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[漫画]「好きだから」の先にあるもの 『ロング&ビューチフルライフ』

ロング&ビューチフル ライフ (Cannna Comics)ロング&ビューチフル ライフ (Cannna Comics)
(2011/11/25)
山田 酉子

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   あれは 叶うかもしれない恋だったのか

大好きな山田酉子先生の一番新しい単行本「ロング&ビューチフルライフ」。
この作家さんには去年の冬に「女の子のすべて」で出会って以降すっかり惚れ込んでしまい、BL単行本だろうと買うようになってしまったわけですが、今回も相変わらずりんりんと心震わせてくれます。
本作も女性向けのBL作品。とは言ってもこれ男性でも読みやすいんじゃないかと。がっつり生々しい性描写は無いです。しかしシャープに心をえぐるような静かな牙を、あるいは穏やかな毒を秘めた作品。作品に影響されてポエミーになっててやや恥ずかし。
短篇集のコミックスで、3つの物語を収録。個別感想行きます。



●ロング&ビューチフルライフ
表題作は女装趣味を持っていた少年とその恋人、そして2人を見守る1人の少年のお話。
男だらけとは言え三角関係モノ!しかしドロドロとはしてはいませんね。・・・いやドロドロしてないのとは言え作中ではいがみ合っていたりしてるか。見せ方の問題で。
そんな中にとあるお爺さんとお婆さんのかつての恋が絡まります。タイトルのレトロな響きはこれにちなんだもので、内容もどこか懐かしい趣も感じられる恋愛物語となっている、と同時に、過去と現代を結ぶ1つの切ないお話を紡ぎ上げるものとなっています。

傲慢で、不安定で、ずるくて、不誠実で・・・。
そんな風に、むしろ恋の切なかったり辛い部分をフィーチャーした内容であるにも関わらず、描き方がとてもソフト。先にも言いましたが、状況とは裏腹に雰囲気は何故だか優しげ。
優しげにこういうことを描くからこそ残酷でもあるのですが、この飲み込みやすさは凄い。

ロング

色々と好きなシーンはあるのですが、興奮するのは終盤。上のシーンからの一連の流れ。
物語が一段落したあとにやってくるこの幸福感たっぷりなやりとりには、思わず頬も緩んでしまうというものです。
主人公は「オレはおまえなんか好きにならない。絶対に。」と言い放ちますが、・・・ああもう、この続きの言葉が!なんて行き当たりばったりなような、予定調和なような。ふわふわした部分を残しつつ、恋愛をとても楽しんでいる彼らの姿に、良い読後感をもらいました。
欲深さと卑怯な一面を、とびきりキュートに軽やかに描くラストシーンなのです。
非常にしなやかに感情の起伏を追っていく作品で、その締め方も印象に残りますね。
様々な感情がふんわりデコレートされてるような、切なくも陽気で心地いい物語。



●みずたま
いつも水玉な服を来たストーカー少年をめぐるお話。
ストーカーに悩まされるチリくんと、彼の幼なじみで理解者でもある遠目くん。2人はついにストーカー少年に接近しますが、当然ながらその少年はチリくんに恋心を持っていて・・・と。
メインの男性キャラは3人ですがこちらは三角関係ではないですね。恋愛と、それとは別の感情もろもろが複雑に絡み合ったちょっと奇妙な構図。面白いです。

こちらも飄々とした雰囲気の中ストーリーが進んでいくのですが、
しかしキャラクターの感情はガンガンこっちに押し寄せてきてズキズキ来ます。
特にチリくんと遠目くんは、モノローグを通じてささいなすれ違い感じられ、いちいちグッとくる。
遠目くんの前では本当にいい子なチリくんですが、独白では彼の本当の思いが明かされます。
「少なくともオレよりはイイ奴」「だから俺なんかにもいつまでも優しいの」などの自虐はドキッとしましたね。
しかし1番の驚きは「ちょっとくらい傷つけばいいよ 遠ちゃんなんて」と毒づいたこと。
チリと遠目の関係は不思議で、互いに好意を寄せて、それをきっと自覚していて、だからこそチリくんにはいたずら心というか、裏切ってやりたいちょっぴりの嗜虐心が芽生えもする。でもそれは多分「自分から解放されて欲しい」という思いの裏返しでもあるみたい。…それも自虐か。
キャラの機微を非常に丁寧につづられていくのが素晴らしいですね。
この作家さんの作品にはどれにも言えそうな気がしますが、この作品は特に「関係の移り変わり」に恋愛を重ねて重視しているので、より繊細さを感じたのかも知れません。

また、珍しく登場した女性キャラ・遠目くんの彼女さんがたまらんです。
可愛らしくもあり、成熟したエロさも香らせる女の子なのですが、
女性の立場から男同士の関係(恋愛含む)に見解を示し、作品全体をあるべき姿に導こうとしてくれる面白いポジション。
本当は切ない立ち位置にあるはずなのに、彼女は自分の想い人の気持ちに、とにかく力強い肯定と言葉を与えるのです。ちなみにこれを読んで自分は彼女付き男が男に揺らいじゃう系ストーリーもいいなぁ(彼女さんが切ないのですがそれも良い)とか実にどうでもいいことを思ったのですが、これは別に彼女さんがフラれるワケではないのでスッキリしています。遠目くんとのやり取りは甘さたっぷり。

ロング1

彼女さんはマジできる女の子。恋を知り尽くすはやはり女の子、かなぁ。
成就と失恋を描いた、清々しくもあり切なくもありなお話でした。



●熱帯雨林の夜/森林浴
2人の男の子が共通して登場するシリーズ。高校時代と、社会人になってから。
全2作も間違いなく切ないお話だったのですが、どこかで癒しのある内容でした。
しかしこの話は違いますね。心がヒリヒリするような行き場のない恋。
タイトルやモチーフにもなった「熱帯雨林」からイメージされる風景とは異なり、ここではかなりドライで淡々としたお話が繰り広げられるのです。

主人公のキャラクターがいいですね。彼が作品のいい雰囲気を作り出している。
彼は恋に熱狂することはない。
ただ静かに穏やかに自分の中の恋を見つめ、育み、愛する。あるいは逃げたりして。
臆病な自分を嫌いつつも、おっかなびっくりその恋に向きあおうとしている。

江上の肌の下の見えない水脈から
いずれ溢れ出る
その汗のたった一滴さえも
好きなのだ

この一説で鮮やかに締めくくられる「熱帯雨林の夜」はもう絶品!
このモノローグがとにかく心に響く。好きだからこそ、まっすぐ前を向くこともできないけれど、でも何もかもが好きなくらいに好きになってしまった。
ストーリーで言えばこの続きが欲しいはずの場面で、あっさりと終わってしまう。迫ってきた切なさを消化することも出来ずどこかへ放り投げられた気分になりましたよ。すごいセンス。全然すっきりしないのに、あまりにもスマートにキメられてしまうものだから、もう納得せざるを得ない。うまいことこの作品に乗せられちゃったなと感じた瞬間です。
ここから逃げ出したいのに手放せない恋心。行き場のない思いを抱える辛さ。
すごい息苦しさ。カラカラに喉が乾いてしまいそうです。
そして後編へと続くのですが、さて2人はどんなことになるのか。

このシリーズはとにかく全体を覆う雰囲気がめちゃくちゃに魅力的。
多彩な恋愛を描くこの短篇集において、この作品はかなりいい存在感を放っています。
生々しい描写もありますが、なによりもバカみたいにロマンティックなのだ。



そんな短篇集「ロング&ビューチフルライフ」。
なんでしょうね。この雰囲気の良さは。
ザクザクと人の心をえぐっといて、平然とすまし顔を続けてる、そんな作品。
ひだまりにいるような暖かさと、どうしようもない切なさを、オシャレな世界に閉じ込めてしまっています。でも当然オシャレなだけじゃない。
山田酉子先生がみせるサディスティックなストーリーは切れ味鋭く、切られたそこからどんどんと感情が溢れでてくる。
それが気持ちよくて、なんだか何度も読みなおしてしまう。
男同士の恋愛を描いた作品ですが、恋愛の面白さを魅せつけてくれる作品でしょう。
恋愛に大切な心理描写もまた巧みなんですよねぇ。唸らされまくりです。
モノローグなどで特に感じるんですが、言葉選びや文章のテンポ、そういった部分も素敵。
山田酉子先生が描く恋愛はもう何から何までツボですなー!
男性キャラも結構フェミニンな感じで、普通にかわいらしいんですよね。

BL単行本だと『クララはいつも傷だらけ』『かなしい人はどこにもいない』がすでに発売されていますが、中でも今回の『ロング&ビューチフルライフ』は現時点でのベストだと感じます。
このジャンルは詳しくないので分からないのですが、掲載誌の違いからか性描写も登場が少なくて、出てもかなりあっさりとしたものでエグみがない。
個人的にはまた女の子たちの性愛を描いて欲しいなあと思ってるんですが、しかしこれだけBLでも楽しませてもらっては、もう充分ごちそう様です・・・。
「好きだから」の先にある様々な答え。この作品は色々な恋愛を軽やかに描いています。

『ロング&ビューチフルライフ』 ・・・・・・・・・★★★★
鬱々しさと清々しさとばかばかしさの同居は実現されています。キュンキュンするな!

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