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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

[漫画]恋人ごっこは屋上で。「シュノーケルはいらない/ねこかんロマンス」

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唐突になんの更新してるのかてそりゃサークル『ねこかんロマンス』の新作として発表された「シュノーケルはいらない」が最高だったという話がしたいからなんですよ。
ゴールデンウィークに開催されたコミティアにいった最大の目的はこれだった(2巻)。大好きなモリタイシ先生もきてたけど今回ばかりは初動ねこかんロマンス一択だった。ぶっちゃけ開幕最初に買ったの俺な!

いきなり熱くるしいオタク口調まるだしで書き出してしまったけれど
本当に「シュノーケルはいらない」という作品が素晴らしくて久しぶりに本の感想をブログにかきたくなったのです。
まぁなにはともあれ、な。サンプルこれです。




どうでしょうか。“”息吹“”、感じ取っていただけたのでは。ビンビンくるでしょ。
目に見えない暗黙のルール、スクールカーストの窒息感。日常からはみ出した愛すべき堕落。何かを紛らわすためだけのセックス・・・この腐ってる感じ!!そして歪んだ少年少女の関係!!大好きなヤツジャンル!!

もともと、ねこかんロマンスさんは前作「ヒロインになれないキミとぼくらの恋」でどっぷりハマったサークルさんでした。こちらも切ない恋愛模様とコミカルなキャラクター描写が冴える一品でしたが、世界観を共通とした新作「シュノーケルはいらない」がジャストミート。かなりヘヴィな人間関係を描き、主人公とヒロインの間にさえ差別的な感情が存在している。主人公がヒロインに向けて「お前って惨めで見てて飽きないわ」と楽しそうに言うわけだ。それを曖昧な、笑顔で受け止める少女。ひどい。まさに息が詰まる世界観。そして「息」こそこの作品のキーワードとなっていたりする。

スクールカースト上位と軽薄な少年、速水。
カーストで言うなら最下層、いじめられっこの燈乃。
とあるきっかけから、屋上で燈乃の秘密を握り、また彼女から好意を寄せられていることを知り、からだだけの関係を結びます。
日々、暇つぶしとして行われる、搾取のようなセックス。
しかし速水に少しずつ変化が訪れていく。
見下していたはずの女にいつしか心を許し、もてあそんでいたはずが心配になり、全部飲み込む彼女を恐れるまでになる。精神的なイニシアティブを握られていく主人公!お互いが自滅していく沼関係!!ヒューたまらねぇ!

ネーミングの部分で言うなら仕掛けがあって、主人公の速水はそもそも苗字にも入っているように水中の住人なんだろうと思う。
水中というのは本来、呼吸ができない場所。例えば教室。
対するヒロインは水中にはいられない。陽や炎といったイメージに繋がる「燈」を苗字に持っていることからも、速水との立場の違いが明確に打ち出されている。
教室から抜け出し、ようやく屋上に逃げ込んだ時にだけ、呼吸ができるという少女。
対して彼女にとっての「水中」の住人である速水。
まずここのポジションが前提としてあり、そして本作の面白さは、このポジションがみるみる崩れていく、変化していくことにあります。
2人だけの屋上の世界。閉じた秘密、牢屋みたいな楽園、透明なきみ、諦めの瞳。



イベント配布のペーパーで明かされた作者公認イメージソングである。お察し。
ペーパーみた瞬間「これは反則でしょ」ってなった。




ニヤニヤが止まらないのが1巻のラストシーン。
見下していたはずの少女にいつのまにか呑まれてしまった。得体のしれない怪物のように、微笑む少女に怯える少年。
少女が口にする、諦めたような言葉もするどく突き刺さる。
「わたしがここから落ちたって 速水くんは普通に生きていけるでしょ」
突き放されたように感じるのは速水の方だ。しかしこのセリフの並々ならぬ痛みに震えが出る。その言葉はどちらを傷つけたのだろうか。どちらも、だ。

2巻の冒頭からは燈乃の独白により、彼女がどのようにして速水を“手中に収めたのか”が明かされる。女の子の巧妙な罠にドキドキするとともに、そうまで自分を曝して傷めつけてまで自分を「誰かの恋人にする」ことを正解にしたい切迫した感情にも胸が締め付けられる。
彼女は思い通りに、からだだけ恋人に成ることができた。
たとえ彼が自分のことを、どんなに酷く想っていたって。どんなに見下されていたって。彼といる屋上の時間だけが酸素をくれた。
自分を救うための犠牲として自分を差し出そうという彼女の精神性こそが
速水に加虐心と、恐怖と、そして最後に救いを与えてくれる。そういう不思議な連鎖や噛み合わせが、なんとなく、この2人らしいなってとても好きになれる。

最終的にはやや共依存的な関係性で決着するのも、ダメ関係性大好きマンである俺のハートを掴んで離さないんですが
『親密なる他者の不在』という心の空白に、互いの存在感を響かせることでつながった2人だ。愛し方をしらない、守り方すら、優しくすることすら不器用だった。互いに酸素を分け合おうという状態も愛おしいものであるよ・・・
とはいえ、そんな彼らを暖かく見守ってくれる友人たちもいる。
2人だけの楽園ではない。息のできない水中でもない。
れっきとした現実の上にたち、彼らは生きていけるようになったのだろう。

酸素というのは、心許せる誰かの存在そのものなのかもしれない。
ゆえに鮮やかに「シュノーケルはいらない」というタイトルが回収されていく。

ここまで「シュノーケルはいらない」にどっぷりハマってしまったのは、主人公とヒロインの造形、精神性、関係のすべてが完全にドツボだったから。
読めば読むほど引き込まれる沼地のようなズブズブコンビ。
けれどちゃんと最後はいい感じでストーリーも走りだし、いい感じで決着してくれる。
そこらへんはもう読んでくれ!頼んだぞ!https://nekokanromance.booth.pm/items/241720?utm_source=pixiv&utm_medium=promotion&utm_content=work-item&utm_campaign=pixiv-promotion

偶然か意図的か、1巻と2巻の表紙の色味を比較すると、2巻のほうがより水面に近づいているような明るい色調となっており、こういう部分にも愛を感じる。
いやほんと、救いある形で終わってくれてよかったですね・・・
ちょいとビターな味わいある、さわやかなエンディングでした。ほんとめっちゃオススメだからみんな何とかして読んでみて欲しいんですよ。コミティアはぼちぼち参加してきていますけども、これまで買ったコミティア本でも1,2を争う面白さだった。

ここで俺の「シュノーケルはいらない」イメソンを貼ります!よろしくお願いしまーす!(ッターンッ)


水の中のナイフ


フリージア

脳内ではすでにOP「水の中のナイフ」ED「フリージア」で映像化しているよ。
個人的には完璧にART SCHOOLなんだよな~~~~~
結ばれたとしても、どこか恋愛感情というものを客観視してすこし低体温のままっぽい感じ。
あとMr.Featherとか単純に、PV的に使われたら本当に泣けそう

以上!ねこかんロマンスさんは夏コミ受かればクロスチャンネル本出すらしいぞ!この2016年の夏に!!すげぇ買うしかねえ!!!
ともかく今後ともぜひ追いかけて行きたいです。




余談ですがダーク系の過去作品で



こちらも最高オブ最高ッて感じで最高にオススメ。とにかく暗い。追い詰められすぎである。
会場で購入した時から大好きだったけど今はネットで公開中です。

[漫画]2016年3月単行本の購入予定

2月の購入予定は忘れてました

03/07 講談社 アフタヌーンKC 甘々と稲妻 6 雨隠 ギド
03/07 講談社 アフタヌーンKC 氷上のクラウン 1 タヤマ 碧
03/07 竹書房 バンブーコミックス のみじょし 2 迂闊
03/11 講談社 KCデザート 僕と君の大切な話 1 ろびこ
03/12 双葉社 アクションコミックス 青春のアフター 2 緑のルーペ
03/18 講談社 ヤンマガKC 亜人ちゃんは語りたい 3 ペトス
03/18 集英社 ヤングジャンプコミックス ノー・ガンズ・ライフ 3 カラスマ タスク
03/18 小学館 少年サンデーコミックス 初恋ゾンビ 1 峰浪 りょう
03/18 白泉社 花とゆめコミックス 恋は人の外 1 南 マキ
03/23 講談社 モーニングKC 惑わない星 1 石川 雅之
03/25 集英社 マーガレットコミックス 群青にサイレン 2 桃栗 みかん
03/25 集英社 マーガレットコミックス ハンキー・ドリー 1 渡辺 カナ
03/25 スクウェア・エニックス ビッグガンガンコミックス クズの本懐 6 横槍 メンゴ
03/29 白泉社 ジェッツコミックス 3月のライオン昭和異聞 灼熱の時代 2 西川 秀明/羽海野 チカ
03/30 小学館 ビッグ コミックス かなたかける 1 高橋 しん
03/30 少年画報社 YKコミックス アオとハル しおや てるこ
03/31 白泉社 書籍扱いコミックス 14歳の恋 6 水谷 フーカ
03/31 白泉社 書籍扱いコミックス ディアティア 4 ―トゥハート― かずま こを
03/下 新書館 ウィングス・コミックス かんぺきな街 売野 機子

アニメにもなる「甘々と稲妻」新刊はマスト。てっきり重大発表は実写化だと思っていたw
期待の新作「氷上のクラウン」。作家さんの四季賞受賞作がとてもおもしろかった記憶。
ろびこ先生の新作「僕と君の大切な話」!!となりの怪物くんという傑作を生み出した後の、久々の新作。
「青春のアフター」、いちおう連載分でも追えているけれど、どんどん闇深まる・・・。
「初恋ゾンビ」 もようやく1巻発売日。超傑作「ヒメゴト」の後も、いい恋愛を描く作家さんである。
侮るなかれ、パンツはなくともラブコメはなくとも熱い青春マンガだ「群青にサイレン」。
追っかけている渡辺カナ先生の新作「ハンキー・ドリー」も見逃せない。ハズレ無し作家。
久しぶりの「クズの本懐」も期待したいところ。巻数を重ねるごとにクズ度マシマシ
高橋しん先生の新作「かなたかける」、近年の新連載では1番好き。でも奥たんはまだかな?
みんなのアイドル楽園くん発コミックス「14歳の恋」「ディアティア4」!!凄いことになってんぞ!
そして繋がる売野機子。「かんぺきな街」。タイトルからして惹かれる。

そんな3月。新しい職場も徐々に忙しく仕事に追われだした・・・!

[漫画]2015年下半期面白かった漫画BEST10

2016年になってもう結構経ちますが、
2015年の下半期の一般向け漫画からBEST10をまとめました。
自分自身、半年ごとに読んだ漫画を振り返るのってなかなか楽しいものです。
まぁさっそく↓↓↓

ちなみに2015年上半期はこちら



10.ハピネス/押見修造

ハピネス(2) (講談社コミックス)ハピネス(2) (講談社コミックス)
押見 修造

講談社 2015-12-09
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1巻、2巻とこの下半期に発売された「ハピネス」。
ダークファンタジー少年漫画。非日常へとはみだしてしまった主人公の運命を描いた作品で、押見カラーにじみ出まくりの威圧感・異物感を堪能できる一作。
「惡の華」ファンとしては、同じ別冊マガジンで連載がはじまったこの新作にも期待値大だったわけですが、予想通りどっぷりとハマっています。
人の生き血をすする化物に噛まれてから様子がおかしくなった主人公。もともとクラスの日陰者だったのに、血の臭いに反応したり突如暴力的になったり、ロクに日常生活を送れない有様に。
物語を彩る多彩な演出表現もみごたえがあります。特に2巻のあの覚醒シーンなんて、漫画を読んでいてなかなかこんな悪寒を感じるってことそうそう無い。
狂気で沸騰する視界。怪しく艶やかに光る夜景。憂鬱な空気、歪んだ日常、自分の中に眠る怪物の血・・・!!むせ返るような中2スメルがたまらない!!
グチャグチャに内側をかき回される。「読者を揺さぶる」ことに関して、本作はすごい攻撃力を備えているのです。この魅惑の表現を味わうために読んでいると言ったっていい。

それと、おそらくヒロインである五所雪子ちゃんが猛烈にかわいい・・・。あのフランクなしゃべりとか、なのにクラスでは浮いてるだとか、、あの不器用な懐き方とか・・・。
押見先生のヒロインは常磐さん然り、なんでこうもツボをついてくるんだろうか。

文句のつけようがない傑作である「惡の華」でしたが、ふとかすかに感じたのが巻ごとの微妙なキリの悪さ。その点「ハピネス」は意識されてかどうなのかは不明ですが1巻2巻それぞれバッチリな幕引きである。特に2巻のヒキなんてスゴい。追うなら今!!

・・・それにしても、押見先生の描く女の子の泣き顔って、絶妙に小汚くて、たまらなく愛おしくなるのだ。



9.あの子に優しい世界がいい/あおのなち

あの子に優しい世界がいい (IDコミックス)あの子に優しい世界がいい (IDコミックス)
あおのなち

一迅社 2015-10-23
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これは個別に記事を書いていますので、詳しくはそちらへ。
恋のような魔法があるなら『あの子に優しい世界がいい』
レベルの高い短編集で、コミティアぢからがギュッと詰まっている一冊!
収録作のとくに「二人で明けて」「彼女の破片」が大好きで、たまらない。
BL/GLがテーマのいわゆる同性愛者を描いているんだけれど、優しいだけでなく卑怯だったり冷ややかだったり、視線が面白い。なのに包み込むような甘さできちんとラッピングされている。関係を肯定してくれる言葉がある。
スタイリッシュでムダのない画面作りと、ポエミーなモノローグで更に大好物度マシマシ。次の単行本をはやく!!ください!!



8.世界鬼/岡部閏

世界鬼(11) (少年サンデーコミックス)世界鬼(11) (少年サンデーコミックス)
岡部閏

小学館 2015-08-12
売り上げランキング : 51587

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サイケデリックメンヘラ漫画の帝王「世界鬼」も無事完結。
ぶっ飛んだ展開の連続でした。読者を裏切り、時に不快にすらさせる凶悪のストーリーにひたすら振り回された全11巻。俺は好きだけどこれを好きだという人とあまりお近づきにはなりたくない。ヤマアラシのジレンマ的なやつだな(違う

「最終兵器彼女」にブチあたって漫画の面白さにはまり込んだ人間なので、いつまでたってもセカイ系の息吹にやられたいという願望が抜け切れない自分ですが、14年から15年にかけてはこの「世界鬼」でその欲望を満たしていました。
なんていうか、この意味不明なスケール感とか、簡単に命が消えていく絶望感とか、そのなかで刹那的に駆け抜ける少年少女の人生とか、たまらないですよね。「キミ」と「セカイ」を天秤にかけるお約束もばっちり。
問題なのが、この漫画でメインを張る連中がみんな本当に根っからの狂人だということ。
いとも容易く、誰か別の命を犠牲にして目的を達することを選択できるやつら。そして主人公は救世主ならぬ“終世主”だ。

最終巻では、正直言って普通の作品だったら「こんな結論アリかよ」って呆然とする結論がくだされる。
「所詮、赤の他人でしょ?」ってことをこんなにあっけらかんと言えてしまうこの作品は異常だ。異常なのに、それを認めてくれることで、軽くなる心も確かにあったりした。
最後の最後までブレない作品だった。一見、晴れやかな締めくくりだ。数えきれない命を足蹴にして輝くハッピーエンド。最終巻のカバー裏は必見。
間違えてしまうことにためらいがない物語でしたね。この意味不明な、とびっきりのエンディングをぜひ読んで欲しいです。僕らはしょせん、両手で届く範囲にある命しか、その重さをはかれない。

自分にとって要る命と要らない命を瞬時に切り分けていく痛快さと、無理解の苦しみ。常に(読者に)つきまとう罪悪感もまた素晴らしい。
命をかけたデスゲームはジャンルのひとつとして確立されていますが、中でもこの作品がやったことはひとつの道標になると思う。
いつまでたってもこういうのが好きなんだなぁ。



7.ワールドゲイズクリップス/五十嵐藍

ワールドゲイズ クリップス (4) (カドカワコミックス・エース)ワールドゲイズ クリップス (4) (カドカワコミックス・エース)
五十嵐 藍

KADOKAWA/角川書店 2015-09-04
売り上げランキング : 69996

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すごいポエム漫画。1巻~3巻も十分に面白かったけれど、最終巻にしてすさまじい濃度でポエムが撒き散らされている。いやもう本当にすごい。こんなに口数の少ない、ただそこにあるだけの世界を漫画にできるんだ。
最後の最後に「やりきった!!」巻のある見事な最終巻でした。惚れ惚れ。

全13編。それぞれにつながりはほとんど無い。瞬間、断片、破片。
人物同士の関係や感情が希薄で、あてもない言葉と、淡い色彩の風景、輪郭のみえない日常で無気力に切実に生きていくキャラクターたち。
切り裂かれそうな喪失感だったり、肩の力のぬけるぐったりとした無気力なやりとりだったり、なんとも独特なテンポに物語が支配されている。
基本的にはボーイ・ミーツ・ガール的なつくりになっているんだけれど、さきにも書いたようにみんなドライな感覚で生きている。熱を持ったキャラクターが極端に少なく、ゆえにぬるい空気のまま交わされる愛の言葉やキスや約束といった、大切ないろんなものが、不思議とやさしい読み心地を与えてくれる。

単行本中盤、とくに「一人遊び」シリーズから最終話までの流れは絶品。
あいまいなものが、あいまいなまま、大切になっていく。
作者さんが思春期の空間の住人たちに、ひじょうに愛着を持って描いてくれていることがよく分ります。
コミックスの作りもよく、デザインの良さも相まって「ずっと本棚においておきたい」欲を掻き立てられる。ヤングエースというエンタメ重視な雑誌からよくこんなのが出てきたなってくらい挑戦的で、いい意味で空気以上のものではない作品。大好き。
10代の不可思議さ。理不尽な感情。だれかの体温。物憂げな夜。
漫画という媒体で詩を詠むと、こういう形になっていくんだ。

「エスカレーターの30秒 頭の中で 窓の外の世界を燃やした」



6.飴菓子/群青

飴菓子(1) (KCx)飴菓子(1) (KCx)
群青

講談社 2015-09-07
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ITAN連載の群青先生の新作「飴菓子」。これがなかなか、スゴい。
種族の結びつき。呪いのような宿命によって、依存関係を強制させられてしまうオオカミと『飴菓子』と呼ばれる妖精のような存在。そこに生まれる悲劇的な物語、強い愛情。
オオカミは成長すると一時期、すべての食物を受け付けなくなる。そうなると、オオカミたちは飴菓子を探す。自分だけの飴菓子を見つけ出し、自分の血を飴菓子に与えていく。約一年の飢餓期の終わりに、その飴菓子をオオカミは食らう。
一年間、極限の空腹のなかにいながら自分の飴菓子を守りぬくオオカミ。そうしていく中で、飴菓子との間に単なる食べ物として以上の感情を抱いてしまうこともある。
こどもの頃に読んだ「あらしのよるに」を、よりファンタジックに、より残酷な運命を背負わせたような印象。つまりまぁ、命をやりとりする愛のお話なので、これがもう重い重い。

見た目からすると少年のような狼と、はかなげな妖精の少女という組み合わせ。
しかし男女という性別をこえた別の、別次元のオリジナルな関係性が築かれる。
単なる恋や愛とも言いがたい。命を預け合うというすさまじい環境下に置かれるからこそ紡がれるドラマがあり、その果てに避けられない離別が待ち受けているわけだから、読み返すことで言葉ひとつひとつが甘酸っぱくて堪らない。
設定の勝利。だけにとどまらず、丁寧に言葉を探しだして物語に乗せている、魂のこもった仕事を実感させられるネーム力もお見事。インパクト絶大な名文句が飛び出しまくる第一話、第二話でいっきに心掴まれます。

単行本の構成も見事で、過去編から始まりそして現代へとストーリーは結ばれていく。
どう話を進めていくのだろうと途中気になったんだけど、現代編に進んだことで世界観も開けてきた。そしてあまりに飴菓子をめぐる運命が残酷すぎてゾクゾクくる。
可憐ながらに命を軽々しく扱われる飴菓子。
だからこそ、彼女たちは自らを捧げることに躊躇が無い。そういういきものだから。

恋でもなく愛でもなく、ただ所有欲と空腹に騙された絆に過ぎないのかもしれない。けれど理由はどこに置いてきたって、こんなに儚くて胸を突き刺す命の物語を見逃すわけにはいかないのだ。
「あなたに 好きって 言ってもいい?」なんてセリフがまさにこの作品を象徴する。その想いを正しく果たすための生き方はどこにもない。添い遂げるなんて夢は見ない。飴菓子を愛するなら、彼女を食べれば良いのか、共に死に絶えればいいのか、それとも。答えはなんだ。



5.夕方までに帰るよ/宮崎夏次系

夕方までに帰るよ (モーニング KC)夕方までに帰るよ (モーニング KC)
宮崎 夏次系

講談社 2015-09-23
売り上げランキング : 7339

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センチメンタルな風景をコミカルに不可思議に切り取る宮崎夏次系。
こういう作家にハマると俺にもヴィレバンな血流が巡っているのかと実感しますがそれがさておき、やっぱりこの作家さんの澄んだ感性はすさまじい。
「どこか壊れてしまった人々」が「明らかにネジ曲がった世界」で暮らす。
そんな風景をずっと描き続けている作家さんで、一度ハマったら病み付きになる。ずっと愛して止まない。
シュールなタッチで描かれる衝動や哀しみの表現力といったら。

最新作連作集「ホーリータウン」と同時に発売された本作。こちらは実は2010年から連載されていた初期の作品になります。
主人公の家庭はすでに崩壊している。
両親はカルト宗教にのめり込み、まともに会話は出来ない。
優しかったお姉ちゃんはゴミの中に引きこもった。
家族。血を分かつ世界で最も濃い繋がりでさえ、時に断絶する。
引きこもった姉を救いたい主人公は、姉のアパートの管理人と出会う。

主人公はかつての姉のキラキラした姿に今なお鮮明に憧れていて
だからこそ、今の哀れな姉の姿を心配しながら、実は少し、あざ笑ってもいる。
姉の取った引きこもりの手段だって、ダンボールとゴミをかき集めた中に潜り込むことだった。そんな愚かな、そんなチャチな方法で、自分を守るしかなかった。
自分を守るための空間なのに、どうして一人の時間というのは、ときに自分を傷つけるのだろう。
拒絶しかない。憧れの姉を想い、今の姉を拒絶した。姉を心配しにやってきた弟を彼女は拒絶した。
なのに物語は拒絶に拒絶を重ね、最終的にはすべての帰るべき場所を失ってしまう。
それなのに、優しい感触を残した祝福があり、不思議な読後感で幕を閉じる。
ヒリヒリとした純粋な魂が、ネジ曲がった世界で、薄汚れた空気で、誰かの悪意で傷つけられながら放浪し、たどり着く夕暮れ。
ラストシーンと「夕方までに帰るよ」というタイトルを改めて噛み締めた時、思わず泣けてしまう作品。



4.死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々/阿部共実

死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々(2)(少年チャンピオン・コミックス・タップ!)死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々(2)(少年チャンピオン・コミックス・タップ!)
阿部共実

秋田書店 2015-12-08
売り上げランキング : 8307

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阿部共実先生の最新作、タイトルが長くて難易度高いヤツ第2巻。
方向性としては「空が灰色だから」と同じスタイル、キャラクターを入れ替えたオムニバス連作。
9作の短編を収めており、なんとなく文学的な作品が重点的に収められている気がしますね。もちろんコミカルで可愛らしい作品もあったり、メランコリックな思考のループに絡め取られそうになったり。阿部共実先生らしさが1巻からさらに全開ダダ漏れになっています。
そしてラストを飾る、研ぎ澄まされた、美しい劇薬。

短編集なので好きなのをつらつら書いていくとまず「友達なんかじゃない」。
悪意に立ち向かうことができた二人の友情のお話。ガラの悪いギャルが実は不器用で依存体質なただの女の子だとわかってニヤニヤしてしまった。
のと同時、いつだってこんな清らかな二人を引き裂こうとする悪意がそこらに落ちているだと思う。
「8304」は男の子ふたりの切ないワンシーンを描いた作品。名作。
非常に実験的かつ哲学的な表現が多用されており、ストーリーの魅力を大きくふくらませている。
それでいて読んでいるとコマ割からセリフの並びから、とにかくテンポがいい。ディスコミュニケーションとその裏腹の想いまで、ひといきに読ませる流れの良さ!
永遠というものを見せてもらったような、そんな気持ちにさせてくれます。
そしてラストを飾る破滅的な短編「7759」。
久しぶりに「ヤバいのを読んでしまった」という気にさせられた。
どこまで行っても、歪んでいる、救いがたい。ミステリー仕立てになっていてそういうふうにも楽しめるし、甘美なる死への憧れというふうにも読める。
平凡な日常の描写に隠れ潜む、死への伏線。生命の賛美を謳いつつ、真っ向から死へと歩んでいく。
言語化できない魅力がありますが、「8309」「7759」ともに狂気が滲んでおり、さらに言えばやるせなくも美しいセンチメンタルがあって、やっぱり阿部共実先生は天才なんだよな。



3.僕だけがいない街/三部けい

僕だけがいない街 (7) (カドカワコミックス・エース)僕だけがいない街 (7) (カドカワコミックス・エース)
三部 けい

KADOKAWA/角川書店 2015-12-22
売り上げランキング : 110

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1巻の時の感想
トラウマに立ち向かうループ・ミステリー『僕だけがいない街』1巻
アニメも大人気なようで嬉しい「僕街」。実際出来いいですね。
しかし原作漫画の盛り上がりもすさまじい!クライマックスに向けてストーリーが疾走していく。
1巻の時に感想を書いてからうちではなかなか更新出来ていませんでしたが、旬な作品になりましたね・・・!
2015年下半期には6巻7巻と発売されていますが、個人的には6巻で冗談抜きに泣いてしまった。加代ちゃん・・・良かった・・・!!!!
黒幕の種明かしがされ、主人公の大ピンチ、そして最終章へ突入!という漫画として1番に盛り上がる場面に来ているわけですが、これまでに配置されてきた伏線がいっきに収束してストーリーとつながった時の快感といったらスゴいですよ。サスペンスものの醍醐味、見事にハマっている。
6巻の加代は感動で、7巻第39話の愛梨のあのシーンでは切ないやら甘酸っぱいやら。読んでいて感情をグチャグチャにかき混ぜられてしまう。揺さぶられてしまう。
主人公たちの感情がダイレクトに読者に突き刺さってくる。後悔も、歓喜も、執念も。
アニメ効果もあって単行本も売れているようですが、たんにストーリーを追うだけでなく漫画としての魅力にも富んでいるのです。
演出も素晴らしい。まるで小説のように長いモノローグが続く回があると思ったら、モノローグをしゃべっていたキャラが途中からすり替わったり。
すぐそばまで忍び寄る殺意の威圧感も、ビシビシとページから放たれてくる。
ストーリーの魅力だけでなくこの表現力も愛される理由でしょう。
「正統派で面白い漫画」といった風に感じます。

原作はいよいよ完結が近いとのことで、次の8巻が最終巻になるのかな。
アニメも放送中で実写映画も3月に公開。いまを羽ばたく人気作品になってきた中でのスマートな完結もキレイでいいですね。最後まで楽しませていただきます。



2.デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション/浅野いにお

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 3 (ビッグコミックススペシャル)デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 3 (ビッグコミックススペシャル)
浅野 いにお

小学館 2015-08-28
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コミックス第3巻にして、物語がグッと動いた一冊。
詳しくは個別記事で書いたのでそちらにでも。更新モチベがMAXになった。

感想→君がいるならたとえ世界が終わる日も。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』3巻

平和だと信じきっていたはずの日常が突如崩れさる。
欠けたまま高校生活は幕を閉じて、次の舞台へ。静かに移り変わるかと思いきや、3巻の一番最後にまた衝撃。
サブカルヲタが寄ってたかるだけの漫画じゃねーぞ!可愛らしさと恐怖が共存する世界観、シニカルな視線、物語のうねり。一級品の面白さです。



1.ハレルヤオーバードライブ!/高田康太郎

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あ゛゛~~~~~~最高だ~~~~~~~~~~!(前回同様)
恋と音楽の!!バンドストーリー!!「ハレルヤオーバードライブ!」万感の最終巻!!!
実際14巻でストーリー上のラスボス的存在との決着はついたわけで
この最終巻、じっくりと丁寧に奏でられるエンドロールは、恋と音楽に彩られた彼らの青春をみごとにその未来へと送り出す、素晴らしいものだった。
バンド漫画としての面白さ、ラブコメの破壊力、メキメキと画力演出力が向上する作家さんの成長、青春まるだしのクッッサい言葉の数々・・・どれも最高だったと言える!
6年に及んだ連載を締めくくるにふさわしい、祝福に満ちた最終巻。
なんでこんなにキラキラしているんだろうか。スポットライトを浴びるステージはもちろん、練習風景や誰かと一緒の放課後だって、眩しくて仕方がなかった。みんなかっこ良くてかわいかった。楽器演奏してる女の子ってセクシーだよな。どうでもいいけど。
リフレインのように過去のシーンを描き直すようなシーンがあるのも素敵。恋に決着を付け、そしてあるがままの熱を抱えて未来へと走りだす。

まるっと一冊のエンドロールは、最後のボーナストラックまで必聴。
多くは語らず。最終巻の感想とかどうやってもネタバレじゃねーか。
けどみんなあるべきところに収まった。100%の祝福の想いで読み終えることが出来ました。




麗ぁあぁぁああ~~~~~~~~~~~~

締めの挨拶となります。ありがとうございました。

[漫画]そのカーテンコールを待っていた……!『ARIA THE MASTERPIECE』1

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刊行がスタートしたARIA完全版シリーズ。
リアルタイムで青春時代楽しんだ漫画の完全版なり文庫版なりが出始めると「歳くったなぁ」と思わされますが、ARIAのコレも然り。
今回の更新ですが、ARIA完全版の記事というより、発売記念にARIA関連の話をつらつらしたいがためにしています。もし完全版の中身とか仕様が知りたい人がいたのならすみません。

蒼のカーテンコール http://comic.mag-garden.co.jp/aria/books.html

●完全版が出るのって嬉しいよね

ARIAにかぎらずの話。完全版もちろん嬉しい。当時大好きだった作品が、今なお愛され続けている証でもある。今も忘れられずにある、その歓びはすごいです。
リマスターで再発売されるような作品、業界全体で見たら稀も稀なわけで。

「新品」として大好きだった作品を改めて書店のレジに持っていけること、これも幸福です。このARIAの時や、藤異秀明版「真・女神転生デビルチルドレン」漫画版の時にも思ったことですが、出てくれてありがとう、あの時はありがとう、みたいな気持ち。

俺は小中学の時なんかは結構、まぁあんまり言葉にすべきではないけれど、古本屋を利用していて、当時古本で買ったコミックスが今も本棚に入っていたりする。
中古問題はけっこう火種になりがちだからデリケートに扱いたいんだけど、実際、俺は使っていた。
「とりあえずブクオフで」と1巻買って面白くてそれから新品、みたいなことよくやっていました。
中古で買って、そこからその漫画にドハマリしたのに、新品に買い直すところまでは行動に移せず今に至り、罪悪感のようなものがあります。

完全版で嬉しいことって、いま改めて新品として購入することで、そんな自分の罪悪感をすこし拭うことができることなのかな、ということを今回感じました。一般論ではなく自分の話として。
好きなものにちゃんとお金を払えるということは幸せなんだよな。やっとこさ働いて自分のお金で買い物できるようになって、しみじみ思います。
特にARIA完全版は仕様も豪華で1冊あたり1300円。それが全7巻構成!けして漫画としてはお安くない。でも間違いなく最後まで購入するし、十分に価値がある。そして恩返しのような気持ちにもなる。

●過去最高に盛り上がる俺の中のARIA熱

昔よりも今だ!いまARIAはあついんだよ!!
というかここ半年くらい、自分の中でARIAの存在感がめちゃくちゃ大きくなりました。
昔読んでたしアニメも見てたけど無事にキレイに完結したし、「いい作品だよね」という捉え方をしたまま自分の中で評価が終わっていた。逆に言えばそこまで深く心に食い込んでいたわけではなかったと言える。
それが変えられたのはコイツである。



映画版『ARIA The AVVENIRE』!!!

原作完結から7年が経過し2015年に、まさかの新作映画ですよ。新作アニメ3本からなり、今度こそ本当にARIAのグランドフィナーレを飾った。
それと、この映画のパンフレットがすさまじかったのです。
なんせ天野こずえ先生による、完全新作漫画が40ページ超えの大ボリュームで掲載されている。
このパンフレット漫画と映画本編の、そのあまりにも満たされた幸福な世界に、20代となった今の俺はすっかり撃ちぬかれてしまいました。「アフターストーリー」大好きな人間としては、大興奮まちがいナシの内容!!
それときっと10代のときとは感覚や嗅覚がかわっているんだろうなとも思う。
昔よりARIAが好きになっていた。
いまとなってはとらのあなとかでも置いているのを見かけるけれど、
このパンフ劇場ではすぐなくなってしまって、再販目当てで劇場見にいったりしてました。それくらい価値がある。

俺はアニメ3期は実は見れていないんですけど、原作はキレイに完結していたし、最初この映画もそこまで気になるものではなかったです。レンタルしようかなくらい。(BOX収録になったので結果的にはレンタルはたぶん出来ないので劇場で見たほうが良かった
映画を見る前、パンフを読む前、「原作のあのエンディング以上のなにかあるか?」と、実は大した期待はしていませんでした。

知人から「映画のARIAは、“いまは昔ほどではないけれど、昔ARIA好きだったヤツ”ほど無理やりにでも見たほうが良い」みたいなオススメをされて、それって俺じゃん、と見に行きまして、それからみごっとに、やられたワケです。
『好き』を深める映画であり、パンフ漫画でした。

「あまんちゅ」アニメへの接続だとか、原作完全版とアニメBOXの発売タイミングをあわせてお祭りにしようとか、きっと色々戦略はあっての事なんだろうけれど
2015年に勃発したARIA祭のおかげで、当時よりはるかにアツく、ARIA熱が荒ぶっているのです。

●完全版そのものの出来がいい

話をもどして完全版の話。
描きおろしカバーと扉イラスト、変色しづらい上質紙、連載時のカラーページは完全再現、あたりが特徴。あと単純に版も大きくなっている。本棚に入れると流石に迫力がある。
サイズが大きくなったことが個人的に特に良い。
ARIAシリーズのみならず天野こずえ先生ならではの贅沢かつ効果的な見開き演出、ページを開いた瞬間にそのページに引きずり込まれるような、あの惚れ惚れするほどの没入感が版が大きくなることでさらに強くなっているように思います。
広々としたネオ・ヴェネツィアの景色を爽快に、そして豊かに楽しめる。
・・・オビをいまふと見たら、全員サービスみたいな全巻購入特典もあるみたい。
それとは別に、各種店舗では購入特典もあり。例えばメイトでは全巻購入でタペストリーがつくとかになっているので気になる人はそちらもチェック。(自分もメイトでマラソン予定

あと地味にいいのが、「AQUA」と「ARIA」がタイトル変わらずに一緒になった点。
この第一巻も原版AQUAの1巻~2巻が収録されています。
久しぶりに読み返したら、この1巻収録分だと「水没の街」「夜光鈴」あたりのノスタルジーな空気がほんとたまらないですね・・・なんて神秘的で甘酸っぱいんだ。
そしてペア昇格のエピソードは、あの映画を見た後なので、おもわず泣きかけたり。

一連のARIAプロジェクトの名前にもなっている
“カーテンコール”
それにふさわしい、愛を感じる出来栄えとなっていると思います。
もう今後これ以上に豪華なARIA本は出てこないんじゃないかなぁ流石に。

そもそも俺がこの完全版シリーズを揃えようかと決意したのかって
そりゃ映画で熱が昂ぶりまくっていることは一番なのですが
あの劇的に素晴らしいパンフ漫画が、この完全版最終巻で、本編から直接繋がるかたちできっと収録されてくれることだろうと期待しているからです。
あんな素晴らしい漫画を、一部の人しか手に取れないパンフレット収録のみにとどめておくのはもったいないでしょう・・・!というかここで完全版に収録しとかないと将来的には読む手段がめちゃくちゃ減るぞ!
仲間ハズレなのも悲しいので番外編ではなくちゃんと「本編」として迎え入れられて欲しいな。
公式でなにも言われてないので完全に俺の憶測・希望でしかないんですが!

・・・余談。この完全版1巻、もとは11月発売だったんですが1月発売に延期され、
当初は毎月刊行とされていたはずがつぎの2巻発売が3月だったり・・・
いろいろグラグラしていますが、本の出来そのものはバッチリなので
どんだけ延期されたってちゃんと出てしてくれさえすればいいという気持ち。
楽しみなことを待つ楽しみって、ARIAでもたくさん言っていたしね。

『ARIA THE MASTERPIECE』1 ・・・・・・・・・★★★★☆
完全版だしうまい評価はできないけれど、とても大切な本になりそうです。俺はいまARIAがアツイんだ。

[漫画]思春期の空虚も愛しさも理不尽なほど理由も無い。『人魚王子』

今年の目標は気楽な更新をすることです。
人魚王子 (ウィングス・コミックス)人魚王子 (ウィングス・コミックス)
尾崎 かおり

新書館 2015-12-25
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   死んだら何もない 何もないよ

尾崎かおり先生は少年少女のかわいた感情やしとしと降り積もるピカピカした感動を描かせたら天才だなってことを再認識した最新作「人魚王子」です。
まぁ、もお、まず、この表紙が可愛すぎる。
エメラルド色の海、見つめ合って沈む男の子と女の子。綺麗すぎて魔力でも宿っていそうである。

さて3作を収録した短編集となっている本作。
どれも完成度がたかい、というかどことなくメランコリックな色が染みこんだ、大変に俺好みな作品がズラリ揃っていて、もう訳もなく「天才か」とリアルにつぶやいていた。

尾崎かおり先生と言えば「神様がうそをつく。」の一作しか読めていないものの、これまた傑作。少年少女の切実な思いがそのまま光となって駆け抜けてくような、甘酸っぱい逃避行が眩しすぎる傑作でした。
「人魚王子」もそんな期待通りどおりの一冊。短編集なので個別感想。

「神様がうそをつく。」感想→http://omuraisu0317.blog.2nt.com/blog-entry-1539.html



●アメツキガハラ
しょっぱなから本作随一のマスターピース。かなり殺伐とした、少女の内面を綴った前後編。
例えば思春期のころ、例えばなにか悩み塞ぎこんでしまう時、訳もなくすべてをダメにしてしまいたいような破滅願望じみた気持ちが生まれて、けれどそれを実行する勇気は持てず、鬱屈した自分をどこか遠くにさまよわせる。死ぬのがこわいのに死にたいなって思う。瑞々しい懐かしい感覚。ギュッと愛おしくなるくらい、そこに痛みも携えている。
理由を伴わない感情に振り回される。その理不尽さ。その窮屈さ。なのにその中でもがく彼らを眺めることをなんと楽しいことかって事で、本当にこういう思春期こじらせた連中はかわいくて仕方ないな!!

人魚王子

別に好きでもない男とはじめてを済ませても、そこに感動がなくったって、裸で朝の海をおよぐ静かなひとときが、人生を変えてしまうこともあるのだ。
彼も彼女も、正しく生きることはできなかった。
けれど未熟な彼らを突き動かす感情に正しさなんて無くて、だからこそ
誰かの夢を、知らず知らず良いなって思って、それを自分が叶えてしまう未来にまでつながってしまう。そんなことだってある。あるんだよ。

かつての親友まで幸か不幸か届いた、自分の本当の言葉。
本当の想いを伝えるための手段は、けして目の前の相手に向けて話すことに限らず、例えばしたためた言葉だって届くこともある。
この主人公の場合はそれが小説という手段だったんだけれど。
別離の後、再開を果たす手段としてこの作品のラストシーンはとても美しくて、なくしてしまった関係に対してこれほど優しい態度を見せてくれるかと、本作で1番感動した場面。

「うまく気持ちを外に吐き出せない」、多くの人が経験するモヤッとした感覚を
この作品はうまく拾い上げて、とても鋭くやさしく、青春の物語に閉じ込めている。
今、今しかない。彼女たちは今生き残るしかない。なにをそんなに怯えているのって、大人になってしまったら脳天気に思うけれど、彼らは刹那的にしか生きられない。
そういうキリキリと胸を絞り上げるような性急さと、「死ぬってことは」とか「人間なんて」とか達観した100%の理解なんてできないスケールの話を投げかけられて呆然としてしまうような、あの置いてけぼり感みたいなのが散らばっていて、とにかくポエムポエムな作品でした。
わかる。中学の時って、急に「世界はこういうものです」って種明かしがいっぱいされて、それがわかる頭にもなっていて、知識だけ与えられて恐怖しか無くて、そんな上手に生きていけないよってくよくよしてたでしょ。わかる。(勝手に押し付け
あと、ノーパンJCというロマンをありがとうございます。

●「ゆきの日」

ファンタジックな作品。ひとけの少ない冬の図書館の空気、好きだなぁ。
高校の時、勉強するために図書館に行ってやっていたことがあったんだけど、そういうことを久しぶりに思い出した、図書館愛のある作品。
ある日図書館にやってきた親子二人組の正体は・・・という、ネタとしては簡潔なものなんだけれど、それを情感たっぷりにふくらませている。
雪がしずかに降る橋のシーンなんか、もう絵が語らってくるような迫力。

●「人魚王子」

表題作にして1番ポップな、少女漫画らしい明るさを備えた短編。
明るさの中にそっと差し込まれる闇、未知なるものたちへの畏怖、そういったものもアクセントとして効いている、ひとなつの爽やかなお話です。

「アメツキガハラ」と同じように、うまく周囲に馴染むことができないキャラクターがいて、「人魚王子」はそんな男の子に元気いっぱいな女の子が手を差し伸べていく。
内省的な男の子・麦は、家にも学校にも居場所を見つけられず、ただ絵を描くことだけは上手で、その絵もいじめっこたちにダメにされてしまう。
麦は物語冒頭、「人魚」と名付けたグロテスクな絵を描く。
その「人魚」というワードが、この物語をさらに奥深くに誘っていく。
舞台は沖縄。人魚伝説。そして甘いボーイ・ミーツ・ガール。

死ぬことが怖いくせに死にたがり、死ぬことに何か意味を持たせたい、そんな憂鬱、そんな10代。
「俺が居ない方が あの二人は絵になるよ 絵になるよ」
というセリフがもうたまらない。なんで2回言ったんだ!そういうところがだなぁ・・・いいんだっ!!!
しかしそんな麦くんを突き動かす主人公の真鳥ちゃんのまっすぐさがすごく癒やしになります。
暗い空気を吹き飛ばすエネルギッシュな言葉たち。
麦くんともどもに読者まるごと救い出してくれる存在感です。

人魚王子2

終盤にある、海にまるく光がさして穴のようになっている場面が印象深い。
端からみるからそこが光が差しているけれど、その中にいる人達は、はたして自分が光の中にあることを知っているのだろうかと。
これ以外にも、読後感の良さを打ち出す展開が重なり、とても爽やか。
そして、あの見開きで物語が終わるところも、センスを感じるんだよなぁ。




そんなこんなの一冊。
思春期ならではの破滅願望とか、異性への意識とか、現実逃避とか
たっぷりと青い世界を堪能できます。美しい翠の海に沈む、未熟の魂。

『人魚王子』・・・・・・・・・★★★★
「アメツキガハラ」の衝撃が群を抜く。けれど3編ともに味わいが違って、いい作品集です。

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引っ越し先

ブログを引っ越しました。 当ブログは更新を停止し、新ブログにて更新をしています。 https://sazanami233.hatenablog.com/

楽園に花束を

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漣

Author:漣
「さざなみ」と読みます。
漫画と邦ロックとゲーム。
好きなのは思春期とかラブコメとか終末。

連絡先。
omuraisu0317あっとyahoo.co.jp(あっと→@に)

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