[漫画]いつかまた会えるから。『ぼくらのよあけ』2巻
ぼくらのよあけ(2) (アフタヌーンKC) (2011/11/22) 今井 哲也 商品詳細を見る |
私は きみたちと友達になるために来たんだよ
いやー、傑作でした。「ぼくらのよあけ」完結となるの第2巻が発売しています。
もともと全2巻と決まって構成されていたであろう作品で、一切ムダのないまま走りぬけていきましたね。だれることなく最高のエンディングにたどり着いてくれました。
2038年というちょっとだけ未来に日本を舞台に、子供たちと宇宙の交わりを描く本作。
子供たちの力で宇宙につながってしまうスケールの大きさが爽快です。
→この夏休みは、きっとずっと忘れられない。 『ぼくらのよあけ』1巻
1巻の感想も書きましたが、2巻のストーリーは素晴らしい。涙ボロボロ。
●かつての少年たちが、今は少年たちを導く大人に。
これが2巻で最初に感じた面白さ。時の経過を意識させられてノスタルジックなきもちにさせられますが、大人たちが抱える様々な思いのひとつひとつにも胸が熱くなる。
かつての少年たちとイマの少年たちが「親子」という絆と、宇宙の秘密でつながった。
主人公は2038年の子供たちですが、仮に前作という概念があるなら、前作の主人公はいまの主人公たちの親たちです。2巻では彼らがたどった少年時代も描かれますが、彼らはある意味、バッドエンドを迎えてしまいました。それでもそれなりに幸せに家庭を築いている。
でも、大人になった今だって忘れられない。あの頃の痛みと後悔を。
そして今、もういちどかつての夢を叶えられるチャンスを目前にして、大人たちはどうしたか。あっさりと「主人公」を子供たちに託したのです。ホントだったら主人公の座を奪うことだってできただろうに、彼らはそうせずに子供たちを導きます。大人として、親としての姿勢を貫く。
いちどは潰えた夢。それにすがったりはせず、まるで1つのゲームやアトラクションのように、子供たちにアドバイスを出していく。そうして成長していってくれることを願っている。
最初、物語に大人が介入してきたときは実はビックリしました。
てっきり子供たちだけで展開して、大人は夢見がちな子供に理解を示さないポジションなんじゃないかなと。まぁ実際に大人たちがとる判断に、子供たちは理解を示さないシーンも多いですが。
でもそういう、やや自由の利かない大人と、1つのことで頭がいっぱいになってしまう子供たちの対比もすごくよく出来てる。大人と子供では価値観がそもそも違う。
うまく一致しない大人の世界と子供の世界。でも目標のために、お互いが歩み寄って努力する。自分たちの子供たちと一緒に夢を叶えるという一連の流れにはゾクゾクしっぱなし。
何が面白いって、「今はできないことでも、未来ではそれが可能かもしれない」という夢が詰まっている作品なんですよねこれ。だからこそ影の主人公は大人たちです。
2010年には叶えられなかったことが2038年にはできるようになってる。そういう実感を、フィクションの中で与えてくれる。ああ、未来が待ち遠しい!ワクワクする!
各話の合間に2038年に普及すると作者が想像した近未来的ガジェットの説明がありますが、これも気分を盛り上げてくれます。
で、話を戻すと、大人たちがとても魅力的に描かれてるのは間違いなく意図的。
だって彼らもまた主人公なんです。大人たちにとってこの物語は、昔叶えられなかった夢を、崩れてしまった人間関係を再生させる、復活の物語なのです。これが熱くない訳がない!
酷い別れ方をしても、顔を合わせれば穏やかに「久しぶり」なんて言い合える。
大人として子供たちにアドバイスをして、教育に活かそうと考える。
心身の成長というか、成熟というか。明らかにもう子供ではない彼らの姿が印象的。
特に心に残ったのは悠真の母親が、宇宙人と交わすふたりきりの会話。
「けど私、お母さんになったんだよ。すごいでしょ。」
すごいんだよ!なんてことない生命と営みに思えてしまうけれど、人の親になるってホントにとってもすごいことなのだ。当たり前のことなんだけど、主人公の親がこのセリフを言うのにグッと来た。ちょっと照れているような表情もまた素晴らしい。
こんな笑顔で言えてしまうのは、この宇宙人が子供のころの友人だから。改めてこんな言葉を口に出来てしまう所に、彼女自身子供の頃の自分を思い出しながら今の自分にちょっとだけ驚いてるような含みが感じられて、ものすごくキュンとしてしまいました。問答無用で心震える!
なんにせよこの作品が映す大人たちはムチャクチャ格好いいし、彼らのためのドラマだと言い切れる作品かも知れない。大人だからこそできる方法で、かつての夢を叶えたのだ。自分たちの子供たちに夢を託し、その背中を支えてあげることは、なんだかすごく魅力的な構図。
●子供社会に見える残酷さとストレートな悪意。
本当にキラキラしている作品ですが、そこかしもに強烈に感じるのが子供たちの社会独特のブラックさ。誰かを傷つけて楽しみたくてうずうずしてるような、最低の無邪気さです。
でも「いじめ」というのは、関与するしないともかく小学生時代には多くの人が覚えがあるものじゃないかなぁと。この作品は小学生が生き生きしてる作品だと思いますが、こういう負の感情で輝く子供たちのいやらしさも丁寧に描いているのです。
でもそれにしたってこの作品が描くそれはエグい。ありのまま悪意をぶつけてくる。
ある日突然裏切られる恐怖。
子供のころなんて、友人とつながっていることが何よりの楽しみだろうに。
不気味なくらいドライな小学生女子の世界。イヤな気分になるけど、このドキドキは不快感だけじゃないような。こういう気味の悪さがクセになるというか。喜ぶべきシーンではないし心痛むけど、イビツなものに惹かれてしまうというものもあるかも知れない。
科学が進んだ2038年の日本は誰もが、本当に簡単にネットワークでつながれる。
でもだからこそ小学生たちは、逆に小さな集団を組んで結束を固める面白さに目覚めている。狭いネットワークの中で閉じこもる、秘密を共有する楽しさ。たしかに密閉された関係を築くのは、この時代の子供たちの一つの遊びになっているのかもしれない。自由なんだか不自由なんだか、不格好です。
でもそんな未来があり得るかもな、というリアルさ。今だってこういうことはありえそうだし。
2038年というのはそんなに遠い未来じゃない。それは現代とあまり変わらない日本の風景にも感じるし、作品内に張り巡らされた「個人と個人」「個人と世界」の繋がり方からも感じるんですよね。
でも上にも描いたとおり、未来にワクワクさせる風にも描いてあって。未来との距離のとりかたが絶妙、と言えるかも知れません。
でもこの作品は、キャラクターを傷つけるだけでは終わらない。
上のシーンでいじめの標的にされたのは、最初からいけすかない女の子として描かれていた子(わこちゃん)で、因果応報という言葉そのままの構図に陥ってしまいました。
彼女は落ち込んで塞ぎこみますが、その中で改めて確認されたのは姉弟愛。
そして最初からずっと仲が悪かった花香と交わされるやりとりも、トゲトゲしいものばかりですけどその中にふっと小さな歩み寄りの意思が感じ取れてニヤニヤしてしまう。
「地球の中でだってこんなに難しいのに」だって。誰かとつながるということはとても幸福で、とても困難で。でもなんとかとそれをほしがってしまうのが生き物で。
まだ不器用だけど。許すことなんてできないけれど。ちょっとずつ近づいていけたらいいな。
子供たちが主人公のこの作品。少年少女に与えられる試練はつらいものも多いです。
でもそういった中で、苦しみながらももがく子供たちの姿が魅力的でもあって。
・・・むしろ子供たちを泣かせなたい、苦しめたい、みたいな欲望も詰まってる作品なんじゃねーのかなとも思っていたり。
雑誌の時から念を押すように「健全小学生SF漫画」を掲げてました。あえてそう言われてしまうと、作者の今井先生はどんな思いでこの作品を書いたのか勘ぐりたくなりますね!自分で健全っていうのかよwいやきっと健全ですけどw
●未来に託す希望。
最初にも書きましたが、この作品が迎えたエンディングは心底、最高だった。
この作品は、未来へ未来へと読者の視界を開かせる。
近未来の日本という舞台が絶妙に完成された世界観もそれを意識させる大きな要因でしたが、このラストで確信。未来を、宇宙を、求める作品なんですね。
この部分はあまりネタバレをしたくないのですが、最後の最後につづられるのは表紙の2人の物語。
最終話の一連の流れはもう涙無くして読めない。ぜひ読んでみて欲しいです。
「ともだち」という言葉がこんなに切なく熱く感じられる!
そして未来へかけた約束の力強さと暖かさ!あー!なんて気持いいのか!
もともと面白かったのですが、どんな風に終わるかの予想はできていたつもりです。ところがそれを裏切ることなく、予想を上回る興奮と感動を届けてくれました。
結構ながながと書いてしまいましたが、ここらでまとめ。
大人も子供も、人間でもない存在だって、本当にみんな生き生きしていた作品です。
そしてこの作品が包み込んでいる要素は、かなり多彩でもある。
親子愛とか友情とかキレイなものから、汚くちょっとイヤな感情まで。
でもそれら全てがあまりにもスケールが大きい夏休みの大冒険。ひとつの思い出として輝く。それが輝いていたって子供たちが知るのは、きっともうちょっと後のことだろうかも知れない。
メインとなる人物それぞれの想いが全2巻という限られた中で十分に描ききられているのも素晴らしい。本当にむだがなかった。未来への明確な答えはなくても、手がかりをくれている。
子供と大人、それぞれが魅力たっぷりに描かれ、主人公として見事に両立していました。
大人がカッコいい作品って、たまりませんね。
全2巻と手に取りやすいボリュームですし、ぜひいろんな人に読んで欲しい。
この作品の主人公たちのような小学生にも、ちょっと難しいかも知れないけどきっと何かを感じることができると思いますし、大人も熱くなれる。だってこの作品は、子持ちになった大人が、子供と力を合わせて28年ごしの夢を叶えるお話なのだ。この高揚感、鳥肌が立つ!でもやっぱりメインは子供たちで、一生ものの思い出を刻みつけていく様子も素晴らしい。
今はもう諦めてしまった夢を、なくしてしまった少年時代の感覚を思い出させてくれる作品。
見上げた宇宙に、目指したい光がある。
自分と、そして大切な友達と交わした約束がある。
きっと叶えるんだ。また会うために。
『ぼくらのよあけ』2巻 ・・・・・・・・・★★★★★
こんなに心えぐられて幸せです。これぞ夏休み!これぞジュブナイル!気持ちいいー!
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