[漫画]どうやら世界がヤバイらしい、たぶん。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 1 (ビッグコミックススペシャル) (2014/09/30) 浅野 いにお 商品詳細を見る |
私にとっておんたんは 「絶対」なんです。
スピリッツで連載されている浅野いにお先生の最新作。
タイトルは「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」。めちゃくちゃ長いので略称として「デデデデ」とか「デ(略)」とかがあるみたいですね。
個人的には浅野いにお作品の中でも、かなり好きな作品になりそうな新作です。
宇宙から「侵略者」がやってきた。地球人との戦争が始まった。
・・・けれど、被害は出たけれどあっさりと地球は防衛に成功。
日常の中に非日常が混じったまま日々は続き、どこか狂ってしまった世界とどこかおかしくなってしまった人々と、ゆるやかに青春を謳歌する少女たちがいる。
掲げられたキャッチコピーは「デストピア青春日常譜」。
小学館のサイトではお前この野郎(ニッコリ)なステキ紹介文があるのでこれも張っておく。
夢見る女の子。ぶっ壊れてる女の子。
四次元ポシェット。トランジスタラジオ。
放課後の寄り道。大人げないお母さん。
戦争ゲーム。イケメンデブのお兄ちゃん。
たわいないおしゃべり。泡のような初恋。
空を覆う絶望。永遠の8月31日。
そして宣伝動画も公式で制作されていて、なかなかいい出来なのでこれも置く。
絶望感となんてことない平凡な日常がミックスされた雰囲気が絶妙な作品。
世界観のデザインの上手さという点でまず勝利してる。
女子高生のとぼけた日常風景が醸し出すゆるやかな空気が心地よくて、その背景にあるミステリーとかおぞましいものにフィルターをかけている。
でも隠しきれない不穏な要素は少女たちと読者を睨んできて、なんともいえない緊張感が内蔵をモヤモヤとさせてくれます。
この風景すごいですよね。まさに映画の世界。なのにここまで無感動でいられる、麻痺した感覚。まさにこの作品らしい場面。格好いい。
そして大切なこと。女の子の小憎たらしさと愛くるしさ。これですよ。
浅野いにお先生がこんなに素朴な美少女を描いてるぞ!という謎の感動が湧き上がる。いやこれまでも美少女はいましたけれど、ここまで素直な女の子たちなかなか居なかったからね・・・。
友達が大好きで大切で、学校の先生のほんのり片思いをして、彼氏持ちのクラスメイトを羨ましくなったり嫉妬したりして、ばかなことを言い合いながら一緒に帰って。
なんて「普通」な娘たちなんだよ!おんたんはちょっとぶっ飛んでるけど!
不思議だなぁ、こんなにおかしな世界に生きていても、少女たちは変わらないんだ。
物語は侵略者が来てから3年2ヶ月が経ってから始まります。
3年前、侵略者がきた時にはもちろん大変な騒ぎになっていたのです。
今じゃみんな平和ボケして、まるで警戒心がない。
侵略者はもはや脅威じゃない。多くの人がそう思い込んでいる。
本当になんとも思っていない人と、本当にデリケートになって精神を病む人の二極化が激しくて、それは現実に反映して考えるといろいろきな臭いから触れないけれど、示唆的だなとは思う。狙ってるのは間違いないだろうけれど。
心の底ではまるでビビっていないのに、偽善めいた報道や取り組みなんかしたりして。日常のゆがみが随所から感じられて、その魅せ方のひとつひとつ上手いよなぁ。
見透すような皮肉な視線がつねに張り巡らされているのを感じます。
侵略者が来たって日常は続いている。どこか壊れながら、確かに歪みながら。
むしろ「宇宙から侵略者が来た」という映画みたいなぶっ飛んだフィクションが現実になったのに、人類があんがい強くてしぶとくて、少年少女から夢を奪ってしまった感もある。
思春期の不安な感情が、世界がむちゃくちゃになってしまうことを望んで
けれどむちゃくちゃになったのは家族で、面倒が増えただけで・・・。
日常のすぐそばに破滅のトリガーがあるのかもしれないけれど
そんなことで一々歩くのをやめていたら、生活は成り立たないし。
「宇宙人がきたら、もっとすごいことになるって思ってたよ」なんて、思春期の不安な気持ちがそんな言葉まで吐かせてしまう。ああ、この怖いもの知らずな物言いも素敵だ。何も見えていないひどい言葉のようで、でもすごく人間らしい本当の言葉でもあって。
ときたま侵略者が降りてくるけれどこれがまた弱っちくて、まるで平和を脅かすようなもんじゃない。道行く男子学生が遊び感覚で石を投げたら墜落しちゃうようなショボい侵略者。はぁ、夢がないったらない。
兎角、生活感の細微な描写が見事な作品と言えます。
上のシーンのSNSなんか、今の自分が日常的に見るような感じだし
特にゾクゾクしたのが、侵略者がきた日の主人公・門出ちゃんの行動。
「世界がヤバい。滅亡の危機だ。」だからスマホで2chを見て、ニュース実況スレを眺める。
少女がその日常から観測できる範囲だけで見る世界滅亡。
面白いなぁ。これが狭い世界の、等身大のリアリティなのかもしれない。
本当に地球がヤバいってときに、そのヤバさの全体像なんかわかりっこない。
それと「異質なものがそこにある」という演出のために、こういう(↓)文字演出がされています。
これも面白いんですよね。SF風景と合わせて、非現実のロマンを感じます。どんな音なんだろう。
この音、空を覆うようなあの大きなUFOから出ている音なんでしょうけれど
それをもはや気に留める人がほとんどいない。大半の人がこの音に慣れてしまっているような。「またあの音?」って、確認はするけど別に怖がりもしないし我慢できないほどの耳障りとも思わない。
こういう所にも、日常に異物が溶けこんでも順応しているんだなと感じる。
さて、このデ(略)1巻の感想としては、これくらいです。
だってまだまだ話が動き出してないのが間違いないから。
いつまでこの雰囲気が続くのか、すぐにだって絶望へ落ちていける、危なっかしい綱渡りな世界。そんな気がします。
例えば同じ雑誌で連載していて作家さん同士も仲がいい「アイアムアヒーロー」なんかも思い出して、かなり身構えて読んでしまったこの第1巻です。
そして案の定、第1巻はなにかヤバイことが起きそうなキャラクターので幕を閉じる。
おいおい、こんな所で終わられたら辛抱たまらないぞ。でも大丈夫。発売中のコミックスピリッツで1巻の続きが掲載されてるんだなーーーこれが!!(謎宣伝)
個人的には浅野いにお作品は自分の中でも大好きなものとやや受け入れがたいものがあります。「ソラニン」と「うみべの女の子」が特に好きかなぁ。
「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」は、1巻のツカミの段階ではそれらと並ぶくらいのお気に入り作品となってくれそうな予感がします。
圧倒されそうになる強烈なSF風景が、日常に溶け込んでしまった妙な世界観。
これがあまりにもステキで格好良くて、何度でも読みたくなる!
あと第一話、タイトルコールの見開きの「スバーーーーン!!!!」感は本当に格好良かったね。やっぱり第一話でカッコ良く演出をきめてくれる作品は大好きです。
キャラクターもいいよなぁ。主人公以外で好きなのはニートのお兄ちゃん。
完全にロクデナシなのにどこか憎めない。なんかしらで大活躍してくれると大変喜ばしいですね、ぜったい良いキャラだw
少女たちの青春のすぐそばで、絶望はなおも息づく。
でも今はただ、不安な気持ちをくすぐるゆるい空気が愛おしい。
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
第一巻だけでは判断が難しい作品とは言え、心掴まれる世界観と先が続きになる強烈な魅力があります。イチオシしたい新作。
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