ、まぁ面白くもあったんですけど。かわいい。俺が言えることはたったそれだけ。・・・かわいい・・・。
→どうやら世界がヤバイらしい、たぶん。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻
→君がいるならたとえ世界が終わる日も。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』3巻
節目節目で大好きだと叫んでいるわけですが、本作もいよいよ最終章へと突入していく。
「人類終了まであと半年」という明確なラインを突きつけられ、読んでいる側としては「ああ・・・」と複雑な思いが湧き上がりますが、そんなこと露知らずにおんたんと門出の日常はバカバカしくてぬるくて時々刺激的。キラキラかがやく大学生活の始まりだ!!!
げぇーっへっへっへっへ!!(好き)
『侵略者』サイドの描写が増えました。あまりにも非力な、人間に虐殺されるばかりの宇宙人と、ぷかぷかと浮かぶだけのただのUFO。
地上におちた彼らはコロニーを形成に、数少ない生き残りがかろうじてそこで生活をしている。
そこで彼らは当たり前のように、家族を持っている。大切な両親や子供とともに暮らし、
『人間』という脅威に怯えながらも生活を送っている。
見えてくるのはそんな皮肉な構図。人間が侵略者を圧倒し、圧倒的な暴力で虐殺しつつも大義名分で許される。
そんな中でおんたんと門出は侵略者と遭遇する。
これまで何度か登場していた、死亡したイケメンアイドルに変身したあの侵略者だ。
彼とふしぎな絆で結ばれてく彼女たちに、しかし密かに現実の脅威は忍び寄る。
侵略者をめぐるあまりにも過酷な現実からせめて彼は守らなければと、秘密を共有していく・・・
そしてその中で芽生えていく、おんたん初めての淡い感情・・・・・・これは・・・なんだ・・・!!
世界崩壊とともに始まっちまうのか。未知との遭遇・青春ラブストーリーってのが。
おんたんと門出の友情の原風景に涙腺がゆるみつつ、5巻ラストでは甘酸っぱさが炸裂しつつ
印象深いのは第36話、侵略者を殺しまくった軍人が自分の行いに疑問を抱いて帰省するエピソード。
浅野いにお先生の本領発揮とも言える、「闇」をするどく切り取ったソリッドな内容でした。
本作はおんたんと門出の物語を中心に動きつつも、その周囲をとりかこむ社会情勢や、秘密をぎっている大人たちのしびれる遣り取りも洒脱に描かれており、そこも魅力のひとつでしょう。なんか深刻なことをしゃべってる大人たちが感情を密かにバチバチさせてるの好き(小並感)
まぁ、本当に"知っている"大人たちは、もはや諦観で動けなくなっている部分もあり、表情に暗い影が落ちていて
だからこそ、現実を見ていながらも馬鹿騒ぎをしている主人公たちが眩しく感じられてくる。
歪んだ世界の中で少女たちの青春をみていると、尊さのあまり身動きが取れなくなってしまう・・・
スレッスレ、キワッキワのバランス感覚で成り立っているんですけど、明らかにそれが悪い方向へと傾きだしているのが感じられてゾクゾクしますね。ただ、4巻にしろ5巻にしろ伏線が散りばめられていっている段階に過ぎない。本当の爆発はここからなんですよね・・・しんど・・・
そんな小難しいこと言ってないで、俺はもうおんたんの初恋の心奪われっぱなしなんですよ。
世界がどうなろうと知らないからおんたんの恋の行く先だけでも見届けたいですね。そんなセカイ系な終わり方。
青春のアフター : 3 (アクションコミックス) 緑のルーペ 双葉社 2016-11-11 売り上げランキング : 3968 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
4.青春のアフター/緑のルーペ
緑のルーペ先生の一般向け作品。
先生特有の、あの生臭くも甘酸っぱい強烈な個性がビンビン際立っているシリーズです。1巻も最高でしたが2巻3巻と物語が進むにつれ、苦々しくも目が離せない圧倒的な求心力で夢中にさせてくれました。
男女において過去の恋愛へのスタンスは違うという俗説がありますね。男は別名保存、女は上書き保存みたいな有名なやつ。本作はその「男が恋をひきずるとどれだけ醜いか」をこれでもかと描き出す。
本作の主人公は非常に醜悪で、貧弱で、神経質な、ありふれた男です。
しかし一点、おかしな点がある。初恋の女の子は、目の前で消えてしまったのだ。それは神隠しのように。いや、レコードの音飛びのようなものだ。だって彼女は、時を超えていったのだから。
というわけで高校時代、突如として恋の相手を消失した主人公が、いろいろあってそんな思い出も飲み込んで別の女性と付き合って順風満帆だってときに、初恋の少女があの当時のままの姿で還ってきたってんだからこりゃあ意地悪な設定ですよ。
突然きえたさくらに対して「彼女にいつ帰ってきてもいいように」とさくらの居場所を守り、ノートに手紙とも自分の日記とも取れる文書を遺し続けた鳥羽。
戻れないからこそ過去とは過去として割り切れる。そこにどんな後悔や羞恥や美しい記憶があったとしても、等しく過去として時の中に埋もれる。
なのに、よりにもよってというタイミングで過去は再びやってくる。
バッドエンディングを迎えた青春の、その先へ。
これはどちらのヒロインを選ぶかというラブコメ的な話というより、主人公自身の葛藤の物語なのだ。
2巻3巻と、さくら消失のその後に主人公鳥羽がたどった人生が断片的に語られていく。
たったひとつの恋とその後悔が、どれだけ彼に重くのしかかったか。その傷の深さ、呪いの凶悪さは饒舌に尽くし難く、苦しみ抜いてのた打ち回って、そうして彼は青春から抜け出すことができたのに。大人になれたのに。
”戻ってきた”ヒロインにたいして、主人公が叫ぶシーンがある。
「いなくなってしまえばいい」と。
あれだけの情熱で彼女の帰りを、ずっと、待ち続けていたはずなのに。
そんな言葉を吐き出してしまうまでのストーリーのうねりはハンパじゃなく、修羅場も修羅場、そしてその先の闇へとズブズブと重く沈んでいく・・・ああ恐ろしい。ワクワクが止まらない・・・
圧倒的に追い詰めてくる迫真の描写とともに、そこに宿るキャラクタたちのメンタルは少しずつブレていき、波紋のように広がっていく。
自分を苦しめる過去は、自分にとってのすべてでもあり、忘れたくても捨てられない大切な日々でもあり、一生それを背負って生きていかなきゃならないのに、今もなおどうしようもなく過去に呪われていく。
10代のわずかばかりの日々はあまりにも無防備で繊細で、青春のトラウマというのは一生モノなんだろう。そして大人のいま青春をやり直すことで、より深く青春の闇へと囚われていく。
ひきずりこまれていく自分をごまかすように主人公は進むけれど、実際誰から見ても修羅場間違いないは明らかってところでいよいよ次回4巻で完結。
あーーーーーーー見たくないけど読まざるを得ない。ところで1巻から3巻に進むに連れ、表紙の桜の花びらの量は減っているんだけど、あーあ、もうどうなっちゃうんだろうね。死臭がする。
あげくの果てのカノン(2) (ビッグコミックス) 米代恭 小学館 2016-10-12 売り上げランキング : 2109 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
3.あげくの果てのカノン/米代恭
→炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
→一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻
おおよそ、単独記事で書いてしまっているので蒸し返すようになってしまうんですけども
不倫恋愛×SF(×ポエム)という悪魔的合体でここまで面白い作品になってしまうのかと。
恋に暴走する主人公、かのん。憧れの先輩への片面いを引きずりはや8年目。
エイリアンと戦う使命を帯び、任務に損傷するたびに少しずつ、もとの自分から少しずつ変化していく。
それにより、ただ遠くから見ているだけだったかのんに、不意にチャンスが訪れてしまう・・・
倫理・道徳に反するということから「不倫」・・・ただ、ただ、ずっと先輩が好きで、ずっと先輩を見ていて、ずっと先輩だけを追いかけていただけなのに、いつしかこの恋は「許されない」ものになっていて、でも大好きな彼に選んでもらえる、触れることができる幸福はしびれるくらい甘く…
まぁそんなわけでズブズブの不倫沼へと突っ込んでいく作品です。
特徴的なのが、時に理不尽で時に暴力的で、そもそも言葉にすら表現しきれない感情の暴走を(特にかのんという特異な恋の仕方をしているキャラクタを)非常にうまく描いている事。
その恋によって例えば誰かを遠ざけたり、大事なものが壊れたり、裁きを受けたりするかもしれない。けれどそれでも向かっていかなくてはならないというムチャクチャな正当化とか、けれど相反する葛藤だとか、あらゆる面から「恋」という言葉が持つ残酷な2面性を描写していく。
きっと真剣に恋愛に向かっていこうという時に人間はとてもエネルギーが必要で、だけどかのんはそれこそ機関部がぶっこわれてるので無尽蔵に燃料をもやして突っ走っていってしまうのだ。恋愛脳だとバカにする言葉はあるけれど、正直こういった「ぶっ飛んだイカレ野郎の恋」は見ていてとてもとても楽しいのだ。
それでいて、やわらかく突き刺さるポエムが散りばめられていてたまらない。
彼女なりのロジックに乗っ取りモノローグは流れ、オトメの全力全開な内容は可愛らしくもあり、しかし23歳に当たり前に備わっているべき社会的常識を踏み倒しているこの未成熟すぎる感覚が、恐ろしくもある。
2巻になって先輩の奥様の描写もされ、物語はいっそう厚みを持ちはじめた。かのんを思う弟くんの存在など、気になるサブキャラ勢は数多い。
そして追い詰められるごとに、かのんのマトモな部分も見えてきて微笑ましくなったり。
2017年も注目作。いまにも壊れそうな世界の中で"発情する"私たちの悲劇と、ラブロマンス。
ぼくは麻理のなか(9) (アクションコミックス) 押見 修造 双葉社 2016-09-28 売り上げランキング : 8326 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
2.ぼくは麻理のなか/押見修造
「ハピネス」といい、どーーも押見修造先生の作品に弱い。弱いっていうかこの作家さん凄すぎ。
「ぼくは麻理のなか」は漫画アクションにて2012年から連載がはじまり、4年目にして完結した長編シリーズです。過去作にも似たテーマがありますが、本作はやや複雑ではありますがTSというジャンルで勝負した作品。いわゆる性転換モノ。
とはいっても「やや複雑」と濁しただけの理由があって、その秘密というのが物語の根幹に関わることなので書くわけにもいかず・・・扱いがむずかしいな!「ある日突然女の子の身体に乗り移ってヒャッホー!でも女の子の世界ってタイヘン!わたし、これからどうなっちゃうの~!?」だよ!!
個人的には2016年に完結した作品の中でもトップクラスに美しく見事な着地をした名作だと思うんですが、いかんせん語りたいことがクライマックスの展開についてのことばかりで、書けば書くほどにこれからこの作品を読むぞって言う人の感動や衝撃を削いでしまいそうで難しい。
当初は突然女子高生の身体を手に入れてしまった主人公のゲスな下心と、一方でヒロインを聖なる存在として崇め守りたいというアンビバレンツの葛藤を描いていました。
じっさい本作のリビドーは「女の子になりたい」という想いや、過剰に女性を神聖視するあまりの暴走したイマジネーションだったり、そもそも「エロスってなに?」という疑問からきているように感じます。
いざ女性になってみれば、周囲の男たちの視線の気持ち悪いこと。クラスの中の窒息しそうな空気も、母親の態度も、やたら突っかかってきては過剰に懐いてくる友人も、すべての日常がぼくを追い詰める。
で、ちょっとネタバレをこれから書くのでご注意いただくとして・・・
そんなわけで終わってから一度読み返してみると、麻里は「僕」になったことで家族にたいして言えなかった本心をぶつけられたりしている(第30話他)。また性的な物事への嫌悪や罪悪感にしたって、「僕」を通じてある種のロールプレイングをしつつ、葛藤と咀嚼を行っていく。
結局「自分」というものの正体がわからなくなる、思春期の孤独や不全感が根っこの根っこにあって、そこが読んでいてヒシヒシと伝わる。読者に切っ先が向けられていることに気づく。背筋が寒くなるんですよ。自分のなかの汚い部分とか、そのくせ潔癖な部分とか、夢見がちだったり愚かななにかを、全部丸裸にされている気分になる。
ひとりの人間のルーツを辿り、その心のナカミを洗いざらい確かめていく過程が丁寧で、全9巻をついじて「麻理」という少女を"解剖"していく。
改めて考えてみればタイトルが「ぼくは麻理のなか」というのはうまいなぁと思いますね。完結後は視点が変わって2度読みも楽しいです。(まったく関係ないんですけどこういう作品のwikiがストーリーの九割五分かいちゃってるのどうかと・・・)
作品自体は、男が悶々と抱え続ける「女の子」という夢をある意味ブチ壊すような、男も女もじっさい同じ人間だよなに幻みちゃってんの、って語りかけているような実に押見修造先生らしい物語でした。哲学的な、言葉にすると陳腐化しそうなテーマをとてもうまく表現していると思います。苦しんでもがいて泣いちゃうような、そんな剥き出しの生き方を不器用にもしてしまう、尊い時代なんだよな思春期。
他の作品でも共通していえますが、言葉ではなく抽象的なビジュアルで訴えてくるのもパワフルで好きでした。精神が乱れているときの心理描写とか鳥肌モンです。
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ 永田カビ イースト・プレス 2016-06-17 売り上げランキング : 936 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1.さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ/永田カビ
2016年の話題作をあげたらまぁおそらく挙がってくるでろうタイトル。
有名すぎて逆にトップに持ってきたくない天邪鬼な気持ちもありますが、かと言ってこんなにすごい作品を読んだらどうすることも出来ず。改めて、凄まじい情念とエネルギーが120%でブチこまれた脅威の一冊だと感じます。そこらへんは単独記事で書いているのっでちょいと省略。
→轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
その徹底的な自己分析。読者への気付きと共感、そしてなにより「読み物として知りたい事・見たいことが魅力的に描かれていく」構成の妙もあり、とにかく濃密の著者の内部へと引きずり込まれていく作品です。
よくぞここまですべてを明かせるな。赤裸々という言葉はこの領域に到達しなければ使えないんじゃないのか。
思わず興味をそそられるタイトルですが内容の6割7割は著者のバックボーンを紐解く尺に当てられている。そもそも「さびしすぎて」と、「レズ風俗に行きました」の接続がムチャクチャだから興味がそそられるわけで、正しいことなんだけれど。
とは言えその著者のバックボーンが凄まじい事になっている。そこらへんは是非本著でご確認を。
そして本作を読んだ誰もが感じると思う、「この作家さんのこの先を見てみたい」。
「レズ風俗」の本そのものも大ヒットしメディア露出も多数。きっと生活も一変しているだろうし、いやもしかしたら・・・と。それは作品のファンというより、永田カビ先生のファンになっていた自分に気付かされた瞬間なのです。
興味の対象が圧倒的に作者本人に向かっていっている。
一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル) 永田 カビ 小学館 2016-12-10 売り上げランキング : 7414 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
そんななかで発売された「一人交換日記」は、まさにそれを叶えてくれる一冊。一人交換日記は見ての通り「レズ風俗」の先の永田カビ先生のレポ漫画で、こちらも濃密の一言。
単独でと言うよりかは「レズ風俗」のあとすぐ読みたい、いわばレズ風俗増刊号だ(なんだそれ)
レズ風俗と一人交換日記、合わせて一本、俺的2016年No.1です。
レズ風俗を出した後、またレズ風俗に行ったり、実家を出たり、親バレしたり、エゴサしまくったり、ヲチスレみたり、……うん、全体的に相変わらずで最高です、永田カビ先生。
でもなんとなく、ポジティブな内容だった。ヤケクソで、思い悩んだりもするけれど、
愛し愛されたいと願うことをこんなに堂々と、なんせレポ漫画として描いて出版できるような
それはもう普通の人には出来ない凄まじい勇気を感じて、意味不明に励まされたりしちゃう。
もちろん漫画として面白いのもお見事。驚異的なバランス感覚。自分を分解・解析してキャラクタといて落とし込んでいる。ただダラダラとレポートしているんじゃなく、情報を整理して「交換日記」という相手にたいして語りかける形式になっていることも深く染み込む。まぁ、相手は自分なんだけれど、一人交換日記なんだけど。
血なまぐさい内容なのはもう相変わらずで、「レズ風俗」が少しでも響いた人はこちらもぜひ読んでほしいです。
痛みとか切なさとか、逃げ出したくなるような絶望をきちんとまな板の上において押さえ込み刻んで料理してくれてます。
・・・後半、一人交換日記の事ばっかり書いてた。
この作品は「レズ風俗」ありきな内容なことは間違いないので、見逃してください。
・・・ということで前回更新と合わせて全30作の紹介でした!
ここからは色々な理由から別枠として紹介したい +α 的な作品です。
まもって守護月天! 解封の章 1 (BLADE COMICS) 桜野みねね マッグガーデン 2016-10-08 売り上げランキング : 20991 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
<特別部門> まもって守護月天! 解封の章
2016年は守護月天の年だったといっても良い。・・・言い過ぎだな。言い過ぎでした。
いや、でも、それくらい個人的には衝撃ニュースだった。
漫画原作の新章がスタート、しかも『再逢』とは違う歴史を歩んだ全くの新シリーズ。
それにTVシリーズのBDが出たり、まぁお祭りですよね。
去年コロチキのコントで「さぁ」が使われたあたりから守護月天という作品を思い出すひとは増えていたのだろうと思うけれど、実は前々から電子書籍などで守護月天の新作は発表されていました。
→ちっちゃいシャオとでっかい離珠のお料理教室
→まもって守護月天! ~初めてあなたに逢ったとき私が思っていたこと~
二個目のは、初代第一話をシャオ視点を交えながらリメイクした、ぶっちゃけ書籍化するだろうと思ってたら今なおされていない、必読。
そんな中ついに連載として帰ってきた守護月天。
あの柔らかくときに強烈に切ない世界をそのままに、初代から3年の月日が経った高校生編。
変わらないやつら、なんかめっちゃ変わってるヤツラ、いろいろ居るけどとにかくなつかしいメンバーとの再会が楽しめる。そしてシャオがあまりにも・・・あまりにも可愛すぎる・・・それだけで最高・・・ッ!!!
正直、とてつもなくスゴい漫画というわけではない。この作品に対する俺の評価は、思い出補正が発揮されまくった結果だから。
しかしながら本作でもみねね作品の切れ味はいかんなく発揮されている。届かない思いの儚さ、それが持つ熱のもどかしさ。孤独と恋の揺れ動く恋模様には悶絶させられます・・・。
こんなにも臆病に、言葉の意味を、視線の先を、気持ちの在り処をさがしつづける物語を、好きになれないわけがない。触れれば崩れてしまいそうな、神秘的なオーラをまとっている作品なのですよ。
うわ~守護月天懐かしい!と思ったかつての読者のみなさんは、「フェアリアル・ガーデン」も読んでみてほしい。こちらも守護月天に通ずる、コミュニケーションと種族のすれ違いが織りなす甘酸っぱい恋物語だ。
「あれ」からの桜野みねね先生はきちんと漫画活動をしていてくれた。
桜野みねねという作家を語る上でも、今作は非常に重要です。
「いろいろあった」んだ。それは本作の著者コメントでも書いている。
→今後の創作活動の方法のお知らせ 桜野みねね
→守護月天!関連作品についてのお詫び
他にも調べればたくさん出てきます。黒歴史化してしまった、前作の守護月天とか。
作品・作者の背景をすこし知っておくと、この作品の意味深さに触れられると思う。
兎に角、また戻ってきてくれてありがとうございます。
またシャオたちにあわせてくれてありがとうございます、と。
・・・
思い入れの強さというか、「作品の存在に対する感動」が強すぎて
最初BEST30に入れていたんですけど、好きすぎて1位になっちゃって、
「いや1位になるような作品じゃねぇぞ、冷静になれ」と我に返って別枠にしました。
それなりには面白いですけど、ぶっちゃけこれだけ読んでも、良質なラブコメというだけの捉え方で終わってしまいます。いや、本当はもっとベタ褒めしたいんですけど一般的にはそうなんだろかなと思って・・・
でもどうしても好きだから書きました。感謝しかない復帰作。
<同人部門> シュノーケルはいらない/藤咲ゆう
こちらは同人誌なので除外。同人誌部門ってなんだよって感じですけど、俺的ゴリ押ししたい同人誌ランキング2016のNo1がいるんですよ。それがこれ。
→恋人ごっこは屋上で。「シュノーケルはいらない/ねこかんロマンス」
スクールカースト的に混じり合わない男の子と女の子の、薄暗い青春の漫画です。(二次創作じゃなくオリジナル)
「わたしがここから落ちたって 速水くんは普通に生きていけるでしょ」というセリフが印象的。
傷つける/傷つけられることでしか関係を許せない自己嫌悪とか、窒息しそうな共依存とか、
弱い力でそれでも求めあってしまう、そんな生きづらい感覚に満ちていて
ひたすら最高of最高なので、入手は普通では難しいですが気になったからはぜひぜひ。
コミティアなどイベントで頒布されていましたが、現在はkindleとかでも配信してます。
シュノーケルはいらない1 藤咲ゆう G2Comix 2016-08-05 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
げんしけん 二代目の十二(21)<完> (アフタヌーンKC) 木尾 士目 講談社 2016-11-22 売り上げランキング : 2657 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
<悔やみきれない部門> げんしけん 二代目
斑目・・・・ ・・・ ・ ・… ‥
完結しました。大好きな作品ですけど、素直な気持ちでランキングに入れられなかったので除外しました。
でもすっごく楽しめました。ありがとうございました。矢島っちに幸せになって欲しい。
もっと長く、ながく読んでいたかった。もっと二代目の空気を感じていたかった。昔のげんしけんと違うことをひとつひとつ確認してしまうような事であっても、大好きな彼らとまた会えて良かったしもっと彼らのとなりで話を聞いていたかった。でも完結。よかったな、斑目さん。大切な作品です。愛おしさしかない。
……問題の「spotted flower」も冷や汗かきながら続き追っていきますのでよろしくお願いします。
以上でおしまいです。長々とありがとうございました。
2017年もいい漫画と出会いたいですね。
2016年面白かった漫画BEST30! 前半戦 30位~16位
今年は本当に更新が少ない1年となってしまいました・・・もう仕事ソシャゲ仕事ソシャゲ
なので年末くらいは一年を振り返る記事を。
前回がエロ漫画の総括だったので、今回は一般向け漫画の総括。
2016年に発売された漫画作品から個人的に面白かった作品BEST30です。
が、いざ各作品でコメント書き始めたら、最近更新が減っていることもあって書きたいこと山積みで、えらい文章量に・・・。なので分割して更新。
今回は前半戦です。だらだら書いていきますので適当に読み流すカンジで、よろしくです。
いちおうランキングっぽくしましたけど酒入れたテンションで書いてるのでわりと適当です。
30.のーぷろぶれむ家族/麦盛 なぎ
全2巻。初期からは考えつかなかったシリアス展開へと進んでいったが、綺麗にまとまったと思います。
タイトルに関する通り、「家族」を描いた作品。しかも描き方が濃密だ。
主人公の母親はマネキン。いや、そんなわけはないんだけれど。主人公の父親が”壊れて”しまって、マネキンを妻と思い込んだ生活をしている。そんな秘密を抱えながら、ややコメディチックにスタートした本作。
しかしその秘密が暴かれたことで、主人公をめぐる学生生活は一変する。
主人公がせいいっぱいに日々を戦い抜く姿がジンとくるしとてもかわいらしい・・・。
しかし濃密に、思春期の、ドロリと濁った黒い分子がたしかに感じられる、ここがたまらんのですよ。非常に息苦しいあの中学校の教室の空気がページがのぼりたつようなリアリティでそこにある。
見えないルールに縛られたり、得体の知れない悪意に触れたり、もっと近づきたい相手にも素直になれなかったり、心細くて泣いてしまったり、そうして誰かを信じられなくなったり。
きっと経験があるあの束縛を、主人公は体当たりでぶつかりながら手探りで前へ進む。
儚げな印象の主人公だけれど、いざというときの苛烈な攻めがアツい。
正しい人なんていない。みんな間違えていく。でもそんな事たいしたことじゃないと、ぜんぶ包んで認めてくれる。ノープロブレム。家族がいること、相談できるだれかがいること、大切な自分の居場所。
当初、問題ありまくりな家族を描く皮肉のような意味合いで「のーぷろぶれむ家族」というタイトルになったのかと思ったが、最後まで読むとまた違った側面からタイトルも味わえる仕掛け。
2巻ラストでお父さんが「気付いていた」ことに気付いたシーンはこっちまで泣きそうになりました・・・すごい、こんなに突き刺してくるのかよ、と!
そして迎えるクライマックスの爽やかな事。ラブ的な意味でも、ハッピーエンドで大満足。
それと装丁が非常に美しいです。1巻2巻あわせて、ものとして手元においておきたくなる。良い本というのは良い装丁がされているということです。
家族モノでもあるし、暴走する思春期の過ちとそれの救済でもある。いろんな角度から何度読んでも違った楽しみ方ができそうな作品ですね。
あとデビュー作もすごくいいのでオススメですよ→微熱のまま触れあって歌いあって『17歳℃』
29.マドンナはガラスケースの中/スガワラエスコ
スガワラエスコ先生の連載デビュー作、全2巻。そもそもリュエルコミックスというのはコミティアありきな作家選出をしておりコミティアキッズはやや複雑な思いがあるものと勝手に思っているんですが、そんな中飛び出した本作は作家の持ち味が生かされまくったかなりいい出来栄え。
爬虫類にしか興奮できない特殊性癖持ちの男が主人公。彼のつとめる爬虫類専門ペットショップに出入りしはじめた妖艶な少女に惹かれだすも、なんと彼女はランドセルをせおう年齢だった、という年の差ラブコメ。
臆病なのに悶々としまくる主人公のいじらしさがまずかわいいし、いやそんなことよりふたまわり近く年が離れている男を手玉に取る、JSヒロインゆりちゃんの魔性の女っぷりな・・・最高でっしょ・・・!!!
少女でありながら大人びていて、自分が『そう見られる』ことを知った上で距離感を測ってくるオトナなエロスも漂わせる。しかしときに彼女は年相応の、単なる12歳としての顔で涙を流す瞬間もある。この2面性よ!
末恐ろしいな・・・12歳って男性から性的な視線を浴びることにまず嫌悪感があるような年頃だと思うんですが、彼女はすでに遥か先ゆく。
逆に言えば、もっと昔からそういうふうに見られてきたという、悲しい成熟の証なのだとも感じる。
いわゆる男性的な性描写やあざとい仕草にグッと胸を掴まれますが、スガワラ先生の描く”線の艶やかさ”も非常にキャッチーな要素。そして描かれる生き物たちも愛情たっぷりに存在している。
動物たちの生態がキャラクターたちのドラマにもシンクロしたり、「生命」の持つ力をみせることでこの作品のストーリーも補強されています。
そしてなにより、ヒロインの造形が魅力的すぎる。
この瞳に見つめられたらもうイチコロってもんだ・・・。
2巻というコンパクトな尺の中で、爬虫類飼育漫画としての面も年の差ラブコメとしてもばっちり深められていく。もちろんもっと長く読みたかったことは間違いないけれど・・・
それにしてもこのラストシーンの圧倒的な爽やかさ!何段飛ばしかという跳躍!
しかしこれくらいの生き急いだ、感情をコントロールしきれない恋愛感情の発露というのが、最後にしてヒロインのキャラをより愛おしいものにしてくれているように感じます。
いくつであって女は女ということか。魅惑の美少女を堪能したい、そしてきらめく年の差恋愛を読みたい方に。
28.AIの遺伝子/山田胡瓜
オムニバス形式で綴られる人とアンドロイドの近未来系ショートストーリーズ。
少年誌らしからぬ作風なんだけど、そういう雑多な紙面こそがチャンピオンらしいなとも思う。
雑な説明をすると、なんとなく「世にも奇妙な物語」の原案になりそうなマンガです(雑)
既発表作「バイナリ畑でつかまえて」のテーマを引き継いでいるようにも思えますが、今作は特にアンドロイドに特化した内容になっている。
人間が生み出した技術としてのアンドロイド。パートナーとして社会に溶け込んだアンドロイド。
アンドロイドによって変わった未来の、その片隅にある小さな小さな個々の物語。
科学というのは人の感情とは切り離されたロジックの世界かと思っていたんだけど、本作を読んでいるとそれは違うのかもとも思った。
非常に繊細でときに理不尽な「感情」に、人はもちろん機械すら振り回されていく。
人と機械の世界はノスタルジックでときにシニカルで、毎回毎回ふかみのあるテーマに取り組んでいる。
週刊連載とは思えない濃度で毎週描かれているものだから、もうコミックス1冊読んだだけで満足感がすごいのだ。
さらりとした清涼感のある絵柄なんだけども、思いの外エグかったり、気持ちを大切にした優しい物語もある。そしてそのどれもが科学技術が世界を前へと進ませていくという事実。
1話1話はシンプルでも、何話も積み重ねることで「未来の姿」を読者にリアルに浮かび上がらせてくれるんですよね。技術の進歩やガジェットの発展へのロマンを感じる。
そしてこんなに進んだ世界なのに、どこか人間本来の「愚かしさ」が根っこにある。
あいもかわらず馬鹿げた気持ちを優先しても、それで満足だってしてしまう。人も愛も変わらず。アンドロイドが隣人となる世界のビジョンを、こんなに多面的に描けるんだなぁ。
ネタがどれだけ続くのかなぁという心配もあるけれど、願わくばいつまでも読んでいたい作品の一つ。
AIの物語でもあり、愛の物語でもあり。良質なSF作品。
27.ミッドナイトブルー/須藤佑実
タイトル!!!表紙絵!!!装丁!!!!
三位一体のノスタルジー攻撃になす術なくレジ直行いたしました。買ってから気づいたけど「流寓の姉弟」の作家さんだった。通りでセンスのいい漫画だ。
今回も小さな世界と小さな感情でおおきく揺さぶってくる、珠玉の一冊。
しかもこれまた、「過去にしばられた人々」がテーマなのかってくらい、割り切れていない奴らばっかりでてきてもう堪らない。これでもかと性癖をストレートに突いてくる。
フィーヤンに掲載されていたということで雑誌のイメージからちょっと身構えたのだけれど、非常にかわいらしい作品集です。女心の複雑さと、その女心に振り回されるかわいそうな男たちを描いた、感傷的な人生の断片たち。
「箱の中の思い出」、整形した元生徒との再会。美しい、記憶に留めたいと思ったそれは、他者からすれば無用のものだったと。再会がもたらすのは甘酸っぱい青春のやりなおしと後悔とセトセトラ。
結局主人公が墓まで気持ちを持ち続けるお話なことからも、本作が「死ぬまでゆっくりと引きずる」作品集だと印象づけられる。まぁ死ぬまでなにかに縛られているなんて、きっと誰だってそうなんだ。
「白い糸」仲が良かった、けれど深くは知らなかった、そうして遠ざけられた憧れの先輩とのエピソード。こりゃまた青春濃度が高くて素晴らしい。
青春を取り戻すために一瞬瞳が輝く大人たち、それもまた青春なんだよな。ヒロインのキャラクター性が示唆的で、彼女自身もそう認識するように魔法のような力があのころにはある。そしてそれを失った無力感から、自らその魔法の種明かしをするシーンは、漂う切なさに泣きそうになった・・・。
「ある夫婦の記録」本作で一番ひねくれた男女が登場するセクシーな短編。妻を尊く思うすぎるがあまり触れられず、別居して監視カメラで妻を見る夫。夫の言うがまま、そして夫への小さな反抗心を伴って行われる公認の浮気。
一度壊れた関係が、ゆっくりとコーヒーの香りとともに癒やされていくラストシーンは余韻もたっぷり。大好きな作品です。
最終作であり表題作「ミッドナイトブルー」は、2年ごとの同期会に現れる、昔好きだった少女の幽霊との逢瀬を描いたリリカルな作品。雰囲気作りも一際丁寧で、少女の停滞した時空と、主人公たちの残酷な時間の流れのズレがどんどんと開いていく中、いっきにその距離を詰めていく流れはゾクゾクが止まらなかった・・・!!コミックス最後にふさわしい内容だと思います。
全体的に表紙イラストの雰囲気に非常に合っていて、みんなセピア色の記憶の中で逃れられない運命を掴んでしまった連中ばかりなのだ。
さらりとした質感のポップな絵柄も好印象です。まったりと流れていく中で、インパクトのある絵をスムーズに投入してきている感じもうまいなぁ。
万人受けする短編集だと思います。ノスタルジー全開、喪失者たちのやさしい物語。
いや、正直内容もいいけど装丁が最高すぎる。手に取った時のテンションの高ぶり。本編の良さを何倍にも引き上げているように思います。こういう相乗効果が単行本の良さだよな。俺的2016年コミックス装丁完成度No.1。
26.恋のツキ/新田章
超傑作「あそびあい」に続く新田章先生の新作。なんというか、「あそびあい」の流れから見ると作者の性癖を色濃く感じる・・・いいぞ、それでいいんだ・・・俺も大好きだから・・・!!
31歳、彼氏持ちの主人公。惰性で同棲し、ときめきもなく、このままだらだら人生を消費ししていくのみの人生。かと思っていたのに映画の趣味もファッションもドンピシャ、しかも顔立ちもタイプな男の子と急接近!
問題はその男の子が高校生だということだ。なんと16再歳の差。
いけないと思いつつもどうしても心惹かれていく主人公ワコ。スリル満点・・・というほどのアドベンチャー感はないが、日常の描写がしっかりとしている分、非常にリアリティのある、『浮気』の物語に仕上がっている。
女性にとって「20後半から30を過ぎて付き合っている異性」がどういう存在であるか、生々しい言葉やワコ本人の描写とともに綴られていく。結婚は意識する。なんとなく老後のこととかのイメージも湧く。彼はサラリーマン、こっちはフリーター。なんとなく・・・合う、感じがある。
けれど女としてココロ揺さぶられるかと言うと・・・・・・No.
彼氏のふうくんはお調子者で態度もでかい、たぶんよくいる、雑なタイプの男性。リアルなキャラ。
そんなときに現れた超タイプの美少年が、なんと自分に好意さえ抱いてくれる。
本能と理性がせめぎあい・・・結果的に、ワコは自分に少しずつ言い訳を繰り返しながら――浮気をしていってしまうのだ。
さわやかなタッチでねっとりと男女の関係を描く作風は相変わらず。
目に見えない情念のようなものがページから匂い立つ。ここらへんは流石の一言。
その上、刺激的なストーリーともに飛び出す「女の本音」的部分も魅力的だ。
ワコは天然っぽくて可愛らしい女性なんだけれど、31歳という年齢がリアルに肩にのしかかっている。夢ばかり見てはいられない。けれどドラマのようなときめきに憧れる。三十路女性ならではの葛藤だ。
特に2巻、ラブホまで行っちゃってだいぶ浮気も深まってきた中で、ワコがいまの彼氏と少年を比べたとき、ひとりの女性として本気で自分の言葉で二人の男性を比較するシーンがある。この切れ味の鋭さと言ったら・・・!
年の差なんて関係無いって言うけれど、いざ直面したとき、16歳の年の差を恐れない訳がない。
自分は今31歳で、相手は高校生だ。しかも浮気の関係で。
じゃあ結婚をするとしたら?何年後だ?そのとき私は何歳になっている?子供はどうする?いくつで産める?4年付き合っているいまの彼氏は結婚を意識している。両親に挨拶へいく約束もした。そんな相手とこれから別れを切り出せる?友人たちに顔向けができる?
きっと10年前なら違う結論が出せていたのだ。人にとっての10年が、どれほど重要か。
1巻からすでに胃が痛かったけれど2巻から本番。完全にスイッチが入って作者もノリノリだ。
ストレスでハゲそう。でもページを捲る手が止まらない。この本にかかれている言葉たちはどれも素直だ。それは理性で押し込めた社会常識より、ずっと熱く、そして痛みを伴う。
誰もがいけないことと知って、それでも人は罪を犯す。「浮気は文化」なんて言えない。これは卑怯者が一人ひとり背負う、本当の愛と罪の十字架だ。
25.月曜日は2限から/斉藤ゆう
終わってみれば、本当に寂しい。なんかいつもあるような気がしてたんだよな。使い慣れたシャーペンみたいな、ずっと着けてるイヤホンみたいな感じで、決して派手ではないけれど4年弱ゲッサンで連載されていた青春4コマ漫画。
主人公の男子高校生居村くんと、校則まもらない自由奔放ガール咲野さんの日常を描いた作品です。
何が面白いのかって言うと、まぁ本当にありふれた事なんですけど、この空気感。
会話のかけあい、そのひとつひとつ。激しいツッコミも無ければぶっ飛んだボケもない。
淡々とした日常の中で、たんたんと会話している。それだけなのに、テンポのコントロールやギャグのシュールなセンス、言葉選びからすべてがツボだった・・・!
咲野の言葉はなんか世の真理をついていそうで、実際はただの怠け癖だったり皮肉だったりを言っているだけなんですけれど、あのけだるい表情で言われると全部許してしまう。
個人的にゲッサンという雑誌自体に思い入れがありまして、まぁ創刊からずっと追っているので、いろんな新人さんが出てきましたけれど、別にこの作品って有名でもないし雑誌内ですごくいい位置にあったというわけでもありません。唯一の4コマ漫画という特徴はあったけれども。
MIXとか信長協奏曲とか高木さんとか、人気作の影に隠れ続けておそらく知名度もそれほど高くないでしょう。
けれど毎月読むことで心がさっぱりとしてしかも笑えて、本当に、物語が終わりに向かっていくにつれてどんどんと好きになってしまった作品でした。
もちろんストーリーの盛り上がりも素晴らしかった。
終盤ラブがコメりだした頃からの主人公と咲野のやりとりは一層可愛らしく、両思いだとお互いにわかっていてもそれを避けながら、探り合いながらふざけ合いながら、いつものトーンでおしゃべりを続けてくれた。
最終話付近では、静かに盛り上がったテンションがいっきに弾ける、最高の青春劇を見せてくれる。叫び出したいくらいに興奮してしまって自分でも「あれ、こんな作品だったか???」と混乱したりもしたw
明らかに途中からムードも変わってきたのにそれに違和感がなかったのも見事。徐々に徐々に、クライマックスへの流れが計算され組み込まれていった。いや偶然かな・・・
いや、本当に自分でも訳わからんくらい今年いきなり好きになったからビビる。
青春4コマの傑作だと思います。いろんな人に読まれて愛されて欲しい。
24.ハイスコアガール/押切 蓮介
復活を遂げたハイスコアガール2年ぶりの新刊!!
シンプルに「久しぶり!」という気持ちと、大人な事情はさておきともかく内容がクッソ面白かったわけで、とにかく夢中にさせられた一冊だ。
なんせ5巻のヒキが卑怯すぎた。最高潮の盛り上がりの中で、まさかの悲劇が巻き起こり連載中断、完全に絶望させられたものである。ホント、復活してくれてよかった・・・アニメ化の企画はまだ動いているのかな・・・。
自分は正直この作品で描かれている時代をリアルタイムでは生きていないし
出てくるゲームもちゃんと触ったことのないものばっかりだ。
それでも彼らの姿になんとなく心強さや親しみを感じてしまうのは、自分自身、どうしようもなく夢中になってしまうときがあったり、ゲームやアニメといった二次元の住民たちに、自己暗示のようなものだが、自分の背中を押してもらえていると思う瞬間があったりするからだ。
ハイスコアガールではときおり風景に、キャラクターたちが思い描いたキャラクターがまるでそこに実在するかのように描かれたり、重要なシーンでは彼らに声援やアドバイスを送っている。もちろん妄想にすぎないのだけれど、
ただの娯楽じゃない。楽しい瞬間をくれた作品というのは、いつしか自分の一部になってしまうんだ。
その作品のキャラクターが自分の中で生命をもってひとりでに動き出し、激しく自分を奮い立たせてくれたりする。今巻収録の第35話のクライマックスでは、日高が自分の操作キャラを空に浮かべて微笑む。名シーンだ・・・。
没頭する趣味への愛。この描き方が素晴らしくて、羨ましくなるほどなんだよな。
そういう熱を持った作品であるとともに、まさに今、ラブコメ的にも大盛り上がりだった。
まあまず日高さんとの一騎打ち。これが読みたくて読みたくて仕方がなかった。
さらには大野といっしょにAOUに出かけるデートイベントも発生。甘酸っペエ!!!そして濃厚に時代背景を反映する懐かしゲームの数々に酔いしれる!!
じれったくて仕方がないけれど、確実な関係も進歩・・・ニヤニヤしすぎて頬がとけそうだぞ。
幽閉状態の大野さんにむけてイタズラ心満点の自作データ入り「RPGツクール」を渡すハルオ。女性陣にイチャモンつけられながらときメモをプレイするハルオ。
ほどほどにクソガキできちんとラブコメ主人公をやってくれるハルオは、本当にいい主人公だな。
ともかく、ようやく連載も再開されたハイスコアガール。これからも楽しみにしていきたいです。
23.hなhとA子の呪い/中野でいち
濃密だなー!とてもリュウらしいひねくれたテーマとエネルギッシュな勢いを併せ持つ期待の新作。
前作「十月桜」はキャッチーな設定がありましたが、今回はかなりぶっ飛んだ内容となっています。
人間と性欲とそれにともなう罪悪感、それをどう折り合いつければいいのか。
中野でいち作品と、コミュニケーションの中で不全する事故、そして己の中の葛藤、自意識への苦しみ・・・といったテーマで作品とおおく発表している、ぶっちゃけめちゃくちゃ捻くれてて大好きなんですが
今作は毒々しいほどのカラフルな極彩色の世界。そして己と戦う青年が描かれていく。
若くして社長となり地位を手に入れた主人公は、「性欲は真実の愛にとって障害となる」という持論を持ち、自分には性欲は一滴も存在しない、そうあることが正しく祝福されるべきとしてこれまで生きてきた。
しかし彼の視界に現れた妖精のような少女が突如すべてを変えてしまう。
いや、押し隠していたものすべてを暴いてしまう。
彼が奥底に秘めてきた、きたないドロドロとした欲望を。
そして誰よりもそのことに本人が傷ついて、読者にまで突き刺さってくる迫真さがある。
愛する人が処女でなければ赦せないような、いわゆる「童貞臭い」という男性性について
鋭く切り込んできている。主人公が描く理想は、実際、共感できてしまう。
100%の純度で人は人を愛せはしないのだろうか。
誰かを愛することはセックスがしたいだけなのではないだろうか。
ただただ穏やかに清らかに誰かを愛せるような人間に、自分はなれないのだろうか―――
かなりデフォルメを効かせたかわいらしいキャラクターたちですが、展開されていく内容は文学的。テーマがエロスについてですが性的になりすぎず、しかしエンタメらしく疾走感に満ちた破天荒さにあふれていて、とにかくアツい。
ただ、なんとなくだけれど本作を真正面から楽しめるのは、きっと男の特権なのかな、という雑な優越感もある。女性しか/男性しか読めないという断言はナンセンスなのは百も承知なんだけれど。
いつの頃かこれを思い、いつの頃か忘れてしまう”拘り”を思い出せる気がする。
彼の新年は間違っているのかもしれない。
子供じみたくだらない理想かもしれない。
真実の愛なんてどこにも、無いかもしれない。
けれど彼が彼なりに、正しくあろうと足掻くことに、少しでも、少しでも価値があってほしい。
自分なりの正義を貫こうとすることを誇らしく思えるようなそういう物語が読みたい。
そう願ってしまう作品。ネックはちょっとタイトルがタイピングしづらいことぐらいだな。
22.春の呪い/小西明日翔
最愛の妹が死んだ。
それから私はその妹の婚約者だった男の、恋人になった。
導入のこれだけで読みたくなる。これがキャッチーってヤツなんだよな・・・(キャッチーとは
ゼロサム連載作。全2巻。
今年のいろんな漫画賞でも上位にノミネートされており、漫画好きからの評価も高い作品です。それも頷ける出来栄え。こんなに心に迫ってくる、死者との対峙の物語を初連載作しょっぱなから放ってくる新人作家さん、恐ろしい・・・。
基本的に死者と生者の関係をクローズアップする作品は大好物で
しかも本作なりに「死をひきずる」の先を描いてみせてくれる。
もう性癖にド直球投げ込まれすぎて精神的にしんどい。超興奮。
自分のすべてとも言える存在だった妹が亡くなり、
なのに今、その妹を心底裏切る、道徳的に許されない感情に踊らされる。
妹への執着から大切な男性にも優しくできず、家族からも厳しい言葉を投げかけられ、自分でも幸せになるならもっと別の未知があるだろうとわかっている、わかりきっているのに、
それはもう呪いのように、離れがたい。
誰も彼も、誰かに許されたいのに。いや本質的には自分に許されたいのに。
個人的にはハルのHNが「アキ」だったのがグッときました。
たまたまこの名前にしたと彼女は言っていたけれど、多分そうではなくて春⇔秋という対比から「まったく別の自分になりたい」という気持ちが透けてみえるよう。
実際に冬吾が自分とはタイプのちがう姉を見る時の視線に、敏感に反応していた春。
愛しい姉でもありながら憧れでもあり、しかし嫉妬の対象でもあったのだろう。
そして春は、自分が死んだあとにもし姉と冬吾が恋人になったら・・・という想定で、悩み抜いた末の強烈なひと文を遺してる。
ただ儚いだけの存在ではなかった。女性ならではの感覚にゾクゾクする。
そしてこれだけ難しく入り組んだ物語が、しっかりと全2巻で決着する。
最初から決めていた着地ができたと作者も言っていたし、この構成力の高さにもグッと掴まれました。個人的に長編よりも単巻とか全5巻とか、やや短めのお話の方が好きなので。
絵のタッチは荒々しいのですが、それも物語に合っていました。思いっきり心労で目んたまグチャグチャになってるやつらの顔、みんな苦しそうでとてもとても可愛いです。
終盤なんか言葉のひとつひとつが重すぎて、悩み抜いて絞りきって出した覚悟がドロドロ沸騰しているようなラストシーンにんってます。
とけない呪いに一生苦しめられていく。
苦しまなければ生きていけないふたりだから。
21.あの日、世界の真ん中で/小鬼36℃
鮮烈。
それは目に突き刺さるような色彩のカバーイラストでもあるし、
あまりにも剥き出しにリビドーが叩きつけられたストーリーにも感じる。
子鬼36℃先生の商業デビューコミックスは、悶々とした10代のネガティブな迷いを歌にしてぶっ飛ばす、超かっこいいクソエモ青春漫画です。
というかもう「好きな歌を自分の作品内で歌わせたい!!」という熱がガンガン伝わってくる。
きっと作者さんも大好きなんであろう、実在するとある曲が大々的に登場しますので
俺含めそういう「実在する曲と漫画のストーリーがシンクロしてすげぇいい感じになる(語彙」のが大好きなひとは、ちょっとコイツは素通りできませんぜ。要注目。
主人公の茎太はギター少年だがそれには打ち込めず、腐って過ごす田舎の少年。
しかし幼馴染の少女が陸上でスカウトされ、いずれはこの町を出るという話が出て来る。
やる気がでない、なにも出来ない、下らない自分のどうしようもなく停滞した日常。そんな中で自分の半身とも呼べる少女が、自分から離れていく不安に襲われる。
片や部活で評価され町を出る。片や自分は無気力、非生産の穀潰し―――
劣等感と無力感のあまり暴走してしまう。暴走して気づく、脈打つ心臓の音、その熱さ。
ふたたびギターを手に取る主人公。そしてそれを優しく支える幼馴染の少女・・・
もう、めちゃくちゃ青春してんなお前ら!!!って感じで大好きです。
途中からわりとサクッと主人公とヒロインが結ばれるんですが、
もうふたりとも可愛くて可愛くて、モダモダしちゃうんですよ・・・!
関西の男女はケンカのながれでセックスするという艦これの龍驤本で学んだ事象が俺の中でさらに補強されましたね。
あと日本人はDNAに刻まれてるレベルで幼馴染属性持ちだと思う。大好き。
幼馴染から恋人へのステップアップで、本人たちもギクシャクしてるし周囲もワクワクしちゃう。ぎこちないけれど確かに両思いで、きちんと幼馴染が幸せになれる。俺はいつまでもこういう漫画を好きでいたい。
しかし幸せな中でも主人公の心の不安は晴れない。むしろ幸福を手にすればそれだけ闇は彼に降り注ぐ。拭いきれない思春期の苛立ちを、少年はもういちどギターと歌にたたきつけていく。
ギターなんかで世界は変わらないと、達観したようなことを彼は言う。
この世界を呪って、つまらない日々を腐して、非力な自分を憎んで。
けれど、物語はとてもすがすがしく幕を閉じる。
この物語は少年が人生に灯る光を見つけるための、世界への必死の抗戦だ。
20.あにいもうと/ハルミチヒロ
あーーーーー染みる、染みますなぁハルミチヒロ先生の漫画は・・・!!!
楽園に掲載された短編をおさめた短編集。過去作よりグッと「少女漫画」に接近しているような感じ。タイトルに「いもうと」とあるようにティーンの少女たちが多いです。もちろん、それだけじゃないので一筋縄でも行かないのですが・・・
恋愛という一言で括りきれない、括りたくない、繊細かつ複雑なそれぞれの感情。
近親へ、同性へ、異性へ、そして自分へ。
成熟していない10代だからこその不透明さとか、機嫌の悪さとか、もうホンットかわいいなぁ。
お気に入りなのを個別に感想。
「間違っている恋」付き合っているけど経験はまだな高校生カップル。その彼女さんはどこか冷めているようで、彼氏へのこじれた想いを抱いている。「かわいそうなあなたの顔が好き」という。そしてまだ知らない世界への不安のような、ざわめきのような感覚。キラキラしているだなんて思わない、けれどひたすらに胸を焦がす甘くじれったい憂鬱。
ストーリー色は薄いんだけど、少女ならではのもの寂しい感覚がすみまで行き渡っていて、最後のモノローグへの流れも非常に美しい。何度も読んでしまう、澄み切った冬のような空気です。
「あにいもうと」お兄ちゃん離れができていない妹さんのお話。ギャンギャン喚くしワガママだし、非常に幼い印象のヒロインです。しかし彼女のセリフはいっこいっこがリアルで剥き身の感情がほとばしっていて、身動きが取れない。本人にすら持て余す感情を読者だって受け止めきれるわけがないんだな。
お兄ちゃんにかわいがってもらえる幼い女の子のままでいたい。まだ、あと、もう少し・・・
彼女なりの決別(というか納得かな)が、なんとも彼女らしいふんわりさでニッコリ。
「魔法使いの娘」ちょっとファンタジックな設定で送られる、思春期女子全開のお話。これはラブコメでもあるけれど、母娘の物語だなぁ実質。娘のためを思って貞操をまもる魔法をかけた母親に、娘は立ち向かう。「ママと私は違う人間なんだから!」のセリフで泣きそうなお母さんにじんわり切なくなってしまう。。。
母親とぶつかるのも思春期らしくて、オトナの2,3歩手前でもじもじしている10代の時間をやさしく見つめていられる作品です。子供っていうのはオトナの幼虫なのではなく、別の生き物に近い。
全体的に思春期力が高くて、短編集としてテンションも統一されてて読みやすいですね。ハルミチヒロ先生はオトナな女性を描くのがうまいと思っていたけれど、そうじゃなかったんだな、女という性を描くのが本当に素晴らしい。
とっても甘酸っぱい一冊。幅広くオススメしたい。
19.初恋ゾンビ/峰浪りょう
超傑作「ヒメゴト~十九歳の制服~」完結後、週刊少年サンデーに舞台を移した峰浪りょう先生の新作。
ヒメゴトのことを語りだすと面倒くさくなるおじさんなので程々に留めておきますが。主要キャラクターたちが生み出す深みのある”コンプレックス”の物語と加速しまくる急転直下のストーリーが最高の青春漫画です。
セクシーな漫画でもあった前作から様変わりし、「初恋ゾンビ」は少年誌的なラブコメにほどよく作者の持ち味がブレンドされています。
男の初恋
それは恋の目覚めと、性的趣向と、たっぷりと妄想に押し固められた産物。
しかもそれは悲しいことに男の人生の奥底に眠り、一生つきまとう。
嘘と願望の防腐剤でコーティングされた、美しいままの偶像―――
『初恋ゾンビ』と呼ばれるそんな男の妄想上の女の子たち。
主人公はとあることをきっかけに「初恋ゾンビ」が見えるようになってしまう。省エネ主義、恋愛嫌いのタロウは、恋愛ゾンビを付き合っていくうちに学校内の人間たちの恋愛ごとに関わっていかざるをなっていくのです。
前作もそうでしたがキャラクターが非常に魅力的ですね!
キャラの魅力こそラブコメでは最重要項目といえますが、主人公の初恋ゾンビのイヴちゃんの圧倒的キラキラ感、幼馴染の高身長おっぱいスポーツ女子江火野さん、主人公の初恋の張本人にしてカギを握る男装少女・指宿さん・・・
ほか、各エピソードでゲスト的に出演する男女も、みんなクセがありつつも人間臭さがあります。そこに峰浪先生の鮮やかな感情描写が重なり・・・
人間模様の変化がめちゃくちゃおもしろいんですよね。
個人的に江火野さんを応援してるんですけど、指宿くんの赤面顔ももっと見たいんだ・・・
ラブコメとしての高揚感もピカ一。今年1番夢中になったラブコメだったかも。
すっきりとした雰囲気のなかに、粘りつくような人間の残念さが、あくまでもかわいらしい範囲で注ぎ込まれている。
そもそも初恋ゾンビの根本が「いつまでも初恋を大事にしちゃって、男ってバカだよね、しかも現実と全然ちがうじゃん」みたいな少々覚めた感覚を最初から備えているので、ところどころで読者をチクチク刺してくる。
そういうある種の愚かしさや恥ずかしさを抱えたまま、いかにして感情と現実に向き合っていくか。目を背けたくなる自分の醜い部分を、誰かに手向けることができるのか、その勇気は。
結局この作家さんは人間の弱い部分を肯定する漫画をかいてくれる。ずっとついていきたいです。
小難しいことは置いといて、初恋ゾンビちゃんがみんなムッチムチでエロくて絵面も最高です。
18.AV女優とAV男優が同居する話。/時計
コミティアファン(というか俺)の心をアツくした待望のコミックス化。
というのも、本作はすべてコミティアで頒布された同人誌を商業単行本にした、いわば総集編なのだ。まぁ全部同人版持ってるけど買っちゃうよね・・・!!
しかもこれまた濃密。男女のすれ違いを甘酸っぱく、ときに鋭い痛みを伴いつつ描いていく短編集。
激情ほとばしる圧倒的にエモーショナルな一冊だ。つまりエモいってやつだよ!
ただ甘いだけの物語を読みたい人には毒でしかないけれど、こじれためんどくさい恋模様が大好きマンたちには大好評(俺の知り合い調べ
大きくは3つの短編から構成されており、どれもそれぞれ違った方にトガっており読み応えばっちり。
表題作「AV女優と~」は流石タイトルトラックだけあり、殺傷能力もピカイチだ。セックスを生業とする男女。他者には理解されがたいがゆえに理解者として、そして異性として惹かれ合っていくが―――
仕事としての性行為。商品としてのセックス。すれ違う肉体と心模様・・・ああ、これぞ。これぞ「妄想をトランクに詰めて。」なんだよなぁ・・・!
「兄が好きな妹と 妹が怖い兄の話」。こちらは兄妹モノ。タイトルがそのものズバリを示しているんですが、こちらはよりソリッドに「傷つける瞬間」を切り取っている。
結ばれない、報われない、幸福になれない。そんな恋としりながら、救われないと願う。それこそが救われ難い。いい表情をする思春期女子にグッときちゃうよな・・・。
個人的には最後のヒロインの仕返しが、レシートをみせるだけではなんか物足りなかった。しかしそれくらいの生活感こそが、この作品ならではの距離の完結なのかもとも思う。
「自意識過剰なあたしの話」。こちらはより自分のナカミに目を向けた、これまでよりかは明るい作品。なんだけどなんか描かれている感情が前2作とくらべても格段に生々しく、ラストシーンで笑いとともに堪えがたい程の羞恥に襲われる。あ~~~~~悲恋というほど美しいものではないけれどお前絶対に幸せになってくれよな~~~~~ってなる。
セリフにぶん殴られるような、Sッケのあるストーリー展開も見どころ。
「一日一回、~」はオムニバス形式で綴られていく様々な男女の恋愛劇。
こういった、エッセンスを抽出したのみの短編でも十分に甘酸っぱくさせられる、雰囲気作りが素晴らしいのだ。
トータルとして「めんどくせぇ」連中のモヤモヤとしたラブストーリーが目白押しの、強烈なコミックスになっていると思います。ロマンチックで残酷なリリカルポエトリー。
17.こいいじ/志村貴子
どこからっていうのを表現しづらいけれど、ジワジワと確実に面白くなっている「こいいじ」。
まあまずタイトルがかわいくてシンプルで深みがある・・・恋の意地。維持。
少女漫画レーベルで発売される志村貴子先生の作品ですが、非常に間口のひろい読み心地。
これまでの先生のファンにも、はじめて読むぞって人にもススメやすくて、ストレートに人間模様が面白い。
主人公は31歳の女性。子供のころからの恋を諦めずにジタバタしていくラブコメ作品。
乙女でありながらも童貞臭もすごい主人公がかわいくてかわいくて仕方ないんだけれど、しかし彼女自身も31、恋する相手は子持ちで奥さんはすでに亡くなっていて。
ほかにも面倒くさい複雑な人間関係。
初々しい想いをずりずり引きずって、気づけばもう、周囲の環境はすっかり「大人の社会」になっていた。
一度諦めた恋だとか、亡くなった奥さんへの消えない想いだとか、死者を通じて様々な感情でつながっていく人々の描き方もいい。というか、ここが大好きなのです。
もや~っとした行き場のない不安が、少女漫画というにはやや成熟した、アダルトな口当たりを生んでいる。
年相応に重ねた傷跡がスパイスとなって、この作品をなんともほろにがい空気で包んでくれる。
4巻はとくに、聡ちゃんの辛いシーンの回想が多くてちょっと、しんどかった。
ふ、と。まるでフラッシュバックのように断片的な回想やモノローグが差し込まれて
その切れ味の鋭さを味わいたくて何度も読み返してしまう。
グダグダやってたまめちゃんも、4巻で最大のチャンス・・・というか転機を迎える。
急激に加速する人間模様と、それでもどこか冷え切った、”そもそも恋愛をする体力がやや衰えてきた大人たち”、ゆっくり沈みゆく陽の光のような感傷深い言葉たち・・・うむ、染みる・・・。
と、ややアンニュイに紹介はしましたが、主人公のまめちゃんのポジティブさにずいぶんと救われる。基本的にくらい顔の似合わない女。片想いのプロは、かんたんには負けてやらないのだ。
今年は4巻、5巻とストーリー的にもおおきな盛り上がりを迎えており、特に楽しかった!
少年少女より長くを生き、積み重ねたものがあるこそ、今、今なんだよと語りかける、
志村先生の新境地とも感じるオトナなラブコメシリーズです。
16.夜にとろける/志摩時緒
しっとりポエミーな恋愛漫画の旗手、志摩時緒先生の新コミックスは楽園掲載作と同人シリーズがひとつにパッケージされた瑞々しい一冊となっております。
っていうか同人シリーズ、同人誌で読んでたときは「同人誌」感覚だったのでそう思わなかったけど、こうして商業単行本として改めて読んでみたらかなり過激でしたね・・・うむ・・・よい・・・・・・
まぁ。毎度の如く。本当に悶死するくらいのすンごいラブラブっぷりである。
いちいち書き挙げたらキリがないけれど、志摩時緒作品のヒロインたちの「恋人にだけみせる表情」の破壊力ったらない。恋によって自分も世界も変わるようなキラキラ感。好きな人に好きといってもらえる幸福は人をここまで魅力的にするんだな。
少女としての自覚――それは恋人としての、あれやこれやを、なんか早いかなーでもしたいなーしてあげたいなーでもこわいなーっていうああメンドクセーなかわいーな畜生、ともかくそんな思春期女子の臆病さと蛮勇さととびきりの愛くるしさを味わいたかったら読んでくれ。
けれど本作は甘いだけではなくて、同時にその裏側に潜む闇も描く。
「第三者の片想い視線」。
こんなのを入れてくるあたりが志摩先生いじわるだなーと思いますね。第三者なんて冷たいこと言いますけどそれなりに仲がいいクラスメイトなんですよ。けれど彼女のことはクラスメイトとして以上には何も知らなくて。ああ、何がだめだったんだろうなぁ。どうすればよかったんだろうなぁ。おそすぎたよな。いや、仮に早く行動したとして。どんな結果になってたかなんて、下らない希望を抱く方が虚しいだけなんだけど。はーあ「なんなんだよそれ」。俺か!!!中学の時の俺か!!!!!高校の時もだ!!!!殺せ!!!!!!!!
でも気付かないうちに誰かを傷つけているなんて、よくあることなんだ。誰もが傷つけられて、そして誰かを傷つける。無邪気に無自覚に血は流れる。
部外者の「そんな事情」は恋に夢中は当人らは知らなくて良いことだし、知らないでほしい。
甘い甘い恋そのものが「誰か」を苦しめていく、楽しいラブコメの裏側を描くのが素敵。
その点でいえば「こいはやみ」も後半から仲良し6人組の秘密が明かされてからそういう意地の悪い構造が見えてきてヨダレが分泌されまくりだった。
序盤でダダ甘カップルの、付き合う前と後の世界の感じ方が違うっていう初々しさ超炸裂のエピソードをやったあと、じゃあそれを聞いてグループ内の男女はどう思うかという、ニヤニヤがとまらないやつです。
後半はガラッと視点がかわって、なんとも後ろ暗い、切ないモノローグで幕を閉じる。
こういうある種の”犠牲者”側の感情もしっかり描くことで、夜にいろんな色が混じり合っていく。むしろたくさんの気持ちを吸い取って分解してそして抱きしめて、夜は今日もぼくらに訪れるのだ。
夜にとろけるのは、なにも恋にはやる10代の心だけではない。美しい夜景を作っているのは飾りじゃない、だれかの仕事の灯ってことだよ。俺は仕事で脳みそとろけそうだよ(脱線)
あーーーー初体験に失敗して「次もよろしくおねがいします」ってお願いするヒロインまじで可愛すぎてちょっとつらい、小岩井ちゃんん・・・
語彙力をなくしました。もうやめます。
以上、30位から16位でした。
のこりの作品自体は決めてるんですけどコメントがまだ手付かずなので1月に入っちゃうと思います。
ではコミケ行ってきます。皆様よいお年を。
なので年末くらいは一年を振り返る記事を。
前回がエロ漫画の総括だったので、今回は一般向け漫画の総括。
2016年に発売された漫画作品から個人的に面白かった作品BEST30です。
が、いざ各作品でコメント書き始めたら、最近更新が減っていることもあって書きたいこと山積みで、えらい文章量に・・・。なので分割して更新。
今回は前半戦です。だらだら書いていきますので適当に読み流すカンジで、よろしくです。
いちおうランキングっぽくしましたけど酒入れたテンションで書いてるのでわりと適当です。
のーぷろぶれむ家族(2)<完> (ヤンマガKCスペシャル) 麦盛 なぎ 講談社 2016-07-20 売り上げランキング : 117420 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
30.のーぷろぶれむ家族/麦盛 なぎ
全2巻。初期からは考えつかなかったシリアス展開へと進んでいったが、綺麗にまとまったと思います。
タイトルに関する通り、「家族」を描いた作品。しかも描き方が濃密だ。
主人公の母親はマネキン。いや、そんなわけはないんだけれど。主人公の父親が”壊れて”しまって、マネキンを妻と思い込んだ生活をしている。そんな秘密を抱えながら、ややコメディチックにスタートした本作。
しかしその秘密が暴かれたことで、主人公をめぐる学生生活は一変する。
主人公がせいいっぱいに日々を戦い抜く姿がジンとくるしとてもかわいらしい・・・。
しかし濃密に、思春期の、ドロリと濁った黒い分子がたしかに感じられる、ここがたまらんのですよ。非常に息苦しいあの中学校の教室の空気がページがのぼりたつようなリアリティでそこにある。
見えないルールに縛られたり、得体の知れない悪意に触れたり、もっと近づきたい相手にも素直になれなかったり、心細くて泣いてしまったり、そうして誰かを信じられなくなったり。
きっと経験があるあの束縛を、主人公は体当たりでぶつかりながら手探りで前へ進む。
儚げな印象の主人公だけれど、いざというときの苛烈な攻めがアツい。
正しい人なんていない。みんな間違えていく。でもそんな事たいしたことじゃないと、ぜんぶ包んで認めてくれる。ノープロブレム。家族がいること、相談できるだれかがいること、大切な自分の居場所。
当初、問題ありまくりな家族を描く皮肉のような意味合いで「のーぷろぶれむ家族」というタイトルになったのかと思ったが、最後まで読むとまた違った側面からタイトルも味わえる仕掛け。
2巻ラストでお父さんが「気付いていた」ことに気付いたシーンはこっちまで泣きそうになりました・・・すごい、こんなに突き刺してくるのかよ、と!
そして迎えるクライマックスの爽やかな事。ラブ的な意味でも、ハッピーエンドで大満足。
それと装丁が非常に美しいです。1巻2巻あわせて、ものとして手元においておきたくなる。良い本というのは良い装丁がされているということです。
家族モノでもあるし、暴走する思春期の過ちとそれの救済でもある。いろんな角度から何度読んでも違った楽しみ方ができそうな作品ですね。
あとデビュー作もすごくいいのでオススメですよ→微熱のまま触れあって歌いあって『17歳℃』
マドンナはガラスケースの中(2) (リュエルコミックス) スガワラ エスコ 実業之日本社 2016-05-20 売り上げランキング : 16708 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
29.マドンナはガラスケースの中/スガワラエスコ
スガワラエスコ先生の連載デビュー作、全2巻。そもそもリュエルコミックスというのはコミティアありきな作家選出をしておりコミティアキッズはやや複雑な思いがあるものと勝手に思っているんですが、そんな中飛び出した本作は作家の持ち味が生かされまくったかなりいい出来栄え。
爬虫類にしか興奮できない特殊性癖持ちの男が主人公。彼のつとめる爬虫類専門ペットショップに出入りしはじめた妖艶な少女に惹かれだすも、なんと彼女はランドセルをせおう年齢だった、という年の差ラブコメ。
臆病なのに悶々としまくる主人公のいじらしさがまずかわいいし、いやそんなことよりふたまわり近く年が離れている男を手玉に取る、JSヒロインゆりちゃんの魔性の女っぷりな・・・最高でっしょ・・・!!!
少女でありながら大人びていて、自分が『そう見られる』ことを知った上で距離感を測ってくるオトナなエロスも漂わせる。しかしときに彼女は年相応の、単なる12歳としての顔で涙を流す瞬間もある。この2面性よ!
末恐ろしいな・・・12歳って男性から性的な視線を浴びることにまず嫌悪感があるような年頃だと思うんですが、彼女はすでに遥か先ゆく。
逆に言えば、もっと昔からそういうふうに見られてきたという、悲しい成熟の証なのだとも感じる。
いわゆる男性的な性描写やあざとい仕草にグッと胸を掴まれますが、スガワラ先生の描く”線の艶やかさ”も非常にキャッチーな要素。そして描かれる生き物たちも愛情たっぷりに存在している。
動物たちの生態がキャラクターたちのドラマにもシンクロしたり、「生命」の持つ力をみせることでこの作品のストーリーも補強されています。
そしてなにより、ヒロインの造形が魅力的すぎる。
この瞳に見つめられたらもうイチコロってもんだ・・・。
2巻というコンパクトな尺の中で、爬虫類飼育漫画としての面も年の差ラブコメとしてもばっちり深められていく。もちろんもっと長く読みたかったことは間違いないけれど・・・
それにしてもこのラストシーンの圧倒的な爽やかさ!何段飛ばしかという跳躍!
しかしこれくらいの生き急いだ、感情をコントロールしきれない恋愛感情の発露というのが、最後にしてヒロインのキャラをより愛おしいものにしてくれているように感じます。
いくつであって女は女ということか。魅惑の美少女を堪能したい、そしてきらめく年の差恋愛を読みたい方に。
AIの遺電子 1 (少年チャンピオン・コミックス) 山田胡瓜 秋田書店 2016-04-08 売り上げランキング : 1281 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
28.AIの遺伝子/山田胡瓜
オムニバス形式で綴られる人とアンドロイドの近未来系ショートストーリーズ。
少年誌らしからぬ作風なんだけど、そういう雑多な紙面こそがチャンピオンらしいなとも思う。
雑な説明をすると、なんとなく「世にも奇妙な物語」の原案になりそうなマンガです(雑)
既発表作「バイナリ畑でつかまえて」のテーマを引き継いでいるようにも思えますが、今作は特にアンドロイドに特化した内容になっている。
人間が生み出した技術としてのアンドロイド。パートナーとして社会に溶け込んだアンドロイド。
アンドロイドによって変わった未来の、その片隅にある小さな小さな個々の物語。
科学というのは人の感情とは切り離されたロジックの世界かと思っていたんだけど、本作を読んでいるとそれは違うのかもとも思った。
非常に繊細でときに理不尽な「感情」に、人はもちろん機械すら振り回されていく。
人と機械の世界はノスタルジックでときにシニカルで、毎回毎回ふかみのあるテーマに取り組んでいる。
週刊連載とは思えない濃度で毎週描かれているものだから、もうコミックス1冊読んだだけで満足感がすごいのだ。
さらりとした清涼感のある絵柄なんだけども、思いの外エグかったり、気持ちを大切にした優しい物語もある。そしてそのどれもが科学技術が世界を前へと進ませていくという事実。
1話1話はシンプルでも、何話も積み重ねることで「未来の姿」を読者にリアルに浮かび上がらせてくれるんですよね。技術の進歩やガジェットの発展へのロマンを感じる。
そしてこんなに進んだ世界なのに、どこか人間本来の「愚かしさ」が根っこにある。
あいもかわらず馬鹿げた気持ちを優先しても、それで満足だってしてしまう。人も愛も変わらず。アンドロイドが隣人となる世界のビジョンを、こんなに多面的に描けるんだなぁ。
ネタがどれだけ続くのかなぁという心配もあるけれど、願わくばいつまでも読んでいたい作品の一つ。
AIの物語でもあり、愛の物語でもあり。良質なSF作品。
ミッドナイトブルー (フィールコミックス) 須藤 佑実 祥伝社 2016-11-08 売り上げランキング : 20941 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
27.ミッドナイトブルー/須藤佑実
タイトル!!!表紙絵!!!装丁!!!!
三位一体のノスタルジー攻撃になす術なくレジ直行いたしました。買ってから気づいたけど「流寓の姉弟」の作家さんだった。通りでセンスのいい漫画だ。
今回も小さな世界と小さな感情でおおきく揺さぶってくる、珠玉の一冊。
しかもこれまた、「過去にしばられた人々」がテーマなのかってくらい、割り切れていない奴らばっかりでてきてもう堪らない。これでもかと性癖をストレートに突いてくる。
フィーヤンに掲載されていたということで雑誌のイメージからちょっと身構えたのだけれど、非常にかわいらしい作品集です。女心の複雑さと、その女心に振り回されるかわいそうな男たちを描いた、感傷的な人生の断片たち。
「箱の中の思い出」、整形した元生徒との再会。美しい、記憶に留めたいと思ったそれは、他者からすれば無用のものだったと。再会がもたらすのは甘酸っぱい青春のやりなおしと後悔とセトセトラ。
結局主人公が墓まで気持ちを持ち続けるお話なことからも、本作が「死ぬまでゆっくりと引きずる」作品集だと印象づけられる。まぁ死ぬまでなにかに縛られているなんて、きっと誰だってそうなんだ。
「白い糸」仲が良かった、けれど深くは知らなかった、そうして遠ざけられた憧れの先輩とのエピソード。こりゃまた青春濃度が高くて素晴らしい。
青春を取り戻すために一瞬瞳が輝く大人たち、それもまた青春なんだよな。ヒロインのキャラクター性が示唆的で、彼女自身もそう認識するように魔法のような力があのころにはある。そしてそれを失った無力感から、自らその魔法の種明かしをするシーンは、漂う切なさに泣きそうになった・・・。
「ある夫婦の記録」本作で一番ひねくれた男女が登場するセクシーな短編。妻を尊く思うすぎるがあまり触れられず、別居して監視カメラで妻を見る夫。夫の言うがまま、そして夫への小さな反抗心を伴って行われる公認の浮気。
一度壊れた関係が、ゆっくりとコーヒーの香りとともに癒やされていくラストシーンは余韻もたっぷり。大好きな作品です。
最終作であり表題作「ミッドナイトブルー」は、2年ごとの同期会に現れる、昔好きだった少女の幽霊との逢瀬を描いたリリカルな作品。雰囲気作りも一際丁寧で、少女の停滞した時空と、主人公たちの残酷な時間の流れのズレがどんどんと開いていく中、いっきにその距離を詰めていく流れはゾクゾクが止まらなかった・・・!!コミックス最後にふさわしい内容だと思います。
全体的に表紙イラストの雰囲気に非常に合っていて、みんなセピア色の記憶の中で逃れられない運命を掴んでしまった連中ばかりなのだ。
さらりとした質感のポップな絵柄も好印象です。まったりと流れていく中で、インパクトのある絵をスムーズに投入してきている感じもうまいなぁ。
万人受けする短編集だと思います。ノスタルジー全開、喪失者たちのやさしい物語。
いや、正直内容もいいけど装丁が最高すぎる。手に取った時のテンションの高ぶり。本編の良さを何倍にも引き上げているように思います。こういう相乗効果が単行本の良さだよな。俺的2016年コミックス装丁完成度No.1。
恋のツキ(2) (モーニングコミックス) 新田章 講談社 2016-11-22 売り上げランキング : 3397 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
26.恋のツキ/新田章
超傑作「あそびあい」に続く新田章先生の新作。なんというか、「あそびあい」の流れから見ると作者の性癖を色濃く感じる・・・いいぞ、それでいいんだ・・・俺も大好きだから・・・!!
31歳、彼氏持ちの主人公。惰性で同棲し、ときめきもなく、このままだらだら人生を消費ししていくのみの人生。かと思っていたのに映画の趣味もファッションもドンピシャ、しかも顔立ちもタイプな男の子と急接近!
問題はその男の子が高校生だということだ。なんと16再歳の差。
いけないと思いつつもどうしても心惹かれていく主人公ワコ。スリル満点・・・というほどのアドベンチャー感はないが、日常の描写がしっかりとしている分、非常にリアリティのある、『浮気』の物語に仕上がっている。
女性にとって「20後半から30を過ぎて付き合っている異性」がどういう存在であるか、生々しい言葉やワコ本人の描写とともに綴られていく。結婚は意識する。なんとなく老後のこととかのイメージも湧く。彼はサラリーマン、こっちはフリーター。なんとなく・・・合う、感じがある。
けれど女としてココロ揺さぶられるかと言うと・・・・・・No.
彼氏のふうくんはお調子者で態度もでかい、たぶんよくいる、雑なタイプの男性。リアルなキャラ。
そんなときに現れた超タイプの美少年が、なんと自分に好意さえ抱いてくれる。
本能と理性がせめぎあい・・・結果的に、ワコは自分に少しずつ言い訳を繰り返しながら――浮気をしていってしまうのだ。
さわやかなタッチでねっとりと男女の関係を描く作風は相変わらず。
目に見えない情念のようなものがページから匂い立つ。ここらへんは流石の一言。
その上、刺激的なストーリーともに飛び出す「女の本音」的部分も魅力的だ。
ワコは天然っぽくて可愛らしい女性なんだけれど、31歳という年齢がリアルに肩にのしかかっている。夢ばかり見てはいられない。けれどドラマのようなときめきに憧れる。三十路女性ならではの葛藤だ。
特に2巻、ラブホまで行っちゃってだいぶ浮気も深まってきた中で、ワコがいまの彼氏と少年を比べたとき、ひとりの女性として本気で自分の言葉で二人の男性を比較するシーンがある。この切れ味の鋭さと言ったら・・・!
年の差なんて関係無いって言うけれど、いざ直面したとき、16歳の年の差を恐れない訳がない。
自分は今31歳で、相手は高校生だ。しかも浮気の関係で。
じゃあ結婚をするとしたら?何年後だ?そのとき私は何歳になっている?子供はどうする?いくつで産める?4年付き合っているいまの彼氏は結婚を意識している。両親に挨拶へいく約束もした。そんな相手とこれから別れを切り出せる?友人たちに顔向けができる?
きっと10年前なら違う結論が出せていたのだ。人にとっての10年が、どれほど重要か。
1巻からすでに胃が痛かったけれど2巻から本番。完全にスイッチが入って作者もノリノリだ。
ストレスでハゲそう。でもページを捲る手が止まらない。この本にかかれている言葉たちはどれも素直だ。それは理性で押し込めた社会常識より、ずっと熱く、そして痛みを伴う。
誰もがいけないことと知って、それでも人は罪を犯す。「浮気は文化」なんて言えない。これは卑怯者が一人ひとり背負う、本当の愛と罪の十字架だ。
月曜日は2限から(7) (ゲッサン少年サンデーコミックス) 斉藤ゆう 小学館 2016-11-11 売り上げランキング : 38930 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
25.月曜日は2限から/斉藤ゆう
終わってみれば、本当に寂しい。なんかいつもあるような気がしてたんだよな。使い慣れたシャーペンみたいな、ずっと着けてるイヤホンみたいな感じで、決して派手ではないけれど4年弱ゲッサンで連載されていた青春4コマ漫画。
主人公の男子高校生居村くんと、校則まもらない自由奔放ガール咲野さんの日常を描いた作品です。
何が面白いのかって言うと、まぁ本当にありふれた事なんですけど、この空気感。
会話のかけあい、そのひとつひとつ。激しいツッコミも無ければぶっ飛んだボケもない。
淡々とした日常の中で、たんたんと会話している。それだけなのに、テンポのコントロールやギャグのシュールなセンス、言葉選びからすべてがツボだった・・・!
咲野の言葉はなんか世の真理をついていそうで、実際はただの怠け癖だったり皮肉だったりを言っているだけなんですけれど、あのけだるい表情で言われると全部許してしまう。
個人的にゲッサンという雑誌自体に思い入れがありまして、まぁ創刊からずっと追っているので、いろんな新人さんが出てきましたけれど、別にこの作品って有名でもないし雑誌内ですごくいい位置にあったというわけでもありません。唯一の4コマ漫画という特徴はあったけれども。
MIXとか信長協奏曲とか高木さんとか、人気作の影に隠れ続けておそらく知名度もそれほど高くないでしょう。
けれど毎月読むことで心がさっぱりとしてしかも笑えて、本当に、物語が終わりに向かっていくにつれてどんどんと好きになってしまった作品でした。
もちろんストーリーの盛り上がりも素晴らしかった。
終盤ラブがコメりだした頃からの主人公と咲野のやりとりは一層可愛らしく、両思いだとお互いにわかっていてもそれを避けながら、探り合いながらふざけ合いながら、いつものトーンでおしゃべりを続けてくれた。
最終話付近では、静かに盛り上がったテンションがいっきに弾ける、最高の青春劇を見せてくれる。叫び出したいくらいに興奮してしまって自分でも「あれ、こんな作品だったか???」と混乱したりもしたw
明らかに途中からムードも変わってきたのにそれに違和感がなかったのも見事。徐々に徐々に、クライマックスへの流れが計算され組み込まれていった。いや偶然かな・・・
いや、本当に自分でも訳わからんくらい今年いきなり好きになったからビビる。
青春4コマの傑作だと思います。いろんな人に読まれて愛されて欲しい。
ハイスコアガール(6) (ビッグガンガンコミックススーパー) 押切 蓮介 スクウェア・エニックス 2016-07-25 売り上げランキング : 5505 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
24.ハイスコアガール/押切 蓮介
復活を遂げたハイスコアガール2年ぶりの新刊!!
シンプルに「久しぶり!」という気持ちと、大人な事情はさておきともかく内容がクッソ面白かったわけで、とにかく夢中にさせられた一冊だ。
なんせ5巻のヒキが卑怯すぎた。最高潮の盛り上がりの中で、まさかの悲劇が巻き起こり連載中断、完全に絶望させられたものである。ホント、復活してくれてよかった・・・アニメ化の企画はまだ動いているのかな・・・。
自分は正直この作品で描かれている時代をリアルタイムでは生きていないし
出てくるゲームもちゃんと触ったことのないものばっかりだ。
それでも彼らの姿になんとなく心強さや親しみを感じてしまうのは、自分自身、どうしようもなく夢中になってしまうときがあったり、ゲームやアニメといった二次元の住民たちに、自己暗示のようなものだが、自分の背中を押してもらえていると思う瞬間があったりするからだ。
ハイスコアガールではときおり風景に、キャラクターたちが思い描いたキャラクターがまるでそこに実在するかのように描かれたり、重要なシーンでは彼らに声援やアドバイスを送っている。もちろん妄想にすぎないのだけれど、
ただの娯楽じゃない。楽しい瞬間をくれた作品というのは、いつしか自分の一部になってしまうんだ。
その作品のキャラクターが自分の中で生命をもってひとりでに動き出し、激しく自分を奮い立たせてくれたりする。今巻収録の第35話のクライマックスでは、日高が自分の操作キャラを空に浮かべて微笑む。名シーンだ・・・。
没頭する趣味への愛。この描き方が素晴らしくて、羨ましくなるほどなんだよな。
そういう熱を持った作品であるとともに、まさに今、ラブコメ的にも大盛り上がりだった。
まあまず日高さんとの一騎打ち。これが読みたくて読みたくて仕方がなかった。
さらには大野といっしょにAOUに出かけるデートイベントも発生。甘酸っペエ!!!そして濃厚に時代背景を反映する懐かしゲームの数々に酔いしれる!!
じれったくて仕方がないけれど、確実な関係も進歩・・・ニヤニヤしすぎて頬がとけそうだぞ。
幽閉状態の大野さんにむけてイタズラ心満点の自作データ入り「RPGツクール」を渡すハルオ。女性陣にイチャモンつけられながらときメモをプレイするハルオ。
ほどほどにクソガキできちんとラブコメ主人公をやってくれるハルオは、本当にいい主人公だな。
ともかく、ようやく連載も再開されたハイスコアガール。これからも楽しみにしていきたいです。
hなhとA子の呪い 1 (リュウコミックス) 中野でいち 徳間書店 2016-04-13 売り上げランキング : 27938 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
23.hなhとA子の呪い/中野でいち
濃密だなー!とてもリュウらしいひねくれたテーマとエネルギッシュな勢いを併せ持つ期待の新作。
前作「十月桜」はキャッチーな設定がありましたが、今回はかなりぶっ飛んだ内容となっています。
人間と性欲とそれにともなう罪悪感、それをどう折り合いつければいいのか。
中野でいち作品と、コミュニケーションの中で不全する事故、そして己の中の葛藤、自意識への苦しみ・・・といったテーマで作品とおおく発表している、ぶっちゃけめちゃくちゃ捻くれてて大好きなんですが
今作は毒々しいほどのカラフルな極彩色の世界。そして己と戦う青年が描かれていく。
若くして社長となり地位を手に入れた主人公は、「性欲は真実の愛にとって障害となる」という持論を持ち、自分には性欲は一滴も存在しない、そうあることが正しく祝福されるべきとしてこれまで生きてきた。
しかし彼の視界に現れた妖精のような少女が突如すべてを変えてしまう。
いや、押し隠していたものすべてを暴いてしまう。
彼が奥底に秘めてきた、きたないドロドロとした欲望を。
そして誰よりもそのことに本人が傷ついて、読者にまで突き刺さってくる迫真さがある。
愛する人が処女でなければ赦せないような、いわゆる「童貞臭い」という男性性について
鋭く切り込んできている。主人公が描く理想は、実際、共感できてしまう。
100%の純度で人は人を愛せはしないのだろうか。
誰かを愛することはセックスがしたいだけなのではないだろうか。
ただただ穏やかに清らかに誰かを愛せるような人間に、自分はなれないのだろうか―――
かなりデフォルメを効かせたかわいらしいキャラクターたちですが、展開されていく内容は文学的。テーマがエロスについてですが性的になりすぎず、しかしエンタメらしく疾走感に満ちた破天荒さにあふれていて、とにかくアツい。
ただ、なんとなくだけれど本作を真正面から楽しめるのは、きっと男の特権なのかな、という雑な優越感もある。女性しか/男性しか読めないという断言はナンセンスなのは百も承知なんだけれど。
いつの頃かこれを思い、いつの頃か忘れてしまう”拘り”を思い出せる気がする。
彼の新年は間違っているのかもしれない。
子供じみたくだらない理想かもしれない。
真実の愛なんてどこにも、無いかもしれない。
けれど彼が彼なりに、正しくあろうと足掻くことに、少しでも、少しでも価値があってほしい。
自分なりの正義を貫こうとすることを誇らしく思えるようなそういう物語が読みたい。
そう願ってしまう作品。ネックはちょっとタイトルがタイピングしづらいことぐらいだな。
春の呪い 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス) 小西明日翔 一迅社 2016-12-24 売り上げランキング : 122 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
22.春の呪い/小西明日翔
最愛の妹が死んだ。
それから私はその妹の婚約者だった男の、恋人になった。
導入のこれだけで読みたくなる。これがキャッチーってヤツなんだよな・・・(キャッチーとは
ゼロサム連載作。全2巻。
今年のいろんな漫画賞でも上位にノミネートされており、漫画好きからの評価も高い作品です。それも頷ける出来栄え。こんなに心に迫ってくる、死者との対峙の物語を初連載作しょっぱなから放ってくる新人作家さん、恐ろしい・・・。
基本的に死者と生者の関係をクローズアップする作品は大好物で
しかも本作なりに「死をひきずる」の先を描いてみせてくれる。
もう性癖にド直球投げ込まれすぎて精神的にしんどい。超興奮。
自分のすべてとも言える存在だった妹が亡くなり、
なのに今、その妹を心底裏切る、道徳的に許されない感情に踊らされる。
妹への執着から大切な男性にも優しくできず、家族からも厳しい言葉を投げかけられ、自分でも幸せになるならもっと別の未知があるだろうとわかっている、わかりきっているのに、
それはもう呪いのように、離れがたい。
誰も彼も、誰かに許されたいのに。いや本質的には自分に許されたいのに。
個人的にはハルのHNが「アキ」だったのがグッときました。
たまたまこの名前にしたと彼女は言っていたけれど、多分そうではなくて春⇔秋という対比から「まったく別の自分になりたい」という気持ちが透けてみえるよう。
実際に冬吾が自分とはタイプのちがう姉を見る時の視線に、敏感に反応していた春。
愛しい姉でもありながら憧れでもあり、しかし嫉妬の対象でもあったのだろう。
そして春は、自分が死んだあとにもし姉と冬吾が恋人になったら・・・という想定で、悩み抜いた末の強烈なひと文を遺してる。
ただ儚いだけの存在ではなかった。女性ならではの感覚にゾクゾクする。
そしてこれだけ難しく入り組んだ物語が、しっかりと全2巻で決着する。
最初から決めていた着地ができたと作者も言っていたし、この構成力の高さにもグッと掴まれました。個人的に長編よりも単巻とか全5巻とか、やや短めのお話の方が好きなので。
絵のタッチは荒々しいのですが、それも物語に合っていました。思いっきり心労で目んたまグチャグチャになってるやつらの顔、みんな苦しそうでとてもとても可愛いです。
終盤なんか言葉のひとつひとつが重すぎて、悩み抜いて絞りきって出した覚悟がドロドロ沸騰しているようなラストシーンにんってます。
とけない呪いに一生苦しめられていく。
苦しまなければ生きていけないふたりだから。
あの日、世界の真ん中で (ウィングス・コミックス) 小鬼36℃ 新書館 2016-11-25 売り上げランキング : 52628 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
21.あの日、世界の真ん中で/小鬼36℃
鮮烈。
それは目に突き刺さるような色彩のカバーイラストでもあるし、
あまりにも剥き出しにリビドーが叩きつけられたストーリーにも感じる。
子鬼36℃先生の商業デビューコミックスは、悶々とした10代のネガティブな迷いを歌にしてぶっ飛ばす、超かっこいいクソエモ青春漫画です。
というかもう「好きな歌を自分の作品内で歌わせたい!!」という熱がガンガン伝わってくる。
きっと作者さんも大好きなんであろう、実在するとある曲が大々的に登場しますので
俺含めそういう「実在する曲と漫画のストーリーがシンクロしてすげぇいい感じになる(語彙」のが大好きなひとは、ちょっとコイツは素通りできませんぜ。要注目。
主人公の茎太はギター少年だがそれには打ち込めず、腐って過ごす田舎の少年。
しかし幼馴染の少女が陸上でスカウトされ、いずれはこの町を出るという話が出て来る。
やる気がでない、なにも出来ない、下らない自分のどうしようもなく停滞した日常。そんな中で自分の半身とも呼べる少女が、自分から離れていく不安に襲われる。
片や部活で評価され町を出る。片や自分は無気力、非生産の穀潰し―――
劣等感と無力感のあまり暴走してしまう。暴走して気づく、脈打つ心臓の音、その熱さ。
ふたたびギターを手に取る主人公。そしてそれを優しく支える幼馴染の少女・・・
もう、めちゃくちゃ青春してんなお前ら!!!って感じで大好きです。
途中からわりとサクッと主人公とヒロインが結ばれるんですが、
もうふたりとも可愛くて可愛くて、モダモダしちゃうんですよ・・・!
関西の男女はケンカのながれでセックスするという艦これの龍驤本で学んだ事象が俺の中でさらに補強されましたね。
あと日本人はDNAに刻まれてるレベルで幼馴染属性持ちだと思う。大好き。
幼馴染から恋人へのステップアップで、本人たちもギクシャクしてるし周囲もワクワクしちゃう。ぎこちないけれど確かに両思いで、きちんと幼馴染が幸せになれる。俺はいつまでもこういう漫画を好きでいたい。
しかし幸せな中でも主人公の心の不安は晴れない。むしろ幸福を手にすればそれだけ闇は彼に降り注ぐ。拭いきれない思春期の苛立ちを、少年はもういちどギターと歌にたたきつけていく。
ギターなんかで世界は変わらないと、達観したようなことを彼は言う。
この世界を呪って、つまらない日々を腐して、非力な自分を憎んで。
けれど、物語はとてもすがすがしく幕を閉じる。
この物語は少年が人生に灯る光を見つけるための、世界への必死の抗戦だ。
あにいもうと ハルミチヒロ 白泉社 2016-12-22 売り上げランキング : 2006 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
20.あにいもうと/ハルミチヒロ
あーーーーー染みる、染みますなぁハルミチヒロ先生の漫画は・・・!!!
楽園に掲載された短編をおさめた短編集。過去作よりグッと「少女漫画」に接近しているような感じ。タイトルに「いもうと」とあるようにティーンの少女たちが多いです。もちろん、それだけじゃないので一筋縄でも行かないのですが・・・
恋愛という一言で括りきれない、括りたくない、繊細かつ複雑なそれぞれの感情。
近親へ、同性へ、異性へ、そして自分へ。
成熟していない10代だからこその不透明さとか、機嫌の悪さとか、もうホンットかわいいなぁ。
お気に入りなのを個別に感想。
「間違っている恋」付き合っているけど経験はまだな高校生カップル。その彼女さんはどこか冷めているようで、彼氏へのこじれた想いを抱いている。「かわいそうなあなたの顔が好き」という。そしてまだ知らない世界への不安のような、ざわめきのような感覚。キラキラしているだなんて思わない、けれどひたすらに胸を焦がす甘くじれったい憂鬱。
ストーリー色は薄いんだけど、少女ならではのもの寂しい感覚がすみまで行き渡っていて、最後のモノローグへの流れも非常に美しい。何度も読んでしまう、澄み切った冬のような空気です。
「あにいもうと」お兄ちゃん離れができていない妹さんのお話。ギャンギャン喚くしワガママだし、非常に幼い印象のヒロインです。しかし彼女のセリフはいっこいっこがリアルで剥き身の感情がほとばしっていて、身動きが取れない。本人にすら持て余す感情を読者だって受け止めきれるわけがないんだな。
お兄ちゃんにかわいがってもらえる幼い女の子のままでいたい。まだ、あと、もう少し・・・
彼女なりの決別(というか納得かな)が、なんとも彼女らしいふんわりさでニッコリ。
「魔法使いの娘」ちょっとファンタジックな設定で送られる、思春期女子全開のお話。これはラブコメでもあるけれど、母娘の物語だなぁ実質。娘のためを思って貞操をまもる魔法をかけた母親に、娘は立ち向かう。「ママと私は違う人間なんだから!」のセリフで泣きそうなお母さんにじんわり切なくなってしまう。。。
母親とぶつかるのも思春期らしくて、オトナの2,3歩手前でもじもじしている10代の時間をやさしく見つめていられる作品です。子供っていうのはオトナの幼虫なのではなく、別の生き物に近い。
全体的に思春期力が高くて、短編集としてテンションも統一されてて読みやすいですね。ハルミチヒロ先生はオトナな女性を描くのがうまいと思っていたけれど、そうじゃなかったんだな、女という性を描くのが本当に素晴らしい。
とっても甘酸っぱい一冊。幅広くオススメしたい。
初恋ゾンビ 5 (少年サンデーコミックス) 峰浪 りょう 小学館 2016-12-16 売り上げランキング : 4009 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
19.初恋ゾンビ/峰浪りょう
超傑作「ヒメゴト~十九歳の制服~」完結後、週刊少年サンデーに舞台を移した峰浪りょう先生の新作。
ヒメゴトのことを語りだすと面倒くさくなるおじさんなので程々に留めておきますが。主要キャラクターたちが生み出す深みのある”コンプレックス”の物語と加速しまくる急転直下のストーリーが最高の青春漫画です。
セクシーな漫画でもあった前作から様変わりし、「初恋ゾンビ」は少年誌的なラブコメにほどよく作者の持ち味がブレンドされています。
男の初恋
それは恋の目覚めと、性的趣向と、たっぷりと妄想に押し固められた産物。
しかもそれは悲しいことに男の人生の奥底に眠り、一生つきまとう。
嘘と願望の防腐剤でコーティングされた、美しいままの偶像―――
『初恋ゾンビ』と呼ばれるそんな男の妄想上の女の子たち。
主人公はとあることをきっかけに「初恋ゾンビ」が見えるようになってしまう。省エネ主義、恋愛嫌いのタロウは、恋愛ゾンビを付き合っていくうちに学校内の人間たちの恋愛ごとに関わっていかざるをなっていくのです。
前作もそうでしたがキャラクターが非常に魅力的ですね!
キャラの魅力こそラブコメでは最重要項目といえますが、主人公の初恋ゾンビのイヴちゃんの圧倒的キラキラ感、幼馴染の高身長おっぱいスポーツ女子江火野さん、主人公の初恋の張本人にしてカギを握る男装少女・指宿さん・・・
ほか、各エピソードでゲスト的に出演する男女も、みんなクセがありつつも人間臭さがあります。そこに峰浪先生の鮮やかな感情描写が重なり・・・
人間模様の変化がめちゃくちゃおもしろいんですよね。
個人的に江火野さんを応援してるんですけど、指宿くんの赤面顔ももっと見たいんだ・・・
ラブコメとしての高揚感もピカ一。今年1番夢中になったラブコメだったかも。
すっきりとした雰囲気のなかに、粘りつくような人間の残念さが、あくまでもかわいらしい範囲で注ぎ込まれている。
そもそも初恋ゾンビの根本が「いつまでも初恋を大事にしちゃって、男ってバカだよね、しかも現実と全然ちがうじゃん」みたいな少々覚めた感覚を最初から備えているので、ところどころで読者をチクチク刺してくる。
そういうある種の愚かしさや恥ずかしさを抱えたまま、いかにして感情と現実に向き合っていくか。目を背けたくなる自分の醜い部分を、誰かに手向けることができるのか、その勇気は。
結局この作家さんは人間の弱い部分を肯定する漫画をかいてくれる。ずっとついていきたいです。
小難しいことは置いといて、初恋ゾンビちゃんがみんなムッチムチでエロくて絵面も最高です。
AV女優とAV男優が同居する話。 (アイプロセレクション) 時計 小学館クリエイティブ 2016-10-11 売り上げランキング : 5578 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
18.AV女優とAV男優が同居する話。/時計
コミティアファン(というか俺)の心をアツくした待望のコミックス化。
というのも、本作はすべてコミティアで頒布された同人誌を商業単行本にした、いわば総集編なのだ。まぁ全部同人版持ってるけど買っちゃうよね・・・!!
しかもこれまた濃密。男女のすれ違いを甘酸っぱく、ときに鋭い痛みを伴いつつ描いていく短編集。
激情ほとばしる圧倒的にエモーショナルな一冊だ。つまりエモいってやつだよ!
ただ甘いだけの物語を読みたい人には毒でしかないけれど、こじれためんどくさい恋模様が大好きマンたちには大好評(俺の知り合い調べ
大きくは3つの短編から構成されており、どれもそれぞれ違った方にトガっており読み応えばっちり。
表題作「AV女優と~」は流石タイトルトラックだけあり、殺傷能力もピカイチだ。セックスを生業とする男女。他者には理解されがたいがゆえに理解者として、そして異性として惹かれ合っていくが―――
仕事としての性行為。商品としてのセックス。すれ違う肉体と心模様・・・ああ、これぞ。これぞ「妄想をトランクに詰めて。」なんだよなぁ・・・!
「兄が好きな妹と 妹が怖い兄の話」。こちらは兄妹モノ。タイトルがそのものズバリを示しているんですが、こちらはよりソリッドに「傷つける瞬間」を切り取っている。
結ばれない、報われない、幸福になれない。そんな恋としりながら、救われないと願う。それこそが救われ難い。いい表情をする思春期女子にグッときちゃうよな・・・。
個人的には最後のヒロインの仕返しが、レシートをみせるだけではなんか物足りなかった。しかしそれくらいの生活感こそが、この作品ならではの距離の完結なのかもとも思う。
「自意識過剰なあたしの話」。こちらはより自分のナカミに目を向けた、これまでよりかは明るい作品。なんだけどなんか描かれている感情が前2作とくらべても格段に生々しく、ラストシーンで笑いとともに堪えがたい程の羞恥に襲われる。あ~~~~~悲恋というほど美しいものではないけれどお前絶対に幸せになってくれよな~~~~~ってなる。
セリフにぶん殴られるような、Sッケのあるストーリー展開も見どころ。
「一日一回、~」はオムニバス形式で綴られていく様々な男女の恋愛劇。
こういった、エッセンスを抽出したのみの短編でも十分に甘酸っぱくさせられる、雰囲気作りが素晴らしいのだ。
トータルとして「めんどくせぇ」連中のモヤモヤとしたラブストーリーが目白押しの、強烈なコミックスになっていると思います。ロマンチックで残酷なリリカルポエトリー。
こいいじ(5) (KC KISS) 志村 貴子 講談社 2016-12-13 売り上げランキング : 3488 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
17.こいいじ/志村貴子
どこからっていうのを表現しづらいけれど、ジワジワと確実に面白くなっている「こいいじ」。
まあまずタイトルがかわいくてシンプルで深みがある・・・恋の意地。維持。
少女漫画レーベルで発売される志村貴子先生の作品ですが、非常に間口のひろい読み心地。
これまでの先生のファンにも、はじめて読むぞって人にもススメやすくて、ストレートに人間模様が面白い。
主人公は31歳の女性。子供のころからの恋を諦めずにジタバタしていくラブコメ作品。
乙女でありながらも童貞臭もすごい主人公がかわいくてかわいくて仕方ないんだけれど、しかし彼女自身も31、恋する相手は子持ちで奥さんはすでに亡くなっていて。
ほかにも面倒くさい複雑な人間関係。
初々しい想いをずりずり引きずって、気づけばもう、周囲の環境はすっかり「大人の社会」になっていた。
一度諦めた恋だとか、亡くなった奥さんへの消えない想いだとか、死者を通じて様々な感情でつながっていく人々の描き方もいい。というか、ここが大好きなのです。
もや~っとした行き場のない不安が、少女漫画というにはやや成熟した、アダルトな口当たりを生んでいる。
年相応に重ねた傷跡がスパイスとなって、この作品をなんともほろにがい空気で包んでくれる。
4巻はとくに、聡ちゃんの辛いシーンの回想が多くてちょっと、しんどかった。
ふ、と。まるでフラッシュバックのように断片的な回想やモノローグが差し込まれて
その切れ味の鋭さを味わいたくて何度も読み返してしまう。
グダグダやってたまめちゃんも、4巻で最大のチャンス・・・というか転機を迎える。
急激に加速する人間模様と、それでもどこか冷え切った、”そもそも恋愛をする体力がやや衰えてきた大人たち”、ゆっくり沈みゆく陽の光のような感傷深い言葉たち・・・うむ、染みる・・・。
と、ややアンニュイに紹介はしましたが、主人公のまめちゃんのポジティブさにずいぶんと救われる。基本的にくらい顔の似合わない女。片想いのプロは、かんたんには負けてやらないのだ。
今年は4巻、5巻とストーリー的にもおおきな盛り上がりを迎えており、特に楽しかった!
少年少女より長くを生き、積み重ねたものがあるこそ、今、今なんだよと語りかける、
志村先生の新境地とも感じるオトナなラブコメシリーズです。
夜にとろける 1 志摩時緒 白泉社 2016-08-31 売り上げランキング : 47191 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
16.夜にとろける/志摩時緒
しっとりポエミーな恋愛漫画の旗手、志摩時緒先生の新コミックスは楽園掲載作と同人シリーズがひとつにパッケージされた瑞々しい一冊となっております。
っていうか同人シリーズ、同人誌で読んでたときは「同人誌」感覚だったのでそう思わなかったけど、こうして商業単行本として改めて読んでみたらかなり過激でしたね・・・うむ・・・よい・・・・・・
まぁ。毎度の如く。本当に悶死するくらいのすンごいラブラブっぷりである。
いちいち書き挙げたらキリがないけれど、志摩時緒作品のヒロインたちの「恋人にだけみせる表情」の破壊力ったらない。恋によって自分も世界も変わるようなキラキラ感。好きな人に好きといってもらえる幸福は人をここまで魅力的にするんだな。
少女としての自覚――それは恋人としての、あれやこれやを、なんか早いかなーでもしたいなーしてあげたいなーでもこわいなーっていうああメンドクセーなかわいーな畜生、ともかくそんな思春期女子の臆病さと蛮勇さととびきりの愛くるしさを味わいたかったら読んでくれ。
けれど本作は甘いだけではなくて、同時にその裏側に潜む闇も描く。
「第三者の片想い視線」。
こんなのを入れてくるあたりが志摩先生いじわるだなーと思いますね。第三者なんて冷たいこと言いますけどそれなりに仲がいいクラスメイトなんですよ。けれど彼女のことはクラスメイトとして以上には何も知らなくて。ああ、何がだめだったんだろうなぁ。どうすればよかったんだろうなぁ。おそすぎたよな。いや、仮に早く行動したとして。どんな結果になってたかなんて、下らない希望を抱く方が虚しいだけなんだけど。はーあ「なんなんだよそれ」。俺か!!!中学の時の俺か!!!!!高校の時もだ!!!!殺せ!!!!!!!!
でも気付かないうちに誰かを傷つけているなんて、よくあることなんだ。誰もが傷つけられて、そして誰かを傷つける。無邪気に無自覚に血は流れる。
部外者の「そんな事情」は恋に夢中は当人らは知らなくて良いことだし、知らないでほしい。
甘い甘い恋そのものが「誰か」を苦しめていく、楽しいラブコメの裏側を描くのが素敵。
その点でいえば「こいはやみ」も後半から仲良し6人組の秘密が明かされてからそういう意地の悪い構造が見えてきてヨダレが分泌されまくりだった。
序盤でダダ甘カップルの、付き合う前と後の世界の感じ方が違うっていう初々しさ超炸裂のエピソードをやったあと、じゃあそれを聞いてグループ内の男女はどう思うかという、ニヤニヤがとまらないやつです。
後半はガラッと視点がかわって、なんとも後ろ暗い、切ないモノローグで幕を閉じる。
こういうある種の”犠牲者”側の感情もしっかり描くことで、夜にいろんな色が混じり合っていく。むしろたくさんの気持ちを吸い取って分解してそして抱きしめて、夜は今日もぼくらに訪れるのだ。
夜にとろけるのは、なにも恋にはやる10代の心だけではない。美しい夜景を作っているのは飾りじゃない、だれかの仕事の灯ってことだよ。俺は仕事で脳みそとろけそうだよ(脱線)
あーーーー初体験に失敗して「次もよろしくおねがいします」ってお願いするヒロインまじで可愛すぎてちょっとつらい、小岩井ちゃんん・・・
語彙力をなくしました。もうやめます。
以上、30位から16位でした。
のこりの作品自体は決めてるんですけどコメントがまだ手付かずなので1月に入っちゃうと思います。
ではコミケ行ってきます。皆様よいお年を。