[本]女神が見つめる未来の街。“創られた幸福”の是非。 『スキエンティア』
実家の猫が3匹になっていた。
みんながんばって、幸せになるんだよ
戸田誠二氏のオムニバスSF作品集「スキエンティア」。
近未来の日本を舞台に繰り広げられるSF短編全7作が収録されています。
「ロボット」「クローン」といった王道な題材から、「媚薬」「ボディレンタル」などはっと気を引き付けられるタイトルが並んでおり加えてオビがとても魅力的だったので購入。
禁断の科学×ヒト 深いところに灯がともり、涙が・・・溢れる。
科学によって変わるもの、変わらないもの。
科学の力で創られた、人工の幸福。
人間は未来においても『人間らしく』いられるのか。
深いメッセージが込められた、いい短編集だったと思います。
長くなりそうなので今回は内4作について。
主人公は閉塞した現実に疲れ、自ら命を絶とうと計画をし始めた女性。
ある日「自殺志願者募集!」というかなり怪しい広告を見つけた彼女は
最後の最後に人の役にたてるならと応募し、審査に合格。説明を受ける。
仕事内容は、ボディレンタル。
依頼主はおばあちゃん。若い体で、もう一度バリバリ働きたいとのこと。
おばあちゃんと生活を共にするうち、徐々に変わっていく主人公が気持ちいい!
やたらエネルギッシュなんですよね、おばあちゃんw
そして作中にて主人公は「前の私と顔が全然違う・・・」と驚きましたが、
前半の主人公がほんとにのっぺらぼうなのに対して輝きある表情が対象的。
同じ人間なのに、心の持ちようでどれだけでも雰囲気は変わると言うことすね。
仕事だけに生き、しかし志半ばで働けなくなったおばあちゃん。
ボディレンタルをしてから若い体を手に入れた彼女は、人生で培ったテクニックを惜しげなく使い、僅かな期間ですぐさま社内で大活躍。愛すべき「仕事」を満喫。
しかしなにごとにも終わりというのはやって来るもので・・・・・・最後の日。
叶わなかった初恋。仕事の犠牲にした、日常の幸福。
仕事だけじゃなく、それらもほんの少し手にして、ボディレンタルは終了。
主人公からしてみれば、ある意味、目を背けたくなるほど残酷だよなぁ。
自分の中の他人が、それまでとは自分からは想像つかないほど成功していく。
けれどそれで卑屈になるんじゃなく、「ならば自分も」と奮い立てたから素敵だ。
彼女はもう、十分強い人間ですよ。
おばあちゃんの強い生き様を見つめ続けた彼女なら、幸せな未来も待ってるさ。
たった1人この世に残された彼女がすがったのは、最新のクローン技術。
そして手に入れた『創られた幸福』は、娘のマナミそのままの姿で成長をする。
しかしかつてのマナミに近づき、そしていつかはオリジナルを追い越し成長を続けていくであろうクローン体・ヒロミを見つめる母は、複雑な想いを胸に抱えたまま・・・。
胸の中にあるヒロミへの罪悪感と、薄れていくマナミの存在感。
癒され救われ、傷を忘れていく、自分。
幸せになって良いのだとしても、忘れてはいけない傷もあったはずなのに。
ヒロミに少しずつ塗り替えられていく、記憶の中のマナミ。
けれどヒロミはまぎれもない人間で、クローンであることも本人は知らず、もちろん罪があるはずもない。問題なのは事実を知り、そして彼女の母である自分の気の持ちようだけ。
けれど割り切ることなんてできない。
マナミが死に対しまだ納得できていない部分は、どうしてもあるから。
このお話は、映画等でも耳馴染みのある『クローン』が主題。
それだけにこの話題は考えやすく、かつ現実にすでに成立もしている技術ですので、その感覚的リアリティは他の作品と比較しても群を抜いているなぁと。
『クローン』はオリジナル体と完全同一な存在に成長するというわけではない、という設定もよくありますが、嫌らしい一ひねりだと思いますね。
本物そのままだったら、気に悩むことなんてないのに。
まるで同じような外見で、少しずつ少しずつ見えてくるわずかな動作の癖・性格の相違。
嫌が応にも・・・ヒロミとは違うんだと思い知らされる。
どこで折り合いをつけるか、そして娘のクローンを、娘同然に愛せるのか。
愛せたとして、それが死んだマナミの面影を重ねただけかも知れない。
その愛が、まっすぐヒロミ自身と向き合えた結果としての愛だと、自分でもよく分からない。
別にそれでもかまわないかもしれない。けど、なんか・・・なんか居心地悪いでしょう。
当事者の倫理観に、非常に繊細な問題を投げかけてくる話ですね。
終盤の観覧車のシーンは、自分も涙がほろり。
創られた幸福にしがみつくしかなかった母と、無垢な娘。
このラストが伝えることは、中々感動的。
創られた幸福は、人によってはぬぐいきれない違和感・罪悪感を残す。
そこから真の幸せを掴むには――その方法は、恐らく自分たちの今いる現代と変わらない。
これもまた、読む人になにかを問いかける内容となっています。
「ロボット」ということで、『創られた』という特徴がより顕著な存在。
彼らと、人間はどのように生きていくべきか。この物語はそんな疑問を投げかける。
ガンが見つかり、余命数年と申告された男性。
身寄りのいない彼は、ロボットのパートナーを得て、残り少ない人生を歩むことにした。
外見は人間そっくりの、優しい笑顔を見せてくれる女性型ロボット・ナオ。
普段の生活の中での細かなサポートや、体調が悪い時の看病もしてくれる。
ずっと自分のそばにいて、温もりをくれる存在・・・。
ロボットとどう共存していくべきなのか。
主人公はこの問題に、はっきりとした答えを出している。
「全く新しい人と、新しい生活をしようと思ったんだ。」
余命幾ばくかの主人公が口にした言葉。
なんでもないように流してしまいそうになってしまいましたが、これが凄い。
こんなにもさらりと、ロボットであるナオを「人」と呼んだ。
人として彼女を捉え共存することを、彼は最初から決めていたのだ。
そしてこの直後の、無言のままのナオの表情も・・・・・・、いやこれは深読みしすぎかな。
とにかく、こういう答えを出してくれたこの作品が描く未来は、とても魅力的。
物語的には、簡単にラストの予想が出来るシンプルなつくり。
というか読者を裏切ろうなんて全然考えていない、とても素直な展開。
しかしだからこそロボットと、彼らと共に生きる人間との関係の、ある意味理想的な形であるラストシーンが非常に染みる。理想的かどうかは、読む人によるかなぁ。
空に舞うあの人の欠片を、その向こうのスキエンティア・タワーを見ながら
ナオは何かを想ったのだろうか。想えただろうか。
彼女はロボットで、作中では彼女の心理描写やモノローグはない。
けれど、目をつむるでもなく、まっすぐと空を見続ける彼女の瞳には
何か深い想いがあるように感じてならない自分。
ミュージシャンになる夢を追い続けるも、上手く行かない現実に徐々に追い込まれていくが、自分と似た境遇の友人・田島から『覚醒器』についての話を持ちかけられる。
脳を一気に活性化させ、まるで神のような圧倒的能力を得られる技術。
しかし命を燃やすような全能の反動として、寿命は7、8にまで縮んでしまう。
活路の見出せない現状のまま、必死にもがき続けるか・・・
この技術に懸け、何が何でも自分をこの世界に認めさせるか・・・
葛藤の末、相澤はこの話を見送った。愛する女性がいたのも大きいかも知れない。
けれど田島は勝負をした。
大型新人としてメジャーデビュー、年に何枚もアルバムをリリース、そのどれもが大ヒット、内容も文句なし・・・田島は、『覚醒器』で夢を叶えた。
その一方で相澤は背水の陣で臨んだオーディションでも何の足がかりもつかめず、審査員から優しく、プロを諦めることを勧められた。夢は、断たれた。
サラリーマンになった相澤。
結婚もして子供もできて家庭は円満。音楽は、趣味として続けていた。
そんな彼の前に、時代を揺るがす大人気を獲得した田島が現れる。
夢を叶えた田島と、夢を諦めた相澤。
しかし田島が放ったのは、意外にも後悔の言葉だった。
この後、田島は最初で最後のツアーを成功させ、音楽家として最高の評価を残して
覚醒器の反動で、この世を去った。
人生観なんてそれこそ人それぞれで、自分がどうこう言えるものではないけれど
田島が、夢を諦めなんでもない生活を送る相澤を、「お前は偉いよ」と褒めるシーンは
なんとも言えない感動というか、感慨深さがありました。
この『スキエンティア』という作品は、科学技術による人間の「幸福」を問う作品。
そして『覚醒器』は、この最後に収録された作品です。
けれど意外にも、科学によって創られた幸福を、登場人物に否定してみせた。
紹介したもの以外の短編でこの方向性を示したものもありましたが、最後でも来たか。
しかし、科学の全てを否定しているわけでもない。。
否定されているのは、科学に頼り切り、歩みを止めてしまった人間たちだ。
この作品は、「みんながんばって、幸せになるんだよ」のセリフで幕を閉じる。
頑張らなきゃ、幸せにはなれない。
結局のところ、どんなに世界が便利になったとしても
人間が人間らしくあるのに大切なことは、あんまり今と変わらないんだなと。
以上、長くなりましたがさくっとまとめ。
全7話、250P以上ある単行本でボリュームはあります。
内容はリアルで切実で、優しい作品が多いです。
毒が利いているのもありますが、どれもが素敵なヒューマンドラマでした。
「媚薬」「ロボット」が個人的にストライクでした。いい未来じゃないですか!
女性キャラの顔立ちがみんな似ているのは、まぁ慣れてくださいとw
しかしド派手な展開や華やかさはあまり無い単行本なので
そういうのを期待してしまうと、肩すかしをくらってしまうかも。
未来を描いてはいますが、風景的には全然現代と変わっていませんしね。
しかしほっと笑顔になれる、素朴で良い短編集だったと思います。
自分が生きてる間に、こういう未来になったら楽しいだろうな。
『スキエンティア』 ・・・・・・・・・★★★☆
「世にも奇妙な物語」が好きな人には合うと思います。
未来・幸福・科学・人間・・・いろんなことを見つめなおせる作品。
スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) (2010/01/29) 戸田 誠二 商品詳細を見る |
みんながんばって、幸せになるんだよ
戸田誠二氏のオムニバスSF作品集「スキエンティア」。
近未来の日本を舞台に繰り広げられるSF短編全7作が収録されています。
「ロボット」「クローン」といった王道な題材から、「媚薬」「ボディレンタル」などはっと気を引き付けられるタイトルが並んでおり加えてオビがとても魅力的だったので購入。
禁断の科学×ヒト 深いところに灯がともり、涙が・・・溢れる。
科学によって変わるもの、変わらないもの。
科学の力で創られた、人工の幸福。
人間は未来においても『人間らしく』いられるのか。
深いメッセージが込められた、いい短編集だったと思います。
長くなりそうなので今回は内4作について。
「世にも奇妙な物語」でドラマ化された作品。ボディレンタル
主人公は閉塞した現実に疲れ、自ら命を絶とうと計画をし始めた女性。
ある日「自殺志願者募集!」というかなり怪しい広告を見つけた彼女は
最後の最後に人の役にたてるならと応募し、審査に合格。説明を受ける。
仕事内容は、ボディレンタル。
依頼主はおばあちゃん。若い体で、もう一度バリバリ働きたいとのこと。
おばあちゃんと生活を共にするうち、徐々に変わっていく主人公が気持ちいい!
やたらエネルギッシュなんですよね、おばあちゃんw
そして作中にて主人公は「前の私と顔が全然違う・・・」と驚きましたが、
前半の主人公がほんとにのっぺらぼうなのに対して輝きある表情が対象的。
同じ人間なのに、心の持ちようでどれだけでも雰囲気は変わると言うことすね。
仕事だけに生き、しかし志半ばで働けなくなったおばあちゃん。
ボディレンタルをしてから若い体を手に入れた彼女は、人生で培ったテクニックを惜しげなく使い、僅かな期間ですぐさま社内で大活躍。愛すべき「仕事」を満喫。
しかしなにごとにも終わりというのはやって来るもので・・・・・・最後の日。
叶わなかった初恋。仕事の犠牲にした、日常の幸福。
仕事だけじゃなく、それらもほんの少し手にして、ボディレンタルは終了。
主人公からしてみれば、ある意味、目を背けたくなるほど残酷だよなぁ。
自分の中の他人が、それまでとは自分からは想像つかないほど成功していく。
けれどそれで卑屈になるんじゃなく、「ならば自分も」と奮い立てたから素敵だ。
彼女はもう、十分強い人間ですよ。
おばあちゃんの強い生き様を見つめ続けた彼女なら、幸せな未来も待ってるさ。
交通事故で夫と娘を亡くした母。クローン
たった1人この世に残された彼女がすがったのは、最新のクローン技術。
そして手に入れた『創られた幸福』は、娘のマナミそのままの姿で成長をする。
しかしかつてのマナミに近づき、そしていつかはオリジナルを追い越し成長を続けていくであろうクローン体・ヒロミを見つめる母は、複雑な想いを胸に抱えたまま・・・。
胸の中にあるヒロミへの罪悪感と、薄れていくマナミの存在感。
癒され救われ、傷を忘れていく、自分。
幸せになって良いのだとしても、忘れてはいけない傷もあったはずなのに。
ヒロミに少しずつ塗り替えられていく、記憶の中のマナミ。
けれどヒロミはまぎれもない人間で、クローンであることも本人は知らず、もちろん罪があるはずもない。問題なのは事実を知り、そして彼女の母である自分の気の持ちようだけ。
けれど割り切ることなんてできない。
マナミが死に対しまだ納得できていない部分は、どうしてもあるから。
このお話は、映画等でも耳馴染みのある『クローン』が主題。
それだけにこの話題は考えやすく、かつ現実にすでに成立もしている技術ですので、その感覚的リアリティは他の作品と比較しても群を抜いているなぁと。
『クローン』はオリジナル体と完全同一な存在に成長するというわけではない、という設定もよくありますが、嫌らしい一ひねりだと思いますね。
本物そのままだったら、気に悩むことなんてないのに。
まるで同じような外見で、少しずつ少しずつ見えてくるわずかな動作の癖・性格の相違。
嫌が応にも・・・ヒロミとは違うんだと思い知らされる。
どこで折り合いをつけるか、そして娘のクローンを、娘同然に愛せるのか。
愛せたとして、それが死んだマナミの面影を重ねただけかも知れない。
その愛が、まっすぐヒロミ自身と向き合えた結果としての愛だと、自分でもよく分からない。
別にそれでもかまわないかもしれない。けど、なんか・・・なんか居心地悪いでしょう。
当事者の倫理観に、非常に繊細な問題を投げかけてくる話ですね。
終盤の観覧車のシーンは、自分も涙がほろり。
創られた幸福にしがみつくしかなかった母と、無垢な娘。
このラストが伝えることは、中々感動的。
創られた幸福は、人によってはぬぐいきれない違和感・罪悪感を残す。
そこから真の幸せを掴むには――その方法は、恐らく自分たちの今いる現代と変わらない。
個人的にイチオシな短編はこの「ロボット」。ロボット
これもまた、読む人になにかを問いかける内容となっています。
「ロボット」ということで、『創られた』という特徴がより顕著な存在。
彼らと、人間はどのように生きていくべきか。この物語はそんな疑問を投げかける。
ガンが見つかり、余命数年と申告された男性。
身寄りのいない彼は、ロボットのパートナーを得て、残り少ない人生を歩むことにした。
外見は人間そっくりの、優しい笑顔を見せてくれる女性型ロボット・ナオ。
普段の生活の中での細かなサポートや、体調が悪い時の看病もしてくれる。
ずっと自分のそばにいて、温もりをくれる存在・・・。
ロボットとどう共存していくべきなのか。
主人公はこの問題に、はっきりとした答えを出している。
「全く新しい人と、新しい生活をしようと思ったんだ。」
余命幾ばくかの主人公が口にした言葉。
なんでもないように流してしまいそうになってしまいましたが、これが凄い。
こんなにもさらりと、ロボットであるナオを「人」と呼んだ。
人として彼女を捉え共存することを、彼は最初から決めていたのだ。
そしてこの直後の、無言のままのナオの表情も・・・・・・、いやこれは深読みしすぎかな。
とにかく、こういう答えを出してくれたこの作品が描く未来は、とても魅力的。
物語的には、簡単にラストの予想が出来るシンプルなつくり。
というか読者を裏切ろうなんて全然考えていない、とても素直な展開。
しかしだからこそロボットと、彼らと共に生きる人間との関係の、ある意味理想的な形であるラストシーンが非常に染みる。理想的かどうかは、読む人によるかなぁ。
空に舞うあの人の欠片を、その向こうのスキエンティア・タワーを見ながら
ナオは何かを想ったのだろうか。想えただろうか。
彼女はロボットで、作中では彼女の心理描写やモノローグはない。
けれど、目をつむるでもなく、まっすぐと空を見続ける彼女の瞳には
何か深い想いがあるように感じてならない自分。
30歳、フリーターの主人公・相澤。覚醒機
ミュージシャンになる夢を追い続けるも、上手く行かない現実に徐々に追い込まれていくが、自分と似た境遇の友人・田島から『覚醒器』についての話を持ちかけられる。
脳を一気に活性化させ、まるで神のような圧倒的能力を得られる技術。
しかし命を燃やすような全能の反動として、寿命は7、8にまで縮んでしまう。
活路の見出せない現状のまま、必死にもがき続けるか・・・
この技術に懸け、何が何でも自分をこの世界に認めさせるか・・・
葛藤の末、相澤はこの話を見送った。愛する女性がいたのも大きいかも知れない。
けれど田島は勝負をした。
大型新人としてメジャーデビュー、年に何枚もアルバムをリリース、そのどれもが大ヒット、内容も文句なし・・・田島は、『覚醒器』で夢を叶えた。
その一方で相澤は背水の陣で臨んだオーディションでも何の足がかりもつかめず、審査員から優しく、プロを諦めることを勧められた。夢は、断たれた。
サラリーマンになった相澤。
結婚もして子供もできて家庭は円満。音楽は、趣味として続けていた。
そんな彼の前に、時代を揺るがす大人気を獲得した田島が現れる。
夢を叶えた田島と、夢を諦めた相澤。
しかし田島が放ったのは、意外にも後悔の言葉だった。
この後、田島は最初で最後のツアーを成功させ、音楽家として最高の評価を残して
覚醒器の反動で、この世を去った。
人生観なんてそれこそ人それぞれで、自分がどうこう言えるものではないけれど
田島が、夢を諦めなんでもない生活を送る相澤を、「お前は偉いよ」と褒めるシーンは
なんとも言えない感動というか、感慨深さがありました。
この『スキエンティア』という作品は、科学技術による人間の「幸福」を問う作品。
そして『覚醒器』は、この最後に収録された作品です。
けれど意外にも、科学によって創られた幸福を、登場人物に否定してみせた。
紹介したもの以外の短編でこの方向性を示したものもありましたが、最後でも来たか。
しかし、科学の全てを否定しているわけでもない。。
否定されているのは、科学に頼り切り、歩みを止めてしまった人間たちだ。
この作品は、「みんながんばって、幸せになるんだよ」のセリフで幕を閉じる。
頑張らなきゃ、幸せにはなれない。
結局のところ、どんなに世界が便利になったとしても
人間が人間らしくあるのに大切なことは、あんまり今と変わらないんだなと。
以上、長くなりましたがさくっとまとめ。
全7話、250P以上ある単行本でボリュームはあります。
内容はリアルで切実で、優しい作品が多いです。
毒が利いているのもありますが、どれもが素敵なヒューマンドラマでした。
「媚薬」「ロボット」が個人的にストライクでした。いい未来じゃないですか!
女性キャラの顔立ちがみんな似ているのは、まぁ慣れてくださいとw
しかしド派手な展開や華やかさはあまり無い単行本なので
そういうのを期待してしまうと、肩すかしをくらってしまうかも。
未来を描いてはいますが、風景的には全然現代と変わっていませんしね。
しかしほっと笑顔になれる、素朴で良い短編集だったと思います。
自分が生きてる間に、こういう未来になったら楽しいだろうな。
『スキエンティア』 ・・・・・・・・・★★★☆
「世にも奇妙な物語」が好きな人には合うと思います。
未来・幸福・科学・人間・・・いろんなことを見つめなおせる作品。