[漫画]きっとこれは運命の出会い。『ロンリーウルフ・ロンリーシープ』
ロンリーウルフ・ロンリーシープ (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) (2011/12/12) 水谷 フーカ 商品詳細を見る |
私もう 「ひとり」には戻れそうにないんです
水谷フーカ先生による「つぼみ」掲載作品2作目の単行本。
前回の短篇集「この靴知りませんか?」もまた素敵な作品でしたが、今回は1冊まるごとの長編。長いだけあってじっくりとストーリーが進んでいきます。
また今回は従来の水谷先生らしさに加えて、ダークな雰囲気も強いのが特徴か。
「つぼみ」掲載作ということで百合です。しかし過激なものではなく、百合描写はほんわか。
同姓同名。同じ病院。同じ時間。同じケガ。誕生日もたった1日ズレてるだけ。
でもタイプは全然違う2人の女の子が出会ってストーリーが始まります。
2人とも垣本伊万里。仲良くなろうと頑張ってみる2人ですが、果たしてうまくいくのか。
いやまぁ確かにタイプは違いますよこの2人。
かたやざっくりガテン系、かたや森ガールちっくなゆるふわっこ。
でも第1話からあまりにも似たもの同士すぎてニヤニヤしてしまうんですよ!
2人して自分から誰かにコミュニケーションをとっていくことが苦手で、どうすれば友達になれるのかも分からない。8,9、10ページの流れはそんな微妙なムードが出てて面白かったですね。
「待ちたいけど、なんか怪しく思われないかなあ、名残惜しいけど帰ろうかな」「あれ、待ってくれてない・・・それはそうか」みたいな。ほとんどセリフも表情の変化もないのに、もじもじした2人の思いが伝わる。絶妙の雰囲気表現がされています。これで一気に物語に引きこまれてしまいました。
水谷先生はこういう「空気(ムード)の演出」がとても上手い作家さんだなと思います。リズムのとり方も合わせて素晴らしい。
2人してどんよりして「もっと仲良くなりたいけど、私なんか迷惑だよね・・・」と。
こいつら完全にシンクロしてやがるっ!どんよりしたシーンですが、なんて愛おしいんでしょうか。このシーンの他にも彼女たちは知らないところでシンクロしまくりなのです。
そんな不器用さにも、それぞれに違った経緯があったりする。
2人ともが相手に負い目を感じていて、そうなってしまう理由も隠し持っているのです。
しかし互いが互いの悩みを、暖かな気持ちで受け止めてみせる。
そうすることで自信を得ていくんですよね。誰かに「この人のそばに居たい」と思われるのは、それだけで力になるのかもしれない。自分は自分でいていいのだと。まさに氷解。
人のやさしさが織り成すドラマは、心をぽかぽかにしてくれるのです。
物語は前半まで2人を中心とした、ほんわかな友情物語として進行。
時折ブラックな面を見せるも、きちんと2人で解決していきました。
しかしながら某B子さんが登場してから急転。思わずヒヤヒヤする展開へ!
水谷先生の作品にしてはちょっと珍しい、ストレートな悪意と、生々しい激情がほとばしるようになっていきます。なかなか新鮮だなと思いました。
B子さんというかこの理佳さんが怖いのなんの。
大きい方の伊万里に執着し実力行使に出たり、明らかに束縛しようとする。
けれどこの彼女もまた、孤独な一匹の狼だったのかなあとも思ったり。
「またひとりになっちゃったなぁ・・・」という大伊万里の言葉にいっきに態度を変えたのは、演技がかりすぎてるくらいの彼女の本当の想いの発露。
こんなに近くに自分がいるのに、彼女を自分を「1人きり」と言っている。どんなに優しい言葉と場所を与えても、彼女の心はそれを求めては居ない。いつだって別の誰かを欲しがった。
理佳さんもついに限界が来たということか。怒りをぶちまけてみせるも、それは彼女が最後にした「嘘」。真実と後悔と激怒とちょっとのやさしさを織りまぜた苦味のある嘘です。
理佳さんは確かに怖い人なんだけど、嫌いにはなれないんですよね。歪んだ愛し方しかできないことも、彼女の狡猾なのに不器用な部分が強く現れてるみたいで。
悪役として描かれはしても、ちゃんと最後にはそこから一歩抜け出します。
巻末描きおろしにも彼女は登場しており、彼女にもどうか幸せになってもらいたいものだなと。
彼女のようなキャラクターって扱いが難しそうですが、かなり上手くハマっています。
要所要所でくらーいモヤモヤがやって来て、そのたびにドキドキさせられましたが、でもやっぱり主人公2人のイチャイチャっぷりにはほっぺた落ちそうな勢いでニンマリしてしまう。
ラストシーン、そして巻末の描きおろし漫画はまさに極上と呼びたい仕上がり。
第1話のころから2人揃ってアタフタしながら縮めていった関係の結論は、単行本の最後のページにて出ます。こんなにギュッと握れば、もう離れることだって出来ない。
とりあえず自分は最高の笑顔で単行本を読み終えることができたのでした。最高!
そしてタイトルの「ロンリーウルフ・ロンリーシープ」。
これにも結構含みがあって、読んでいくうちにそこを意味してるのか、あそこの繋がるのか、と色々楽しむことができました。誰が誰にとっての羊かな、狼かな、とかなんとか。
小さい伊万里の風貌や性格からして彼女が羊なんだろなーなんて思いましたが、描きおろしを読んでみたらケロとした顔で「私の方が夫です」とか言っててもうなんなのこの子!ウボァー
まぁ誰が羊だ狼だって決めてしまうより、定義と想像の幅を広げるのがベストか。
どっちにしたって、最高にかわいらしい2人なのだから。
濃ゆい恋愛が展開される百合作品ではありませんが、優しくあっさりとした中に深いメッセージ性、痛みや孤独などネガティブな要素も強く打ち出されており、けしてさらりと読み流せるものではありません。
それでもこのふんわりとした幸せな雰囲気で、最後にはちゃんと笑顔になれる。
百合と聞いて一歩ひいてしまうような人にもお勧めしたい一冊。
不器用で弱虫な女の子たちが、精一杯に手を伸ばして進む、愛のお話です。
『ロンリーウルフ・ロンリーシープ』 ・・・・・・・・・★★★★
ほんわか甘いラブコメにダークな色が混ざる。一巻完結百合作品。最後はちゃんと笑顔。
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