[漫画]あの夏のヒミツ、おぼえていますか? 『SEASONS~なつのひかりの~』
SEASONS~なつのひかりの~ (サンデーGXコミックス〔スペシャル〕) (2011/09/17) 高橋 しん 商品詳細を見る |
ありがとう。私たちは出会い、消えて行く。
11月ともなるとすっかり涼しくなって空気が冬らしくなってきました。
冬になりかけな時期ですが、今日感想をかくのは高橋しん先生の作品集「SEASONS~なつのひかりの~」。夏の終わりごろに出た、夏の空気をぎゅっとつめ込まれた作品です。
以前発売された「トムソーヤ」に続く2冊目の夏をテーマにした単行本ですね。
トムソーヤ (ジェッツコミックス) (2007/08/29) 高橋 しん 商品詳細を見る |
この「トムソーヤ」の表紙も大好きですが、今回も素晴らしく美しい表紙ですね。
全開が強烈なくらいに青い海と空なら、今回は生い茂り輝くグリーン!どちらも光の表現がたまらんです。表紙だけで作品の世界観に引きずり込まれてしまいますね。
メインに収録されているのは「なつのひかりの」「ヒミツキチ―少女編―」「ヒミツキチ―邂逅編―」の3作。これに「ヒミツキチ」のショート番外編「記憶。」と、単行本構成を考えて配置されたプロローグとエピローグがあります。
全体的にカラーページが豪華に、かつ効果的に使われている単行本です。
小学校を卒業してから10年後、約束通りに集まったもとクラスメートたち。なつのひかりの
当時思い思いのものを入れたタイムカプセルをいよいよ開けようかと、廃校になってしまった出身小学校へみんなでやってきますが、どこに埋めたのかがわからなくなってしまっていました。
という訳で宝探しが始まりますが・・・はたしてうまくいくのやら。
単行本タイトルにも採用された作品。
基本的には賑やかなコメディタッチで展開されていきます。しかし和やかな空気の中にすこしずつ違和感が現れだし、ちょっと不思議な一夏の季節に触れることとなります。
印象的だったのが、同窓会でのかすかな居心地の悪さ。
卒業したのは10年前。それ以来の再会になる友人たちもいて、どういう距離を取ればいいのか図りかねてる感じが随所に見受けられます。
もう子供ではないですからねえ。久しぶりに会えた古い友人たちとでも、昔のノリのままではうまく行かなくて。名前がうまく思い出せない人もいたり、記憶の中とは大きく変わった人だってたくさんいる。戸惑いつつも、せっかくの同窓会の空気を悪くするのは申し訳ないので、表面だけなんとな~くなトーク。
そして20代前半という年代も絶妙で、まだ全員が大人になりきれてるとは言い切れないのに、それぞれの人生ははっきりと枝分かれしている。結婚し子供がいる人もいます。
社会的な立場などもまた、久方ぶりに再開した彼らを遠ざける要因か。
しかしそんな彼らの心を「奇跡」が繋ぎます。
昔に思い描いた夢を思い出し、現在とのギャップに笑えば、夢を現実にした人もいる。
照りつける真夏の日差しと、懐かしい校舎の匂いと、忘れかけていた思い出。
郷愁感たっぷりなお話だったと思います。胸の奥がスッと透明になるような、さわやかな空気が感じられました。なつのひかりの、おとぎ話。
「少女編」と「邂逅編」でセットになっているシリーズ。邂逅編では主人公が大人になります。ヒミツキチ
子供の頃のいつかの夏休み、家庭の都合で横浜から遠く離れた街で過ごした日々。
身体が弱い父親とうまく付き合うことができず、その街で偶然出会った少年と遊ぶようになる主人公。少年が作った秘密基地は、秘密の宝物がいっぱいに詰まった夢のような空間でした。
しかしその秘密基地は、その存在を他人に教えてしまうと永遠に失われてしまうといいます。主人公はそのいいつけを守り、男の子とワクワクしながら日々を過ごしていましたが・・・。
ちょっとファンタジックに一夏の思い出を描いた作品となっています。
いきなりヘンな話をすると、高橋しん先生の女の子はかわいすぎます!!
もともとこの作家さんの絵描く女の子キャラが大好きなんですが、今回も素晴らしい。
今回の主人公(特に少女時代)は生命力のある女の子で、全力で全身を動かすキャラ。
本当にいろんなアクションや表情を見せてくれてお気に入りなのです。
また、この作品に印象的に登場する少年もいいですね。
涼やかな目元にまず目が行きますが、時折見せる物憂げな様子もミステリアス。
そして番外編「記憶。」で登場する少女もエロい。エロい。なんですかこれ。
イタズラな笑顔をのぞかせる仕草も魅力的ですし、「こども、作ろうか。」のインパクトよ!どゆことー!(はかせっぽく) しかし「もしも、2人、生き残ったらさ」の流れにもブルリ。
夏・・・それはボーイ・ミーツ・ガールもひときわきらめく魔法の季節。
そしてこの番外編は、続く邂逅編を読んだあとにこそ真価を発揮します。
大人になった主人公が、「少女編」のイベントを顧みるように繰り返しつつ昔との違いを感じさせていく邂逅編は、じわりじわりと秘密の核心に近づいていく感覚が面白かったですね。
小説のように長いモノローグが挿入されるシーンなどがなかなか特徴的です。
非常に「言葉の響き」を大切にした作品となっていると思います。それは高橋しん先生の作品で常に感じるところではありますが、本作では特に、という意味で。
生まれ、生きるというということ。父と娘の絆。かつての少年と少女、今の父と母のかすかに垣間見えるドラマと愛情。
家族とのつながりを、眩しい日差しの中、緑の匂いとともに刻みつける物語。
秘密のあいことば「ありがとう」は、その深い意味を最初は理解できなくても、実は最終的には涙を流さざるをえない流れへの引き金であり、まんまとやられてしまいました。
そして最後の写真の裏のメッセージにて涙腺崩壊・・・!
メインテーマは父と娘の親子愛でしょう。これもファンタジックなお話でした。
たっぷりとカラーを使って期待感を盛り上げるプロローグと
単行本ラストを飾るエピローグもそれぞれに美しく、素晴らしいです。
とくにエピローグでは、この単行本に収められた作品のほかにも、それとは無関係そうなたくさんの「夏のワンシーン」が散らばっており、この単行本の中のみで完結することのない、夏という季節そのものへの思いやあこがれを深めてくれる内容でした。夏は終わってまだ少し経ったばかりですが、はやくも夏が待ち遠しくなる気がします。
なんで夏という季節は胸の奥をキュンをさせるのでしょうか。さっぱりわかりませんが、絶対的な力で理性をねじ倒されるかのような。この切なさには抗えないのです。
全編通して「夏」を感じさせてくれる作品に仕上がっており、この表紙にピンと来た人は買ってみていいと思います。短編それぞれが高いレベルに安定しています。今回は比較的毒も少なめ。美しい「光」の表現もさることながら、ストーリーも良いものばかりです。
カバーをめくったところにも、思わずグッと来てしまいますね。
物語そのものから、そして絵からも言葉からも、力強い前向きなメッセージと「夏」への強烈なノスタルジーをはらんだロマンを感じます。とても綺麗な作品だと思います。
誰もがきっと感じたことがあるドキドキや寂しさや、懐かしさや暖かさ、痛み、切なさを閉じ込めた、まさになつのひかりの中にあるかのような輝きを放つ作品たちです。
あの夏のひかりに確かにいた、少年と少女の物語。
湧き上がるような夏の匂いに胸がいっぱいになります。
『SEASONS~なつのひかりの~』 ・・・・・・・・・★★★★
良質な作品集。夏の眩しさに思わずクラクラしてしまいそう。泣いてしまうくらい。
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