[小説]幻想は冷めていく。憧れはすれ違う。君を見失う。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻
大遅刻ですよ!
わかるものだとばかり、思っていたのね……
かなり、かなり遅れましたが「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想です。
6巻で一時的な団円を迎えたのち、今や奉仕部の面々の人間系はけっこう……いやだいぶこじれております。
人生における取り返しのつかない過ち、失敗。
もしかしたらその瞬間がいまなのかもしれない。そんな恐怖感も漂う内容。
いやはや、1巻のころとはまるで違う雰囲気になってきました。
作品らしさが深まり、ハマる人は一層ドツボにハマり、反動で拒絶せざるをえない人も出てくるでしょう(拒絶する人はこの8巻に至るまでのどこかですでに断念してるかもしれませんが)
正直、感想の冒頭でこんなことを言うのもあれですが、スッキリしない巻でした。(あれっ、7巻と同じこと書いてる!!
つなぎの巻だということを踏まえても、人間関係の軋みと揺らぎ……読んでいて非常に不安にさせられる。
しかしきっと主人公らが乗り越えてくれる、乗り越えるべき壁であると祈って、希望を託すように読み進めました。
いやぁツラい。どれだけ間違えたら間違えずに済むのか。
ときたま昔を思いだしては勝手に刺激されて傷ついたりしているわけで、いつもいつもこの作品には刺激を貰っているのよな。とかいう自分語りはさておきちゃっちゃと感想本編に参りましょう。適度に自意識が揺さぶられる。
以下は過去の感想一覧。
優しい女の子は嫌いだ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻
甘い青春には慣れない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻
かつて「彼ら」だったぼくらが出来ること 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』4巻
憧れだった君を許せない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』5巻
独りの英雄は、ステージの輝きを浴びられない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6巻
それでも彼らは当たり前の嘘をつく。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7巻
そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
奉仕部の人間関係。まずい感じになっています。
7巻で八幡がとった「嘘告白」という手段に、雪ノ下と由比ヶ浜が反発。
消化不良感を残したまま奉仕部は、力をあわせなくては難しい、難題といえる依頼を受けます。
けれど奉仕部の3人は、それぞれ別の方法をとり行動を開始。
きっと大切に思い合っている。それなのにうまくいかない。何がだめかも分からないまま間違え続けていく。
ここからは順番に気になったポイントを取り上げていこう。
ネタバレ注意で。
・雪ノ下とのすれ違いが加速する
ただ、この場面で注意すべきは、7巻のラストで雪ノ下が憤った理由の断片が見えたことでしょうか。
つまりあの時、恋愛感情だのよりも、比企谷八幡という人間を支えるポリシーが揺らいでいたことを彼女は咎めていたんだ。
そしてこの言葉に八幡は反論できない。
視線をあわせることもできず、ただ言葉を受け止めることしかできずにいた。
彼自身、自分の変化を知りつつも行動している。
・葉山くんエンドが見えつつある…?
ヒロインとの関係が悪化するなか、グングンと存在感を増すヤツがひとり。
葉山隼人、その人である。
というかもうこいつがヒロインとして八幡と結ばれた方が話が早いんじゃねーかなとか思ってしまうまである。
今回葉山のアクションが大きかったこともあり、物語に介入し、新たな一面を見せてくれる場面も多かった。はやはちが捗るな。
「あれで結構プライド高いから(P.144)」と、陽乃さんはそう葉山を評価している。ただ八幡もだが自分もそういった要素が葉山にはあまり見当たらない。葉山のプライドとは一体なんだろう。
話は変わって、葉山の想い人。
八幡と葉山がコイバナ……すごいよな…距離縮まりまくりだわ…。
彼女の登場でまた話はこじれたわけですが、レアな話を聞けました。
葉山の想い人のイニシャルはY。これは4巻で明らかになっていたことですが、それも踏まえると考察しがいがあるやりとりです。
自分としては、陽乃さんだと思っているんですけどね。雪乃かもしれないけど。
しかしここで気になるのは、どちらにせよ、幸せな恋をしてはいないなということ。終わってしまったか、あるいはうまく始めることができないのか…。いいよねイケメンが不憫な片思いしちゃうってのはさ…。
ともかく雪ノ下姉妹との関係も深いわけで、今後もし雪ノ下家の内部事情にまで話が及ぶようだったら、展開の足がかりになりそうなキャラクターである。
・葉山が八幡をかばったのは
折本らに直接、葉山は怒りを見せた。それは八幡をかばうため、八幡の価値を訴えるためだった。
葉山くんが八幡を好きすぎる問題。
「俺はただできることをやろうと思っただけだよ」
葉山のこの言葉は、おなじ言葉を吐きながら行動してきた八幡に向けたものだったのかもしれない。これまで葉山は自分が問題解決を直接できる立場ではないことや、7巻では八幡を追い詰めてしまったことを悔やんでいたように見える。
そしてここにきてこの言葉である。八幡をおもう葉山の気持ちは相当なもんやで♂
P.200以降、葉山と八幡の口論が書かれている。
ここのやりとりは葉山との関係のみならず、雪ノ下へのあこがれもまた強く現れた内容だったので何度も読み返したい重要場面。
・雪ノ下へのあこがれと「自己犠牲」
そしてその口論シーンについて。
「誰かを救おうとするのは、誰かに救われたいという願望の現れではないのか?」
そう投げかけた葉山に静かに激怒した八幡。その中で見逃せない、彼のこだわりが表現されているのがこの一幕。
それほどまでに強く憧れ、もはや信仰とも言えるくらいに達しているのに、理解にまで達せない。一方的な憧れなんてただの押し付けにすぎないのは本人も述べているが、ほんとそれ。
作中、「自己犠牲」と言うなと八幡は言っていました。
この部分は、かなり突き刺さりましたね。
これまでの感想の中で自分も幾度と無く彼の行為を「自己犠牲」と表現していたので、これは反省するしかなかった。そうか、そうだよな。
「誰が貴様らのためなんかに犠牲になってやるものか(P.204)」はその怒りが爆発していて、とても格好いい。
でもあえて自己犠牲という言葉を使っていく。
八幡は自己犠牲で誰かを救ってきたわけですが、今回はだれかの自己犠牲によって守られたり庇われる立場となるシーンが多かった。
雪ノ下、由比ヶ浜、そして葉山に。
本人が絞りだすように選択した一手を「自己犠牲」と呼んで憐れむべきではないにしろ、それを見て痛ましく思う人が居るならば、あえて勇気をだして「なにやってんだ馬鹿野郎」という意味を込めて「犠牲」という言葉を使いたい。
・陽乃さんコワイ
ひさびさに背筋がゾクゾクする一言、いただきました。
「比企谷くんは何でもわかっちゃうんだねえ(P.196)」
理解をにじませた八幡を拒絶するがごとく上からかぶせた、かなり悪意アリアリなセリフ。こういう所でそこしれなさを恐ろしく提示してくるこの女は、やはりコワイわな。
「悪意に怯えているみたいで可愛いもの」というセリフも、八幡を言い表しているのかもしれない。誰かに傷つけられる前に自らすすんで傷つく。そうすれば不安にならない。怯えなくて済む。
「理性の化け物」と、八幡を呼んだ陽乃さん。
もしかしたら家族である小町に並ぶくらい、八幡を深く見つめている、あるいは見透かしているのは彼女かもしれない。
・かつての八幡の恋
折本というキャラクターが登場し、八幡が揺さぶられたのと同時、前に進めたのも面白い。特にこの一文はかなりしびれた。
「始まってもいなかったものを、今になってちゃんと終わらせることができた気がした」
勘違いして、空回りして、思い込んで、恥をかいた。なんてことない。好かれているんじゃないか?という錯覚に酔って作った、一生ものの傷跡。
けれどちょっとは癒えたんじゃないかな。小さな自己満足にすぎないけれど、大切なことだった。
・部室の鍵
ささいなシーンですが、泣きそうになった。216Pの部分ですね。
八幡が奉仕部を訪れなくなってしまっても、彼女はずっと部室にいた。
それは由比ヶ浜との時間があったからという理由がまずありますが、それでも
あの部室での時間を彼女は守ろうとしていたのだと、そう思えて、泣けた。
これがあるからこそ、8巻ラストで失われていくものが、あまりにも痛い。
・手の届かない、彼方の人
これもこれも小さなワンシーンですが示唆に飛んでいたのでお気に入り。
雪ノ下のために、「自分も立候補する」という形で参入してきた由比ヶ浜。そういった彼女の心の強さ、純粋に友達思いで自分を投げ打てる覚悟など、そういった部分は八幡には無い部分。だって裏方だものね。
けれど実際に行動に映せる由比ヶ浜は眩しい。
手が届かないのは、そういう憧れが出ているのかもしれない。物理的な距離じゃないんだ。
また、少なからずの違和感として由比ヶ浜の接近に警戒している八幡としては、彼なりの卑屈な思考から、「自分には手の届かない存在なんだろう」というような含み感じる、かもしれない。
触れられた場所が痛むのは、期待をしてはいけない、釣り合うわけがないって、理性がかけるブレーキに心が悲鳴をあげているのかもしれない。由比ヶ浜は素敵な女の子なんだ。
憧れと自虐のふたつが織り交ざった、けれど由比ヶ浜と八幡の切ない距離感が現れているかのようで、垂涎モノに美しいシーンでした。
・八幡の矛盾と弱さ
この部分はかなり広範囲になってしまうのですが、P.237とP.250ですね。
自分は犠牲になってるわけではないから同情も憐れみも必要ない。それなのに誰かがその役を担うのを目にすると、苦しくなる。悲しくなる。寂しくなる。
八幡は自分の中にある矛盾とついに直面し言及しました。
確実に八幡の世界が広がっているのを感じる。だからこそ、今まで見えてこなかった視点からものを考えるようにもなり、彼はまた苦しむ道を往く。
そして、八幡は奉仕部を守るために行動してもいい自分のための理由を探していた。誰かのためになんて彼にとって嘘っぱちな言葉じゃなく、なんとか自分を納得させるための理由が必要だった。
それをわかって小町がちゃんと理由を与えてあげるのがP.250であり、八幡のクソ捻デレっぷりが現れている。
結局のところ、八幡はもはや自分以外の誰かのことを気にしすぎて、これまで通りの彼の論理哲学を貫けなくなってきているんだな。
・失われていくもの
あまりに哀しく、空回りとすれ違いのもどかしさ、切なさが爆発する場面です。
その理由はなんだったのか。これがまだ8巻の段階では見えてこない。
だが現実に、雪ノ下が奉仕部という空間から遠ざかっていく予感だけが強く心にこびりついて、非常に後味がわるいラストを迎える。
読者にとって安心したいための聖域が崩れていこうとする。これに対する緊張感や精神的負荷は、どんどんと大きく重く冷たく存在感を増していきます。
八幡は奉仕部の活動として“偽り”を用いて課題をこなしてきたけれど
奉仕部の面々に“偽り”を持って接したことは、無かったはずだ、きっと。
だって奉仕部は本物でなければならなかった。薄っぺらな友情ごっこすら拒んで、もっと頑丈な、もっと純粋な本物を探していた。安い妥協が許されてはならない聖域だった。
けれど八幡は、守りたいがために奉仕部を“偽り”でつなぎとめた。
本物のつながりでなくてはいつかは瓦解することはわかっていたはずなのに。
つなぎとめる努力をしなければ続かない関係なんて、目指したものではなないのに。
それでもいま目の前に迫る瓦解の危機を回避するために、偽ってしまった。
信念を共にする、理想を求め合う、ふたりだった。
聡い彼女のことだ。証拠はなくとも察して、静かに傷ついたんだろうな。
だからこそ出てきたセリフがこれなんだろうな、と想像する。
わかるものだとばかり、思っていたのね……
近い理想を抱き合った。その事は直接確認せずとも通じ合った。だからこそ深い失望があったのではないだろうか。
どうしてそこまで近くにいながら、すれ違ってしまうのか。
それは八幡が葉山に対して抱いた感情と同じであり、まぁそういうことなのだろうなと思う。
奉仕部を守るための八幡の一手は、そのまま雪ノ下を傷つけ、奉仕部をさらに崩壊へと追いやった。
今を大切にしてしまいたかった八幡の心情は、責められるものではない。
だからこそ、本物を求め合った彼と彼女がすれ違い離れていくことは、悲しいけど、どうしようもないことのように思える。
けれどむしろ8巻で浮き彫りになったのは雪ノ下雪乃の潔癖さ。
潔癖といえば八幡だったが、今度は彼女の番。
正直に言えば読者としては、彼女の心理面は想像で補わなければならない部分が多く、情報の少なさから置いてきぼり感というか、…悪く捉えてしまうなら彼女の狭量さを見せつけられた思いすらある。
気むずかしい性格だよ。あっちもこっちもどいつもこいつも!
根本的には八幡と雪ノ下は似たもの同士で
読者からすればたっぷりの八幡モノローグでやっと彼の内面を少しずつ掴んでいく。
なら心のうちについてなんら語られていない雪ノ下の心の動きを完璧に把握することも難しいんだなぁ。
かつて雪ノ下は「世界を変える」とまで言った。
崩壊間近となった彼女と彼と彼女の3人の小さな世界は、ここからどう変わるのだろう。
大きなものを見据えすぎて大切なちっぽけなものを見逃す。そういう間違いだって、ありふれている。けれど間違いを間違いと思わない間違いだってあるのかもしれない。正しさを盾に苦しみを押し殺し、寂しさを噛み殺して。
・小町 is エンジェル
天使です。
そんなこんなで「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想でした。
ほぼポイントつまんでの箇条書き形式というか、まとまりがなくなってしまったのが残念ではあります。でもやっぱり、この巻はうまく咀嚼できません。
もうすぐ!もうすぐ9巻が出てしまう!ハァ!はやく読みたい!!ってことで以上!
さっさと9巻読んでまた悶ます。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫) (2013/11/19) 渡 航 商品詳細を見る |
わかるものだとばかり、思っていたのね……
かなり、かなり遅れましたが「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想です。
6巻で一時的な団円を迎えたのち、今や奉仕部の面々の人間系はけっこう……いやだいぶこじれております。
人生における取り返しのつかない過ち、失敗。
もしかしたらその瞬間がいまなのかもしれない。そんな恐怖感も漂う内容。
いやはや、1巻のころとはまるで違う雰囲気になってきました。
作品らしさが深まり、ハマる人は一層ドツボにハマり、反動で拒絶せざるをえない人も出てくるでしょう(拒絶する人はこの8巻に至るまでのどこかですでに断念してるかもしれませんが)
正直、感想の冒頭でこんなことを言うのもあれですが、スッキリしない巻でした。(あれっ、7巻と同じこと書いてる!!
つなぎの巻だということを踏まえても、人間関係の軋みと揺らぎ……読んでいて非常に不安にさせられる。
しかしきっと主人公らが乗り越えてくれる、乗り越えるべき壁であると祈って、希望を託すように読み進めました。
いやぁツラい。どれだけ間違えたら間違えずに済むのか。
ときたま昔を思いだしては勝手に刺激されて傷ついたりしているわけで、いつもいつもこの作品には刺激を貰っているのよな。とかいう自分語りはさておきちゃっちゃと感想本編に参りましょう。適度に自意識が揺さぶられる。
以下は過去の感想一覧。
優しい女の子は嫌いだ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』2巻
甘い青春には慣れない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』3巻
かつて「彼ら」だったぼくらが出来ること 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』4巻
憧れだった君を許せない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』5巻
独りの英雄は、ステージの輝きを浴びられない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6巻
それでも彼らは当たり前の嘘をつく。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』7巻
そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻
奉仕部の人間関係。まずい感じになっています。
7巻で八幡がとった「嘘告白」という手段に、雪ノ下と由比ヶ浜が反発。
消化不良感を残したまま奉仕部は、力をあわせなくては難しい、難題といえる依頼を受けます。
けれど奉仕部の3人は、それぞれ別の方法をとり行動を開始。
きっと大切に思い合っている。それなのにうまくいかない。何がだめかも分からないまま間違え続けていく。
ここからは順番に気になったポイントを取り上げていこう。
ネタバレ注意で。
・雪ノ下とのすれ違いが加速する
雪ノ下とのすれ違いは、8巻の特に注目すべき点であり、これは下の方で考えまとめようと思っています。「そんなうわべだけのものに意味なんてないと言ったのはあなただったはずよ…」
~
それはきっと比企谷八幡と雪ノ下雪乃がただひとつ共有していた信念だったから(P.134)
ただ、この場面で注意すべきは、7巻のラストで雪ノ下が憤った理由の断片が見えたことでしょうか。
つまりあの時、恋愛感情だのよりも、比企谷八幡という人間を支えるポリシーが揺らいでいたことを彼女は咎めていたんだ。
そしてこの言葉に八幡は反論できない。
視線をあわせることもできず、ただ言葉を受け止めることしかできずにいた。
彼自身、自分の変化を知りつつも行動している。
・葉山くんエンドが見えつつある…?
ヒロインとの関係が悪化するなか、グングンと存在感を増すヤツがひとり。
葉山隼人、その人である。
というかもうこいつがヒロインとして八幡と結ばれた方が話が早いんじゃねーかなとか思ってしまうまである。
今回葉山のアクションが大きかったこともあり、物語に介入し、新たな一面を見せてくれる場面も多かった。はやはちが捗るな。
「あれで結構プライド高いから(P.144)」と、陽乃さんはそう葉山を評価している。ただ八幡もだが自分もそういった要素が葉山にはあまり見当たらない。葉山のプライドとは一体なんだろう。
話は変わって、葉山の想い人。
八幡と葉山がコイバナ……すごいよな…距離縮まりまくりだわ…。
八幡が中学時代に告白し、さんざんな目に会い、トラウマを産んだ少女・折本。「……だいたい昔そうだったからって今もそうとは限らないだろ」
「……そうだな」
~
「結局、本当に人を好きになったことがないんだろうな」
「…君も、俺も」(P.183-184)
彼女の登場でまた話はこじれたわけですが、レアな話を聞けました。
葉山の想い人のイニシャルはY。これは4巻で明らかになっていたことですが、それも踏まえると考察しがいがあるやりとりです。
自分としては、陽乃さんだと思っているんですけどね。雪乃かもしれないけど。
しかしここで気になるのは、どちらにせよ、幸せな恋をしてはいないなということ。終わってしまったか、あるいはうまく始めることができないのか…。いいよねイケメンが不憫な片思いしちゃうってのはさ…。
ともかく雪ノ下姉妹との関係も深いわけで、今後もし雪ノ下家の内部事情にまで話が及ぶようだったら、展開の足がかりになりそうなキャラクターである。
・葉山が八幡をかばったのは
折本らに直接、葉山は怒りを見せた。それは八幡をかばうため、八幡の価値を訴えるためだった。
葉山くんが八幡を好きすぎる問題。
「俺はただできることをやろうと思っただけだよ」
葉山のこの言葉は、おなじ言葉を吐きながら行動してきた八幡に向けたものだったのかもしれない。これまで葉山は自分が問題解決を直接できる立場ではないことや、7巻では八幡を追い詰めてしまったことを悔やんでいたように見える。
そしてここにきてこの言葉である。八幡をおもう葉山の気持ちは相当なもんやで♂
P.200以降、葉山と八幡の口論が書かれている。
ここのやりとりは葉山との関係のみならず、雪ノ下へのあこがれもまた強く現れた内容だったので何度も読み返したい重要場面。
・雪ノ下へのあこがれと「自己犠牲」
そしてその口論シーンについて。
「誰かを救おうとするのは、誰かに救われたいという願望の現れではないのか?」
そう投げかけた葉山に静かに激怒した八幡。その中で見逃せない、彼のこだわりが表現されているのがこの一幕。
自分の正しいより、雪ノ下の正しさを信じているんだ。もし仮に、比企谷八幡はそうであったとしても。
それ以外の人間もそうであるとは言わせてはならない。
そんな紛い物みたいな感情で、俺も、彼女も今までやってきたわけじゃない。(P.202)
それほどまでに強く憧れ、もはや信仰とも言えるくらいに達しているのに、理解にまで達せない。一方的な憧れなんてただの押し付けにすぎないのは本人も述べているが、ほんとそれ。
作中、「自己犠牲」と言うなと八幡は言っていました。
この部分は、かなり突き刺さりましたね。
これまでの感想の中で自分も幾度と無く彼の行為を「自己犠牲」と表現していたので、これは反省するしかなかった。そうか、そうだよな。
「誰が貴様らのためなんかに犠牲になってやるものか(P.204)」はその怒りが爆発していて、とても格好いい。
でもあえて自己犠牲という言葉を使っていく。
八幡は自己犠牲で誰かを救ってきたわけですが、今回はだれかの自己犠牲によって守られたり庇われる立場となるシーンが多かった。
雪ノ下、由比ヶ浜、そして葉山に。
本人が絞りだすように選択した一手を「自己犠牲」と呼んで憐れむべきではないにしろ、それを見て痛ましく思う人が居るならば、あえて勇気をだして「なにやってんだ馬鹿野郎」という意味を込めて「犠牲」という言葉を使いたい。
・陽乃さんコワイ
ひさびさに背筋がゾクゾクする一言、いただきました。
「比企谷くんは何でもわかっちゃうんだねえ(P.196)」
理解をにじませた八幡を拒絶するがごとく上からかぶせた、かなり悪意アリアリなセリフ。こういう所でそこしれなさを恐ろしく提示してくるこの女は、やはりコワイわな。
「悪意に怯えているみたいで可愛いもの」というセリフも、八幡を言い表しているのかもしれない。誰かに傷つけられる前に自らすすんで傷つく。そうすれば不安にならない。怯えなくて済む。
「理性の化け物」と、八幡を呼んだ陽乃さん。
もしかしたら家族である小町に並ぶくらい、八幡を深く見つめている、あるいは見透かしているのは彼女かもしれない。
・かつての八幡の恋
折本というキャラクターが登場し、八幡が揺さぶられたのと同時、前に進めたのも面白い。特にこの一文はかなりしびれた。
「始まってもいなかったものを、今になってちゃんと終わらせることができた気がした」
勘違いして、空回りして、思い込んで、恥をかいた。なんてことない。好かれているんじゃないか?という錯覚に酔って作った、一生ものの傷跡。
けれどちょっとは癒えたんじゃないかな。小さな自己満足にすぎないけれど、大切なことだった。
・部室の鍵
ささいなシーンですが、泣きそうになった。216Pの部分ですね。
八幡が奉仕部を訪れなくなってしまっても、彼女はずっと部室にいた。
それは由比ヶ浜との時間があったからという理由がまずありますが、それでも
あの部室での時間を彼女は守ろうとしていたのだと、そう思えて、泣けた。
これがあるからこそ、8巻ラストで失われていくものが、あまりにも痛い。
・手の届かない、彼方の人
これもこれも小さなワンシーンですが示唆に飛んでいたのでお気に入り。
由比ヶ浜と一緒に帰った後の場面。“俺の手の届かない場所で”の部分にキュンと来ますわ。斜陽の中、俺の手の届かない場所で微笑む由比ヶ浜を見送ると、さっき触れられた場所が締め付けられるように傷んだ。(P.235)
雪ノ下のために、「自分も立候補する」という形で参入してきた由比ヶ浜。そういった彼女の心の強さ、純粋に友達思いで自分を投げ打てる覚悟など、そういった部分は八幡には無い部分。だって裏方だものね。
けれど実際に行動に映せる由比ヶ浜は眩しい。
手が届かないのは、そういう憧れが出ているのかもしれない。物理的な距離じゃないんだ。
また、少なからずの違和感として由比ヶ浜の接近に警戒している八幡としては、彼なりの卑屈な思考から、「自分には手の届かない存在なんだろう」というような含み感じる、かもしれない。
触れられた場所が痛むのは、期待をしてはいけない、釣り合うわけがないって、理性がかけるブレーキに心が悲鳴をあげているのかもしれない。由比ヶ浜は素敵な女の子なんだ。
憧れと自虐のふたつが織り交ざった、けれど由比ヶ浜と八幡の切ない距離感が現れているかのようで、垂涎モノに美しいシーンでした。
・八幡の矛盾と弱さ
この部分はかなり広範囲になってしまうのですが、P.237とP.250ですね。
自分は犠牲になってるわけではないから同情も憐れみも必要ない。それなのに誰かがその役を担うのを目にすると、苦しくなる。悲しくなる。寂しくなる。
八幡は自分の中にある矛盾とついに直面し言及しました。
確実に八幡の世界が広がっているのを感じる。だからこそ、今まで見えてこなかった視点からものを考えるようにもなり、彼はまた苦しむ道を往く。
そして、八幡は奉仕部を守るために行動してもいい自分のための理由を探していた。誰かのためになんて彼にとって嘘っぱちな言葉じゃなく、なんとか自分を納得させるための理由が必要だった。
それをわかって小町がちゃんと理由を与えてあげるのがP.250であり、八幡のクソ捻デレっぷりが現れている。
結局のところ、八幡はもはや自分以外の誰かのことを気にしすぎて、これまで通りの彼の論理哲学を貫けなくなってきているんだな。
・失われていくもの
雪ノ下が冷たいまま凍えたまま透明のまま、鋭く傷ついていく。「わかるものだとばかり、思っていたのね……」(P.332)
あまりに哀しく、空回りとすれ違いのもどかしさ、切なさが爆発する場面です。
その理由はなんだったのか。これがまだ8巻の段階では見えてこない。
だが現実に、雪ノ下が奉仕部という空間から遠ざかっていく予感だけが強く心にこびりついて、非常に後味がわるいラストを迎える。
読者にとって安心したいための聖域が崩れていこうとする。これに対する緊張感や精神的負荷は、どんどんと大きく重く冷たく存在感を増していきます。
八幡は奉仕部の活動として“偽り”を用いて課題をこなしてきたけれど
奉仕部の面々に“偽り”を持って接したことは、無かったはずだ、きっと。
だって奉仕部は本物でなければならなかった。薄っぺらな友情ごっこすら拒んで、もっと頑丈な、もっと純粋な本物を探していた。安い妥協が許されてはならない聖域だった。
けれど八幡は、守りたいがために奉仕部を“偽り”でつなぎとめた。
本物のつながりでなくてはいつかは瓦解することはわかっていたはずなのに。
つなぎとめる努力をしなければ続かない関係なんて、目指したものではなないのに。
それでもいま目の前に迫る瓦解の危機を回避するために、偽ってしまった。
信念を共にする、理想を求め合う、ふたりだった。
聡い彼女のことだ。証拠はなくとも察して、静かに傷ついたんだろうな。
だからこそ出てきたセリフがこれなんだろうな、と想像する。
わかるものだとばかり、思っていたのね……
近い理想を抱き合った。その事は直接確認せずとも通じ合った。だからこそ深い失望があったのではないだろうか。
どうしてそこまで近くにいながら、すれ違ってしまうのか。
それは八幡が葉山に対して抱いた感情と同じであり、まぁそういうことなのだろうなと思う。
奉仕部を守るための八幡の一手は、そのまま雪ノ下を傷つけ、奉仕部をさらに崩壊へと追いやった。
今を大切にしてしまいたかった八幡の心情は、責められるものではない。
だからこそ、本物を求め合った彼と彼女がすれ違い離れていくことは、悲しいけど、どうしようもないことのように思える。
けれどむしろ8巻で浮き彫りになったのは雪ノ下雪乃の潔癖さ。
潔癖といえば八幡だったが、今度は彼女の番。
正直に言えば読者としては、彼女の心理面は想像で補わなければならない部分が多く、情報の少なさから置いてきぼり感というか、…悪く捉えてしまうなら彼女の狭量さを見せつけられた思いすらある。
気むずかしい性格だよ。あっちもこっちもどいつもこいつも!
根本的には八幡と雪ノ下は似たもの同士で
読者からすればたっぷりの八幡モノローグでやっと彼の内面を少しずつ掴んでいく。
なら心のうちについてなんら語られていない雪ノ下の心の動きを完璧に把握することも難しいんだなぁ。
かつて雪ノ下は「世界を変える」とまで言った。
崩壊間近となった彼女と彼と彼女の3人の小さな世界は、ここからどう変わるのだろう。
大きなものを見据えすぎて大切なちっぽけなものを見逃す。そういう間違いだって、ありふれている。けれど間違いを間違いと思わない間違いだってあるのかもしれない。正しさを盾に苦しみを押し殺し、寂しさを噛み殺して。
・小町 is エンジェル
天使です。
そんなこんなで「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」8巻感想でした。
ほぼポイントつまんでの箇条書き形式というか、まとまりがなくなってしまったのが残念ではあります。でもやっぱり、この巻はうまく咀嚼できません。
もうすぐ!もうすぐ9巻が出てしまう!ハァ!はやく読みたい!!ってことで以上!
さっさと9巻読んでまた悶ます。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。9 (ガガガ文庫 わ 3-14) (2014/04/18) 渡 航 商品詳細を見る |
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