[漫画]失われていく、妖怪と語らう世界。『向ヒ兎堂日記』1巻
向ヒ兎堂日記 1 (バンチコミックス) (2012/11/09) 鷹野 久 商品詳細を見る |
昔はね 皆信じていたんだ 妖怪が本当にいるって
「向ヒ兎堂日記」1巻です。
鷹野久さんの絵が前から好きなので(いつだったかの月刊ヤンキンとかで読んだ)、この作家さんの単行本は待っていました。で、コミック@バンチ連載作がこのたび単行本化。
絵買いではありましたが、しみじみとした余韻が味わえて内容もよかった。
明治時代。それは文明開化にやっきになり、これまで人と共存していた妖怪たちを「非現実的なものだ」と信じず、切り離そうとする人間たちが増えた時代でもあります。
そんな中、妖怪関係の本をあつめるものずきな貸本屋があり、その店主が主人公。
その貸本屋の名前は「向ヒ兎堂」。今日も妖怪といっしょに、ちょっと不思議な日常へ。
その回のメインとなるゲスト妖怪が悩みをかかえて向ヒ兎堂にやってきて
主人公の青年・伊織とその同居人(人というか妖怪だけど)たちが、それを解決する、という一話完結スタイル。読みやすいですし、いろんな妖怪が出てきて楽しいです。
猫又、化狸、座敷わらしといったメジャーどころから、聞いたことがないものも。
看板猫の銀くん(猫又)のモフモフした感じが実に癒し。
個人的に好きなのは第3話で出てきた座敷わらしの女の子。
表情コロコロかわって、本当に子供の女の子みたいな愛らしさですよ。
主であるおじいちゃんに懐きまくり。すぐに不安になっちゃうし、そのたび泣きそうな顔する。
というか人と妖怪でありながら、本当の家族のような感じの2人です。
主人公もそうだけど、こうやって妖怪とともに生きられる人もいるんだよねえ、ちゃんと。いい妖怪ばかりではないのかもしれないけれど、こういう場面をみせられて、改めて作中で失われつつある人と妖怪の風景を惜しく感じる。
人と妖怪の今後について、ちょいと示唆的だなと感じたのが第二話「浮かぶ金魚」のエピソードでした。
ずばり人と妖怪の未来を示したものではないんですが、「こういう風に続いていくものなんだろうな」という感慨深さがあるのです。
ある日突然、空中に浮いてしまって水に戻れなくなった金魚。
主であるおさない女の子にみられてはビックリしさせてしまう。でも水槽にいないと心配させてしまう。どうしたものか・・・と向ヒ兎堂にやってくる金魚です。
主人公たちも頭をひねり、そして出された結論は、こういうもの。
「見えない水に入っているんだよ」と言い張る。
そんなムチャな!と思いつつもなんとかなってしまうものだw
見えないもの、「不思議」を信じる心。
それは人と妖怪の関係のも重なる姿だと感じるのです。消してはいけないもの。
よく分からないけど、見えない何かが世界にはある。そのことを受け止める思考。
そして、それを子供に伝えるということ。それも直接妖怪が伝えているのです。
こういう部分からも、妖怪側から「私たちの忘れないでね」と言っているかのような裏を感じる。これからも人といたいという思いが、きっと透けている。
人から疎まれるくらい、存在が認められないくらい苦しい現実がいま妖怪の前にあるけど
こういういじらしくも可愛らしいメッセージを放ってくるもんだから、もどかしい。
目新しさはない漫画ですが、心をもぞもぞさせるちょっとしたアクセントが憎い!
今後のストーリーに関わってきそうな陰陽師やら、警察やら・・・
カギとなるキャラクターもすこしずつ顔見せされており、動き出しています。
2巻から主人公の秘密も絡んで、ストーリー色が強まっていきそうかも。
で、まぁ鷹野久さんの絵は素敵だなぁと。
しゅっとスマートなんだけど温かみがあって。カッコよくて可愛いね。
漫画だし、絵に惹かれて買うことはなにも悪いことではない。そこからプラスアルファの魅力を見つければいいし、そうして内容の良さも光るのがこの作品なのですよ。
消えていく、忘れられていく時代・妖怪たちを憂うノスタルジー。
華やかな明治ロマンの裏側に、ひっそり花咲くかわいらしい妖怪たちの世界があります。
『向ヒ兎堂日記』1巻 ・・・・・・・・・★★★☆
地味だけどいい世界観が広がっています。妖怪たちみんなかわいいなー。