[漫画]このモヤモヤも、空を飛んで吹き飛ばそう。『思春期飛行』
思春期飛行 (KC KISS) (2012/01/13) 江本 晴 商品詳細を見る |
自分の足で 行きたい場所へ
江本晴先生の「思春期飛行」。1巻完結の、オムニバス作品です。
思春期とか学生服とか大好きな自分はタイトルに釣られるのです。
「思春期飛行」というタイトルはなにかの比喩とかでも何でもありません。思春期になるとみんな短い期間だけ、本当に飛ぶことができる世界を描いた作品。
それをストレートに表現したこの表紙、とても好きです。雰囲気いいですねえ。
思春期になると飛べるようになる。本作はそんな「飛行」を、思春期がゆえに様々なことに頭を悩ませる女の子や男の子たちに絡めて描く作品。
どれもが思春期の男の子・女の子をメインにした作品で、まさに青春といった内容です。
今回は特にお気に入りな作品3作について、個別に感想を。
●転校生と飛行機雲
中途半端な時期に転入してきたのと、引っ込み思案な性格のせいでいまだクラスに馴染めない主人公・サキ。屋上でひっそりと過ごしていたら、同じ屋上の住人である少年・峠と知り合う。
おっかなびっくりでも、心の距離は少しずつ近づいていくのですが、まだ飛べないし相変わらずクラスの友達も出来ないサキ。果たして彼女はちゃんと前にすすめるのか。
この扉絵、好きだなあ。すごく青春の匂いがする。
絵のタッチも柔らかく、伸びやかな空気を作り出してくれていていい感じ。
「飛行」は誰もが遅かれ早くは訪れる変化。
しかし日々ちょっとずつ大人へとなっていく「身体の変化」とは違って、見た目ではっきりと見えてしまう「飛行」は、育ち盛りな思春期の子供たちの胸に独特の感情を呼ぶみたい。
心も繊細になっちゃうこの年頃には、他人と自分を比べてはコンプレックスを抱きやすく、「まだ自分は飛べない・・・」というのも、この設定ならではの少年少女の悩みとして立ちはだかる。
そしてモチロン、空を飛ぶというのは思春期の限られた時期にしか叶えられない。
みんな思い思いに空を飛びながら楽しそうに青春を謳歌してる様子が、たまらなく眩しい。
この短編では他人とのコミュニケーションが上手くとれず、いまだに飛ぶこともできないと塞ぎこんでしまっている女の子が主人公。コンプレックスになっていた「飛行」がキーワードとなり、彼女が自分のカラを破っていくきっかけになっていくのは、とても気持ちいい展開でしたねー!
空を飛んでいるという様子はそれだけで高揚感も爽やかさもあって、物語そのものとよく咬み合っているんですよね。本当だったら王道すぎるストーリーでも、思春期の飛行というファンタジー臭さが組み合わさって新鮮味を出してくれる。それはこの単行本のどの話にも言えること。
そしてこの短編でたまらないのがラストシーンですよ。思わず悶絶!
「だめ?」と聞く男の子に、返事をしないまま手を取る主人公!ああ、ひたすら鮮やか!
空を飛ぶ少年少女、そのモチーフの清々しさが物語全体に生きていて特にお気に入りのエピソードですね。
●坊主頭と子どもの霊
男の子の「ダメな思春期らしさ」がにじみ出てて好きな短編!
主人公の徳楽くんが友人や女の子にもついつい見栄をはってしまうのにニヤニヤw
野球部の少年と、ずっと病院にいる身体の弱い女の子のお話で、これも空を飛ぶということで話が広がっていきます。
単行本で唯一、男の子が主人公になっている作品。それだけに、主人公の男の子のくすぶった感じは他の短編にはない魅力を放っていると思います。
「小さい もう なんてか小さすぎる 手を掴まれんたんだぞ それを俺は」
なんて自己嫌悪に陥るシーンなんか、読んでてこっちもそわそわしてくるというか。
そして1番印象的なのがこの場面。
空を飛んだ少女を見上げて、「ああ なんか なんだコレ」としか言葉がでない主人公。
器用な物言いなんてできない、ただ呆然とため息と同時に漏らしたような感嘆。
まさにこの年頃の不器用な男の子って感じでたまりませんね!
ストーリーも感動するというよりは、力強くなった絆を見てふっと微笑めれるような感じ。やや中性的なヒロインですが、主人公が心惹かれたのも分かる気がするなあ。不思議な引力がある。
●りりと志央
こちらは女の子と女の子の友情を描いた作品。幼馴染の2人が主人公。
子供の頃の思い出を大切にする・・・というかやや固執しすぎてる部分もあるりりと、どこか冷めた物言いが特徴的な志央。仲のいい2人でしたが、タイムカプセルをめぐりちょっとケンカ状態に。
現実的なのは志央の方ですが、でもりりにはこの純粋さを守りぬいて欲しいというか、大切にされて欲しいというか、読んでいてなかなかモヤモヤしたものですが、しかしそれが面白い。
しかしラストへ向かう展開の心地よさと、最後の幸せな暖かさに思わず笑顔。
中学生の女の子って、きっと本当に子供と大人が入り交じっているんだろうなあ。この2人は端的にこの年頃の女の子を示している気がします。志央のキャラクターが個人的に好み。
そして「ぐえー」って言ってるウサギがなにげにお気に入りなのです。
そんな感じの1冊。ほか3つの短編も、みんな読後感のスッキリしたものばかりです。
思春期の人は飛べるようになる・・・という設定が存分に生きており、飛ぶことが子供たちを悩ませたり、その悩みを吹き飛ばしたり、いろんな風に作用するのが面白い。
そして上にも書きましたが、「人間が空を飛ぶ」というシンプルかつ魅力的なモチーフは、甘酸っぱい青春物語にさらなる爽やかなをプラスしてくれているのです。
もっとエッジの効いた作品も読んでみたくなりましたが、この優しくあたたかな作風はいいものです。読んでいていい気分にさせてくれるものばかり。
青空の似あう、甘酸っぱい思春期の面白さが詰まった作品と言えます。
『思春期飛行』 ・・・・・・・・・・★★★☆
空飛ぶ少年少女のキラめく青春模様。爽やかで読みやすいです。
[漫画]必ずお守りしますから! 『常住戦陣!!ムシブギョー』4巻
常住戦陣!!ムシブギョー 4 (少年サンデーコミックス) (2012/01/18) 福田 宏 商品詳細を見る |
なんでこんな状態で、そんな顔できんのよ!?
少年サンデーで連載中の「常住戦陣!!ムシブギョー」4巻です。
表紙は江戸の夏の風物詩、巨大カブトムシの益荒大兜。迫力ありますねー!
内容として3巻から引き続いてる大兜編のクライマックス、そして仁兵衛とお春ちゃんが活躍する砂地獄編がメインとなっています。
今回も清々しいくらいにまっすぐな少年漫画。気持ちいい作品です。
常識外にデカすぎる大兜を相手に、蟲師奉行所はどう戦っていくのか。
少年漫画らしい超スケールで爽快なバトルが序盤から展開されてテンション上がります。
しかし個人的に更に胸熱くさせられたのは第28陣「本当の武士」。
武士を目指した少年が仁兵衛に弟子入りをする、たった1話のエピソード。
シンプルであり王道でもあるものなんですが、仁兵衛の人の良さが周囲の人間たちを勇気づけ変えていく、その一連の流れの見せ方が素晴らしい!
本当の「武士」とは、身分でなく心に宿る強い意思そのもの!
仁兵衛っていわゆるおばかキャラなんですけども、まったくストレスなく見れて、しかもカッコいいのは凄いですね。一本筋が通っていて人情深い。仁兵衛がいい子さが作品の雰囲気をより良く、そして面白いものにしてくれている気がしますね。
人と街を、そして少年の夢を守ったこのお話。一話で仁兵衛の魅力を凝縮してます。
さて、しかしこの4巻の約半分をしめるボリュームの砂地獄編も見所満載。
この作品は2人のヒロインがいて、『日常を彩るのがお春ちゃん、戦いを彩るのが火鉢』という認識。何話も使うバトルものになるとお春ちゃんの出番は少なくなりがちです。
どちらもかわいいヒロインなんですが、お春ちゃんが振りまく癒しオーラは好きなので、長期的に姿が見られなくなるとなんだか寂しくなってしまうのです。
しかしバトル編になってもお春ちゃんに出番があるときもある。
ようするに彼女がさらわれてピーチ姫状態になった時ですよ。今回そんな感じ。
しかしこのお話では、彼女は今まで通りに守られるだけではない。むしろ仁兵衛協力し敵に立ち向かっていく。まぁ基本的に守られてるんですが、そうと感じさせないような明るさと元気さがありおっと思わせられます。仁兵衛も彼女がいるからこそ更に気合がはいってる。
主人公がヒロインを助ける、王道の熱い流れもさることながら、そこからの展開がまた面白い。
どんなに苦しい状況でも、この2人はキラキラした雰囲気を振りまきます。
命の危機が迫ってるのに緊張感が薄い。でもそれは、相手がいるからこそ一層気合がはいってるというか。お春ちゃんは仁兵衛といればきっと大丈夫だって心の底から信じてるし、仁兵衛は当たり前のように守りぬくつもりで、その意思を揺るがせもしない。
敵の女の子もこんな2人も見ててイライラしてましたねえw
追い詰めてるはずなのに、顔色買えず2人でイチャイチャしてるんですから、まぁ当然か。
仁兵衛もお春ちゃんも天然キャラなんですよね。なにこのペアかわいい。
というかこのお話の中では2人はまるで夫婦ですよ。なんという安定・安心感!
そしてこのエピソードでも彼の良い子っぷりが炸裂中。
敵だろうと何だろうと、人を疑わない。それで騙されても、彼は自分のすべきことをしていくだけで、それを解決してしまう。仁兵衛と敵対しても、憎しみ合うことにならならないんですね。それで敵がイラつく姿も面白いw
あらゆることに無自覚なのがかわいいし、いいキャラしてるなぁと感じるポイントでしょうか。心が綺麗すぎて大丈夫かと思いつつ、それでなんとかなっちゃう仁兵衛が好きなのです。
お春ちゃんとイチャイチャできたのでふぅ今回もよかったねって読み終わろうとしたら火鉢ちゃんも本気だしてますよ。脱ぎっぷりで。完全にサービス要員ですよ、なんだこの構図!
ふむ。なるほど火鉢ちゃんはおしりをクローズアップですね!(笑顔で)
お春ちゃんが非常に女性的に豊満な体つきをしており、火鉢ちゃんもけしてナイチチではないんですが相手が悪い。しかしおしりならばどうだろうか!いいぞ!火鉢いいぞ!
火鉢ちゃんはバトル中もいちいちパンツ(みたいなフンドシ)をひらひらさせてくれる、ガード性能が低くて嬉しい女の子。しかしこういった部分でもサービスを欠かさないのです!
というか今更ですが、花火(爆弾)で戦う女の子が爆風を考慮することもなくスカートを身に付けてるのは一体どういうことでしょうかね。戦うたびにパンツ見えちゃうじゃないですかまったくもう!けしからん!でも今の適度なバランスいいと思います!たまに見える位で。
火鉢はラブコメ要因らしい部分は今のところないのですが、いずれそういった方向でも活躍してくれるとなおうれしい・・・かも。男勝りな性格ですが、かわいい部分もかなりある女の子。
なんでもかんでもラブコメにすれば○ってのはいけない考えかwだって好きなんだよー!
ストーリーとしては第35話から新章突入といった具合。
謎の多い少女、蟲奉行様がついに正体を表し、物語の本筋に絡んできました。
ここらへんからはもう完全に超連載版から分岐したものになってきましたね。
どう物語が進んでいくのか、とても楽しみです。
男はカッコよく、女はかわいく、そしてどちらも凛とした生き様。
素直に心を熱くさせてくれ、キャラクターたちを応援したくなる、本当にまっすぐで気持ちのいい作品だなと感じます。少年漫画らしいサービスも忘れないよ!
男の子はこういう漫画で興奮するもんです。いろんな人に読まれて欲しいなぁ。
『常住戦陣!!』ムシブギョー』4巻 ・・・・・・・・・★★★★
すでに安定した面白さを発揮しだしてます。新章が楽しみですね。
[漫画]こんな怒涛のイチャラブに悶絶しないわけがない『7時間目の音符』1巻
7時間目の音符(ノート) (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) (2011/11/11) 志摩 時緒 商品詳細を見る |
ちゅーしても良いですか
志摩時緒先生の初単行本「7時間目の音符」1巻が発売されました。
「ああ~もう、この二人のイチャイチャっぷりは・・・!!!」というのはこのコミックスのオビにあった文章ですが、本当にこれに尽きる!こんなイチャラブ見せられたら僕はもう・・・!!
夏コミの時くらいに葵さんちに行ったとき、彼が「これ凄いんですよ」とオススメしてきたので読んだら、案の定その場で悶え転がったという。
それから単行本化を楽しみにしていたのですが、一気読みするとさらにヤバイ!
ラブコメファン必見と言える内容になっているのではないでしょうか・・・。
吹奏楽部の1年生、葉平。入学から数ヶ月で彼には恋人ができました。同じ吹奏楽部の2年生、あずみです。ふたりがイチャイチャする漫画です。説明終わりっ!
ふたりそろって恥ずかしがり屋で不器用。そしてはじめてのお付き合いです。
ほらーもうこれだけでニヤニヤしちゃうのに、期待を裏切らない展開の連続なんですよ!
1巻には第5話までと、プロトタイプの読み切り版第0話が収録されていますが、1話ごとに何度もニヤけ、1冊読み終わるまでにトータルで何度ニヤニヤしたかわかりません。
むしろ読んでる間ずっとニヤニヤしてたんだと思います。なんだよこれ・・・。
ハッと気づく、恋人が振り絞った勇気と、自分のちょっとしたミス。
申し訳ないことをしてしまったことを反省しつつ、彼のがんばりに照れ、「明日ちゃんとしよう・・・」と意気込む姿!しかし次のキスでもトラブルが・・・。
いやはや、第3、4話の一連の流れは最強でした。「やりなおし!」とかもうね。凶悪とも言えるくらいの破壊力ですよ!ゴロゴロゴロ
この作品、2人ともが恥ずかしがり屋なおかげで、時折もどかしさを感じます。
でもそれは悪い意味ではなく、むしろ絶対に来ると予想できている盛り上がりのための助走として作用します。それに加えその上手いことしたいことをできない不器用さ、それ単体でも最高に幸せなんですよもう!難しいことはどうだっていいんだ!かわいすぎるんだ!
そんな彼らの不器用さが強く現れていたのが第2話のデートのお話。
全然スマートにデートができない、なんとかしなきゃって互い焦り頑張る2人。
心が離れてしまいそうな一瞬を乗り越えてのラストシーンは極上に甘かったです。
また、舞台の学校の風習がまた面白いんですよね。
女の子は彼氏のネクタイを巻くというものです。この表紙でもあずみちゃんしてますね。
「せっかく恋人になったのだから・・・」という思いは当然あっても、素直にそうすることができない彼女にまたニヤけますな・・・。
みんながネクタイしてのろけてるもんだから、「私はあんな風にはならないぞ!」と意地になってる感あり。本当に恥ずかしがりなんですねえ。
でも、いつだって好きな人を身近に感じていたい。
第一話はネクタイをメインに進行するエピソードで、しょっぱなからイチャイャエンジン全開。そしてそのまま最後まで爆走していく恐ろしいテンションです。
あと、男の子が女の子にネクタイを結んであげるというほんのり逆転シチュにも萌え。
2人きりで過ごす甘い甘いひとときは当然素晴らしいのですが、
第三者に対してのろけてみせるシーンもまたたまらないというもの。
これ、自慢してやろうっていう意図は一切なしの、ナチュラルのろけなんですよね。
ただぼんやり会話している中にも、あの男の子が好きなんだってにじみ出てる。
そしてうっかり口に出してから、自分で自分に恥ずかしくなっちゃう。
もうどんだけ好きなんだよー!勘弁してくれ!
女の子同士で彼氏についておしゃべりするシーンとかなぜか自分大好きなので、そういう意味でも上のシーンは大好き。裏話が聞けてるような感じが。
そしてこの作品、あずみの友人の頼子や葉平の先輩の米くんなど、サブキャラも魅力的。
頼子のこざっぱりした性格も気持ちいいですし、米くん先輩は誰とでもくっついては離れてを繰り返してて軽薄そうなイメージが最初はありましたが、彼の真意が見えてくるとその印象も薄れました。米くんがこの先どうなっていくのかも気になるポイント。
そして5話の最後に、新一年生の女の子があらたに登場。
おでこがかわいらしい彼女、果たしてどんな動きをみせてくれるのか!
書きたいことがとっ散らかってしまいましたが、そろそろまとめを。
恋人と触れ合うあまい時間をたっぷり描かれていて、幸福感たっぷりな本作。
主人公もヒロインも赤面しまくりの赤面三昧です。悶絶しすぎて心臓がいたい。
また、恋愛だけじゃなく部活シーンも描かれていて、それもまた2人の心を盛り上げるイベントになっているんですね。イチャイチャにしたって、やってることはかなり王道だと思いますが、欲しい展開を次々投げかけてくれる。願ったとおりに心に突き刺さる。快感です。
はあああ!もうこれだけでいいですううういいんですぼかぁああああああ。
だいぶ冷静じゃない感じで感想かいてしまいました。ラブコメって素晴らしいですね。
これまで隔月連載だったのが毎月連載になったようで、今から2巻が待ち遠しい。
『7時間目の音符(ノート) 』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
押し寄せる怒涛のイチャラブ。悶絶しまくりでした。単行本カバーをめくると面白いオマケも。
[漫画]あの夏のヒミツ、おぼえていますか? 『SEASONS~なつのひかりの~』
SEASONS~なつのひかりの~ (サンデーGXコミックス〔スペシャル〕) (2011/09/17) 高橋 しん 商品詳細を見る |
ありがとう。私たちは出会い、消えて行く。
11月ともなるとすっかり涼しくなって空気が冬らしくなってきました。
冬になりかけな時期ですが、今日感想をかくのは高橋しん先生の作品集「SEASONS~なつのひかりの~」。夏の終わりごろに出た、夏の空気をぎゅっとつめ込まれた作品です。
以前発売された「トムソーヤ」に続く2冊目の夏をテーマにした単行本ですね。
トムソーヤ (ジェッツコミックス) (2007/08/29) 高橋 しん 商品詳細を見る |
この「トムソーヤ」の表紙も大好きですが、今回も素晴らしく美しい表紙ですね。
全開が強烈なくらいに青い海と空なら、今回は生い茂り輝くグリーン!どちらも光の表現がたまらんです。表紙だけで作品の世界観に引きずり込まれてしまいますね。
メインに収録されているのは「なつのひかりの」「ヒミツキチ―少女編―」「ヒミツキチ―邂逅編―」の3作。これに「ヒミツキチ」のショート番外編「記憶。」と、単行本構成を考えて配置されたプロローグとエピローグがあります。
全体的にカラーページが豪華に、かつ効果的に使われている単行本です。
小学校を卒業してから10年後、約束通りに集まったもとクラスメートたち。なつのひかりの
当時思い思いのものを入れたタイムカプセルをいよいよ開けようかと、廃校になってしまった出身小学校へみんなでやってきますが、どこに埋めたのかがわからなくなってしまっていました。
という訳で宝探しが始まりますが・・・はたしてうまくいくのやら。
単行本タイトルにも採用された作品。
基本的には賑やかなコメディタッチで展開されていきます。しかし和やかな空気の中にすこしずつ違和感が現れだし、ちょっと不思議な一夏の季節に触れることとなります。
印象的だったのが、同窓会でのかすかな居心地の悪さ。
卒業したのは10年前。それ以来の再会になる友人たちもいて、どういう距離を取ればいいのか図りかねてる感じが随所に見受けられます。
もう子供ではないですからねえ。久しぶりに会えた古い友人たちとでも、昔のノリのままではうまく行かなくて。名前がうまく思い出せない人もいたり、記憶の中とは大きく変わった人だってたくさんいる。戸惑いつつも、せっかくの同窓会の空気を悪くするのは申し訳ないので、表面だけなんとな~くなトーク。
そして20代前半という年代も絶妙で、まだ全員が大人になりきれてるとは言い切れないのに、それぞれの人生ははっきりと枝分かれしている。結婚し子供がいる人もいます。
社会的な立場などもまた、久方ぶりに再開した彼らを遠ざける要因か。
しかしそんな彼らの心を「奇跡」が繋ぎます。
昔に思い描いた夢を思い出し、現在とのギャップに笑えば、夢を現実にした人もいる。
照りつける真夏の日差しと、懐かしい校舎の匂いと、忘れかけていた思い出。
郷愁感たっぷりなお話だったと思います。胸の奥がスッと透明になるような、さわやかな空気が感じられました。なつのひかりの、おとぎ話。
「少女編」と「邂逅編」でセットになっているシリーズ。邂逅編では主人公が大人になります。ヒミツキチ
子供の頃のいつかの夏休み、家庭の都合で横浜から遠く離れた街で過ごした日々。
身体が弱い父親とうまく付き合うことができず、その街で偶然出会った少年と遊ぶようになる主人公。少年が作った秘密基地は、秘密の宝物がいっぱいに詰まった夢のような空間でした。
しかしその秘密基地は、その存在を他人に教えてしまうと永遠に失われてしまうといいます。主人公はそのいいつけを守り、男の子とワクワクしながら日々を過ごしていましたが・・・。
ちょっとファンタジックに一夏の思い出を描いた作品となっています。
いきなりヘンな話をすると、高橋しん先生の女の子はかわいすぎます!!
もともとこの作家さんの絵描く女の子キャラが大好きなんですが、今回も素晴らしい。
今回の主人公(特に少女時代)は生命力のある女の子で、全力で全身を動かすキャラ。
本当にいろんなアクションや表情を見せてくれてお気に入りなのです。
また、この作品に印象的に登場する少年もいいですね。
涼やかな目元にまず目が行きますが、時折見せる物憂げな様子もミステリアス。
そして番外編「記憶。」で登場する少女もエロい。エロい。なんですかこれ。
イタズラな笑顔をのぞかせる仕草も魅力的ですし、「こども、作ろうか。」のインパクトよ!どゆことー!(はかせっぽく) しかし「もしも、2人、生き残ったらさ」の流れにもブルリ。
夏・・・それはボーイ・ミーツ・ガールもひときわきらめく魔法の季節。
そしてこの番外編は、続く邂逅編を読んだあとにこそ真価を発揮します。
大人になった主人公が、「少女編」のイベントを顧みるように繰り返しつつ昔との違いを感じさせていく邂逅編は、じわりじわりと秘密の核心に近づいていく感覚が面白かったですね。
小説のように長いモノローグが挿入されるシーンなどがなかなか特徴的です。
非常に「言葉の響き」を大切にした作品となっていると思います。それは高橋しん先生の作品で常に感じるところではありますが、本作では特に、という意味で。
生まれ、生きるというということ。父と娘の絆。かつての少年と少女、今の父と母のかすかに垣間見えるドラマと愛情。
家族とのつながりを、眩しい日差しの中、緑の匂いとともに刻みつける物語。
秘密のあいことば「ありがとう」は、その深い意味を最初は理解できなくても、実は最終的には涙を流さざるをえない流れへの引き金であり、まんまとやられてしまいました。
そして最後の写真の裏のメッセージにて涙腺崩壊・・・!
メインテーマは父と娘の親子愛でしょう。これもファンタジックなお話でした。
たっぷりとカラーを使って期待感を盛り上げるプロローグと
単行本ラストを飾るエピローグもそれぞれに美しく、素晴らしいです。
とくにエピローグでは、この単行本に収められた作品のほかにも、それとは無関係そうなたくさんの「夏のワンシーン」が散らばっており、この単行本の中のみで完結することのない、夏という季節そのものへの思いやあこがれを深めてくれる内容でした。夏は終わってまだ少し経ったばかりですが、はやくも夏が待ち遠しくなる気がします。
なんで夏という季節は胸の奥をキュンをさせるのでしょうか。さっぱりわかりませんが、絶対的な力で理性をねじ倒されるかのような。この切なさには抗えないのです。
全編通して「夏」を感じさせてくれる作品に仕上がっており、この表紙にピンと来た人は買ってみていいと思います。短編それぞれが高いレベルに安定しています。今回は比較的毒も少なめ。美しい「光」の表現もさることながら、ストーリーも良いものばかりです。
カバーをめくったところにも、思わずグッと来てしまいますね。
物語そのものから、そして絵からも言葉からも、力強い前向きなメッセージと「夏」への強烈なノスタルジーをはらんだロマンを感じます。とても綺麗な作品だと思います。
誰もがきっと感じたことがあるドキドキや寂しさや、懐かしさや暖かさ、痛み、切なさを閉じ込めた、まさになつのひかりの中にあるかのような輝きを放つ作品たちです。
あの夏のひかりに確かにいた、少年と少女の物語。
湧き上がるような夏の匂いに胸がいっぱいになります。
『SEASONS~なつのひかりの~』 ・・・・・・・・・★★★★
良質な作品集。夏の眩しさに思わずクラクラしてしまいそう。泣いてしまうくらい。
[漫画]恋人と、家族と、友人と、幸せになろう。『清々と』2巻
清々と 2巻 (ヤングキングコミックス) (2011/08/29) 谷川 史子 商品詳細を見る |
これは恋ですか?
発売から結構経ってますが、「清々と」の2巻がでています。
キャッチーで華やかな絵柄やらオトコ匂い立つ絵柄やらいろんな漫画が混在してるアワーズで、たまに掲載されては癒し成分をふりまいている作品です。青年漫画誌になぜか正統派少女漫画がある感じ。
雑誌としてはすてきな清涼剤として存在感がありますし、単行本でいっきよみするとほんわか幸せな気分にしっとりとひたれるような作品ですね。
読むとすっと笑顔にさせてくれます。
おてんばながら名門女子高の鈴蘭女学院に入学した清。
彼女やその家族、そして周囲の友人たちを描く作品で、基本的に1話完結。
友情、恋愛、家族愛など人と人のつながりを魅力的に描いています。
●印象的だったのが第5話で、これは清の弟視点のお話。
家族としてみれば、姉の清は鈴蘭に通うようなおじょーさまとは思えないけれど
ふと、普段のぐーたらな姿にすら、不思議な感情を持つようになります。
きっかけは鈴蘭に憧れるクラスメイトで、本当に自分のお姉ちゃんは誰かから憧れられるような人物なのだろうかと疑いを持ちながら観察してみたら・・・、なんかドキドキ。でも自分の知ってるお姉ちゃんとはどこかが違ってるみたいで、遠いとも感じる。
改めて家族との距離感を見なおした、ちょっとしたさびしさを秘めたエピソード。
自分が思うより、お姉ちゃんはちゃんと女の子なのかも。
いつかくるかもしれない姉の巣立ちの日を思ったりなんかして、いつもより少しだけやさしくできた夜。姉弟愛にほんわかくる大好きなお話です。
弟くんサイドのヒロインらしい女の子もかわいいですねえ。
●第9話は清の友人・千香子を主人公にしたエピソード。
バレンタインに浮き立つお嬢様たちがオープニングに描かれるとおり、バレンタインをめぐっての恋愛色の強いお話です。
ジスイズお嬢様!な千香子。そのいいなずけの少年は、今風で活発な男の子。
ちょっと不思議な組み合わせな2人ですが、幼いころにした結婚の約束を今も大切に待つ千香子ちゃんの一途さがまず胸を打ちます。しかしさて、相手の男の子の心中はいかに。
ささいなすれ違いからクライマックスへ。オーソドックスなストーリーラインに沿い進行し、後半の盛り上がりは流石ですね。もふー。
今は一緒にはなれない。ただ、確かな約束をする。
最後のページの「あああもうどうしましょう~」な清がそのまま自分のようですw
意思や目標を強くもった男の子と女の子、メイン2人それぞれとても魅力的でした。
さらーりとと好きな2つのエピドードを紹介してみました。
ほかにも、ちょっと怖そうなクラスメイトとの交流を描き、その友人の凛々しさも眩しい第7話や、社交ダンスをやりたいのに反対する父と衝突する少女を描いた第8話もすてき。
1つ1つのエピソードのよさを言ってあげていってもキリがないような。今回も温かいエピソードがいくつも収録されていて、うれしい一冊になっています。
谷川先生の作品はシンプルかつ最大級の魅力に溢れていますなー!
1年に3回くらいのペースで雑誌にのるので、単行本化がやや遅いのが残念ですが、他誌でも作品かいてますし、今後ともまったりと続いて欲しい作品だと思います。
清が自身の恋をより深めてきているのも、これからどうなっていくのか気になるところですね。
清に関する環境にそれほど大きな変化は今回ありませんでした。しかし恋への憧れをさらに強めていったことが伺えます。
P73の「ふうん、そっか」としみじみ感じ入る場面も印象的でした。
まだまだ恋に恋する、といった段階かもしれませんが、自分のなかで大きくなっていく想いにも気づいたりも。自分の恋を叶えるために頑張って行ってほしいですね。
いちおう主人公は清ですが、ころころと話ごとにメインキャラが変わって清のストーリーがなかなか進まないことがもどかしくもあります。しかし、本八幡先生と清の関係をぎゅっと縮めるイベントもじきにやってくるでしょうね。待っています。
ほんわかやさしい、かわいらしいシリーズです。
『清々と』2巻 ・・・・・・・・・★★★☆
読んでると心のそこから気持よくなれるような作品。タイトルどおりの味わい。