[漫画]甘く痺れて逃げられない、貴女から。『沼、暗闇、夜の森』
沼、暗闇、夜の森 (百合姫コミックス) (2013/01/18) さかもと 麻乃 商品詳細を見る |
今、この瞬間、私はこの少女に失恋したのだ
さかもの麻乃先生の百合漫画新刊「沼、暗闇、夜の森」の感想です。
百合姫にて掲載された短編4つと、描き下ろしを多数収録した一冊。
タイトルがすごいですよね。もう一度。「沼、暗闇、夜の森」。これだけでもう心惹かれてしまいますよ!同じようにグッと来る人は、きっとこの本の雰囲気はお気に召すでしょう。
どこか痛みを伴う恋。甘く痺れるような毒が、この本にはギュッと詰まっているのです。
女の子の可愛らしさと、しなやかさと、そして闇。
あと、この本はオビが付いている状態がマジでカッコいいです。書影だとオビなしなので、画像で載せておこう。この黒とコピーがバチッとハマってます。
では内容の話へ。
前作「パイをあげましょ、あなたにパイをね」もお気に入りの一冊でしたが
今回の「沼、暗闇、夜の森」はさらに鋭利に心に入り込んでは傷つけてくるような感覚を味わいました。切ない作品ばかりではなくもちろんハッピーな作品もあります。
しかし、自分の心を震わせてくれた作品ばかりです。これはいい作品集だ・・・!
以下、個別に感想。若干ネタバレを含んでしまっているので注意で。
●魔少女
教師と生徒の百合。トップバッターにして辛口。この本でも1番好きかもしれない漫画です。最初のモノローグからして俺の良作センサーがビンビンになりました。
「今、この瞬間、私はこの少女に失恋したのだ―――」
常識人の先生と、不良の女の子マホ。事あるごとに問題を起こすマホに苛立ちを覚えるも、その奔放な美しさに心惹かれてしまう先生。
好きな花は、愛情を持って育ててあげたい。でも、ありのままの自然の姿だって尊い。上手い愛し方ってどういうものだろう?
バラのトゲをめぐる、恋と愛情のお話。「恋と愛情は別物なのではないか」という想いを込めた内容にしたと作者が語るとおり、切ないすれ違いが胸にザックリ突き刺さる作品です。
これはもうラストが好きすぎるので、ネタバレ前提のお話をしてしまいます。
バラのトゲを抜いてはいけなかったのだ。そう諭したのは、ほかならぬ先生だった。けれどいつしか、先生はマホのトゲを抜いてしまった。そしてありのままの姿を失った先生は、
うまく愛してやることはできた。でも彼女は、うまく恋をし続けることが出来なかったのだ。愛を与えようとするのは、きっと恋じゃなかった。少なくとも彼女達の関係においては、先生が望む恋愛から遠ざけてしまう悪手だった。
この作品、すごく皮肉が効いているのに、間違いなく幸福です。間違いなく幸福なのに、凄まじいもどかしさと切なさを残していくんですよ。この矛盾を抱えたままのストーリーにとにかく魅せられる。
愛してしまったからこそ、「私が愛した貴女」が消えていく。だから私の恋も、いつしか溶けてなくなってしまったのだ、と。
ハッピーエンドなのに悲恋の香りを強く残す、不思議な作品です。
こういう世界もあるのか、と新鮮な気持ちで読むことができました。
マホの変わりようは、読者として見ればなかなか魅力的なんですよ。
でも確かに、中盤までとラストでは、マホの目つきが全然ちがう。
あの、闇にいざなうような、怪しい光をたたえた瞳ではなくなった。
愛を与えられ満ち足りた、明るい輝きを放つ瞳になっている。
よく人は恋で変わるとかなんとかいうけれど、変化の肯定的な面ばかりを見ていた自分だからこそ、この作品でクラクラしたのかな。その衝撃も込めて、大好きな作品。
●ショートヘアの似合う女
「魔少女」も大好きですがこれも大好き。というかこの単行本は全部好き。
「ショートヘアの似合う女」もまた、心にチクッとした痛みを与えてくれる作品。でもどこか晴れやかな読後感だ。
北欧に旅行にきた女性たちが、昔を思い出したかたちで語られるストーリー。もう終わってしまった恋。叶わなかった恋。それでも忘れられず今だって綺麗にとっておいた想い。それらが冷たい北欧の世界でノスタルジックに回想され、そして改めて1つの答えが出される。
お互いの少女時代の恋との決別がされるクライマックスは、気持ちのいいものではあるけれど、やっぱり切ない。
昔を懐かしんだり悔やんだり、そういう情けない感傷的な部分は自分にも多分にあります。で、改めて考えるに、これはこれで幸せなものかもしれない。
「あの頃、私のこと、どう思ってた?」とそんな風にあとから確かめる機会も滅多にないでしょう。その上で尋ねる勇気も相当いる。
でもこの漫画では、報われない形であったけれど、それが叶えられたわけです。
思い出は思い出のままで美しいけれど、でももっと欲張りになってしまえば、もしかしたらこの漫画みたいに、甘酸っぱくて気持ちのいい世界を味わえるのかな。
「私、あの時、加奈のこと好きだったんだ」
「実は、そうなんじゃないかなって思ってました、薄々と・・・」
「あはは」
この会話の空気が愛らしさ!
切なさも可愛らしさも交ざってニヤニヤするしかない。
●世界の終わりとケイコとフーコ
嫉妬と独占欲。女の子の後ろめたい感情がこれはこれで可愛らしいお話。
恋愛漫画ではあるけど感覚的には強固な友情関係という印象。でも恋愛か友情か、なんて分けて考えるのも百合漫画じゃバカらしいので良しとする。想い合えばそれが2人のオリジナルな関係です。
途中、ケイコがあまりフーコのことを見ていないって描かれていたけれど
ケイコがフーコのことを好きじゃないっていうんじゃなく、単にケイコがそういう人なんだよねっていう話。でもフーコとしては、もっと自分をもっと見て欲しい。もっと自分をわかってほしい。そういうすれ違いでちょっとストレスためちゃう場面すら、「かわいいなこいつら!」としか思えないのである!
「世界の終わり」なんて突拍子も途方もない想像をして、結局は相手しか見えていないという時点で、もう、ね!
●沼、暗闇、夜の森
表題作はトリッキーな演出が見応えのある意欲作。これまでにない仕上がり。
冷たく暗い水の中をたゆたうような、妙な気持ちよさと気持ちわるさが同居した不思議な雰囲気。最初はクエスチョンが浮かぶタイトルも、読んでみれば納得。
幽霊が見える女の子・キコが主人公。彼女は現実のクラスメイトたちと全然話せないし、教室で幽霊としゃべりこんで気味悪がられているような女の子。死人としかうまく話せないキコですが、憧れの女の子がいるのです。それが磯谷さん。さて、
死人としか話せないキコの、歪んだ想いが見事に表現されていたのがこのモノローグ。
「磯谷さん 死ねばいいのに そうすればうまく話せるのに」
強烈!これはすごいと思いましたね。仲良くなるために、憧れの少女の死すら願ってしまう。なんという理不尽で凶暴な欲望だろう。ゾクゾク!
しかしゾクゾクするのはそこからの展開ですよ!何を信じればいいのかわからない、想像の余地をたっぷりと残したラストです。面白いな。
個人的な解釈を書いておくと、ラストシーンの磯谷さんの登場シーンに違和感がありますよね。クラスの人気者であるはずの彼女が入ってきても、クラスメイトたちは挨拶をする素振りすらない。ということは、彼女は幽霊で、キコだけが見えている状態?でも、この漫画のどこからが「キコの世界」だったのかで見え方が違ってくるか。現実と夢の境界が見えないからこそ、何度も読んではいろいろ考えを巡らせてしまいますね。
怪しくドリーミーな仕上がり。女の子の、血なまぐさい欲望。ドキドキしっぱなし。
これからは単行本描き下ろし漫画の話。
●スワコさんとデート
前作「パイをあげましょ、あなたにパイをね」で登場したインパクト大のキャラクター、スワコさんの番外編。
印象的な女性だったので記憶に強く残っていました。また会えて嬉しいです。
奔放で自由な愛を持った人だからこその寂しさ。寄り添う主人公も、その寂しさを紛らわせることはできないんだろう。スワコさんがスワコさんであるのに必要なものなのだ、この言いようのない寂しさは。ハッピーな漫画ではないけれど、でもこの2人はなんだかんだで上手くやっていけるんじゃないかな、という余韻が残る。
●下着通り
バカ漫画その1。「ここから先は下着姿じゃないと通り抜けできません」というとおりにやってきた百合カップル。しかしこまった、ブラを忘れた!ということで以下に胸を隠しつつ通ろうか、と悩むお話。なぜか途中で、いかにして自分たちのラブラブっぷりを見せつけて歩くか、という話に変わっていくw
「抱き合っていれば胸も隠せすしイチャイチャできるぞ!」ソウデスネ!
アイデア勝負という風の勢いある漫画ですねー。バカみたいだけど可愛い!いい意味で頭が悪くて、本編で負った傷がちょっと癒えたように感じる。
●ケンカ
バカ漫画その2。百合カップルがチンコらしきものを投げ合いぶつけ合い、はげしくケンカをするという異次元すぎる展開がヤバい・・・!最初意味がわからなかった。
最後は二人が仲直りして、一緒にチンコをバキッとへし折るという・・・。
ディルドでしょうけど、まんまチンコとしても全然違和感ないですからね。
痛快だなぁ!チンコなんていらねーよ!というメッセージだろうかw
これも一発ネタっぽいんだけど、だからこそ瞬間風速が凄まじい!
これも頭ワルいですなー。本編でしっとりと読者を甘い毒に浸しておいて、単行本のラストがコレである。もう笑うしかない!
そんな作品集。
百合姫掲載の作品郡のクオリティは高く、ツボるの人はとことんツボるであろう、じめっとした作風。暗いばかりでもなく、でも甘いばかりでもない。女の子の様々な秘めた想いたちを明かしていく。
その刹那な感情たちは、自分にとってはなかなか飲み込み難く、心の中で暴れまわる。完璧な理解ができないからこそ、ここまで胸に残るのでしょうかね。百合って、こういう不思議な感触が楽しいです。柔らかいのに優しくない、この独特の味わい。
お洒落で、カッコよくてかわいくて、傷つきやすくて強い女の子たちの、いろんな表情。繊細さの中にしたたかさを備えた、やみつきになる作品集です。
『沼、暗闇、夜の森』 ・・・・・・・・・★★★★
心を澄ませて、歪で美しい恋愛を味わいたい一冊。けっこう、辛口かも。
[漫画]荒々しく優しくこそばゆい、夢と浪曼の世界!『100-HANDRED- 高畠エナガ短編集2』
100─HANDRED─ 高畠エナガ短編集 2 (高畠エナガ短編集) (2012/12/25) 高畠 エナガ 商品詳細を見る |
あたしが教えてあげる 勉強だけじゃない 人生の面白さ
やったーい、高畠エナガ先生のコミックス第二弾だよー!
amazonだと発売が25日になってますけどもう出てます。
2012年に読んだ新人さんの初コミックスの中でもイチオシしたいのが「Latin」。高畠エナガ先生の短編集第一弾です。
そして年内に二冊目のコミックスまで出ました。これは嬉しいです。
そして単行本オビが1巻と同じ感じでやったらめったらに熱い。目立ちますな。オビでこれだけ書かれる作家さんだというのは確かに頷けます。
表紙は1巻同様、収録作のメインキャラ勢ぞろいで賑やかです。それでは感想へ。
第一弾の感想→世界が広がる。やさしくなれる。『Latin 高畠エナガ短編集 1』
「今回も趣味爆発させているなぁ」というのが大雑把な感想。
それでいい。この趣味に、センスに惹かれたのだから。それを堪能できるすなわちいい本だ!
今回は全4話からなる中編「100-HAND RED-」が目玉。
ほかに短編が3作収録されています。
ザックリ印象を順にかくと、カッコいい・優しい・恥ずかしい×2の構成か。
個別感想。
●「100-HANDRED-」
ハンドレッド=手・赤。英語習いたてに思い浮かぶようなかわいらしいシャレ。迫り来る的はコテコテのゴッツい武装アンドロイド。油臭さが漂ってきそうだ。
そんな一見ダサそうなガジェットやらネタやらを「あれ・・・意外と・・・カッコよくね?」と見直させるパワーがありますよね、この作品。そう、グレンラガンの星型サングラスシモンみたいな(関係ない
荒々しいタッチと相まって、ザラついた世界観が出来上がっています。
舞台は砂漠だらけになった未来に地球。アンドロイドが大半、人間は少数となった世界で、少年はとある少女型アンドロイドと出会います。
それが街をゆるがす大騒動へと発展していく、スケールのデカイお話。
アンドロイドと人間のドラマ。エナガさんはこのテーマ好きですよねw
「Latin」ほど恋愛によっておらず、人間とアンドロイドの「家族」に触れています。
しかも今作はバトル漫画でもあり、アンドロイド少女たちもボロボロになりながら、壊れながら戦う。迫る無数のライバルを蹴散らしていく、ムチャクチャなロボアクション!
この作家さんのロボット趣味がみごとに開放されている印象。
ファンタジーらしいデタラメ感がゴチャッと散らばっていて、それが楽しい。
ストーリーの筋はなかなかに王道少年漫画の香り。マイナー要素はあってもストレートに気持ちのいい展開を描いてくれます。
この短編集の中では一番力強い作品です。バトルの迫力もありますし。
それだけにキャラクターの表情という、この作家さんの大きな魅力も発揮されています。涙をこぼすとき。敵と合間見えるとき。悔しがるとき。笑うとき。不敵な態度のとき。それぞれがキラキラとかがやく。キャラクターがいきいきしている。力いっぱいいきている感じで、やはり好きだ。
アンドロイドとはいっても心は人間と変わらない。機械的なのは身体だけなんですよね。それは「Latin」でもそうだったんですが、夢が込められた設定に感じます。人間くさくて好きだ。
●Bonus gamer coming out!
短編。ハンドレッドとは打って変わっての現代青春劇。ファンタジー要素付き。
少年と少女のまぶしい交流がなんとも瑞々しい、お気に入りの作品です。
頭の固い秀才の主人公が、勉強で勝てない少女を目の敵にするストーリー。
ファンタジー要素はあれど本筋には関係なく。ただ「今を楽しまなきゃもったいないよ」というまさに青春は爆走しろマインドあふれる開放感がいいですな。
ヒロインのむっちり体型もいいですね。健康的で。なんにも気にしてない大らかさを感じます。会話の中でも余裕を見せている子です。なんていったってボーナスゲームやってるしな。
クライマックスでいきなり水着になったのは笑いましたが、バカだなぁこいつら感がとてもかわいい。客観的にみたらおかしなことでも、必死な当人は気づけない。余裕のない主人公と余裕たっぷりヒロイン。いいなぁこういうの。最後のオチも素敵。夏の青が心にやきつく、優しいお話でした。心がくすぐったいぞ!
●女装兄弟
オチに命にかけてる、スピード感たっぷりの短編。
勢いがあるなかにしんみりとした要素を忍ばせる作家さんですが、この「女装兄弟」に憂いはありません。ただただ勢いのみで突っ走る!
初の女装で初の女性下着。こういう表情も力いっぱいかわいく破壊力高い・・・!
こういうバカっぽい一発ネタも面白いですね。結構好きw
●冴島さん
再び一発ネタ。というか単行本オマケの5ページ漫画。
映画見ながらポップコーンをたべる、かすかな物音を立てることにすら居心地の悪さを感じる超小心者・冴島さん。
そんな彼女がうっかりはしゃいでしまうというお話。「イエ――――!!!フ――――!!」のムリヤリ感は思わずニヤッとしましまいますよ!
あと前作「Latin」表題作のペアがひょっこり登場。しかも単行本最終ページのオチまで持っていきます。愛されてるなー!
そんな短編集。「濃い」一冊になっています。
一冊の中で似通ったものがない。しかしそれぞれに違った勢いがあって、サッと読み終わるのにあとをひく読後感。そしてまたもう一度本を開いてしまう。
整理整頓のされていない、ゴチャッとした雰囲気。それが原石としての魅力を放っているように思います。もちろんスッキリまとまった作品でも完成度の高いものを発表しています。
今回で複数回にまたがる中編を描きました。
今度は「人魚の花籠」という長編連載をはじめるようです。
2冊の短編集で様々な世界を魅せてくれた作家さんだけに、長編でどのようなストーリーを紡いでくれるかはとても楽しみ。その連載が始まるSD&GOの表紙がとても可愛いので、手が伸びてしまいそうです。
『100-HANDRED- 高畠エナガ短編集2』・・・・・・・・・★★★★
ファンタジーバトル。青春。男の娘ギャグといろいろ読める一冊。相変わらずいい表情を描いてくれます。人物の生命力をつよく感じる。
[漫画]キミの全部をノゾキミしたい!『ノゾ×キミ』1巻
ノゾ×キミ 1 (少年サンデーコミックス) (2012/09/28) 本名 ワコウ 商品詳細を見る |
二人だけの秘密の約束ね
本名ワコウさんの「ノゾ×キミ」1巻の感想。
この作家さんは大人向けの作品「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」も連載していますが、その少年漫画バージョンと言えるのがこちらの「ノゾ×キミ」。スピンアウト新シリーズらしいです。
「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」の方が遠慮なしにヤリまくっているんで、過激さは本家に敵わないのは当然。しかしこちらは、少年漫画なりのトキメキに溢れています。
テーマやシチュが似ているだけで、2作品間にリンク箇所はありません。(今のところ)
本家を未読だという人もすんなり入れる、マニアック・シチュエーション・ラブコメ。
高校で同じクラスのノゾミとキミオ。(このネーミングは素直すぎる!)
コの字構造のマンションの向かい側同士である2人は、ひょんなことから「自分の見せ合いっこ」をはじめることになってしまいます。
ありのままを見せる・・・なんてプライバシーの無いムチャクチャな契約。イラつき戸惑うもドキドキがとまらないキミオくん。
そこに他のクラスメートたちが関係し始め、ストーリーが動き出します。
まず最初の感想。
なんつーか、この作家さんはトコトンこういう設定が好きなんだな!
ノゾキだとか自分見せあいだとかのシチュの見せ方は本名先生が慣れているのか、純粋に自分の性癖丸出しなのか、ともかくドキドキさせてくれます。リビドーがある。
異常なことをやっている男女。強制的にでも秘密を明かしあう間柄。
とはいえまだやってることは「ヒロインの着替えを覗く」「むしろヒロインが着替えを見せ付けてくる」あたり。ラブコメ的には正解。でもまだ主人公が一方的にそれを見ているだけなのが少々残念で、まだまだこの先の展開を期待させてほしい感じ。
本家はそこらへん「覗き穴」がキーワードとなって複雑にキャラクターが絡み合って楽しかった。
本作もそれができる土台は出来上がってるので、面白くなる予感はあります。
・・・でもこれ、マンションの向かい同士で部屋のカーテンあけて見せ合いっこしてるだけで
これじゃまったく無関係の第三者に2人がやってること見えちゃうんじゃん!ってことを突っ込みたいw ストーリーが長く続いていったらここが落とし穴になって一波乱あるんじゃないだろうか。
あとヒロインのタイプも本家と似ている。
何を考えているか読めない、時々誘惑してくる小悪魔タイプの、前髪パッツンな!
うーかわいい。イタズラっぽい仕草が似合ってますな。
キャラクターとしては「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」のヒロイン・えみるにかなり近い。
でも個人的には今回のノゾミちゃんの方が好きかもなー。えみるもいいんだけど。本家ノゾキアナはいえみるより個人的にはとおしい女性キャラがかわいそうな展開になってしまって落ち込んでいます・・。まどかちゃん超かわいかった・・・。
というか本家は内容が内容で、しかも後半の展開はけっこう心にキまして、キャラクターに人間的生臭さが強くなりすぎた感があります。えみるに関して特に。それは同時に魅力でもありますが、こちらは少年漫画なので、やっぱりどこまで行っても爽やかなムード。
シチュエーション的にいやらしさはありますが、カラッと健康的というか。
しかしわざとらしく下着を見せ付けてくるのは、小悪魔というよりむしろ痴女だった(鈴木健也さんの作品より)。小悪魔と痴女はニアイコール・・・?いやそうでもないか。
他キャラの話。
個人的にチアガールの腹黒少女、園田ミチルちゃんはツボでしたね!
こういうキャラが恋したとたんに乙女全開なチョロさを見せ付けてくれればバンザイ。
あと巨乳がゆえの視線恐怖症な女の子、牧野さんの変化もきもちいいものでした。
これからどういう進行をしていくのかな。キャラクターの悩みを聴いて解決させてあげる流れかな。
ではまとめのようなものでも。
「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」のスピンオフとしてスタートした本作。シチュエーションなど似通った部分は多いのですが、ちょっと違った面白さやドキドキがあると思います。
大事なのは少年漫画ならではのトキメキ。そこを分かっている作品だなーと。
というかこれは常々思うんですが、ただただエロいのが読みたきゃ成年漫画を買うし。でもいまだに少年漫画のお色気ラブコメを好きなのは、この甘酸っぱくも熱い興奮は、少年漫画だからこそのエネルギーがかなり影響していると思うからです。
少年漫画のエロだからこそいい。・・・もちろん大人向けのがっつりエロいのも大好きですけど、ちょっと方向性が違うという話!
もともとこの作家さんの絵のタッチって結構サッパリ目だと思います。本家「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」ではあまり無かった爽やかさがやや新鮮に感じもしました。
「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」がのこり1冊で完結とのことで、こちらは以下続刊予定。
スピンオフとして誕生した作品ですが、とっつきやすいですし本家にない味わいもある。
これはこれで成長していって欲しい作品だと思います。
『ノゾ×キミ』1巻 ・・・・・・・・・・・★★★☆
お互いに覗き合おうというラブコメ。人間に深いところを見つめていく今後の流れに期待。
[漫画]並んで密かに花咲く。『二輪乃花』
二輪乃花 (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) (2012/09/12) 宇河 弘樹 商品詳細を見る |
私の子供にはエリちゃんが欲しいわ。ねぇ、それじゃ駄目?
宇河弘樹先生の百合漫画単行本が発売されました。「二輪乃花」。
今まで単行本としてリリースされたものに百合漫画はないので、初の百合コミックス。
つぼみで掲載された2つの作品をまるっと収録しています。短編もひとつ。
宇河弘樹先生らしい、乾きながらも儚げでどこか瑞々しい空気が満ちています。
今や寡作な宇河先生ですが、それだけにたっぷりと情熱のこもった1冊じゃないかなと。
●コブリアワセ
戦後すぐの田舎の町を舞台にした作品。
タイトルの「こぶりあわせ」とは、死亡した夫や妻のかわりに、その弟や妹が婿入り・嫁入りをすることだそうです。「朝霧の巫女」でも見られる民俗学的要素もこの作品にはあります。
戦争で母をなくした女の子エリ。
コブリアワセで母のかわりに家にやってきたのは、主人公と同い年の女の子、ミヤコ。
同い年の母。同い年の娘。不思議な関係になった2人を描いたお話です。
はず最初に思うのは、やはり宇河先生の絵は素晴らしいなということ。
ジメッとした日本特有の空気がにじみ出ている。古風な日本風景がとても美しい。
その中で人間たちの息遣いが感じられるような、心地いい静かさがあります。
表情描写も見事で、揺らぐ心情が見事に表現されている。ハッとさせられるシーンもある。
短い話なので、2人がいかに心通わせていくか、ということに終始する内容。ストーリーの動きは少ないですが、大切な前進をじっくりと描いていく、心に染みゆく物語となっています。
ミヤコちゃんの度量が・・・何もかも受け止め受け入れるところとか凄いんですが
この包容力がなんだか痛々しくも感じました。
大切な人を、姉を無くしたのは彼女も同じですが、それについて特に動揺してる様子はありません。こぶりあわせで急に嫁入りすることになったことへの戸惑いもありません。
ふさぎこんでしまっているエリの方がよっぽど普通です。
けれど最後まで、ミヤコちゃんはエリを受け止める「母」としての立ち位置にいる。
母と子。同い年の全然違う女の子。
けどミヤコがかわいそうだとも思わない。だって楽しそうだし。
太陽の光を浴びることができないという体質は、きっと彼女を縛ってきたものだろう。
でもミヤコはただ諦めるところからすでに抜け出している。現実の中で自分がどう生きていくべきか、居場所を作れている。それくらいの強さをすでに得られている。
娘になった女の子をかわいがる、新しい楽しみも手にできて嬉しそうです。
エリちゃんを見守るときの彼女は、幸福を噛み締めているような奥深い表情をしています。
「普通のお母さんじゃ教えてあげられないことだって 私 教えてあげられるのよ。」
ニヤニヤするわあああああああああ
運命に逆らわない。けれど優しくない運命の中で、楽しく生きる術を知っている。
少女2人で肩寄せ合って生きていく。未来の幸せな予感をたっぷりもたせながら幕を閉じて読後感がいい。シンプルですが味わい深い様々な要素が楽しめる、いい作品でした。
しっかし背景の書き込みが凄すぎてミチミチに詰まってる感すごい。
空が黒いのもちょっと不思議な雰囲気がでていました。
●ニリンソウ
クールビューティ眼鏡とアグレッシヴ痴女のコメディ色MAXな短編。
前後に静かでシリアスな作品が添えられているため、いい息抜きになっています。
とにかく元気がいい。表紙裏やアンケートハガキもこの作品のキャラが出張していて、いい意味でこの単行本全体の雰囲気を変えていますw
あとアレ。最後の方の、もねちんがネクタイを結んであげてるシーンがキュンとする。
●Walk wit me
こちらは日本ではなく海外。すすにまみれた暗い炭鉱の町が舞台。
心が結びついてからの女の子たちがどう進んでいくかが描かれていきます。
しっかり肉体関係もあったりするので、この単行本では1番百合度は高めでしょうか。
お互いがお互いに女の子として愛し合っている様子が微笑ましいのですが
それぞれに家庭に問題を抱えており、その闇にじわじわと居心地悪くさせられます。
この作品にある窮屈感は意図したもので、だからこそこの町から脱出しようという2人に納得します。無機質に立ちならぶ炭鉱施設はこの作品の象徴みたい。
その象徴を背景にしたキスシーンには胸打たれました。うまく言葉にできないけれど。
結構ブラックな展開も待ち構えており、ドキドキしながら読めた作品です。
気持ちよくすべてを割り切ることはできないけど、許しあって生きていく。
ウェンディとその母親の関係がとくに心に残りました。
心にやましさを抱えて、時々罪悪感に潰れそうになって。誠実でありたいけれど罪は消えない。
母親とウェンディはとても似ているな。とても大切な人だからこそ、うまい愛し方がわからない。不器用な親子関係だ。
でもウェンディとマルリイ、手を取りあって進んでいく姿は、ちょっとの不安はどってことない。クライマックスに見れる2人の固く握りあった手が頼もしいです。
中編の「コブリアワセ」「Walk wit me」、短編「ニリンソウ」を収めた作品集でした。
値段は1000円近くと、結構高めです。とは言え損はさせない内容。
内容もいいのですが、気合の入ったこの作画の満足度はやはり凄い!
何度も読み返してしみじみと世界に浸ってみたくなる出来栄え。
百合漫画ですが、全体的に見ればそこまでガッツリ百合百合しているわけではないので、割合読みやすいかなと思います。
巻末オマケには宇河先生のアイデアノートとして、いくつかのプロットやラフカットなどが紹介されています。まさに原石といった具合で、断片的にしか見えませんが、読んでみたくなる作品が多々ありました。「ニセモノオウジと人魚姫」「美少女自動人形の罠」あたりは作品として読んでみたいなぁ、面白そうだ。
オマケといえば「コブリアワセ」「Walk wit me」それぞれの後日談も書き下ろされています。そのどちらも本編のシリアスムードから解き放たれて甘く楽しいです。
『二輪乃花』・・・・・・・・・★★★★
風景が美しく、その中で息づく人間たちの姿もまた美しい一冊。うっとり眺めていたい作品。
[漫画]愛は無限か有限か。『ねじまきカギュー』5巻
ねじまきカギュー 5 (ヤングジャンプコミックス) (2012/06/19) 中山 敦支 商品詳細を見る |
カモ先生の愛は無限なのっ!!!!!!
ウハー、かっこいい表紙だ。顔色悪そうなお姉さん大活躍の「ねじまきカギュー」第5巻!
まぁ美脚キャラということでしっかりそれをアピールしたイラスト。しっかり肉肉しいふとももだったり体のひねりだったり怪しい表情もいいなぁ。
これまでで1番好きな表紙かもしれない。インパクトも十分。
まぁこのマブルゥ姉さんが大活躍する巻なのですよ。
前巻→君が好きだと叫びたい。『ねじまきカギュー』4巻
ガタビシスターズがあっさり全滅してしまった前巻。
あんだけ「真打登場!!」的に登場した彼らが瞬殺される展開にはかなり驚かされた。
中山先生はもともとどストレートなバトルをやるために捻くれた展開をやる作家だと思うんだけど、この意表の付き方はすごく上手かった。俄然5巻への期待も上がっていました。
意外性をずっと持ち続けるというのは難しいことだと思うんだけど、やっぱこの作品上手い。
さて、5巻の主役はやっぱりマブルゥさん。4巻の時点でヤバいオーラを放ちまくりでしたが5巻はそれを全力全開に発揮しています。いやぁ病んでる病んでる!
とにかく濃ゆいキャラが勢揃いの本作においても、一際あぶない雰囲気を持つお姉さん。
何を考えているのかわからない、とらえどころのない挙動も怖いのですが、明らかに常人の感覚ではない重度のシスコンぶりも面白い。
自分は頭から水を被せられても温厚なままだったんだけど、カギューの頬に水滴がいくつか付けられただけで場を考えず一般人をタコ殴り!狂気ですらある溺愛。
あきらかに常識に縛られて動く人間でいないため(まぁそんなキャラはこの作品たくさんいますけど)、どう動くのかが本当にドキドキする。
そして39話は日常パートをちょっとやってから一波乱起こすのかな、と思いきや休み一切なしに緊張感MAXのバトルへ突入。この行き急ぐかのような疾走感はこの作品の目玉か。
で、実際このマブルゥさんがハンパなく強いのだ。
本作の主人公のカギューちゃんお姉さんであり、別の「螺旋巻拳」を継承。
マブルゥとカギューの姉妹対決は過去にない緊張感を持って展開しています。
姉を大好きなカギューちゃんだけど、姉がカモ先生を殺そうと知っていがみ合う2人。
「恋愛と家族愛、どちらをとるか」
今回のバトルは、単純に言えばそういう要素が強いのかなと。
まぁきっとどちらかを切り捨てることはせず、どちらも守りぬいてしまうのがカギューという女の子の強さだと思うのだ。マブルゥさんは強すぎるけどねえ、なんとかして欲しいな。
容赦なくカモ先生を追い詰めるマブルゥが「十兵衛(カギュー)だけを一生愛せないなら、カギューの側にいる死角はない」「人の愛は有限なんだぜ」と言うわけですが
カギューちゃんのムチャクチャな反論!
でもこれ本気に思っているのが彼女なんだよなあ。心のそこから信じている。
カモ先生は誰もかもを愛して、自分も幸せにしてくれる。カギューちゃんは周囲の人みんなが「好き」という気持ちで幸せになっていないと満足しないようで。愛とは奪うものじゃないと。
そしてカモ先生もまたカッコいい。コイツこんなにカッコよかったけか。
命が危険になっても自分の意志を曲げない。
「僕にも生徒は皆家族同然だっていう教師としての意志がある」(P104)です。
カギューだけを愛せるとはいえない。カギューは特別だけど、他の生徒達を愛することはやめられないと。・・・いやぁ熱い。カモ先生、こんなにカッコよかったのかとw
いつも優しいばかりの男だというイメージだけど、こういう時絶対に主張を譲らない。強い。
マブルゥが登場してからエンジンかかりっぱなしでテンション高いですねえ。
加えて5巻の終盤でさらに状況が代わり、ますます見逃せない状況に。
新キャラの生徒会メンバーも登場して、どう状況がかき回されるのやら。またしても濃い連中が増えたよ。生徒会長はまた随分とクセモノのようだし。そしてなにより・・・
マブルゥさんの暗躍怖いわ・・・!!
4巻のあのこっ恥ずかしいくらいの青春パートはこの展開のためだったのかと。
そして36話のラストで見せた暗黒面がいよいよ炸裂といったところ。
人間に潜む本性が暴かれるシーンはこの作品に多く登場しますが、その度ゾクゾクさせられますね!ここも好きなポイント。
人を好きになること。
そのシンプルなのに複雑になりがちなことを、怒涛のハイテンションで綴るバトル漫画でありますが、5巻もまたそのテーマにがっつり踏み込んだ内容であり、アツい。
バトルのスピード感や迫力が極上の魅力をきらめかしている。しかし決して勢いだけではない。
心震わせられるメッセージ性も込められており、ハイテンションの中でモヤモヤを見事に昇華させるカタルシスがある。小難しいことを、小難しいままの言葉じゃなく熱いエネルギーとして本能に直接叩き込んでくるような感覚が気持ちいい。
そういえばトラウマイスタも追い越して、中山先生としては最長の連載になっていますね。もう5巻かー、これからもゾクゾクさせてもらいたいものです。
『ねじまきカギュー』5巻 ・・・・・・・・・・・★★★★
圧倒される物語。勢いは十分、しかし6巻はもっとすごい展開になっていきそうな・・・!