[漫画]初恋の女の子は、女の子が好き。『9速眼球アクティヴスリープ』
9速眼球アクティヴスリープ―中山敦支短編集 (ヤングジャンプコミックス) (2011/06/17) 中山 敦支 商品詳細を見る |
あたしなんで女の子に生まれたの?
「ねじまきカギュー」1巻と同時に発売されました、中山敦支先生の短編集。
タイトルの「9速眼球アクティヴスリープ」は中山先生のHPの名前そのままだったり。
このタイトルを意味するところは、中山先生があとがきに触れています。お気に入りのタイトルなんでしょうか。確かに引っかかりを覚える独特の語感ですね。
表紙デザインもカッコいい。大きく掲げられた作品名。佇む少女、忍ばすナイフ。
内容は3つの作品(1作は2話構成ですが)を収録した短編集となっています。
では個別にさらりと感想でも。
「トラウマイスタ」連載開始前に少年サンデーに掲載された読み切り作品。・ミュータントキングダム
連載作と見比べると、スターシステム的にまったく同じキャラクターがいたり(名前はちがう)、ここからあの作品が生まれたんだなと感じさせられる部分はちょこちょこ見受けられます。
動物専門高校を舞台に、エリートで完璧な将来目指す主人公が
いわゆる「突然変異種」を専門とする人々に出会い、自分の価値観を変えていくお話。
「普通」ではないだけで迫害を受けている罪なき動物たち・・・その姿を見て、彼はどうするのか。
少年漫画らしい、冒険心をくすぐられる内容でしたね。
絵柄が現在とは違い、月刊ジャンプ時代のものと近いように感じます。ポップかつ凛々しい、少年漫画らしいタッチ。この単行本に収められた作品の中では、もっとも読みやすいような気が。
物語のしっかりとした盛り上がり、メッセージ性。手堅いながら熱い作品です。
作者のあとがきを読むと、さらにグッと来る仕掛けにもなっていたり?
サンデー超に掲載された短編。カバーの女の子はこの作品のヒロイン(?)。・恋のスーサイド
一応少年漫画なはずなのに、ずいぶん酷いオチをつけてしまったものだなと・・・!
バイト先のマドンナ的女の子に恋をした主人公。ですがそこの店長はなんだか得体のしれない感じの怖い人。ある日刃物をつきつけられ「これ以上彼女に近づくな」と脅され、あげく「俺の恋に協力してもらう」とも言われてしまいます。どうやら店長もマドンナさんがお好き。
しぶしぶ店長のために行動を起こしだす主人公ですが・・・・・・店長の命令からのスキンシップだったのに、なぜか自分がマドンナさんから好意を寄せられ始めてしまうのでした。自分の命のために自分の想いもマドンナさんの想いも断ち切り、店長とマドンナさんをくっつけようと奔走するのですが・・・。
そんな嬉しいような恐ろしいような・・・?ラブコメディーに仕上がっています。
殺伐としてるというか、状況を見るとすごくスリリングですが、それもまた面白い!
ラブコメのようでいて明らかに修羅場ムードが漂っているのも好き。
そしてステキだったのが物語の終盤・・・、まさか告白と同じコマの中で即効フラれるとは・・・読んでてやたらテンポいい上に強烈なインパクトを残してくれました。
けれどそれだけで終わらないの「恋のスーサイド」。絡めとられたら抜け出せない。
作者のシンプルなあとがきにも仰天されられる、楽しい一作!(あれマジなのかな)
ミラクルジャンプにて掲載された、二話構成のボリュームのある作品。・禁断ワンダーラバー
完璧・天才・万能・・・ゆえに、つねに周囲から注目を集めてきた主人公。
けれどクラスに1人、自分のことをまったく気にしていないような女の子がいる・・・。「なぜ自分に注目しないんだ?」と疑問を持った彼は、彼女のことばかり考えるようになってしまいます。
傷ついたプライドは疑問と好奇心へ、そしていつしか恋へと・・・?
(クリック拡大)
予期せずその女の子に甘い言葉をもらいまくって慌てる主人公!・・・しかしもちろんそうそう上手くいくものではなく、彼女は別の人物の胸に飛び込んだのでした。女の子の。
主人公の恋したのは、女の子が好きな女の子だったのでした。
主人公のキャラクターが特徴的で、勉強できるけどそれゆえに価値観がこり固まってるカタブツ少年として描かれています。
特に後半となる第2話では、彼はこれまでの価値観では理解しきれない、新しい世界を垣間見ることになります。つまりは同姓愛。それに対し「そんなものは認めない」「そんなのは間違っている」と主人公。これではダダをこねる子供そのもの。
相手を傷つけて見ないふり。かってに被害者ヅラして、でも諦める度胸もない。
注目を浴びてないと気がすまない主人公は、いつしか外部から自分に価値を与えてもらわないと(そう感じられていないと)不安で仕方のない人間になってしまったんですね。
彼自身はまるでからっぽの入れ物。恋愛をファッション感覚でステータスと考えているのは、周囲の目を気にするがあまり主体性を失ってしまった彼だからこそ、と思えば納得もできる。
とは言え、やっぱりムカつくことはムカつくんですよねコイツ!!
ヒロインが主人公に、かなり辛らつな言葉をいくつも投げかけますがどれもが同意。特に彼女の手帳の、涙で滲んだ言葉を見た後では、より主人公のクズっぷりがステキ☆
体裁とか地位とか、ほんとに大切なのは、そんなことじゃないだろ。
というところで主人公が生まれ変わる瞬間には思わず満面の笑顔になってしまったり!
後半の盛り上がりには震えましたねぇ。かなり面白かったです。ヒロインかわいいし。
この短編集で1番好きな作品をあえて挙げるなら、この作品になるかも。
メッセージの力強さと、見せかたのインパクト、テンションの高さ。どれもこれも中山敦支先生ならではだなぁという感じ!カテゴリとしては百合漫画に入りますが、別ベクトルの面白さも存分に味わえる内容となっているのではないでしょうか。
以上、個別感想でした。
そういえば、「ミュータントキングダム」を読んでなんとなく思ったことなのですが
月ジャン時代の「アストラルエンジン」「こまみたま」のやりすぎなくらいのグネった構図がこの作品あたりで一旦、だいぶマイルドになったんだなーと感じました。
あのころの絵柄もたまらなく好きなのですが、とは言え現在の作風を見るに、またちょっと違う方向に進化をしたんだなともwしかも結構アクの強い感じに・・・。
そうやって絵の変化を楽しめるの、短編集ならではの楽しみかも・・・?
収録作品は、どれもかわいらしく、ちょっと怖く、そしてあたたか(?)。
歪んでるように見えて、ちゃんとまっすぐ何かを見てくれる、もしくは見つけてくれるキャラクターたちがなんとも愛らしいです。「禁断ワンダーラバー」は特に好き。
とは言ってもやっぱり「恋のスーサイド」はちょっと異色ですね・・・好きですが!
なお「ねじまきカギュー」1巻と連動し、サイン色紙が当たるキャンペーンも開催中。
というわけで「9速眼球アクティヴスリープ」感想でした。
しみじみ、この表紙好きだ。ナイフを持つその本当の意味は。
『9速眼球アクティヴスリープ 中山敦支短編集』 ・・・・・・・・・★★★☆
中山敦支先生の初短編集。サンデー時代のもばっちり収録。濃い漫画がドドンと。
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