[漫画]たゆたいながら、いつしか照らし出される。『夏の前日』4巻
夏の前日(4) (アフタヌーンKC) (2013/07/05) 吉田 基已 商品詳細を見る |
泣くかと思った
しっとり官能的な空気が最高にグッとくる「夏の前日」。4巻が出ましたので感想を。
表紙いいですね!ゆらめく水面と、まどろむ哲夫。晶さん膝枕。
甘えているような、すがっているような…。なんだろう、哲夫が溺れて晶さんにたどり着いたようにも見えます。水面というモチーフがまずこの作品にぴったりですねえ。晶さんの和服も涼しげな青。夏らしい。
基本的に主人公の2人がイチャイチャするのを眺める漫画…
だったはずが3巻でいよいよ話が大きく動き始めました。
4巻はすこしずつ恐ろしさが背筋を登ってくるような感覚でした。静かに少しずつ端っこの方から崩れていくような。
相変わらず愛おしげに触れ合う哲生と晶さんのセクシーな場面に鼻息あらく興奮する。性的接触はなくとも甘いひと時に、思わず悶絶しながら読める。
…しかし。この巻はなかなに辛い展開もあったりする。
いいなぁこの空気は。夏の生ぬるい空気の中に、ギリギリの切実な感情がある。
前巻→触れて、感じて、愛して、1人で描く。『夏の前日』3巻
さてさてもう。俺がこの漫画にハマってる大きな理由は、哲生と晶さんの関係が大変にニヤニヤできるからってことですよ。
幸せすぎて見てて飽きない。お前らかわいすぎだよ!!
甘えて、甘えさせて、甘えられて、甘やかして。
学生である哲生にとって晶さんは年上の彼女です。2人の関係ってけっこうあやふやだと思うんですよね。間違いなく好き合っているけど、直接そういう言葉を投げかけ合うようなことはしない。相手をどう向き合うか、どう愛するか、そこに微かな葛藤も実に美味しい部分です。
3巻で晶さんは「孤独を手放さないで」「私に媚びないで」と述べていましたが、でも自分に甘え媚びてくる相手を嫌になんて思ったりしない。相手に触れられることは、至福。
一方的に甘えたり甘やかしたりするんじゃなくて、相手にとっての大切な居場所として、その人がいる。時には甘えるし、時には甘やかす。どっちだっていいんだ、繋がってさえいれば。その時の気分でいい。
そういう、良い意味での不安定さ。それが生身の体温のような確かさで感じられて凄く好き。イニシアチブを交換しあってるみたいな関係。
つまり俺にそういう立場逆転のしあうセックスをもっと見せてくれ、とこう言いたいのです。今回だと20話と26話では明らかにセックスの質が違っていて、それはストーリーの展開の影響もあるのですが、…素晴らしいな…!
まぁそんな下品な話はともかく、愛しあう2人を見るのが楽しい。結論。
晶さんの可愛さは今回も最高でしたね。「あたし哲生のおよめさんになればいいのではないかしら」の言葉はもう、テンション上がるよな…!!
しかし哲生は揺れている。
「はなみ」という女性が、どんどん彼との距離を縮めてくる。
別に華海が哲生に興味があるというわけじゃなく、ただ自分の彼氏の友人だから。まぁどんな人なのか興味を持っているようだけれど、この娘はナチュラルに無意識に接近して、そういうのに免疫ない人間をまどわせてしまうタイプだと思う。明るくて人懐っこくて素直。
哲生はかねてから華海のことを絵のモチーフとしてか、もしかしたらそれを含んだもっと大きな気持ちをいだいて見つめてきた。
そこからの急激な接近。今回なんてふたりきりで映画なんて行っちゃう。
自然と、揺れる。
仕事に疲れる晶さんと、恋人ではない女の子と遊びに行って思わず笑顔になっちゃってる哲生。まるで心まで遠くなってるようにそんな風景が描かれた第25話「やましいなんかなにも」はもう胸が締め付けられましたよ。タイトルから言い訳がましくてツラい…。
友人の恋人、恋人の友人、今後という関係以上に進展は哲生と華海のことだからないと思うけれど、哲生の明らかな動揺・感動を見るに、…浮気かこれ。
写真を手に入れて、「俺の華海」。いけない…いけませんよ…。
隠し切れない。こんな風に所有欲の一端を見せてしまってはもう。
たゆたっていたのに、すっかり照らしだされてしまったよ、哲生の気持は。
心と体が欲するぬくもりや安らぎは晶。
けれどストイックに芸術の世界に生きている哲生。彼が欲するひとつの芸術として、彼の琴線に触れる女性は、きっと華海なんだろう。憧れの女性として華海はいる。
哲生自信「こっちはいってはいけない道だ」とばかりに自制を試みていますが、花海に惹かれているのはもやは明確。
はてさてどうなるかーと思ったら、単行本後半で爆弾が落とされたでござるの巻。
きっつい…。
晶さんのこんな激しい感情の宿った表情は。そう見れるものではない。
ひとりで芸術に没頭する哲生を遠く眺めることで楽しそうにしていた晶さん。
「あたし見てみたいのよ。彼と、彼の見る世界を」は1巻での彼女のセリフ。
絵を描く哲生が好き。哲生の絵が好き。だからこそ読み取れたのかもしれない。哲生が華海に特別な情熱を燃やして描いたことが分かったのかもしれない。
珍しく負の感情を爆発させた晶さんは見どころのひとつではありますが、展開上、喜ばしいものではないなぁ…うぅ…。
激情ほとばしらせる晶さんに胸にあるのは、嫉妬か悲しみか。
過去最大の試練を迎えた哲生と晶の関係。
これからどう復活するのか。はたまた転げ落ちていくか。
いま、かなり危ないバランスでゆらゆらしてる状態ですね。
ほど1年に1冊ペースで来ている作品なので、続きはまた来年か。待ち遠しいなぁ。楽しみで、けっこう怖い…!
そんな「夏の前日」4巻でした。
書いてきたとおり、ストーリー的につらい局面に入って来ました。
前半はいつもどおり胸ほっこり股間もっこりなハートフルイチャラブに悶える。しかし後半でおもいっきり心傷めつけられました…。
1巻からずっとあたためてきた問題が、ついに表面化してきた。
まぁいつだって、どんなに甘やかなシーンにだって、なんだか刹那的な感覚がある作品でした。
トーンを使わない画風なこともあって、雰囲気はまるで戦前の日本みたいな感じ。完全に現代劇ではあるんですが、どこかセピア色なムードで、ノスタルジックな感傷を刺激してくる。
思えば「夏の前日」というタイトルが意味深で。
通り過ぎた日々。思い出を取り出し懐かしむ。そんな風景が浮かぶのです。
「気がつくと ボクらみんな 8ミリ映写機の フィルムの中」なんて、この作品の元ネタの曲でも歌われていました。最近聞きましたよ。
そんなわけで、胸の痛む切なさのつまった一冊。思わず息を潜めてじっと読んでしまった。心わしづかみにされた。
シリアス深まる本編のあと、注目すべきはほっこりする番外編を挟んで現れる巻末の「官能おまけまんが」!この漫画で吹き出すほど笑ってしまうとはww
相手に来てほしい衣装をリクエストする試み。
晶さんのリクエストも哲生のリクエストもあたま悪いよwやっぱりこの2人かわいすぎ!
『夏の前日』4巻 ・・・・・・・・・★★★★
来たぞ来たぞ…いよいよ加速を始めた。じわじわと蝕まれるような恋物語に。