[漫画]悩める少女たちはどこへいく『やさしいセカイのつくりかた』2巻
やさしいセカイのつくりかた 2 (電撃コミックス) (2011/11/26) 竹葉 久美子 商品詳細を見る |
あ そうか これがわたしの初恋なんだ
電撃大王GENESISで連載中の「やさしいセカイのつくりかた」2巻です。
19歳の天才少年が女子高の教師になってしまうお話。資金の問題で研究がストップし、やむなく知り合いのツテでやってきました。
ラブコメとして素晴らしくニヤニヤできる破壊力を要しながらも、それだけじゃない深いテーマを掲げてもいて、非常に見入るストーリーとなっています。思春期とは悩むための時間だ。
2巻は新キャラを複数交えつつ展開。メインメンバーの新たな1面も見れたり。
→“才能”を巡る学園ラブコメ 『やさしいセカイのつくりかた』1巻
2巻はしょっぱなから主人公が女装(メイド)をするお話で、ドタバタコメディとしての楽しさがあります。みんなで文化祭を楽しんでる様子が楽しそう。
ただラブコメっぽいことやっておきながら、ところどころトゲを見せてくる。
葵と母親のやりとりからはそれが感じられて、どことなく不穏というか、心にひっかかりができるというか。そして2巻では、葵の動きがいろいろときになるのです。
この作品、ハルカと葵という2人のヒロインが軸になっているのですが、それぞれポジションの住み分けが見事にできています。ハルカが恋愛、葵は学問から主人公に接近していきます。
ハルカは1巻で大きく行動を起こして行きましたが、2巻のメインはどちらかと言うと葵?
『ギフテッド』・・・特定の分野において高い能力を発揮する、才能ある人間。
主人公と葵は同じギフテッド。しかしそれをどう扱うかに決定的な違いがあります。
葵はは目立ちたがりません。周囲と足並み揃えて、ふつうの少女あることを望みます。
彼女をそうさせるのは、そう縛るのは、幼少のころ向けられた周囲からの奇異の視線。
最大の理解者であってほしい実の親にすら「気持ち悪い」と言われ・・・。
自身の才能を押し隠し、ひっそりと孤高にいる女の子なのですね。
でも主人公の朝永が与えてくれる、特別な学習の機会には瞳を輝かせたりして。
彼女は、本当は今にだって自由に飛び立ちたいと思っている。
でも女自身が抱えたトラウマがそれを妨げる。葵が乗り越えていくべき壁しょう。
でまぁそういう女の子だからこそ、2巻は葵の動きが見所。
いつまでも自分を封じ込めてちゃ、ストレスがたまるというものよ。
それはひとつのプライド。表に出さない怒り。ある種の対抗意識。
「オモチャ」呼ばわりされて、なんだか黒い火がついてしまった葵です。
憤っているのは、何も当然やってきた外国人だけにじゃない。
本当の自分を閉じ込めている自分自身にだって、ムカついているのだ。
・・・でも結局うまく行動に移せなかったりして。
「前」がどちらなのかは分かってる。でも踏み出せない。前途多難だな、悩める少女。
そして彼女は、ハルカがちゃんと勇気を振り絞ったことを思い出す。
自分のやりたいことのために、ストレートに行動を起こせるハルカの姿を思って、ちょっと羨ましくなる。ハルカと葵、ふたりのヒロインの関係性もなかなか魅力的なんですよねこの作品。2巻はそれが強く見えてきて、ニヤリとさせられました。
ハルカはいつも朝永の近くにいつ葵にちょっとモヤモヤしますが、葵は心配ない(朝永先生を男性とは意識はしない)と。なんかそう言い切られてしまうのも寂しいんですけども、ともあれこれで葵もハルカの恋を応援しだします。
葵は朝永に対して、まだ強い恋愛感情を抱いているわけではなさそう。尊敬はしていそうですが、しかしなんだか芽はありそうな気がしますねえ。この先どうなっていくのやら。
1巻のころから匂わせていますが、三角関係に陥る可能性もありそうです。
さて、葵がほんのり牙をむいたシーンが2巻のハイライトだったと思いますが
他にも気になった部分はあります。例えば朝永の妹さんと弟さん(双子)。
歳相応に賑やかさを持った妹さんは可愛らしかったですが、その妹も弟も、朝永先生と同じギフテッド。特殊な側の人間です。
日本に戻ってきてからちょっとギクシャクしてしまっている兄と弟。
才能があるかどうかとか、それがどんなものなのかとか、そういうのはこの際どうでもよくて、これは家族の距離感の問題です。こいつら勉強はできても人付き合いはヘタなのだ。
兄弟揃って不器用で、でもインテリっぽいイタズラの掛け合いをして楽しみ合う様子を見てると、なんか面白い1面を観れた気分になれました。
「いつか追いついてみせるよ」というセリフは、同じく才能ある人間としてのライバル意識と、家族としての絆の再構築の意思の現れでしょうか。なんて力強くあったかいセリフなんだろう!
今はまだいろんなモノが足りないかも知れないけれど、まずはそういう目標でつながり合っていることが、この家族にとっては大切なんだろな。家族として、同じ才能ある者として、きっと強く理解しあえるであろう近しい存在なのだから。
「いつまでも置いてけぼりは嫌だものね」。兄は目標だ。追いかけて、もっと仲良くなろう。
双子の話も「才能とどう付き合っていくか」「人と人がどう近づいていくか」というこの作品の本流の中にあるエピソードでした。それに家族との絆をからめ、主人公の特殊性を再認識。
もう1件気になるものといえば冬子ですよ!ですよね!
ごく短い会話で、小野田先生に急速に心ひかれていくさまは悶絶ものでございます!
最初は困ったような恥ずかしいような申し訳ないような、複雑そうな表情をしていましたが、もうみるみると恋する女の子モードに入っていく。一連の表情の変化を追うだけでニヤニヤしますな。かわいすぎるだろーくそー。
この作品はみんな悩んでばかりですけど、女子高生の1番のパワーは恋なのだ。
がむしゃらに。自分の気持ちに正直に。堂々とお姫様になりきってしまえ。
しかし相手は学校の先生です。どうなってしまうのか!
小野田先生と冬子のこの先が気になりすぎてヤバい!
というわけで第2巻の感想でした。
この作品はキャラクターの配置が絶妙だなと感じます。ラブコメしても「才能」をめぐるちょっとだけシリアスなパートにしてもキャラがうまく動く。無理矢理感が無いというか。
でもそれが全部、多くの人が抱くであろう思春期特有の不安や興奮で、あーもーみんな青春してんな!という感じ。ほくほくしますね。
そしてみんながみんな、何らかのくすぶりから飛び出していく。
2巻は特にそういう姿がたくさんあって、作品のメッセージが染み入ります。
飛び出した先に何が待ち受けているのか、まだ答えにたどり着いていない人ばかりですが。
ただ、2巻目にしてストーリーの進みがちょいと遅いことが気がかり。
丁寧に描いてあることは間違いないので、今回は「溜め」の巻だったのかも。
とは言えこれまでに書いてきたように、この作品らしさは損なわれておらず、むしろテーマの力強さが増してきました。これからも物語を楽しみ追っていきたいですね。
この作品が面白いのは、「恋愛」という他者との関係が重要なものと、「才能」という自分をこつこつと磨いていく2テーマの共存。他者と、そして自分とどう向き合っていくか。これってきっとすごく普遍的なテーマですが、物語への組み込み方が上手な気がするのです。思春期の女の子たちをメインに回っていく物語にもバッチリ。
主人公だって先生ですがまだ19歳の男の子ですからね。成熟なんてしていません。
みんなの成長が楽しみです。やさしいセカイは、まだ遠いのかな。
『やさしいセカイのつくりかた』2巻 ・・・・・・・・・★★★☆
順調に進んできている第2巻。ラブコメ度が上がっていそうな3巻が今から楽しみ!
Comment
コメントの投稿
Track Back
TB URL