[漫画]思春期の大暴走…もう後戻りはできない!『惡の華』6巻
惡の華(6) (講談社コミックス) (2012/06/08) 押見 修造 商品詳細を見る |
春日くん・・・明日捨てようか これからの人生全部
ヤバイヤバイヤバイなんてすごい作品だろう!
押見修造先生の「惡の華」6巻が発売されました。これはもう、待望の一冊と言える!
発売ペースが特別遅いわけじゃないんですがもう早く読みたくて仕方なくて。単行本派である自分は、5巻を読んでからソワソワソワソワしてましたよ!
そして息を潜めるように読んだ最新6巻。今回も、すさまじい。感想書く!
前巻→背徳と情欲で暴走する少年少女に目が離せない!『惡の華』5巻
春日と仲村、2人だけの河原の秘密基地。その中には「向こう側」があった。
誰にも理解されないし許されない、おぞましくてきっと尊い、2人だけの秘密。そんな常識の「向こう側」が。中学生のもやもやが形となった、ある種の芸術が。
それを失わせたのが、クラスメイトの女の子、佐伯。
加えて佐伯の暴走が春日と仲村の関係をも揺るがす!5巻の佐伯はおおくの読者の度肝を抜いたと思われますが、その一件を受けて3人がこの先どうなってくのか・・・!?
「向こう側」に行く計画書は、警察の手に渡った。クラスが、学校が、両親が、国家権力が彼らを見つめる。彼らをとりまく状況は悪くなる一方。笑い話で済むラインをとっくに超えている。さぁ、どうする。
ノンストップ思春期。追い詰められて追い詰められて、未だあがき続ける若者たち。
この乾きが癒されるまで、彼らは走るのをやめはしない。
●決意の佐伯さん
さてなんか浸りながらあらすじ書いたところで6巻の話。
読んでてこんなにゾクゾクする漫画、そうはない。
事態を大きく動かした佐伯さんは6巻においても存在感を放ちます。一度覚悟を決めたら、とことんまで突き進んでいくんだな。
仲村から春日を奪うため、ムリヤリに彼とセックスした佐伯さん。彼女はその2日後、再び春日の前に髪を切った姿で現れました。何かを決意したように、優しい笑みを浮かべつつ。
ここからの佐伯さんのセリフは1つ1つに重みがありますが、特にこれが突き刺さった。
「・・・不幸にするのは、私だけにしたら・・・?」
なんてすごいセリフ・・・なんてすごい女の子なのか・・!
春日とどこまで堕ちる覚悟ができている。それでいて根深い独占欲を見せる。
深く、慈しみのあふれた、生臭いほどの愛情。
「君を不幸にできるのは、宇宙でただ一人だけ」なんて、自分の大好きなスピッツの曲の歌詞にもありますけど、まぁそれはおいといて、とにかくこのセリフは6巻でも一等気に入りました。
彼女が抱える想いに想像が追いつかない。分かるんだけど、どれだけ底が深いものなのか把握しきれない。ただ震えて受け止めるしかない・・・!
一度はあんなに心を剥き出しにして迫ってきた佐伯さんですが、今度の彼女の様子はそれとは違いましたね。あの時は仲村さんのものを強奪するためかすごい勢いがありましたが、心境の変化もあるのでしょう。1度セックスをした余裕・・・ともちょっと思えない。
にじり寄るように、囁くように、穏やかに手招きをしているような・・・。
そして彼女の進んだ道もまた衝撃で。この作品はどこまでも予想の上を行く。
どんな気持ちで春日の部屋を訪れたのか・・・想像すればするほど胸が苦しい。
●この緊張感、すさまじい!
佐伯さんが訪れるシーンも見所ですが、その前にあった警察官と対峙した場面の緊張感も凄まじかった。本気で息が苦しくなるくらい。
特にあの眼がギョロッとした男性警官。前にも登場したことがありますが、全てを知っているかのような雰囲気を醸しだしており、出てくるたびにドキドキしてしまう。
漫画の緊張感とかスリリングな味わいって、だんだんと慣れてしまう場合もあると思います。
でもこの作品は、常にドキドキさせてくれるなぁ。
この作品における「脅威」が、非常にリアルなものだということが理由か。
突拍子がなかったり、想像が追いつかないことではない。現実的な脅威ばかり。
いや、現実的だからこそ恐ろしい!間違った一歩を踏み出してしまえば、世界は一瞬で敵だらけになる・・・そのリアリティに身震いがする。
クラスメイトたちからは疎まれ、町ではうわさ話をされ、教師からも威圧され、両親すらも味方にはなってくれない。誰も守ってくれない。どこにも居場所がない。
「コイツらの人生は崩壊に向かっているのだ」という、寒気がするほどの実感があるのです。
それでも間違え続ける主人公たち・・・。
悪いことだって知ってる。だから、悪いことをするんだ。
たった1つの大切なものを見つけるんだ。
そうじゃなきゃ、こんなクソムシだらけの世界で生きていけない。
思春期の暴走がなにをもたらすのか。
彼らはどこへ行くんだろう。どこまで行けるんだろう。激動のまま7巻へ進む。
●『惡の華』をたずさえた3人
本編の話からちょっと外れて、オマケページについて。
これまでも話の合間に描かれているオマケですが、この6巻のものはとても印象的でした。
こんな感じ。メインキャラ3人と、惡の華が描かれています。
左から仲村、春日、佐伯。
これ、誰がどういうふうに惡の華を持っているのか、その違いがとても面白いのです。
仲村は高らかに掲げるようにして、惡の華を持っています。迷いなく、力強く手を伸ばして凛としている。彼女のキャラクターがよく現れていると思います。
しかし春日は、惡の華を背に隠すように持っている。
春日はまだ後ろめたさを持っているということが表現されているのかな。彼と比較すれば、仲村がどれだけ思い切りのいい性格・・・言い方変えればイッちゃってるかが分かる。
ただまぁ、春日も今や仲村と一緒に暴走しちゃっていますよね。このオマケイラストは、現在のストーリー進行に直接シンクロしたものというよりは、各キャラクターの資質を示したものなのかな。物語にシンクロしたものならば、彼の中にいまだ悩みを抱えている(バカになりきれていない)ことの現れか。
女の子が2人とも歩いているのに、主人公の春日だけが立ち止まっているのも深い。
そして佐伯。隠しはせず、しかし誇りはしない。自然に惡の華を持ち歩いています。
自然に惡とともにあるというのがいいですね。勝手に天使だと思い込んでイメージを押し付けていたかつての春日は、きっとこの構図は認められなかっただろうけれど、こうして歩いて行くのって特別なことではないよな。人間は正しく生きてばかりじゃないと思うし。
最初こそ「漫画のヒロイン」らしく美しい理想として描かれてきた佐伯さんですが、人間らしく自然で生々しい欲望を爆発させた最近の流れだからこそ描かれたイラストだと思います。
それと、惡の華を握る佐伯さんの手が、親しげに手をつないでるようにも見えるのは、変な解釈かなぁ。
6巻の佐伯さんの行動を見ると納得してしまうのだ。この惡の華は彼女の罪。罪だと知った上でそれを受け入れている、共に歩んでいくことを選んでいる。肝が座った彼女らしいじゃないか。
けれど親しげに罪をたずえているなら、やっぱり佐伯さんも怖いよ。普通の人間ならやっぱり後ろめたさを感じてしまうんだ。声高に惡を誇り叫ぶのも、惡と自然に歩んでいくのも、質が違うだけでどちらもすごいと思う。
『惡』と手を結んだ少女・・・そうしてでも手に入れたいものがあった。
意味不明な欲望に押し流されて理不尽な犯行に及ぶ春日・仲村よりもずっとわかりすい。けどやってることはなんら変わりない。彼女もまた、『惡の華』の犠牲者であり、共犯者だ。
じゃあまとめでも。
まさに息もつかせぬ展開へと爆走していく、思春期ダークジュブナイル『惡の華』。
泥沼にハマって戻れなくても、向かう先に未来なんかなくても、闇の中でのたうちまわって何かをつかもうとしている。そんな姿が描かれます。
それは滑稽で恐ろしい。けれどちょっとだけ理解ができて、そんな自分が怖くなったり。
言うなればこんなの、ガキどもが理性を失って暴走する、それだけの話だ。
この作品はとことんまでそれをやり通している。だからこそ凄まじい力がこもっている。マイナスのエネルギーをまき散らしている。それが気持ちよくすらあるんだ。ブチまけることの快感だ。
読むものを圧倒しそのまま深淵に引きずりこむようですよ。読んでいて自分もなにかに追い詰められているかのような感覚になります。
この作品が提示する『闇』はすごく深い。そえは人によっては身近に感じられるものかもしれないし、闇それ自体が強烈な魅力を放っていると思います。
キッチュという美的概念があるようですが、本作はまさにそれですよ。wikiによると「一見、俗悪、異様なもの、毒々しいもの、 下手物などの事物に認められる美的価値」とのこと。
おぞましいが故に人の心を惹きつけてやまないもの、それは惡に違いない。
この画像のシーン、これまで汚い世界をあんなに憎んでいた仲村とは思えぬセリフです。けれどこの時、きっと彼女は確かに初めて、なんでもない世界を美しいと感じたのだろう。それは彼女の胸にとある決意が秘められているから。
さぁ、冒険もいよいよ終わりが近いかもしれない。行けるとこまで行ってやろう。
刃を持て。クソムシだらけのこの世界に突き立てるに刃を。
もう後戻りはできない。
『惡の華』6巻 ・・・・・・・・・★★★★
煮詰まりまくりの思春期。疾走感やら緊張感やらでとびきり刺激的。本気で続きが気になる!
以降の巻
その目に焼き付けてくれよ、僕らの”惡”を。『惡の華』7巻
怯える幽霊と忘れられない華の影。『惡の華』8巻