[漫画]思春期の空虚も愛しさも理不尽なほど理由も無い。『人魚王子』
今年の目標は気楽な更新をすることです。
死んだら何もない 何もないよ
尾崎かおり先生は少年少女のかわいた感情やしとしと降り積もるピカピカした感動を描かせたら天才だなってことを再認識した最新作「人魚王子」です。
まぁ、もお、まず、この表紙が可愛すぎる。
エメラルド色の海、見つめ合って沈む男の子と女の子。綺麗すぎて魔力でも宿っていそうである。
さて3作を収録した短編集となっている本作。
どれも完成度がたかい、というかどことなくメランコリックな色が染みこんだ、大変に俺好みな作品がズラリ揃っていて、もう訳もなく「天才か」とリアルにつぶやいていた。
尾崎かおり先生と言えば「神様がうそをつく。」の一作しか読めていないものの、これまた傑作。少年少女の切実な思いがそのまま光となって駆け抜けてくような、甘酸っぱい逃避行が眩しすぎる傑作でした。
「人魚王子」もそんな期待通りどおりの一冊。短編集なので個別感想。
「神様がうそをつく。」感想→http://omuraisu0317.blog.2nt.com/blog-entry-1539.html
●アメツキガハラ
しょっぱなから本作随一のマスターピース。かなり殺伐とした、少女の内面を綴った前後編。
例えば思春期のころ、例えばなにか悩み塞ぎこんでしまう時、訳もなくすべてをダメにしてしまいたいような破滅願望じみた気持ちが生まれて、けれどそれを実行する勇気は持てず、鬱屈した自分をどこか遠くにさまよわせる。死ぬのがこわいのに死にたいなって思う。瑞々しい懐かしい感覚。ギュッと愛おしくなるくらい、そこに痛みも携えている。
理由を伴わない感情に振り回される。その理不尽さ。その窮屈さ。なのにその中でもがく彼らを眺めることをなんと楽しいことかって事で、本当にこういう思春期こじらせた連中はかわいくて仕方ないな!!
別に好きでもない男とはじめてを済ませても、そこに感動がなくったって、裸で朝の海をおよぐ静かなひとときが、人生を変えてしまうこともあるのだ。
彼も彼女も、正しく生きることはできなかった。
けれど未熟な彼らを突き動かす感情に正しさなんて無くて、だからこそ
誰かの夢を、知らず知らず良いなって思って、それを自分が叶えてしまう未来にまでつながってしまう。そんなことだってある。あるんだよ。
かつての親友まで幸か不幸か届いた、自分の本当の言葉。
本当の想いを伝えるための手段は、けして目の前の相手に向けて話すことに限らず、例えばしたためた言葉だって届くこともある。
この主人公の場合はそれが小説という手段だったんだけれど。
別離の後、再開を果たす手段としてこの作品のラストシーンはとても美しくて、なくしてしまった関係に対してこれほど優しい態度を見せてくれるかと、本作で1番感動した場面。
「うまく気持ちを外に吐き出せない」、多くの人が経験するモヤッとした感覚を
この作品はうまく拾い上げて、とても鋭くやさしく、青春の物語に閉じ込めている。
今、今しかない。彼女たちは今生き残るしかない。なにをそんなに怯えているのって、大人になってしまったら脳天気に思うけれど、彼らは刹那的にしか生きられない。
そういうキリキリと胸を絞り上げるような性急さと、「死ぬってことは」とか「人間なんて」とか達観した100%の理解なんてできないスケールの話を投げかけられて呆然としてしまうような、あの置いてけぼり感みたいなのが散らばっていて、とにかくポエムポエムな作品でした。
わかる。中学の時って、急に「世界はこういうものです」って種明かしがいっぱいされて、それがわかる頭にもなっていて、知識だけ与えられて恐怖しか無くて、そんな上手に生きていけないよってくよくよしてたでしょ。わかる。(勝手に押し付け
あと、ノーパンJCというロマンをありがとうございます。
●「ゆきの日」
ファンタジックな作品。ひとけの少ない冬の図書館の空気、好きだなぁ。
高校の時、勉強するために図書館に行ってやっていたことがあったんだけど、そういうことを久しぶりに思い出した、図書館愛のある作品。
ある日図書館にやってきた親子二人組の正体は・・・という、ネタとしては簡潔なものなんだけれど、それを情感たっぷりにふくらませている。
雪がしずかに降る橋のシーンなんか、もう絵が語らってくるような迫力。
●「人魚王子」
表題作にして1番ポップな、少女漫画らしい明るさを備えた短編。
明るさの中にそっと差し込まれる闇、未知なるものたちへの畏怖、そういったものもアクセントとして効いている、ひとなつの爽やかなお話です。
「アメツキガハラ」と同じように、うまく周囲に馴染むことができないキャラクターがいて、「人魚王子」はそんな男の子に元気いっぱいな女の子が手を差し伸べていく。
内省的な男の子・麦は、家にも学校にも居場所を見つけられず、ただ絵を描くことだけは上手で、その絵もいじめっこたちにダメにされてしまう。
麦は物語冒頭、「人魚」と名付けたグロテスクな絵を描く。
その「人魚」というワードが、この物語をさらに奥深くに誘っていく。
舞台は沖縄。人魚伝説。そして甘いボーイ・ミーツ・ガール。
死ぬことが怖いくせに死にたがり、死ぬことに何か意味を持たせたい、そんな憂鬱、そんな10代。
「俺が居ない方が あの二人は絵になるよ 絵になるよ」
というセリフがもうたまらない。なんで2回言ったんだ!そういうところがだなぁ・・・いいんだっ!!!
しかしそんな麦くんを突き動かす主人公の真鳥ちゃんのまっすぐさがすごく癒やしになります。
暗い空気を吹き飛ばすエネルギッシュな言葉たち。
麦くんともどもに読者まるごと救い出してくれる存在感です。
終盤にある、海にまるく光がさして穴のようになっている場面が印象深い。
端からみるからそこが光が差しているけれど、その中にいる人達は、はたして自分が光の中にあることを知っているのだろうかと。
これ以外にも、読後感の良さを打ち出す展開が重なり、とても爽やか。
そして、あの見開きで物語が終わるところも、センスを感じるんだよなぁ。
そんなこんなの一冊。
思春期ならではの破滅願望とか、異性への意識とか、現実逃避とか
たっぷりと青い世界を堪能できます。美しい翠の海に沈む、未熟の魂。
『人魚王子』・・・・・・・・・★★★★
「アメツキガハラ」の衝撃が群を抜く。けれど3編ともに味わいが違って、いい作品集です。
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死んだら何もない 何もないよ
尾崎かおり先生は少年少女のかわいた感情やしとしと降り積もるピカピカした感動を描かせたら天才だなってことを再認識した最新作「人魚王子」です。
まぁ、もお、まず、この表紙が可愛すぎる。
エメラルド色の海、見つめ合って沈む男の子と女の子。綺麗すぎて魔力でも宿っていそうである。
さて3作を収録した短編集となっている本作。
どれも完成度がたかい、というかどことなくメランコリックな色が染みこんだ、大変に俺好みな作品がズラリ揃っていて、もう訳もなく「天才か」とリアルにつぶやいていた。
尾崎かおり先生と言えば「神様がうそをつく。」の一作しか読めていないものの、これまた傑作。少年少女の切実な思いがそのまま光となって駆け抜けてくような、甘酸っぱい逃避行が眩しすぎる傑作でした。
「人魚王子」もそんな期待通りどおりの一冊。短編集なので個別感想。
「神様がうそをつく。」感想→http://omuraisu0317.blog.2nt.com/blog-entry-1539.html
●アメツキガハラ
しょっぱなから本作随一のマスターピース。かなり殺伐とした、少女の内面を綴った前後編。
例えば思春期のころ、例えばなにか悩み塞ぎこんでしまう時、訳もなくすべてをダメにしてしまいたいような破滅願望じみた気持ちが生まれて、けれどそれを実行する勇気は持てず、鬱屈した自分をどこか遠くにさまよわせる。死ぬのがこわいのに死にたいなって思う。瑞々しい懐かしい感覚。ギュッと愛おしくなるくらい、そこに痛みも携えている。
理由を伴わない感情に振り回される。その理不尽さ。その窮屈さ。なのにその中でもがく彼らを眺めることをなんと楽しいことかって事で、本当にこういう思春期こじらせた連中はかわいくて仕方ないな!!
別に好きでもない男とはじめてを済ませても、そこに感動がなくったって、裸で朝の海をおよぐ静かなひとときが、人生を変えてしまうこともあるのだ。
彼も彼女も、正しく生きることはできなかった。
けれど未熟な彼らを突き動かす感情に正しさなんて無くて、だからこそ
誰かの夢を、知らず知らず良いなって思って、それを自分が叶えてしまう未来にまでつながってしまう。そんなことだってある。あるんだよ。
かつての親友まで幸か不幸か届いた、自分の本当の言葉。
本当の想いを伝えるための手段は、けして目の前の相手に向けて話すことに限らず、例えばしたためた言葉だって届くこともある。
この主人公の場合はそれが小説という手段だったんだけれど。
別離の後、再開を果たす手段としてこの作品のラストシーンはとても美しくて、なくしてしまった関係に対してこれほど優しい態度を見せてくれるかと、本作で1番感動した場面。
「うまく気持ちを外に吐き出せない」、多くの人が経験するモヤッとした感覚を
この作品はうまく拾い上げて、とても鋭くやさしく、青春の物語に閉じ込めている。
今、今しかない。彼女たちは今生き残るしかない。なにをそんなに怯えているのって、大人になってしまったら脳天気に思うけれど、彼らは刹那的にしか生きられない。
そういうキリキリと胸を絞り上げるような性急さと、「死ぬってことは」とか「人間なんて」とか達観した100%の理解なんてできないスケールの話を投げかけられて呆然としてしまうような、あの置いてけぼり感みたいなのが散らばっていて、とにかくポエムポエムな作品でした。
わかる。中学の時って、急に「世界はこういうものです」って種明かしがいっぱいされて、それがわかる頭にもなっていて、知識だけ与えられて恐怖しか無くて、そんな上手に生きていけないよってくよくよしてたでしょ。わかる。(勝手に押し付け
あと、ノーパンJCというロマンをありがとうございます。
●「ゆきの日」
ファンタジックな作品。ひとけの少ない冬の図書館の空気、好きだなぁ。
高校の時、勉強するために図書館に行ってやっていたことがあったんだけど、そういうことを久しぶりに思い出した、図書館愛のある作品。
ある日図書館にやってきた親子二人組の正体は・・・という、ネタとしては簡潔なものなんだけれど、それを情感たっぷりにふくらませている。
雪がしずかに降る橋のシーンなんか、もう絵が語らってくるような迫力。
●「人魚王子」
表題作にして1番ポップな、少女漫画らしい明るさを備えた短編。
明るさの中にそっと差し込まれる闇、未知なるものたちへの畏怖、そういったものもアクセントとして効いている、ひとなつの爽やかなお話です。
「アメツキガハラ」と同じように、うまく周囲に馴染むことができないキャラクターがいて、「人魚王子」はそんな男の子に元気いっぱいな女の子が手を差し伸べていく。
内省的な男の子・麦は、家にも学校にも居場所を見つけられず、ただ絵を描くことだけは上手で、その絵もいじめっこたちにダメにされてしまう。
麦は物語冒頭、「人魚」と名付けたグロテスクな絵を描く。
その「人魚」というワードが、この物語をさらに奥深くに誘っていく。
舞台は沖縄。人魚伝説。そして甘いボーイ・ミーツ・ガール。
死ぬことが怖いくせに死にたがり、死ぬことに何か意味を持たせたい、そんな憂鬱、そんな10代。
「俺が居ない方が あの二人は絵になるよ 絵になるよ」
というセリフがもうたまらない。なんで2回言ったんだ!そういうところがだなぁ・・・いいんだっ!!!
しかしそんな麦くんを突き動かす主人公の真鳥ちゃんのまっすぐさがすごく癒やしになります。
暗い空気を吹き飛ばすエネルギッシュな言葉たち。
麦くんともどもに読者まるごと救い出してくれる存在感です。
終盤にある、海にまるく光がさして穴のようになっている場面が印象深い。
端からみるからそこが光が差しているけれど、その中にいる人達は、はたして自分が光の中にあることを知っているのだろうかと。
これ以外にも、読後感の良さを打ち出す展開が重なり、とても爽やか。
そして、あの見開きで物語が終わるところも、センスを感じるんだよなぁ。
そんなこんなの一冊。
思春期ならではの破滅願望とか、異性への意識とか、現実逃避とか
たっぷりと青い世界を堪能できます。美しい翠の海に沈む、未熟の魂。
『人魚王子』・・・・・・・・・★★★★
「アメツキガハラ」の衝撃が群を抜く。けれど3編ともに味わいが違って、いい作品集です。