[漫画]嘘と生きていく、弱く惨めなぼくらの『ブラパ THE BLACK PARADE』
ブラパ THE BLACK PARADE(1) (ヤングガンガンコミックス) (2012/04/25) 緑のルーペ、フジワラ キリヲ 他 商品詳細を見る |
ブラパ THE BLACK PARADE(2)(完) (ヤングガンガンコミックス) (2013/04/25) 緑のルーペ 商品詳細を見る |
人間はいくら強がったところで 本当は弱いままだから
久しぶりに脳をガツンと殴りつけられたような衝撃を味わった漫画でした。
緑のルーペ先生(&原作協力フジワラキリオ先生)の一般誌での初連載作品「ブラパ」。
とにかく、心の痛覚を刺激されまくり。
思春期を通過した人たち。とくに、アニメや漫画など2次元にドップリな思春期を過ごした人たちにとって、きっと強烈なダメージを与える。
実際俺はガチ凹みしたし、それで泣いてしまったし、加えて感動に震えた…!
2013年上半期に読んだ漫画では、この「ブラパ」2巻が1番心に突き刺さった。
どう感想かいたものかと悩んでいたらもう6月終わって下半期になっちゃったので、急いでこうして書き始めた次第。
2巻が出たのはもう結構前になりますが、やはりこの作品の感想は書いておきたい…!
1巻2巻同時の扱いにしますが、実質2巻の内容を取り上げたいと思います。
ブラパ1巻の時点では、「緑のルーペ先生、こういうのも書けるんだなぁ」と新境地を見る感覚で楽しんでいました。しかしいやはや、この2巻は凄まじい。
「やっぱり緑のルーペ先生はこういう感じだ!」と大興奮ですよ!
「イマコシステム」で見せたあの曖昧で切実な幸福感。あれに近いものを感じる物語でした。やっぱりこの作者はこういうのが大好きなんだなーと確信。
しかしイマコシステムも好きですが、「ブラパ」はどうしようもない青春の過ちとか痛みとか、そういう色が濃くて俺のドストライクでした。2巻後半からの怒涛の展開はまさに必見!
毒の強い内容ではありますが、愛おしい、大切な作品として自分に刻まれました。
ざっとストーリーを。
思春期こじらせ型・青春ロールプレイ作品。という紹介で合ってるかな。
主人公の少年、留美は迷い込んだ不思議な場所で、「フジノ」という女の子と出会いました。なんとも芝居がかった振る舞いをするミステリアスなその少女と、留美は仲良くなり行動を共にしていきます。
2人は自分たちで決めたルールの中で、冒険をする。ダンジョンと称して建物に侵入したり、テリトリーに侵入してきた不良たちと戦ったり。
そんな2人の日々は、灰色の現実を忘れさせてくれる輝きに満ちていた。
しかしそんな日々を一変させる出来事が……2巻の中盤で起こるのです。
この作品は至る所で俺のツボを指摘してきます。
まずタイトルが「ブラパ」。THE BLACK PARADEですね…!
俺もリアル高校生の時、マイケミよく聞いていたので…まずそこから心揺れますよ!
さらに各話タイトルが既存の曲タイトルから取られているのですが、その多くが、「売れてるJ-POPはちょっとなぁ…」と妙な意識こじらせている10代が聞きそうなラインを見事についてくる。BUMPとかRADとかのロキノン系が主。テレビ露出をあまりしないロキノン系の中ではメジャー級バンド。オマケにアニソンまで混じってきて、ちょっとサブカルな方面に傾倒「しはじめた」くらいのヌルい高校生オタのセンスが見事に作中にパッケージされている。
まぁつまり読んでいて「高校時代の俺のどうしようもなさ」を思い出せられてしまう、という超個人的な面白さと苦痛があるんですよね…!!あああ!!俺は今でも所詮そんなもんなんだけど!!
この辺りの楽曲チョイスは意図的だと思うんですよね。作者の趣味もあると思うけれど、思春期に寄り添う音楽を選んだように感じる。
そしてそんな「しょーもないオタク高校生の現実逃避」を、その幻想を、その恥ずかしい行動の全てをいっきにブチまける。それが2巻の中盤。そこから物語は一気に加速と崩壊を始める。
全ては「ロールプレイ」だったのだと、その稚拙なフィクションを打ち砕く。
フジノの瞳にいつもきらめいていた星にヒビが入り、ガラガラと崩れ、そして輝きを失う……。
15話「羽虫のように」の緊張感には吐き気すらしてきた。
居場所を奪われ、心もへし折られた「フジノ」。壊れた瞳の彼女は、自分の体を留美に捧げることで、よすがを求める。しかし戸惑い流される主人公と、最後は致命的なスレ違いをお越し、幻想は完全に消え去った。
うわ言のように繰り返す「好き」の言葉に、なんの意味も宿っていない。
なんて乾いてるんだ。心を締め上げる切なさに満ちてる…。
「好き」って言わなきゃ、今の自分たちを正当化できないから。結局は言い訳のために「好き」なんて言ってるだけなんだ。ダメダメだわぁこの2人。
こんなグズグズに狂っていく青春模様。見たくない。
けれど嫌悪感と同時にメチャクチャ胸が高なったりして、物語に引きずり込まれたみたいに目をそらすことができなくなってしまう。
浮世離れした楽しいファンタジーだった。甘酸っぱい感動があった。
しかしそこから冷徹なリアルの世界に突き落とされる。この落差。
ストーリーもさることながら読者の心を追い詰める演出面も冴え渡っている。
心踊る冒険ファンタジー。でもそんなものは現実には存在しない。
協力者と舞台とルールを手に入れた、2人で共有する妄想に過ぎなかった。
今まで楽しかったはずの日々が、根本から崩れ去る恐怖。ある種のカタルシスも感じましたが、それはあまりの悲しさと、目を背けたくなるような青春の過ちによるもの…。
ファンタジーだと思っていたはずが、生々しいリアルに突き返される。だってこっちが本来の居場所だから。生きていかねばならない現実は、紛れもなくこの冷えた世界なのだから。
自分を好いてくれた少女が遠くなる。
摩耗しない恋。美しく清潔に保たれる恋。
そういうのも、きっと現実では、出会い難いものなんだろう。
このシーン、泣けたなぁ…。雛ちゃんの描かれ方に関してはなんの不満もない。最終話だって納得できたし爽やかだった。
ただこの場面は、主人公が自分の情けなさに真正面からブチあたって涙する。見てられない…。ただ、名シーンだとも思う…。
僕らは現実の中で、この世界の中で、生きていくしかない。
流さ流され、時に大事な選択をして。少しずつ自分を変えて。
ただ、決して現実が悪いものだとは描かれていない。
つまりは生き方の問題であり、留美は現実の壁を敗れるだけのエネルギーを、フジノの妄想の世界から、そしてフジノ本人から受け取っていた。
壊れてしまった2人の世界は、別の形でまた歩み出せるかもしれない。
そうやって「再生」へと駆けていく留美の姿に、またしても涙。
17話、堂々と現実に立ち向かう覚悟を決めた彼は、むしろ笑いながら遠く遠く駆けていく。
思春期をこじらせた少年の最後につかみとった、現実と戦う覚悟。
世界の秘密が暴かれる第14話以降の展開は、テンションの浮き沈みが激しくまさにジェットコースター気分。
感情を上に下に右へ左でブンブン揺さぶられ、感情の波に酔ってしまいそうな感覚すらした。
だけどもう!とにかく熱い!
なんて傷だらけの、なんて途方も無い痛みを伴う、愛おしい青春の物語なんだろう!
藤野という少女と、少女の結論について。
ようするに、思春期の薄っぺらなセンスや妄想をどこまで痛めつけられるかな、っていう所を鋭く描いた作品なんだと思う。
「変なフリ」としていたフジノなんかまさに象徴的。
現実での自己嫌悪の裏返しが、妄想の世界のまったく別の自分への憧れ。
カッコよくてかわいくて、まるで物語のヒロイン。
他人から求められたら嬉しくて嬉しくて。なりたい自分への自己陶酔。
でも本当に頭イカれたヤツがやってきたら慌てちゃう。ところどころで「フリ」を続けられない所にじわじわと本来の弱さが見えていました。
その弱さ、薄っぺらさがいっきに噴き出るのがあの種明かしのシーン。
どうしようもなくなって、ただ自分を求めてくれる「都合のいい人」に自分の価値を求めて、自爆する。「誰も本当の私を欲しがってはくれない」と心を折る。
妄想の中の自分が輝くほどに、現実に自分が惨めになっていく。そらいつかはぶっ壊れるさ。崩壊のきっかけ外部から、変な漫画家のオッサンに持ち込まれたけれど、それがなくてもいずれ彼女は限界を迎えていたんじゃないかな。
思春期のドロドロした憂鬱と、オタクのクソみたいな自意識でぐっちゃぐちゃになってるフジノを見てると、心の底がムズムズしてくる。本当に…。この気持ちはなかなか言葉にしづらい。
ただ、だからこそ淡い祝福が降り注いだラストシーンは、読んでからしばらくずっと、この作品のことばかり考えてしまったほどに、俺の中身に食い込んだ。
一目惚れでした、と藤野は言う。
「私は彼のことが最初から好きだったのだ」と。それが嘘だとしても。そういう事にして自らを慰めたいだけだとしても。留美を自分につなぎとめておくための、とっておきのフィクションだとしても。
そう口にした藤野の心が、本当に尊いものなのだと、留美は言う。
ああ、なんて美しいエンディング!!
この不安定さ。アンバランス。単なる両思いで終わっただけでは、この作品にここまでのめり込まなかったと思う。
臆病なこの2人は、お互いの「好き」を確信することだって、きっと難しいから。
だからちゃんと言葉を投げかけ合って、抱きしめあって、互いで互いを信じあっていくしかない。いつだって不安はやってくる。
あの夜の廃車両で投げかけあった、なんの意味のない「好き」の言葉。あのどうしょうもなく不毛な、闇に墜落していくような接触にも、後から後から意味なんて加えられる。「あとづけ」でいいんだよ。どうせ弱いんだから。そうやって弱い自分を受け止めて慰めて、騙し騙し、幸せに進んでいければ、十分なハッピーエンド。
愚かでもいい。弱くていい。所詮そんなもんだ。
実際藤野は、留美とセックスしたことを後悔したような口ぶりで「大して好きでもない男の子とするの、本当は嫌だった」とザックリ心えぐる事を言っていました。
それが真意だったのか、留美を遠ざけるためのあの場だけの嘘だったのか、もう分かりません。
でも今の藤野は「一目惚れだった」と言った。ならそれでいい。それを信じればいい。
過去なんて「今」のために都合よく使ってしまえばいいのだ。
藤野が「一目惚れだったの」と言ったように。
あるいは俺が昔を思い出しながら身悶えして苦しみながらブラパを読んだ後、「でもあんな日々があったからこの作品をここまで愛せたんだもんな…」と賢者モードに入るように。
なんだって受け取り方次第なわけで、そこはもう、卑怯なくらい自分を騙してしまったほうが、いい。たぶん。ダメな自分を肯定したっていいんだよ!(キレ顔
そういう開き直り方を発見させてくれた作品だな「ブラパ」。ありがとう。でもきっと俺は痛いまんまなのでブラックパレードは永遠。
いわゆる「打ち切り」の憂き目にあってしまった作品。惜しいなぁ。
この終盤の展開は、もっともっと物語が長くなって、十分な「溜め」を持っていたら、さらに破壊力を増したはず!
2巻完結となった今にこれだけのダメージを負ってしまった俺が、仮にこの作品が予定通りの尺でこの終盤にたどり着いていたらどうなっていたか。あまりに落差が強烈すぎて、俺も壊れてしまったかもしれない…。
しかし結果的に打ち切りになってしまったことを作中でメタっぽく触れてしたりもしてニヤリとさせられる。加えて「妄想が中断され突如終焉する」という唐突さも、このクライマックスの展開の中ではひとつのポイントになっていたとも思う。まさに急転直下なスリリングさがあったよ!
打ち切りを残念なものとして完結させるのではなく、むしろ打ち切りにあったことすら作品に活かしてしまえというガムシャラな姿勢が感じられ、その熱意にまた震える。
そうそう。ちょっとメタ視点を含ませてる本作において、作品のカギでもあり半ば神の視点を持つ漫画家、動物園ひかる氏の存在は面白い。
こんなこと言い出した時には、ラスボス来たーって思った。
うーんいい顔!!
でも彼は、藤野と留美と見守ることで読者よりもっと近くで心を揺さぶられる「大人」の代表キャラでもある。
いけ好かない、気持ちの悪い男。けれどどこか読んでいる自分自身と重なる所があったりして、なんかね。
緑のルーペさんはこの作品を
「大人になれなかった大人の、憧れと諦めによって生まれた物語」
と表現しています。
大人になれなかった大人。もしかしたらこれは緑のルーペ先生を含む製作者たちのことでもあるんだろう。でももっと言えば動物園ひかるのことでもあるんだと思う。
留美のだした結論を聞き届け、情けないくらいに弱々しく「…はは」と笑って手で顔を覆う。きっと最後に彼のことを救ってしまったんだな、藤野と留美は。
表現者として「妄想」を生み出した親でもある彼は、そこから巣立っていく子どもたちを見ることに、どんな思いを抱いただろうか。きっと、そりゃもう。
深読みし過ぎるとアレですが、動物園ひかる氏が緑のルーペ先生の投影キャラだとすると、なんか納得してしまうんですよね。なんとなく。
ちと長くなってしまいましたがそれだけ大好きだという事を詰め込めたかな。
「ブラパ」はズタボロになる少年少女と、思春期のよどみと煌めきと、絶望と再生が高密度に結晶した傑作だと思うんですよ!
面白いんだけど、面白いかどうかよりまず本能を鋭くえぐってくる作品だった。
追い詰められていく主人公たちと、崩れ去る世界。愕然とした気持ちで物語の後半を読み進めましたが、本当に素敵な着地を見せてくれた…!
フィクションに惑わされる少年少女、というメタ視点を見事に表現し、フィクションから踏み出す主人公らに到達する。
けれど二人が生きていく現実は、今も「ブラックパレード」の中。
妄想の世界から飛び立ったって、結局のところ弱く脆い2人は、時に嘘にすがって生きるしかない。でもそれでいいんだろう。幸せなんだろう。
嘘と生きていく、弱く惨めな彼らの「the Black Parade」。
どうかいつまでも夢を。信じられるものを。嘘かもしれないけれど、信じたいものを握りしめられたならそれでいいんだ。
崩壊と再生。徹底的に叩き潰されてからの、かすかな希望。
イタい思春期漫画、と片付けるには毒が強いけれど、間違いなく大好きな漫画で、きっと俺はずっと2人の幸福を願う。
思春期を通過したからこそ全力で楽しめる、あの頃の恥ずかしい僕らの物語、とも言えるかもしれない。痛覚を研ぎ澄ませて、めいいっぱい傷つけられて、最高に楽しかったです。
『ブラパ』1,2巻 ・・・・・・・・・・★★★★★
心がズキズキする思春期の迷走。打ち付けるリアルの脅威。臆病な男の子と臆病な女の子。ひっくるめて全部が愛おしくてたまらない傑作。
これで打ち切られてなかったらもっと大変なことになってたな。俺が。
ザ・ブラック・パレード (2006/12/06) マイ・ケミカル・ロマンス 商品詳細を見る |
元ネタのアルバム。これ聞きながら読む「ブラパ」も格別である。
懐かしいな。中高の時よく聞いていた…。
Welcome to the Black Parade!!