[漫画]女の子の世界はやわく可愛く切なく危うい。『百合アンソロジー dolce』
百合アンソロジー dolce (マジキューコミックス) (2012/05/25) アンソロジー 商品詳細を見る |
女の子は ちょっとキケンなくらいが 一番かわいいんだから
最近の百合ジャンルの盛り上がりっぷりは、百合をテーマにしたアンソロジー雑誌が多く登場していることからも伺えますねえ。
エンターブレインから発売された「dolce(ドルチェ)」も良質な百合アンソロジーでした。
基本的に甘い作品ばかりで、わりと安心してニヤニヤ楽しめる仕上がりかと。
「dolce」は以前エンターブレインから発売されていた「amaro」の発展系なんですね。
amaroと言えば毎号違ったテーマを設けていたちょっと珍しい構成の雑誌でした。
例えば「初めて」「男装女子」「秘密」が過去のテーマでしたね。
→男の子、女の子、ほんとはどっち?男装女子アンソロジー『amaro』Vol.2ほか
今回のテーマは「百合」であり、「amaro」から「dolce」とタイトルを改めて再始動ということか。毎号テーマが変わったamaroの系譜なら、このdolceが今後も続くかはわかりませんが。
「amaro」は苦いという意味でいしたが、「dolce」は甘いという意味。
そのタイトルにふさわしく、幸せも甘さもいっぱいに詰まった一冊!
まー「amaro」の時から表紙の雰囲気に反してニヤニヤできる作品ばかりのシリーズでしたがw
公式の特集ページはこちら。今回はとくに好きだった作品いくつかの感想を。
●とりあえずは表紙ですよ。なもり先生による表紙イラスト、かわいいなぁ・・・!
ベッドの上に携帯が置いてあるのがミソでしょうね。状況から見るに、きっとそれまでは携帯をいじっていたはずなんだけれど、今この瞬間には後ろから伸ばされてきた愛おしい女の子の手を握っている。
携帯が外の世界とのつながりを示すなら、それを手放し相手の手を握っていることで、2人の世界がより強調されている形になっている。細かなアイテムの使い方が素晴らしい。一枚絵にドラマが閉じ込めています。妄想が《加速》する!
●離れられない世界/飴沢狛
個人的に大好きな飴沢さんの短編。大王ジェネシスで連載も始まったし、来てる来てる。
本作は双子の少女を描いたもの。甘くもあり、しかしかなり酷な一面もある作品ですね。最後には思いを飲み込んでしまうわけですし。けれど百合としてみれば正解。
「わたしがいればそれでいいじゃん・・・」というこのわがままさ、身勝手さ!でもそんな、むちゃくちゃな事を言っているとわかっても抑えが効かない様子も素敵。
少女の卑怯さと、受け止める大人らしさがいい塩梅ですなあ。この2人はずっとこんな調子でいそう。そして飴沢さんの描く女の子は本当にかわいい。
●ヒミツのトビラ/ぴかち
ぴかちさんはヒャッコ同人の人!ってイメージを引きずる俺ですがこれもナイス百合。
健康的なインモラルさというか、やましくもあり微笑ましくもある絶妙の雰囲気。
あと巻末コメでビビッと。「ファーストキスのシーンを見せなかった(作中で隠した)のは2人だけのモノにしたかったからです」ですって。あ・・・あンまー!!
その記憶は2人だけのもの!
●綴る秘め恋/百合原明
PNに百合の二文字を持つ作家さん・・・そしてこの本でも一二を争うお気に入り。
たった12ページですが脳内で強烈に膨らみ上がるストーリーで、余韻もいっぱい。
なくなった祖母の、唯一の友人だったという女性の元を尋ねる主人公の少女が出会ったのは・・・というもの。オチも予想できたけど大好きです。
この本の中では1番切ない短編だったと思います。百合漫画に切なさを求めがちなので、もちろん甘くて悶絶するようなラブストーリーも好きだけど、こういう作品もあってくれて嬉しかった。
●ワガママなセカイ/渡まかな
この作品はなんというか、百合に感じている面白さとか、どういう所にロマンがあるのかってところを言語化してくれてるなと思って好きになった。物語もいいんだけど、百合への力強い肯定を与えてくれるいい作品だなぁと。
特にこのモノローグ。
「手を繋いだりハグしたり、かわいいけどそれだけじゃなくて、触れたら溶けてしまいそうな、甘いような危ういような、ギリギリのバランスに酔う、わがままな世界の住人」
色々ひっくるめても愛ある視線で見守ってる感じ。心に突き刺さるモノローグ!
少女同士の恋の世界を知ってとまどうばかりの主人公もかわいいし
彼女にちょっかいをかけて遊ぶ女の子も魅惑的な目をする。イタズラな。
コメディ調でテンションの高い中に、百合への愛もぎゅっと詰め込まれてて満足!
●嘘吐きシガレット/やまもとまも
んあー!かーわーゆ!泥棒とそれを追う刑事をモチーフにした短編。
これはもう主人公の不良っ娘がかわいすぎてな!たまらんですなー!責められたら弱くてあわあわしちゃう様子とか見てるこっちも熱くなる・・・!
綺麗にまとまった甘い百合漫画で、この2人の物語続きが見たくなりました。
●The pace of two/MATSUDA98
生粋の女の子絵師たるMATSUDA98さんの百合漫画わほーーい。
なにはともあれ女の子の可愛さを噛み締めるのだ・・・!
ふわっふわで、なんだか儚げで、触れたら壊れてしまいそうで、きっとこの女の子らに触れるのは同じく女の子しかありえないわなと感じざるを得ない。
ストーリーはシンプル。もっとページ数があってもよかったかなと思いましたが、実に微笑ましいハッピーな百合漫画に仕上がっています。
ざっと感想を書いてきましたが、他にもいい作品がたくさんありましたね。
たくさんの作家さんが参加しており、バリエーションに富んだ誌面になっています。その反面1作1作のページ数が少なくなっていて、ちょっと物足りなさを感じたものもいくつか。
そして「dolce」の名があらわす通り、収録作は優しく微笑ましいハッピーエンドの百合漫画がほとんど。なもり先生が表紙を描いていますが、これにピンときた方は読んでみてハズレではないはず。
しかしこれ、今後も継続して出ていくかはわかりませんねえ。
次が出るなら大歓迎ですが、せっかくテーマを変えて変えてこれまでやってきているシリーズなので、次なる新しいテーマに挑戦してみてほしいという思いもあります。
そんなわけで、「amaro」シリーズを応援し続けたいなと思える一冊でした。
女の子の世界は甘くて甘くて切なくて、ちょっと泣けてくる。