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[漫画]間違えても、精一杯の恋でした。『屋上姫』4巻

屋上姫 4 (フレックスコミックス)屋上姫 4 (フレックスコミックス)
(2013/02/12)
TOBI

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   許せない

TOBIさんの「屋上姫」完結巻の感想です。
4巻ですっきり終わりました。表紙の先輩の表情もグッときます。
そうそう。この漫画は、泣き顔が似合う。

ストーリーを追うだけならもっと短い巻数でまとめられたかもしれない。わりとシンプルなお話でした。しかしキャラクターの細かな表情や気持ちの変化を、すごく丁寧に描いてくれた作品です。
イメージとしては気持ちのいい青空が似合う作品なのに、キャラクターの気持ちはぜんぜん抜けが良くなくて、いろいろ引きずってモヤモヤして・・・。コマとして切り抜かれる一瞬一瞬に胸が締め付けられそうになります。
そうしてじっくりと雰囲気作りをしてきた「屋上姫」。4巻完結はこの作品として必然だったと言えます。進みが遅いなぁと途中やきもきしていましたが、完結した今ならそう言える!
ということで完結巻の感想。発売から結構立ちましたし、わりとネタバレ遠慮せずに。

嘘吐き少女の苦悩。揺らぐ三角関係は? 『屋上姫』1巻
罪悪感と、淡い恋。 『屋上姫』2巻
嘘と罪に恋に縛られた姫。『屋上姫』3巻



学校中から知られる孤高の美少女、屋上姫こと霞上澄花。彼女を交際をしていた主人公黛。していたと過去形なのは、一方的に別れを告げられてしまったから。
お付き合いが始まってから2巻3巻と、イベントを重ねてきました。
けれど順調にはいかない。澄花先輩は1人で思い悩んで、恋人の黛に相談はしない。ささいな違和感に2人には苦しみ出す。気持ちがゆがみ出す。関係がきしみ出す。そして一方的に告げられる別れである・・・!

別れを告げられたもののぜんっぜん納得できていない黛。
一方で彼のことを密かに想い続けているもう1人のヒロイン、結子が活躍。不憫キャラとして確固たる地位を築き上げている彼女が物語を動かし始める!
こっからは2人のヒロインごとに書きたいことをまとめて、「屋上姫」という作品を考えてみようかなと。

●伊集院結子

完結巻ということで、メインキャラそれぞれの気持ちの行き先が描かれて、スッキリとしました。クライマックスに向けてふつふつとテンションが上がっていく。結子関連のシーンはビリビリと心にきましたね。純朴そうな幼馴染ヒロインが、ドス黒い感情むき出しの修羅場です。

結子に関しては、3巻までとぜんぜん違う感想を抱きました。4巻すごい。
正直いえば結子関連をもうちょい突き詰めて見てみたかったかなと思いましたが、おもいっきり失恋しちゃった彼女の死体にムチ打つ感じになっちゃうか・・・。安易に信忠とくっついてEND、とかじゃなくてよかったなと思いました。別に結子は黛への想いを引きずり続けて欲しいとかでも、信忠が嫌いなわけでもなく。正直なところ『今はまだ』彼女は幸せになるべきじゃなかったと思うから。その理由は後で。
不憫なヒロインではあるけれども、かわいそうなだけの娘じゃ絶対なかった。

例えば「まだ先輩の事が好きなの?先輩はマユくんのこと、なんとも思ってないのに」と負け惜しみみたいな煽りをしちゃったし。うわぁー迷走しちゃってるよこの娘ーって思わず悶えたワンシーン。でもそう言いたくもなりますわな。じたばたしてる駄々っ子みたいなですが、すんなり現実を受け入れられることもできない彼女の必死の抵抗だ。そしてコレ。

屋上姫42

「許せない」
「霞上先輩・・・あなたは何様なんですか。『屋上姫』なんて呼ばれているけど、最低ですね。」

4巻のハイライトの1つに、結子が気持ちをブチまけたこのシーンがあります。
もう大興奮ですよね。オイオイ、純朴少女がここまで言ってくれたよ!
このね、土壇場で精一杯にあがいている感じがたまらなく愛おしい!

でもこの後、黛から「俺の気持ちを盾にして、霞上先輩を責めるのは許さない」とか言われちゃって可哀想さ二倍マシである・・・。いかんかった・・・黛はとにかく霞上先輩だけを守ろうとしてて、傷ついた末の結子の迷走をやさしく正す余裕もなかった・・・コイツは致命傷だ・・・。
黛の言ってることは正論だけどさ。正論とは正反対のことで霞上先輩から苦しめられてきた彼がまだこういうことを言えるというのは一瞬イラッときた。
正しさをかなぐり捨てて本音をぶちまけた結子の覚悟を、彼は正しさを盾に払いのけたんだ。
正しさとはときに非情になる・・・。でもそんな彼だから霞上先輩も振り向いてくれたんだよなぁと複雑な心境でもあります。

黛はまっすぐすぎたな・・・。この作品の主人公なのは彼だけども、「屋上姫」という作品のエッセンスをより多く蓄えた人物はもしかしたら結子だった。歪んで、心を黒く染めていった。不憫というだけじゃなくて、そういう人間としての醜さや、感情あふれる切実な過ちが、非常にドロくさくてめちゃくちゃいいヒロインでした。

「行動をおこした者が勝つ!待ちは甘え!」
なんてクソマッチョな恋愛観を押し付ける漫画ではありませんが、少なくとも彼女の最初の失敗は、踏み込まなかったことに他ならない。臆病な娘だったからな・・・そこが可愛いんだけども・・・。
4巻のこのシーンとかめちゃくちゃ可愛かったじゃないですか。「見てくれる」それだけで舞い上がっちゃう。笑顔すら儚げである。

屋上姫41

そして話がもどるけれど、たしかに黛への片思いの決着は残念だった。その先の余韻が好きなのだ。彼女は『まだ』幸せになるべきじゃなかった。だからこの報われないENDは、じつはとっても満足しているのです。
1人で立ち上がって歩き出して、また恋をするまで、さしのべられた誰かの手をとってはいけなかったんだと思う。結子みたいな娘は、傷を癒すための恋はしちゃあいけねえよ!強くあれよ!
だから信忠が失恋で弱ってる結子をものにしなくてよかったなと。最後まで紳士ないいヤツだったよ信忠。5年後くらいに付き合いだした大学生の信忠と結子を「ようやっとかよお前らw」みたいな苦笑混じりで見てみたい欲望はありますね!
・・・なんか3巻までの感想とけっこう違うことを書いていますが、なぜか最終巻を読んだらこんなことになりました。不思議。
あーラストの飄々とした様子に結子の心境を想像するだけでごはん食べられる。



●霞上澄花

澄花は、やっぱり根はいい娘だったんだよな、というなんともありきたりな結論。いやこれまでやっていたことは救いようのなく酷なことなんですけれど。
彼女の思い描いた男女の恋愛観は、現実離れしていたとも言えるくらい、ピュアだったんだなと思います。
大好きな人とは結ばれなきゃおかしい。だからこそ兄を想い続けた。
でも、大好きでもない人と恋人になってしまってから、彼女はおかしくなっていった。自分がやっている恋と自分のしたい恋との致命的なズレにとことんまで苦しめられていったのは、彼女の誠実さのせいだ。彼女が抱き続けた葛藤は、すなわち彼女の正しさの証なわけで。それはラストに至る切ない過程の中で、ある種の救いとして存在していたよなーと振り返りながら噛み締めた。
心底から腐っていたなら、黛を振り回してもなんの痛みもなかっただろうから。
澄花先輩の苦しみは、そのまま彼女の純粋の裏付けだった、と。
まぁ心でなんと思っていようと、彼女のしたことのひどさは揺るぎないんだけど。

しかし物語のラストは、全てから解き放たれるような爽快な展開。
まるでパラノイアみたいに兄のことばかり考えていた澄花。彼女の気持ちの解決方は、なんだかとってもシンプルで、だからこそこれまでのモヤモヤを一気に吹き飛ばして視界もスッキリした。気持ちがいい!

屋上姫44

そういえばそうだったよな。黛は、「忘れちゃいけない」と言う少年として澄花の前に現れたんだった。兄からの花束を、一度は捨てた花束を、綺麗に束ねてもう一度手渡した。そして最後にもう一度、同じことを、今度は偶然じゃなく伝えたのだ。この展開はなるほどと素晴らしく納得。いい流れでしたね。

そして一番最後の見開きページは必殺の破壊力!
屋上にとらわれた姫。兄への偏執にとらわれた姫。窮屈な家庭事情や、歪んでいるような歪んでいないような曖昧で純粋すぎる恋愛観など。常に何かに縛られ続けた澄花先輩は、やはり「囚われのお姫様」だった。
ひらけた屋上でひとりきりにいる彼女、というこの作品の原点となるイメージには、ひとり苦しみを抱えているという意味合いが感じられます。
けれどこの最後の見開きには、2人で屋上にいて、街の遠くまで見渡せて、新しい恋に踏み出して、何もかもから解放された彼女のイマが描かれているように感じました。新しい世界は前までより広々として、きっと暖かだ。

屋上姫43

きっと多くの人がそうだろうけれど、ようやく澄花先輩を心から「かわいい」と思えたよね・・・最後の最後で!!

しかしまぁ、澄花のお兄さん、スゴいですね。TOBI作品らしからぬダークさを感じ取りましたよ。キスまでしてたんかい・・・!!お前・・・お前・・・!!



と、結子と澄花先輩という2大ヒロインに集中して最終巻の感想を終えたいと思います。
「屋上姫」はTOBI先生の新境地でした。青春の苦々しさが打ち込められている。
清らかで在ろうとしても、みんな心をドロドロに汚していく。
人間の醜さを真正面から見つめるこの作品の一面が、屋上の上に広がる青空の清々しさとのギャップでこれまた楽しかったです。
迷って引きずって傷つけてそれで自分も傷ついて。醜い。愛おしい。
ガチでドロドロの修羅場漫画とは言えないかもしれない。別に修羅場ありきの漫画ではありませんしね。どこかズレてしまった青春模様も楽しみたいなら、オススメしたい作品です。こういう大好きですわー。
でも正直なところ、4巻もある中でフックは少なく、やや間延びしてしまった感あります。もっといろんなイベントを盛り込んでも良かったかも。
まとまりも良くてすごく丁寧に綴られた物語だと思うのですが、そこは事実。
TOBIさんの作画は美しくて絶好調でしたね。次回作も楽しみにしています。また「眼鏡なカノジョ」みたいな基本アマアマなヤツも読みたいなあ・・・。

『屋上姫』4巻 ・・・・・・・・・・・★★★★
満足いく最終巻。広がりは少なかったですがきっちりまとまった良作。

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