[漫画]並んで密かに花咲く。『二輪乃花』
二輪乃花 (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) (2012/09/12) 宇河 弘樹 商品詳細を見る |
私の子供にはエリちゃんが欲しいわ。ねぇ、それじゃ駄目?
宇河弘樹先生の百合漫画単行本が発売されました。「二輪乃花」。
今まで単行本としてリリースされたものに百合漫画はないので、初の百合コミックス。
つぼみで掲載された2つの作品をまるっと収録しています。短編もひとつ。
宇河弘樹先生らしい、乾きながらも儚げでどこか瑞々しい空気が満ちています。
今や寡作な宇河先生ですが、それだけにたっぷりと情熱のこもった1冊じゃないかなと。
●コブリアワセ
戦後すぐの田舎の町を舞台にした作品。
タイトルの「こぶりあわせ」とは、死亡した夫や妻のかわりに、その弟や妹が婿入り・嫁入りをすることだそうです。「朝霧の巫女」でも見られる民俗学的要素もこの作品にはあります。
戦争で母をなくした女の子エリ。
コブリアワセで母のかわりに家にやってきたのは、主人公と同い年の女の子、ミヤコ。
同い年の母。同い年の娘。不思議な関係になった2人を描いたお話です。
はず最初に思うのは、やはり宇河先生の絵は素晴らしいなということ。
ジメッとした日本特有の空気がにじみ出ている。古風な日本風景がとても美しい。
その中で人間たちの息遣いが感じられるような、心地いい静かさがあります。
表情描写も見事で、揺らぐ心情が見事に表現されている。ハッとさせられるシーンもある。
短い話なので、2人がいかに心通わせていくか、ということに終始する内容。ストーリーの動きは少ないですが、大切な前進をじっくりと描いていく、心に染みゆく物語となっています。
ミヤコちゃんの度量が・・・何もかも受け止め受け入れるところとか凄いんですが
この包容力がなんだか痛々しくも感じました。
大切な人を、姉を無くしたのは彼女も同じですが、それについて特に動揺してる様子はありません。こぶりあわせで急に嫁入りすることになったことへの戸惑いもありません。
ふさぎこんでしまっているエリの方がよっぽど普通です。
けれど最後まで、ミヤコちゃんはエリを受け止める「母」としての立ち位置にいる。
母と子。同い年の全然違う女の子。
けどミヤコがかわいそうだとも思わない。だって楽しそうだし。
太陽の光を浴びることができないという体質は、きっと彼女を縛ってきたものだろう。
でもミヤコはただ諦めるところからすでに抜け出している。現実の中で自分がどう生きていくべきか、居場所を作れている。それくらいの強さをすでに得られている。
娘になった女の子をかわいがる、新しい楽しみも手にできて嬉しそうです。
エリちゃんを見守るときの彼女は、幸福を噛み締めているような奥深い表情をしています。
「普通のお母さんじゃ教えてあげられないことだって 私 教えてあげられるのよ。」
ニヤニヤするわあああああああああ
運命に逆らわない。けれど優しくない運命の中で、楽しく生きる術を知っている。
少女2人で肩寄せ合って生きていく。未来の幸せな予感をたっぷりもたせながら幕を閉じて読後感がいい。シンプルですが味わい深い様々な要素が楽しめる、いい作品でした。
しっかし背景の書き込みが凄すぎてミチミチに詰まってる感すごい。
空が黒いのもちょっと不思議な雰囲気がでていました。
●ニリンソウ
クールビューティ眼鏡とアグレッシヴ痴女のコメディ色MAXな短編。
前後に静かでシリアスな作品が添えられているため、いい息抜きになっています。
とにかく元気がいい。表紙裏やアンケートハガキもこの作品のキャラが出張していて、いい意味でこの単行本全体の雰囲気を変えていますw
あとアレ。最後の方の、もねちんがネクタイを結んであげてるシーンがキュンとする。
●Walk wit me
こちらは日本ではなく海外。すすにまみれた暗い炭鉱の町が舞台。
心が結びついてからの女の子たちがどう進んでいくかが描かれていきます。
しっかり肉体関係もあったりするので、この単行本では1番百合度は高めでしょうか。
お互いがお互いに女の子として愛し合っている様子が微笑ましいのですが
それぞれに家庭に問題を抱えており、その闇にじわじわと居心地悪くさせられます。
この作品にある窮屈感は意図したもので、だからこそこの町から脱出しようという2人に納得します。無機質に立ちならぶ炭鉱施設はこの作品の象徴みたい。
その象徴を背景にしたキスシーンには胸打たれました。うまく言葉にできないけれど。
結構ブラックな展開も待ち構えており、ドキドキしながら読めた作品です。
気持ちよくすべてを割り切ることはできないけど、許しあって生きていく。
ウェンディとその母親の関係がとくに心に残りました。
心にやましさを抱えて、時々罪悪感に潰れそうになって。誠実でありたいけれど罪は消えない。
母親とウェンディはとても似ているな。とても大切な人だからこそ、うまい愛し方がわからない。不器用な親子関係だ。
でもウェンディとマルリイ、手を取りあって進んでいく姿は、ちょっとの不安はどってことない。クライマックスに見れる2人の固く握りあった手が頼もしいです。
中編の「コブリアワセ」「Walk wit me」、短編「ニリンソウ」を収めた作品集でした。
値段は1000円近くと、結構高めです。とは言え損はさせない内容。
内容もいいのですが、気合の入ったこの作画の満足度はやはり凄い!
何度も読み返してしみじみと世界に浸ってみたくなる出来栄え。
百合漫画ですが、全体的に見ればそこまでガッツリ百合百合しているわけではないので、割合読みやすいかなと思います。
巻末オマケには宇河先生のアイデアノートとして、いくつかのプロットやラフカットなどが紹介されています。まさに原石といった具合で、断片的にしか見えませんが、読んでみたくなる作品が多々ありました。「ニセモノオウジと人魚姫」「美少女自動人形の罠」あたりは作品として読んでみたいなぁ、面白そうだ。
オマケといえば「コブリアワセ」「Walk wit me」それぞれの後日談も書き下ろされています。そのどちらも本編のシリアスムードから解き放たれて甘く楽しいです。
『二輪乃花』・・・・・・・・・★★★★
風景が美しく、その中で息づく人間たちの姿もまた美しい一冊。うっとり眺めていたい作品。
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