[漫画]もっと言葉を、もっと意味を。 『プラトンのパルマケイアー』
普段あまりやらない更新が続いていまして、今回は同人誌。
5月に行ったコミティアで購入したのですが、すっかり記事を書くタイミングを見失ってしまってました・・・・・・内容は素晴らしいんですけども!そんなわけで6月も終わりそうなのに更新。
サークル名『おくることば』(個別HPは無い・・・?)の「プラトンのパルマケイアー」という本です。
コミティアで購入したのですが、奥付などを見ると去年の冬コミで初頒布されたようです。
タイトルの「パルマケイアー」とかがなんとも小難しそうでちょっと身構えてしまいますが
本編を読み出すと表紙のかわいらしいイラストそのまま、ふんわりやさしくほのぼのとしたラブストーリーが展開
され、なあんだと安心すると思います。しかし、じきにそれが裏切られます。
2章構成となっており、間にTIPSを挟んでの全70ページの本です。
作者さんがまるごと読めるようにアップしてくれたので、未読の方はこれを↓
第1章「合理的な愚か者」は、とあるカップルの男性視点から描かれる物語。
いつも明るく元気な彼女とは、もう4年の付き合い。
もうすぐ彼女の誕生日なので、どんなプレゼントを贈ろうかと悩む主人公は、友人たちの知恵を借りながら、彼女との思い出の星空を再現するプラネタリウムをあげようと決めます。
サプライズとしてのプレゼント、さて彼女の反応は・・・?というお話。
ところどころにコメディチックなやりとりやかわいらしいデフォルメなど登場し
テンポよく楽しめる、王道ラブストーリーの一幕を思わせます。
彼女さんの無邪気な笑顔にほんわかほんわか・・・読後感も○。
続くTIPSは「パルマケイアー」と「散種」の2語が解説されています。
ここでにこやかに第1章を読んでた自分は「おや?」と違和感を覚えたわけですが
その違和感は次の第2章で見事花開くことになります。こう来たか!
第2章「意味という病」は、第1章の主人公の恋人の女の子視点。
ここで明かされる、彼女の本当のきもちは、作品の雰囲気のガラリを変えました。
『私は常に 最悪の読解をする』という冒頭のモノローグが示すとおり
第1章の彼氏サイドからも見ていた、ほのぼのと心休まるやりとりの中で、彼女がひっそり抱えていたどうしようもない不安が次々吐露されていきます。
あの屈託ない笑顔の奥に、こんな強烈な暗黒が広がっていたなんて。
第1章では知らなかった・聞けなかった彼女の乱暴な言葉遣いも衝撃的。
病的なほど強い不安から始まる疑心暗鬼は、一層彼女の心を蝕んでいくのです。
彼は本当に、自分のことを好きでいてくれているのかな。
暗澹とした、それでいて切実な想いにギュッと胸が切なくなってしまいます。
第1章ではプラネタリウムをプレゼントした後、主人公の過去回想に入って彼女さんの満面の笑顔で終わります。これは、プラネタリウムをもらった現在の彼女も、回想と同じようなリアクションをしてくれることを読者に予想してもらおうとする仕掛け。
すごく爽やかで、いい気分で迎えることのできる夢のエンディング。
けれどそんな想像を、気持ち良いくらいにバッサリ断ち切られてしまうんだからもう。
第2章を読むに、こんな真っ黒い不安を抱え続けられるほど、彼女の心は強いのだろうか。明らかに限界が近づいてきてると思う。プレゼントを受け取った瞬間には彼も、自分の心もだまして笑顔で「ありがとう」って言えるかも知れないけど、こんな内面を見せられたら・・・・・・。
せっかくのプラネタリウムのプレゼントも、彼女にしてみれば過去の自分との精神面の変わりようをイヤでも思い出させられる装置に過ぎず、絶望を深めることにしかならないと思う。
こうなってしまっては、彼氏さんの能天気ぷりにこそむしろ愕然としてしまうなぁ。
それだけ彼女が自分を隠しぬいているんだけど、1人幸福に浸ってるつもりでいるのか。
人付き合いって難しいなぁ。彼氏さんはこんなに安心しきってるのに。
この作品が大きく取り上げているのは「言葉」が宿らせる意味の解釈のズレ。
彼氏さんが何気なく発した言葉1つにさえ、彼女さんは頭をクラクラさせて嘆き悲しむ。
1つの「言葉」に宿る「意味」は、ある程度限定されてはいても、たくさんの解釈ができます。褒め言葉を好意的に受け取るこることも、相手の嫌味ととることもできたりするように。
その言葉にどんな意味が宿っていても、結局は受け手がどう受け取るかが問題。
そして本作ではその「言葉」が毒となり、彼女の心を苦しませます。
でもそれは彼氏さんの不注意とはどうも思えず、彼女の病んだ精神が引き起こした不幸、と片付けてしまうしかない。けど片付けていいものかな、この不快感・・・。
「言葉」とどう向き合えばいいんだろう?という疑問を、読者に運んでくる作品ですね。
もっと、もっと、安心な言葉を、強い意味を、確信できる愛を。
そう魂から叫んでる彼女には、どうにか幸せになってほしいんですが・・・。
いまさらなにをしても、彼女の不安を真を晴らすことは出来ない、のかも。
そういう感じのたまらない内容でした。こういうもやもやさせられるお話好きですねぇ。
漫画的なインパクトも十分。人間の裏表をくっきり見渡せる構成がとても面白いです。
モノローグの強烈さは、作品と内容とあわせて、言葉の重要性を意識させられます。
こんなお話をこんなに優しい絵で読ませる!千歳良太さん、いいなー!
というわけでそんな同人誌「プラトンとパルマケイアー」でした。
1章と2章で180度変わる作品のテンションにドキドキする、オススメの1冊。
通販などは行っていない・・・?ようなので、イベントで入手するしかないのかも。
5月に行ったコミティアで購入したのですが、すっかり記事を書くタイミングを見失ってしまってました・・・・・・内容は素晴らしいんですけども!そんなわけで6月も終わりそうなのに更新。
サークル名『おくることば』(個別HPは無い・・・?)の「プラトンのパルマケイアー」という本です。
コミティアで購入したのですが、奥付などを見ると去年の冬コミで初頒布されたようです。
タイトルの「パルマケイアー」とかがなんとも小難しそうでちょっと身構えてしまいますが
本編を読み出すと表紙のかわいらしいイラストそのまま、ふんわりやさしくほのぼのとしたラブストーリーが展開
され、なあんだと安心すると思います。しかし、じきにそれが裏切られます。
2章構成となっており、間にTIPSを挟んでの全70ページの本です。
作者さんがまるごと読めるようにアップしてくれたので、未読の方はこれを↓
第1章「合理的な愚か者」は、とあるカップルの男性視点から描かれる物語。
いつも明るく元気な彼女とは、もう4年の付き合い。
もうすぐ彼女の誕生日なので、どんなプレゼントを贈ろうかと悩む主人公は、友人たちの知恵を借りながら、彼女との思い出の星空を再現するプラネタリウムをあげようと決めます。
サプライズとしてのプレゼント、さて彼女の反応は・・・?というお話。
ところどころにコメディチックなやりとりやかわいらしいデフォルメなど登場し
テンポよく楽しめる、王道ラブストーリーの一幕を思わせます。
彼女さんの無邪気な笑顔にほんわかほんわか・・・読後感も○。
続くTIPSは「パルマケイアー」と「散種」の2語が解説されています。
ここでにこやかに第1章を読んでた自分は「おや?」と違和感を覚えたわけですが
その違和感は次の第2章で見事花開くことになります。こう来たか!
第2章「意味という病」は、第1章の主人公の恋人の女の子視点。
ここで明かされる、彼女の本当のきもちは、作品の雰囲気のガラリを変えました。
『私は常に 最悪の読解をする』という冒頭のモノローグが示すとおり
第1章の彼氏サイドからも見ていた、ほのぼのと心休まるやりとりの中で、彼女がひっそり抱えていたどうしようもない不安が次々吐露されていきます。
あの屈託ない笑顔の奥に、こんな強烈な暗黒が広がっていたなんて。
第1章では知らなかった・聞けなかった彼女の乱暴な言葉遣いも衝撃的。
病的なほど強い不安から始まる疑心暗鬼は、一層彼女の心を蝕んでいくのです。
彼は本当に、自分のことを好きでいてくれているのかな。
暗澹とした、それでいて切実な想いにギュッと胸が切なくなってしまいます。
第1章ではプラネタリウムをプレゼントした後、主人公の過去回想に入って彼女さんの満面の笑顔で終わります。これは、プラネタリウムをもらった現在の彼女も、回想と同じようなリアクションをしてくれることを読者に予想してもらおうとする仕掛け。
すごく爽やかで、いい気分で迎えることのできる夢のエンディング。
けれどそんな想像を、気持ち良いくらいにバッサリ断ち切られてしまうんだからもう。
第2章を読むに、こんな真っ黒い不安を抱え続けられるほど、彼女の心は強いのだろうか。明らかに限界が近づいてきてると思う。プレゼントを受け取った瞬間には彼も、自分の心もだまして笑顔で「ありがとう」って言えるかも知れないけど、こんな内面を見せられたら・・・・・・。
せっかくのプラネタリウムのプレゼントも、彼女にしてみれば過去の自分との精神面の変わりようをイヤでも思い出させられる装置に過ぎず、絶望を深めることにしかならないと思う。
こうなってしまっては、彼氏さんの能天気ぷりにこそむしろ愕然としてしまうなぁ。
それだけ彼女が自分を隠しぬいているんだけど、1人幸福に浸ってるつもりでいるのか。
人付き合いって難しいなぁ。彼氏さんはこんなに安心しきってるのに。
この作品が大きく取り上げているのは「言葉」が宿らせる意味の解釈のズレ。
彼氏さんが何気なく発した言葉1つにさえ、彼女さんは頭をクラクラさせて嘆き悲しむ。
1つの「言葉」に宿る「意味」は、ある程度限定されてはいても、たくさんの解釈ができます。褒め言葉を好意的に受け取るこることも、相手の嫌味ととることもできたりするように。
その言葉にどんな意味が宿っていても、結局は受け手がどう受け取るかが問題。
そして本作ではその「言葉」が毒となり、彼女の心を苦しませます。
でもそれは彼氏さんの不注意とはどうも思えず、彼女の病んだ精神が引き起こした不幸、と片付けてしまうしかない。けど片付けていいものかな、この不快感・・・。
「言葉」とどう向き合えばいいんだろう?という疑問を、読者に運んでくる作品ですね。
もっと、もっと、安心な言葉を、強い意味を、確信できる愛を。
そう魂から叫んでる彼女には、どうにか幸せになってほしいんですが・・・。
いまさらなにをしても、彼女の不安を真を晴らすことは出来ない、のかも。
そういう感じのたまらない内容でした。こういうもやもやさせられるお話好きですねぇ。
漫画的なインパクトも十分。人間の裏表をくっきり見渡せる構成がとても面白いです。
モノローグの強烈さは、作品と内容とあわせて、言葉の重要性を意識させられます。
こんなお話をこんなに優しい絵で読ませる!千歳良太さん、いいなー!
というわけでそんな同人誌「プラトンとパルマケイアー」でした。
1章と2章で180度変わる作品のテンションにドキドキする、オススメの1冊。
通販などは行っていない・・・?ようなので、イベントで入手するしかないのかも。
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