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[本]静かな夜の届け物。笠井スイ先生初短編集。『月夜のとらつぐみ』

月夜のとらつぐみ (ビームコミックス)月夜のとらつぐみ (ビームコミックス)
(2011/05/14)
笠井 スイ

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   こんなにも浅ましく 罪と偽りにまみれてまで

「ジゼル・アラン」を連載中の笠井スイ先生の短編集「月夜のとらつぐみ」。
Fellows誌上や同人誌で発表された全8篇の短編をズラリ収録しています。
ジゼル・アランで初めて笠井先生を知った、という人には丁度オススメしやすい一冊かと。笠井先生の世界に触れやすく、想像力をかき立てられる作品が詰まっていて楽しめます。
静かに力強く、登場人物の「生」を描いていく作品が
では特に気に入った作品を感想を個別にー。



・花の森の魔女さん

幼い兄妹が、魔女と噂されるおばあさんと出会うお話。
偏見を持っておばあさんに近づいた兄妹が、彼女の優しさに触れて徐々に打ち解けていく様子は実に心温まるものでした。おばあさんの微笑みが印象的。
また背景描写、特に見開きで庭に光が差し込んでくるシーンでは、ストーリーの展開と合わせ非常に晴れやかな気持ちにさせられました。
ミステリアスでどこか儚げで、かわいらしいおばあさん。素敵ですね!
序盤の微妙な気まずさの表現が上手く、後半に行くにつれての変化も良し。

・月夜のとらつぐみ

表題作。たった8ページですが雰囲気たっぷりで大好きです。
とらつぐみを擬人化し、少女が歌っているような絵をサイレントのように描き出していく作品。
淡々としていながらも心に残る、面白い読後感をくれるお話だと思います。

 これがとらつぐみの鳴き声なんだとか。
金属をこすったようなちょっと不安になる声ですが、どこか神聖で美しい響きも。
ちょっと物寂しいような、面白い声ですね。


この動画なんかは背景も作品にちょっと合っていていいですね。
作中ではとらつぐみの声がどんなものなのか、表現がほとんどされません。
どんな声なのか想像しながら読むもよし。実際に声を聞きながら読むもよし。

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・仏頂面のバニー

コメディタッチで楽しく、読みやすい作品。
いつも仏頂面なバニーさんをなんとか笑顔にさせてみようと奮闘するバカ丸出しな男たちを描いたもので、他の収録作品と比べてもテンションが高め。
クスリとできるようなネタがいくつも続き、オチにも笑顔にさせていただきましたw
本当に男って単純でバカで、無駄にロマンチストでしょうもない。

・Story Teller Story 01 ELISA

同人誌で発表された「Story Teller Story」シリーズの1つ目。
ページ数が多く、このシリーズ2つで単行本の半分ほどを占めているほどのボリューム。
それだけに読み応えもあり、想像力を刺激する単行本前半の流れとは異なり、しっかりとしたストーリー展開が用意された、物語らしい物語となっています。
2作とも「嘘」をテーマにしており、1つ目のELISA編は不恰好でちょっと歪な恋愛模様が描かれています。嘘の罪悪感が絡みつくような味わいがこの作品の面白さ。

恋人に捨てられて精神を病んだエリサ。茶色い瞳の男に出会うと片っ端から恋人が自分のもとに帰ってきてくれたんだと錯覚し、すがり付く。恋人を面影を求めるように。
そんなエリサにかねてより恋心を寄せていたのが主人公のセドリック。偶然ながら彼もまた茶色い瞳をしていて、エリサはかつての恋人・アルバートだと勘違いをしてしまう。が、彼はその勘違いを正そうとはせず、彼女の前でだけは自分はアルバートだと言い張り逢瀬を重ねた。
まぁたとえ勘違いでも、好きな女性が自分のことを恋人だと思って甘く擦り寄ってくるのだから、しょうがないと言えばしょうがない。けれど跳ね除ける勇気が彼には必要だった。
確かに(嘘でも)恋人として過ごす時間は幸福でも、じわりじわり蝕んでくる罪悪感に、じきに彼は耐え切れなくなってしまう。愛する女性に、嘘をついて寄り添っている状況。セドリックは根は真面目なんですねぇ。でも真の正義漢でもなく、中途半端。だから途中で負けた。
愛する人を守りたいのに、そうするには嘘をつくしかない。彼女を本当に思うのなら、彼女に与えるべきはやさしい嘘か、それとも残酷な現実か。

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読んでいて心がズキズキと痛み出すような物語ですが、深い傷を負いながらも迎える切なくも優しいエンディングには思わず目頭も熱くなるというもの!
「君を幸せにしたかった。でも・・・うまく出来なくて・・・ごめん」 この胸キュン半端無い・・・!
嘘をついていたのは、きっとあなただけじゃない。嘘で膿んだままじゃ、君と向き合えない。

・Story Teller Story 02 NANCY

Story Teller Story2つ目。今回は女子校を舞台にした教師と生徒のお話。
このお話も「嘘」の罪悪感を強く描き出した内容。加えていじめ描写なども・・・。
罪悪感に悩みながら自らを恥じるモノローグが多く、より陰鬱な気分にさせられます・・・。
ストーリーテラーの成年のひょうひょうとした様子に安らぎを感じますが、やや不気味な印象も・・・結局得体の知れないままでしたし。そういう存在でいいんですけども。

主人公の先生はもう大人になっていて、きちんと世界が見えているんですが
いまさらヒステリックになること無いからこそ、静かに確かじっくりと深い絶望に沈んでいく。大人の余裕が、むしろそこの知れない恐怖を感じます。
けれどそうして自分を責めて責めて責めぬいて、ストーリーテラーの提供する一種の儀式を終えた後、最後に彼女に残った本当の思い。シンプルで美しい、真実。

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いやぁ唸らされますねぇ。気持ちの揺れ動きを丁寧に描きつつ、華やかではないしろしっかりとした達成感を得られる物語。嘘吐きたちの、傷だらけで切実なお話だと思います。

ストーリーテラーシリーズ2作とも、大好きなエピソードです。気持ちのいい作品ではないと思いますが・・・、もがき苦しむ人々が掴み取る、ささやかな幸せ。美味。



ではまとめ。
後半に尺の長い作品が集まっていますが、短編集としてバランスも良く読みやすくて良いですね。それぞれの短編に違った味わいがあり、多彩な楽しみがある一冊だと思います。
そしてこうして短編集で読むと感じるのは、笠井先生の絵の表現力の凄さ。
サイレントっぽい表現が多数登場することもそうですが、魅力とパワーのある絵がぎっしりと詰まっていると思います。キャラクターの表情も微細な描き分けがされてるように感じますし、背景の生き生きとした力強さは「ジゼル・アラン」でも発揮されてるものと変わりません。
絵本のような作品だなと感じることが多かったのは、きっと錯覚では無いんじゃないかと。
短編集なのでいろいろな作品が一冊の中で楽しめる上、味わい深いものが揃っています。
「ジゼル・アラン」とあわせてオススメしたい、笠井スイ先生の短編集でした。

『月夜のとらつぐみ』 ・・・・・・・・・・★★★★
静かで上品、丁寧な作品たちを楽しめます。雰囲気も良く、ストーリーものも読ませる!

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