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正直どうでもいい(移転しました)

マンガ感想を主に書くブログ。移転につき凍結中。

[本]"美しいもの”を見つけた女たち。 『蝋燭姫』

蝋燭姫 1巻 (BEAM COMIX)蝋燭姫 1巻 (BEAM COMIX)
(2009/10/15)
鈴木 健也

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蝋燭姫 2巻 (ビームコミックス)蝋燭姫 2巻 (ビームコミックス)
(2011/02/14)
鈴木 健也

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   泣かないで スクワ

Fellows!にて連載していました、鈴木健也先生の「蝋燭姫」1,2巻です。
今年の2月に発売された2巻で完結し、取り上げるのが遅れてしまいましたが、いやぁしかし何度読んでも本当に味わい深い作品です。Fellowsはかなり独特な誌面で雑誌そのものが大好きなのですが、個人的にはこれまでの掲載作品の中でもイチオシ。
中世ヨーロッパをイメージさせる世界観で、その描写力(おもにフェチっぽい方向における)と二転三転するスリリングなストーリー展開にすっかり惚れてしまいました。
今日はこの作品について感想をー。



国の辺境にある聖イルーユ修道院にやってきた突然2人の少女。スクワとフルゥ。
スクワはこの国の姫なのですが、次期国王ルルクス王子との権力争いに一時的に敗北し、王家の血を引く少女であるにも関わらず修道院へと追放されてきたのでした。
フルゥはそんなスクワ姫に付き従う従者。世間知らずで暴力的で、スクワ姫を溺愛してます。
質素倹約を重んじる修道院に幽閉された、一国の姫とその従者。
修道院での生活に不慣れなフルゥは、スクワのために、と無茶な行動を起こし、そのたびに修道院にトラブルを呼びます。姫を愛するがゆえの暴走ですが、これには修道女たちも困り顔。
そうして最初は浮いていた彼女たちですが、少しずつ周囲から理解を得て打ち解け始めます。
のどかな平和が続くと思いきや・・・しかし急展開、突如現れた男たちが修道院を襲撃。
いくらこんな辺鄙な修道院に押し付けられたからと行っても、国の姫であるからしてそ利用価値は計り知れません。姫を守るためにフルゥは剣を手に取り、修道女らも立ち向かいます。
次々現れる男たち、追い詰められる少女たち、その中でキラリ光る『本当に美しいもの』。
酷く現実的な重みのあるストーリー展開ですが、だからこそ感じるロマンに胸が躍ります。
以下、特に気になったところをいくつか紹介。ネタバレ注意。

・スクワ姫の変化

目覚しいのはやはりスクワ姫様の変わりっぷりですよ。何ですかこの娘ー!
1巻の最初では尊大な態度で表情1つ変えることない、お堅い女の子だったのですが
2巻からはどんどん言葉数も表情も豊かになってゆき、自分を慕ってくれていたフルゥに「初めて会ったときからあなたのこと大嫌いだったの」と言ったと思ったら、見たこともないくらい顔を赤らめて「あなたのこと好きになったみたいなの」!やりおった!ガチ百合展開っ!しかも極上の格差恋愛っ!このときのテンションの上がりようはハンパじゃなかったですよ!!
以降フルゥに対してものすごい愛情を示すお姫様。

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序盤の姫を見てからだと、子猫のようにじゃれる後半の彼女にはニヤニヤせざるを得ません。これまで距離をとってしまっていたからこそ、もっと近づきたい、もっと知りたい、もっと触れたい、積極的なお姫様ですよ。
フルゥとしては意外ではあってもどこか望んでいた関係のはず・・・ですが、やっぱり現実問題こんなことになってしまっては、彼女もどう姫に接していいかよく分からない。
ぎこちなくも甘い2人の様子には笑顔にならざるを得ないというものです!

・フルゥに眠る狂気

微笑ましい2人の時間。しかしふと、スクワがフルゥに物語の読み聞かせを求めたとき、戦闘によるものとはまた別の緊張感が急に芽を出します。
フルゥが語ったのは、彼女の昔話。
幼いフルゥを救った、白く美しい一頭の狼。やがて彼女が大きくなり力をつけ、その狼と山中で再会をした。美しかった毛並みは汚れ、やせ衰え、率いていた群れを追われたらしくたった一匹で山にいた。憧れた強さ・美しさ・・・それはとうに失われていた。
自分にとってのかつての英雄に対し、彼女は行動を起こす。

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その哀れさがかつての面影を塗りつぶしてしまう前に、殺したのだ。
それはフルゥの中に眠る無垢な狂気。
彼女はもともと珍しい黒い肌色をしており、それが原因で迫害を受けたこともあったのでしょう。そんな背景があったとすれば、彼女が「美しいもの」に強い憧れを持っていることに説得力があります。そしてそんなフルゥは「美しいもの」と言ったものは、紛れもなくスクワ姫。
ふと不安が襲います。フルゥが守りたいものはスクワ姫ではあるけれど、突き詰めていってしまえばそれは彼女の命ではない。美しさなのだ。
フルゥに心を開き、まるで普通の小娘のような振る舞いをするようになったスクワ姫を、彼女は良いようには感じていません。彼女が憧れたスクワ姫は、変わってしまったのだから。
姫の「美しさ」に異常な執着を抱く従者フルゥ。やがて彼女は、姫に刃を向けることとなります。

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少女が抱く美への憧憬。それは至極当然で可愛らしいものでありながら、時として酷く歪で醜い姿を現します。この作品に繰り返し「美しい」という言葉が登場するのも、そういうものがテーマの1つとしてあるからなのでしょう。
一度は姫に剣を向けたフルゥ。しかしその後に自らたどり着いた答えには感動です。
ただ美しいだけではない、「本当に美しいもの」。それはなんだろう。

・美しいもの

この物語でかなりな存在感を放つキャラクターに、ヤージェンカという少女がいます。
修道女の1人なのですが最初から何かにつけてはフルゥに突っかかり、言い争いを起こしていた女です。後に明かされますが、彼女もまた王家が差し向けたとある組織に属する人間でした。
けれど修道院に敵が迫ったとき、スクワとフルゥのために奔走した働き者。
到底そんな人物には思えなかったのに、なんですかこの頼りがいのあるお姉さんは・・・!と驚きつつもニヤニヤしていたわけですが、敵に囚われたヤージェンカが発した言葉には思わずさらに胸が熱くなる・・・!

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「美しいものを見たんだ 命くらい張るさ」

その後にはフルゥのアップが入るなど、彼女が指す「美しいもの」がフルゥであることが示されています。前はあんなに疎んでいた風なのに・・・ヤージェンカさんー!!
彼女が命を張れるまでに憧れたもの、それはたった1人のために、1つのことだけを見て、ひたむきに行動できる強さと純粋さ。後にフルゥのそれが揺らぐからこそ読んでいてオイオイどうなるんだと酷く動揺してしまったのですが、それにしても熱い展開です。
美しいもの、それは人を変える。ヤージェンカの生き様もまさしく美しい。

・物語の結末

「蝋燭姫」で一番痺れるのが、物語の終わり方なのです。以下ネタバレ注意。

結末に関しては様々な解釈ができます。
現実的なことを言えば、医学がそれほど進歩していないこの舞台でフルゥは腕を切断する大怪我と、あの衰弱っぷり。スクワは無傷ですが、フルゥを背負って治療のために吹雪く山を歩き通す体力なんてあるとは思えません。
そして最終コマ、2人の向かう先に描かれている意味深な十字架。
人的な意見ではありますが、2人はきっとこのまま生きて修道院へ戻ることは叶わなかっただろうと思っています。そう判断するに足る要素が、あまりにも多いのです。
物語としても、本当に美しいものを見つけたというところで本当に綺麗にまとまっているぶん、ここで2人は共に命を落としてしまったというシナリオでも十分に、いやだからこそロマンチックで感傷的な面白みがあるのではと。
と思えば、この作品、2巻の表紙に意地悪な仕掛けがしてありまして・・・それはお手にとって作品を読んでみてのお楽しみなのですが・・・表紙を手に取り広げて見てると、涙が出てきそうになります。
こんなに悶々させられた物語の結末は久しぶりで、それも別に嫌だとは思わないんですよね。ずっとこの作品を味わえるようで、幸せですらあります。

2chへのリンクになってしまいますが、鈴木健也先生スレには面白いものがあります。
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/comic/1297823220/36-37 キャプ画像→
たまに見かけるコピペの改変ではありますが、本当に上手くできています。どのエンディングも、間違いないと肯定することも否定することもできないのです。
つまりこの作品、読者それぞれが思う一番「美しい」エンディングを、それぞれの中で迎えることができる作品でもあるのですよ。美しさに拘ったこの作品ならではの結末!面白いですね。



精密かつ豪華、独特なタッチで描かれる中世ロマン百合物語「蝋燭姫」。
2巻で綺麗に収まった、それでいて無限に広がりを見せるラスト・・・感服です。夢中で何度も読み、そのたびに甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになりました。
素敵な物語を届けてくれた鈴木健也先生に、感謝するほかありません。
・・・と、上ではシリアスな部分をメインで取り上げましたが、他にもいろいろと楽しめるところの多い作品です。例えば、色々と下ネタも凄い作品でもあったりするのです。
ます異様に気合の入った女体描写にはビビらされます。いつだったか鈴木先生はFellowsの作者コメント欄で女体描写への熱を語っておられましたが、果たして披露されたフルゥの乳首は、まさに大迫力と言ったものでございました(神妙な顔)。ああ、自分は大好きですよ!!
ほかにも生理だ脱糞だと生々しい話題がどんどこ出てきますし、サディスティックな描写・シチュエーションも目立ちます。とんだ変態漫画ですよ!まぁだからこそ、精神面における美しさがよりキラリ際立つというものです。でもそんなマニアックな部分も魅力的!
基本的に野郎は敵、女性たちが戦うお話で、構図的にも時代背景的にも熱いです。
あらゆる部分で重厚な読み応えを提供してくれる物語でありますが、1巻2巻それぞれの中間くらいに収録されている書下ろしオマケ4コマ漫画がまた特にヒドいことになってます。
本編とはまた違ったシュールなノリのギャグが展開し、普通に笑ってしまいましたw「ガバガバさ」の歌を真顔で歌うフルゥはなんだよこれとw 鈴木健也先生ギャグも上手い!
・・・と色々書いてみましたが、まとめますと、何から何までツボな作品でした。
美しい記憶(物語)として、ずっと自分の中に残りそうな、名作と呼びたい作品です。
強いクセがありますが、いろんな人に読んでみてほしい物語。
鈴木健也先生の新作を楽しみに待つとします。

『蝋燭姫』全2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
2巻完結にしてボリューム満点、そして文句なしに面白い。インパクトのある作品でした。

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