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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

[漫画]繋がっていく物語が快感!人間たちの歪んだ迷宮 『外天楼』

外天楼 (KCデラックス)外天楼 (KCデラックス)
(2011/10/21)
石黒 正数

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   生まれは C404号室だ

石黒正数先生の「外天楼」。1巻完結です。
発売当初からやたらと評判がよかった作品ですが、読んでみて納得。確かにこれはすごい!
代表作であろう「それでも町は廻っている」でも、ほのぼの日常モノに時折SFな話をおりまぜ読者をドキドキさせてくれる石黒先生。
その構成力の高さは他作品を読んでもわかるとおりなのですが、この「外天楼」はまさに度肝を抜かれる。けして明るく楽しいだけの作品ではなく、むしろかなりシリアスなのですが、これはいろんな人にオススメしたいです。確かにこれは映像化されたものも見てみたい・・・!



さて、ストーリーを追っていこうにもどう書けばいいのやら。
あーだこーだと書いて「そんなわけだから面白いよ!」てとすると、それだけで未読の人のこれからの楽しみを奪ってしまう恐れがある。
しっかりと仕掛けが用意されてる作品って、予備知識ありで読んでしまうのが勿体無いですよね。身構えないままでちゃんと不意打ちをくらいたい。それが作品を1番に楽しめるかも。

後半すごいよ!ヤバイよ!というのは当然なんですが、前半だって面白い!
前半はそれぞれがまるで独立した短編のようになっていて、おどけたコメディやとんでもなミステリ風ストーリーが展開。あるいはちょっと切ないSFものとか。それぞれ単体としても楽しめるのです。
特に第1話はちょっぱなからアホらしさが満点。実に微笑ましいエピソードw
『いかにして恥をかかずにエロ本をゲットするか・・・』
それは思春期の男ならきっと誰もが頭を悩ませる、永遠の課題・・・!(なのか?
男の子たちががんばってエロ本を買おうと色々姑息な知恵を働かせていく様子は、微笑ましいニヤニヤを禁じえない。ばかだなぁこいつらw
捨てられたエロ本の内容を見て、持ち主だった人物の趣味嗜好を考察してみたり。

外天楼1

真面目にバカをやってる様子って面白い!
なんて思っても、意外なところで巧妙に後に繋がっていくものだから油断ならない。
というかこの第1話、単行本を1度最後まで読んでから再読すると、なにもかもが懐かしいやら切ないやらで全然違った味わいになっています。こういうところも意図的なものだろうなあ。

前半のおとぼけコメディな装いから一転、後半はシリアスが色濃くなります。
何でもないようなシーン1つ1つが、怒涛の終盤戦に収束していく。
何度も前のページに戻ってはその緻密な構成にニヤリとさせられてしまうのです。



以下、ネタバレを含むので反転。

この作品、ちょっとした謎を残したまま終わるのもいい。
色んなサイトさんでも触れられてることは自分も同じく気になりました。鬼口に最後抵抗の意思がなかったように見えたり、結局ダイイングメッセージは本当にアリオに捜査の目が行かないように仕向けたことなのかとか。
その他だとラストシーン、アリオが倒れるシーンはなかなか気になりました。
銃弾を受けて血を流したことから、彼が人間であることを思わせますが
キリエがボロボロになって死んだ次の瞬間には、突然事切れたように見えます。
負傷や流血により、体力の限界が近づいていたことは間違いないですが、それにしても倒れこむのが急すぎるというか。まるでキリエに合わせたみたいだなと。
アリオがどういうように誕生した男かを考えると、キリエとシンクロした存在なのかなぁと、ぼんやり考えてみたりします。
そんな謎を残しますが、しかし単純にこの作品のラストシーンは美しい!
切なく哀しく、どこか美しくもある静寂のエンディング。この余韻、たまりません。

ともかくこの作品の終盤の流れは素晴らしく、結末もとても印象に残りました。



こんなにどう書こうか悩んだ作品も久しぶりですが、面白い作品だというのは確実。
1度読み終えた後にも、読み返すことで新たな発見ができそうです。
というかまだ自分の中では謎が残ってるので、まだまだ探っていきたい所存。
石黒先生らしい素朴なタッチは今回も健在ですが、「外天楼」においてはその素朴さが、時折出てくるスリリングだったりホラーチックな雰囲気とのギャップを生み出します。時にはギョッとさせられるほどインパクトのあるシーンが登場したり。
装丁も高級感があっていい感じ。アリオ・キリエだけが特別になっているのも、なるほどなとニヤリとしてしまうのです。実際にカバーを手にとってみないとわかりづらいですけども。

なんか、結局どんな作品かを明確に書かずに最後に来てしまいましたが・・・
とりあえず読みましょう。きっと裏切られません。
年末年始、いつもよりまったりできる時間が多い時のおとも等にも。
1巻完結ということで読みやすいですし、内容の面白さは折り紙つき。
上質な漫画というのはこういうことか、なんて自分は思わされました。
身構えて読むよりも無防備なまま、この作品に「してやられ」ましょう。

『外天楼』 ・・・・・・・・・★★★★
1巻完結漫画のニュースタンダードというのは納得の表現。構成力に舌を巻く。
同じ1巻漫画だと「ネムルバカ」も大好きでしたが、今回はベクトルの違った傑作ですね。

[漫画]愛するからには自分も幸せにならなきゃ!『ねじまきカギュー』3巻

ねじまきカギュー 3 (ヤングジャンプコミックス)ねじまきカギュー 3 (ヤングジャンプコミックス)
(2011/12/19)
中山 敦支

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   恋する乙女は無敵だ!!!!!!

ヤングジャンプ連載中「ねじまきカギュー」も3巻目。
今回はオビに村田雄介先生がコメントを寄せています。あといろいろ雑誌とかで発表されたランキングに入ったこととか。このマンガがすごい!2012では16位でしたねえ。
確かに今年目立っていた作品の1つだと思います。愛をめぐる少女たちの激烈バトル!

強くまっすぐ、貴方を護るために。 『ねじまきカギュー』1巻
いがみあい認めあう女の子たちの闘い。 『ねじまきカギュー』2巻



絶対個性主義(キャライズム)を掲げるこの学園は、ムチャクチャに濃い人物ばかり。
2巻では富江・朱羽がいがみあいつつ活躍をしましたが、風紀四天王の1人にして会長の側近である織筆により重傷をおってしまいます。
しかし落ち込んでいたカギューちゃんが自分らしさを取り戻し、織筆と対峙。
誰かを強く思う「愛」。けれど相反する「愛」を掲げる2人は、自分の正しさを叫びながら死闘を繰り広げるのでした。

織筆曰く、「最強の愛は自己犠牲の上において成り立つ」
愛しい誰かのために、100%の心血を注ぐこと。全力で支えてあげること。
自分を愛してくれなくてもいい。自分を捧げることがが至高の喜びと言う。
これはカギューちゃんの考えとは大きく違うものです。
ボロボロになりながら自分の愛を声高らかに言い合うシーンは鬼気迫る魅力アリ。
しかし1番印象深いのは、織筆に向かってのカギューちゃんの言葉と笑顔。

カギュー

多くの人が笑顔になれるであろうカギューちゃんの持論は、きっと織筆が夢みてはそれは不可能だと自分に言い聞かせてきたもの。
きっとムリだって彼女が諦めてた最高の理想を、カギューちゃんは恥ずかしげもなく掲げる。こういうところがカギューちゃんの魅力ですよねえ。純粋であるのは格好いいんだ。
どちらが「正しい」かは判別しようがないですけど、気持ちいいのはカギューちゃん。
織筆の「自己犠牲=愛」は、どれだけ自分を犠牲にするかで己の愛の大きさを信じたいんだろうなーと。ある意味それって強い自己愛の裏返しでもあるのかも。歪んだ自己満足。
でも報われないはずの愛をポジティブに捉えて自分を幸せにしてるというのは面白い構図です。ある意味建設的というか。
そんなわけで3巻のハイライトはこのVS織筆編と思います。しびれました。

キャライズムを掲げる学園が舞台なので、とにかくキャラが個性豊かなのですが
明確に主張と主張のぶつかりあいとしてバトルが描かれるのも面白いところ。
双方の思いがガンガンぶつかり合って、それが読んでる自分にも響いてくるのです。



さてさて、元気を取り戻したカギューちゃんがかわいいったらないですよ!
ボロボロになってもカモ先生に抱きしめられたら全回復してしまいました。かわいいなあ!

カギュー2

不可能を可能にするカギューちゃんの乙女っぷりは最高ですな。
2巻は途中からカギューちゃんがおとなしくなってしまいましたが、3巻はカギューちゃんが目一杯動いて戦って喜んで、とてもイキイキしています。嬉しくなってしまいますね。

しかしそんな彼女にも過去最大のピンチが訪れるのでした。
確かにこの巻のハイライトは織筆戦だったかと思いますが、その後の風紀委員長・紫乃とのバトルも大きな盛り上がりをみせます。3巻だけでは終わりませんが、かなり熱いバトルが展開。

カギュー3

ロリ体型でクリッとした目が特徴の、一見冷徹な女の子。
カギューちゃんとは愛を優先すべきか、ルールを守りぬくべきかで対立。
しかしこの彼女がむちゃくちゃ強い。さてどうなるやらと。
紫乃ちゃんにも本当の気持ちを露にして欲しいなぁ。恋を押しとどめる必要は無い!

他にもいよいよあの学園長ががっつり物語に絡みだしたのも見所。
スターシステム的なものでしょうか、トラウマイスタにもこいついたよなって感じですが学園長のおかげで作品のカオス度がさらに上昇。面白くなって来ましたよ!
あと、うん、あの秘書さんエロすぎると思います。

この漫画の面白さって、堂々とメッセージを発してくることとか、絵がカッコいいとか色々ありますが、次のページに何が飛び出してくるのか分からないってのもそれですね。
最高にドキドキする漫画体験をさせてくれる。ページをめくる面白さが満点!
バトルの迫力や女の子たちのかわいらいさ(+二面性)も当然のように魅力的。
来年も見逃せないタイトルの1つでしょう。4巻楽しみです。

『ねじまきカギュー』3巻 ・・・・・・・・・★★★★
頭の中をあつい何かで満たしてくれる作品。熱い言葉を吐きながらのバトルは素晴らしい。

[漫画]きっとこれは運命の出会い。『ロンリーウルフ・ロンリーシープ』

ロンリーウルフ・ロンリーシープ (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)ロンリーウルフ・ロンリーシープ (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
(2011/12/12)
水谷 フーカ

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   私もう 「ひとり」には戻れそうにないんです

水谷フーカ先生による「つぼみ」掲載作品2作目の単行本。
前回の短篇集「この靴知りませんか?」もまた素敵な作品でしたが、今回は1冊まるごとの長編。長いだけあってじっくりとストーリーが進んでいきます。
また今回は従来の水谷先生らしさに加えて、ダークな雰囲気も強いのが特徴か。
「つぼみ」掲載作ということで百合です。しかし過激なものではなく、百合描写はほんわか。



同姓同名。同じ病院。同じ時間。同じケガ。誕生日もたった1日ズレてるだけ。
でもタイプは全然違う2人の女の子が出会ってストーリーが始まります。
2人とも垣本伊万里。仲良くなろうと頑張ってみる2人ですが、果たしてうまくいくのか。

いやまぁ確かにタイプは違いますよこの2人。
かたやざっくりガテン系、かたや森ガールちっくなゆるふわっこ。
でも第1話からあまりにも似たもの同士すぎてニヤニヤしてしまうんですよ!
2人して自分から誰かにコミュニケーションをとっていくことが苦手で、どうすれば友達になれるのかも分からない。8,9、10ページの流れはそんな微妙なムードが出てて面白かったですね。
「待ちたいけど、なんか怪しく思われないかなあ、名残惜しいけど帰ろうかな」「あれ、待ってくれてない・・・それはそうか」みたいな。ほとんどセリフも表情の変化もないのに、もじもじした2人の思いが伝わる。絶妙の雰囲気表現がされています。これで一気に物語に引きこまれてしまいました。
水谷先生はこういう「空気(ムード)の演出」がとても上手い作家さんだなと思います。リズムのとり方も合わせて素晴らしい。

ロンリ1

2人してどんよりして「もっと仲良くなりたいけど、私なんか迷惑だよね・・・」と。
こいつら完全にシンクロしてやがるっ!どんよりしたシーンですが、なんて愛おしいんでしょうか。このシーンの他にも彼女たちは知らないところでシンクロしまくりなのです。

そんな不器用さにも、それぞれに違った経緯があったりする。
2人ともが相手に負い目を感じていて、そうなってしまう理由も隠し持っているのです。
しかし互いが互いの悩みを、暖かな気持ちで受け止めてみせる。
そうすることで自信を得ていくんですよね。誰かに「この人のそばに居たい」と思われるのは、それだけで力になるのかもしれない。自分は自分でいていいのだと。まさに氷解。
人のやさしさが織り成すドラマは、心をぽかぽかにしてくれるのです。



物語は前半まで2人を中心とした、ほんわかな友情物語として進行。
時折ブラックな面を見せるも、きちんと2人で解決していきました。
しかしながら某B子さんが登場してから急転。思わずヒヤヒヤする展開へ!
水谷先生の作品にしてはちょっと珍しい、ストレートな悪意と、生々しい激情がほとばしるようになっていきます。なかなか新鮮だなと思いました。

ロンリ3

B子さんというかこの理佳さんが怖いのなんの。
大きい方の伊万里に執着し実力行使に出たり、明らかに束縛しようとする。
けれどこの彼女もまた、孤独な一匹の狼だったのかなあとも思ったり。
「またひとりになっちゃったなぁ・・・」という大伊万里の言葉にいっきに態度を変えたのは、演技がかりすぎてるくらいの彼女の本当の想いの発露。
こんなに近くに自分がいるのに、彼女を自分を「1人きり」と言っている。どんなに優しい言葉と場所を与えても、彼女の心はそれを求めては居ない。いつだって別の誰かを欲しがった。
理佳さんもついに限界が来たということか。怒りをぶちまけてみせるも、それは彼女が最後にした「嘘」。真実と後悔と激怒とちょっとのやさしさを織りまぜた苦味のある嘘です。

理佳さんは確かに怖い人なんだけど、嫌いにはなれないんですよね。歪んだ愛し方しかできないことも、彼女の狡猾なのに不器用な部分が強く現れてるみたいで。
悪役として描かれはしても、ちゃんと最後にはそこから一歩抜け出します。
巻末描きおろしにも彼女は登場しており、彼女にもどうか幸せになってもらいたいものだなと。
彼女のようなキャラクターって扱いが難しそうですが、かなり上手くハマっています。



要所要所でくらーいモヤモヤがやって来て、そのたびにドキドキさせられましたが、でもやっぱり主人公2人のイチャイチャっぷりにはほっぺた落ちそうな勢いでニンマリしてしまう。

ロンリ2

ラストシーン、そして巻末の描きおろし漫画はまさに極上と呼びたい仕上がり。
第1話のころから2人揃ってアタフタしながら縮めていった関係の結論は、単行本の最後のページにて出ます。こんなにギュッと握れば、もう離れることだって出来ない。
とりあえず自分は最高の笑顔で単行本を読み終えることができたのでした。最高!

そしてタイトルの「ロンリーウルフ・ロンリーシープ」。
これにも結構含みがあって、読んでいくうちにそこを意味してるのか、あそこの繋がるのか、と色々楽しむことができました。誰が誰にとっての羊かな、狼かな、とかなんとか。
小さい伊万里の風貌や性格からして彼女が羊なんだろなーなんて思いましたが、描きおろしを読んでみたらケロとした顔で「私の方が夫です」とか言っててもうなんなのこの子!ウボァー
まぁ誰が羊だ狼だって決めてしまうより、定義と想像の幅を広げるのがベストか。
どっちにしたって、最高にかわいらしい2人なのだから。

濃ゆい恋愛が展開される百合作品ではありませんが、優しくあっさりとした中に深いメッセージ性、痛みや孤独などネガティブな要素も強く打ち出されており、けしてさらりと読み流せるものではありません。
それでもこのふんわりとした幸せな雰囲気で、最後にはちゃんと笑顔になれる。
百合と聞いて一歩ひいてしまうような人にもお勧めしたい一冊。
不器用で弱虫な女の子たちが、精一杯に手を伸ばして進む、愛のお話です。

『ロンリーウルフ・ロンリーシープ』 ・・・・・・・・・★★★★
ほんわか甘いラブコメにダークな色が混ざる。一巻完結百合作品。最後はちゃんと笑顔。

[漫画]星々(ぼくら)の運命を占おう。 『ロンリープラネット』

ロンリープラネット (KCデラックス)ロンリープラネット (KCデラックス)
(2011/11/30)
売野 機子

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   寂しいんだよ そろそろ誰かと深く関わりたいんだよ

講談社BE・LOVEにて連載された「ロンリー・プラネット」。
売野機子ファンとしては白泉社「同窓生代行 売野機子作品集2」の同時発売ということで、11月末はテンション上がったものです。ひとまずこちらの単行本から感想を書こうかなと。
思えば売野先生として今回が初めての連載作品ということになるんでしょか。
「ロンリープラネット」全5話と、読みきりをひとつ収録した単行本となっています。



●まず表題作「ロンリープラネット」の話。
占いをテーマに、恋愛に限らず人と人との繋がりを描いた作品。
カリスマ占い師の姉を持つ主人公は、イケメンであることがある種のコンプレックス。顔がいいということだけで期待をされて、実際には中身がない自分を見透かされるのを恐れている。
そんな彼が周囲から勘違いをされ、姉の代わりに占い師(のまねごと)を始めます。

各話ごとにメインとなるキャラクターいて、それぞれに印象的な場面がありました。
愛を求めすぎて空回りしてしまう女性(第2話)なんか面白かったですね。
最初は滑稽で笑えていたものも、すすむにつれエスカレートし笑えなくなってくる。必死な姿に切なさや寂しさすら・・・主人公はやさしい言葉はあげても行動で応えてはあげないし。
でもこのエピソード中に「占い」は、なかなか面白いものとして描かれている。
「未来なんかわからなくていい」と占いをいったん否定しておいて、「今の私をだれかが知ってくれている」ことが彼女にとっての救いであり、勇気になる。
占いを信じる人も、きっとそれが本当の未来だと信じきっているわけではないだろう。それでも誰かから、なんの根拠もなくていいから、自分の支えてくれる言葉が欲しい。
そうして涙を流す彼女。印象的なシーンでした。

これはこの作品全体に行き渡る「占い」の考えかなぁと。
なんの根拠もないけれど、誰かの背中をそっと押してあげられる、力強い肯定。
未来はだれにも分からないから、人の手に及ばない「運命」を信じたくなる。願わくばそれはほんのちょっとでも幸せな運命であることを。
第1話の終盤、病気の女性のシーンが心にズキッとしましたが、あれが正しい。所詮気休めにすぎなくても、占いはその人の心をほんのちょっと軽くしてあげられるのです。

主人公の初恋の女の子・菜菜と、その人に恋している既婚の女性漫画家・リサ(第3話&第4話)は純粋に切なくも力強さを備えたエピソードで大好き。
主人公、菜菜、リサで妙な3角関係が出来上がり、さぁどうなるかと思ったらなんてことなく皆(いや2人か)が現実を受け止めぐっと痛みを胸に宿すのみ。
でもリサが最後に握り締めるのは、いつか悲しんでいた誰かへ向けた幸せな物語を紡ぐためのペン。熱い!かっこいい女性だなぁリサさん。抗いはしないけど、精一杯の努力と誠意で戦っている。健全で、正しくて、でもだからこそ切ない。
全5話、それぞれの話に幸福と切なさを宿した余韻がありました。いいですねえ。
ただ第1話の三つ編みの女性に関してはもうちょっと掘り下げて欲しかった気も。



さて、終盤に印象に残ったのはやはり主人公の変化です。
勝手に期待されてはガッカリされて。ガッカリされないように頑張ることにも疲れて。
寄せられる期待を裏切らぬように、相手が喜ぶ言葉を選んで行う彼の占いは、やっぱりどんどんとボロが出てくる。というかもともと占いなんて出来ない。
笑顔を見せないのも特徴か。基本的に表情は硬いままです。
ですが1話から4話の様々な出来事から、彼は変わるのでした。

第5話では彼は周囲へと 嫌われたくないと行動してきた彼が、はっきりと「自分はニセモノです」と言ってしまう。
で、彼なりにちゃんとした占いをしてあげようと、何冊もの本を見比べ見比べ占ってあげますが、相手の女性はウンザリな顔で帰っていく。
ようするに客が求めているのは正しい占いではなく、お手軽にいい気分になれる占いなのだ。
彼の精一杯の占いは、うまく相手の心には届かなかった。でも大きな一歩です。
そしてここから、彼は本当の心を表に出していくようになる。

ロンリ

涙をこぼしたり、顔を赤らめ恋に落ちたり、「たいやき屋になる」なんて突拍子も無いことを笑顔で言い放ったり。途端にイキイキしだす主人公。こちらまでニヤッとしてしまうw
恋の落ち方もなんだか笑えてしまう。でも幸せそうでなによりです。
占いだってステキだけど、でも何より自分の意思と脚で踏み出すのだ。「スタート地点を僕が決めよう」は彼の素直で前向きな思いが輝いたような、爽快な一言でした。

そうそう、夜空を見上げて、人を星に例えて物思いにふけるシーンも素敵でした。
見上げれば同じように輝く星々も、本当は途方もなく離れていたりする。けれどそうやってそこにある限り、きっと誰かにちょっとずつ影響を与えている。
星空をバックにしたこのコミックス表紙も、人間を星にたとえているように思います。
一人ひとりは孤独でも、きっと些細なところでつながったりしてる。世界ってもしかしたらそうやってできてるかもしれない。ロンリープラネットでも、宇宙全体から見ればひとりきりじゃない。

ロンリ2

人間関係の切なさや暖かさを、売りの先生らしい独特の空気とテンポで綴る作品でした。
「占い」が持つ意味をうまく描かれていて、作品の根底になっています。
詩的でありつつ、どこかコミカルな味わいです。



●そして同時に収録されている「その子ください」も秀逸な読みきり。
こちらは家族愛を描いた作品なのですが、一癖ある設定です。
特に娘と母親の関係というか空気が面白かったですね。
終盤には「友達」という言葉で表現されたりして、新鮮な家族のカタチ。

ロンリ3

個人的に好きなのがお母さん。
まわり色んな物に覚える少女時代の彼女の描写には、頼れるものが周りにない心細さがあるんしょう。母親になった彼女の感情が揺れ動く様子が印象的です。
そして終盤のお父さんとお母さんの恋愛イベントにはニヤニヤせざるを得ない!
また、ラストシーンには視点の華麗な入れ替わりも素晴らしい。鮮やか。
2人のキャラクターの成長や、互いの友情がくっきりわかって楽しかったです。



そんな単行本「ロンリープラネット」でした。
味わい深いストーリーを複数楽しめて、満足感のある1冊になっていると思います。
特に連載作「ロンリープラネット」はお気に入り。心地よい暖かさ。
ドラマの面白さはもちろん、空間をたっぷり使った贅沢なテンポも魅力です。
どこかレトロな雰囲気を漂わせる絵柄ですが、これがまた好き。
売野機子先生を読んだことのない人にも当然おすすめしたい作品。

『ロンリープラネット』 ・・・・・・・・・★★★★
1巻完結。占いを通じてつながっていく人の心。優しいだけじゃなく、切ないだけでもなく。

[漫画]好きな今年の4コマ漫画。-『4コマオブザイヤー2011』参加記事

「この4コマが、好き。」冬の4コマ感謝祭『4コマオブザイヤー2011』開催のお知らせ

こちらの企画への参加記事です。20日までが一応の締め切りと気づいて焦りました。
さてどんな作品を選ぼうかなというところですが、ふだん自分の更新の傾向からわかるかもしれませんが、自分は4コマ漫画の読書量が正直かなり乏しい感じでして・・・。
そもそも読書量的な意味で選択肢が少ない自分がこういう企画に参加するのはいかがなものかとも思いますが、まぁせっかくなので。好きな作品は推していきたい!

【新刊部門】

・きんいろモザイク/原悠衣
きんいろモザイク (1) (まんがタイムKRコミックス)きんいろモザイク (1) (まんがタイムKRコミックス)
(2011/03/26)
原 悠衣

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日本とイギリスの女の子が入り混じりつつわいわい。インタナーショナル。
やってることは王道と言えば王道なんですけど、全体的にハイレベルにまとまっています。
絵もキャラも非常にかわいく、とくに小路綾ちゃんはぶっちぎりの魅力。
きらら的にも期待が寄せられてる作品なんじゃないかなぁと。詳しくないですけど。
更新もしました→かわいいともだちがふえました。『きんいろモザイク』1巻

・ひなたフェードイン!/水谷ゆたか
ひなたフェードイン!(1) (まんがタイムコミックス)ひなたフェードイン!(1) (まんがタイムコミックス)
(2011/03/07)
水谷 ゆたか

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結婚式場でアルバイトをする大学生が主人公の作品。あまり見かけない業種のお話だったので、すごく新鮮に楽しめました。業界裏話的な部分も?
絵は丁寧に整った物じゃないかも知れませんが、実に温かみがあって好きな感じ。
それは物語にも感じられることで、素朴でかわいらしいです。片思いであたふたしまくる純な主人公の様子にもニヤニヤとしてしまいます。お気に入りの一作。

・中2限定!?ガールズトーク/坂巻あきむ
中2限定!?ガールズトーク 1 (まんがタイムコミックス)中2限定!?ガールズトーク 1 (まんがタイムコミックス)
(2011/10/07)
坂巻 あきむ

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タイトルと表紙に惹かれて購入。「中2限定ガールズトーク」!買わざるを得ない!
自分の「女」を武器にすることができる知恵を持つようになって、男にどう自分をかわいらしく見せるかなんてちょっと策略的になってみたり。でも大人じゃないからうまくできない。
小憎たらしさと可愛らしさの絶妙なバランス感覚。でも女の子が集まってわいわいやってるのって、ただそれだけでかわいい。やっぱり小憎たらしさなんて全然ないや。恋する女の子はそれだけでステキなのです。

【既刊部門】

・放課後プレイ3/黒咲練導
電撃4コマコレクション 放課後プレイ3 (電撃コミックスEX)電撃4コマコレクション 放課後プレイ3 (電撃コミックスEX)
(2011/01/27)
黒咲 練導

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もともと大好きなシリーズなんですが、過去最高に闇が深いのが3。
電撃プレイステーションなのにあんまりゲームしてないのも3。わりと好き勝手やってて、黒咲先生のねばっこい背徳表現に惚れ惚れしてしまいます。「1」の2人が再登場してるのも見所。
だらけた日常、過激な背徳。『放課後プレイ3』
1,2,3とだんだんと重くなっていっているのですが4はどうなるやら。雑誌読んでないので楽しみ。

・境界線上のリンボ 2巻/鳥取砂丘
境界線上のリンボ (2) (まんがタイムKRコミックス)境界線上のリンボ (2) (まんがタイムKRコミックス)
(2011/03/26)
鳥取砂丘

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ホライゾンじゃないよリンボだよ。異世界を舞台としたファンタジー4コマ作品完結巻。
1巻は表紙の壮大さと最初のカラーページの雰囲気の良さでお気に入りでしたが、2巻はストーリー面で魅せられる場面が多く、さらに好きになりました。この2巻は後半の盛り上がりと感動はとても印象に残っています。
テーマとして差別問題を取り上げてもいて、なかなか骨太な面白みがありました。

・ゆるめいつ 3巻/saxyun
ゆるめいつ【通常版】3 (バンブーコミックス)ゆるめいつ【通常版】3 (バンブーコミックス)
(2011/06/24)
saxyun

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特別なことはなく、いつもどおりの面々がいつもどおりにだらけてるだけの内容なんですが、仕方ないじゃないですか大好きなんだもの。1巻からこれっぽっちも変化が見られないけど、そこが彼らのダメさの裏付けでもあり、読者として居心地のいい空間にもなっている。堕落とは心地よいものです。やる気を削ぐ魔書。松吉さんが最萌。
そういえばテレビアニメにもなるようで。どうするんでしょうね。ハラハラします。



ということで以上、2部門3作品ずつ出させていだきました。
やっぱりもっと4コマ漫画は開拓していきたいと思います。なのでわりとこの企画でどんな作品の名前があがるかは参考させてもらいたいなとも。

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引っ越し先

ブログを引っ越しました。 当ブログは更新を停止し、新ブログにて更新をしています。 https://sazanami233.hatenablog.com/

楽園に花束を

プロフィール

漣

Author:漣
「さざなみ」と読みます。
漫画と邦ロックとゲーム。
好きなのは思春期とかラブコメとか終末。

連絡先。
omuraisu0317あっとyahoo.co.jp(あっと→@に)

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基本毎日います。記事にしない漫画感想とかもたまにつぶやいてますので、宜しければどうぞ。

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