[漫画]星々(ぼくら)の運命を占おう。 『ロンリープラネット』
ロンリープラネット (KCデラックス) (2011/11/30) 売野 機子 商品詳細を見る |
寂しいんだよ そろそろ誰かと深く関わりたいんだよ
講談社BE・LOVEにて連載された「ロンリー・プラネット」。
売野機子ファンとしては白泉社「同窓生代行 売野機子作品集2」の同時発売ということで、11月末はテンション上がったものです。ひとまずこちらの単行本から感想を書こうかなと。
思えば売野先生として今回が初めての連載作品ということになるんでしょか。
「ロンリープラネット」全5話と、読みきりをひとつ収録した単行本となっています。
●まず表題作「ロンリープラネット」の話。
占いをテーマに、恋愛に限らず人と人との繋がりを描いた作品。
カリスマ占い師の姉を持つ主人公は、イケメンであることがある種のコンプレックス。顔がいいということだけで期待をされて、実際には中身がない自分を見透かされるのを恐れている。
そんな彼が周囲から勘違いをされ、姉の代わりに占い師(のまねごと)を始めます。
各話ごとにメインとなるキャラクターいて、それぞれに印象的な場面がありました。
愛を求めすぎて空回りしてしまう女性(第2話)なんか面白かったですね。
最初は滑稽で笑えていたものも、すすむにつれエスカレートし笑えなくなってくる。必死な姿に切なさや寂しさすら・・・主人公はやさしい言葉はあげても行動で応えてはあげないし。
でもこのエピソード中に「占い」は、なかなか面白いものとして描かれている。
「未来なんかわからなくていい」と占いをいったん否定しておいて、「今の私をだれかが知ってくれている」ことが彼女にとっての救いであり、勇気になる。
占いを信じる人も、きっとそれが本当の未来だと信じきっているわけではないだろう。それでも誰かから、なんの根拠もなくていいから、自分の支えてくれる言葉が欲しい。
そうして涙を流す彼女。印象的なシーンでした。
これはこの作品全体に行き渡る「占い」の考えかなぁと。
なんの根拠もないけれど、誰かの背中をそっと押してあげられる、力強い肯定。
未来はだれにも分からないから、人の手に及ばない「運命」を信じたくなる。願わくばそれはほんのちょっとでも幸せな運命であることを。
第1話の終盤、病気の女性のシーンが心にズキッとしましたが、あれが正しい。所詮気休めにすぎなくても、占いはその人の心をほんのちょっと軽くしてあげられるのです。
主人公の初恋の女の子・菜菜と、その人に恋している既婚の女性漫画家・リサ(第3話&第4話)は純粋に切なくも力強さを備えたエピソードで大好き。
主人公、菜菜、リサで妙な3角関係が出来上がり、さぁどうなるかと思ったらなんてことなく皆(いや2人か)が現実を受け止めぐっと痛みを胸に宿すのみ。
でもリサが最後に握り締めるのは、いつか悲しんでいた誰かへ向けた幸せな物語を紡ぐためのペン。熱い!かっこいい女性だなぁリサさん。抗いはしないけど、精一杯の努力と誠意で戦っている。健全で、正しくて、でもだからこそ切ない。
全5話、それぞれの話に幸福と切なさを宿した余韻がありました。いいですねえ。
ただ第1話の三つ編みの女性に関してはもうちょっと掘り下げて欲しかった気も。
さて、終盤に印象に残ったのはやはり主人公の変化です。
勝手に期待されてはガッカリされて。ガッカリされないように頑張ることにも疲れて。
寄せられる期待を裏切らぬように、相手が喜ぶ言葉を選んで行う彼の占いは、やっぱりどんどんとボロが出てくる。というかもともと占いなんて出来ない。
笑顔を見せないのも特徴か。基本的に表情は硬いままです。
ですが1話から4話の様々な出来事から、彼は変わるのでした。
第5話では彼は周囲へと 嫌われたくないと行動してきた彼が、はっきりと「自分はニセモノです」と言ってしまう。
で、彼なりにちゃんとした占いをしてあげようと、何冊もの本を見比べ見比べ占ってあげますが、相手の女性はウンザリな顔で帰っていく。
ようするに客が求めているのは正しい占いではなく、お手軽にいい気分になれる占いなのだ。
彼の精一杯の占いは、うまく相手の心には届かなかった。でも大きな一歩です。
そしてここから、彼は本当の心を表に出していくようになる。
涙をこぼしたり、顔を赤らめ恋に落ちたり、「たいやき屋になる」なんて突拍子も無いことを笑顔で言い放ったり。途端にイキイキしだす主人公。こちらまでニヤッとしてしまうw
恋の落ち方もなんだか笑えてしまう。でも幸せそうでなによりです。
占いだってステキだけど、でも何より自分の意思と脚で踏み出すのだ。「スタート地点を僕が決めよう」は彼の素直で前向きな思いが輝いたような、爽快な一言でした。
そうそう、夜空を見上げて、人を星に例えて物思いにふけるシーンも素敵でした。
見上げれば同じように輝く星々も、本当は途方もなく離れていたりする。けれどそうやってそこにある限り、きっと誰かにちょっとずつ影響を与えている。
星空をバックにしたこのコミックス表紙も、人間を星にたとえているように思います。
一人ひとりは孤独でも、きっと些細なところでつながったりしてる。世界ってもしかしたらそうやってできてるかもしれない。ロンリープラネットでも、宇宙全体から見ればひとりきりじゃない。
人間関係の切なさや暖かさを、売りの先生らしい独特の空気とテンポで綴る作品でした。
「占い」が持つ意味をうまく描かれていて、作品の根底になっています。
詩的でありつつ、どこかコミカルな味わいです。
●そして同時に収録されている「その子ください」も秀逸な読みきり。
こちらは家族愛を描いた作品なのですが、一癖ある設定です。
特に娘と母親の関係というか空気が面白かったですね。
終盤には「友達」という言葉で表現されたりして、新鮮な家族のカタチ。
個人的に好きなのがお母さん。
まわり色んな物に覚える少女時代の彼女の描写には、頼れるものが周りにない心細さがあるんしょう。母親になった彼女の感情が揺れ動く様子が印象的です。
そして終盤のお父さんとお母さんの恋愛イベントにはニヤニヤせざるを得ない!
また、ラストシーンには視点の華麗な入れ替わりも素晴らしい。鮮やか。
2人のキャラクターの成長や、互いの友情がくっきりわかって楽しかったです。
そんな単行本「ロンリープラネット」でした。
味わい深いストーリーを複数楽しめて、満足感のある1冊になっていると思います。
特に連載作「ロンリープラネット」はお気に入り。心地よい暖かさ。
ドラマの面白さはもちろん、空間をたっぷり使った贅沢なテンポも魅力です。
どこかレトロな雰囲気を漂わせる絵柄ですが、これがまた好き。
売野機子先生を読んだことのない人にも当然おすすめしたい作品。
『ロンリープラネット』 ・・・・・・・・・★★★★
1巻完結。占いを通じてつながっていく人の心。優しいだけじゃなく、切ないだけでもなく。
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