[本]豪華執筆陣で送る姉/妹オンリー本 『Liqueur-リキュール-』
![]() | ブラコンアンソロジー Liqueur ―リキュール― (フレックスコミックス) (2011/04/12) カトウ ハルアキ、草野 紅壱 他 商品詳細を見る |
ホント仲良しね~この子たち
発売からしばらく経ってしまいましたが、今日はフレックスコミックスから発売されましたブラコンアンソロジー「Liqueur(リキュール)」の感想を!
姉/妹キャラをメインに据えた近親恋愛ばかりを集めており、このコンセプトが発表された時点で購入を決心したものですが、驚くべきは参加作家さんの豪華さ!
自分が持つアンソロジー本の常識を覆す圧倒的な作家陣。よくぞここまで毛色の違う作家さんをズラリ集めたものだと感動すら覚えます。参加作家さん一覧は以下。
カトウハルアキ、草野紅壱、日坂水柯、水上悟志、カザマアヤミ、朝木貴行、春野友矢、桜野みねね、山田J太、押切蓮介、高崎ゆうき、幾夜大黒堂、マシュー正木、来瀬ナオ、小坂泰之、百合原明(敬称略)。
活躍するジャンルも掲載誌もバラバラな作家さんたち。実際本を手にしても、非常に多彩な誌面になっていました。しかしなんにせよ作品数が多いので、今回は特に気になった作品をいくつか取り上げていきたいと思います。本当は全部取り上げたいくらい・・・!
フレコミの公式で試し読みもできるので、気になる方はまずそちらをチェック。
夕日ロマンスの続編がついに登場!・・・pixivでたまに単発漫画があがっていますけども。夕日ロマンス/カトウハルアキ
この本の表紙もこの作品で、フレコミレーベルの姉弟漫画といえばコレなので納得の選出。
夕日ロマンスとは、見た目クールビューティなお姉さんがこっそりとなんて全くせずに欲望の赴くままに堂々と実の弟との愛を叫び愛に生きる、極上の姉弟漫画です。ざっくり。
久しぶりの長編新作(1Pのみではないので長編とは言えると思います)となりますが、雰囲気やノリはしっかり「夕日ロマンス」になっており、単行本が好きだった方には間違いなくオススメできるエピソードだったと思います。
今回もお姉ちゃんは美人だけど残念すぎて・・・・・・かわいいなぁ本当!
ユウ姉ちゃんの迸るラブがヒロをを襲いますが、飄々としたヒロは特にツッコミもせず受け流します。それは別に冷めてるわけじゃなくて、ゆるやかでまろやかで、情熱的な2人の時間を表しているのですね。お互いそれが普通で、傷つくでも興奮するでもなく、ただじゃれあっているだけのような、でも幼年の時のそれとは大分違う感情や意味を孕んでもいて・・・ああ、やっぱりこの2人の空気が自分は大好き。

ユウがこんな表情を見せるのは弟だけ。それは家族だからであり、そしてそれとは大きく異なる想いがあるからこそ。甘い時間の中にほんのり香るインモラル。
ユウとヒロは、きっとずっとこんな調子でイチャイチャしているんでしょうね。
![]() | 夕日ロマンス(Flex Comix) (2007/07/12) カトウ ハルアキ 商品詳細を見る |
単行本「夕日ロマンス」も大変オススメです。
カトウハルアキ先生としても本当に思いいれ強いキャラクターたちであるようで、いずれまた単行本として出て欲しいです。・・・でもそれよりまずヒャッコ最新話マダー!!!(バンバン
そのまんま、兄がワニになっちゃったという話。タイトル思いついてそのまま作品のネタにしまった感じがしますw 水上先生らしさを感じられるコメディ。わにあに/水上悟志

おう、流石はワニ、食いっぷりも豪快です。
水上先生は爬虫類が好きなんでしょうかね。ワニ兄も無表情なはずなのにどこか愛嬌あるように見えて面白いです。そしてワニになっても兄のことが好きで好きでしょうがな下の妹さんと、ちゃんと冷静な部分もある上の妹さんの組み合わせも賑やか。
特に下の妹さんは「兄と妹」という血縁の壁、「人と爬虫類」という種族の壁・・・と分厚い2つの壁を乗り越えんとするエネルギッシュな一途さがかわいらしいw
そう長いお話ではないのですが、水上先生の短編集が好きな方はツボそうです。
カザマアヤミ先生の作品は双子もの。いちおう妹ヒロインです。よるとまひる/カザマアヤミ
いつでもどこでもべったりな妹に悶々させられるお兄ちゃん。2人セットでかわゆし!

ずっとにこにこしてる妹さんを見ていると自分もにこにこしてしまいます。ぐふふ。
しかしそんな彼女の笑顔がふと翳るシーンがあります。そこが「もう大人になるのやめようよ・・・」と零したとき。ただの双子の兄と妹が「男」と「女」で分けられてしまうのが、なんだかさびしい。それは仕方の無い成長なのだけれど、いつまでも子供のように何も考えないで居られたら・・・なんて考えてしまう。
成長に伴う距離感の変化に戸惑う2人。けどカラッと明るく終わってくれて読後感良し!
妹さんの笑顔にほんわか癒される短編。双子をテーマにした作品はレアでした。
この作品は血縁関係の切なさをストレートに扱った作品。世界で一番残酷な恋/百合原明
頭も良くてカッコいい兄ちゃん。他の女の子たちからもモテモテです。
自慢のお兄ちゃんに憧れと、それ以上の感情をあふれさせる主人公ですが、お兄ちゃんはいつもさらっとそれを受け流します。そうやってじゃれあっているのも、彼女にとっては幸せなんだけれど、満たされないことに不満もあり。
けれどお兄ちゃんに恋人がいると知って、妹さんはほろり涙。

兄にとっては、自分は「ただの妹」。どんなに好きでも、自分が妹である限り、この恋を真面目に取り合ってもらうことは叶わない。妹だからというだけで、恋が許されないなんて。
幸せな物語ではありませんが、だからこそ血縁関係における恋愛の切実さにリアリティを感じました。そう簡単に全ての人がなにもかも踏み越えていけるわけがない。
今回で初めて作品を読む作家さんでしたが、絵も美しく読みやすいし、チェックしていきたいです。主人公のまっすぐさが眩しく可愛くセンチメンタル。いいなぁいいなぁ。
しかし良作ぞろいの本アンソロ。上記4作しか触れないというのもさびしいので
上で書かなかったもの以外の全収録作品それぞれににさらにざっくりとした感想を。
・ずっと一緒のあなたと私/草野紅壱
「お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだから(以下略)」の作家さんということであのようなノリかなと思いきや意外や意外、失恋を描くシリアスもの。
主人公のお姉ちゃんがした最後の攻撃は、姉と弟としての距離を図りきったものでありつつも、非常に切ない選択。けどそんなに敗北感溜め込まなくてもなぁ。つらい。
・てのひら/山田J太
やったぜ盲目ヒロイン大好物!(うわぁ)。とテンション上がりますがこれも結構シリアス。
兄の面影を、そのまま救いにし続け生きてきた少女。結末はショッキングだが、晴れやか。
・ハッピードッグライフ!/桜野みねね
みねね先生こそ胸も涙腺もギュンギュンきそうな切ないお話を持ってくると予想していたのですが、おもいっきり能天気な妹コメディでしたw語る部分は少ないですが素直に妹さん可愛い。
ところでみねね先生は最近マッグガーデンから離れたところでも活動するようになりましたねぇ。結構前ですが烈でも読みきりを掲載していましたし(しかも若干ホラー)。精力的でなによりです。現在やってる連載も楽しみにしています。
・じょそおとっ/幾夜大黒堂
アクションありサービスありで作画的にも非常に賑やかな作品。ちょっと読み辛い気も。
・お兄ちゃんといっしょ/マシュー正木
妹ダブルヒロイン制。ヒロイン達の年齢が低いためかバカっぽくも健全なコメディ。
・ふたり/小坂泰之
個人的にイチオシの作品でした。だったら上で取り上げろよ。すいません。
普段ツンケンしてる妹ですが、本当はしっかりお兄ちゃんのことを心配していて、それが明かされるシーンには大変ニヤニヤさせていただきましたw 連載で長く読んでみたい作品。
互いが互いの支え。たった2人で生きていくのだから。いつか終わりが来るまでは。
・お兄ちゃんをプロデュース!/高崎ゆうき
ページ数も他と比べて若干多めで、綺麗な起承転結があるストーリー。兄ちゃんに主体性がないように感じてしまいましたが、頑張り屋さんな妹ちゃんに◎。
・はちみつホーム/来瀬ナオ
貴重な姉漫画ー。しかもOLさん。社会人ヒロインはこの本では貴重でした。
・夏のおもいで/押切蓮介
参戦作家が発表されたとき、押切先生だけちょっと浮いてるなぁと感じましたが、実際読んで見たら浮いてる度合いがちょっとどころじゃありませんでしたw作者コメントにも笑ったw
・あねーと/朝木貴行
これもかなり面白かった。恋人じゃなく、家族であり続けることを選んだのですね。
家族なんだから、スタートラインからしてそもそも違うのだ。家族というだけで、ずっと繋がっていられるのだから。いろいろ思うところはあるにしても関係のカタチとしては道徳的で、切ない。でもまぁ、お姉ちゃんが笑っていてくれるならそれでいい。
・みらいもん/春野友矢
期待通りのノリと押しの強いギャグ。未来からやってきた妹と現在の妹がいろいろ言い争うお話ですが、やっぱりコメディ色が強すぎてラブコメって感じがしない春野先生カラーはそのままw
・くすりゆびさき/日坂水柯
トリを飾るのは日坂先生。この配置は納得。詩的表現を優先しすぎていっこのシチュエーションを提示するだけに終わってしまっているのが残念ではあるにしろ、こういうのが好きだったりします。爪とぎというシチュはなかなかマニアックで面白かったですね。
・・・・・・・・・・全部やろうとしたらそりゃ長くなりますよねー・・・。ではまとめ。
ブラコンヒロインたちをズラリ集めたアンソロジー「リキュール」、個人的にはかなり満足のいく内容でした。この値段でこの作家陣でこの内容、お得感が凄い・・・!
甘いラブコメチックな作品が半数ほどを占めていますが、チクリと心に刺さる背徳感や、家族だからこそ想いを届けることができない切なさなど、一冊通して読んでいるとこのジャンルならではの醍醐味とも言える要素がいいスパイスとなって利いています。
個人的にはもっとヒリつくなインモラルを漂わせる作品も1つあれば・・・とも思いましたが、しかしアンソロジーとしてのまとまりも全体的なクオリティも高かったように思います。
物語の方向性のバランスはとれていましたがしかし、この本はブラコンアンソロジー。
集計してみたところ、姉ヒロイン5作、妹ヒロイン16作と妹大勝利の巻!
どっちもおいしく戴けますけれど、お姉ちゃんもっと多くしてもよかったのでは!
そこはVOL.2に期待をしたいのですが、VOL.2が発売されるかどうかは今回の読者のリアクション次第とのこと。是非とも応援したいアンソロジーですので自分も葉書書くとします。
家族という絶対的安定感を誇る関係にありながら、その中で恋愛をしようと思うと途端にその関係は脆くなり、時に残酷な結末をもたらしたりする。
けど家族愛からさらに一歩踏み出した強い愛情に、脳がとけてしまいそうにもなる。
甘くもあり苦くもある血縁恋愛には、フィクションだからこその強い魅力があります。
このジャンルならではの楽しみをしっかりと届けてくれた「リキュール」に拍手。
VOL.2ではより進化したブラコンアンソロジーとなっていることを期待。というか出てくれー。
『ブラコンアンソロジー Liqueur 』 ・・・・・・・・・★★★★
参加作家さんの豪華さも全体的なクオリティの高さも上々。素晴らしき姉/妹天国。
[本]奥様は馬で、同級生は天使で。 『竜の学校は山の上』
「あの花」第1話にハートをフルボッコにされました。
そんなもの なんにも違わないのよ
ふら~っと衝動買いした作品だったのですが、当たりでしたね!
今回は九井諒子さんの作品集「竜の学校は山の上」での更新とします。
収録された作品は商業誌に発表されたものではなく、webだったり同人誌としてだったりで世に出された作品たち。それらに加筆修正を加えて一冊にしたものがこちらですね。
収録作のいくつかは九井諒子さんのHPで無料で読むことができますので、気になる方はまずそちらで作品を読んでみてはどうでしょうか。感じは掴めるかと。
加えて公式でPVが。収録作のひとつ「進学天使」をダイジェストで動画として読めます。
別窓で大きくしないと読みづらいかも。
BGMはPerfect piano lessonの「Springstorm」。選曲も俺得じゃないですかー!
まぁ紹介はここまでにしまして、内容について触れましょう。
どの作品もたまらないので短編全てについて感想をつらつらと・・・。
魔王城から中学校まで、様々な舞台で「人間」を描く作品集となっています。
例えばこの作品は、勇者が世界を守り抜いた後、故郷に帰ってのお話なのですが、選ばれた勇者に屈折した想いを抱く主人公だったり、政治的に利用される勇者だったり・・・。
魔王を倒して、世界は平和になったのか。いや、そんなわけはないのだ。
見せ掛けのハッピーエンドの向こう側を描くというコンセプトも良いですし、ほんのり切ないラストもロマンチックな香り。普遍的なファンタジー世界が舞台だからこそ、自分がこれまで触れてきたファンタジーの裏側にも想い馳せることとなった、個人的には軽く衝撃的な一作。
勇者はどんなことを感じ、この世界を戦ったのか。
web版と読み比べるとかなり2人の距離感が明確に感じられるようになり、より深みが出ていますね。設定としてはいわゆる「美女と野獣」です。
語り部が口にする呪われた王子の物語を聞き、「王女がただの村娘であったなら」と零す高齢の女性の伏せ眼がちな横顔に、またしても切なさがぐんぐんこみ上げる。
彼女が何も語ろうとはしない夜。ただもしかすると、そこには誰も知ることができない恋の記憶があるのかも知れない。いいなぁ。はぁ。あと王女さん超美人。
主のいなくなった魔王城の再利用に乗り出す人類・・・果たしてうまくいくのか、というお話。
この作品も細かく加筆修正がされてよりブラッシュアップされていますね。
しかし個人的にはweb版で描かれた、勇者の仲間の死亡描写なくなっているのは少々残念でもあったり。ああいう生々しい死の絵はあって欲しかったかも。無念の表情も痺れる。
この作品もファンタジー作品で、RPGのエンディングのその後を描いたもの。
自らが勝ち得た平和を信じようとしない、世界に絶望した勇者。
それでも勇者がくれた平和を信じ続ける、病に悩まされる少女。
しかりながら迎えたラストは、もちろん最高のものかどうかは分からないけれど、ささやかな笑顔は確かにあるであろう、救いのあるもの。
最後まで人間の光と影を見せ付ける、残酷ながら美しい物語だと思います。
「支配」とは人間から見た物事の一面にしかすぎない。ということで「魔王」が実は世界を平和にしてくれていた存在だと描くお話です。
皮肉が利いているようで、でもきっとこれがハッピーエンド。巣立ち。自立。子供は反抗期を経て大人になるんです?ちょっと違うかw
いろんな女性の神様が登場するので、何気に本作一番華やかな気がしますね・・・!
豊穣の神のデザインに強烈にもんもんさせられるわけですが、しかし花の神ちゃんもいいじゃないですかと!幸薄そうな表情にひかれます!
内容としてはそれなりにページ数もあるので、読み応えのある作品ですね。
物語としての盛り上がりもしっかり提供され、個人的には幸せな終わり方だと思いました。
けれどラストは主人公たちとは別の視点から物語を捕らえることで、ほんのり無常感の漂うものになっています。単純な終わり方をしてくれないのが意地悪で、好きです。
単行本表紙にも大きく登場しているかわいらしい奥さんが目玉です。
家事も出来て、心遣いもバッチリ。その上甘えん坊で可愛らしい、ナイス奥さん。

ただ、馬です。
この世界は猿人と馬人の2種類の人間がいます。夫は猿人、奥さんは馬人。
猿人はまるきり現実世界の人間そのまま。けれど馬人の設定が面白いです。
ひどく勤勉で、睡眠も猿人より短くていいし、総じて無駄な時間を過ごすことが苦手。企業としても猿人よりも馬人の方が雇いやすいから、猿人の雇用が減っている世界。
同じ土俵にたっては、猿人には馬人に及ばない点が多すぎるのです。
そのせいで猿人政府が馬人の勤務体系を見直す法案が出されたり。
現代日本を舞台に、そんな少しだけ歪んだ社会を描いた作品となっています。
先ほどの猿人×馬人の夫婦のほかに、同じ会社に勤めている社会人たちのペアのストーリーも同時進行的に描かれ興味深いです。猿人が抱えるコンプレックスなど。
社会人編がややシリアスなため、イチャイチャ夫婦がイチャチャする気の抜けた4コマ漫画に癒されますねぇwしかし別々のペアでもって家庭と社会の2場面を分けて描くことで、それぞれにやや異なった形で猿人と馬人の共存が表現されており、うまい構成だなと感じました。
人種というやや扱いにくいテーマを描いている本作ですが、かなりスマートにまとまった良作なのではないでしょうか。お気に入りです。
まぁなによりですね。

「同じがいいの!」
なんですかこの(><)は!もうううううう奥さんかわいいー!
そしてこの作品もテーマとしては「現代神話」と同じく、普通の人間とそうじゃない人間の間にある複雑な感情や、共存の是非、といった感じ。
学生の男の子と女の子の恋愛がメインということで、大分馴染みやすいお話でもあります。
飛ぶトレーニングのために留学をする・・・ことにはちょっと抵抗がある少女。
彼女の意思を尊重し、「自分の好きなようにしないと後悔するぞ」なんて遠まわしなアドバイスをする男の子。まぁそれは「そばにいて欲しい」なんて言えない照れが故。そんな油断が許されているのは、彼女が留学に乗り気でないからこそなんですが。
羽があったとしても、それが彼女が普通の人生を諦める理由にはならない。
そう彼は信じていた。周囲の無理な期待にこたえてやる必要なんてないのだと。
(クリック拡大)
けれどそれは揺らぎ、そして崩れてしまった。
実際に空を羽ばたく少女を見て、少年は思ってしまったのだ。周囲の期待に応える必要はない・・・けれど応えられる能力を手放すことは、本当に彼女にとって良いことなのだろうか。彼女がそれを望む望まないに関わらず、空を飛ぶということは彼女にとっても大切なことなのではないだろうか、と。
そして少年は、少女を傷つけてしまう。
理解したつもりになってしまった弱さ。正しいことだと信じぬくことが出来なかった。
大局的に見れば正しかったのかもしれない。正しかったのかもしれないが、彼はきっとこの結末を本心から望んでいたわけではなかっただろうし、自分も彼女があんな表情をするところなんて見たくなかった。でも逆に言えば、あえてこの結末を見せられたからこそ、こんなにも胸に残る作品になったのかも知れません。
大人だったら理性的に割り切れただろうし、子供だったらもっと夢ばかり見れたかもしれない。どちらでもない、この年頃特有の不幸であり、ロマンですよね。些細なズレから連鎖する。
きっと正しく真実を受け止めるのに、この男の子では何かが足りなかった。
思春期だからこその不安定さが織り成すセンチメンタル。
思わずため息。いいですねえ。強烈に切ないのに、なんでこうほっこりするのか。

あと天使ちゃんかわいいなって!この作品何気に女の子キャラかわいいのですよ。
竜が存在していることが当然なこの世界。竜もまた、ある意味で「家畜」として人間社会に溶け込んでいます。まぁそれでもちょっと珍しいようですけども。
舞台は全国で唯一「竜学部」を有する宇ノ宮大学。
新入生の主人公は、そこで竜研究会の部長と出会い、物語が始まります。
竜は貴重な生き物です。けれど今、人間社会は竜を必要とはしていません。
あらゆる面でコストがかかりすぎる上に、食用としてもイマイチ、ペットとしても難ありまくり。ぶっちゃけ役立たずなのだ。
でもやっぱりそれでも惹かれてしまうもので。なんたって、竜ですよ。
ただ「好き」なだけじゃ現実的に食っていけない。竜を好きな人間も、竜そのものも、共倒れになってしまう。だからこそ、人間にとって竜が役に立つということを証明しなければならない。竜のために、竜の活用法を見つけなければならないのです。
竜研究会の会長はそれを目指している人物。けれどどうにも研究が行き詰る・・・。
好きだからこそもっと認められて欲しいと願うのに、好きだからこそ得た知識で、それが困難であることも分かってしまっている。竜は役立たずだって言われることが何よりも悔しいのに、それを否定してやることもできない自分が一番、情けない。
言ってしまえば、自分を否定するための、自分との戦いなのだ。
しっかりとした舞台設定がされており、竜がいる世界というのが実にリアルに感じられるのもこの作品の面白さ。その上で「価値観」の問題をベースに、軽やかにメッセージを届けてくれる良作です。終盤の飛翔シーンになぜだからすごく感動してしまった。
こんなにカッコいいのに、それが認められない世界なんて、そりゃ悔しいもんだ。
部長さんの秘めたる情熱に胸打たれるとともに、その飄々とした性格や彼女自身のかわいらしさにも笑顔。息の上がったときの表情のなんたる色っぽさ!
そんな感じで、さわやかな興奮を届けてくれる、人と竜と強い意志の物語。
「おめでとう!君は栄えあるくずの中のくず!」とか迷言が飛び出す作品でもありw
作品集としては一番最後におかれている作品で、ほんのり前向きになれます。
ほどよく力の抜けた感じのゆるめなタッチの作画もお気に入り。さらりと読めます。
いや、なげぇよ!と自分で言いたくなるくらい今回の記事ちょいと長いですね。
ではまとめといきます。
RPG風ファンタジーから現代を舞台にしたものまで、また物語の方向性もバラエティー豊富で、様々な作品を一度に楽しめるという意味で非常に好きな感じの短編集でした。
優しく感動させられるものから後悔に身をよじりたくなるようなものまで。
ページ数のボリューム感に相応しい、素敵な物語がぎっしりと詰まった一冊です。
普通の人間とそうじゃない存在の組み合わせがよく登場するので、テーマとしてはやはりそこらへんを強く滲ませているなという印象。人外キャラが多数登場するのも楽しいですね!
またこの絵も素敵だなーと。この素朴な絵柄は清涼感あります。
土のにおい、風のにおい、涙のにおい。あっさりとした作画ですが、だからこそ想像力が刺激されて、短編ごとにに違った空気を感じられたように思います。
詰め込みすぎていない画面のため読みやすさも抜群。けれど手抜きはされていません。
それと女の子が可愛いということはさっきから何度も書いてますっけね。こう、キラキラしてるわけではないんですけども、なんとなくずっと見ていたくなるような感じで魅力的な女の子たちがいっぱいです。彼女たちがいる世界もまた、同じことが言えます。
決して綺麗に輝く物語ではないけれど、でもどれもすごく切実で、温かで、面白い。
総じて、様々な面でレベルの高い本になっているのではないでしょうか。
多彩なメッセージを届けつつ、それが押し付けがましくなっていないのも○。
どの作品からもいわゆる同人漫画っぽさは感じるので、それが気になる人がいるかもしれません。しかし個人的にはそういうのもひっくるめてかなりツボ。視点の面白さにもニヤリ。
あなたの心をそっと揺さぶる物語が、きっと見つかります。
『竜の学校は山の上』 ・・・・・・・・・★★★★☆
いろんな層にお勧めしたい良質な作品集。ファンタジーだったり現代モノだったりで賑やか。
※234ページには作者も発売後に気づいて悶絶したようですが「集中せん」という原稿のメモが消されないまま残されてしまっていたりします。笑ってスルーだ。
![]() | 竜の学校は山の上 九井諒子作品集 (2011/03/30) 九井 諒子 商品詳細を見る |
そんなもの なんにも違わないのよ
ふら~っと衝動買いした作品だったのですが、当たりでしたね!
今回は九井諒子さんの作品集「竜の学校は山の上」での更新とします。
収録された作品は商業誌に発表されたものではなく、webだったり同人誌としてだったりで世に出された作品たち。それらに加筆修正を加えて一冊にしたものがこちらですね。
収録作のいくつかは九井諒子さんのHPで無料で読むことができますので、気になる方はまずそちらで作品を読んでみてはどうでしょうか。感じは掴めるかと。
加えて公式でPVが。収録作のひとつ「進学天使」をダイジェストで動画として読めます。
別窓で大きくしないと読みづらいかも。
BGMはPerfect piano lessonの「Springstorm」。選曲も俺得じゃないですかー!
まぁ紹介はここまでにしまして、内容について触れましょう。
どの作品もたまらないので短編全てについて感想をつらつらと・・・。
魔王城から中学校まで、様々な舞台で「人間」を描く作品集となっています。
この単行本は前半にRPGのような世界観を舞台にしたファンタジー漫画が集められているのですが、どの作品も輝かしい勇者の活躍を描いたような王道なものではありません。どこかしら捻くれた、一癖あるものばかり。帰郷
例えばこの作品は、勇者が世界を守り抜いた後、故郷に帰ってのお話なのですが、選ばれた勇者に屈折した想いを抱く主人公だったり、政治的に利用される勇者だったり・・・。
魔王を倒して、世界は平和になったのか。いや、そんなわけはないのだ。
見せ掛けのハッピーエンドの向こう側を描くというコンセプトも良いですし、ほんのり切ないラストもロマンチックな香り。普遍的なファンタジー世界が舞台だからこそ、自分がこれまで触れてきたファンタジーの裏側にも想い馳せることとなった、個人的には軽く衝撃的な一作。
勇者はどんなことを感じ、この世界を戦ったのか。
若干の加筆と、3ページほどの描き下ろしがされた全8ページの短編。魔王
web版と読み比べるとかなり2人の距離感が明確に感じられるようになり、より深みが出ていますね。設定としてはいわゆる「美女と野獣」です。
語り部が口にする呪われた王子の物語を聞き、「王女がただの村娘であったなら」と零す高齢の女性の伏せ眼がちな横顔に、またしても切なさがぐんぐんこみ上げる。
彼女が何も語ろうとはしない夜。ただもしかすると、そこには誰も知ることができない恋の記憶があるのかも知れない。いいなぁ。はぁ。あと王女さん超美人。
勇者が魔王を倒し、平和を勝ち取った世界。魔王城問題
主のいなくなった魔王城の再利用に乗り出す人類・・・果たしてうまくいくのか、というお話。
この作品も細かく加筆修正がされてよりブラッシュアップされていますね。
しかし個人的にはweb版で描かれた、勇者の仲間の死亡描写なくなっているのは少々残念でもあったり。ああいう生々しい死の絵はあって欲しかったかも。無念の表情も痺れる。
この作品もファンタジー作品で、RPGのエンディングのその後を描いたもの。
自らが勝ち得た平和を信じようとしない、世界に絶望した勇者。
それでも勇者がくれた平和を信じ続ける、病に悩まされる少女。
しかりながら迎えたラストは、もちろん最高のものかどうかは分からないけれど、ささやかな笑顔は確かにあるであろう、救いのあるもの。
最後まで人間の光と影を見せ付ける、残酷ながら美しい物語だと思います。
あっさりシュールな短編。ちょっとコメディ調。支配
「支配」とは人間から見た物事の一面にしかすぎない。ということで「魔王」が実は世界を平和にしてくれていた存在だと描くお話です。
皮肉が利いているようで、でもきっとこれがハッピーエンド。巣立ち。自立。子供は反抗期を経て大人になるんです?ちょっと違うかw
ここからRPG編を脱します。この作品は日本昔話風味。代紺山の嫁探し
いろんな女性の神様が登場するので、何気に本作一番華やかな気がしますね・・・!
豊穣の神のデザインに強烈にもんもんさせられるわけですが、しかし花の神ちゃんもいいじゃないですかと!幸薄そうな表情にひかれます!
内容としてはそれなりにページ数もあるので、読み応えのある作品ですね。
物語としての盛り上がりもしっかり提供され、個人的には幸せな終わり方だと思いました。
けれどラストは主人公たちとは別の視点から物語を捕らえることで、ほんのり無常感の漂うものになっています。単純な終わり方をしてくれないのが意地悪で、好きです。
個人的に一番好きかも知れないのがこの作品。現代神話
単行本表紙にも大きく登場しているかわいらしい奥さんが目玉です。
家事も出来て、心遣いもバッチリ。その上甘えん坊で可愛らしい、ナイス奥さん。

ただ、馬です。
この世界は猿人と馬人の2種類の人間がいます。夫は猿人、奥さんは馬人。
猿人はまるきり現実世界の人間そのまま。けれど馬人の設定が面白いです。
ひどく勤勉で、睡眠も猿人より短くていいし、総じて無駄な時間を過ごすことが苦手。企業としても猿人よりも馬人の方が雇いやすいから、猿人の雇用が減っている世界。
同じ土俵にたっては、猿人には馬人に及ばない点が多すぎるのです。
そのせいで猿人政府が馬人の勤務体系を見直す法案が出されたり。
現代日本を舞台に、そんな少しだけ歪んだ社会を描いた作品となっています。
先ほどの猿人×馬人の夫婦のほかに、同じ会社に勤めている社会人たちのペアのストーリーも同時進行的に描かれ興味深いです。猿人が抱えるコンプレックスなど。
社会人編がややシリアスなため、イチャイチャ夫婦がイチャチャする気の抜けた4コマ漫画に癒されますねぇwしかし別々のペアでもって家庭と社会の2場面を分けて描くことで、それぞれにやや異なった形で猿人と馬人の共存が表現されており、うまい構成だなと感じました。
人種というやや扱いにくいテーマを描いている本作ですが、かなりスマートにまとまった良作なのではないでしょうか。お気に入りです。
まぁなによりですね。

「同じがいいの!」
なんですかこの(><)は!もうううううう奥さんかわいいー!
これも非常に印象的だったお話。羽の生えた少女のいる日常。これだけでも絵的に魅力的。進学天使
そしてこの作品もテーマとしては「現代神話」と同じく、普通の人間とそうじゃない人間の間にある複雑な感情や、共存の是非、といった感じ。
学生の男の子と女の子の恋愛がメインということで、大分馴染みやすいお話でもあります。
飛ぶトレーニングのために留学をする・・・ことにはちょっと抵抗がある少女。
彼女の意思を尊重し、「自分の好きなようにしないと後悔するぞ」なんて遠まわしなアドバイスをする男の子。まぁそれは「そばにいて欲しい」なんて言えない照れが故。そんな油断が許されているのは、彼女が留学に乗り気でないからこそなんですが。
羽があったとしても、それが彼女が普通の人生を諦める理由にはならない。
そう彼は信じていた。周囲の無理な期待にこたえてやる必要なんてないのだと。

けれどそれは揺らぎ、そして崩れてしまった。
実際に空を羽ばたく少女を見て、少年は思ってしまったのだ。周囲の期待に応える必要はない・・・けれど応えられる能力を手放すことは、本当に彼女にとって良いことなのだろうか。彼女がそれを望む望まないに関わらず、空を飛ぶということは彼女にとっても大切なことなのではないだろうか、と。
そして少年は、少女を傷つけてしまう。
理解したつもりになってしまった弱さ。正しいことだと信じぬくことが出来なかった。
大局的に見れば正しかったのかもしれない。正しかったのかもしれないが、彼はきっとこの結末を本心から望んでいたわけではなかっただろうし、自分も彼女があんな表情をするところなんて見たくなかった。でも逆に言えば、あえてこの結末を見せられたからこそ、こんなにも胸に残る作品になったのかも知れません。
大人だったら理性的に割り切れただろうし、子供だったらもっと夢ばかり見れたかもしれない。どちらでもない、この年頃特有の不幸であり、ロマンですよね。些細なズレから連鎖する。
きっと正しく真実を受け止めるのに、この男の子では何かが足りなかった。
思春期だからこその不安定さが織り成すセンチメンタル。
思わずため息。いいですねえ。強烈に切ないのに、なんでこうほっこりするのか。

あと天使ちゃんかわいいなって!この作品何気に女の子キャラかわいいのですよ。
ドラゴンがいる日常。そんなお話。竜の学校は山の上
竜が存在していることが当然なこの世界。竜もまた、ある意味で「家畜」として人間社会に溶け込んでいます。まぁそれでもちょっと珍しいようですけども。
舞台は全国で唯一「竜学部」を有する宇ノ宮大学。
新入生の主人公は、そこで竜研究会の部長と出会い、物語が始まります。
竜は貴重な生き物です。けれど今、人間社会は竜を必要とはしていません。
あらゆる面でコストがかかりすぎる上に、食用としてもイマイチ、ペットとしても難ありまくり。ぶっちゃけ役立たずなのだ。
でもやっぱりそれでも惹かれてしまうもので。なんたって、竜ですよ。
ただ「好き」なだけじゃ現実的に食っていけない。竜を好きな人間も、竜そのものも、共倒れになってしまう。だからこそ、人間にとって竜が役に立つということを証明しなければならない。竜のために、竜の活用法を見つけなければならないのです。
竜研究会の会長はそれを目指している人物。けれどどうにも研究が行き詰る・・・。
好きだからこそもっと認められて欲しいと願うのに、好きだからこそ得た知識で、それが困難であることも分かってしまっている。竜は役立たずだって言われることが何よりも悔しいのに、それを否定してやることもできない自分が一番、情けない。
言ってしまえば、自分を否定するための、自分との戦いなのだ。
しっかりとした舞台設定がされており、竜がいる世界というのが実にリアルに感じられるのもこの作品の面白さ。その上で「価値観」の問題をベースに、軽やかにメッセージを届けてくれる良作です。終盤の飛翔シーンになぜだからすごく感動してしまった。
こんなにカッコいいのに、それが認められない世界なんて、そりゃ悔しいもんだ。
部長さんの秘めたる情熱に胸打たれるとともに、その飄々とした性格や彼女自身のかわいらしさにも笑顔。息の上がったときの表情のなんたる色っぽさ!
そんな感じで、さわやかな興奮を届けてくれる、人と竜と強い意志の物語。
ダメダメな主人公の再生を描くショート。これもどこかシュールな読み心地です。くず
「おめでとう!君は栄えあるくずの中のくず!」とか迷言が飛び出す作品でもありw
作品集としては一番最後におかれている作品で、ほんのり前向きになれます。
ほどよく力の抜けた感じのゆるめなタッチの作画もお気に入り。さらりと読めます。
いや、なげぇよ!と自分で言いたくなるくらい今回の記事ちょいと長いですね。
ではまとめといきます。
RPG風ファンタジーから現代を舞台にしたものまで、また物語の方向性もバラエティー豊富で、様々な作品を一度に楽しめるという意味で非常に好きな感じの短編集でした。
優しく感動させられるものから後悔に身をよじりたくなるようなものまで。
ページ数のボリューム感に相応しい、素敵な物語がぎっしりと詰まった一冊です。
普通の人間とそうじゃない存在の組み合わせがよく登場するので、テーマとしてはやはりそこらへんを強く滲ませているなという印象。人外キャラが多数登場するのも楽しいですね!
またこの絵も素敵だなーと。この素朴な絵柄は清涼感あります。
土のにおい、風のにおい、涙のにおい。あっさりとした作画ですが、だからこそ想像力が刺激されて、短編ごとにに違った空気を感じられたように思います。
詰め込みすぎていない画面のため読みやすさも抜群。けれど手抜きはされていません。
それと女の子が可愛いということはさっきから何度も書いてますっけね。こう、キラキラしてるわけではないんですけども、なんとなくずっと見ていたくなるような感じで魅力的な女の子たちがいっぱいです。彼女たちがいる世界もまた、同じことが言えます。
決して綺麗に輝く物語ではないけれど、でもどれもすごく切実で、温かで、面白い。
総じて、様々な面でレベルの高い本になっているのではないでしょうか。
多彩なメッセージを届けつつ、それが押し付けがましくなっていないのも○。
どの作品からもいわゆる同人漫画っぽさは感じるので、それが気になる人がいるかもしれません。しかし個人的にはそういうのもひっくるめてかなりツボ。視点の面白さにもニヤリ。
あなたの心をそっと揺さぶる物語が、きっと見つかります。
『竜の学校は山の上』 ・・・・・・・・・★★★★☆
いろんな層にお勧めしたい良質な作品集。ファンタジーだったり現代モノだったりで賑やか。
※234ページには作者も発売後に気づいて悶絶したようですが「集中せん」という原稿のメモが消されないまま残されてしまっていたりします。笑ってスルーだ。
[本]このクラスに神様を作ろう。 『よいこの黙示録』1巻
![]() | よいこの黙示録(1) (イブニングKC) (2011/03/23) 青山 景 商品詳細を見る |
森ユリカを教祖にして このクラスに宗教を興す
待ってましたの青山景先生新作「よいこの黙示録」第1巻、発売されました。
オビには「ストロボライトの」と作者紹介がされていましたが、そんなに有名でしたっけ。いや、大変好きな作品ですので嬉しいのですが!レビューも書きました。
本作のテーマは小学児童と「宗教」。…なんだかミスマッチかつ危うそうな組み合わせですが、そうして出来上がったこの物語は不思議と新しい読み心地に仕上がっています。
今回はこの作品の感想でもー。
もともとの担任が産休を取り、新しく4年2組を受け持つことになった新米教師・湯島朝子。
はりきって子どもたちの前に立つ彼女ですが…早々からクラスはおかしな流れに。
地元の川にホタルはもういないのだという主張する女の子グループと、クラスの中でも目立たない部類の無表情な女の子・森ユリカが、不思議な力を使ってホタルを川に呼び寄せた、よってホタルはあの川にいると主張する(ちょっと冴えない系)グループが対立。
いきなりな展開に戸惑う湯島先生ですが、ひっそりと会話に参加して流れを形成し、クラスを対立へと導いた、裏方の支配者がいたことに気づく。その少年の名前は、伊勢崎大輔。
この騒動を意図的に作りだした彼の目的は、小学生離れした恐るべきものだった。

4年2組全体を、1つの宗教でまとめあげること。小規模新興宗教の立ち上げだ。
よりよいクラスにするためには…と、苦汁をなめる思いで彼につき従うハメに。
10歳の少年少女を巡る、教育と宗教の新しい形の学園ドラマが始まりました。
キーとなる人物は、宗教成立を企てる謎の少年・伊勢崎と
彼が教祖に仕立てあげようとしているミステリアスな少女・森ユリカ。
宗教と聞くと、私はなんだか近寄りがたいものと感じてしまうのですが
小学校を舞台にしつつ、また主人公として憎めないドジっ娘先生に置くことで、マイルドで親しみやすい作品へと雰囲気をよくしてくれています。
かといってぬるい内容というわけではない。まだまだ物語の序盤だと思いますが、宗教が成立していくためのステップをあえて作りだしていく様子には感心。読ませるものがありました。
小中学校には、というかクラスには独特の社会構造が成されていたなと、今になって自分は思い出すわけですが、当時のことを思い出しながらも読んでみるのも面白いかも。
宗教を作るというのは、いわば全く新しい社会構造を生み出すことなのですね。
本作が1巻のうちに辿った宗教形成までの道のりは、非常に理にかなっています。
特定の人物(森ユリカ)が、どこか特別な人間であるということをアピールし、またそれをクラス全体の共通認識にさせる。そうなると当然反発を覚える多くの人間からはユリカは良くは思われません。恐れにも似た感情で、疎まれるようになります。
クラス内としてはそれはいじめという形になるのですが、そうして特別な感情で持って行われる迫害行為は、きっかけさえあれば恐怖を崇拝にすり替えられる。それは史実が証明している。
先にも書きましたが、小中学時代にはクラスごとにやや違った雰囲気があったなぁと自分は思い出しました。複数の人間が一か所に集まり長時間を共に過ごすなら、その集団の中にささやかでもルールのようなものが発生するのでしょう。そして本作は本来なら自然に生まれてくるであろうそのルールを、人の手で故意的に生み出してやろうというお話。その「ルール」を言い変えて「宗教」としている、と。なかなか斬新な学園漫画だなぁと感じます。
本作の重要人物・無理ユリカちゃんは面白いキャラですねぇ。
伊勢崎によって教祖に仕立て上げられそうな少女なのですが、彼女自身やはりちょっと他の子とは違う雰囲気をかもしています。

ファンタジーなようで、非常に現実的なこの作品。でも彼女には秘密もありそうです。
最初にホタルを呼んだ件でも、恐らくは周囲の人間がそう信じ込まされたものなんだろうとは思いますが、もしかすると超常の力を本当に持っていたりして。
そして表紙イラストにも表立っては出てきてない辺り流石な伊勢崎君の真の目的とは何か。
宗教を興した先に、なにを目指しているのか。まだ明かされない部分が多い男の子ですね。
そして忘れてはならない主人公の湯島先生。影薄いけど、がんばってますよ!

パンチラやシャワーシーン等、サービスをたくさんしてくれる大変ナイスな新米教師。
しかし本作中最もアツいのは、彼女と伊勢崎君のやり取りであるということは言うまでもないことなのです。完全にイニシアチブをとられており、どっちが年上でどっちが先生だ状態。
社会人女性が小学生の男の子に完全に手玉に取られてしまっている様子にはほっこりせざるを得ない!オネショタってヤツですかぁー!
もともとかなりなドジっ娘体質なようで、今後どんなことをしてくれるのかも楽しみ!
面白いキャラクターが多いのも本作の好きなところですねぇ。
ではまとめ。
これまでの学園・教師漫画とはまた少し違った切り口で教育現場を捉えてる作品。
宗教という言葉に身構える必要はありませんが、しっかりと内容で読ませる、深さのある物語となっていると思います。今後さらに大きく揺らいでいくであろうクラスの内部構造がどう描かれていくのか、今からとても楽しみだったりします。
子どもたちがたくさん登場しますが、しっかり描き分けはされていますね。
作画のクオリティはなかなか高いと思います。キャラクター可愛いですしね!
そんな感じで結構お気に入りの新シリーズ。冬発売予定の2巻が待ち遠しい。
混乱する人間関係の裏で立ち回る少年伊勢崎と、ドジっ娘先生朝子の活躍を楽しみにしています。中島君とユリカ、湯島先生と伊勢崎君と、期待できるペアが2つも・・・!
『よいこの黙示録』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
独特のテーマですが読みやすい学園・教師漫画。先生もっとドジになってください!
[本]フルカラーで見る、ちょっと不思議な世界たち。 『惑星さんぽ』
![]() | 惑星さんぽ (WANIMAGAZINE COMICS) (2011/02/11) toi8 商品詳細を見る |
ありがとう
画集のような漫画作品、toi8さんの初単行本「惑星さんぽ」です。
toi8さんと言えばライトノベルのイラストを多数手がけていたりしていたり、アニメ「鋼の錬金術師FA」で一部背景デザインを担当していたりと、しばしば名前を見かけていた作家さんでした。
今回は「季刊 GELATIN」等で掲載されていた短編漫画が一冊にまとめられたと言うことで、値段は少々高かったですが購入してみた次第。しかし、いい買い物でした。
まず表紙がいきなり素晴らしいのです。
柔らかな紙質(ビニール感ゼロ)の手触りもいいのですし、箔押しされたタイトルも高級感アリ。
しかもこのイラストは裏面まで続くロングサイズで、本から外してポスターに出来そうな程。
宇宙服を来た女性と風になびく洗濯物、という不思議な生活感を漂わす表紙ですが、続くその右側・つまりは裏表紙には、大きくそびえ立つ謎の建造物!ワクワクさせられますねぇ!
この単行本は漫画作品ですが、ここはイラストレーターの力量を見せつけられました。
内容に関してですが、短編は9編収録。うち9割がカラーでかなり豪華な一冊。
その分ひとつひとつの作品は短めで10ページに満たないものもあります。長いもので20ページを少し超えた程度で、どれもファンタジックな物語。
普通の人間(主人公)が、界の神秘やちょっとおかしな人物に巻き込まれる、という設定は一貫しており、これがテーマとして定まったものであることが分かります。
では気になった作品をいくつか紹介しますかー。
進撃の巨人!!・・・ではないですが、途方もなくデカい巨人が登場するお話。・巨人の塔

この世界の人々の生活が推測できる描写がささやかながらに散りばめられていて良いですねぇ。硬質な世界観と、その中で生きる主人公の少女の明るさが面白い。
歪な塔のフォルムも少年心をくすぐられますね。
そして目玉である「巨人」ですが、害意は無いように見えますがなぜ周期的に人間の住む土地へとやってくるのかという謎も明かされず、一切コミュニケーションが取れないということで、もはや天災みたいなものですね。
意味が分からないし、恐いし、危ないし・・・でも、なんだか心魅かれてしまうような。
そして巨人への超接近を試みる主人公。最後の主人公の情けない笑い顔かわいいなぁw
奇妙な形ではありますがある意味上手く周ってる世界。楽しそう。
1000年生きているおばあちゃんと、その孫である少年のお話。・マジョ
しかしそのおばあちゃん、不労になった歳の時点で外見が変わっていないために、見た目はまるで少女のままなのです。
当然ドキドキして身を硬くしてしまう男の子なのでした!

孫への可愛がりからか、結構密接なコミュニケーションをとろうとしてくるおばあちゃん。一緒にお風呂とかぬふふー!自分がもう「おばあちゃん」であるという自覚を持っていて、そのために色々お世話をしてくれているんだけど、自分が外見少女であることは全く気にしておらず・・・すごく無防備。
ほかにも布団にもぐりこんできて「足の先が冷えとるぞ 温めてやろ」と脚を絡ませてくるという・・・あーかわいいー!
でもちょっと昔ヤンチャだったりで、、その頃の名残で今もたまに恐い一面を見せたり・・・
不思議と魅力のあるヒロインでしたね。色んな女の子が登場する本ですが、個人的には彼女が一番だったかも。1000歳を超えるおばあちゃんなんですけどね・・・いや、それがいい。
「絵」の力を最も感じたのはこの短編。・マボロシの中野区
突如自分以外の人間がいなくなった世界。けれど不思議の世界は変化なく周っていて・・・
舞台が実在する土地である「中野区」ではありますが、本作で登場するのはすでに変貌しきった姿。うっそうと茂る森、長い時の経過を感じさせられる無数に立ち並んだオブジェ・建造物。

上の画像は巻末に収録されていたオマケのラフスケッチなのですが絵の密度が凄いことになっており、台詞少なくとも説明無くとも、物語の背景を思わず考え込んでしまいます。
破滅的なシチューションなのにすごく空気が緩いのもいいなぁ。
のんきにTwitterやってる神様(プリキュア実況垂れ流しで)と主人公はこの先どう生きていくのか・・・想像したくなる作品。
それにしてもこういう背景たまらないですねぇ。大きい絵で見れて嬉しいです。
まとめへ。
短編集であり、しかも絵を見せるための物語構造をしているため、ストーリー要素は薄目。
物語として語る部分はそう多くないと感じましたが、絵の力によって物語に深みが相当加えられており、絵本を読むような感覚で楽しめる作品になっているのではないでしょうか。
物語を楽しむというよりは、想像の土台を読者に与えてくれる作品かな。
もうちょっとこの世界の続きを描いて欲しいなぁという作品がいっぱいで、これは見事にこの作品にハマってしまたということなんだろうなと我ながらに感じたりw
もちろん独特の色彩で描かれた「ちょっとおかしな世界」はそれだけでも十分魅力的。
ぼけーっとページを開いて絵を眺めているだけでもかなり楽しめます。
作品によって線の粗さが異なっており、「おてつだい」なんかはざくっとした下書きの上から着色を加えていったようなタッチ。見やすいとは言いづらいですが、これも味が合って良し。
方向性が若干違うとは思いますが、「ヨコハマ買い出し紀行」とか「水惑星年代記」等が好きな方にお勧めできる一冊なのではないでしょうか。
絵にピンと来たら表紙買い大丈夫だと思います。
巻末にはポスターっぽい描き下ろしカラーピンナップ3枚収録。見る価値十分。
かわいい女の子と、かわいい男の子と、ちょっと不思議な世界のおはなし。
「惑星さんぽ」は、そのタイトルの如く、様々な風景を見せてくれる作品です。
『惑星さんぽ』 ・・・・・・・・・★★★☆
画集のような漫画。想像の翼を広げて、いろんな惑星を見に行こう。
[本]19歳天才少年が女子高教師!“才能”を巡る学園ラブコメ 『やさしいセカイのつくりかた』1巻
![]() | やさしいセカイのつくりかた 1 (電撃コミックス) (2011/01/27) 竹葉 久美子 商品詳細を見る |
本当に朝永のこと好きみたいじゃない
待ってました!「やさしいセカイのつくりかた」1巻発売です。
先日一周年を迎えた、電撃大王なのに掲載作品全部オリジナル漫画のみという「電撃大王GENESIS」で連載をしている本作。季刊雑誌なので掲載が遅いことにやきもきしながら毎号楽しみにしているのですが「待ちに待った」な1巻がよーやく発売されてテンション上がってます!
それでは今日はこの作品について。
13歳でアメリカの大学へ入学、大学院へ進み研究に没頭する日々を送っていた朝永悠19歳。
しかし彼の研究に資金提供をしていた会社が倒産、研究の続けられなくなってしまう。
スポンサー探しと資金調達のためにさ迷っているところに、偶然出会った恩師に拝み倒され、学校で臨時講師として教鞭を振るうことに。ところがそこは女子校!19歳の彼は、自分とほとんど歳が同じ少女たちと教師として向かい合うことになってったのだ。
と、なんだかハーレムになりそうなシチュエーションの作品ではありますが、この作品はそこらへんきちんと節操を持っているようです。
メインヒロインは今のところ2人。
かつての事件から男性恐怖症に陥っている純情派ギャル・ハルカ。
年齢不相応な問題を安々と解いてみせるものの、才能をかくそうとする少女・葵。
まずはハルカですが、「男性恐怖症」というのは朝永の前任教師がやらかした事件が強く影響しています。その教師が仕出かしたのは性的暴行未遂なのですが、その被害者となったのがハルカ。
その人物が学校を去った後も彼女の心の傷は癒えず、男を信じられないようになってしまいました。朝永に対しても最初は敵意むき出しです・・・。
ところが少しずつ朝永の人間性にふれて、彼女の中で変化が起こっていきます。
そうなるとこれまで厳しく彼に当たってきたツケが回ってきて、罪悪感なども相まって上手く素直になることができず苦しむハルカちゃんがやたらかわゆい!軽そうな外見と奥ゆかしい女の子らしさのギャップが良いですね・・・!
一度ヘコむとわりと引きずってしまう性格なようですが自分で立ち直って見せたあたり、自分のメンタルのコントロールは上手にできる様子。それでもその方法を巡ってまたひと騒動・・・。
恋してしまったからこそ、それしか見えなくなってしまったのか。
不器用だなぁ、ピュアだなぁ。やっぱり可愛い女の子だ。

「あたしだってまだなんだから!!!」
しかも“まだ”とのこと。うっかり叫んじゃいました。フッフー!
弱くて不器用で臆病で純粋な女の子です。主人公と恋仲になりそうなのはこちら?
しばしばヘアスタイルが変わるのも面白いキャラクターですね。
単行本ラストでは反省も込めて?三つ編み姿で登場。これもかわいいー!
一方葵の方は、先のハルカとはかなり違うキャラクターですね。
天才である朝永に「僕と同類」と言わしめるほどの頭脳を持つ少女。
ですが本人はそれを認めず、周囲にも隠そうとしている。
どうやら彼女の家庭環境にその秘密がありそうですが、それはまだ明かされておりません。
知的興味は旺盛で、それをきっかけにだんだんと主人公に心を開いていく様子は
ラブコメというより人間ドラマとしてニヤニヤできそう。
けれど全く朝永先生を気にしていないという感じでも無いようで・・・?
今後の彼女の動きが非常に気になるところですね。少し控えめな性格も○。
自分を前に進ませないように必死に抑え込んでいるようでもある葵。
けれど朝永が自分と同じくらいの歳に製作した研究ノートを見て少し彼女に異変が。
自分の知らない世界にいる朝永。しょうがない、彼は特別だなのだから。

けれど、くやしい。
静かに闘争心に火が付いた彼女。「もっと上に行きたい」。その想いがより強固に。
彼女は自分の殻を破ることができるのか。
主人公・朝永は言わずもがな天才ですし、葵も明らかに何かを持っている側の人間です。
朝永は幼少の頃から周囲のサポートによって満たされた環境でエリートとして生きてきた。
自分の才能・力量を正し理解し、臆することなく自分の道を歩んで行こうとする
外見とは少しちがって逞しい人間性を持っているキャラクター。
だから葵がなぜ自分の力を活かす方向に進まないのか理解ができない。
かつて彼女と似たような状況にあった彼は、この特殊なケースにおいても人生の先輩として意見ができる立場にある。けれど葵はそれを望まなない・・・。
と言うわけで「押してダメなら引いて誘え」とエサ(研究資料)をチラつかせる作戦を開始したりしますが、注目したいのがこの作品が描く「才能」の取り扱い方ですかね。
異質な、他の人とは大きく違うモノ。
それを持ち存分に発揮しながらも進むことができなくなった教師・朝永と、持っているけれどそれを使って進もうとしない少女・葵。2人の内面の微妙なすれ違いもこの作品の面白いところ。
また、ハルカもこの話題に絡んできます。
自分は特別じゃない。けれど朝永と並ぶためには、「何か」を手にしなくては。

最も自分が活かせるであろう舞台に自ら向かっていくハルカです。
特別なものを持っていないなら、自分の力で特別になるしかない。
上手くいかない現実に苦しまされることもたくさんあるけれど
自分から踏み出してみることが、新しい、やさしいセカイへの第一歩なのかもしれない。
ハルカと葵のどちらにも言えることです。盛り上がってきましたね。
「何か」を持っていながら歩こうとしない少女。「何か」を見つけるために歩き出した少女。爽やかに人間の成長を描いてゆく作品ですね。
とまぁなんだか偉そうなこと書きましたが、結論言うと女の子がかわいい!だから好き!
けれどどれだけの作品じゃないんだってことで長々書いてしまいました。
ハルカちゃんも葵ちゃんも可愛くて困っちゃいますね!おのれ朝永(呼び捨て)!
作者の竹葉久美子先生はこの作品が初単行本となる新人さんですが、人気的も好調らしく嬉しいですね。4月発売のGENESIS次号表紙を獲得したようです。
パンチラ等もありますが程度は抑えられ上品な読み心地。柔らかくもスッキリしたタッチと画面作りで読みやすくて嬉しいです。メインでは無くとも色んな女の子が登場しますしね。
物語も人気もさらに盛り上がっていきそうな「やさしいセカイのつくりかた」。
期待できるシリーズだと思います。しばらくかかりそうですが2巻が楽しみ。
『やさしいセカイのつくりかた』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
ヒロインたちがそれぞれ魅力的。メインの2人には頑張って欲しいなぁ。