[漫画]今日もうまくいかなかった。今日も空が灰色だった。『空が灰色だから』5巻
空が灰色だから5(完結)(少年チャンピオン・コミックス) (2013/03/08) 阿部共実 商品詳細を見る |
どうか 許さないでくれ
「空が灰色だから」5巻が出ました。これにて完結となります。
最後の最後までこの作品らしさが貫かれましたね。「らしい」一冊でした。
最終巻だからと特別なこともせず、灰色な1話完結オムニバス。
ザクザク心を切り刻んでくるような悲しいお話から、心をほっこりさせてくれる暖かなコメディ。テンションの振り幅激しいのが魅力です。
心ざわめく空の色。レッツ・ガガスバンダス。『空が灰色だから』1巻
傷ついたらハマる、思春期の光と闇。『空が灰色だから』2巻
きっと絶対、世界は悪に満ちている『空が灰色だから』3巻
あなたもきっと心ざわめく。『空が灰色だから』4巻
いつも通り、特に気に入ったお話を個別感想していきます。
●53話「私を許して」
陰か陽かだったら陽のお話。というかストレートに感動できるタイプのお話。
生真面目すぎていろんなことが許せない女の子が、その性格ゆえに友人たちに離れられていく。
友達同士の仲だからこそ冗談みたいにも通じる「もう友達じゃない」「もう絶交」なんて言葉は、使われるシチュエーションや相手の心ひとつで、その重大さは変動してしまう。
一度口にしてしまったからには撤回なんてできない主人公の、頭でっかちさは可愛くもあるんだけど世界は随分と冷ややか。自分が思ったより世界は自分を置き去りにしていく。
そうして心をドキドキさせながら読みすすめた先に待つ「許容」に、すっかりヤラれた。
「空が灰色だから」は短いページの中でのテンションのコントロールがすごく上手いよなぁ。うまいこと上げて下げられまた上げられ、楽しいと同時にヘビーで心が疲れる・・・。過去にも書いていますが、この作品は単行本で一気読みするとヘトヘトになるんですよ!
「許す」という行為については、この巻の中だと最終話でも描かれていて
2つのエピソードを比べてみても、なかなか心に突き刺さるものがあります。
●54話「負けず嫌い」
ラブコメチックなほっこり話。女の子と男の子、それぞれの意味不明な暴走が楽しいw
「洗剤が混入した手作り弁当を必死に食べる」という危険なことに情熱を燃やす漫画なのですが、バカバカしいのに最後は達成感かなにかでイイハナシダナー風にまとまる。
口汚く激しい会話劇の裏側でむずがゆい恋心がこっそり存在感を現しており、クライマックスでは思わずニヤニヤしてしまう!
●57話「マルラマルシーマルー」
ビクッ こえーよ!!
クレイジーなお話は「空が灰色だから」のこれまでに何度かありましたがこの作品は途中で様子がおかしくなる。コメディの域を超えた恐怖感で持ち上げて、最終的にコメディっぽく戻って終わる、けっこう変則的構成。「おわっ来たかまたこのテのヤツが!」と身構えると裏をかかれてしまったw
この作品も緩急というか、雰囲気がガラッと変わる瞬間がおもしろい。窓から投身しようとするあたりで、あれ、これってもしかしてギャグなのか?と思い直す。
この作品の狂気を知っている人だからこそひっかかるフェイクっぽい。
そして何はともあれ、おかんの圧倒的癒しパワー!
いや、言い間違えを指摘されると恥ずかしいですよね。このブログも誤字脱字だらけですが・・・(なおせ
●58話「私のルール」
潔癖症の少女の失敗。悶々とひとりで思い悩んでいく序盤の流れはこの作品らしい。しかしそこからの後半の流れでゾクゾクしました。あ、そう裏切ってくるのか・・・みたいな。
「でも 手をつないでくれたっていいんじゃないかなとは思うよ」
「大丈夫なの私 好きな人になら汚されたっていい」
「黒木くんのならその移された黴菌だって幸せに感じられるから」
潔癖。だけど恋する少女。例えどんなに汚くても、きっと許せるはず。
彼女なりの理論に基づく歩み寄りは、きっと彼には伝わらない。彼女の頑張りも抱く愛おしさも理解はされない。
最後のチェックボックスにチェックが打たれるシーンが残酷でこちらもダウン・・・。
きっとこの断絶を、彼女は取り戻せないんだろう。チェックを入れてしまったのだから。自分の意識のために自分が泣く。自分のコントロールってどうやるんだ。無意識だったからこそ事実が辛いよなぁ・・・。
●最終話「歩み」
あぁぁぁぁぁ。最後まで・・・最後まで「空が灰色だから」だった・・・。
なんでことない、きっと現実でも有り得るすれ違い。
しかしここまでシリアスでシンプルにエグいなんて。
「友達になってくれてありがとう」でこちらの心をへし折られるし、続くクライマックスのモノローグの暗いこと辛いこと・・・。
誰かこんな情けない私を どうか許さないでくれ
これからの未来に一切の喜びや幸せを与えず
こんな卑怯者で弱い私に一生罰を与えてくれ
身も心も切り裂かれそうな切なさ。嫌な動悸が加速する。
後悔と申し訳ない思いで爆発しそうで、この切実な「許さないでおれ」の願いにすっかり打ちひしがれる。大切な人を傷つけた。そのことに途方もなく傷つく主人公。もうひと握りの素直さがあれば、きっと世界はかわったのに。傷つく彼らの涙を見てると、本当につらい。
第53話「私を許して」は、いつも相手に許容してもらっていたのは自分じゃないか、と認識してラストを迎えます。一方で最終話では、自分が自分を許さない。
それは相手が自分を許してしまったから。暴言を吐くことなく感謝をし、殴りかかることなく静かに席についた。そうしてまた1人になって、ボロボロ泣いた。それでも自分を許してしまったから。
「許さないでくれ」と願う最終話は、大切な人との断絶、そして世界中すべての幸福との断絶を願って終わるのだ。取り返しがつかない。取り返しができちゃいけないんだ。だって許されてはならないのだから。
後でまた書こうと思うけれど、様々な「孤独」を描いてきたこの作品らしいラストだったと思います。けれどやはり、心に生々しい傷を残していきやがった。
この作品を通して思ったことは、孤独の描き方の巧さというかバリエーションの豊富さというか、視点の持ち方というか。ともかく孤独にまつわる描写の1つ1つだ。
マイノリティやらもとのコミュニティからはじかれた人物がたくさんいた。
作品紹介でも「うまくいかない日々を描く」というフレーズが使われています。
自意識の空回り。会話の不成立。得られない理解。普通と異常の狭間のゆらぎ。そこから連鎖されるとことん救われない現実と、上手くいかないけれど愛おしい時間。
自分に印象的なのはキャラクターたちが孤独の中で、それぞれ物思いにふけっている様子でした。
孤独ってのは憐れかもしれない、コミカルかもしれない、癒しや救いかもしれない、絶望かもしれない。いろんな含みを持たせて、色々な「1人の人間」を切り取った作品でもあったように思いますね。
孤独を発展させる話もあれば、孤独のまま完結する話もある。孤独の痛みはときに癒しにもなる。誰にも干渉されないのは楽ちんだ。
人とのコミュニケーションって難しいね。うまくいかないね。悲しいね。でもたまに楽しいね。
そんな黒白はっきりしない様がまさに灰色。人間の心模様は、大半いつだって灰色なんじゃないか。少なくともこの漫画を好んで読む人なんかは、きっと。
「空が灰色だから」を読むとき、とくに心を敏感にして臨んでいました。癒されたりヘコまされたり死にたくさせられながら、自分の喜怒哀楽を楽しめる作品でもあったから。
インパクトの強かったエピソードの鋭利な読み心地はそうそう忘れられるものでない。
芳醇な絶望の香りがまたじんわりと心に染み付いてる。
本当に思春期独特の息ぐるしくなる感覚が、むせ返るほど詰まっていて
自分をまるっと重ねることはできなくても、この漫画の中で繰り広げられたドロドロと蠢く得体の知れない感情の暴走にあてられて、吐き気がする。
強烈な漫画体験を与えてくれて、すごくありがたい漫画です。
しかし一方でもう二度と読み返したくないようなエピソードと、その悪意と毒気も内包されていて、自分の中ではショッキングな作品でしたよ。
まぁそういうショッキングなエピソードも、結局読み返してしまうんですけど。読み返しては、分かりきっていたのに再び打ちのめされるスパイラル。
最後まで「空が灰色だから」エッセンス全開で嬉しかったです。
これで終わりというのは寂しいですね。もっと読み続けていたかった。こんなに『濃い』漫画をオムニバスで、週刊で連載していたこれまでが異常だったとも思いますが。恐れ入りますわ。
最後まで勢いの衰えないままに終わったと自分は思いますし、終わるタイミングはこれでよかったのかもなとも感じます。全5巻。なかなかいい尺でまとまりました。
阿部共実先生の新しい作品が読めるのを楽しみにしつつ
自分の中でまだまだ熱の冷めない「空が灰色だから」を何度も読み返して味わいたい。
『空が灰色だから』5巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
ありがとうございました。最後まできっちり灰色。大切な作品になりました。
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>名無しさん
コメントありがとうございます!
「さいこうのプレゼント」は自分も最初ハッピーエンドだと思いました・・・ほかのサイトさんの考察を読み、裏に気づかされました。凄まじいです。特製チェアー(意味深)。
「空が灰色だから」は傑作だったと思いますわ、語り継いでいきたい作品です。
コメントありがとうございます!
「さいこうのプレゼント」は自分も最初ハッピーエンドだと思いました・・・ほかのサイトさんの考察を読み、裏に気づかされました。凄まじいです。特製チェアー(意味深)。
「空が灰色だから」は傑作だったと思いますわ、語り継いでいきたい作品です。
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終わってしまうのが惜しいですが、この形式でよくぞここまで続けてくれたなあとも思えてなんだか複雑です。
個人的には、「さいこうのプレゼント」が一見するとハッピーエンドなのに、よく読むととんでもないサイコ・ホラーだったことに非常にざわざわしました。
気付いた後だと、表紙の箱と満面の笑みの理由が色々と考えられて…おお怖。