[漫画]妄執の果てになにがあるのか。いざ、最終局面へ。『朝霧の巫女』8巻
朝霧の巫女 8 (ヤングキングコミックス) (2012/05/17) 宇河 弘樹 商品詳細を見る |
ああ 貴女は望みをすべて叶えたのだ
7巻から1年と3カ月ぶりに発売されました、「朝霧の巫女」最新第8巻!
「連載は終わってるのになんでこんな単行本発売にこんなにかかるんだ」、なんて思いも吹き飛ばす気合の入った内容であり、つまり面白すぎる。
雑誌での連載は読めていませんでしたが、加筆修正が大量にあるとのこと。
しかもいよいよクライマックスな展開に突入していて、目が離せませんよ・・・!
単行本は全9巻予定。つまり次で完結!ラストに向けて急展開の第8巻。
濃密な民族・伝奇ネタもぎっちりみなぎる一冊となっています。
前巻→秘められた永遠の始まりへ。『朝霧の巫女』7巻
ラストも近いということで、非常にドラマティックな展開が多く見られました。
話の規模も大きく、これまでの数々のエピソードが1つにまとまりつつある感じ。
当初掲げられていた「ラブコメ」の4文字はどこへやら。世界の命運を握る決戦へ!
さて何をこから感想書いていけばいいのかと悩むところではありますが、8巻を読んで最初に思ったことが「女性キャラの想いがハンパない」ということだったのでそれを重視した感じで。
女性キャラがドロッドロの感情に溺れてる。なんて重い。なんて切ない。なんて俺得。
●こまの妄執の行く末
7巻は後半で一気に話が動き、それであのラストシーン。なんとなく、イヤな予感は。
以前に「せめてお前が死ぬより先に 私は 死にたい」なんてモノローグもありました。
だけでなくとも忠尋から遡って天津一族の男たちへのへの溺愛、またはおぞましいほどの執着は、これまでクローズアップされてきた部分。人を愛し、人と交わり、人の世界に組み込まれ、しかし人に拒絶され続けた妖の女。彼女の想いの行き着く果てが、この8巻に示されます。
彼女を突き動かすのは、妄執。それは彼女自身、ある種自虐的に述べている。
「この執着は我が身そのもの わたしだけのもの 誰にも渡さない」
なんて力強い・・・・・・。歪みも受け入れて、穢れも認めて、凛と立つ。
「見ろ わたしの心は こんなにも晴れている」とあわせてこの一連の流れは、鳥肌が立つ名シーンなんじゃないかなと。なんて表情でこの言葉を言うんだろう。凄まじいとしか言えない。
人との愛に癒されたり傷つけられたり迷走してきたこまさん。けれどずっと信じてきた。血を分けた子らに、愛を注ぎ続けた。それを妄執と笑うことは、きっとできないんだけれど。
こまさんは望みを叶えた。途方もない喪失とともに。
こまさんと忠尋の母である結実の関係は、殺伐とした空気に縁取られていますねえ。仲良くしてる様子なんて昔にしか見られないし。嫁姑問題・・・といえるのか言えないのか分かりませんが。
この2人の、それぞれの忠尋への想いもハッキリ見えたのがこの8巻だったように思います。
これまでこまさんを描いたエピソードが多かったためにこまさんを応援したくなったりしますが、結実さん抱えた葛藤や痛みや・・・我が子への愛に自身が持てない母親の姿はとても印象に残りますし、読んでいて胸が締め付けられるほどのせつなさもある。結実側の事情も見えてきて、単純にこまさんだけどプッシュすることもできなくなったなぁ。
子をめぐる、保護者としての2人の女の想い。覗き込んでも何も見えず、その上引きずりこまれてしまいそうな、深い闇を感じます。愛情の暖かさだけでない、ドロッとした成分が多い。
結局この2人の確執は今回で落着してしまいましたが・・・これも、すごい終わり方だった・・・。
忠尋が放った「あなたが代わりに・・・」と言葉の残酷さとインパクト。すごいです。
母と子、血縁・・・そんな簡素な言葉だけでは伝わりきらないものが滲んでる。
●乱裁と菊理
7巻を読んだらもう、この2人からも目が離せませんよ。
何度も生きては死んでを繰り返した、自らをすり減らしながらの輪廻。胸に熱く萌えるのは正義感や義務感と自分の片割れへの愛。いや、彼らがたどってきた生き様は、愛とか恋とかだけでは言い表せないかもしれないな、強い強い絆としか。
菊理さんのヤンデレオーラがまじヤバい。
ヤンデレ、なんて簡単に形容していいものかと言うくらいの・・・ゾクゾクするしかないって。
一時的に学校に通っていたころは、ふわふわ~っと癒しオーラを振りまくちんまい美少女だったのにねえ。いざ覚悟を決めたらなんて眼をするんだろうな、痺れる。女は覚悟を決めると強いという!
かつての友に恨まれることも厭わず、全て投げ出して1人の男に寄り添うことを選んだ少女。
卑怯だし、ヒドイことをしたと思う。悪役だ。
でもこんな真摯な想いで、平和を投げ捨て戦うことを選んだのだ。
乱裁と菊理のドラマや、そこに秘められた想いの強さを見るたび、圧倒されてしまう。
この2人がどのようなラストを迎えるのかは、最終巻でも最大級に気になるポイント。
●日瑠子陛下、旗艦座乗す!
天皇であるロリっ娘(つっこんじゃいけない)、日瑠子陛下がついに動き出す。
表紙で携えているのは3巻で熱田神宮に納められていた神器じゃないですかー!
これまで思わせぶりに暗躍してきた天皇サイドですが、こんなに表立ってアクション起こしたのは初めてでしょう。というかこのために今まで頑張ってきたわけだから、彼らにとってはここからが見せ場だ。
叫びを上げる日瑠子陛下の凛々しさ、とくとご覧じろというわけです。
最終局面は、幽世から溢れ出る妖怪たちと古風なデザインの戦闘艦らによる戦争という場面が強い印象を残す、さながらちょっと古い怪獣映画のような様相を呈すように。
ガンッガンにテンション叩き上げていく展開なわけですが、そんなシリアス全開な展開にあってもちょっと茶化してしまう宇河先生である。偉大な漫画家さんのタッチをそのまま真似たゲストキャラたちがちょろっとだけ登場するパロディがあります。これはまぁ、ニヤッとするよなw
それでそう、8巻はラストにもすごい展開がやってくる。
まぁいつか再開はするだろうな、このままじゃいられないよなっていう思いは持っていましたが、こういう形でやってくるとはなあ・・・!
花於ちゃんきたああー!!
今も彼女を懐かしみ、同時にトラウマにもしている倉子ねえちゃんと対峙。
今度は友達同士じゃない。世界をかけて、敵同士だ。
結局人は妖を拒絶してしまった(8巻はやはり、こまさん関連が強烈だった)のが思い出されるぶん、彼女たちもどうか円満な形で解決されてほしいなと思いますね。
花於登場のサプライズだけでなく、とにかく様々な人たちの思いが1つの場面に集まってきてるのが分かります。メインキャスト揃い踏みという感じで、さすがはクライマックス。
人と妖の戦争は、どんな未来を見せてくれるのか。
ということでそんな第8巻!8巻だって!よくここまで来ましたよ!
アワーズ買っては新作コミックスの欄を見て「ない・・・」とため息をつく生活もあと一冊分だ!ここまで来たなら耐えれます。さすがにここからまた3,4年待たされるってことはないだろう・・・。
せっかくテンション上がってるので、可能な限り早くに9巻を読みたいですねえ。
今回も冴え渡るのは日本神話や稲生怪物録をベースとした民族ネタの数々。
これがまた作品の雰囲気をより『らしい』ものに、深みを与えてくれています。
じっくり読み解こうと挑むならかなり時間がかかる作品なのですが、それだけに世界の奥行きというか、厚みを感じさせてくれる仕掛けがされている。
しっとりと水気を含んだ、まさに日本らしい雰囲気もたまりませんね。
物語が面白い、絵が好き、というだけじゃなくもっと根本的に、雰囲気が好きなんだなぁ。
そして、けっして綺麗なだけではない命の苦悩、叫びが描きこまれている。
人が妖怪が、それぞれの複雑な想いを抱えている。思い悩み、そして決断する。手を伸ばす。足を踏み出す。その瞬間をじっくりと描くから、キャラクターに重みがある。重みのあるキャラがたくさん登場し、また深くからみ合ったりしているわけで、この物語の面白さは単純な足し算じゃ測れないねえ。なんか本能を揺さぶる力強さがあるんですよ。
・・・すごくグダグダ書いてしまったけど、きっと最終巻の時もこんな調子だろう。
9巻がいつ出るかはわかりませんが、泣いても笑ってもあと一冊ですよ。出なかったら泣きますけど、出ても多分泣くんじゃないかな。
それぞれの想いに決着を。正真正銘ラストの第9巻に超期待してます。
・・・そういえば「アサギリノミコ オルタナティブシアター」はどうなっているんだろうか。
『朝霧の巫女』8巻 ・・・・・・・・・★★★★
クライマックスもクライマックスで怒涛の展開。ああ、最終巻はいつ出るんだ。
[漫画]恋と欲望のディープ・スロート・デイズ 『レセプタクル』
レセプタクル (2012/05/31) 黒咲 練導 商品詳細を見る |
わがままぬかせって 自分の意志押し通すのが怖いわけ?
楽園コミックス黒咲練導さんの「レセプタクル」が発売してます。
オビには「ディープスロートな物語」とあり、実に挑発的な感じですねえ!
実際にディープスロートなえっちぃ行為が繰り広げられるわけではありませんが、黒咲先生らしいねちっこさとかは味わえる作品なんじゃないかなと。直接描写がないだけで色々やってるのは匂わせます。じゃあ感想でも。
レセプタクルは「楽園」Vol.2で掲載され、以降はWEB楽園にて継続されていたシリーズ。
前回の楽園コミックス(感想→火照る心と身体はもっと熱く。『C- 黒咲練導作品集』)には収録されていなかったので、そのうちレセプタクルだけで単行本でるんじゃないかなーとか思ってたらやはり。
まぁ確かに話題性のある作品なんですよ。『放課後プレイ』のあの2人も登場したり!
裏表紙にも普通にいるよ!出版社違うのにちょっとすごいですね。
とは言え今回の主人公は彼らではなく、彼氏くんのお姉さんが主人公。
表紙の左側ですね。その隣のストレートヘアの女の子と、奥にいる男の子がメインキャラといったところ。だいたいこの3人で話が展開していきます。
とは言え長いストーリーはなくて、キャラ同士の会話劇やその雰囲気を楽しむように描かれた作品に仕上がっているといます。ストーリーは結構シンプルな作り。
『C-(シーマイナー)』には過激な性描写がありましたが、本作にはそれもなく。
それは物足りないという意味ではなく、また別の魅力を発揮してくれているということ。1冊使って2人の女の子の友情を、そして3人の男女の3角関係ををじっくりと描く。
最初こそ、女の子2人で学校の帰り道に猥談に興じる場面だったり、弟にちょっかいかけたり、微笑ましいシーンが続いきます。しかし進むに連れて雰囲気が変わっていく。
いや、最初から賑やかな中にひっそりと闇を潜ませていて、それが表に出てくるのか。
軽やかでかつ生々しい女の子同士のリアルな恋愛トークから様子がかわり、切実で強烈な嫉妬心・独占欲が顔をのぞかせる。
こじれた人間関係が楽しい一作。それだけでなく、先にも書きましたが会話劇も魅力ですね。
遠慮ない言葉の応酬。コメディとしてだけでなくシリアスなシーンにおいても、心に突き刺さる言葉が飛び出します。そしてそれを口にするのは、真剣に思い悩んだ人間たち。
黒咲練導さんのかく表情はすごく惹かれます。何かに追い詰められてるような、必死さがすごく伝わってきますなー。読んでてドキドキしてしまいますよ。
後半には濃厚なキスシーンも用意されていて、これも大きな見どころか!
あくまでオマケ要素的なものではありますが、『放課後プレイ』の2人も本編に登場。
出番は多くありませんが、存在感はかなりありますねえ。
オマケページの最後、つまりコミックスの最後で持っていくのはプレイ1の彼女さんだったりw
ファンサービス的なものではありますが嬉しかったです。
彼女さんと、彼氏くんのお姉さんの絡みというのはかなり新鮮でした。
彼氏くんの家庭事情もこの作品で結構描かれましたねえ。一番上にお兄ちゃんもいるそうです。いずれ何らかの作品に出る・・・というか、もう何かの作品に出ている・・・?
そんな感じの『レセプタクル』。1巻完結です。
黒咲練導ファン、『放課後プレイ』ファン、ねちっこくエグみのある恋愛描写が好きな人にオススメしたい一冊。単独作品としても完成していますが、この作家さんの他作品も読んでる人だとニヤリとできそうな。
値段はやや高めに感じますが、表紙を外した本体にもカラーイラストになっていたり、豪華な仕様。3Pを迫る描きおろしオマケ漫画も面白いので、WEB楽園等で読んだ人もどうぞ。
トーンを使わないため、白と黒でクッキリした画面もグッド。やはり黒咲さんの絵はイイ。
さくっと読めて後を引く物語。ねっとり深く飲み込もう。
『レセプタクル』 ・・・・・・・・・★★★☆
3角関係を描いた1巻完結作品。濃ゆい描写が魅力的。あとロケットおっぱいな。
[漫画]突然死んじゃったらどうすればいい? 『まじめな時間』1巻
まじめな時間(1) (アフタヌーンKC) (2012/05/23) 清家 雪子 商品詳細を見る |
生まれて初めて あんたの頭なんて撫でたくなったのに
清家雪子先生の初オリジナル連載「まじめな時間」の1巻。
アフタヌーンで連載された「秒速5センチメートル」の作画担当の方ですね。あれは素晴らしいコミカライズでした。素晴らしすぎてなんて書こうか悩んでるうちに更新のタイミングのがしてますけどね。うわぁ。
さて、秒速のコミカライズの中で豊かな人間描写を見せつけてくれた作家さんですが、恋愛をメインに扱ったそれとは違った方向性の新作となっています。
よりコミカルに。けれど秒速とは違った方向に、超シリアス。
しかしこれがまた面白いのです。「まじめな時間」1巻感想を。
主人公の植村一紗(うえむらかずさ)は今時の普通の女子高生。
性別を問わずバカみたいなことで盛り上がれる友達や、好きな人に囲まれて、なんでもないように幸せな日々を過ごしていました。ところが死んでしまう。ある日突然。あっさりぽっくり。
交通事故による即死。あっさりしすぎて死んだことにすら最初気づかなかったレベル。
そして死者の魂として残された彼女は、現実のだれにも気づかれないまま「自分が死んだあとの世界」を見つめていきます。あらすじとしてはこんな感じ。
●突然『死』に直面した若者のリアル
本作を読んで1番に感じたことはこれ。様々な年齢のキャラ(幽霊)が登場しますが、基本は一紗とそのクラスメイトたちの動きを追うストーリーなので、メインキャラに若者は多いです。
死。育つばかりの少年少女にとっては縁遠く現実味のないものかも知れない。
けれど突然そんな『死』に直面してしまう彼らが、何を感じ、どう動いていくのか。
突然死んでしまった一紗。突然友人を失ってしまったクラスメイト。
そんな2方向から、若者が感じる死が描かれています。
まず面白いのがクラスメイトたちの立場。
多くのクラスメイトが一紗の通夜に参列して大号泣。その様子を見ながら「誰か気づいてよー」と声をかけてみる死んだ一紗。
すごく辛いシーンのはずなのですが、まだ状況がうまく把握できていないのか、死んだ一紗自身が雰囲気をシリアスすぎるものに染めてはいないというか。まだ生きてるようなつもりで友達に話しかけているものだから。
滑稽で笑えるような、けれどもう2度も楽しく会話なんてできない、致命的な距離感が示される場面で、すごく切ないのです。
けれど一紗を見送ったあとクラスメイトたちが何をするかと言ったら、カラオケである。
それを見て「私が死んだことがイベントになってるじゃん!」と怒ったりガッカリしてたりしている一紗も、なんだか面白くって切ない。
まぁ・・・死後の現実を見るって、すごく勇気がいることだと思うけれど。
彼らはふざけているわけではない。心の底から一紗を思って行動している。けれどハタからみればそれはとてもおかしな行動で、つまりどう悲しめばいいのかもうまく掴めていない。
そこは単行本の巻末描きおろし番外編でも描かれていますね。こちらも好きなエピソード。
友人の死をどう受け止めようか。戸惑ってばかりの高校生たちの姿がとても印象的。
死んだ一紗としては、どれだけ悲しんでもらえるかで、自分がどれだけ好かれていたかを知ろうという思いもあったんだろうなぁ。それって結構自然なものかも知れないけれど。
けれど漫画としては、悲しみにくれるクラスメイトを向けて感動する幽霊の一紗、という構図は、どういうふうに受け止めればいいのか悩む描写である。
軽いノリと強烈にヘヴィーな要素が共存してしまっているイビツさやアンバランスさ。
それがやっぱり面白い部分でもあるんだけれど。
一紗視線で進む物語だから、彼女の明るさに流されがちになってしまうけれど、ふと冷静に状況を見渡してみれば、こんなに辛いシチュエーションで笑えるわけない・・・。
●幽霊たちの世界。
現実に干渉できなくなったかわりに一紗が新しく仲間入りした、幽霊たちの世界。
生きてる人には基本見えていないだけで、幽霊は本当にどこにでもいるんだそうだ。
ただ死んでから日が経っていなかったりで未練がある幽霊は、その状態で人間界を見ている。
そしていつしか現世へ見切りをつけて、満足した幽霊から成仏していくという事らしい。
それで面白いのは、死んでからどういう幽霊になっているのかということ。
強い憎しみを抱いたまま死んだ人は、現実に影響を及ぼすほどの負のエネルギーをまきちらす。一方で幽霊になったことをいいコトに女の子の着替えをのぞきまくる幽霊もいる。楽しそうでなによりです。まぁようするに死んだ後にも、いや後だからこそ自由が効いて、やりたいようにやれている。もちろん幽霊だから限界はたくさんあるだろうけれど、幽霊も十人十色。
けれどわりと楽しそうに描かれるから錯覚するけど、みんな死んでるんだよなぁ。
あまり描かれない部分だけれど、幽霊1人1人には死を味わった人生があった。
どんなドラマがあったのか見えないキャラも大勢いますが、望むべくして死んだ人なんてほとんどいなくて、どの幽霊もだいたい後悔を抱えている。
何より痛ましいのは、なんでもないようにいる子供たちの幽霊。これが痛ましい。
火事でもろとも死んだ姉妹(母親の放火っぽいのがつらい)、髪のない、小学校に通うことを夢見た男の子(きっと重い病気だったことをうかがわせる)・・・明るくそこに存在しているキャラクターたちの背景も、よく考えてみれば、なんというか、言葉がうまく紡げない、虚しさが。
死者はいずれ忘れられていくもので、自分が生きた証もどんどん失われる。
そして幽霊もはやくの成仏を目指す。死者なのだからそれは当然の流れか。
現世を眺めていても「死者の自分にはもうどうすることもできないんだ」という諦めがあって。
でもそんな流れを、今の一紗が受け入れられるとも思えない・・・。
だからきっとあがきまくるんだろうな彼女は。
きっと辛すぎて見ていられなくなるんだ。幽霊になった自分を認識してくれる人もおらず、ただ見ているだけの日々は、きっと本当につらい。
それで何にも感じなくなっていくことは、幽霊として自然なんだろうけれど。
でもやはり、諦めて諦めて寂しさを抱きながら消えていっては欲しくない。
一紗が笑顔で成仏していくような、展開が読んでみたいですねえ。
●一紗の家族
読んでいて1番辛かったシーンの話。それは一紗の家族の話。
彼らは肉親を失ったわけで、その喪失感たるや想像を絶するもの。
中でもお母さんがピクリとも表情を動かさず、呆然としているシーンなんか、つらすぎ。
このシーンは幽霊の一紗に影がないことで生者と死者の違いが強調されていたり、こんなに近くにいるのにお母さんは一紗に気づくことができないもどかしすぎる距離感があったり、すごく好きな場面。
そして弟を想ってやる一紗もたまりません。
「生まれて初めて あんたの頭なんか撫でたくなったのに」・・・もう触れられない。
このセリフに身悶えですよ・・・生前なんでやらなかったのか。なんで死んでから・・・。
やっぱり根本的にどうしようもない切なさを孕んだ作品ですよ・・・チクチクと心が痛む。
死んでからじゃ遅すぎるのに。でもだって高校生だったんだよ。人生まだまだだったんだよ。
●まとめ
つらーっと書いてきましたがまとめということで。今度の展開がとても気になる作品です。
突然死んでしまったことに、まだ全然整理がついていない一紗。
物語が進むにつれて幽霊がどういう存在なのかを理解していき、一紗は変化をしていきます。変わっていきますけど、まぁ基本的に明るい娘。
一紗は現実への未練たらたらですよ。両思いだと思っていたら・・・と、死んでから知ってしまうことばかりで、なんとか現実に干渉してやろうと頑張るわけですが、さてどうなるやらと。
霊感の強い少女・岡部蘭子を軸にさらに展開をしていく流れ。どこまで一紗はあがけるか。
死を扱う作品ですが適度に挿入されるコミカルな描写で、雰囲気は和らぎます。読んでいて疲れるようなものではない。最初の主人公と周囲との温度差は、一見すればややシュールで面白い。
けどそこに宿る傷の深さは、笑えるようなものなはずがない。切なく、胸に突き刺さる。
オビにもありましたが、確かに「奇妙な心地よさ」があります。死者が登場しまくる作品とは思えないほどに空気はなんだか明るい。けれどその奥にはかなりネガティブな感情が渦巻いている。
でもそういうグチャッとした感覚を、わりと軽やかに、けれど軽くなりすぎず仕上げてあるのがこの作品の凄さ、かなぁ。
こういう設定なら身体は生きたまま生き霊になって最終的にはもとにもどるってパターンがありかと思いますが、この作品は冒頭1ページ目から死なせて火葬もすませて、正真正銘幽霊なのである。「死んでからわかったってどうにもなんないじゃんね」というセリフが重いこと重いこと。蘇生なんてムリムリ。
じゃあどうすればいいんだろう?どうすればこのモヤモヤを晴らせるんだろう?
一紗はどんな決着を、自分につけるのか。納得することはできるのか。
で、タイトル。「まじめ」とはどういう意味がこめられた言葉なのだろうか。
生と死について思い悩む・・・だけじゃない含みがあるような気がしてて、何らかの答えが明かされる瞬間が今から楽しみですね。ということで第1巻でした。長い連載にはならないと予想。
上手くまとまれば、すごくいい作品になってくれそうです。今の段階でもかなり面白いですけどね、どういう結末を迎えるのかがとても大切な作品です。
1巻表紙の一紗は暗い顔。どうか最後は、笑顔で。難しいだろうけれど。
『まじめな時間』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
『死』を扱った作品。深いテーマ性と、重くなりすぎない絶妙の雰囲気作りが魅力。