[漫画]心に青さとみずうみを。『あおくて堅い』
![]() | あおくて堅い (GUSH COMICS) (2013/05/10) 山田 酉子 商品詳細を見る |
恋はいつでも初恋の顔をしている
山田酉子さんのコミックス「あおくて堅い」の感想。BLです。
先月には「ばらのすべて」も発売しています。山田先生の作品が一気にたくさん読めて心がホクホクします。作品は冷え冷えとした空気ですけれど。
山田先生らしい叙情的な傷とあまやかな毒、飄々としたクールなリズムは今回も健在であり、この作風に惚れている俺としてはそれだけでも買ってよかったと思えるのである。
今回も恋に溺れてる切実な様子が心に突き刺さるなぁ。
「BL界の吟遊詩人」と作者紹介にありましたが、これはいい表現だと思うw
個人的には少女漫画も描いてほしいですねえ。前にbiancaに読み切り書きましたが、定着しないかな。BLでも買いますけどね!
これまでの山田酉子作品記事
刹那的、オンナノコ。『女の子のすべて』
カッコよくて弱くて泣き虫で強がりで 『クララはいつも傷だらけ』
自由に愛して自由に生きよう。『かなしい人はどこにもいない』
「好きだから」の先にあるもの『ロング&ビューチフルライフ』
深く息をして、僕らは悲しい恋をする。『ばらのすべて』
今回は表題作「あおくて堅い」から続く連作シリーズ4話と
一話完結の短編4つを収録した単行本となっています。
さくっとそれぞれの話の感想を書いていこう。
●あおくて堅い
表題作シリーズは歳の差もの。
予備校に務める先生・甲良と、19歳の浪人生・隆行の恋。
ところが隆行は自由で気まぐれで、なかなか構ってくれない。
そして「隆行が構ってくれないから」とかわざわざ口に出して泣いちゃう先生のこの情けなさ&かわいらしさ。
普段の様子とか見てるとオトナと子供としての立場は分かりやすく区分されているんだけれど、恋愛事になると年齢より人間性に左右されている感じで面白い。
このシリーズで面白いと思ったのが3話目に「過去の恋愛」に目を向けだしたこと。
それは作中で女性が「昔の男ってそそります」といったり、甲良が昔の恋人と再会したことに誘導されてのもの。思い出になることへの感傷に満ちている。

ああそうだ。「過去に結んだ関係」を思い出すのとても甘いものなのだろう。
いつかやってくるかもしれない、悲しい「終わり」を思いつつ、すてられんだろーなー、この子に
俺がいつかそうしたように、
でも俺は おまえの特別な 昔の男に なりたい
その先の途方も無い時間にすら愛情を向けている。
あの子の「昔の男」になれたらいいなぁ、なんて。
記憶としてふっと何気なく思い出してもらえるような存在になりたいのだと。そして懐かしんでもらいたいのだと。
どれだけこの恋を人生に刻むつもりだろうか。いいね!
愛しい人に付けられた傷は、何時まで経ってもきっと痛いまま、自分をノスタルジックに染める甘い束縛になる。
ところで「あおくて堅い」っていうこのタイトル。
最初に見た時、Grapevineの楽曲「マリーのサウンドトラック」の冒頭
「蒼くて堅くて破瓜のようで 遠くて不確かで 嘘」
を思い出しました。もしかして狙って引用したものなのかな。
なんとなく山田酉子とGrapevineの親和性は結構高いと思うんだw
乾いてて甘酸っぱくセンチメンタルで思考がまとまらない感じ。
●バースデイ
ほんのりヤクザもの。
優しい顔して意外とコワい男のヒト。さらりと口説いてきて、お気軽なキス。
暴力はそれ主導の話になると痛々しいけれど、物語を引き立てるスパイスとしてなら気持よくドキドキさせてくれるよな。世界の裏側にほんのすこし触れるような。
●ファンファーレ
あ~これ大好き。恋の傷がクッキリしてて、生々しくて、それでいてふわふわと宙に浮くような幸福な浮遊感まであって。最後にリードの持ち手が変わるのも鮮やか。
「恋の傷は恋で癒せよっ!」ってどっかの麻里さんも言ってた。
山田先生らしい軽やかなリズムが細部まで心のひだをくすぐってくれる。
それにしてもホモセックス目撃した周りの理解度の高さwww
こんなのを知っても動じないお姉さんが面白いしコワイし、きっと彼女に恋をした彼にとっては残酷なものだ。どうやっても彼は彼女の心を揺らせない。でもそれでいい。
●うぶにゃん
何時まで経っても「うぶ」なままでいられるというのはむずかしい。
好きも嫌いも慣れちゃって感情が希薄になっていくことだってある。
でも世の中にはもしかしたらいつまでも少年のようでいられるような男もいて、そういう奴は諦観してばかりの大人から眩しく見られて、そしてたぶんモテる。
BLモノではあるけれどそれと切り離しても通ずるロマンみたいなのがあるかも知れない。うぶにゃんは可愛すぎるけど、ちゃんと大人として仕事できそうだし。
●湖底
最後のモノローグがすごく染み入るけどよく考えなくても意味はわからない。
今回では1番に詩的でとらえどころのない短編だと思うけれど
喜怒哀楽がそっと溶かされた、淡くしずかな空気が絶品。
「みずうみ」というワードが神秘的な響きすら持って輝く。
そんな「あおくて堅い」でした。
今回は氏の単行本でも直接的な性描写が多いですね。わりとガッツリ目。
とは言え肉体的なものより心の機微をじっくり見つめるような視線が多くて、心が静かになる。気持ちいい。
今回はなんとなく水っぽいものがカギとなっている印象もあります。
そうなると「あおくて堅い」というタイトルも深いものを感じられるような。
2ヶ月連続で山田酉子先生の単行本が出るという幸せな時期が終わってしまったので、またしばらく待ちの時期!
『あおくて堅い』 ・・・・・・・・・★★★☆
お洒落ですねぇ。ふだん器用な人たちの不器用な部分がかわいいかな。
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