[本]奥様は馬で、同級生は天使で。 『竜の学校は山の上』
「あの花」第1話にハートをフルボッコにされました。
そんなもの なんにも違わないのよ
ふら~っと衝動買いした作品だったのですが、当たりでしたね!
今回は九井諒子さんの作品集「竜の学校は山の上」での更新とします。
収録された作品は商業誌に発表されたものではなく、webだったり同人誌としてだったりで世に出された作品たち。それらに加筆修正を加えて一冊にしたものがこちらですね。
収録作のいくつかは九井諒子さんのHPで無料で読むことができますので、気になる方はまずそちらで作品を読んでみてはどうでしょうか。感じは掴めるかと。
加えて公式でPVが。収録作のひとつ「進学天使」をダイジェストで動画として読めます。
別窓で大きくしないと読みづらいかも。
BGMはPerfect piano lessonの「Springstorm」。選曲も俺得じゃないですかー!
まぁ紹介はここまでにしまして、内容について触れましょう。
どの作品もたまらないので短編全てについて感想をつらつらと・・・。
魔王城から中学校まで、様々な舞台で「人間」を描く作品集となっています。
例えばこの作品は、勇者が世界を守り抜いた後、故郷に帰ってのお話なのですが、選ばれた勇者に屈折した想いを抱く主人公だったり、政治的に利用される勇者だったり・・・。
魔王を倒して、世界は平和になったのか。いや、そんなわけはないのだ。
見せ掛けのハッピーエンドの向こう側を描くというコンセプトも良いですし、ほんのり切ないラストもロマンチックな香り。普遍的なファンタジー世界が舞台だからこそ、自分がこれまで触れてきたファンタジーの裏側にも想い馳せることとなった、個人的には軽く衝撃的な一作。
勇者はどんなことを感じ、この世界を戦ったのか。
web版と読み比べるとかなり2人の距離感が明確に感じられるようになり、より深みが出ていますね。設定としてはいわゆる「美女と野獣」です。
語り部が口にする呪われた王子の物語を聞き、「王女がただの村娘であったなら」と零す高齢の女性の伏せ眼がちな横顔に、またしても切なさがぐんぐんこみ上げる。
彼女が何も語ろうとはしない夜。ただもしかすると、そこには誰も知ることができない恋の記憶があるのかも知れない。いいなぁ。はぁ。あと王女さん超美人。
主のいなくなった魔王城の再利用に乗り出す人類・・・果たしてうまくいくのか、というお話。
この作品も細かく加筆修正がされてよりブラッシュアップされていますね。
しかし個人的にはweb版で描かれた、勇者の仲間の死亡描写なくなっているのは少々残念でもあったり。ああいう生々しい死の絵はあって欲しかったかも。無念の表情も痺れる。
この作品もファンタジー作品で、RPGのエンディングのその後を描いたもの。
自らが勝ち得た平和を信じようとしない、世界に絶望した勇者。
それでも勇者がくれた平和を信じ続ける、病に悩まされる少女。
しかりながら迎えたラストは、もちろん最高のものかどうかは分からないけれど、ささやかな笑顔は確かにあるであろう、救いのあるもの。
最後まで人間の光と影を見せ付ける、残酷ながら美しい物語だと思います。
「支配」とは人間から見た物事の一面にしかすぎない。ということで「魔王」が実は世界を平和にしてくれていた存在だと描くお話です。
皮肉が利いているようで、でもきっとこれがハッピーエンド。巣立ち。自立。子供は反抗期を経て大人になるんです?ちょっと違うかw
いろんな女性の神様が登場するので、何気に本作一番華やかな気がしますね・・・!
豊穣の神のデザインに強烈にもんもんさせられるわけですが、しかし花の神ちゃんもいいじゃないですかと!幸薄そうな表情にひかれます!
内容としてはそれなりにページ数もあるので、読み応えのある作品ですね。
物語としての盛り上がりもしっかり提供され、個人的には幸せな終わり方だと思いました。
けれどラストは主人公たちとは別の視点から物語を捕らえることで、ほんのり無常感の漂うものになっています。単純な終わり方をしてくれないのが意地悪で、好きです。
単行本表紙にも大きく登場しているかわいらしい奥さんが目玉です。
家事も出来て、心遣いもバッチリ。その上甘えん坊で可愛らしい、ナイス奥さん。
ただ、馬です。
この世界は猿人と馬人の2種類の人間がいます。夫は猿人、奥さんは馬人。
猿人はまるきり現実世界の人間そのまま。けれど馬人の設定が面白いです。
ひどく勤勉で、睡眠も猿人より短くていいし、総じて無駄な時間を過ごすことが苦手。企業としても猿人よりも馬人の方が雇いやすいから、猿人の雇用が減っている世界。
同じ土俵にたっては、猿人には馬人に及ばない点が多すぎるのです。
そのせいで猿人政府が馬人の勤務体系を見直す法案が出されたり。
現代日本を舞台に、そんな少しだけ歪んだ社会を描いた作品となっています。
先ほどの猿人×馬人の夫婦のほかに、同じ会社に勤めている社会人たちのペアのストーリーも同時進行的に描かれ興味深いです。猿人が抱えるコンプレックスなど。
社会人編がややシリアスなため、イチャイチャ夫婦がイチャチャする気の抜けた4コマ漫画に癒されますねぇwしかし別々のペアでもって家庭と社会の2場面を分けて描くことで、それぞれにやや異なった形で猿人と馬人の共存が表現されており、うまい構成だなと感じました。
人種というやや扱いにくいテーマを描いている本作ですが、かなりスマートにまとまった良作なのではないでしょうか。お気に入りです。
まぁなによりですね。
「同じがいいの!」
なんですかこの(><)は!もうううううう奥さんかわいいー!
そしてこの作品もテーマとしては「現代神話」と同じく、普通の人間とそうじゃない人間の間にある複雑な感情や、共存の是非、といった感じ。
学生の男の子と女の子の恋愛がメインということで、大分馴染みやすいお話でもあります。
飛ぶトレーニングのために留学をする・・・ことにはちょっと抵抗がある少女。
彼女の意思を尊重し、「自分の好きなようにしないと後悔するぞ」なんて遠まわしなアドバイスをする男の子。まぁそれは「そばにいて欲しい」なんて言えない照れが故。そんな油断が許されているのは、彼女が留学に乗り気でないからこそなんですが。
羽があったとしても、それが彼女が普通の人生を諦める理由にはならない。
そう彼は信じていた。周囲の無理な期待にこたえてやる必要なんてないのだと。
(クリック拡大)
けれどそれは揺らぎ、そして崩れてしまった。
実際に空を羽ばたく少女を見て、少年は思ってしまったのだ。周囲の期待に応える必要はない・・・けれど応えられる能力を手放すことは、本当に彼女にとって良いことなのだろうか。彼女がそれを望む望まないに関わらず、空を飛ぶということは彼女にとっても大切なことなのではないだろうか、と。
そして少年は、少女を傷つけてしまう。
理解したつもりになってしまった弱さ。正しいことだと信じぬくことが出来なかった。
大局的に見れば正しかったのかもしれない。正しかったのかもしれないが、彼はきっとこの結末を本心から望んでいたわけではなかっただろうし、自分も彼女があんな表情をするところなんて見たくなかった。でも逆に言えば、あえてこの結末を見せられたからこそ、こんなにも胸に残る作品になったのかも知れません。
大人だったら理性的に割り切れただろうし、子供だったらもっと夢ばかり見れたかもしれない。どちらでもない、この年頃特有の不幸であり、ロマンですよね。些細なズレから連鎖する。
きっと正しく真実を受け止めるのに、この男の子では何かが足りなかった。
思春期だからこその不安定さが織り成すセンチメンタル。
思わずため息。いいですねえ。強烈に切ないのに、なんでこうほっこりするのか。
あと天使ちゃんかわいいなって!この作品何気に女の子キャラかわいいのですよ。
竜が存在していることが当然なこの世界。竜もまた、ある意味で「家畜」として人間社会に溶け込んでいます。まぁそれでもちょっと珍しいようですけども。
舞台は全国で唯一「竜学部」を有する宇ノ宮大学。
新入生の主人公は、そこで竜研究会の部長と出会い、物語が始まります。
竜は貴重な生き物です。けれど今、人間社会は竜を必要とはしていません。
あらゆる面でコストがかかりすぎる上に、食用としてもイマイチ、ペットとしても難ありまくり。ぶっちゃけ役立たずなのだ。
でもやっぱりそれでも惹かれてしまうもので。なんたって、竜ですよ。
ただ「好き」なだけじゃ現実的に食っていけない。竜を好きな人間も、竜そのものも、共倒れになってしまう。だからこそ、人間にとって竜が役に立つということを証明しなければならない。竜のために、竜の活用法を見つけなければならないのです。
竜研究会の会長はそれを目指している人物。けれどどうにも研究が行き詰る・・・。
好きだからこそもっと認められて欲しいと願うのに、好きだからこそ得た知識で、それが困難であることも分かってしまっている。竜は役立たずだって言われることが何よりも悔しいのに、それを否定してやることもできない自分が一番、情けない。
言ってしまえば、自分を否定するための、自分との戦いなのだ。
しっかりとした舞台設定がされており、竜がいる世界というのが実にリアルに感じられるのもこの作品の面白さ。その上で「価値観」の問題をベースに、軽やかにメッセージを届けてくれる良作です。終盤の飛翔シーンになぜだからすごく感動してしまった。
こんなにカッコいいのに、それが認められない世界なんて、そりゃ悔しいもんだ。
部長さんの秘めたる情熱に胸打たれるとともに、その飄々とした性格や彼女自身のかわいらしさにも笑顔。息の上がったときの表情のなんたる色っぽさ!
そんな感じで、さわやかな興奮を届けてくれる、人と竜と強い意志の物語。
「おめでとう!君は栄えあるくずの中のくず!」とか迷言が飛び出す作品でもありw
作品集としては一番最後におかれている作品で、ほんのり前向きになれます。
ほどよく力の抜けた感じのゆるめなタッチの作画もお気に入り。さらりと読めます。
いや、なげぇよ!と自分で言いたくなるくらい今回の記事ちょいと長いですね。
ではまとめといきます。
RPG風ファンタジーから現代を舞台にしたものまで、また物語の方向性もバラエティー豊富で、様々な作品を一度に楽しめるという意味で非常に好きな感じの短編集でした。
優しく感動させられるものから後悔に身をよじりたくなるようなものまで。
ページ数のボリューム感に相応しい、素敵な物語がぎっしりと詰まった一冊です。
普通の人間とそうじゃない存在の組み合わせがよく登場するので、テーマとしてはやはりそこらへんを強く滲ませているなという印象。人外キャラが多数登場するのも楽しいですね!
またこの絵も素敵だなーと。この素朴な絵柄は清涼感あります。
土のにおい、風のにおい、涙のにおい。あっさりとした作画ですが、だからこそ想像力が刺激されて、短編ごとにに違った空気を感じられたように思います。
詰め込みすぎていない画面のため読みやすさも抜群。けれど手抜きはされていません。
それと女の子が可愛いということはさっきから何度も書いてますっけね。こう、キラキラしてるわけではないんですけども、なんとなくずっと見ていたくなるような感じで魅力的な女の子たちがいっぱいです。彼女たちがいる世界もまた、同じことが言えます。
決して綺麗に輝く物語ではないけれど、でもどれもすごく切実で、温かで、面白い。
総じて、様々な面でレベルの高い本になっているのではないでしょうか。
多彩なメッセージを届けつつ、それが押し付けがましくなっていないのも○。
どの作品からもいわゆる同人漫画っぽさは感じるので、それが気になる人がいるかもしれません。しかし個人的にはそういうのもひっくるめてかなりツボ。視点の面白さにもニヤリ。
あなたの心をそっと揺さぶる物語が、きっと見つかります。
『竜の学校は山の上』 ・・・・・・・・・★★★★☆
いろんな層にお勧めしたい良質な作品集。ファンタジーだったり現代モノだったりで賑やか。
※234ページには作者も発売後に気づいて悶絶したようですが「集中せん」という原稿のメモが消されないまま残されてしまっていたりします。笑ってスルーだ。
竜の学校は山の上 九井諒子作品集 (2011/03/30) 九井 諒子 商品詳細を見る |
そんなもの なんにも違わないのよ
ふら~っと衝動買いした作品だったのですが、当たりでしたね!
今回は九井諒子さんの作品集「竜の学校は山の上」での更新とします。
収録された作品は商業誌に発表されたものではなく、webだったり同人誌としてだったりで世に出された作品たち。それらに加筆修正を加えて一冊にしたものがこちらですね。
収録作のいくつかは九井諒子さんのHPで無料で読むことができますので、気になる方はまずそちらで作品を読んでみてはどうでしょうか。感じは掴めるかと。
加えて公式でPVが。収録作のひとつ「進学天使」をダイジェストで動画として読めます。
別窓で大きくしないと読みづらいかも。
BGMはPerfect piano lessonの「Springstorm」。選曲も俺得じゃないですかー!
まぁ紹介はここまでにしまして、内容について触れましょう。
どの作品もたまらないので短編全てについて感想をつらつらと・・・。
魔王城から中学校まで、様々な舞台で「人間」を描く作品集となっています。
この単行本は前半にRPGのような世界観を舞台にしたファンタジー漫画が集められているのですが、どの作品も輝かしい勇者の活躍を描いたような王道なものではありません。どこかしら捻くれた、一癖あるものばかり。帰郷
例えばこの作品は、勇者が世界を守り抜いた後、故郷に帰ってのお話なのですが、選ばれた勇者に屈折した想いを抱く主人公だったり、政治的に利用される勇者だったり・・・。
魔王を倒して、世界は平和になったのか。いや、そんなわけはないのだ。
見せ掛けのハッピーエンドの向こう側を描くというコンセプトも良いですし、ほんのり切ないラストもロマンチックな香り。普遍的なファンタジー世界が舞台だからこそ、自分がこれまで触れてきたファンタジーの裏側にも想い馳せることとなった、個人的には軽く衝撃的な一作。
勇者はどんなことを感じ、この世界を戦ったのか。
若干の加筆と、3ページほどの描き下ろしがされた全8ページの短編。魔王
web版と読み比べるとかなり2人の距離感が明確に感じられるようになり、より深みが出ていますね。設定としてはいわゆる「美女と野獣」です。
語り部が口にする呪われた王子の物語を聞き、「王女がただの村娘であったなら」と零す高齢の女性の伏せ眼がちな横顔に、またしても切なさがぐんぐんこみ上げる。
彼女が何も語ろうとはしない夜。ただもしかすると、そこには誰も知ることができない恋の記憶があるのかも知れない。いいなぁ。はぁ。あと王女さん超美人。
勇者が魔王を倒し、平和を勝ち取った世界。魔王城問題
主のいなくなった魔王城の再利用に乗り出す人類・・・果たしてうまくいくのか、というお話。
この作品も細かく加筆修正がされてよりブラッシュアップされていますね。
しかし個人的にはweb版で描かれた、勇者の仲間の死亡描写なくなっているのは少々残念でもあったり。ああいう生々しい死の絵はあって欲しかったかも。無念の表情も痺れる。
この作品もファンタジー作品で、RPGのエンディングのその後を描いたもの。
自らが勝ち得た平和を信じようとしない、世界に絶望した勇者。
それでも勇者がくれた平和を信じ続ける、病に悩まされる少女。
しかりながら迎えたラストは、もちろん最高のものかどうかは分からないけれど、ささやかな笑顔は確かにあるであろう、救いのあるもの。
最後まで人間の光と影を見せ付ける、残酷ながら美しい物語だと思います。
あっさりシュールな短編。ちょっとコメディ調。支配
「支配」とは人間から見た物事の一面にしかすぎない。ということで「魔王」が実は世界を平和にしてくれていた存在だと描くお話です。
皮肉が利いているようで、でもきっとこれがハッピーエンド。巣立ち。自立。子供は反抗期を経て大人になるんです?ちょっと違うかw
ここからRPG編を脱します。この作品は日本昔話風味。代紺山の嫁探し
いろんな女性の神様が登場するので、何気に本作一番華やかな気がしますね・・・!
豊穣の神のデザインに強烈にもんもんさせられるわけですが、しかし花の神ちゃんもいいじゃないですかと!幸薄そうな表情にひかれます!
内容としてはそれなりにページ数もあるので、読み応えのある作品ですね。
物語としての盛り上がりもしっかり提供され、個人的には幸せな終わり方だと思いました。
けれどラストは主人公たちとは別の視点から物語を捕らえることで、ほんのり無常感の漂うものになっています。単純な終わり方をしてくれないのが意地悪で、好きです。
個人的に一番好きかも知れないのがこの作品。現代神話
単行本表紙にも大きく登場しているかわいらしい奥さんが目玉です。
家事も出来て、心遣いもバッチリ。その上甘えん坊で可愛らしい、ナイス奥さん。
ただ、馬です。
この世界は猿人と馬人の2種類の人間がいます。夫は猿人、奥さんは馬人。
猿人はまるきり現実世界の人間そのまま。けれど馬人の設定が面白いです。
ひどく勤勉で、睡眠も猿人より短くていいし、総じて無駄な時間を過ごすことが苦手。企業としても猿人よりも馬人の方が雇いやすいから、猿人の雇用が減っている世界。
同じ土俵にたっては、猿人には馬人に及ばない点が多すぎるのです。
そのせいで猿人政府が馬人の勤務体系を見直す法案が出されたり。
現代日本を舞台に、そんな少しだけ歪んだ社会を描いた作品となっています。
先ほどの猿人×馬人の夫婦のほかに、同じ会社に勤めている社会人たちのペアのストーリーも同時進行的に描かれ興味深いです。猿人が抱えるコンプレックスなど。
社会人編がややシリアスなため、イチャイチャ夫婦がイチャチャする気の抜けた4コマ漫画に癒されますねぇwしかし別々のペアでもって家庭と社会の2場面を分けて描くことで、それぞれにやや異なった形で猿人と馬人の共存が表現されており、うまい構成だなと感じました。
人種というやや扱いにくいテーマを描いている本作ですが、かなりスマートにまとまった良作なのではないでしょうか。お気に入りです。
まぁなによりですね。
「同じがいいの!」
なんですかこの(><)は!もうううううう奥さんかわいいー!
これも非常に印象的だったお話。羽の生えた少女のいる日常。これだけでも絵的に魅力的。進学天使
そしてこの作品もテーマとしては「現代神話」と同じく、普通の人間とそうじゃない人間の間にある複雑な感情や、共存の是非、といった感じ。
学生の男の子と女の子の恋愛がメインということで、大分馴染みやすいお話でもあります。
飛ぶトレーニングのために留学をする・・・ことにはちょっと抵抗がある少女。
彼女の意思を尊重し、「自分の好きなようにしないと後悔するぞ」なんて遠まわしなアドバイスをする男の子。まぁそれは「そばにいて欲しい」なんて言えない照れが故。そんな油断が許されているのは、彼女が留学に乗り気でないからこそなんですが。
羽があったとしても、それが彼女が普通の人生を諦める理由にはならない。
そう彼は信じていた。周囲の無理な期待にこたえてやる必要なんてないのだと。
(クリック拡大)
けれどそれは揺らぎ、そして崩れてしまった。
実際に空を羽ばたく少女を見て、少年は思ってしまったのだ。周囲の期待に応える必要はない・・・けれど応えられる能力を手放すことは、本当に彼女にとって良いことなのだろうか。彼女がそれを望む望まないに関わらず、空を飛ぶということは彼女にとっても大切なことなのではないだろうか、と。
そして少年は、少女を傷つけてしまう。
理解したつもりになってしまった弱さ。正しいことだと信じぬくことが出来なかった。
大局的に見れば正しかったのかもしれない。正しかったのかもしれないが、彼はきっとこの結末を本心から望んでいたわけではなかっただろうし、自分も彼女があんな表情をするところなんて見たくなかった。でも逆に言えば、あえてこの結末を見せられたからこそ、こんなにも胸に残る作品になったのかも知れません。
大人だったら理性的に割り切れただろうし、子供だったらもっと夢ばかり見れたかもしれない。どちらでもない、この年頃特有の不幸であり、ロマンですよね。些細なズレから連鎖する。
きっと正しく真実を受け止めるのに、この男の子では何かが足りなかった。
思春期だからこその不安定さが織り成すセンチメンタル。
思わずため息。いいですねえ。強烈に切ないのに、なんでこうほっこりするのか。
あと天使ちゃんかわいいなって!この作品何気に女の子キャラかわいいのですよ。
ドラゴンがいる日常。そんなお話。竜の学校は山の上
竜が存在していることが当然なこの世界。竜もまた、ある意味で「家畜」として人間社会に溶け込んでいます。まぁそれでもちょっと珍しいようですけども。
舞台は全国で唯一「竜学部」を有する宇ノ宮大学。
新入生の主人公は、そこで竜研究会の部長と出会い、物語が始まります。
竜は貴重な生き物です。けれど今、人間社会は竜を必要とはしていません。
あらゆる面でコストがかかりすぎる上に、食用としてもイマイチ、ペットとしても難ありまくり。ぶっちゃけ役立たずなのだ。
でもやっぱりそれでも惹かれてしまうもので。なんたって、竜ですよ。
ただ「好き」なだけじゃ現実的に食っていけない。竜を好きな人間も、竜そのものも、共倒れになってしまう。だからこそ、人間にとって竜が役に立つということを証明しなければならない。竜のために、竜の活用法を見つけなければならないのです。
竜研究会の会長はそれを目指している人物。けれどどうにも研究が行き詰る・・・。
好きだからこそもっと認められて欲しいと願うのに、好きだからこそ得た知識で、それが困難であることも分かってしまっている。竜は役立たずだって言われることが何よりも悔しいのに、それを否定してやることもできない自分が一番、情けない。
言ってしまえば、自分を否定するための、自分との戦いなのだ。
しっかりとした舞台設定がされており、竜がいる世界というのが実にリアルに感じられるのもこの作品の面白さ。その上で「価値観」の問題をベースに、軽やかにメッセージを届けてくれる良作です。終盤の飛翔シーンになぜだからすごく感動してしまった。
こんなにカッコいいのに、それが認められない世界なんて、そりゃ悔しいもんだ。
部長さんの秘めたる情熱に胸打たれるとともに、その飄々とした性格や彼女自身のかわいらしさにも笑顔。息の上がったときの表情のなんたる色っぽさ!
そんな感じで、さわやかな興奮を届けてくれる、人と竜と強い意志の物語。
ダメダメな主人公の再生を描くショート。これもどこかシュールな読み心地です。くず
「おめでとう!君は栄えあるくずの中のくず!」とか迷言が飛び出す作品でもありw
作品集としては一番最後におかれている作品で、ほんのり前向きになれます。
ほどよく力の抜けた感じのゆるめなタッチの作画もお気に入り。さらりと読めます。
いや、なげぇよ!と自分で言いたくなるくらい今回の記事ちょいと長いですね。
ではまとめといきます。
RPG風ファンタジーから現代を舞台にしたものまで、また物語の方向性もバラエティー豊富で、様々な作品を一度に楽しめるという意味で非常に好きな感じの短編集でした。
優しく感動させられるものから後悔に身をよじりたくなるようなものまで。
ページ数のボリューム感に相応しい、素敵な物語がぎっしりと詰まった一冊です。
普通の人間とそうじゃない存在の組み合わせがよく登場するので、テーマとしてはやはりそこらへんを強く滲ませているなという印象。人外キャラが多数登場するのも楽しいですね!
またこの絵も素敵だなーと。この素朴な絵柄は清涼感あります。
土のにおい、風のにおい、涙のにおい。あっさりとした作画ですが、だからこそ想像力が刺激されて、短編ごとにに違った空気を感じられたように思います。
詰め込みすぎていない画面のため読みやすさも抜群。けれど手抜きはされていません。
それと女の子が可愛いということはさっきから何度も書いてますっけね。こう、キラキラしてるわけではないんですけども、なんとなくずっと見ていたくなるような感じで魅力的な女の子たちがいっぱいです。彼女たちがいる世界もまた、同じことが言えます。
決して綺麗に輝く物語ではないけれど、でもどれもすごく切実で、温かで、面白い。
総じて、様々な面でレベルの高い本になっているのではないでしょうか。
多彩なメッセージを届けつつ、それが押し付けがましくなっていないのも○。
どの作品からもいわゆる同人漫画っぽさは感じるので、それが気になる人がいるかもしれません。しかし個人的にはそういうのもひっくるめてかなりツボ。視点の面白さにもニヤリ。
あなたの心をそっと揺さぶる物語が、きっと見つかります。
『竜の学校は山の上』 ・・・・・・・・・★★★★☆
いろんな層にお勧めしたい良質な作品集。ファンタジーだったり現代モノだったりで賑やか。
※234ページには作者も発売後に気づいて悶絶したようですが「集中せん」という原稿のメモが消されないまま残されてしまっていたりします。笑ってスルーだ。
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